シナリオ詳細
<幻想蜂起>ブリキット・ナイフ another record
オープニング
●嵐に紛れて蠍は歩く
幻想楽団シルク・ド・マントゥールの公演以降、王国は混乱した。
連発する凶悪事件。大小様々な狂気に貴族も民も振り回され、何でも屋ことギルド・ローレットも少なからずそれらの事件の鎮圧や処理に駆け回った。
そんな時間が続いたことで民のストレスは限界を超えたのだろう。
貴族への不満があちこちで爆発し、小規模な蜂起が頻発したのだ。
こんな蜂起は通常ならば起こらない。貴族の兵が強力であることを彼らは知っているし、自分たちの暮らしが何に基づいているか知らない者も少ないからだ。
だが起こった。
人々は剣を手に叫び声をあげ、貴族の屋敷へ流れ込み、まるで嵐が吹き荒れるがごとく虐殺と略奪の限りを尽くした。
血まみれの部屋。
高級な酒をラッパ飲みする連中を横目に、髭の濃い男が歩いて行く。
通路を抜け、扉を開き、やってきたのは貴族のコレクションルームだ。
高級な壺が割れている。絵画に血がべっとりと付いている。
ひどい有様だ。売ればたいそうな額になったろうに、もはやゴミも同然だ。
だが髭の男は目をくれもしなかった。
暫く歩けば顔ぶれは変わってきた。
熱にうかれた民衆ではなく、しっかりと武装し戦い慣れた男たち。
彼らの身体にはサソリのタトゥーが入っていた。
「ジュニア、見つかったぜ。あのナイフだ」
スパイクだらけのジャケットを羽織った大柄な男が身体をずらし、後ろにあるものを示した。
髭の男――ジュニアと呼ばれた男は、透明なケースに入った八本のナイフに目を細めた。
「よう、親父。随分キレイなナリになったじゃねえか」
頬にいれたサソリのタトゥーが歪む。
彼の名はブリキッドジュニア。
ブリキット盗賊団を継ぐはずだった男である。
●仕組まれた暴動
「ブリキット・ナイフにまつわる事件を覚えているかしら?
いいえ、知らなくても構わないのよ。私だって、書類で知っただけだもの」
所変わって貴族のサロンルーム。どこか艶めかしくも美しい美女に案内されてやってきた、煌びやかな部屋である。
その部屋のひとつ。ソファーにこしかけて、『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)はギルド・ローレットの皆を出迎えた。
ワイングラスに注がれる液体がほのかな桜の香りを漂わせる。燻製ワインと呼ばれる飲み物だ。
プルーはグラスに手をつけず、足を組んで身を乗り出した。
「幻想各地で起きてる連鎖的蜂起事件については、もう知っているわね?
十中八九サーカスがらみだろうけれど……きわめてブルーだわ。ブラックで、ブルー」
先に言うようにおきた連鎖的蜂起はその規模と愚かさから貴族たちの怒りを買い、武力による即時鎮圧が行なわれかけた。
『かけた』というのは、レオンが主流派貴族に交渉をもちかけて差し止めたからである。
内容は要約するが――『貴族が殴れば騒ぎはもっと酷くなるので、知名度も高い何でも屋ローレットが鎮圧を請け負いますよ』である。
「幻想貴族が皆ポークステーキになっても構わないって人もいるかもしれないけど……悪いわね、そうなるとギルド条約も脅かされるのよ」
こうしてローレットに回った大量の依頼。
そのうちの一つに、この『ブリキットの首をとれ』があった。
「ブリキッドジュニア。親は既に死んでいるから、『ブリキッド』で構わないわ。何なら二代目と呼びましょうか。
彼はラサで壊滅した大盗賊団『砂蠍』の残党よ。
幻想に入り込み、力をつける機会を待っていたのね。
今回の事件に便乗して市民をたきつけ、貴族の屋敷へなだれ込ませた。
狙いは……コレよ」
プルーが示したのは八本の美しいナイフだ。
持ち手に施された竜の彫刻。先端にはめ込まれた石。柄の付け根まで伸びる炎のような装飾。
そしてなんといっても刃にはしる不思議な模様。
白く透明感のあるそれは、いわく人間の魂を対価にして鍛造されたという。
そしてその魂の持ち主とは……。
「ブリキット盗賊団の最初のボス、一代目ブリキットだそうよ。
恐ろしい呪いの籠もったナイフだけれど、これがあれば力がつけられると考えたのね。
彼らはコレクターである貴族から見事ナイフを奪い、力をつけた。
次は資金集めのために別の貴族へ流れ込ませるつもりでしょうね」
止め方はシンプルだ。
蜂起の中心であるブリキットとその直接の仲間を殺すこと。
「蜂起市民はブリキットに乗せられただけだから、主犯さえ押さえれば冷や水を浴びせたみたいに沈静化するはずよ。というより、貴族たちが既にそのために動いているわ。
そのための最強のカードを私たちが用意する。
具体的には『貴族からナイフを奪った盗賊団はローレットが始末しました。偶然居合わせた市民の皆様、災難でしたわね』」
罪は罪であることが最大の罰だという。
市民たちは罰せられない罪を後悔として背負い、まっとうな道へと戻るだろう。
「あ、っと……大事なことだから付け加えて置くわね。
今回の依頼主はコレクター仲間でもある貴族様よ。
条件として、『ナイフは残らず回収して依頼主に引き渡すこと』とあるわ。
呪いのことは気にしなくていいわ。
『奪われたら持ち主は死ぬ』という呪いがかかっているだけだもの。死んだ後なら、同じよね」
- <幻想蜂起>ブリキット・ナイフ another record完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年05月05日 21時10分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●蠍の毒
幻想各地で巻き起こった散発的な民衆蜂起。
そのドサクサに紛れるようにして、大盗賊団『砂蠍』の残党が動いていた。
本件はそのうちのひとつ。ブリキットジュニアによる新ブリキット盗賊団によって引き起こされたものだ。
貴族たちとの間に入り、腫瘍を取り除くかのように主犯格を抹殺する。それが、今回イレギュラーズたちの引き受けた依頼である。
「悪いことをしたらいつか自分に返ってくるんだ。盗賊団もインガオーホーってヤツだね」
そう語るのは『魔法騎士』セララ(p3p000273)。依頼ゆえとはいえ、今回の行動には乗り気のようだ。
「そうだぞ! 悪いことは駄目なんだぞ! 人様に迷惑かけるもの駄目だし、ここでお終いするんだ!」
『方向音痴』ノーラ(p3p002582)もセララに続くように、つま先立ちで言った。
中折式のリボルバー拳銃をくるくるとやる七鳥・天十里(p3p001668)。
「市民を扇動する盗賊の退治! やっぱりシンプルに悪者退治が出来るのが一番いいよねー。呪いで死んじゃうみたいだけど、その前に僕がこの銃でしっかり退治してあげよう!」
死や殺人に対する倫理観は人によって違うものだ。
けれど本件においては、新ブリキット盗賊団の抹殺という点で皆考えは一致していた。
指をこきりと鳴らして頷く『一握の鉄』ホテルマン=イーグルス(p3p004083)。
「ゴミ掃除という仕事は、決して終わらないものだが……。ものを言い、喚き、這いまわるゴミならば、念を入れて行うことに意味はあるだろう」
時に。今回の依頼にはもう一つの条件が添えられていた。
盗賊団が略奪し装備しているというブリキット・ナイフの回収と、依頼主への引き渡しである。
「奪われると死んでしまうとはとんでもない呪いのナイフですね……」
『巫女見習い』鳴神 香澄(p3p004822)の言葉に、『森の一族』ロクスレイ(p3p004875)もフードの下で頷いた。
「はっはー! 人の魂で作られたナイフだったっけ? そーゆーのはロクなモンじゃねーと相場が決まってるんだけどなー」
いわくつきもいわくつき。かつてその現場に居合わせた『蛸髭』オクト・クラケーン(p3p000658)は、『かかっ』と独特の笑い声をあげた。
(まぁ、海賊じゃねぇが、同じ賊、今度も奪い合いを楽しませて貰うとするよ)
「命を掛ける、言葉にするのは、易いが…実際に、其れを成すは難しい。……だが奴らは、選び、掴ん、だ。故に……」
組んでいた腕をほどく石動 グヴァラ 凱(p3p001051)。手にしていた胡桃の殻を強く握りつぶした。
「どんな獣や、兵器より……奴らは、強敵と呼ぶに相応しい」
「……」
『孤兎』コゼット(p3p002755)はその様子を横目に、自分の考えに潜る。
(盗賊の、お父さんの魂が、入ったナイフ、なんだ。お父さんが、好きなんだ、ね。でも盗んじゃ、ダメ、だよ)
二人の様子の違いに『迷い込んだ狼と時計』ウェール=ナイトボート(p3p000561)もまた沈黙している。
(義はこちらにあるし、息子の為、パンドラの蒐集の為にも、余計な事を考える余裕はないか……)
それぞれの考えを内に込め、イレギュラーズたちは情報にあった新ブリキット盗賊団のアジトへとやってきた。
●鼠を燻すがごとく
情報にあったアジトへ至る途中、あちこちの路上に座る人々を見かけた。粗末な服を纏い、イレギュラーズたちを黙って洞のような目で見つめる彼ら。
その様子から、ホテルマンたちはここがどういう場所かは想像がついた。
死体喰う鼠のように、彼らはその場にいる。盗賊団のアジトもまた、そんな町の奥にひっそりと存在していた。
看板の出ていないバーだ。
ノーラがファミリアーを施した猫を放って調べてみれば、窓ごしにカウンターテーブルとごく小さいテーブル席があるのが分かる。
七人の盗賊団はそこで思い思いの過ごし方をしていた。酒を飲むもの、トランプ遊びに興じるもの。本を開く者。眠る者。
店員らしき者はおらず、その代わりに盗賊団の一人がカウンターテーブルの内側で酒を飲んでいた。
『元は』従業員用のものだったのだろう。裏口の存在があり、みっしりと並ぶ家々を挟んだ向こう側の路地につながっているようだった。
「さて、と」
アジトへゆっくりと近づいていくロクスレイ。
盗賊団のひとりが窓越しにそれを察知し、いぶかしげな顔をしている。
銃を抜くロクスレイ。
目を見開き、何かを叫ぶ盗賊。
ロクスレイは流れるような手つきで発砲。毒茸の魔力が籠もった弾頭が窓を割り室内で炸裂し、あたりに猛毒の胞子をばらまいた。
窓ごしに籠もっていた声が聞こえる。盗賊たちは『敵だ!』と叫んで鼻や口を押さえて駆け出す。
バーの出入り口近くに居た盗賊が飛び出してきた。からんからんというドアベルの音。
ロスクレイに注意を向けさせつつ入り口そばに隠れていたオクトが飛び出し、キャタラクトバックスタブを繰り出した。
背後に打撃を食らってよろめく盗賊。
「かかっ」
「待ち伏せか……くそ!」
店内に籠もって戦うという選択肢は、もはや盗賊たちにはない。ロスクレイから一方的な蹂躙をうけるだけだと考えたからだ。
ゆえに入り口に突撃をしかけ、離脱しようとしたオクトにタックルをかける。
転がるように飛び出してきた数人のうち一人に、セララが聖剣を抜いて飛びかかった。
「愛と正義の使者、魔法騎士セララ参上!」
セララの繰り出した剣はしかし、紙一重で回避された。
刃の表面に映るニヤリと笑う横顔。彼がブリキットジュニアであることは、人相書きから知っていた。
声を発するより早く懐に滑り込まれ、腕をナイフで切りつけられる。
「わっ!」
腕から吹き出る血、飛行状態がブレてセララは地面をバウンドした。
回避の難しい……どころか、防御を抜くような鋭い攻撃を仕掛けてくる。
セララにとって、かなり相性の悪い相手だ。しかし……。
「ここを突破したければまずはボクを倒すんだね!」
ブリキットジュニアに向かっていくセララ。
それを援護するように、香澄が月神の祝福を発動させた。
セララの身に月の神を降ろし、祝福を与える儀式だ。
りんと鳴った神楽鈴の音が神威をよび、魔力の波動となって襲いかかる。
「虫の駆除みたいだけど、まあ悪者にはお似合いだろー」
木箱の影に隠れていた天十里が顔を出し、アジトから飛び出してくる盗賊たちに銃撃を始めた。
一発目の弾が、小柄な盗賊のナイフによって弾かれる。
構わず次弾発砲。再び弾こうとした盗賊だが、ギリギリで弾き損ねて弾丸をくらった。
香澄の攻撃とあわさり、派手に転倒する盗賊。
素早く飛びかかったホテルマンが手首を凄まじい握力で握り、組み伏せていく。
「人体の構造は熟知している。このゴミどもを教材に、復習するとしよう」
骨の折れる音が鈍く響く。
裏口の存在を知っていたのがよかった。
表からの脱出が困難だと察した一部の盗賊は裏口から脱出し、路地を通って表の仲間と合流するつもりでいたようだ。
だがそれを遮るように、ウェールが猛烈な体当たりをしかけていった。
思わず転倒した盗賊。
そこへ、機械鎧を装着した凱が宙返りをかけながら急接近。
起き上がろうとした盗賊の胸に、強烈なスタンピングをしかけた。
「裏まで張っていやがったか――! そっちは何人だ!?」
「教えると思うか」
「語るは、無粋。押し通れ」
ウェールは剣を抜き、凱は格闘の構えをとる。
「もたもたするな! 協力して突破すればこの程度――」
別の盗賊が鎧たちへ襲いかかろうとした、その時。
民家の屋根からなにかの影が飛び上がった。靡く黒い布と長耳。コゼットである。
コゼットは空中で斬撃を繰り出すと、エネルギーだけを盗賊へ発射した。
咄嗟に振り向き、ナイフで受ける盗賊。
その横っ面に叩き込まれる魔術。
ノーラが放ったマギシュートだ。
「これはすっごく痛いんだぞー!」
両手で宙をかくようにすると、ノーラの構成魔力が吹き出し、矢のように飛んでいく。
「これ以上そのナイフに血を吸わせたりするもんか。仲間も町の人達もボクが守ってみせる。だってボクは魔法騎士だから!正義の心を聖剣に宿し、悪を討つ!」
セララは飛び上がり、ブリキットジュニアへと襲いかかった。
先端で突くような攻撃。対して相手は紙一重での回避。ナイフで剣の側面をなぞるように急接近をかけてくるが、セララは盾を翳して迎え撃つ。
カウンターを防御――したかと思ったが衝撃が来ない。真下を滑り抜けるように、ブリキットジュニアが背後に回っていた。
マントを翻し、身を転じるセララ。
「小さいからって甘く見ないでね!」
が、ブリキットジュニアの狙いは別にあったようだ。
セララの回復に専念していた香澄だ。
接近まで数秒。
香澄は神楽鈴に疑似神性を付与すると、神威を再び引き起こした。
鈴の音が衝撃となり、正面の空間を薙ぐように放たれる。
ナイフでの防御をすり抜けてぶつかる衝撃に、ブリキットジュニアのスピードが落ちる。後ろから組み付きにかかるセララ。
一方そのころ。
オクトは大砲を直接盗賊の頭に叩き付けていた。
後頭部に直撃をくらった盗賊はよろめき、ムキになってナイフを繰り出してくる。
防御のために翳された大砲の側面をナイフが削り、火花が散っていく。
しゃらんとナイフが滑りきったところで、横からウェールが切り込んでいった。
剣が盗賊の脇腹を切りつけ、派手に血を噴き出させる。
思わず腹を押さえた盗賊に、ホテルマンが素早く詰め寄った。
首を掴み、吊り上げるように掲げる。
「う、ぐ……!?」
「喚くな。いずれ消える痛みだ。死によって」
反撃しようとナイフを振り上げた盗賊だが、その側頭部にオクトの大砲がつきつけられた。
「ちょっと揺れるぜ」
爆音。飛び散る血しぶき。転がり落ちるナイフ。
盾で血をはらったウェールは、なんとも言いがたい顔で唸ってから、オクトたちの顔を見た。
「裏の盗賊たちは済んだ。詰めるぞ」
ここまで、店の正面から飛び出した盗賊団をイレギュラーズが2~3人で抑え、戦闘のアドバンテージをとっている状態だった。
ブリキットジュニアの特出した戦闘力に押されやや劣勢気味ではあったが、それは表を守っていたメンバーの減少によるものだった。
減ったメンバーは裏口へ回り、不幸にもごく少数で裏口から出て行こうとした盗賊たちを速やかに抹殺。アジトの屋内を突き抜ける形で今――挟み撃ちが成立した。
「あとは、任せて」
裏口の扉とキッチン、バーカウンターをそれぞれ駆け抜け、飛び越え、コゼットが毒霧を噴射した。
バックアタック。それも防御の難しい攻撃をくらい、途端に総崩れとなる盗賊たち。
そこへ凱が椅子や箱を粉砕しながらダッシュし、豪鬼喝を放った。
まるで巨大化した凱がぶつかってきたかのような衝撃が走り、盗賊たちが吹き飛ばされていく。
転がるナイフ。
激しいダメージを受け、しかし何とかここまで耐えてきたセララが振り払われる。ブリキットジュニアは粗く息をしながら、しかしナイフをぎゅっと握った。
天十里とロスクレイの銃口が二方向から向けられていた。
店から出てきたノーラが指鉄砲を作り、ブリキットジュニアの後頭部にぴたりと狙いをあわせる。
「悪者だし、鉛玉撃ち込むのに容赦はいらないね!」
「ま、そういうことだ」
ズドン。とロスクレイが言い放つのと、当人らが発砲するのはほぼ同時だった。
ロスクレイの弾頭はブリキットジュニアの腹にめり込み、爆ぜた種子の威力によって貫通していく。
天十里の弾は頭蓋骨を見事に粉砕し、頭部の真ん中ではねた。
二人は銃口をあげ、リボルバー弾倉を開放。空薬莢をばらばらと地面に落としていく。
膝をつき、崩れ落ちたブリキットジュニアのその先で、ノーラは指鉄砲の先を唇に近づけた。煙のように上がった魔力の残滓を、吹き消した。
「これで、おしまいだ」
●ブリキット・ナイフ
盗賊の中には、わずかに息のある者もいた。
だが本件は抹殺のオーダー。
コゼットは近づき、見下ろして言う。
「ナイフ奪われて、呪いで死ぬ、のと。普通に死ぬの、どっちが、いい?」
盗賊は笑って、震える手でコゼットに襲いかかった。
鼠の一匹も殺せないであろうその攻撃を蹴り飛ばし、胸をナイフでひとつきにするコゼット。
「人の物は奪うのに、自分の物奪われるのは……死ぬほどイヤって、ことなのかな」
「……」
今度こそ死亡した盗賊の胸元に花を添えるホテルマン。
「ゴミどもは死によって人間性を取り戻した。であれば葬ってやるのも礼儀であろう」
ブリキット・ナイフの回収もまたオーダーのうちだ。
セララやロスクレイは、盗賊たちの落としたナイフの回収にあたっていた。
「例え嘘を言っても、依頼主さんに不幸になって欲しくないよ。破壊してもらうように、説得してみたいな」
「俺も壊した方がいいと思うぜ。つっても……」
ナイフの表面を観察してみる。あれだけ激しい戦いをしたにも関わらず、まるで傷が付いていない。
破壊そのものが難しそうだとも思ったが、それ以上に……。
「破壊は、呪いを、増すことも、ある」
装備を解いた凱が重々しく言った。
「えっと……そう、ですね。いたずらに壊すのは、かえって良くないかもしれません」
香澄も何か思い当たることがあるのか、鎧の意見に同意した。
「そもそも、引き渡すまでが依頼内容ですから……」
だから、どう。とは言えぬ。望まぬ破滅であるならばともかく、自ら毒を食らう者を止める権利までは、誰も持ってはいないのではないか……とも。
「こいつも死んでやがる。ナイフは……前に触ったし、見たから興味はねぇ、貰えるなら別だがな、かかっ」
オクトは気楽に構え、バーカウンターに腰掛けた。棚から取り出した高そうな酒を開く。
一方でウェールはナイフをつぶさに観察し、小さくため息をついた。
「奪われたら死ぬナイフなんて、使いづらそうだな」
それに盗みは息子に嫌われそうだ、と。
「じゃ、依頼主に引き渡しちゃおっか!」
「布でぐるぐる巻きにしちゃうぞ!」
天十里とノーラはナイフをとりまとめ、その辺にあった革や布でくるんでロープでぐるぐると縛った。
このナイフはきっと、『一つ前の』持ち主同様ショーケースに飾られることだろう。
周りに存在する様々なコレクションのなかの一つとして。
そしてブリキット盗賊団は、本当に『いわく』の中だけの存在となるのだ。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
――mission complete!
判定時、脳内議長が『狭い屋内に範囲攻撃とか最高』と手を叩いて居たので、ロクスレイ様にMVPを差し上げます。
屋外に誘い出すための、ある意味での最適解でした。どう考えたって出ないわけに行かないもの。そしてたった一人の一行動で達成できているもの。
GMコメント
【オーダー】
成功条件:新ブリキット盗賊団全員の殺害
副条件1:所持している『ブリキット・ナイフ』八本全てを依頼主に引き渡すこと
新ブリキット盗賊団は7人のチームです。
彼らは次なる蜂起扇動を起こすべくアジトで準備を練っています。
そこへ突入し、全員を倒すことが今回の流れとなるでしょう。
戦闘で殺さなくても最終的には呪いで死ぬので、捕縛を考える必要はありません。
●ブリキット・ナイフ
強力な武器である一方『奪われたら死ぬ』という恐ろしい呪いを伴ったアイテム。
今回はこれを盗賊団のメンバーが装備しています。(ブリキットは二刀流で二本装備しています)
●盗賊団の戦力
ブリキット・ナイフを装備しているせいで戦闘能力がちょっと高い。人数比も含めてトントンといった具合です。PCの戦闘不能者を出さないのはまず無理、くらいに考えてください。
特に二本も装備しているブリキットは飛び抜けて強く、警戒が必要です。
●フィールド概要
アジトはあまり広い場所ではありません。
室内で戦う場合は殆どR0~1のスキルしか使うことができないでしょう。
(屋外から窓を通じて打ち込む等の工夫があればR2以上を使えないこともありません)
もしR2以上のスキルを活かしたいなら、屋外に誘い出す手順が必要になるでしょう。
逆に言うと、盗賊団はこの段階で野外戦闘をあまり意識していないので近接戦闘型ばかりで占められています。
【おまけ解説】
※これは依頼成功に直接必要のない情報です。
このシナリオは『ブリキット盗賊団と呪いのナイフ』の結果に基づいています。
(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/130)
一代目リーダーのブリキットを殺し、その魂を奪って錬成されたという呪いのナイフ。
ローレットは過去、このナイフを盗むことで呪いを発動させ幹部たちを全員抹殺しました。でも大半は直接やりました。
そのためブリキット盗賊団はほぼ壊滅したのですが、ラサで壊滅した大盗賊団『砂蠍』の残党として幻想に入り込んでいたブリキットの息子が団のメンバーをまとめ直し、新ブリキット盗賊団へと変えていました。
【アドリブ度】
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。
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