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シナリオ詳細

黒猫と紅葉の栞と読書会

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 世界中の本を綴じ込めている、と言われるほどに大きな図書館があった。
そこは知恵の女神の居城で、彼女の眷属たる黒猫の巣。さわさわと、秋風が頬を撫でる。混沌でも異世界でも、秋というのは少し涼しく、人が集中できる時間を作ってくれるものだ。夕暮れも、少しだけ遅くなっていく。ゆっくりと時が流れていくのを肌で感じながら、知恵の女神はぴかぴかの図書館の、ぴかぴかに光溢れる廊下を歩く。窓をあけて見れば美しい紅葉。秋の花。
春には華やかさで、夏には鮮やかさで劣るが、代わりに穏やかで美しい光景が辺り一面に広がっていた。
飛び込んできたどんぐりを拾い上げて、くすりと微笑む。
女神は少しだけ、人の居ない間も働き者になった。今回も書類の整理の途中で。けれどあまりにも廊下から見える庭が綺麗だったから少し立ち止まりたくなったのだ。

「ノア」

「どうしましたか、ご主人」

黒猫の名前を呼ぶ。足元に侍っていた黒猫がにゃあと一声鳴いて、返事をした。言葉をよくよく聞こうと女神の肩に乗って声に耳を澄ませる。少しだけ、彼らの関係も良くなっていた。

「今年の庭も美しい。そろそろ涼しくなってきた頃合いです。今年も読書会の準備をするべきかと」

「なるほど……。まさか何時も面倒だと仰られていた女神様が乗り気になられるとは、僕は……」

「大げさすぎます。少しは民のため、還元しなければならないと思っただけです。それが女神の務めなのですから。それでですね」

その催しにこの前館内清掃を手伝ってくれた、異界から来た皆を呼びたいのだ。と女神は語る。

「楽しんでくださるも良し、この前のようにお手伝いしてくださるのならばもっと助かりますし。……もう一度、礼がしたいのです。律儀に生きるべきです。女神ですから」

「素晴らしいお考えかと。それならば盛大に、大掛かりに。そして静粛に……。行いましょう!」

黒猫はしっぽをゆらゆらと揺らし、嬉しそうに喉を鳴らす。そして女神の肩から飛び降りて、何処かへと飛び出していく。

「……元気ですね。さて、私は……」

あちらへと、手紙を飛ばすべきだろう。
もう一度庭へと目を向けて、それからゆっくりと、自室へと歩みを進めた。




「招待状が届いているわ。貴方達に!」

 『ホライゾンシーカー』ポルックス・ジェミニは集まったイレギュラーズに蝋で封をされた手紙を手渡す。宛名は『あの日私達を助けてくれた方々と、その仲間の方へ』。
用意されたペーパーナイフで封を開ける。中には日時と時間、そして前回への簡潔な礼が几帳面な文字で書かれている。

「読書会、というものが催されるそうなの。その日だけは図書館は誰でも立ち入り出来るようになって、好きなところで本を読んだり、きれいな庭でゆっくり過ごしたりすることが出来るのよ」

また、手伝ってくれるのであれば催し物を考えてくれたり、子どもたちへの読み聞かせを手伝って欲しい、らしい。
勿論それをするかどうかは自由だ、という文章で締めくくられている。

「あんまりはしゃぐ、みたいなお祭りじゃないけれど、たまにはゆっくり。静かな時間に浸るのもいいと思うの」

ポルックスがベルを取り出す。行ってらっしゃい、楽しんで。の声とともに、イレギュラーズは広い広い図書館へと送り出されるのであった。

NMコメント

 はじめましての方ははじめまして、またお会いした方はお久しぶりです。
金華鉄仙と申します。読書の秋! とも言いますし、ゆっくり読書は如何でしょうか。

●世界観
巨大な図書館。以前のライブノベル『黒猫と大図書館とハタキ』にも登場した世界です。うず高く積まれた書棚と少し埃っぽい匂いが特徴です。実は神殿の役割もしているので、女神様が住んでいます。
図書館の外はファンタジー世界ですが、近代的な技術もちぐはぐに流通しています。いわゆるご都合主義的。
図書館には開架と閉架の2つの区分けが存在し、今回は閉架の方は完全に閉じられ、開架のみが閲覧可能です。
その代わりに庭へと出ることが出来、読書の他にもピクニックや写生なども可能です。

●女神様
あらゆる魔法を使役し、あらゆる知識を持つ凄い人。駄目なお姉さんでしたが、少しだけ頑張ろうと思っているようです。前回掃除を手伝っていただいた恩があるのでイレギュラーズには友好的です。

●黒猫さん
♂。
駄目なご主人に仕えている使い魔。苦労人だったけれど主が頑張るつもりになったので少しだけマシになりました。
拾われた恩がありなかなか離れがたいし、多分自分が居なくなったら死んでしまうな、と思っているため従者を続けています。今回は猫の姿で庭をうろついているようです。喋れます。イレギュラーズには基本好意的で、無茶なお願い以外はだいたい聞き入れてくれるでしょう。

●目的
図書館、もしくは庭で読書会を楽しむこと。読書をするだけではなく、あまり騒がしくしなければ何をしてもオッケーです。けれども図書館の建物の中では事更にお静かにお願いします。

●書いていただきたいこと
何処に行き、何をするのか。
二人、三人でご一緒に楽しまれるのもいいと思います。基本的にNPCはお呼びがかからない限りは登場しません。
起きて欲しいアクシデント、イベントなどありましたらこちらも。
やりたいこと、したいことをどんどん書いていただきたいと思います!

  • 黒猫と紅葉の栞と読書会完了
  • NM名金華鉄仙
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年09月24日 22時30分
  • 参加人数4/4人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
シルヴェストル=ロラン(p3p008123)
デイウォーカー
ルネ=エクス=アグニス(p3p008385)
書の静寂
ノア・ザ・ミドルフィンガー(p3p009034)

リプレイ


 普段は静謐と、二人の声と足音だけの図書館だけれど、今日ばかりは話し声が溢れていた。
人と語らいながら、もしくは黙々と。思い思いの場所で、思い思いの本を選び、読書を楽しんでいる。それを人混みの少し遠くから眺めて、女神様は微笑んだ。この瞬間だけは何よりも愛おしいと、そう思う。
そうして暫くぼんやりしていると、後ろから彼女を呼ぶ声。振り向けば見たことのある男と、見たことのない人々。それぞれに手に持っているのは、女神様が送った招待状だ。

「本日は、このような場にお招きいただき光栄だ。今日この日が、より良き日になるように、ささやかながら祈らせて欲しい」

旅人たちの中で、知った顔の男が微笑む。女神様も少しだけ、少しだけ嬉しそうに見えた。

「ありがとうございます。貴方も来てくださったのですね。どうか、良い知識の探求を。素敵な糧が得られますよう」

少しだけ口角をあげて頭を下げながら、女神様は客へとお決まりの文句を述べた。
能面のような顔にいっぱいの感謝と、歓迎の意を込めて。


 「……駄目かあ、ちょっと残念」

 時間いっぱい心ゆくまで、寧ろ数週間、数月……。フリーパスなんてどうだろう。そんな提案はすげなく却下され、ほんのりと残念そうなシルヴェストル=ロランは吐息を一つ。知識欲と好奇心の塊のような彼だ。目新しく、珍しいものがそれこそ数え切れないほどある異世界の図書館に一日限りなど、勿体ないのだろう。
黙々と本を読む傍ら、積んであるのは歴史書、風土誌、そして紀行録。折角異世界くんだりまでやってきたというのに、自分で確認できるのは図書館の敷地内だけ……なんて、本当に勿体ない。出れはしないのだから、取れる手段は本という形のみ。けれど、それで十分だ。
無機質な文章は時に目となり、耳となる。本の中に世界が閉じ込めてある、と言っても過言ではないのだと、ロランは思う。
ロランが読書スペースとして選んだのは日陰の、少しばかり人気に欠ける奥まったテーブルのうちの一つ。
本を読むのであれば、日陰のほうが落ち着く気がするのもあり。それとは関係なく、ひと目を気にせず存分に、この机上の『世界旅行』を楽しみたいのだ。
無辜なる混沌に負けず劣らず、この異世界。この大陸には不思議なことがたくさんある。その中で殊更ロランの目を引いたのは彼の同族によく似た種族についての話。

「系統別に分けられ、始祖が……。ふぅん、一つの種族であるわけではなくて、形態が似ている種族が一纏めに呼ばれていて、その中でも更に分化する、と……」

それは何処かの冒険家の手記のようで、その他にも不思議な土地。人類が住んでいない、未踏の地……などの生態について客観的かつ事務的なタッチで記している。けれど人を引きつける魅力があるのは、それらをよくよく知り尽くしているからなのだろう。
続刊はあるのだろうか。伸びをして続きを探そうとして、ふと目眩。時計を見れば数刻立っていることに驚く。

大きく伸びをして、目線は光の射す庭園へ。
少しだけ、羽根を伸ばしてそれから戻ってくることにしよう。
冒険録を読んでいたからだろうか。新たなる出会いに少しだけ期待をしながら、ロランは椅子から立ち上がった。


 この世界で、そしてポルックスの説明を聞いて、ノア・ザ・ミドルフィンガーが得た驚きは一つ。偶然の一致と、そして因縁との急速な接近。神なんて居ないのだと知ってしまった身には、その言葉を聞くだけで少しだけおぞけが走る。

けれども、図書館というものは良いものだ。いつもより静かで、それなのに皆が物語に熱中している。誰も彼もが物語に想いを馳せていける場所。所以はともかく……。
そう思って、読書会に訪れて。もう一つ。自分の名前と同じ名前の、不思議な猫が目の前に居た。てくてくと館内の見回りをしていた彼を呼び止めたのは、きっと好奇心からもある。

「初めましてノア、私も『ノア』だ。……意外と多い名前なのかね」

おや、と小さく感嘆符を漏らし、パチパチとまばたき。しゃべるという前説は本当だったらしい。

「奇縁ですね、僕がみるのは初めてですが、旅人様とご一緒の名前だなんて少し嬉しいです。はじめまして、ノア。ノアと申します。……ふふ」

くすりと微笑んで。少年らしい涼やかな声が女の耳を撫でる。

「しかし、なにか御用でしょうか?」

「ああ。そう、せっかくだから……。一緒に読書でもしようと思ってさ」

「成程! 是非ご相伴させていただきます。……ああ、本を読むのにこの姿では不便ですね」

くるりと黒猫がしっぽを廻せば、つややかな黒髪の少年が一人。
思わず女から驚きの声が漏れる。

「猫の身ではやりにくいこともありますからね。さあノア様、早速読書を始めましょう!」

にっこりと微笑んで、手近なテーブルを指す。木漏れ日がうっすらと席を彩っていた。備え付けのお茶菓子とお茶には、まるで出来たてのように湯気が立っている。

「……凄いな。ああ、折角だから本の交換でもしようと思ったんだけど」

「なんと。ではこちらも、僕の大好きな本を教えましょう! 古いお伽話を記したものです」

和やかに言葉を交わし、二人の読書会は続いていく。
想像の通り黒猫が目を輝かせたのは異国の戦記。これは何だと問われれば、話す口も軽くはなって。
読書のあとはお茶菓子をつつきながらの感想戦だ。読書の時間も楽しいが、この友と言葉をかわす時間も、これまた格別である。ひとしきり話に花が咲いたあと、黒猫は少し訝しみながら立ち上がる。

「どうしたの? 用事か?」

「あ、はい……。申し訳ありません、楽しかったです! またお話、しましょうね?」

「勿論!」

また、こうしてお茶をして、読書をしよう。女との約束に嬉しそうに微笑みながら、黒猫は猫に転じ、何処かへと歩き去っていった。


 さて、少しだけ時計は巻き戻る。
其処は図書館内。本の山が積み上がった1区画。ルネ=エクス=アグニスの周りにはジャンルこそ雑多極まりないが読み終わった本と、まだの本が几帳面に真ん中に分けられている。読み終わった本の山にまた一冊、新たな本が加わる。

「この世界にも此方と同じような、ゴブリンが居るんだね」

『ゴブリンでも分かる魔法講座~入門編~』と表されたそれは初心者向けの魔法指南の本で、特にゴブリンはあんまり関係ないのだがまあそれはそれとして。こんな本にすら題されるほど有名なゴブリンという存在に思いを馳せる。まるでそれがあたりまえであるように、どの物語の世界にも存在するのだ。思い返せば結構不思議なことである。考えを整理するように水筒から紅茶をカップに注いで一口。

「とはいえ、異世界の魔法系統に勝るほどの不思議ではないか。興味深いね」

用語、形式。あらゆる物が異なっている。この世界では魔法はどうやら大まかに発語、紋、ないしは思念で発現するものらしい。更に言えば基本的には意志の力が大きく関わっており、大気中のマナと干渉することによって魔法を具現化させる。呪文や紋はその助け、といったところか。
しかし、開架にある本だけではこういった事を知るのには限界がある。更に色々知るなら。
と、閉架の方を見やる。それを見計らったように、黒猫がお座りをしてルネの方をじっと見ていた。

「うわっ!?」

驚いた様子のルネに、申し訳無さそうに黒猫が一言。

「閉架は閲覧禁止でございます、またの機会にお立ち寄りください」

「ああ、そういうことか……。ルールだからね、勿論分かってるよ」

確かに気になることだらけではあるけれど、わざわざ主人たちといざこざをやらかす気にはなれないし。
アイテムボックスるから先程の本の中級編を出しながらルネは、なんでもなさそうに言葉を続けた。

「今はまだ読むのがあるからね。……あ、君も紅茶飲むかい?」

「いえ……。本を借りる際は、貸し出し処理をなさってくださいね?」

苦笑したように尻尾を揺らし、黒猫は言葉を返すのであった。


 赤羽・大地にとってこの図書館は一度訪れた事がある場所だ。故に少しだけ趣向を変える。
彼が読書の場所に選んだのは庭の、大きな木の下。涼やかな風が通り、西日も葉が遮っている。そうした絶好の環境であるのを見越してだろう。地面には布がかけられ、小石がはけられていた。

「たまには、明るい日差しのもとで本を読むのも悪くないね」

『お前はいっつも日陰者だからナ』

「赤羽、お前は本当に一言多いな……!」

幹を背もたれにしながら、適当に抜き出してきた本に目線を傾ける。冒険者の伝記のようで、愉快でありながら壮絶な旅路が軽妙なタッチで描かれている。作者は同じパーティーの吟遊詩人らしく、怪物の描写などは身の毛がよだつほどに迫真だ。
たっぷりと物語の世界に沈み、余韻に浸りながら本を閉じる。ポケットのキャンディーを口に含み、ころころと転がしながらふと顔を上げれば、てくてくと庭を見て回る黒猫の姿があった。

「よウ、相変わらず苦労してんのカ?お前も楽な立場じゃねぇなァ」

「いえ、最近は少しマシです。今日は忙しいではありますけど、楽しい忙しさですので」

ひらりと手を振って赤羽が声をかける。ノアはぱちりと瞬きして、大地の側まで近づけば顔を見上げた。

「皆さんも楽しんでいただけていますか?」

「ああ、お陰様で。……読む本に困ってしまうのが嬉しい悲鳴だけど」

掃除の時にも思っていたことだが、この図書館は非常にだだっ広い。世界の本を全て綴じ込んである、とも言われるだけはある。

「よければ数冊、こちらでご要望を聞いて見繕いましょうか?」

「お願いしよう。ともあれまずは、ノアのお勧めから知りたいかな」

「お任せください。お勧め……。そうですね。ではこちらに」

腰掛けていた地面から立ち上がる。軽く固まった肩を回して。開架の一方向に向かって歩みを進める黒猫の後を追う。

空は青く、高く。読書の秋も、この一日もまだ始まったばかり。
読書会は穏やかに続いていくのだった。

成否

成功

状態異常

なし

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