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シナリオ詳細

再現性東京2010:鬼更木駅

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ゆうれいれっしゃ
「……さい。起きてください」
 悪夢にうめくあなたを誰かが揺り起こした。あなたは寝起き特有の不快さを隠しもせず、目元をこすった。
 背の低い少年があなたの肩に手を置いていた。車掌の制服を着て、大きな制帽をかぶっている。やわらかそうな栗色の髪が、片目を隠していた。幼げな大きな瞳とは裏腹に、静かで落ち着いた声は大人びて聞こえる。
「どうしてまたあなたのような人がこの列車に乗ってしまったのですか。それとも、それだけの事をやらかしたのですか」
 あなたは答えない。質問の意図が寝ぼけた頭に入ってこなかったからだ。少年は小さくため息をつくと腕時計をちらりと眺め、胸ポケットから無線マイクを取り出して口元へ寄せた。
『つぎはー、鬼更木~鬼更木~』
 車内へアナウンスが響き渡る。あなたの頭で記憶がはじけた。そうだ、たしか、希望ヶ浜の学校で一日を過ごし、カフェ・ローレットで時間をつぶしているうちに遅くなってしまったのだったか。それから……そうそう、列車に乗って、心地よい揺れに身を任せているうちに眠ってしまって……。あなたは自分の状況にぎょっとした。乗客は皆生気なくうつむき、亡霊のようだ。なにより鬼更木なんて駅、聞いたことがない。乗り過ごしたかと焦ったあなたはaPhoneをとりだした。
”24:36”
 aPhoneにはそう表示されていた。列車に乗ったのはまだ常識的な時間だったはずだ。驚いてGPS連動マップを起動させようとしたが圏外だった。そもそも表示が妙だ。日付をまたいだなら、”00:36”と普通は表示されるだろう。何かがおかしい。立ち去ろうとする少年を呼び止め、あなたは声をもつれさせた。
「いるんですよね、たまに。あなたのような乗客が」
 少年は冷めた瞳であなたを見上げた。
「鬼更木駅で降りて、線路を歩いて帰ってください。さもないと……」
 一拍置いて、少年は低い声を押し出した。
「墓場までご案内することになります」

●鬼更木駅
「再会しないことを祈ってます。お気をつけて」
 少年はそう言って送り出してくれた。けれど、あなたが降りた駅は人気のない山奥の無人駅だった。周囲見回すほどに絶望的、自然しかない。確かに少年から言われたように線路を歩いて帰るしかないようだ。
 空を見ても叢雲に隠されて月は見えず、周囲は真っ暗。星明りにかろうじて反射する線路を見据え、あなたは枕木の上を歩きだした。
 ぶつくさ言いながらどのくらい経っただろうか。歩く先にトンネルが見えた。aPhoneの灯りで探ってみると「井坂」と彫られたプレートがあった。線路はトンネルの中へ続いている。のぞきこむと無明の闇があなたを迎えた。
”27:10”
 aPhoneの灯りですら照らすことができない闇。まるで真夏の夜の空気のように熱と質量をもつかのような。なにかがおかしいと思ったあなたはaPhoneを前方へ向けた。
 一瞬だった。だが認識するには充分だった。ソレは獲物を構え、今か今かとあなたが間合いに入るのを待っていた。
「なぜだ。何故あいつがここに!」
「幻覚ダ! 気をしっかり持テ! 逃げるゾ!」
「逃げるたって、このトンネルを通らないかぎり帰れない」
「aPhoneの灯りト、音で判断しロ! この様子だとトンネル内ハ、というか列車乗った時点で異界に連れ込まれたんだヨ、俺らハ!」
 あなたはaPhoneをかかげ、必死に走った。ライトをマックスにしても至近距離までしか見えない。長引けば電池も切れてしまうだろう。その間にどうにかアレをやり過ごし、トンネルを抜けなければ。
 じょきん! 髪を一房もっていかれた感触がする。
「後ろ?」
「前にもいるゾ」
「増えたか……」
 このトンネルそのものが悪性怪異だとあなたは理解した。ふと気づけば一緒に入った仲間の気配もない。孤立無援だ。ではここで倒れたなら。

 ――再会しないことを祈ってます。お気をつけて。

 あなたはぞっとした。少年はその前に何と言っていた?
 なんとしても逃げきらねば。こんなところで、過去のトラウマに首をはねられるなんてまっぴらだ!

GMコメント

みどりです。赤羽・大地(p3p004151)さんのアフターアクションと立ち絵から派生したシナリオです。ありがとうございました。

さてあなたは仲間と分断され、真っ暗闇の異界に囚われました。各々3分間出口目指して逃げ回りましょう。

やること
1)3分間(18T)逃げ延びて出口へたどり着け
逃亡プレとトラウマの内容について書きましょう。5:5くらいがちょうどいいです。

●エネミー
・宿敵シャドウ
過去のトラウマが具現化したなにか わりとつよい 機動力高め
姿形やステータス・スキルはあなたのトラウマから生成され、3Tごとに増殖します。ちまちま殴ってると時間切れになりますので注意してください。
過去にあったトラウマについてはプレへどうぞ。

●戦場
まっくらもりの闇
暗視無効
発光無効
aPhoneの灯りにより至近扇状の視野は確保されます。あとは音を頼りに動くしかありません。
足元ペナルティなし 戦うだけの十分な広さがあるものとし、出口の方向もわかっているものとします。

  • 再現性東京2010:鬼更木駅完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月08日 22時01分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

武器商人(p3p001107)
闇之雲
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
久夛良木・ウタ(p3p007885)
赤き炎に
アザー・T・S・ドリフト(p3p008499)
聖なるかな?
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し

リプレイ


 ああまったく反吐が出そうだ。この手の敵は苦手だ。相手にしたくもない。
 だが偽物とわかっていれば、偽物とわかっているから。『策士』リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は燃え上がる心のままに手近のシャドウを殴りつけた。鉄板のような感触。殴った手の方が痛い。にやにや笑うその顔面へもう一度拳を。げらげらげら。笑う声、だんだん増えていく。
「……あ、強い、これ無理だな?!」
 そうと決まれば長居は無用。リアナルは自身を強化し、出口へ向けてひた走る。飛んでくるスキルが頬をかすめた。ちりちりと熱いのは紅の痛みか。
 どうってことなんかないんだ。心が騒ぐのは命が危険だから。けしてけして、あなたに出会えた不運と歓びが先走ってるわけじゃない。もう帰ってこないんだ。貴女は。貴女は! 何度も言い聞かせた自分へ。飽き果てるまで脳へ叩き込んだ。三半規管、ぐらぐら。私はどこを目指している? 出口はこっちかそれとも向こうか。足を止めるな。止めたら最後だ。どうしようもない後悔と諦念。腐った海水のようなそれで胸を満たし走り抜ける。また新たな影、目の前、ぶつかりそうになったから急ブレーキかけて、その反動でフェイント。脇をすり抜けて先へ先へ。息が弾む。このトンネルはどこまで続いているんだ。教えてくれ、さもないと……。
 ふしぎだな。恋は、何度でもするんだ。終わったはずの想いにえぐられる心臓。切り刻まれ朽ちていく吐息。この身を引き裂いて、貴女への想いを見せようか?
 囲まれたリアナルは胸を押さえ集中した。面影を、面影で塗りつぶす。
「今の私には新たな戦の師匠がいる」
 決然と言い放ち、過去を相手にリアナルは踊る。貴女を手折ろう。この舞で。あなたの知らないこの舞で。変わったんだ私はそのはずなんだ。桃色だった髪、いまではありのまま。変われたんだ、変われた私は……。冥途の土産に持って行け。そして去りゆけ、私の心から。


 まっかせなさい! たったの3分! ナニココたいしたことねーじゃん。ちゃん秋名にかかればゴールなんてすぐそこ。かつては宇宙すら飛び回ったこの身。よゆーよゆー、泣きそうなくらい。待ってろよセリヌンティウス、走り抜けてやるぜ!
 機敏さなら誰にも負けねー。「戦神ノ刀」の名前は伊達じゃない。集中集中よけいなことは、スパッとバッサリ後ろ髪。周りのオバケたちは、出るなり殴ってこ!
 ねえ、昴。天王寺 昴。轟沈した戦艦と命を共にした私のクラスメイト(せんゆう)。
 よっ、雅。桜ノ宮 雅。避難民を守るため、脱出ポッドの射出まで粘って粘って死んじゃった子。
 櫻じゃん。香里園 櫻。頭なくたってわかるよ。勝てない戦とわかって殿を引き受けたお人よし。
 小時……千里丘 小時。穴だらけだった体、治ったんだね。元気そうじゃん。ちょっとうれしい。
 命令だったもんね。あの時はまだ覚醒もしてなかった。ただテラフォーマーと戦う日々。それでも『戦神』は楽しかったね。
 ああ、御幣島 奏。あなたまで。右も左もわからないままざんげだけを心の支えにしてさ。最後は自分の意思で、最期まで楽しいままで。日曜日、一緒に歩けたらよかったね。寂しくはないよ。全部が大事な思い出だもん、一つも取りこぼしたくないかな。
 トラウマなんてもんじゃないけど、ここに出てきたってことはそうなのかな? だけど容赦はなし。心のどこかが痛かろうが、無視して殴り抜ける。出し惜しみ? あるわけないじゃん。そんなことしたら、散っていったあなたたちへの侮辱になる。そのくらいはね、わかってるんだよ。
 というわけで胸を張りまして、惨殺斬殺一刀両断! そんな恰好で出てくるなんてケンカ売ってるもいいとこ。そんな、私だけ生きている、私だけ戦えるってナヤミが無いわけじゃないのよ? きっとこれからも増えていくだろうけど……大切なものはこの世界にあるんだもの。


 やめ、やめてくださーいっ! 私は皆を絶対に傷つけませんから――!! 私はただ皆を救いたかっただけです。本当です。嘘などついていません。誰か、証明を、照明を。光を発して走って吐いて。追いかけてくるのはなつかしの罵詈雑言。耳にへばりついた脳に刻み込まれた「かみよわれらをあわれみたまえ、かのバケモノにてんばつを」。
 どうして何故ここに皆がいるのですか。どうして何故また私を追いかけるのですか。この柔らかな触腕は、ただ皆のために伸ばしたのです。知っています、チャーリー君、あなたは優しい父です。何故棒持て殴りかかるのですか。知っています、マチルダちゃん、あなたは気のいい女将です。何故焼け火箸片手に金切り声をあげるのですか。知っていますフェルメル君、あなたは、痛い、石を投げないで、知っていますロザンナちゃん、知っています知っています私は皆を知っています。皆も私を知っている! どうしてと問うたなら答えてくれますか。私はバケモノですか。皆にとってバケモノでしたか。伸ばした触腕は無駄でしたか。暗いです。暗いです。追いすがる松明の灯りすら闇を孕んでいます。しぱしぱと光るも暗黒に消えていく無駄なあがき。aPhoneの灯りだけが頼り。『モルフェウス』アザー・T・S・ドリフト(p3p008499)は自身の柔らかな肉を固め、回復を連打しながら出口へとひた走る。あたりは山狩りの様相を呈してきた。聖職者の服を着た老人が怒鳴っている。「神よ我らを憐れみたまえ、かの化け物に天罰を」。
 やめて、やめてください。私の知るすべてを与えました。私の及ぶ力を分けました。私を頼るすべてに応えました。神ではないけれど、がんばりました。皆の笑顔が元気の素でした。逃げなくては私が皆を傷つける前に、走らなくては私が私に課した掟を破る前に。恐怖と恐慌が手を取り合い踊っている。それでも私の力は。私の力は。
「皆を傷つける為にあるんじゃないんですよ……っ」


 みんなどこ? 独りにしないで。独りは嫌。独りは嫌なの。
 だからって君たちとは会いたくなかった!
 aPhoneの灯りを目立たないよう出口に向け『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は息をひそめた。追いかけてくる足音。すえった臭いがする。檻の中の不潔な臭い。首輪をつけられ、鞭で叩かれる。もうあんなの味わいたくない。チェーンソー、どるんと鳴らし、そうこれがぼくの手に入れた『力』。自分の身を護るための力。何もできなかったあの頃のままじゃない。人狼、それはたしかに、ぼくの生い立ちにかかわる枷。生まれ落ちたその時から狂気の渦。大人の人狼は、人を襲う。だから子どもの人狼が人間に見つかったらおしまい。捕まって虐待、それでもましなほう、見世物、ある日逆さ吊り。夜明けの光にぶらんと芋虫。そうなりたくないからなるべくおとなしくして、そうなりたくないから小さくなって従順に。だけどもう我慢できない、降りかかる火の粉は自分で払うよ。ぼくを踏みつけて嘲笑って、ねえ、楽しかった? ぼくは楽しくなかったよ。いつも泣きそうだった。檻の中、ころん、丸い涙流し、このまま何もいいことないまま終わるんだって煤けた天井を見上げた。
 前をふさがれた。一瞬だけ迷って、攻撃。飛び散る血しぶき。一撃離脱。呪いの声はるか遠く。そのはずなのに耳朶を打つ。罵声が背中に張り付いて。足取りを重くするんだ。ぼくのしていることは。人間たちにされたこと。どう違うの?
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
 浮かび上がる亡霊の姿に全身が総毛立つ。元の世界、一緒に捕まっていた兄弟姉妹。運命がぼくらを別った。どうして置いていったの? そんなつもりなかった。独りだけ幸せなの? 違う違う忘れたことなんてない。どうしてリュコスだけが安穏としているの? してないしてない! 傷つけるの僕らを? いいよ、僕らもリュコスを……。
「ごめんなさい……ごめん……なさい……!」


 聞いたのよ確かにトンネルを抜ければ帰れると。なのにどうして、どうして、どうして、どうして?
「みんなどこ!?」
 こだまする声。反響。無明の闇、だけどわかる。何か来る、何かが来ている。ここにいてはいけない。『揺蕩』タイム(p3p007854)は駆けだした。進まなきゃ。義務感だけが背中を押す。後ろからくる足音、ふたつに増えた。みっつに増えた。どうしよう、どうしたらいいの。とにかく逃げるしかないわ。振り向く暇も惜しいから出口の灯りだけ見て全力疾走。何が追ってきてるの、わかんないわかんない、……ひゃっ! 攻撃してくる! 切り取られたスカートの端、制服の袖口、増えていく足音、助けてこわい、こわいの。がむしゃらに走るけれど出口はまだ遠い。まるで遠ざかってるみたい。あはは、嘘でしょう? そうだと言って! 過去のない私には未来もないという事なの?
 ええ、たしかにそもそもわたし、こっちに来る前の記憶は無くしちゃったから、怖い物なんてないはず。大丈夫、大丈夫、自分に言い聞かせて、流れていくのは滝汗? 冷汗? 動機、息切れ、めまいに涙。Don't panic、宇宙の果てで42パズルを解き明かそうかしら。思考は空回り、ちょっと躁気味。ランナーズハイ? いいえ、この状況を飲み込みたくないの。aPhoneの灯りの中、シャドウが見えた瞬間、彼女は悲鳴を上げた。曰く言い難い形状、青ざめた病的な肌の質感、それは辛うじて人間の形を保っている。ぐじゅぐじゅと迫りくる化け物が何なのか、タイムにはわかってしまった。
 あれはわたし。まぎれもなくわたし。何者でもない、何にもなれないかもしれない私。だってわたしが何者か誰も知らないわたしにもわからない。強い信念も願いも何もない空っぽの自分。一皮めくればあれとわたしは同じモノ。いやよ、いや、わたしは、わたしはなんだっけ、そうよイレギュラーズよ! こんなのじゃない、あんなのじゃない、だから大丈夫大丈夫大丈夫なの。大丈夫なんだってば!


『赤き炎に』久夛良木・ウタ(p3p007885)は宿敵シャドウの前に立った。
 思い返す、忘れられない過去。昔も昔も大昔、だけどウタは忘れていない。あの時の悲しみを。あの日の屈辱を。
「……私に何の用なの?」
 少年は答えない、ただ手にした大鋏を鳴らす。
「そう、また同じことを繰り返そうと言うんだね」
 ともだちになってくれなかった子、ウタのともだちをたくさん殺した子。
「なんでこんなところにいるのかなあ」
 言うなりウタは弾けた。ロケットスタートで少年へ近寄り魔力撃。少年は鋏を持ち替え、刃でそれを受ける。ガチン、火花が散った。もう一丁、今度は顔面を狙って至近距離から。少年はウタの腹へ蹴りを入れ距離を取る。鳩尾へ走った痛みに気が遠くなりかけるもウタは気力でそれを抑えさらに攻勢を仕掛ける。
「まさかともだちになりに来たんじゃない……よね? そうだよね。ね」
 少年はわずかな隙に反撃を叩きこんでくる。だがウタの瞳は爛々と輝いている。
「恨み晴らさでおくべきか、いいえここで会ったが百年目。おまえを殺したい。できることなら、ひどく残忍な死をおまえに」
 大ぶりのパンチで牽制、少年が距離を取ったところを狙い、魔砲。それすらもかわされ消耗で動けないウタの背後から、ずぶり。振り向くとまったく同じ顔の少年がウタへ鋏を突き立てていた。
「……あれ? なんかきみ、身体増えてない? もしかして本物じゃないかんじ?」
 あちゃー、やっちゃったやっちゃった、頭に血が昇って、全然気が付かなかった。本物がいるわけないよね! うん! もし本物だったらしばき倒してやろうと思ってたけど、偽物じゃあね。しかもまた増えた。うっとおしいなあもう。やっぱり他の人も襲われてたりするのかな? だったらひとまず合流したほうがいいよね。ここはいったん、退散!
「……ほらほら追いかけっこだよ。きみたちが鬼ね!」
 魔砲をどかん。けらけらと笑い声、響く。


 置いていかれたくないんだよ。おまえ、わかるだろう? 我(アタシ)は相変わらずさ。情に棹差して大河のど真ん中。どこにも行けやしない。
『闇之雲』武器商人(p3p001107)は出口へ向けて地を蹴った。ふわり、体が浮かび宙をすべる。物音ひとつ立てずそのモノは着地した。ロングジャンプで距離を取ったシャドウに視線を向ける。
 シャドウたちは遠巻きに武器商人を睨みつけている。べったりした闇の向こう、白目だけが浮いている。攻めあぐねているようだ。こがねとしろがねの惑星環は、すべての攻撃を無効化する。誰もそのモノに触れられない。誰も、誰一人。
 孤独というものに、いつまでたっても慣れないんだ。ほら今だってやつらでさえ襲ってこない。自分を守るための壁は高く高くもはや我(アタシ)自身すらも手に負えない。だけどね、他に、やり方を知らないんだ。不器用? あァ、そうかもね。大事な物ほど大切にしすぎて壊してしまうのは、もう癖みたいなものだね。あーあ、影なのに、偽物なのに、わかっているのに、期待してしまう。誰か我(アタシ)を捕まえておくれよ。
 金髪の少女よ。啓示を受け国のためと戦うも、人間に裏切られ魔女に落とされ火刑に処された君よ。
 心寄せる喜びを教えてくれた最初のトモダチよ。最後は白い髪と紫の瞳の少女として生を終えた白鯨の君よ。
 聖女よ。仮面の下でもがき苦しんだ君よ、天義の騒乱の末に愛するコの腕の中で安らかに眠った君よ。
 置いていくよ。しばしさよならだ。それがこのトンネルのルールだから。
 出口まであと少し。薄明かりを背に、最期のシャドウが立ちふさがる。破滅の呼び声を投げかけようとしたその手が止まった。
「……紫月」
 あれは幻。ただの怪異。わかっているのに胸がかきむしられる。いつか来るその時を突きつけられた気がして。
「誰の許可を得てその姿を取っている」
 低い声が漏れた。捕まった。捕まってしまった。それでも彼を置いていくことなど、ソレにはできなかったのだ。


 赤羽は言った、アイツは死んダ。
 大地は言った、俺は死んだ。
 首の傷跡が千切れそうなくらい痛む。宿敵シャドウは兎のようなパーカー姿。得物は巨大な鋏、無邪気で狂気な殺人鬼は人の首を刎ねる喜びに顔をゆがませている。背後にまた一つ気配が増える。ゆっくりと狭まる包囲網。毒を流し込まれた生簀も同然。ぷかり腹を見せて浮き上がるだけ。
 大地は言った、逃げ場はない。
 赤羽は言った、諦めるのカ。
 俺は死んだ、確かに死んだ、こいつに殺された。『三船大地』は死亡した。
 助かっタ、九死に一生を得タ、互いを縫い合わせテ。俺達は『双色クリムゾン』赤羽・大地(p3p004151)になった。
 本が読みたい。そう思った。今もそう思ってる。ある種の現実逃避。
 冴えないモブ君。そう思っタ。どういうことだこりャ。とんでもねえ大物食イ。
 俺は死んだ、過去は変えられない変わらない。恐怖が痛みが足を萎えさせる。だけど……。
 アイツは死んダ、今更偽物にビビッて動けなくなるなんテ、ありえねぇんだヨ。だかラ……。
 
 分かってるんだロ、大地。
 分かってるんだよ、赤羽。

 突っ切レ! 暗闇がどうしタ! 走レ、アンタの二本の足デ!
 増えていく足音を尻目に息が切れるまで全力で。吹き飛ばすシャドウ、恐怖はもうない。揺れる髪、裏が赤く染まった、そうだこれが今の『俺』の姿。霊魂よ俺に力を貸せ。躊躇なく叫ぶ「救急如律令!」
 青春。どこで間違った? ヤツに出会った時か、こいつと一つになった時か? それともこの世に呼ばれた時か?
 あほたン、そんなもんはねェ。天秤は揺れル。時間は巻き戻らなイ。もしそれがあるなラ、アンタが決めた時ダ!
 人生。何も間違ってない。すこしばかり数奇な回り道してるだけ。いつか振り返ってああこんなこともあったと笑えればいい。
 賛成。暗闇ったっテ、しょせんトンネル、出口は必ず有ル。置いていけつまらないものハ、掴み取ってみせろ未来ヲ!

 ふいにゴールテープを切った感触がした。
 気が付けば夜空に月が煌々。トンネルの出口で、ばらばらだった仲間たちと再会していた。ぜえぜえと肩で息をしながら、彼は薄く笑った。
 赤羽・大地は確かに、走り切ったのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

武器商人(p3p001107)[重傷]
闇之雲

あとがき

おつかれさまでした!
暗闇からの逃避行はいかがでしたでしょうか。

またのご利用をお待ちしております。

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