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シナリオ詳細

<巫蠱の劫>漁火の行先

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 叢原火――その一見すれば害のない妖が『凶暴化』した切欠たる呪詛が何処かに存在していると言うことを『スモーキングエルフ』シガー・アッシュグレイ(p3p008560)は知っていた。
 その呪詛の行方の調査を頼みたいと『章姫と一緒』 黒影 鬼灯 (p3p007949)率いる忍集団『暦』の一人、『弥生』へと調査を依頼したシガーは「案外早く突き止められたんだな」と驚いたように呟いた。
「まあ、『奥方』も――それから頭領もか――気にしてはいらっしゃったからな」
 ふふん、と鼻を鳴らす弥生。彼は女性嫌いにプラスして鬼灯がその腕に抱く愛らしい西洋人形『章姫』を敬愛しているらしい。表の面だけ見れば女性の存在有無は別に居て快活ではあるが、その裏はサディスティックな性癖を内包しているらしい。
 ……兎も角、「見つけた」と弥生が言うのだから見つけてきたのだろう。
「ここ数日、移動する不審火の存在が確認されたらしい。
 そんな風に適当に燃やされちゃ『奥方』をお連れする茶屋にもダメージ入るだろ」
 ぶつぶつと呟く弥生に「移動する不審火……」とシガーは小さく呟いた。
 詰まるところ、その不審火が媒介とされた妖を使用しての呪詛と言うことだろう。のんびりと進むのは妖が元より害を余り及ぼさぬ存在だったことに起因しているのか。
「それで、その火は何処に?」
「それが……海の方へ向かってるんだってさ。中務卿に聞いたら、その方面には流刑に合う罪人達の拘置所が存在しているらしい」
 罪人達をカムイグラの存在する黄泉津本島より『流す』処置が行われているらしい。その島の名を晴明へと聞いてみたが「忌むべき言葉だ」と首を振られる。
 便宜上『流島』と呼ぶしかないがその島は守手である畝傍家を中心とした刑部省が刑吏として管理しているらしいが……。
「弥生、最近は拘置所で何かあったか中務卿から聞いていないか?」
「中務卿曰く、畝傍家の刑吏の一人、畝傍・鮮花が姿を消した事、罪人の一人だった肉腫の逃走が確認されたこと……がトピックかな。
 あとは、まあ、畝傍家が罪人の確認に来ているって事――……ああ、そうか」
 合点がいったように弥生が頷く。中務卿は「成程、そういうことか」と言っていたがこれは説明無くても合点がいくでは無いか。
「呪詛が狙ったのは流島から普段は出てこない畝傍家の刑吏か」
「ああ……ならば、捕らえられた者の家族の逆恨みか、もしくは――」
 不当なる逮捕出会った可能性、だ。カムイグラには鬼人種を『獄人』と呼び迫害する文化が根強く残って言える。それは精霊種である八百万達が自身らを付喪神の一種であると認識し、神たる自身らの従僕として鬼を扱っていたことに起因しているそうだ。
 ならば、滅海竜リヴァイアサンを龍神様として扱っていたことはどういうことかと中務卿へと問いかければ神にも序列がある、と言うことらしい。
「『鬼人種への不当な逮捕』を行った刑部省への逆恨みか……。
 中務卿の遣いだと告げれば鬼人種を解放してくれる可能性は――」
「ないな」と一連の話を聞いていた『中務卿』建葉・晴明は首を振った。弥生は「やっぱり?」と溜息を吐く。
「畝傍家は天香家と縁深い。俺よりも天香の指示を優先するだろう。
 ならば、鬼人種の不当逮捕に『霞帝が引き上げた鬼人種のお飾り中務卿』より」
「時の権力者の指示を聞くって事か。まあ、そうだろうね。そうだろうさ。
 それでも一先ず、呪詛を追いかけていくという事でいい?」
 晴明は頷いた。呪詛はその対処を間違えれば術者に返る。しかし、現状をも見過ごせぬ状況なのは確かだ。不審火が続き、浜へと進んでいくというならばその炎に巻き込まれて命を失う者が存在する可能性はある。
「呪詛については其方に一任する。任せても?」
「勿論。さあ、奥方のためだ。行こうか」
 弥生の言葉にシガーは「はいはい」と肩を竦めた。呪詛の蔓延る高天京――何者かの陰謀渦巻くその空間に違和を飲み込めないまま。

GMコメント

 夏あかねです。アフターアクション有難うございます。
 弥生さんとご一緒、というアクションだったのでご一緒して貰いました。

●成功条件
 呪詛への対処

●流刑の浜
 そう呼ばれる黄泉津の海沿い。松の木が印象的です。罪人達の拘置所が程近くにあり、流刑を行う黄泉津本島より離れた小島を一望することが出来ます。
 どうやら呪詛はこの浜と拘置所――そして、流刑のために黄泉津本島にやってきた刑吏を狙っているようです。
 足場や視界に問題はありませんが拘置所が近いことは留意してください。
 現在、炎の呪詛はずんずんと浜に向かって進んできています。その進行経路は拘置所です。

●炎の呪詛
 叢原火を切り刻んで生み出された呪詛。その呪詛を使用したのは不当逮捕された鬼人種の家族であると想定されます。その身元は晴明が調べているようですが現時点では判明していません。
 放置しておくと柘榴は勿論周辺一帯が火の海に化してしまいますので対処を行ってください。
 畝傍家の刑吏の一人、畝傍・柘榴(うねび・ざくろ)を狙っているようです。

 ・炎に関連するBSを使用
 ・範囲攻撃を中心に使用。物理及び神秘の何方も使用できます。
 ・ブレイク所持
 ・ブロックには二人を有します。

 ・呪詛への対処
 不殺攻撃→呪詛は返らずこの場で消滅します。
 それ以外→呪詛は跳ね返り術者の元へと襲いかかるようになります。

●畝傍・柘榴
 うねび・ざくろ。拘置所の中で刑務を続ける鬼人種の青年。三眼を所有しています。
 穏やかな風貌であり、時の権力者である天香に忠実です。
 彼に不当に逮捕した鬼人種の話を聞くことは出来ますが「八百万に刃向かった」という事しか教えてくれません。
 自身が狙われていると事を聞いて怯えているようです。交渉はしやすそうですね……?

●友軍:弥生
 忍集団『暦』の一人。可愛い物や美しい物が大好き。女性が苦手な弥生ちゃんです。
 可愛い物が好きである故に、 黒影 鬼灯 (p3p007949)さんの嫁殿である章姫を敬愛しています。
 サディズムを内包し、痛めつけることを好む性癖の持ち主です。戦い方もその性癖に似合う、罠等を駆使し、攻撃力や防御は低いが、高命中と高反応、豊富なBS技と言った雰囲気です。指示に従います。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 それでは、どうぞ、宜しくお願いします。

  • <巫蠱の劫>漁火の行先完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月18日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
澱の森の仔
彼岸会 空観(p3p007169)
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
マギー・クレスト(p3p008373)
マジカルプリンス☆マギー
シガー・アッシュグレイ(p3p008560)
紫煙揺らし

リプレイ


 夕凪に松の影が落ちて行く。黄泉津本島より遠く望んだ小島の事をこの地域の者達は自凝島と称していた。此度、叢原火と呼ばれた妖を凶暴化させるに至った呪詛の行方を追っていた『スモーキングエルフ』シガー・アッシュグレイ(p3p008560)はその際に情報提供者であった忍軍が一人、弥生に呪詛の継続調査を依頼していた。
「いや本当、こんなに早く呪詛の行方が分かるとは。
 この前の戦闘でも頼りになったし、弥生君って思いの外優秀な忍だよねぇ」
 シガーの言葉に重ねるようにきらりと瞳を輝かせたのは『小さな決意』マギー・クレスト(p3p008373)。彼女も叢原火の一件で呪詛の行方を気にしていた一人だ。
「叢原火の呪詛がどこに使われるか気になっていましたが……さすが、弥生さんです!」
 尊敬の眼差し向ける彼女に「そ、そうだろう」と明後日を向いた弥生は女性を苦手としているが故に視線を逸らす。然し、もっと褒めてくれと言わんばかりの態度は『章姫と一緒』黒影 鬼灯(p3p007949)のその腕に抱かれる『奥方』――こと、美しい西洋人形の章姫に自身の功績を伝えて欲しいという意思が溢れ出している。
「弥生さんとまたお仕事なのだわ! 嬉しいのだわ!」
 楽しげな章姫に鬼灯も「そうだな、しかしさすがは俺の部下だ。動機はともかくとしてこんなに早く突き止めるとは」と章姫の頬を擽る。「弥生も大層喜んでいるだろう」と言う頭領の言葉には「勿論です、奥方」と『上司』スルーでのお返事だ。
「……ところで、鬼灯君の事はちゃんと頭領……上司として敬ってるんだよね? 上司の扱い……悪くない……?」
 楽しげな忍び達の様子を眺めていた『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)は「呪詛ですかー」と唇を尖らせた。
「なんというか、本人からすれば切実なのでしょうけど、随分と簡単に呪詛を送る方法が広まっちゃってるから事件の件数が増えてる感じなのかしら。よく知らぬけれどー」
 昨今の神威神楽は呪詛と呼ばれる霊的な現象が多発しているのが実情だ。呪詛の木の葉や利用には何かしらの意図を感じずには居られぬと『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)は悩ましげに唸った。
「一先ずは目の前の依頼に注力致しましょう」
「はい。どこで使われるかがわかっても結局誰が糸を引いているのか不明なのが、もやもやしますが……まずは、できることから一つずつですね」
 頷くマギーに無量は此度の事件のことを思う。この国には予てより種族差別が文化として強く根付いているのだ。八百万達は自身らを神の分霊と認識し、角を持つ地に住まう者を迫害し続けた。そうして上下関係と格差を作り出して成り立ったが黄泉津であるというならば――『致し方がない』のは確かなのだろうが。
「まあ、良識と常識を持った人間であれば当然感情があるんだから。
 不当な扱いは誰だって怒るよね、人を呪わばなんとやら、術者に跳ね返りがないことを願うよ全く。此処まで粘着質なヤツは大体終わった後が一番怖いんだ」
 肩を竦めた『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)。その言葉に『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350)はむう、と唇を尖らせた。呪詛を用いて『不当な扱いに抗議をしている』というならば納得はしようがあるが、その呪詛が他者の命を奪う可能性があるのだから救いがない。
「聞くところによると、仲間の多くが呪詛には不殺で対応しているって話だ。
 それは呪詛を放った者を守る為でもあるってのに、もし繰り返しているんなら救いようがないよね。
 何かに操られるように気付いたら……と聞くこともあるけどさ。人に恨みが尽きぬ限り、いたちごっこだよね」
 ルーキスが粘着質だと称したように。苛立ちの儘に繰り返し繰り返しで在れば何時の日かその呪いが跳ね返り術者の体を蝕むことだって在ろう。弥生の纏め情報をまじまじと見ていた『ヴァイスドラッヘ!』レイリ―=シュタイン(p3p007270)はふむ、と小さく呟いた。鬼人種達の迫害の一環で『何らかの都合』があり罪なき者達の逮捕が行われた。その怨みによる呪詛がこうして襲いかかってきていると言うのだ。
「確かに、罪のない者が不当に逮捕されたなら恨みを持つのは分かる。
 その恨みを果たすためにこのような力に手を出す事もあるだろう……だとしても、これを断ち切らなければ、連鎖するだけだ!」
 遠く、迫り来る呪詛の気配がひしりと背にしがみ付く。レイリーの言葉に頷いてシガーは「畝傍と言えば畝傍・鮮花が純正肉腫と逃げた話も気にはなるが、呪詛の魔の手迫る畝傍柘榴を護る事に専念しようかと流刑の浜へと脚を進めた。


 流刑の浜に辿り着けば、遠く島影の輪郭がその双眸に映り込む。夕暉の刻に畝傍・柘榴は「よくぞ参った」と怯えたようにそう言った。三眼がぎょろりと動く。特異運命座標の姿をまじまじと見た彼は刑吏としての職務は確りと行っているのであろう。忙しなく動き回っている。
(……この拘置所に囚われている人たちが謂れ無き罪で逮捕された人々……。
 不当な思いをしたからこそ、いけないと思って居ても呪詛に手を出してしまったのでしょうが……)
 幾ら不当な行いをしたとしても柘榴という男が死んで良いとはそうは鳴らない。呪詛を返す事も無く此処で全てを終わらすが為にマギー流行る気を漲らせる。
 視界の端にちらつく焔の気配に無量が地を蹴った。浜に落ちた夕日の色よりも尚、鮮やかな炎の呪詛が進み来る。
「あれが――此度の呪詛ですか」
 まじまじと見遣る。手にするは大妖之彼岸花。ふわりと匂い立つ夢幻を漂わせ、触れる者皆傷つける攻防一体の構えを見せた無量は「お相手しましょう」と堂々たる立ち居振る舞いを見せる。
「恨みは晴らした所で新たな恨みを生むだけですから……」
 ――それは自分が一番知っている。業を背負い、泥より這い出すには、他者を呪った方が良い。
「まあ、そうだろうさ。人を呪うのが一番楽だ。人間というのはそう言う生き物なのだから」
 くすりと笑ったルーキスのその手が禍狂の黒重に添えられる。ずんずんと進み来る呪詛を退けるが如く放ったのはエメラルドの宝石魔術。無数の棘が地毒を孕み呪詛の中へと吸い込まれる。
 地を蹴って刃振り上げる無量の放つは三カ所を一突きする絶技。呪詛の動きがびりりと痺れ、無量の掌に僅かな痛みが走る。
 然し、呪詛は進み行く。まるで、呪うように、畏れるように、悍ましくも悲しむように。
「私はヴァイスドラッヘ。悲しき妖よ、我がその悲しみを怒りを引き受けよう」
 ドラゴンの角を模したランスを振るう。その身こそ鍛え上げた黒鉄。武装鉄騎のその手が炎の呪詛を受け止める。聳え立つ城壁が如く乙女の掌がぐ、と呪詛を受け止めた。
「ここで鎮まれ」
 視線全てを受け止める様に。レイリーが堂々告げたその背後より罠がぱちり、ぱちりと始動する。鬼灯が弥生へと告げた3つの指示、その1つなのだろう。
「弥生さん、がんばれなのだわ!」
 章姫の応援受けてふふん、と鼻を鳴らす弥生。『絶対に無理しない(格好付けすぎない)』『嫌がらせしろ』『罠にかけろ』の3つを告げた際、鬼灯は余りに緩んだ弥生の表情に肩を竦めた。折角の美形が不審者になっているではないかと告げたとしても「今更か」と諦めも勝る。それを見ていたシガーにとっては彼の忍びは興味深く面白い。
(弥生君は優秀な忍びなんだろうけど……まあ、面白いよね)
 いつでもひやりと感じさせる永久氷樹の腕輪が舞い散る焔を感じさせない。精霊刀を手にし、シガーが放つは一刀両断。
 続くように、マギーは攻撃に集中するようにレイリーがその場に留めた呪詛をき、と睨み付ける。
 切り刻まれた叢原火の苦しみと悲しみ、辛さも重なり、『術者』の怨みもこの炎にはたっぷりと籠められているのだろう。それも含め――
「此処で止めます……!」
「そうね。此処で止めましょう。ああそれと、炎の呪詛だったわね」
 胡桃のもふもふとした爪付きグローブで包まれた拳に力が籠められる。そ、と手を掲げた先には『こやんふぁいあ~』――或いは、狐火がゆらりと燃える。
「わたしは火炎に関しては聞かぬのでー。つまり、火力が強いほうがよく燃えるのよ」


 堂々と前線にて戦い続けるレイリーを癒やすのはルフナ。本気モードを発揮するが為、その体内に自然魔力を巡らせる。高位術式による魔力の巡りと共に攻勢魔術理論体系を発揮する『褐色肌片目隠れ長耳弟属性ショタ』は天使の福音を響かせる。
「全く……此れも『不正逮捕』のせいだって言うんだから良い迷惑だよね。
 こんな事続けてたら何度だって呪われて何度だって恨まれるよね。……分かってるのかな」
 ぼやいたルフナの言葉に「どうかしらね」と胡桃は小さく呟く。『有り得るはずだったもう一人の自分』――その可能性を身に纏い、爪撃放った胡桃が後方へ一度交代する。
 重なり続けた痛みに呻くように炎を散らした呪詛を受け止めるレイリーの拳に力が籠められた。
「くっ……!」
「弥生」
 唇を噛むレイリーを癒やすルフナ、そして『指示』を出した鬼灯に「承知」と小さく声が重なる。弥生との連携は手慣れたものだ。降る毒と共に『慈愛』の輝きを皓々降らす鬼灯。魔糸が呪詛を締め付ける。
「弥生さん楽しそうなのだわ! がんばってね! でも無理はしちゃだめよ!」
 章姫のその声に頷く弥生は嬉々とした気配を醸す。章姫に何かあれば鬼灯だけでなく弥生も黙ってはいないのだろうとシガーは小さく笑った。
 レイリーは自信の役割こそ、被害を防ぐ為の大事な役割だと知っている。此の儘進めば無関係の者もこの呪詛に巻き込まれるのだ。
「――被害を犠牲を、最小限にするためにも私が彼を絶対に食い止める!」
 踏ん張るように脚に力を籠めた。装甲で攻撃を受け止め、攻撃を重ねて焔が止まるようにと呪詛の気を引き続ける。ドラゴンの翼を思わせる盾にぶつかった炎の気配を打ち消すように天使の福音が降りる。
「放火犯だよね、こんなの」
「まあ、そうだな。大人しくしてて欲しいな。余り暴れられるのも厄介だからね」
 肩を竦めて魔術を放つ。ルーキスは至近距離へと近づいて威嚇するように攻撃を重ねた。
「ちょっとは響いてくれるかな?」
「ええ。しかし……殺してはならない、と言うのは難しいですね……」
 その命を断ち切ることは得意であれど苦手は底に存在すると無量が眉を寄せる。己のみが焼かれようとも術者に跳ね返る呪いは本意では無いが故に『慣れぬ戦い』を続ける。
 マギーは「任せて下さい」と走った。命を奪わぬように、慎重に重ねる攻撃にシガーの一撃も合わさっていく。
「申し訳ないですが、それ以上は立ち入り禁止です」
 放たれた威嚇射撃。蹴を放ったシガーとマギーの視線が交差し合う。頷く二人が間を開く。揺らめく狐火を纏った胡桃はぴゅりふぁいあ~――浄焔を放った。浄めの力が呪詛のその身を溶かすように火を消し留めてゆく。そうして、その動きがピタリと止まった。
 黒く悍ましく醸し出された気配が止まり、ずん、と音を立ててその焔が地へと転がる。
「お疲れ様なのだわ! 弥生さん、いい子いい子なのだわ!」
「よくやったな、やよ……聞いてないな……貴殿」
『奥方』に夢中の弥生を見ながら鬼灯は小さく笑う。呪詛の焔が薄れた様子にほう、と安堵したマギーは「これで呪詛は返らない……ですよね」と首傾いだ。
「ええ、その筈です。しかし……課題は山積みのようですね」
 後方を仰いだ無量の視線の先には柘榴が立っている。ルーキスは「お任せあれ」とひらりと掌で仰いだ。女性陣から一歩下がった位置に居た弥生に「煙草は?」とシガーは問いかける。もしも吸えるなら楽しんでくれと深緑産の箱をひとつぽん、と彼に手渡して「今回のお礼だ」とシガーは手をひらりと振った。


「終わったか」と顔を出した柘榴はそう告げた。『呪詛返し』にはならずに残った呪詛の残滓が消えゆく様を見て柘榴はぎょっと特異運命座標を見遣る。
「殺さぬのか。術を返せば良いだろう!」
「……もし、此処で術者が死んだとして……その術者に家族が、大切な人が居たらどうなるだろうね」
 はあ、と溜息を吐いたシガー。びく、と肩を跳ねさせた柘榴は「む、む」と言葉にならぬ声を発するだけだ。「やっぱりね」と呟いたルフナは巨躯の男をちら、と見上げた。
「まさか恨まれるのが此れが最初で最後なんて、思ってないよね? ならどうすればいいかわかるでしょ」
「どう――」
「貴殿も進んで不当な逮捕をしたわけではないだろう?
 そんなことを続けていれば貴殿は延々呪詛を向けられることになる。が、ここで彼らを解放すれば貴殿は恨みではなく感謝を向けられ命を狙われることは無いだろう?」
 窘めるようにそう言う鬼灯に柘榴は首を振った。ルーキスは「まあ、無理だろうねえ」とからからと笑うだけだ。
「今すぐ逮捕している連中を解放しろ。なんて無茶を一介の役人に押し付けるつもりはないよ。
 けど、適当に理由を着けて、今後ちょっと手を抜いてくれればいいのさ。出来れば私達に協力してくれるとこっちも動きやすくなるし」
 ルーキスの言う様に『畝傍柘榴は代々刑吏を務める家系の役人』だ。彼自身が何らかの指示を受け捕え、こうして不当逮捕を行ったことは明らかだ。
「そうだよ。仕事でやったんだろうし、指示を破る……何も離反しろなんて言ってない。
 今まで通り変わりなく……ただ少しだけ他人に優しくしてやるだけだよ」
 ルフナの目的は着地点はどうでもいいが特異運命座標側の要望を飲んだ上で自分の考えと意思で権力に逆らって許容できる範囲の融通を引き出したいのだ。
 ううん、と胡桃は首を捻った。神威神楽にある『特別な事情』――八百万と獄人を取り巻く問題だ――に関しては文化もそうだが社会的な大きな問題として存在しているのだろう。胡桃にとっては『不当逮捕された者を解放するのが良いのかどうか』も分からないと鼻をすん、と鳴らす。
 炎の残滓からは何か特別な匂いを感じることはない。「ヒント得れたら良かったけれどー」とむう、と唇尖らせた。
「下手をすれば、またこれと同じことが起きちゃうからね。
 キミだって上から言われて仕方なくで命まで落としたくないでしょう?」
 適当に動くのは『フリーランス』の役目だとルーキスが告げれば柘榴は「ああ」と低く頷いた。
「不当逮捕の指示を受けたのは何時、誰からですか?」
 誰か、と言う情報は自身らにしか意味が無いことを無量は知っている。
 しかし――指示された時節と殺せば術者へ返る呪詛の流行の時期が合致するのであれば『何か』思惑はあるのだろうと納得も行く。
「権力者に縋り、見向きもされずに足蹴にされ果てるのがお望みであれば今のまま居られれば宜しい」
「……鮮花が――」
「鮮花、というのは畝傍家の刑吏だったか?」
 レイリーと無量は顔を見合わせる。畝傍・鮮花という少女は『純正肉腫』と姿を消し、絶賛行方不明中なのだという。
「鮮花が、刑部省の……近衛 長政殿から指示を受けた、と」
 近衛 長政――それは七扇が一枚、刑部卿ではないか。彼が何らかの思惑で『罪人を集めている』のは確かだ。
「どのような指示を受けたのです」
「罪人を流刑の浜に集めよ――と」
 それだけだと首を振った柘榴は怯えるように頭を抱えた。現状、彼には『何も出来ない』が正しい。上層部は『魔』が蔓延っており叛意を見せれば一溜まりも無いはずだ。少し優しくしてあげなよ、と告げたルフナの言の通り『少しだけ刑を軽くする』止まりだろうか。
「畝傍さん。えっと、あの……この呪詛騒動、本当に気がかりで気がかりで……早く解決できるようにしたいのです。大変でしたよね、大丈夫でしたか……?」
 優しげに声かけたマギー。貴族としての嗜みは腹芸も含まれる。情報の収集が為に交渉を行う仲間達と敢えて違うスタンスをとった。穏やかに微笑み、信を得る。
「……京が心配だ」
「京、ですか?」
「……俺には長政様が何を考えているかさっぱり分からんのだ」
 頭を抱える彼にマギーはふと、背後を振り返る.美しき鳥居並んだ『神の国』高天京――其処に渦巻く複数の思惑は、今はまだ全容を把握は出来ないままだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加有難うございました。
 この国は様々な陰謀が渦巻いていますね。
 流刑の先に存在する離れ島……何か、あるのでしょうか……。

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