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シナリオ詳細

再現性東京2010:ただいまテケテケ逃走中!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●テケテケテケ
  両腕を器用に動かしてアスファルトの上を滑るように駆けるのは、少女だ。
 否、たしかに少女らしき見目ではあるが、実際は下半身を持たずに異常なスピードで走る異形だ。
 テケテケテケテケテケ――かの異形が走ると、そんな音が落ちていく。落ちたそばから、張本人の姿はあっという間に走り去って見えなくなってしまうため、ごくごく普通に歩いていた人には、何が起きたのかわかりやしない。
 裂かれたリュックから中身が転がり落ちたとしても、綺麗にセットした髪型が激しく乱されたとしても、あるいは自販機が激しく揺れて中身が次々と飛び出してきたとしても、いたずらな風に弄ばれただけと解釈するだろう。
「キャーッハハハハ! あはははっ!」
 イタズラを終えた怪異が楽しげに笑い声をあげているのにだって、人々は気付かない。
 それでも怪異は自由をめいっぱい楽しみ、走り回るのだ。
「変なの変なのー! おもしろーい! たのしー!」
 様々なイタズラの痕跡を、そこかしこに残して――。

●繁華街にて
 ゲーセン、ハンバーガーショップにクレープ屋。学生にとっても教師にとっても魅力あふれる場所、それが繁華街。
 君もまた、希望ヶ浜学園での日常に繁華街を回ることを組み込んでいた。何せここには、誘惑が多い。
 だがしかし。突如として君の日常は破られる。一定のリズムで振動するアデプト・フォンによって。
「緊急ッス! テケテケっぽい悪性怪異が目撃されたそッスよ!」
 入電の挨拶――『機心模索』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)の声が、アデプト・フォンから耳を離していても響く。
「聞いた話だと、住宅街を縦横無尽に走り回って、被害が出てるらしいッス!」
 被害、と聞いては君も悠長に徒歩では向かえないだろう。
 チャリでもあれば別だが、とにかく今は足早に人込みを抜けていく。
「数は四体、住宅街でひどいイタズラをして遊び回ってるそうッス!」
 人が多く住まう地でのイタズラ。不穏な単語は、君の表情にも変化をもたらす。
「車とか自販機とかゴミ箱をところ構わずひっくり返したり、大荷物抱えた人から鞄を引ったくって中身バラ撒いたり……」
 迷惑千万。卑劣窮まりない行いだ。
「散歩中のワンコと飼い主の髪をヘンテコにしたり、素敵な靴を履いてる人を転ばせて奪ったり……」
 迷惑千万。いやらしいにも程がある行いだ。
「とにかくすごく速いらしいッス! 追いつくのは難しいかもって話ッスよ!」
 成すべきことは明確だ。ならばあとは、現場へ急行するのみ。
「他の方も住宅街へ向かってるッス! ご協力お願いするッス!」
 アデプト・フォンはそれを最後にぷつんと切れた。

GMコメント

 棟方ろかです。今回は敵のイタズラに乗っちゃいましょう!

●目標
 テケテケをおびき出して討伐する

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 希望ヶ浜のとある住宅街。アパートもありますが殆どは一軒家です。
 車が入れない道もあれば、車がどうにかすれ違える幅の道もあり。
 自宅や庭を利用したケーキ屋や、家族経営のパン屋、児童公園、小さな工場、猫集会が行われる空地や月極駐車場なんかもあります。
 イレギュラーズが現場に到着する頃には、一般人はもう出歩いていません。

●敵
・テケテケ(悪性怪異)×4体
 めっっっっっっっっっちゃくちゃ腕で走るのが速い。
 とにかくイタズラするのが大好きな敵です。
 何かイタズラを誘えば、逃走中のテケテケを発見しやすくなるでしょう。
 かれらは大声で驚かせ、相手をへなへなにさせて足止めするのが好きです。
 阻むものすべてを轢き飛ばして突っ走っていくのも好きです。

 それでは、いってらっしゃいませ!

  • 再現性東京2010:ただいまテケテケ逃走中!完了
  • GM名棟方ろか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月12日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
三上 華(p3p006388)
半人半鬼の神隠し
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
ウロ ウロ(p3p008610)
虚虚実実
小烏 ひばり(p3p008786)
笑顔の配達人

リプレイ

●エクスマリアとウィズィ
 人通りがないはずのそこをゆくのは、三種類の人間だ。
 ひとりは、せいろの塔を肩に乗せ自転車で配達する青年。
 彼の向かいから来るのは、鮮やかなオレンジを紙袋いっぱいに詰めた女性。
 そして両者の合間を縫うように、子どもたちが三段重ねの贅沢アイスクリームを手にはしゃいでいる。
 常軌を逸した光景だ。そして蕎麦タワーは高いだけに、誰の目にもつきやすい。
 そう、少女の姿をしたテケテケの目にも。
 走者は瞬く間に疾駆し、通行人を風と長い手で押してバランスを崩させる。そうすれば後は、けたたましい音と悲鳴とで道端は溢れかえり――振り返れば悪戯の成果があるのだ。しかし今は豪快に鳴り響くであろう音を後ろに置いて、ずらりと並ぶドミノの列へ突っ込む。
「ひゃほーーう!?」
 勢いよくダイブしたテケテケは、なぜか留まることを知らず流されて行った。
 当然だ。ドミノに混ざり鏤められていたビー玉たちの上を、持ち味である速度を乗せて飛び込んだのだから。
 一部始終を見届けた『神話殺しの御伽噺』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)と『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は、互いに拳を突き上げる。
「んごおぉあアぅお!」
 ドミノとビー玉が一緒くたになった道で、テケテケの大音声が響く。
 ゴロゴロと悶え苦しむ少女の姿を目に焼き付けて、エクスマリアはこくりと頷くのみだ。
(わかる)
「いだあぁい!!」
(わかる)
 ウィズィも首肯した。
 手の平や指でガラス玉を思い切り押し込むと、痛い。手で駆ける怪異なら、尚更力が入る。
 そこを逆手に取った作戦が功を奏した。
 ハッとなったテケテケが、今滑ってきた道を頭が取れんばかりの速さで振り返る。ひっくり返った蕎麦も、散乱するオレンジも、服にアイスがべっちょりくっついて泣く子も、そこにはいない。
「なんで!? 全部轢いたのにドコいった!?」
 目が点になった少女へ、エクスマリアが胸を張る。
 なぜならエクスマリアの生んだ通行人は、いずれも幻。二種の幻影を使ったもので。
 そしてウィズィも一緒に長蛇のドミノを立てた。まさに協力技と呼べる。
(道でやるドミノが一番大変だった……)
 思い返すと気力が失われそうだ。獲物が綺麗に引っ掛かってくれたおかげで、努力も実を結んだが。
 テケテケがぷくっと頬を膨らませた。
「ひどーいこのこのこの!!」
「いたた! やめなさい、このこの!」
「痛っ! 何、する、この、このこの!」
 自棄になったテケテケがビー玉を二人へ投げつけ、二人も同じ物で応戦する。暫くビー玉投げが催された後、少女は公園へ逃げ込んだ。
 しかしテケテケは、砂場に築城された城を視界に入れる。まるで芸術作品のような砂の城は、破壊欲を刺激した。だからテケテケは迷わず砂場へ突き進んだ。砂の国のシンボルを破壊した巨人はふと、砂上に横たわるとりもちに気づき、身を捻った。
「そんなの引っ掛からないよーだ!」
 あっかんべをして走り去ろうとしたものの、少女の身体はそこで地へ沈みかける。
 穴の淵に指先が触れたテケテケだが、姿勢を崩すことなく穴から跳び上がり、そして。
「残念でした」
 しかしウィズィの一言が現実を突きつける。自由の奪還も叶わず、少女は網に絡まったのだ。それでも懲りずに網を引きちぎり、エクスマリアへ突撃した。ぶつかってきたテケテケを押しのけているところへ、ウィズィが喉を開いて声を張り上げる。
「さあ、Step on it!! コンビネーションで行くよ親友(あいぼう)!」
「ああ、行くぞ、親友(あいぼう)!」
 勇ましく答えたエクスマリアの、深い青の瞳は老成したように優しい。
「マリアが居る限り、親友は倒れない。親友が居る限り、マリアは負けない」
「よっし、親友となら百人力!」
 当たり前のように隣にいるのだから、当たり前のように力を込めて構えた。
 そうして揃った無限大の強さを糧に、ふたりは悪性怪異をこの場から駆逐する。

●イルミナとゼフィラ
「悪性怪異といってもなんでもアリだな……」
 空地の野良猫を撫で回していた『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)がか細く呟けば、猫たちは意味もわからぬままニィニィと鳴いた。人差し指を向ければ鼻先を擦り付けてくる。慣れ具合からして地域に根差した猫なのだろうかと、ゼフィラは頬を僅かに緩めて。
(こういう子たちも居るんだな)
 練達の、希望ヶ浜の日常を彩るのに欠かせない存在なのだろうかと物思う。
「イタズラって響きは可愛らしいッスけど」
 むうと口を尖らせて『機心模索』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)が話し出す。
「実に迷惑な存在ってやつッス!」
 やや興奮して立ち上がったイルミナに、ゼフィラが人差し指で静寂を促す。
 照れるように頭を引っ込めたイルミナは、空地に聳え立つダンボール山脈を凝視した。
 まもなくテケテケテケキャハハハと押し寄せた音の波は、懸命に建てたその山を破壊するべくなだれ込む。おかげで山々はぐしゃりと捩曲がったが、山びこのように威勢が網となって返り、暴走娘を絡めとる。
「やったッス!! ゼフィラさん!」
「上手くいったね」
 すっくと立ち上がったイルミナとゼフィラは軽くタッチを交わし、いそいそとイルミナが崩落した山へ近寄る。
「これだけ積んであったら、飛び込みたくなるッスよね!」
「ぐぬぬぬ」
 分かりやすい悔しさを声に出して、ひっくり返ったテケテケが呻く。
「古典的なものに弱いだなんて、さっすがテケテケとかいう……あれッス!」
「悪性怪異」
「それッス!」
 さりげなくフォローを入れたゼフィラは直後、網から逃れたテケテケを捉える。
 瞬時に彼女が解き放った無数の見えざる糸が、テケテケの腕へ巻き付いた。
「ま、この街には暫く世話になる予定だし、一つ頑張るとしようか」
「はい! さぁて、捕まえたッスよ!」
 ふふふと不敵さな笑みでテケテケを覗き込んだイルミナは、蒼の軌跡で闇を貫く。
 尚も逃げだそうと踵を、いや手首を返したテケテケだったが、一目散に空地から飛びだそうとして派手にすっ転ぶ。勢いを殺せず、そのまま空地の向かいにあった塀へ激突した少女は、悲鳴も音もなく道路へずり落ちていった。
「悪いが、逃がすつもりは無いよ」
 ふ、と吐息だけでゼフィラが笑う。
「足元には注意しないとな。ん? この場合は手元に注意か?」
 ゼフィラが首を傾いでいると。
 彼女の張り巡らせたロープに引っ掛かった張本人は、塀への華麗なるダイブにも羞恥心を抱かず、二人めがけて突進してきた。ぶつかっては応戦し、声を張り上げられては攻め、二人と一体の空地での攻防は混沌と化す。
 テケテケも自暴自棄になったのか、イタズラされて悔しかったのか、二人への猛攻を繰り返すばかりで。
「ゼフィラさん! 連携させていただきたいッス!」
 やがて声音までキラキラと弾んでイルミナが誘えば、こくりと静かな首肯が届いた。
 独り撃ち続けたテネムラス・トライキェンッスだが、今度はゼフィラのマリオネットダンスと共に。
 こうして、住宅街を恐怖に陥れたらしい怪異を滅し終えた途端。
「にぁ」
「んみー」
 ふと耳朶を打った愛らしい声に、ゼフィラが屈み込み手を伸ばす。
 戦の気配が遠退いて、出てきたのだろう。猫たちは身を擦り付け嬉しそうだ。
「……よかった」
 被害に見舞われなかった猫たちへ囁く彼女の面差しは、とても穏やかなもので。
「ゼフィラさん……やっぱりいいひとッス」
 浮かんだ感想を、イルミナはしみじみと噛み締めた。

●ウロとひばり
 へ~、と『虚虚実実』ウロ ウロ(p3p008610)が築かれた罠を仰ぎ見た。
「本当に障子を用意できちゃうなんてね~ひばりサンの人柄かな~」
 住宅街ゆえ確かに障子は山程あるが、それを借りるのが叶った事実にウロは一驚する。
「はい! たいへん快く応じてくださいましたので」
 そして『想い出渡り鳥』小烏 ひばり(p3p008786)は揚々と答え、身を隠す。
 実際は「障子????」と、何を言っているんだこの子は的な反応をされたのだが、明朗な彼女の雰囲気に、頼まれた民間人が呑まれたと言っても過言ではない。
「この町には良いお方ばかりですね」
 当のひばりも嬉しそうだ。
 その障子と、空地から拝借した三角コーンを組み合わせ、もうひとつロープも加えておいしい罠の出来上がり。
 テケテケテケと微かに聞こえてきたのを頼りに、二人は身を潜めそのときを待った。
 走る音と笑う声はあっという間に迫り、猛スピードで潜む二人の眼前を通過しようとする。
(は、はやい……!)
 ひばりが目を瞠った瞬間、少女を模したテケテケは急ブレーキを掛けて足を、いや腕を止める。
 理由は明らかだ。
「障子????」
 テケテケが こんわく している!
「キャハハハ変なのー! お邪魔しまーす!」
 しかし細かいことなど気にせず、少女は障子を突き破って走りだし、張っていたロープに手を引っ掛ける。
 ズザザザザーッとテケテケの見事な滑り芸により、こすりつけた軌跡がアスファルトに描かれた。黒々とした直線をひばりとウロが目線のみで辿ると、少女は跳ねるように起き上がり、来た道を振り返る。振り向いて漸く、自分の身に何が起きたか理解した。
「なんて惨いことを!」
「イタズラばかりするあなたが言って良い言葉ではありません!」
 姿を現してひばりは宣言する。
 額への摩擦が激しかったらしく、煙の上がった額を突き出したテケテケに。
「さあ! わっちが相手をしますよ!」
 すかさずひばりが名乗りをあげた。キーッとハンカチを噛むような古典的仕種をしたテケテケが、堂々と立つひばりへ突撃する。そこで襲いかかる少女めがけ、物陰からウロが狙いを澄ます。過たず精密射撃は的を綺麗に撃ち抜く。
 罠に感づき警戒のひとつやふたつするかとウロも思っていたが、ひとつふたつの罠にまんまと嵌まってくれた。これはいける、とおかげでウロもひばりも直感する。
「人様の部屋に~入っちゃダメって言われてるでしょ〜」
 障子を突き破るなんて持ってのほか。いけないのだと指摘したウロは、しかし。
「ま〜〜ぁ入りたくなるもんだよね~」
「だよねーキャハハ!」
 言いながらウロが銃口を向けると、テケテケは遊んでもらえるとでも思ったのか、怒りを脱ぎ捨てウロの元へ。だがひばりが間に入ったため、怪異の希望は崩れ去った。
(ウロさんの元へは向かわせません!)
 志しを宿したひばりに押し返され、何するの、と唇を尖らせたテケテケが大音声を響かせる。
 耳も頭も痛む大声を掻き消すように、銃声が響く。
「楽し~のわかるよ~だからボクも軽〜率に~来ちゃった」
 ウロは言い終えるより早く人型という名の獲物を狙い撃ち、高機動テケテケを減退させた。
 機を逸さず、戦乙女の加護を纏ったひばりが、すかさず強烈な一撃を叩きこむ。
 ぐえ、と潰れた蛙のような呻き声を残して、テケテケはアスファルトで干物と化した。
(こんな時じゃなければ、競争をしてみたかったです)
 健脚家として疼く気持ちも覚えつつ、ふうとひばりが息を吐けば、隣へウロが顔を出す。
「ひばりサンありがと~」
「いえ、これもわっちの務めですから」
 少々恥ずかしげに、ひばりが会釈する。
「ところで……」
 神妙な面持ちでウロが口を開くものだから、ひばりもごくりと唾を飲んだ。
「テケテケって名前、ボクに似てない??」
「ウロウロ、テケテケ……あっ、もしやご親戚で……!?」
 彼女があまりにも真面目に言うものだから、ウロは喉ではなく肩で笑った。

●リアと華
 いたずらという音の繋がりを繰り返すもしっくり来なくて、『半人半鬼の神隠し』三上 華(p3p006388)は目線を彷徨わせた。
(そういうものには疎いんだよな……これとか、使えるだろうか)
 徐に取り出したのは、プッシュボタン式のスイッチだ。もちろん押したところで施設は爆発しない只のおもちゃだが、案外いけるかもしれないと華の胸中には妙な確信があった。いそいそと彼が道へ設置していると、周辺で溢れる生活音を聞いていた『壊れる器』リア・クォーツ(p3p004937)が、後ろで少々長めの息をこぼす。
「そう言えばね、華さん」
 ぽつぽつと話し始めたリアの声音は、至って平穏だ。
「あたし、これでも綺麗好きなんですよ」
「これでも?」
 見たままな気もするが、言及せず華は続きを待つ。
「仕事前にお風呂入って汗流して、石鹸で体洗ってきたし」
「そうか、しっかりしているな」
「このブラウスも、アイロンかけたばかりでパリッとしてるし……」
 そう話す割には浮かない顔だ。
 テケテケテケテケ。突如として両人の耳を打った、異様な音。爆走する例の悪性怪異の証だ。
「たーのしー! キャハハハ……はっ!!?」
 ボタンスイッチを発見した少女は弧を描き、スイッチへ飛び込んでいた。いかにも怪しげなスイッチだというのに、微塵も躊躇わず。
(やはり、押したくてうずうずしてくるものなんだな)
 華in段ボールがごそごそと間合いを詰める。ちょっとした潜入スタイルだ。
 そのとき。
「ええええ何も起きなーーい! 不良品だー!」
 テケテケがブーイングを訴える。ぽちっとしてみたはいいが、音が鳴ったのみのおもちゃは少女にとって物足りないようだ。しかし足りていようとなかろうと、足を止めた事実は変わらない。
 段ボールというしがらみを脱ぎ捨てた華が、流麗な双撃で奇襲を仕掛ける。
(自分以外の怪異や都市伝説を見るのは、とても面白いな)
 疼いた念すら飲み込んだ華を、テケテケが耳をつんざく大音声で眩ませる。
 こうした経験ひとつひとつも、華にとっては斬新だ。それに何より。
(人間がどういうものに怯えるのか、学べるのがいい)
 妖怪や怪異からすると、判断の難しいものを感じ取れる。喜ばしい現実に華の目許もゆったりと笑みを刷いて。
 直後、華との対峙に飽きたテケテケが両腕を振り回し、近くにあったごみ箱を吹き飛ばす――よりにもよって、機を窺っていたリアめがけて。凄まじい音と鈍い衝撃がリアへ襲い掛かり、袋にまとめてあった細かな枝葉などのゴミが、彼女の姿を無残なものにさせる。
「キャハハハ!! ひどいカオー!」
 しかも当のテケテケは笑い転げたものだから、リアの拳が震える。
「えぇ。えぇ、そりゃもう綺麗にしてきましたとも。頭の先から爪の先まで」
「キャハハおもしろー!」
「うふふふふふ」
「……リアさん?」
 テケテケとリアの合唱を目の当たりにして、華が後ろで固まる。
 震えた拳から、憤りが全身へ伝播して。
「ぶち殺してやるッッ!」
「キャァァア!」
 甲高い悲鳴をあげたテケテケめがけ、リアは駆ける。眩い星の道を。
「あたしから逃げられるとでもお思いかしら?」
「ヒィ!?」
 悲鳴が轟く中、リアが少女へ掴みかかった。
 そこから取っ組み合いが始まり、突撃されて膝をついたリアに代わって、息を荒げたテケテケの眼前へ華が踏み込む。
「……知らない場所を駆け回りすぎるのも、どうかと思うな」
 揺らいだ青の双眸で顔を覗き込む。
「迷子になっても知らないぞ」
「ぴゃあ!?」
 テケテケの喉から掠れた声が上がる。なぜか恥ずかしげに両腕で顔を覆った少女と、華はしっかり遊んであげた。連ねに連ねた剣魔双撃で。
 静寂が返った道で、立ち上がったリアが衣服や髪について汚れを払い落とす。
「ふぅ、汗掻いちゃったわ」
 手足をぱたぱたと動かす彼女の近く、不意に、マナーモードにしていた華のaPhoneが震える。
「こちら華。そう、とてもわんぱくな子だった。惜しい子を亡くしたな……」
 あと少しだけ、人間の驚き方について知りたかった。
 そんな想いは秘めたまま報告する華に、aPhone越しに皆がいたずらっ子へ手を合わせた。

●皆で
 テケテケテケとけたたましかった騒音は、すっかり消えうせた。代わりにaPhoneの通知音が歌い始め、それらはいつしか一つ所へ集っていく。全員しっかりaPhoneを持ってきたのだ。密な連絡の甲斐もあり、それぞれテケテケをサクサク倒しワイワイと合流を果たせて。
「え〜〜コレ片付けなきゃ〜ダメなの??」
 不満を零したウロに、リアがけろっとした声で答える。
「掃除屋さんがやってくれるはずよ」
「まじ??」
 ウロがぱちりと瞬く。掃除屋といえば『何事もなかった』かのように場を整えるプロだ。
 彼らの公報では、通話を終えたひばりが片手を挙げる。
「片付けの協力、要請完了しました!」
「ひばりさん、さすがだ。連絡が早いな」
 華が感心から二度ほど頷いた。
「……折角ですし少し遊んで帰りたいッスよねぇ」
 そわそわしながらイルミナが呟くと。
「それなら、皆で遊びに行こうか。帰りに駅前寄る人も多いだろうし」
 アデプトフォンで店を調べつつゼフィラが提案すれば、ウィズィとエクスマリアが同時に挙手した。
「賛成です! 戦の後に心を満たす。素晴らしいですね」
「繁華街、行けば……いっぱいお店、ある」
 住宅街のクリーン活動は掃除屋に任せて、学生たちは繁華街へとつま先を向ける。
 大逃走を遂げようとした悪性怪異を一掃したとは思えないほど、この町に馴染んだ背を並べて。

成否

成功

MVP

ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。ご参加いただき、誠にありがとうございました!
 皆様とても楽しそうにテケテケと遊んで下さったので、棟方も楽しかったです。
 あれだけ様々な仕掛けにかかったら、悪性怪異も形無しですね。

 それでは、またどこかでご縁がつながりましたら、宜しくお願いいたします。

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