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シナリオ詳細

再現性東京2010:ランチタイムは学園で

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「学食ですか? ええ、有りますよ。
 何せ幼稚舎から大学までを希望ヶ浜地区に堂々と構える学園ですからね」
 お口に合うかは分かりませんけれど、と音呂木・ひよのはそう言った。
 長い黒髪に切れ長の水色の瞳、すらりとした立ち姿の彼女は現在、カフェ・ローレットでのアルバイト中だ。会う日が違えば巫女装束に身を包み「由緒正しき巫女です」とあっけらかんと言ってくる彼女はその言を信じるなら希望ヶ浜の出身だ。
『機心模索』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)は希望ヶ浜学園に詳しいひよのに是非聞いておきたいことがあるのだとそう言った。
「希望ヶ浜学園のオリエンテーションは終わったッスけど、まだまだ学園のこと知らないんスよね……」
「それで、学食?」
「そうッス。やっぱり、学食とか施設とか――あと、教育カリキュラムとか……?――気になるッスよね」
 と云う事で、ひよのが先程告げた言動に繋がった。
 希望ヶ浜学園は再現性東京<アデプト・トーキョー>希望ヶ浜地区でもその名を冠するほどのマンモス校だ。内部はと言えば悪性怪異<ヨル>に対抗する人材の育成を行っている。
 それ故に、学園は『素養がある者』――つまり怪異を受け入れることが出来る者に対しては万全のバックアップを行っている。学費無料、昼寝はつかねど三食無料、おまけに寮までついてくると言うのだから至れり尽くせりだ。
 ……ちなみに、希望ヶ浜に住んでいる者の中でも『怪異を受け入れられぬ者』は学園には通わず各地に点在する学校に進学するらしい。無ヶ丘高校や花柳女子高等学校等、好んで其方に行く『協力者』も居るようだが――それはさておいて。

「良いですよ、学園案内しましょうか。ああ、明日以降で希望者がいれば数人で回りましょう。
 プランニングは……そうですね、廻。何か良い案はありますか?」
「……学食は行った方が良いんじゃない?」
「そうですね。イルミナさんも興味があるようですし。
 ええ、では。昼休みに集合。学食へ行きましょう。ついでにその辺で1匹くらい夜妖<ヨル>を殴っておけば仕事と言って午後の授業を抜け出せるでしょうし」
「……」
 燈堂 廻の非難するような眸がひよのに向けられたが彼女は気にする素振りもない。
『掃除屋』である彼が後片付けを行わねばならないと呟く言葉にイルミナは「あはは」と肩を竦めた。


 翌日――

 音呂木ひよのは学園の傍にある電信柱に張り付いている変質者の夜妖<ヨル>を倒してから学食へ行きましょうと言った。
 曰く、気に入った女生徒の後をつけ回すだけの夜妖<ヨル>で有るために害はそれ程ないが気持ち悪い……のだそうだ。
「まあ、学園のことはゆっくり知っていただければと思うので……今日は広大な敷地にある学生食堂を数個回りましょうね」
 その前にあの『夜妖<ヨル>』を倒してくださいとひよのは後方で腕組みした儘、そう言った。
 ……どうやら、彼女もストーカー被害には困らされてきたようだった。

GMコメント

 夏あかねです。アフターアクションだ!

●成功条件
 ・夜妖<ヨル>の討伐
 ・学食を楽しみましょう

●夜妖<ヨル>
 電信柱の影に隠れて女生徒(可愛い子)を見守ります。
 その後、一日中2m位離れた場所から只管見守ってきます。直接的に害は及びませんが正直気持ち悪いです。
 簡単に「えいや!」とするとお亡くなりになります。

●学食
 希望ヶ浜学園は幼稚舎から大学までが希望ヶ浜地区に存在するマンモス校です。
 長く歴史のある学舎は地域社会に信頼されています……が、悪性怪異を倒すための学校と知る者は『希望ヶ浜地区』には余り多くありません(学園生や教職員は知っている者も多数います)
 そんな大きな学校なので……勿論学生食堂は沢山。
 学食の食費は『学園の招致生徒』であるイレギュラーズの皆さんの負担はなしで楽しんでいただけます!

 ・高等部第一食堂
 何の変哲もない学生食堂です。一般生徒がよく利用します。
 食券を購入しての注文スタイル。安価で食事が出来る点と食堂のおばちゃんが面白い事が特徴です。
 うどん、ラーメン、チャーハン、日替わり定食、デザートの甘くないプリンの注文が多いようです。(今日の日替わり定食は海老フライです)

 ・カフェレストラン杏望亭
 かっこいい名前がついていますが。希望ヶ浜学園杏望寮に併設されているカフェレストランです。
 生徒ならば誰でも利用可能です。サンドウィッチやパンケーキ、パスタ類を中心に取りそろえています。
 中でもマスター(※寮長)特製ナポリタンが絶品です。

 ・希望ヶ浜ラウンジ
 大学に存在する学食です。アルコール類の提供があることから夜になれば教職員や成人した学生がこっそりと楽しむ場になっているとの噂も。
 ビュッフェスタイルで和洋各種取りそろえて有るために、人気が高いそうです。

 ・カフェ・ローレット
 学食ではありませんが、ご存じローレットの希望ヶ浜支社。受付嬢兼アルバイターの音呂木ひよのがにっこりしています。
 食べ疲れたら此方で休憩してください。ああ、休憩しているともしかすると新しい夜妖<ヨル>の情報が舞い込むかも知れませんね……。

●同行
 音呂木・ひよの(おとろぎ・ひよの)
 希望ヶ浜学園に通う『女子高生』兼『カフェ・ローレットの受付嬢』兼『音呂木神社の巫女』。要素モリモリラノベヒロイン系少女です。
 基本的に慇懃無礼な態度ですが根っこは多分イイコです。多分……。
 ご一緒します。食事もご一緒に楽しめれば嬉しいです。

 お好きな学食(ただ飯)を思う存分楽しんでくださいね。
 それでは、どうぞ宜しくお願いします。

  • 再現性東京2010:ランチタイムは学園で完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月10日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

巡理 リイン(p3p000831)
円環の導手
イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)
叡智の娘
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
天空寺 吹雪(p3p008449)
心はヒーロー
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
小烏 ひばり(p3p008786)
笑顔の配達人

リプレイ


 希望ヶ浜学園――再現性東京の希望ヶ浜地区に存在するマンモス校である。「えへへ」と笑みを浮かべている『機心模索』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)とは対照的に苦悶し続ける『なぐるよ!』巡理 リイン(p3p000831)。その何方もが、今日は希望ヶ浜で一仕事を終えたならば楽しい食事を取る予定なのだ。
 希望ヶ浜学園のことを気に入り、色々と学園内を探検してみているイルミナは「やっぱりひよのさんに聞くのが一番っすね!」とにんまり笑顔である。
(う、うごごご……が、学園……!?)
 その日、巡理・リインは苦闘し苦悶し苦戦していた。知らぬうちに練達の再現性東京に存在していた希望ヶ浜地区。何の気なしに足を踏み入れたら「貴女、ローレットのイレギュラーズでしょう」と「はい」「Yes」「そうです」以外の返事は受け付けるつもりの無い音呂木・ひよのに引き摺られて学園生となっていた。仲間達と一緒に食事をするから貴女もオリエンテーション気分でいらっしゃって、と声を掛けられたまでは良かった。そう! そこまでは良かったのだ!
(ええ……毎日腐れ縁の同居人か、ひとりぼっちでしご飯食べたこと無いよー!?
 こ、これは中間テストよりも試練に近い関門……此の儘では! ぼっち飯になってしまう!?)
 うごごごごごと苦悶するリインに「さくっと食事に行きましょうね」と彼女にとっての天の女神(と書いて、福音と読む)『never miss you』ゼファー(p3p007625)が何気なく声を掛ける。
「しかしまあ、充実の環境過ぎるのも考え物って言うかぁ……」
 ゼファーは頬を掻く。日頃は根無し草で旅をする彼女にとって希望ヶ浜は『充実』の嵐であった。まず特異運命座標に与えられるのは住居だ。学生寮や職員寮と言った住宅の支援は手厚く、特待生として銃牛猟も免除である。更に言えば『これから行くことになる』学食等も全て食費は学園持ちだというのだ。
「まっ、たまにはそんな贅沢も許されるでしょう。今日はとことん甘えちゃうわー!」
「はい! お腹いっぱい食べさせてくれる人は良い人です!
 それに誘ってくださった方は良い人ですってことで、ありがとうございます! 三食昼寝付きでしたらこの学園に住んでしまいたいですね」
 きらりと瞳を輝かせた『想い出渡り鳥』小烏 ひばり(p3p008786)に「それ程でも」と言ったひよの。思わず肘でこつりと小突いたのは『おかわり百杯』笹木 花丸(p3p008689)であった。
「むっ、ドヤ顔はイルミナさんでしたか」
「かもね!? ま、まー! 学費無料、三食無料、おまけに寮までついてくるっ! これは学園に入るっきゃねーっ! って決めた花丸ちゃんだけど、まだまだ学園に関しては知らない事ばっかりなんだよねー」
 頼りにしてるよと微笑んだ花丸は「ひよのさんはお疲れ様かな?」と後方を見遣る。一応は彼女も仕事で夜妖の動向を確認していたそうだ。そう、仕事だから「何ですかお前は」と言って直にぶん殴ることが出来なかったのかもと花丸は気遣ったのだ。
「いや、生理的に受け付けなくて殴るのも嫌だったのかもしれないけども」
「そうですね」
「そ、そうなんだ……」
 淡々と答えるひよのである。口癖は「私は嘘つきですよ」なのだから何処までヶ彼女の本音であるか分からない。もはや夜妖退治のことなど頭からすっぽ抜けている『心はヒーロー』天空寺 吹雪(p3p008449)はぎゅう、とほっぺたを抓る。
 元々は人類の敵である奈落獣を相手に戦争を行っていた世界の出身である吹雪にとって食べ物が沢山在ると言うだけで驚きの連続だ。そして、肉一つをとっても彼女の常識とは大きく違う。保存が効くようにと干した肉ばかりであった事から考えれば学食とは天国か夢だ。
「……まるで夢みたい! 夢じゃないよね?」
 痛いことを確かめた。夢ではなさそうである。その様子にくすりと小さく笑ったのは『妖精譚の記録者』リンディス=クァドラータ(p3p007979)であった。
「違う地で過ごす際に、食事はとても大切なもの。栄養は勿論美味しいものは心の栄養ともいいますしね。
 折角ですし後続の方たちの為にも今回の記録からガイドブックでも作れれば……! 調査へ出かけましょう!」
 記録することに対しての意欲は凄い。わくわくと心を躍らせるリンディスに『銀なる者』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)は「ああ、行こうか」と告げてからふと思い出したように仲間達を振り返る。
「希望ヶ浜学園を知るために。とてもいいことだ。僕たちもこれから色々とお世話になると思う。
 けど、折角学園を回るんだから、セーラー服というやつを着用するのも良くないかい? 制服、というのも世界へ没入する良き『装置』だ」


 まずはお忘れ無く、とリンディスが告げたのは『えいや!』としてしまえばOKだという夜妖であった。
「応援しましょう! ふれっふれっ、がんばれっがんばれっ!」
 今回『えいやっ!』とするのはひばりだという。彼女を応援するリインはひばりが向かう電信柱の裏に確かに何者かの姿が見えた気がした。「小さな……おじさん……?」と呟いた花丸にリンディスは見ない振りをした。
「特に直接悪さするわけでも無い変な夜妖もいるんだねぇ……」
「そうっスね! けど、確かに放置されると――ひよのさんのあの様子を見ると――厳しいようなので、『えいやっ!』を応援するッスよ!」
 イルミナはこんなこともあろうかと応援グッズも用意済みであった。リインとイルミナの二人でペンライトを振りながら応援を続けているその背後でリウィルディアは「しっかりトドメを刺すんだよ」とアドバイス。物騒ではあるが相手は夜妖――きちんと対処しておかなければ後が怖いのだ。
「先ずはオシゴトねえ。どんな相手だったかしら?」
「お伝えしましたよ」
「ああ、午前中の授業殆ど寝てたから全然聞いてなかったわ。ま、遅刻はしなかったから許してちょーだい?」
 ひよのにウィンクをしたゼファーは電信柱の影の小さいおじさんこと夜妖を見て説明されずとも察知した。リンディスはそう、と目を逸らす。何か今、電柱の後ろの小さいおじさんが此方を見て笑った気がした……。
「……見守るだけでは、何にも進みませんよ?」
「へ?」
 もう食べることしか考えていない吹雪が首を傾げるがリンディスは「いえ」と首を振った。見守るだけでは何も進まないが進まれても困る――あの小さなおじさんに!
「ああ……見ているだけというのもなるほど、薄気味が悪いもの……」
「そうねぇ……見ているだけってのもどうにも言えないものがあるわね。
 ひばり、頑張ってえいやっ! してらっしゃい。内角に捩じり込む様に、衝撃を外へ逃さない様に打ち込むのよぉ」
 ゼファーの励ましを受けてひばりは『えいやっ!』した。
「もう!  駄目ですよ。見守るだけじゃ怖がらせるだけです!  ごつんっとしちゃいます。
 同じ事している夜妖さんって他に居ないですよね? ……同じ事している人なら今回は見逃して良いですね!」
「ええー!? 不審者、ダメ、絶対! ……パーンチっ!」
 ひばりのえいやっ! に続いて花丸の『不審者ダメ絶対パンチ』がお見舞いされたのだった……。
「さ、気を取り直して、出発しましょう!」


 高等部第一食堂はと言えば、何の変哲もない学生食堂ではあるがそれ故にオーソドックスな料理を食べられる。あと、食堂のおばちゃんと言えば『大盛り』芸だ。
 一仕事終えた以上がっつりと食事をしたいひばりはそそくさと高等部第一食堂へと向かった。
 ちなみに、花丸にとってはよく利用する食堂だ。イルミナがわくわくと胸高鳴らせ歩むその背中を追いかけるのはリンディス。彼女の目論見はガイドブックの作成だ。
「折角ですから高等部の食堂へ行きましょう! ひよのさんもよく来て……るんスかね? もしかして購買で済ませるタイプだったり!」
「私ですか? そうですね……朝の時間が無ければ購買で済ますことが多いですが、実家も近いので弁当を作ってきます」
 今度作りましょうか、と問いかけるひよのに「本当ッスか!?」とイルミナは問いかけたが――彼女は嘘つきなのでそれ程当てにしないでおこう。
「ここが第一食堂……ですか。一番使うことが多いだろう場所。だからこそリサーチすべきですね」
 ペンを片手にきらりと瞳を輝かせるリンディス。日替わり定食と書かれた看板には「海老フライ」と手書きの文字が躍っている。
「日替わり定食、ですか?」
「おばちゃん、おすすめって何ですか!」
「おばちゃーん! おすすめのご飯と学食のコツを教えてください」
 忙しなくカウンターで動き回る食堂のおばちゃんへと問いかけるイルミナとひばり。おばちゃんは「迷ったときは日替わりだよー! けど、あたしはチャーハンが好きよ!」と叫んでいる。
「じゃあ、次回はチャーハン、今日は日替わりをいただきます!」
「作っておくから食券を持っといでー!」と叫ぶおばちゃんの声にイルミナとリンディスは顔を見合わせた。近くで食券を購入する生徒を見ていたひばりはいざ『えいやっ!』と食券購入を試みる。
「おばちゃん! これお願いします! あとご飯は大盛りでお願いします!」
 がっつり白飯が食べたいと瞳を輝かせれば「イルミナも!」とひばりに続くイルミナ。リンディスはその様子を見ながら日替わりメニューのリサーチをしてきますと生徒達にインタビューを開始した。
「それじゃあ、私は他の食堂の様子を見てきますね」とひよのが席を立てばイルミナは「またあとでー」と手を振った。
 水とおしぼりをテーブルにセッティングしていたひばりに「皆さん、デザートのプリンです」とリンディスは微笑んだ。海老フライの日替わり定食とプリンを――頂きます!


「ビュッフェ? ここにあるの好きなだけ食べていいの? やったー!」
 ぎゅう、とお腹を鳴らした吹雪。希望ヶ浜ラウンジは大学に存在し、リッチなランチを味わえる場所だ。――と、云う事は『戦時下』と比べると夢かと思うレベルの大量の食事が並んでいるわけだ。
「ひよのさーん! さっきの一件は(生理的に嫌悪してたし)お疲れ様! こう言う時こそ美味しいものだよ! デザート食べてこ!」
 手を振った花丸は吹雪に皿を手渡してにんまりと微笑んだ。こう言う機会で無ければ大学に態々足を運ばない。……と言うことで、和洋各種取り揃えた人気の学食を確り堪能なのだ。
「えっとまずはお肉でしょ、お肉でしょ、お肉でしょ。それから……あ! すごい! 生のフルーツだ!これも食べ放題なの!?」
「ええ。……あの、希望ヶ浜ラウンジにいらっしゃればいつでも食べれますから、それ程詰め込まないで良いですよ?」
「えへへ」
 皿の上に唐揚げにローストビーフ、とんかつ、プルコギ……様々な料理をのせる吹雪の目がぐるんとデザート方面に向いた。デザートビュッフェでも楽しむようにミニケーキを皿にのせていたひよのに吹雪は幸せだと頬を緩ませる
「パンも柔らかいし……毎日こんなご飯が食べられたらなぁ」
 食べることは出来るのだ。彼女は今はイレギュラーズで希望ヶ浜からすれば招致した戦闘のプロフェッショナルなのだから。それでも脳裏に過ったのは『わたし』が残していった人たちのことだ。
「吹雪さん?」
「あ、ううん。考え事! 何か飲み物取ってこなくっちゃ!」
 こてりと首を傾いだ花丸にテーブルへと皿を置いた吹雪はそそくさとドリンクバーへと向かっていく。
 罪悪感がある。『わたし』が護った皆は――まだ戦いを続けている気がする。わたしは、こんな所に居ても良いのだろうか。帰りたくても帰れない。だから『元の世界に籠もった』のがこの再現性東京ならば。
 気を取り直して吹雪はパンをかじる。堂々巡り、結局――それは『解決しない』のだ。
「わーっ、わーっ! これ、どれをとってもいい奴なんだよね!?
 どれも美味しそうな分ちょっと悩む……悩むなら食べればいいのでは? 花丸ちゃん、閃いた!」
「お残しはだめですよ」
「うぐっ!」
 手厳しいと叫んだ花丸は一通りは堪能してみせるとやる気満々でいざ、実食!


 カフェレストラン杏望亭は希望ヶ浜学園杏望寮に併設されているカフェレストランだ。寮生以外でも此処の料理が好きと活用する者は多い。キッチンをのぞけるのだろうかと心を躍らせたリウィルディアは「こんにちは」と顔を覗かせた。
 杏望亭に足を踏み入れればその香りだけでも此処が期待できる場所だと実感させる。寮長がマスターを務め、寮母と共に運営するカフェレストランは非常に家庭的だ。
「その、よければキッチンを見せてもらいたいんだけれど。ああ、ええと、その……作ってあげたい人が、いて」
「ですって、いいわよね!? あなた!」
 青春ね、リウィルディアにエプロンを手渡した寮母にマスターも大きく頷く。ナポリタンが人気だと聞いたから見せて欲しいと頼めば快い返事と共に「跳ねて折角の制服が汚れたら困るでしょう!」と気遣いも抜群だ。メモを取ろうとメモ帳とペンを手にしたリウィルディアに分かりやすいようにマスターはゆっくり料理をしていいかとレストランの客へと問いかけている。
「あ、迷惑なら」
「いいや。バッチリウチの味を『食べさせたい奴』にごちそうしてやってくれ」
 にんまりと微笑むその様子を入り口でにまりと眺めて居たゼファー。「誰かに作りたいんですって」と振り向いた彼女の背後にはちまちまと追従するアバター生物のように付き従うリインが立っていた。
 此の儘ではぼっち飯ではー!? と慌てていたが「ご一緒に食事を!」とずずいとお願いすればゼファーは快く了承してくれた。この事に関してリインは「生存権を得た!」と言っていたという。
「お子様ランチ、ありますか……!? 夢いっぱいで美味しくて、死神はみんな好きなんですよー!」
「ふふ。お子様ランチ、寮母さんなら作ってくれそうね」
 くすりと微笑んだゼファーにリインはやったーと眸を煌めかせる。今日は働いてないとかお小言や野暮は今日はなし。とにかくランチを楽しむのだ。
「何人かで食べるのなら、色々頼んでシェアしてしまうのがお得かしら。
 シェア用のパスタは勿論、ピッツァなんかもあったら嬉しいわよねぇ」
「なっなるほどっ。シェアっていう文化、そういうのもあるんだ……!
 お子様ランチもシェアをして、どの料理も楽しく味わっちゃいたいな~!
 考えてる今からドキドキでわくわく……! 本番大丈夫かなっ!?」
 リインがはっとすればシェア位大丈夫よ、とくすくすとゼファーが笑みを零す。リウィルディアが注文したナポリタンとゼファーの頼んだジェノベーゼ。皆で分け合うためのマルゲリータピッツァが並ぶ中「特注よ」と両後場差し出したお子様ランチにリインの眸が煌めいた。
「……っと。ほらほら、リインったら頬についてるわよ」
 拭われた頬にリインが「わあ」と頬を赤らめる。食事って、こんなに難易度高かったっけ!?


 カフェ・ローレットにて落ち合いましょう、とるんるんと進むリイン。勿論迷子はめっなのでゼファーとリウィルディアと一緒だ。
「パフェも食べたいな~……ラテアートもあるのかな? 修行中の喫茶マスター見習いとしては、是非身につけたい技能!」
「練習します?」
「わあ」と突然のひよのの登場にリインがびくりと肩を揺らす。くすりと笑ったリウィルディアは「此処はローレットという雰囲気で落ち着くね」と席へと着いた。
「やっほやっほ、リンディスさん! そっちは高等部だったっけ、何か新規メニューは開拓できた? お勧めとかあるなら今度一緒に食べようよっ!」
 瞳を輝かせた花丸にリンディスは「ええ、私は食堂のおばさま直伝のメニューを聞いてきましたのでその日に是非一緒に行きましょう!」とメモ帳を差し出す。
「えいやっした夜妖さんの報告は終わりました。わっちは何を飲もうかな……」
 メニューとにらめっこ中のひばりに「わたし、まきあーとを試したい」と吹雪が提案した。それならば、甘いからとゼファーが進める言葉にひばりも大きく頷く。
「夜妖の情報ってきてる?」と問うたリウィルディアに「まあ暫くしたら来るでしょう」とひよのが適当な返事を返してくる。
「ラテ・アート。ひよのはできるの? 折角なら、ほら、この子の顔で」
 ゼファーが指し示したのはリイン。きょとりとした彼女の顔を見事にゼファーのカフェ・ラテに施せば周囲から感嘆の息が漏れる。タピオカを手にしていたイルミナは「タピってるのが惜しいっす!」と叫んだ。
「ひよのさん、そういえばそろそろ学園祭だっけ? よければ一緒に回ってみたいんだけど!」
「ええ。是非。ああけれど……花丸さんがお暇だった際に又お声かけ下さいね」
 私ってモテますのでと嘯いたひよのが取り出したのは学園祭のパンフレット。どうやらイレギュラーズも催し物に参加できそうだ。パンケーキとエスプレッソを手ににまにまと笑った花丸の『ラテアートチャレンジ』はちょっぴり微妙ではあったが――
「――そういえば、ひよのさんのおすすめはどんなメニューなのでしょう? 是非、教えていただけますか?」
 リンディスに「廻、なじみ、ウチのお勧めを一つずつ」と振り返った。その情報も確りと掲載しておこう。

●新たに、希望ヶ浜へ来られるローレットの皆様へ
 夜妖との戦いも勿論大切です。
 ですが、それ以上に日常を守ろうとした彼らが作り上げた様々な文化に触れてみてください。
 とても、素敵な出会いが待っているかもしれません。例えば食事。これは、私たちの体験録です――

 aPhone版と書籍版についての案内をカフェ・ローレットに飾ってリンディスは満足げに頷いたのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加有難うございました!!
 お食事ガイドブック良いですね。ローレットにも是非置いて貰いましょう!

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