PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<巫蠱の劫>朱夕の蛇

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●暗路
 仕事を終えて、家路についていた。
「今日は歩いて帰りたい。夕日が一際きれいだし、風も随分涼しくなった」
 そんなことを言っていつもの牛のひく車に乗ることを拒否した主君に、トウミの父であるアサミは朗らかに笑って頷いて見せた。
 あの車だってゆっくりとしか進まないのに。御簾を上げておけば風も入るし、夕日も見えるのに。
 そう思ったが、トウミはなにも言わずに従う。幼いながらもそれが自分の仕事だとわきまえていた。
 鼻歌を奏でながら主君は歩く。半歩後ろに続く父は刀に手をかけていた。最近京は殊更に物騒だ、なにかあったときに、すぐに対処するためだろう。
 トウミは二人の後ろを行く。使われなかった牛車の手綱を握って。

 あくびが出そうになるほどの平穏――それが、唐突に壊された。

 蛇が躍り出る。並の蛇ではなかった。妖だ。
 驚いた主君は動けない。とっさに父が前に出て、片手で主君を後ろに引き摺り倒す。
 刀が抜かれる涼やかな音。牙と鋼がぶつかる音。
「ち……!」
 自分の悲鳴。死角から迫った蛇が父の足を喰らう音。
「ぐ……っ!」
「アサミ!」
「トウミ、東行様を連れて逃げろ!」
 蛇に噛まれながら父が叫ぶ。父の名を呼んだ東行は目を見開き、蒼白な顔を力なく左右に振る。
 牙に毒でもあったのか、父の体はおかしな色に染まり始め、ガタガタと震えていた。
「ちち、うえ」
「早く!」
 呼吸が荒くなる。嫌だと心の奥が叫ぶ。吐きそうだ。
 それでもトウミは、気づけば東行の白く細い手を握っていた。
 武器なんて一度もとったことのない手。守られるのが当然の生き物の手。
「東行様――」
 肩越しにちらりと振り返り、アサミはなにかを言ったようだった。

 主君と幼い従者は手をとりあい、日暮れの道を走る。
 血のように赤い夕焼けだった。

●酒宴
 招待者の名は、東行と言った。
「海の彼方からきたのだろう? どのようなことを経験してきたのか、私も聞きたい」
 そんな一言からイレギュラーズと彼の酒宴は始まり、今に至る。
 酒宴の最中。黒く半透明な蛇がどこからともなく出現し、とっさにイレギュラーズのひとりが東行を庇った、今に。
「忌……!」
「そう、そんな名で呼ばれているのだったか。見るのは初めてだ」
「まったく、誰に恨みを買ったんだ!」
「トウミだろうなぁ」
 平然と、宣う。
 京の集合場所からここまでイレギュラーズを牛車で運んだ少年の名に、一同はそれぞれ表情を変えた。
「彼の父は私を庇って死んだのだ。恨みもするだろう」
 嗚呼、それでも。
「私は彼を、大切にしたいのだが」
 難しい、と東行は息をつく。
 異形を前にして。戦闘の最中に放り込まれて。
「彼も私も、覚悟などとうにできている」
 ただ悲しげに静かに呟き、鎌首をもたげた蛇を見上げる。

GMコメント

 初めまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。
 血のにおいも夕日の赤さも、冷え切った小さな手の感触も、忘れない。

●目標
・忌の討伐
・東行の生存

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●シチュエーション
 高天京、南西の外れ。森の中に建つ東行の別邸。
 枯山水の広い庭が自慢のお屋敷です。隠れるのに適した場所も緊急脱出用の裏口もある。
 皆様の他に庭師を含めた6名の使用人が屋敷内に点在。

 めったに使わない別邸であるため、壊してしまっても「仕方ない」ですませるとのこと。

●敵
 呪詛により生じた忌。
 不殺以外の攻撃で忌を倒した場合、呪詛は術者に還る。

『苦蛇』×15
 全長1メートル半ほどの黒く半透明の蛇。
 回避と体力が高く、防御技術は低め。
 イレギュラーズ・使用人・東行を区別せず襲う。

・噛みつく(物・近・単):【猛毒】【出血】
・食らう(物・近・単):【HP吸収50】
・巻きつく(物・中・単):【体勢不利】

・執念(P):体力20%以下のとき、一度だけ体力を40%まで回復+攻撃力をわずかに上昇(2ターン)

『トウミ』×1
 鬼人種の少年。祖父の代から東行の家に仕えている。

 屋敷か森に隠れているようで、戦闘中に姿を見せることはない。
 呪詛が還った場合、生きている保障はないが、今回の成功条件に彼の生死は含まれない。

 剣術の心得が多少あるものの、戦闘能力はほぼ皆無といえる。

●NPC
『東行』
 トウギョウ。
 イレギュラーズに興味を持ち、酒宴に誘ってきた八百万の青年。京の役人。
 アサミのことは護衛というより頼もしい友人だと思っており、自分を庇ったが為に命を落としてしまったことについては心底やるせないと感じている。
 忘れ形見であるトウミのことは大切に育てるつもりでいたし、呪詛をかけられた今でもそれは変わらない。

 種族間に関する問題には特に関心を持たないが、身内は大切にしたいタイプ。

『トウミ』
 目の前で父が妖怪に食われたことで心にひびが入ってしまった少年。
 現在は『父は東行を庇って死んだ、東行がいなければ父が死ぬこともなかった、東行を殺して仇をとるべきだ』という衝動に駆られている。
 元は父に似て誠実で心優しい子ども。

 皆様のご参加、お待ちしています!

  • <巫蠱の劫>朱夕の蛇完了
  • GM名あいきとうか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月17日 23時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
希望の蒼穹
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
暁の剣姫
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀の約束
カナメ(p3p007960)
二律背反
鷹乃宮・紅椿(p3p008289)
秘技かっこいいポーズ
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
瑞鬼(p3p008720)
幽世歩き

リプレイ


 突如出現した黒く半透明の蛇の牙を防ぎ、『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の結界が煌めきながら散乱する。
 同時に屋敷の各所から悲鳴が聞こえてきた。
 戦闘態勢に入っていた『ハニーゴールドの温もり』ポテト=アークライト(p3p000294)が開け放たれた戸に目を向ける。
「他にも……!」
「東行、使用人は何人じゃ?」
 魔剣を抜いた『秘技かっこいいポーズ』鷹乃宮・紅椿(p3p008289)の落ち着いた問いに、イレギュラーズに守られつつ下がった東行が憂いの声で応じた。
「五人と通いの庭師がひとり。それと貴殿らを迎えに行ったトウミだな」
「して、誰の恨みを買った?」
「トウミだろうなぁ。あの子の父は私を庇って死んだのだから」
 愉快そうですらある『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)に、男はため息交じりに言う。『二律背反』カナメ(p3p007960)がきゅっと眉根を寄せた。
「そっかー……そんな事情があったんだね……」
「皆がだいたいどこあたりにいるか分かる!?」
「隠れられる場所もッス! どうせこれだけのお屋敷なら非常口なんかもあるッスよね!?」
 使用人たちを救うため、『Ende-r-Kindheit』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)と『黒犬短刃』鹿ノ子(p3p007279)が声を上げた。
 記憶を探るように虚空に視線をやりながら、東行は屋敷内の数か所を口にする。
「かしこまりました」
 事前に頭に入れておいた屋敷の見取り図を頭の中で展開し、『群鱗』只野・黒子(p3p008597)は探索の最適解を導き出していく。
 素早く班に分かれたイレギュラーズが人命救助のために大広間を飛び出していく。東行は壁に背を預け、片膝を突いていた。
「そこを動かないでね、東行さん」
 ミルヴィに鳥の使い魔を預けたアレクシアが、凛と背筋を伸ばして京の役人を庇う。
 東行を殺すという明確な意思でもあるのか、退出していくイレギュラーズには目もくれず、男を睨み続けていた蛇がついに動く。
 即座にアレクシアが障壁を展開、先ほどの梅ではなく、紅花の守りが蛇の牙と拮抗した。
「彼も私も、覚悟はできているのだ」
 怯える素振りを見せず、東行は呟く。

「こっちッス!」
 助けを求める気配を察知して、鹿ノ子は走る。続くのはミルヴィと黒子だった。
 艶を帯びた廊下で急停止、滑りそうになるのをどうにか堪えて障子戸を開こうとするが、
「あー! なんかつっかえてるッス!」
「壊しましょう」
 言うが早いか黒子が戸を蹴り倒す。蛇の侵入を防ぐためか、戸の動きをとめていた棒が支えを失って転がった。
 だが三人にとってはそれどころではない。
「その人を離して!」
 疾走からの跳躍、躍るような剣技を以てミルヴィが蛇に斬りかかる。使用人を締めつけていた蛇の目がミルヴィに引きつけられた。
 とぐろを巻いていた半透明の黒がしゅるりと緩む。足がつかない位置で窒息させられていた鬼人種が畳に落ちた。
「生きてるッス!」
 男を蛇から引き離し、呼吸と脈を確認した鹿ノ子が確認する。黒子が使用人の頬を軽く叩いた。
「お気を確かに。ここから逃げますよ」
「う……」
「まだ近くにもいるッス!」
「全員助けるよ!」
 毒液を滴らせる蛇の牙をすんでのところでかわし、ミルヴィは蛇の片目を斬り裂く。
「――――!」
 顔を跳ね上げて無言で身もだえる蛇の太く長い体に弾かれないよう、一同は部屋の外に出た。そのまま全力で移動する。
「このあたりッス!」
 手近な戸を鹿ノ子とミルヴィが次々に開けていく。顎に手を添えた黒子の足元で、引っ張ってこられた使用人が腰を落としていた。
「いない!」
「どこに隠れてるッスかぁ!」
「そこにいなければ、こちらでしょうか」
 縁側の縁を掴み、黒子が下を覗き見た。暗がりで鬼人種がぐったりと気を失っている。
「いました」
 庭に下りた黒子の眼前の景色が歪む。放心していた使用人が悲鳴を上げ、別々の部屋から出てきた鹿ノ子とミルヴィが武器を構えた。
 蛇の姿が明確になると同時に黒子が奪静を発動させる。蛇の気を引きつつ、男は左にゆっくりと移動していく。
「主標的は東行様で間違いないでしょう。となれば、蛇が分散し使用人の方々まで襲われているのは『そこまで制御ができなかった』可能性が高い。つまり、東行様がいない『屋敷の外』は極めて安全です」
 トウミは優秀な術者ではないでしょうから、と牛車内で少年を観察して得た所感を、黒子はあえて口にしない。
「非常脱出口も近い。となれば」
「ひょあぁっ!?」
 とっさにミルヴィの念話に従い伏せた使用人の頭上を、蛇の尾が走る。鹿ノ子は反射的に縁側の下から救助した鬼人種の上に覆いかぶさっていた。
「追いついた……!」
 目の上に一条の傷を持つ蛇が大口を開く。ミルヴィの表情が苦いものになった。鹿ノ子は使用人を揺さぶり起こす。
「ひとまずここはお任せを」
「すぐに戻るッス!」
「要救助者がいたらそちらを優先してください」
「行こう、屋敷を出たら大桜まで振り返らずに走って!」
 腰を抜かしていた使用人たちも、ミルヴィの指示に転びそうになりながら走り出す。鹿ノ子とミルヴィが二人を護衛するために駆けた。
「使用人の救助は速さが要。目標が全員救助である以上、忌とまともにやりあう時間は惜しいのです」
 お分かりですかと、黒子は静かに蛇を見る。

 大広間を出て別班と別れた直後、行く手を蛇が遮った。
「退け」
 減速せずに突っこんだ瑞鬼が蛇を飛ばす。廊下のつきあたりに巨体がぶつかり、轟音が響いた。
「ええい、使用人共は何処じゃ」
「こちらかのう」
 言いつつ紅椿が躊躇なく壁に切っ先を滑らせる。土壁が薄紙のように切断され、崩れた。
 現れた光景にカナメが歓声を上げる。
「あはっ! いたいたー!」
「普通に死にそうじゃな」
「ポテト殿、要救護者じゃ!」
 ミルヴィの使い魔と妖精を駆使して方々の情報を集め、走り回っているポテトに届くよう、紅椿は要請しながら一度魔剣を鞘に納め、敵との距離を詰める。
「お手並み拝見じゃな!」
 居合の一閃は紫電を帯びた。
 使用人に牙を突き立てていた蛇がたまらず口を開く。高所から落ちてきた鬼人種は瑞鬼が受けとめた。
「毒が回っておる」
「またきたよー!」
 開け放たれていた戸からさらにもう一体の蛇が現れた。紅椿の足が半歩下がる。
「ひとまず引くかのう」
「詳細は省くが屋敷の外は安全、じゃったか?」
 別れ際、黒子が言っていたことを思い出しつつ瑞鬼は瀕死の使用人を抱え直す。重いので置いていこうかと一瞬だけ考えて、「子らの策に反するじゃろうなぁ」と思い、やめた。
「おっけー! ここはカナに任せて! うぇへへ……」
 なにやら欲に満ちた笑声をこぼしながらカナメが前に出る。紅椿と瑞鬼が躊躇いを見せたところで、使用人が淡い光を帯びた。
「間にあった、か?」
「ポテト殿!」
 全力疾走で戦場を駆けるポテトが、肩で息をしながら頷く。
「うむ。寸でのところで助かったようじゃな」
「よかっ……、カナメ!」
 胸をなでおろす間もなく、カナメが蛇に巻きつかれた。ポテトの双眸に焦燥がよぎり、紅椿も攻撃の姿勢をとる。瑞鬼は目覚めた使用人を畳に転がした。
「大丈夫! カナはむしろこうされたいくらいだから!」
 蛇の一頭にぎゅうぎゅうと締めつけられ、もう一頭に噛まれながらも、カナメの顔には恍惚がある。
「……なるほどな?」
 実際にはよく分からないが、イレギュラーズを子として慈しんでいる節がある瑞鬼は、カナメが楽しそうなのでよしとすることにした。
「カナメ殿、ここは任せる」
 紅椿は使用人の腕を引いて立ち上がらせ、任務を優先する。
 うん、とポテトは頷いて、
「ひとまず回復は任せてくれ」
 おおらかに受け入れた。
「途中でヘビさん見つけたら連れてきてね!」
 カナメは歓喜の声を上げながらダメージを受けている。ポテトは彼女の状態に気を配りつつ、情報の共有を手短に行った。
「ミルヴィたちが二人を逃がして……、三人目を今保護した」
「この者で四人。あとは」
「トウミはどこです!?」
 勢いよく起き上がった使用人が倒れかける。ポテトが支えた。
「あの子と東行様は無事なのでしょうか!?」
「東行は無事だ。トウミは……」
「無事じゃろう。少なくとも今は」
 言いよどんだポテトの言を瑞鬼が継ぐ。不安と不可解がないまぜになった表情を浮かべる使用人の肩を、紅椿が押した。
「それより今は自分の安全じゃ。大桜は分かるな? 屋敷を出たら全力で走って向かうのじゃ」
 ポテトと「締めつけがちょっと甘くなってきてるよ!」と檄を飛ばすカナメを部屋に残し、紅椿と瑞鬼は使用人を伴って部屋を出る。

 傷を負いながら、それでも決して膝を突かないでいたアレクシアが、不意に深く息を吐いた。
「東行さん、使用人の皆さんが保護されたよ」
「そうか」
「トウミ君は、誰も殺さないですんだんだ」
「……感謝する」
 二人の眼前の蛇は、四体に増えていた。ファミリアーを通じての情報交換の数が正しければ、敵の総数は十五。使用人の全員救助を重要目標としたため、数はまだ減っていない。
「ここから、私たちは反撃に出る」
「ああ」
「トウミ君だって死なせないよ。蛇を殺さずに消滅させれば、呪詛は還らないはずなんだ」
 紅花の障壁が、アレクシアと東行を守る。一輪が砕ければ次の花が開く。
 それは決してくじけない。ひとりでも多くの人を護りたいと、救いたいと叫ぶ、彼女の心そのもののように。
「さっき、覚悟はできてるって言ったよね?」
「……そうだな。私もトウミも」
「それ、トウミ君とちゃんとお話しするってことだよね!」
 どこか虚ろな東行の声を、アレクシアは遮った。
「命を奪われる覚悟とかだったら、私怒るからね! そんなの諦めてるだけじゃない!」
「……諦める……」
「きっとまだ、二人とも想いをちゃんと打ち明けあってないでしょう? そのまま終わるなんて、そんなのあんまりだよ」
 ああ、と東行の唇から感嘆のような息がこぼれる。

 使用人の救助が終わり、屋敷内で本格的な戦闘が開始された。
「さすがに、大変だな……!」
 保護結界を張り直しつつポテトは枯山水の中庭を横断する。流水の紋を描く砂は、現在まだその形を保っていた。
 とはいえ、分かれた二班は徐々に合流路線を辿っている。じきに走り回る必要もなくなるだろう。
 現状、最大の懸念と言えば。
「トウミ、無事でいてくれ」
 呪詛は還さない。しかし、結局屋敷内で見つからなかったトウミが、敗北を前に自らの命を絶つようなことがあれば――。
 嫌な想像を、ポテトは首を振って払う。
 直後、右手の壁が崩壊した。大急ぎでポテトは足をとめる。
 蛇に突き上げられ壁に背を叩きつけられて、そのまま庭に抜け出た黒子が空中で身をよじって低い姿勢で着地した。ミルヴィと鹿ノ子が得物を振るいつつ穴から出てくる。
 主人の登場に、ねずみのカットがポテトの肩で顔を上げた。
「ある程度、体力を削ると回復する能力ですか。面倒ですね」
 ふぅ、と黒子が膝を払って立つ。
「倒れるまで攻撃するだけッスよ!」
「馬鹿トウミ! もうどうしたって被害なんて出せないんだから、観念してよね!」
 手数で勝負をかける鹿ノ子と躍るような剣技を魅せるミルヴィが蛇に攻撃を重ねる。
 集中攻撃を受ける蛇が無音で絶叫。
 追いすがる三頭の蛇がミルヴィに殺到するが、いずれも寸前で回避され互いに頭をぶつけあう。
 ポテトが黒子を回復しようとした途端、庭を挟んで逆側に位置する壁も内側から砕かれた。
 天高く放られたなにかが、壁の破片とともに落ちてくる。
「おねーちゃーん!」
「おおう、カナメッスか!」
 蛇に締めつけられたままのカナメだった。
「いや、蛇が増えすぎて退路を断たれてのう。あまりの密度に動きづらさを感じていたのじゃ」
「そこでカナメ殿が、自分ごと吹き飛ばせと」
 状況説明と防御を行いつつ、瑞鬼と紅椿も現れる。
 カナメは途中で瑞鬼に飛ばされた蛇から離脱、スカートを抑えながらくるくる回転して鹿ノ子の真横に降り立つ。
「あのねお姉ちゃん! カナすっごく頑張ったから、ご褒美にカナのお腹思いっきり殴ってー♪」
「うーん、あとでッスねー」
 広々とした枯山水の庭にぞろぞろ集ってきた蛇の群れを見回し、鹿ノ子は黒蝶で空を切る。カナメが今日一番の歓声を上げた。
「手早く終わらせて、アレクシアと東行の元に向かおう」
「トウミも探し出さないとね!」
「ええ。聞きたいこともありますし」
 大広間にポテトがちらりと目を向けて、ミルヴィは目を細める。黒子はトウミになんらかの力を与えたものの存在を疑う。
 紅椿が眉尻をわずかに下げた。
「屋敷は気にするなと言われたが……、修繕の手伝い程度は申し出るか……」
「全ては掃除の後じゃな」
 蛇の一体に向けて瑞鬼が片手を向ける。浄土落しにより動きを阻害された蛇が苛立たしく身をよじった。

 東行の胸にあるのは、信頼と決意と、祈りのような光だった。
 だから、アレクシアの背から、その先の蛇から決して目を離さず、程近い位置から聞こえる激戦の音にも怯えず――それがやんで、イレギュラーズが大広間に戻ってきたとき、驚きもしなかった。
「アレクシア!」
 即座にポテトがアレクシアの傷を癒す。大丈夫だと、彼女は気丈に微笑んで顎を引いて見せた。
「ヘービさんこーちら! 手ーの鳴ーる方へー♪」
「二人とも無事だね!」
 まだ噛まれたり締めつけられたりしたいカナメが手を叩く。蛇たちが一斉に新手の方を向いた。ミルヴィはアレクシアと東行の姿に安堵する。
「想定内の被害で済みそうです」
 特別強い個体がここに集まっているわけではないと見抜き、黒子も敵の気を引く。
 こちらも傷を負ってはいるが、ポテトが的確に癒していたためまだ戦える。残りの蛇を殲滅する程度なら十分だ。
「そぉれッ!」
 身を低くして仲間たちの間を駆けた抜けた鹿ノ子が無駄のない動作で剣を振る。カナメが嬉々としてあわせた。
「さて、安心して黄泉路へ逝くがよい」
 瑞鬼も各個撃破、ただし不殺での戦闘不能を狙って標的をあわせる。昏い黒と赤に染まった目でミルヴィは蛇を睥睨した。
「一匹も逃がさないよ」
 蛇を見据えた紅椿は今更ながら瞳を曇らせ、
「しかし、でっかくてにょろにょろしたの、ちょっと苦手なんじゃよな……」
 そうも言ってられんよなぁ、とため息が出る。
「東行さん」
 肩の力を少し抜いて、アレクシアは明るい声で告げた。
「トウミ君にかける言葉、考えておいてね」


 大桜の木の下に集まっていた使用人たちと合流し、ポテトの妖精に森の中に潜むトウミを探してもらう。
「復讐なんてなにも生まない、なんてこと言うつもりはないッスけど。復讐を終えた後、彼はどうするつもりなんスかねぇ……」
 使用人たちの後方を歩く鹿ノ子が純粋な疑問を呟く。
 んー、と姉の腕に引っ付いているカナメが首を傾けた。
「カナはね、時間はかかるけど、いつか絶対分かりあえるって思うんだ! それに、死ぬほどの痛みならカナが全部ほしいしね……」
 うぇへへと妹は笑う。
「……伝わるカナ」
「きっと大丈夫だ」
 主語を省いたミルヴィの問いに、ポテトが力強く頷く。
 少年はきっと、誰も死んでいないことも、使用人たちや東行が心から大切に思ってくれていることも、分かってくれると。
 妖精が位置を示して姿を消す。
 木の上、枝葉の間に人の姿があった。
「トウミ君、出てきてよ。ちゃんと、お話ししよう」
 柔らかな声でアレクシアが招く。
 躊躇うような間をおいて、トウミが飛び降りてきた。
「……あの」
「トウミ!」
 堪えきれなくなったように使用人たちが少年を取り囲み、抱き締め、無事を確かめる。森の中は俄かに騒がしくなった。
「皆さん、そのあたりで」
 もみくちゃにされているトウミを助けるわけではないが、黒子が手を叩いて使用人たちを我に返らせ、少年から距離をとらせる。
 ほら、と紅椿が東行の背を押した。
「上手く行くよう、祈っておるぞ」
 小さく首肯した東行の足は、この期に及んで重い。トウミも泣き腫らした目を主君から逸らしていた。
「世話が焼けるのう」
 仕方なさそうに瑞鬼が歩み、トウミの手前で膝を折った。
「なぁ、坊主。お主は東行を恨んでおるそうじゃが、それでよいのか?」
 視線をあわせる死人の肌の鬼人種の囁きに、少年の肩が小さく跳ねる。
「お主の父親は確かに東行を庇って死んだのかもしれん。じゃが、命を賭けて護ったのは紛れもない事実じゃ。それをお主が無に帰すのか? よーく考えよ」
 父の姿を見て、育ったのなら。
「本当はわかっておるのじゃろう?」
 言いたいことは言ったとばかりに、瑞鬼は立ち上がって身を翻す。
「私たちにできるのは、憎しみを晴らし、心を癒す切っ掛けを作ることだけだ」
 ここから先は立ち入れないと、ポテトは東行を見る。ミルヴィは東行を前に押した。
「ここで怖気づいてちゃ、なにも解決しないでしょ!」
 使用人たちも何事かと見守る中、ようやく男が歩み出す。
「トウミ」
「……はい」
「話を、しよう。大切なことも、そうでないことも」
 緊張した声音で精一杯に、不器用に。
 そんなことを言った彼にイレギュラーズは小さく笑んで。
 少年は憑き物が落ちたような顔になってから、泣き出しそうな顔で少し笑った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

彼らの距離は少しずつ縮まっていくことでしょう。
痛みを抱えて、それでも前へ。

ご参加ありがとうございました!

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