PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<幻想蜂起>反乱の熱狂と必要悪

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「勝手に俺達を支配し、暴利を貪り、胡坐をかいて搾取する! 俺達の血で喉を潤し、俺達の肉を喰らって腹を満たす!」
「だというのに、俺達がいつ襲われるかもしれない恐怖に怯えようとも、奴らは何もせずただ自分達の身を守るだけ!」
 金属どころか、革の鎧すら纏わない農夫が、高らかに演説する。
 剣や槍の代わりに手にするのは、麦や干し草を運ぶための農具、ピッチフォーク。
「我が物顔でこの世の春を謳歌する王侯貴族を許すなぁーッ!」
「オオオォォォーッ!!」
 その声に応え、雄たけびを上げる者達もまた、布の服に鍬、鎌、鋤。ただの農具だ。
 彼らが搾取された金で整えられた、鋼の剣を、盾を、鎧を、軍馬を、兵士達を持つ貴族に、敵うわけがない。
 冷静に考えれば本来起こりうるはずのない反乱。
 それを覆す、冷静と相反する真逆の性質、熱狂。
「ふん。搾取されるだけの愚民共が、とち狂って主人の手を噛もうとするとはな」
 初老の絢爛な衣服を纏った男が、その報告に苛立ちも隠さずふてぶてしく鼻息を鳴らす。
「例のギルドが色々と手を回したようだが、我が領内で横暴は許さん。見せしめに皆殺しだ」
 その男こそ、ここの地で蜂起を起こした村人達が住まう村の領主。
「兵を温存せよ、というならば、奴らにこそやらせようではないか。口八丁で反乱の片棒を担いだのではないと、証明させる機会をくれてやろう」
 我ながら名案だと、皮肉げに、悪し様に。領主は口の端をにやりと歪ませ、悪辣な笑みを浮かべた。


「結論から言おう。これは『汚れ仕事』だ。もう少し上品な言葉で言えば、『必要悪』かな」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)が、唇を真一文字に結び、重々しく告げる。
 究極的目的の為には如何なる依頼も請け負う、敢えて強い言葉で言えばギルドの『闇』の部分だ。
 規模こそ小さくも、各地で広がる蜂起。
 武器とも呼べぬ武器を手に、戦闘経験など酒場でじゃれ合い程度の喧嘩をしたことがあるかないか程度の者達が。
 万全に整った軍備を有し訓練された兵隊に挑む。
 それらは無謀としか言いようがない。
「一言で言ってしまえば、幻想国内で溜まったやり場のない不満……恐怖が、以前から不満を抱いていた貴族相手に爆発した、というところかな」
 ショウはそれだけではない、と暗に匂わせつつも明言はせずに言う。
 演説をする農夫とてただの農夫のはずだ。もっと別の『何らかの外的要因』があるかもしれない。
 だが、それは本題ではない。
 散発する民衆の蜂起、貴族達が言うには『暴挙』に対し、『完全鎮圧』で応えようとした。
 だが、それでは猟奇事件とは比べ物にならない死傷者が出るのは間違いない。
「オーナーが色々と手を回し、多くの貴族は『説得』できた。それでも一部の貴族は、以前強固な態度を取っている」
 次なる反乱を防ぐには、強固な対応こそが最良と考える者もいる。
 そして、今回はそれを為さねばならない。
「蜂起した村人達は多数いるが、混沌肯定された『レベル1』だ」
 魔王も勇者も村人も、一度は頭打ちで揃えられたとはいえ、戦闘経験など積まなかった者達。
 武具も防具もイレギュラーズとは比べ物にならないそれらは、物の数ではない。
「だが、決死の覚悟……いや、そんな生易しい物ではないな。鬼気迫る熱狂……狂乱と言うべきかな。それは恐ろしいものだよ」
 失敗すれば殺される、なんて合理的判断すらない。
 彼らはただただ死の物狂いで向かってくることだろう。
「投降する者はいないだろうが、手加減して捕虜などを敢えて取るべきじゃない。この依頼を受ける以上は、『覚悟』をお願いするよ」
 引き渡した先で、危険分子として処分される……だけならいいほうだ。
 口実を得た貴族に拷問を受け、惨い死に方をするかもしれない。
 反乱に参加したという確たる証拠があれば、その家族も免れない。
 この場においては、死こそが最大の慈悲だ。
「領主の意向は殲滅だけど、反乱に参加しない者は罰しないとも言っている」
 反乱に参加した者。それは、あくまで武器を取った者だけだ。
 食事の準備や手伝いをする子供、武器代わりの農具を調達、提供しただけの夫婦など、『無抵抗』の者まで斬り捨てる必要はない。
 逆に言えば、兵隊が出兵すれば、それらも一括りに殺されてしまうということだ。
「重ねて言おう。これは敢えて背負わねばならない汚れ仕事、被るのは『汚名』だ。それでも……」
 命を奪い、『悪』を為すことで、結果的に命を救う事になる。
「高く掲げれば『悪名』となるかもしれないね」
 それが決して、感謝されることがなくとも。

GMコメント

 白黒茶猫です。
 日本史の授業で聞く『何とかの乱』とか『何とかの変』は、それで世の中が変わったかどうか、らしいですね。
 今回はその『何とかの乱』です。少なくともこの事件一つに限っては。

 血なまぐさいシナリオです。
 かなりシリアスな雰囲気になることでしょう。

●注意
 このシナリオは、全体シナリオ<幻想蜂起>の一つであり、『同時参加不可』となります。
 また、悪依頼です。
 成功した場合でも名声は上がらず、上昇するのは悪名になります。
 失敗した場合は名声は増減しません。

●成功条件
 刃向かう者の殲滅

●戦闘
・戦場
 時間帯は昼、場所は二つ選べます。
 民衆が住まう『村落』。
 集会している所への奇襲が可能です。
 この段階かつ、武器を手に取る前なら、一部の者達の戦意を挫くこともできるかもしれません(参戦する敵の数が僅かに減少)。
 但し、一度武器を手に取った者への容赦は不要です。
 また、蜂起する気の無い者達に紛れてしまえば判別が難しく、逆に不意を討たれてしまう可能性もあります。

 あるいは、そこから領主の城へ向かう途中の『平原』の街道。
 視界が開けた場所のため、お互いに奇襲や不意打ちはほぼ不可能です。
 この段階では、全員投降する意志はありません。
 戦闘においては完全にこちらが優位です。

・敵
 農具で武装した者です。
 数は最大でイレギュラーズの2倍程度いますが、皆ロクに戦闘経験がありません。
 2~4人纏まってようやくイレギュラーズ1人を相手にできる程度でしょう。
 ゲーム的には主行動、副行動は通常攻撃や移動しか使用できません。

  • <幻想蜂起>反乱の熱狂と必要悪完了
  • GM名白黒茶猫
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年05月05日 21時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

メド・ロウワン(p3p000178)
メガネ小僧
クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)
血吸い蜥蜴
灰塚 冥利(p3p002213)
眠り羊
ニエル・ラピュリゼル(p3p002443)
性的倒錯快楽主義者
Briga=Crocuta(p3p002861)
戦好きのハイエナ
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
梯・芒(p3p004532)
実験的殺人者
Λουκᾶς(p3p004591)
おうさま

リプレイ


 脛辺りの長さの草が生い茂る草原の中、人の足と車輪で踏み固められた土の街道に車輪の音がガタガタと鳴り響く。
 その馬車の持ち主である『Code187』梯・芒(p3p004532)が御者として自ら馬の手綱を取る。
 荷台には仲間を運ぶ代わりに、太い棒や板などの木材を中心としたバリケードの材料を積んでいる。
 頑丈な鉄板などは調達できなかったが、簡易的なバリケードを作るには十分だろう。
「……イイ気分じゃねェなァ。酒も不味くなりそうだ」
 『戦好きのハイエナ』Briga=Crocuta(p3p002861)が、これからする『仕事』を思って苦虫を噛み潰す。
「確かに嫌な依頼です。ですが、人が嫌がる汚れ役を受けたのは誇るべきでしょう」
 『メガネ小僧』メド・ロウワン(p3p000178)は眼鏡の奥にその責を負う自負を込めながら、フォローする。
「あァ、依頼は受けるさ、それが汚れ仕事だろうが、なんだろうが、な」
 Brigaは『オレは傭兵だからな』と言い聞かせるように呟く。
 けれど不快感までは拭いきれないのだろう、その表情は硬いまま。
「生かして帰せないのであれば、せめて痛みを少なく楽にしてあげましょう。それが私達にできることです」
 『血吸い蜥蜴』クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)も慈悲を込めて頷く。
「やっと面白そうなイベントが来てくれたね。前夜祭のつもりで楽しませてもらおう!」
 一方、同じ未来を思い浮かべながらも、『眠り羊』灰塚 冥利(p3p002213)は鼻歌でも歌うかのように上機嫌だ。
「本当、楽しみねぇ」
 『性的倒錯者で快楽主義者』ニエル・ラピュリゼル(p3p002443)も頬を染めながらゾクゾクとその幼い身を震わせる。
「民草による反乱、革命、クーデター……何れも国を背負う者として、いつかは向き合わなければならない問題です」
 『おうさま』Λουκᾶς(p3p004591)は、母がそうだと言ってくれた『王』として、未来を憂う。
「つまり王である僕の予行練習にはピッタリという訳ですね。ありがたく殺しましょう」
 しかしそう括る彼もまた、どこか歪んでいた。
「芒さんは楽しいからとかで人を殺している訳じゃ無いんだよね……」
 御者席で揺られる芒は、そんなやり取りを聞き流して物憂げに溜息をつく。
 シリアルキラーである芒にとっては、殺しは食事と同じ『日課』だ。
 食事は胃に大量に詰め込むより、舌でゆっくりと味わい、風情を楽しみたい。
「でも、放置すると幻想全体でこの状況が常態化しちゃうしね。全く、殺人許可証の値上げ方向に動く時が来るとは、人生とは分からないものなんだよ」
 殺人を厭うでも楽しむでもない芒が、ある意味では幻想の未来を一番に考えていた。
 その意図が自分本位なものだとしても。
「さて、この辺りなら見晴らしも良いですね。バリケードを敷設するならこの辺りでしょうか。力仕事はお任せください」
 『特異運命座標』オリーブ・ローレル(p3p004352)が僅かに高さのある見晴らしがより良い所で声を上げ、馬車を止めてもらう。
 フルフェイスの兜と全身鎧のまま、重い木材を下ろしていく。
 かなり遠くまで見通せるが、まだ村人の影は見えない。罠を仕掛ける十分あるだろう。
 兜の隙間から目を光らせ、警戒した。


「なんだ、アレ?」
 男達が物々しい形相で血気盛んに領主の元へ向かう途中、街道を馬車が塞いでいた。
 よりにもよってこんな時に事故でもあったのか思ったが、事故にしては様子がおかしい。
 馬車を中心として、脛の半ばまでの草が生い茂る中にも板や木材が並ぶ。
 荷物が散らばったというより、それはまるで――
「バリケードか!? 待ち伏せされたのかっ!」
「こんなことするのは領主の兵隊じゃないッ、きっとローレットの奴らだ!」
 ここに現れた以上、その目的は明白だ。
 最後まで立ち上がるか悩んだ者達が、粗末な武器……あるいはよく手入れされた農具の柄を握りしめる。
 ローレットの評判は、特にホームたる幻想では広く知られている。その実力も。
「奴らも結局貴族の狗だってことだっ! 領主の前に、奴らに俺達の怒りをぶつけてやれ!」
 怒りに、熱狂に身を任せて、鼓舞する。
 駆け出して近づいて行くと、バリケードの前に小さな人影が二つ。ルカとニエルだ。
「こんにちは、皆さん。王様のルカです。本日はお日柄も良く、旅立ちにはまたとない機会ですね」
 殺気だった民衆の前に、絢爛な衣装を纏って躍り出たルカが聴く者に言葉を挟ませない威厳を持って宣言する。
「さぁ、公開処刑を始めましょう」
 『王』の一声は、ローレットが味方してくれるのかもしれないという期待を、無慈悲に斬り捨てる。
 男達は身をすくませ、だが同時に怯えを怒りで塗りつぶすかのように、少年へと敵意を向ける。
「ただ固まっているだけで陣も隊列もありませんか。ですが、油断せず好機としましょう」
 メドの魔法――否、『魔砲』の閃光が、街道を一直線に迸る。
 律儀に街道沿いに進む男達を数人貫き身を焼く。
「畜生っ、魔法だ! 固まるな!」
「来やがったなァ馬鹿共が!! テメェら、逃げようと思うなよ。ここでオレらを倒さなきゃどうなるか……殺しに行くぜ? 村に残したヤツらをなァ!!」
 Brigaはハイエナとして口の端を歪めて悪どい笑みを浮かべて挑発する。
 その天賦を持って相手の神経を逆撫でしながら、男達のなけなしの冷静さを奪う。
「貴族の狗がッ、そんなに奴らから貰う餌は美味いかよっ!」
 怒りに駆られた男が感情のままに、馬車で塞がれた街道を避けてBrigaのいる草むらに踏み込む。
「なっ、何だ!? 草に足が取られ――」
 そこには事前に仕掛けた、原始的で簡単な草を結んだだけの足止め。
 それ故に技術も要らず短時間で量産できる。
 足を取られた男は思わず視線を下に向けてしまう。
 力を入れればすぐにぶちりと切れてしまうが、逸れた意識は致命的なまでの隙を生む。
 その緩みを見逃すイレギュラーズ達ではない。
 オリーブがクレイモアの刀身を盾よろしく掲げて踏み込み、強かに叩きつける。
「がはっ!?」
 衝撃で舌を噛んだか、内臓が潰れたか。
 血を吐き後ろへよろめく男の胸へ、冥利のトンファーが打ち込まれる。
「僕、殺すのがとても下手なんだ。一撃じゃ死ねないだろうけど……ま、頑張って!」
 冥利はその手にばきばきと骨が折れる手応えを感じながらも、『上手いこと』殺せていないことに満足げに笑む。
「助けに来なくていいのぉ? ほぉら、早くしないと、この人死んじゃうわよぉ?」
 どさりと背中から倒れて苦悶に呻く男へ、ニエルは煌めくメスにちろりと舌を這わせて男の腹へと宛がう。
 丁寧に致命傷を避けながらつぅっと線を引き、痛みだけを与えていく。
「畜生がッ!」
 怒りに吐き捨てて、苦しみ助けを求める声すらあげられない男を助けるべく、駆け出す。
 無防備に駆けた男へと上空から、クリムの銃撃が降り注ぐ。
 同時に、倒れ伏した男にも撃ち込まれ、息絶える。
「あらぁ?」
「過分に痛めつける必要はないと思いますが」
 ニエルが音の出なくなった玩具に不思議そうに首を傾げて羽搏くクリム見上げると、クリムはその意図を応える。
「必要なことよぉ? ほら、お陰で皆逃げようとしないじゃないのぉ」
 ニエルは嗜虐的な高揚に身を震わせながら、怒り狂う民衆へくすくすと笑い掛ける。
 その行為は、冷静さをとうに失った者達を更に激昂させるのには十分以上だった。
「この、悪魔共め! 仇を取れェッ!」
 村人は声を張り上げ、前進する。
 正しく敵意を抱く『王』の如く振る舞うルカの元へ。
 挑発に乗せられた者はBrigaの元へ。
 残酷な冷笑を浮かべる仲間の仇のニエルの元へ。
 彼らがいる罠満載の草むら、バリケードの正面へと。
「んなっ!?」
 草に隠れた小さな窪み……落とし穴に足を取られて大きく体制を崩した。
 僅かな段差でも、目測を誤れば大きくバランスが崩れる。
「ふふっ……おっと失礼。あなた方があまりにも愚かで思わず笑いが」
 メドはズレたメガネから残酷な――本来の彼とは違う、冷酷な目を覗かせる。
「この辺り一体、罠だらけですよ。もっと足元に注意しないと」
 眼鏡のつるを軽く直し、善意のように告げる。
 ブラフだ。落とし穴は草を結ぶより時間はかかり、多すぎると味方に誤爆の危険もあり、そう数は多くない。
 それでもメガネに隠れた先程の光が、男達の歩む足を鈍らせる。
「クソ……クソッ!」
「足を止めてる暇はないよ」
 足元を警戒してのろのろと歩みながら自ら射程に入ってきた男達へ、機を伺っていた芒がバリケードの間を縫って全力でハンマーを叩き込む。
 くの字に身体を折ったところに、膝を置くように顔面に膝打ちを入れる。武器だけに頼らない連撃、実践的な喧嘩殺法だ。


 イレギュラーズは、確実に仕留めていく。
 バリケードは完全に道を塞がず、ワザと隙間を作っていた。 
 芒がバリケードの影から攻撃しやすいように仕込んだものであり、同時に相手からも攻め易くすることで一か所へと誘導するためだ。
 灰利が退路を断つように、男達の間を潜り抜けて背後に回り込んで追い立てる。
 自由に空を舞うクリムはリボルバーを撃ちながら、冥利と共に空と地から羊を囲いへ追い立てる。
 単純な実力差を、更に経験の差、準備の差、意識の差によって更に突き放す。
 挑発によって逃げる事はおろか、場当たり的に、数の利を活かすことも考えず、無鉄砲に向かってくる男達を討つのは、赤子の手を捻るよりも簡単だった。
 オリーブは男が鍬を大きく振りかぶって下ろしたその腕へと、クレイモアを斬り上げてカウンターを放ち骨を砕く。
「俺達は、ただ平穏に暮らしたかったッ! だから立ち上がったのにッ!」
 痛みにうずくまり、立ち塞がる絶望的な差の前に、男は絶叫する。
「勇気と無謀の違いってわかります? 貴方達はそれを取り違えた。だからこうなるんですよ」
 メドは冷淡に徹し、無慈悲に、あるいは慈悲深く魔法を放つ。
 決して油断しないように。僅かでも同情してしまわぬように。
「痛いぃ? 苦しいぃ? だったらぁ、ちゃんと助けを呼ばないとぉ」
 また一人、ニエルがもたらした異界の猛毒に蝕まれ、生殺与奪権を掌握された男が弄ばれるように無数にメスで刻まれる。
 仲間を助けに入ろうとした男の無防備な背中に、冥利のトンファーが叩きこまれる。
「残念ながら、僕の辞書に罪悪感なんて言葉は載ってませーん。誰であろうと、愛する人間であろうと、容赦なく殺しまーす。殺し尽くしまーす」
 冥利は、口の端を歪めて笑って楽しげに告げる。
 敵と話すなど面倒でしかないが、愛する人間に贈るせめてもの言葉だ。
「怠惰に生きていれば、こんな目になかったのにね」
 これ以上は面倒だと、もう一撃。更に踏み込んで叩き込む。
 そして男の背から、赤い腕が生えた。
「どうして貴族なんかの味方をするんだ!? 被害者は俺達なのにっ!」
「? どうして僕の民草でもない方々に、慈悲を与えなければならないんですか?」
 ルカは攻撃を避けながら、至極不思議そうに首を傾げる。
 次いで乱雑に振るわれる農具を黒鉄の車輪で防ぎ、ルカに刃向かった者へ王として『判決』を下す。
「でも逃げたい方はどうぞご自由に。村落の場所は知っていますので、後ほど伺いますね」
 ぐしゃりと潰れて噴き出る液体を浴び、赤黒い車輪を、赤で染め直す。
 しかしルカが纏う王衣は、父からの贈り物は決して汚れない。
 そこに楽しむような嗜虐的な色もなく、王として鎮圧の『予行演習』に気負う事もない。
 ただ練習させてくれる男達と、大好きな赤を振る舞ってくれる男達に少しだけ感謝していた。
「誰が逃げるか! 俺達がここで逃げたら、家族が……ッ!」
「だったら最初っからできもしねェ蜂起なんかするんじゃねェ!」
 Brigaは吼えながらトドメをさせるように急所を狙い、斧で断ち切る噴き出る血を全身に浴びる。
「が、ぁ……!」
 首の皮一枚……僅かに殺し切れなかった男へ、芒が手慣れたようにトドメを刺す。
「悪ィ、仕留め切れなかった」
「これくらいお安い御用だよ。まあ私の役目だしね」
 Brigaはいつか呼ばれた『断身の紅斧』の名には及ばぬ一撃に、片刃斧の柄を握りしめる。
 芒は何てことない風にそのままハンマーを振り回して別の男へ叩き込み、追撃とばかりに遠心力に従いぐるんと回って蹴り飛ばす。


 ほどなく、戦い……いや、一方的な蹂躙は終わった。
 草原を赤く染めながら倒れ伏し、動く者はいない。
 芒が息を確認していると、血に濡れた手で足を掴まれる。
「まだ息があるんだね」
「たの、む……! 反抗したのは、俺達で全部だ……村には……妻には、手を出さないで、くれ」
 当然芒はすぐさまトドメを刺そうとしたが。
 男は必死に、息も絶え絶えに血を吐きながら命乞いの声を上げる。自分ではない、家族の為に。
「……安心しなァ。テメェ等は一人も逃げなかった。村の連中にまで手出ししねェよ」
 Brigaは表情を消したまま、死に掛けの男に言葉を投げかける。
 それを聞いた男の開いた口は、言葉を紡ぐことはなかった。
「そういうこと。これ以上殺人許可証貰ったって、芒さんはもう食傷気味なんだよ」
 とす、っと。芒が呆気なく、命を刈り取る。
 その男の表情が幾分か安らいでいるように見えたのは、感傷的だろうか。
「これで依頼達成ですね。長居しても良いことはないでしょう」
 オリーブはトドメを刺したのを含めて、刃向かった村人を殲滅したのを確認すると促した。
「オレは少しやることがある。バリケードに使った木材貰うぜ」
 Brigaは返り血で汚れたり傷ついた木材を集める。
 物言わぬ死体となった村人達も一人ずつ。
「焼くんですか?」
 念には念を入れて、見落としがないか空から探していたクリムが、Brigaの元へと降り立つ。
「あァ。野晒しで野犬に食われるのもアレだ。火葬ってやつだよ」
 クリムは土葬するつもりだったが、野生動物に掘り起こされてしまうかもしれない。
「私も手伝いましょう。この遺体を家族に引き渡してやることもできません」
 クリムは手伝いを申し出て、Brigaと共に木材を組み上げる。
 種火を移してやるとバチバチと燃え上がる。
 その中には、無謀に、狂乱囚われて散った者達。慈悲深く、命を刈られた者達。
 黒煙が草原に立ち昇る。
「…………」
 Brigaはその光景を心の内を悟られぬよう、表情を消したままじっと眺める。
 手は合わせない。 
 自ら殺めた者達へ、祈りはしない。許しも請わず、申し開きもしない。
 ただただ真っ直ぐに立って、火が燃え尽きるまで見届けた。

「村には手を出さないですって。よかったわねぇ? でもぉ、自分の行いはちゃぁんと、反省しないといけないわぁ」
 そこから離れた場所で、ニエルは甘ったるく囁く。
 激痛と失血で意識を失いかけた男に、自らの体力を分け与えてやりながら。
「色々剥ぎ取っちゃいましょうかぁ。死なすなら色々活用しないとねぇ」
 『無駄』ではない――ニエルを悦ばせるための――苦しみを与える為に。


 やがて、草原の外れにささやかな墓が作られた。
 多数を活かす為に、切り捨てられた少数。無謀でも、自分の、誰かの為に立ち上がった少数。
 幻想蜂起に立ち上がった名も無き村人達を弔う、墓標無き墓。
 世に必要とされても、人には感謝される事のない『悪』。
 クリムが村人の為に献花した花束が風に揺れ、花弁が青い空へと舞う。
 その花は確かに美しかった。

成否

成功

MVP

梯・芒(p3p004532)
実験的殺人者

状態異常

なし

あとがき

 力量差ある相手にも油断することなく、隙のない準備と作戦の前に、蜂起に加わった村人はなすすべもなく鎮圧されました。
 クライアントもこの結果に満足し、叛意を挫かれた村への過剰な弾圧は起こらないでしょう。
 あるいは強かな領主は、鞭を振るったのが自分でないことを利用して、僅かばかりの飴をやるかもしれません。
 しかし最悪の結果を免れたのはイレギュラーズの皆さんのお陰です。彼らの誰もが、それを理解しなくても。
 皆さま、お疲れ様でした。

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