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シナリオ詳細

Trialogue『A Midsummer』

完了

参加者 : 3 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 夏の盛り、幻想王都の夜。
 表通りが寝静まった夜半も、裏路地は下卑た男の酒焼けした掠れ声と、媚びる女の声が響く。
 その一角、淡い光が漏れる一件の『宿』の、カーテンが閉まった部屋。椅子に腰かけた『足女』沁入 礼拝(p3p005251)は――読みかけの本を閉じ、眉間に寄った皺を指の腹で摘まんでいた。
「……やはり、誘うしかないでしょうね」
 瞼を閉じ、呟く礼拝のその瞼の裏に――にぃ、と浮かぶ三日月に、礼拝は思わず舌を鳴らす。
 忌々しいあの女――オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)。つい先日は『希望ヶ浜学園美術部顧問』に赴任したとか。空に浮かぶ三日月すらあの女を思い出しそうで、今宵はカーテンを閉め切っていたというのに、全くもって最悪だ。
 けれど礼拝が「誘うしかない」と嫌々ながらも決意したのは――ひとえに愛おしく、それでいてどうしようもない男の為だった。


「せっかくの夏ですもの。バカンスいたしませんか? ええ、不本意ながら『三人』で」
 翌日、昼下がりのローレットの一角。
 赤い液体の滴る肉をフォークに刺した『異端審問官』ジョセフ・ハイマン(p3p002258)と、ぐちゃぐちゃとホイップクリーム(恐らく、きっと)をスプーンで掻き混ぜるオラボナの姿を見止め、礼拝は空いた席へと腰を下ろす。
「やあ、礼拝殿じゃないか! いいなあバカンス、是非行こう!」
 急な誘いに二つ返事を返すジョセフの仮面の奥の緑の瞳が輝くことに、礼拝とオラボナが気付かないわけはなく。
(ほら、やっぱり嬉しそう)
 三人で、の節を強くした礼拝の心の内など知るわけはなく――ジョセフは「この夏三人で出かけていなかったものなあ」と肉を口に運んでいる。
「どうでしょう? 貴女の都合が付かないようであれば、ジョセフ様と二人で行って参りますが」
 頬杖を付いた礼拝が、傍らのオラボナへと目線を流す。牽制にも嫌味にもなりやしないことなど解っていたとて――せめてこれくらいの棘、打ち込んでやらねば気が済まない。
「否」
 対して短く発したオラボナは、指へと付いたホイップクリームをねっとりと舐め取る。
「甘い。甘いな」
 Nyahaha、と形容しがたい笑い声が響いて。
「本心を告ぐには早々だと説くべきか。生きて活かされる現状を悦ばねば成らぬ。招待感謝だ」
「そうですか。それは良かった」
「愛するオラボナと、大好きな礼拝殿。大切な二人と、素敵なバカンス!最高の夏だ!」
 ただ一人、男は何も解らず無邪気に喜び――女達が机の下で足を踏み合うことには気付かない。
「では、明日境界図書館で――水着は忘れないでくださいまし」
 男と女と女、三人の夏の一日が平和に終わるのか――今はまだ、誰も知らない。

NMコメント

 リクエストありがとうございます、飯酒盃おさけです。
 夏、無人島、男と女と女。一体何が起きるんでしょうか。

●目標
 朝まで楽しく『三人で』過ごす。

●舞台
 常夏の島。
 青い海と白い砂浜の、バカンスにはうってつけの場所。なんと本日貸し切りです。
 船着き場の近くにコテージが建っており、島の内側は林となっています。
 林の中には小川や小さな滝もあるでしょう。

●コテージ
 船着き場の近くに建っている、木製のログハウス。
・1階
 キッチン&ダイニング:食品・調理器具・ワインセラー完備。料理するもよし、「事前に手配していた」とすればシェフの料理が冷蔵庫に入っています。
 ウッドデッキ:テーブルセットがあります。外で食事も可。
 バスルーム:ジャグジーつき。三人でもギリギリ一緒に入れるでしょう。
・2階
 ベッドルーム:キングサイズ*1室、ツイン*1室。
 倉庫部屋:花火、釣り竿、その他諸々。雑多なものが詰まっています。
 
●できること
 水着を着て海で遊ぶもよし、コテージでごろごろするもよし。
 林の中を散策し、滝壺に飛び込んでみるのもいいでしょう。
 もしかしたら、ほんの少し凶暴な動物もいるかもしれませんね。
 ここに書かれているのは、この島のほんの一部です。
 ありそうなもの、あって欲しいもの、きっとなんでもこの島にはあるでしょう。

●備考
 描写は昼過ぎ~翌朝を予定していますが、皆さんのプレイング次第でリプレイの時間帯は調整します。
 濃密にしたい時間をメインにしますので、お好きな時間帯をどうぞ。

 また、このシナリオの相談はOPの続き、つまり船上を想定しています。
 余裕があれば、シナリオのフックとしてRPを挟んでみるのも楽しいかもしれませんね。

 それでは三人『仲良く』楽しいバカンスを――いってらっしゃいませ。

  • Trialogue『A Midsummer』完了
  • NM名飯酒盃おさけ
  • 種別リクエスト(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年09月15日 22時05分
  • 参加人数3/3人
  • 相談11日
  • 参加費---RC

参加者 : 3 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(3人)

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
ジョセフ・ハイマン(p3p002258)
異端審問官
沁入 礼拝(p3p005251)
足女

リプレイ

●第一幕『素顔』
 頭上から照り付ける太陽は、三人を焦がす。
 じりじりと焦げた音を上げるのは、肌か、それとも左胸の中の『ソレ』か。

「どこまでも拡がる青、陽光に輝く白、萌え生い茂る緑! いやあ素晴らしい場所だな。礼拝殿、招待に感謝する」
 明朝迎えに来ると去っていった船を見送り、大きく伸びをする『異端審問官』ジョセフ・ハイマン(p3p002258)の顔には、平素の鉄仮面は無い。
「ええ、ここなら私達以外誰も居ませんもの。こうしてジョセフ様が仮面を付けず、楽しい一日を過ごしていただければ幸いですわ」
 白いワンピースを靡かせ、『足女』沁入 礼拝(p3p005251)がジョセフへと笑みを返す。
 仮面を外せない臆病なこの大男が、自分の前ではこうしてそのかんばせを晒してくれるのだと思えば、それだけでここへ来た甲斐があるというもので――
「嗚呼、陽の下に無防備に晒され焼かれる私のジョセフ。今日も良き肉であり噛み締めたら甘やかで瑞々しく」
 口を挟んだ恋敵――『ひと』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)が居なければ尚の事よかったけれど、と小さな溜息も漏れる。しかし、ジョセフの休息であり笑顔の為にはこの女が必要なことくらい解っている。
「さあ『三人』で楽しむとしよう。私も『ひと』だ。三人だ」
 オラボナにとっても、忌々しく綺麗な足女が恋敵なことは変わりなく。
 自身を誘った理由は理解できるが故に、あの『グロテスク』な存在をそう都合よく排除できないことも解る。
 何よりも、殺した程度では気が休まらない。
「私は本当に嬉しいよ!」
 女二人に挟まれ、ジョセフは子供のように無邪気に笑う。
「私のたいせつな二人……愛する私のオラボナと、尊敬する礼拝殿と、こうして三人で過ごせるなんて!」
 しかも、とジョセフはうっとりと頬に手を当てて続ける。
「ここでは仮面を被る必要はない。僕はただのジョセフでいられる!」
 ありのままの貌を晒せるのが君たち二人だけなんて、なんとも情けない話だけれど、こうして受け止めて貰えることに喜びを感じてしまうのだと呟いて。
「なんとも自分本位で身勝手だな。ふふふ!」
 けれど、身勝手で臆病なその男が好きで、愛というものは不条理で不合理だと女達は知っているから――
「せめて今日は楽しく過ごそう。だってこんなに素晴らしい日なんだから!」
 その言葉を、努めて明るい声で肯定する。

●第二幕『水葬』
 林に行こう、と言い出したのは誰だったか。
 夏らしい日光も心地好いけれど、木々に覆われた日陰の方が、きっと三人には性に合う。

 水着の上に軽く羽織だけを纏い、さらさらと水の流れる音の方へ足を進める。
 ひとしきり船上で二人の水着を褒め称えたジョセフは、これ以上は冗長で軽くなるだけだと楽しむ事を第一として。その横で、オラボナは上機嫌に、自然は随分と久々だと零す。
「最近は学園の方で人工物に塗れた生活故、超自然以外の緑は悦ばしい――嗚呼。滝。滝壺だ。飛び込めば良き『絵』に成る筈よ。Nyahaha!!!」
 愛する者の前、そして女同士だと恥じらいもく羽織を脱ぎ捨てたオラボナは、鮮やかな赤の水着を愛らしく揺らす。
(なるほど? 一緒に飛び込んで私を一時的にでも振り払おうという腹ですか)
 オラボナからは感じられないはずの目線が、礼拝を挑発し――ならば、と礼拝も麦わら帽を脱ぎ、ずいと前へ踏み出す。
「まぁ、素敵なご提案ですこと。ジョセフ様、一緒に飛び込んでくださいます?」
 生憎とそこで引き下がるほど、甘くもイイ女でもないのだから。
「はは、オラボナも礼拝殿も思い切った楽しみ方をするのだなぁ!
 いや、いや、好きだよ。こういうのは。大好きだ!」
「Nyaha――そうか、では『三人で』」
「ええ『三人で』」
「さあお嬢さん方、手を。一緒に飛び込もうじゃあないか。大丈夫、ちゃんと握っているよ。絶対に離さないから!
 さあ、折角三人で来たんだから!」
 ほら、とジョセフから両の手を差し出された女達はその手を取り――滝壺へと、身を投げる。
 
 ――冷たい。ジョセフは、嗚呼。手を握っている。愛おしい、嗚呼、貴様は『邪魔』だ。
 ――あら、よろしいの? ジョセフ様の前で、こんなにしがみつかれてしまったら口づけでもしてしまいそうだわ。
 ――上等だ。貴様は『ヒト』に過ぎないが私は『究極生命体』だ。息苦しくなるまで、ずっと。
 ――まあ、情熱的。私がどんな風にするか、身をもってご存じでしょう?

 女達はごぼり、ごぼりと泡を吐き――

「――カハッ、全く二人共はしゃぎすぎだな。暴れたら溺れてしまうよ」
 ジョセフの両の脇に抱えられ、水面に顔を出す。
「二人も子供のように遊ぶことがあるんだなぁ、なんだか嬉しいよ!」
 毒気を抜かれ、二人は互いに水着を掴んでいた指を解く。
 礼拝がその指を見れば――力を籠めていたそこは、真白かった。

●第三幕『食欲』
 用意されたコテージ三人が戻ったのは、遠い海の向こうへ陽が沈みかける頃。
 ラグ敷きのダイニングに直で座ったジョセフは、キッチンに立つ二人の様子をクッションを抱え見守っていた。
「ジョセフ様の口に合うものを作れるんですか? 貴女が?」
「――否、口に合うものを作るのではない。私が提供するものがジョセフの口に合うのだ」
「まあ、傲慢な人」
「貴様もだろう?」
「……否定はしませんわ」
 手を止めることも、目を合わせることもない二人の会話はそれでいて滑らかで――同じ男さえ愛さなければ、友となっていたのだろうか。そんなことは、あり得ないのだけれど。
「さぁ、ジョセフ様。事前にシェフに食事を頼んでおいたのですよ」
 チキンの香草焼きに、パエリアに、近海で獲れる魚のマリネに、フルーツに、ケーキ――所狭しと並んだ料理に、ジョセフはどれから食べようかと目を輝かせ。
「馳走だ。とっておきの『心臓』を啜り給え」
 名状し難い――鮮やかで、愛らしい小動物の如き脈動のそれは、オラボナ特製のそれ。
 常人ならば目を背けるそれも、どうやら愛を知った緑の眼には食材に適さずとも美食に見えるようで。
「ご馳走だらけだ、誕生日でもないのにこんなに!」
 いただきます、と食べ進めるジョセフの向かいに並んで座る二人は、互いの目の前にも皿を置く。
 礼拝の前に置かれた空の皿と、オラボナの前に置かれたケーキ。
「喰らえ。私の『眼球』だ――私に目玉など存在しないがな!」
「煩い口にはケーキでも詰め込んでおきましょう――ああジョセフ様、食事はバランスよく、お野菜も食べてくださいね!」
 賑やかで狂気を孕んだ宴は、続く。

●第四幕『女』
 夜更け、他愛もない話をする中、オラボナは「風呂だ」とダイニングから去る。
 料理に続き特製の――真っ黒な甘いホイップクリームの泡風呂には、それなりに時間がかかるようで。
「でもあの泡風呂は快適だから、待つ時間も苦ではないんだ」
 二人で入った時のことを、まるで子が親に話すように報告するジョセフに礼拝は曖昧に相槌を返す。どこの世界に、好いた男が他の女と風呂に入る話を聞きたい女がいるのか――本当にどうしようもない人なのに、どうしようもなく好きなのだから末期だ。
「ジョセフ様、私の我儘を聞いてくださいますか?」
「なんだい礼拝殿、なんでも聞こうじゃないか!」
 そっと膝を叩いて、ジョセフの頭を乗せる。以前のそれとは違う、布越しではなく肌に直接感じる重み。潮風でべたつき額に貼り付いた髪を指で避け、細められた緑の瞳を見つめ――
「またか。嗚呼――先を越された!」
 風呂の準備が終わったとジョセフを呼びに来たオラボナは、かつて見たのと同じ光景に――今度はその身を『布団』としてジョセフに滑らせる。
「眠りの要らない己は寝顔を最後まで観れるだろうよ――Nyahahahaha!!!」
「オラボナ、ほら風呂だろう? 行こう」
 優しく窘めたジョセフに手を引かれ、風呂へと消える二人の背中。
 程無くして聞こえる、浴室で反響する楽しげな声は――膝に残る温もりに免じて、我慢するとしよう。

「いやぁ、疲れたな。けれど、楽しかった!」
 キングベッドの中央に、ぼすんと仰向けで倒れ込むジョセフ。
「えぇ、本当に」
「良いバカンスだ。満足極まりない」
 その両脇へと礼拝、オラボナも寝転がる。
「楽しい時間はあっという間に終わる。もうこんなに日が暮れて……拷問以外でこんなことは……」
 程無くして聞こえるジョセフの寝息は、とても穏やかで――このまま三人で微睡めば、何はともあれ『楽しい一日』の終幕だった。

「……さて、もう少し『お話』しましょうか?」
「『殺し合い』の間違いではないのか」
 ジョセフを挟み、暗闇の中二人の小声の応酬は続く。
「そんな、まさか――貴女じゃあるまいし」
「風呂の話でもしてやろうか。ジョセフは私のもの、私こそはジョセフのものだ!」
 ゆっくりと身体を起こす二人は、そうして――

●終幕『男』
 カーテンの隙間から、うっすらと日が漏れる。
 膝を抱き横向きに眠るジョセフは、ゆっくりと目を開けると身体を起こす。
 既に身支度を始めていた女二人はといえば、その気配に振り向いて、共に夜を明かした証――ジョセフの顎に芽生えた髭にふ、と笑みを零す。
「おはよう、二人共。いい朝だな!」
 緑の瞳――この混沌で二人だけが見られるそれを細めるジョセフは、心底幸せだという顔をしていて。
「おはようございます、ジョセフ様。ふふ、お髭を剃って差し上げましょうか?」
「Nyahaha――良き朝だ、最愛のジョセフ。朝食は私の心臓を挟んだサンドイッチなどどうだ」
 だから、こうして彼に笑顔を向ける二人のその腕に、脚に、胴体に――擦り傷や痣があることに決して気付くことはない。
 女は今日も互いの足を踏みながら笑い、男はただ幸せだと笑う。
 これはただの――『仲良し』な三人の、夏の一幕。

成否

成功

状態異常

なし

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