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シナリオ詳細

<幻想蜂起>悪徳貴族を引きずり下ろせ

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●炭鉱の街アーリー
 40代ほどの男が教会の祭壇の前で、街の人たちを大勢集めていた。
 集められたのは、男ばかりだだったが、皆ただの一般市民であり、戦闘能力は皆無である事が、その身のこなしや雰囲気などで分かる。
「もはや、蜂起するのであれば今しかない!」
 低く良く響く声で男、エイメン・グローリーは演説を行う。
 端整な顔立ちは美男子と言っていいが、その目は硬く閉ざされている。

 エイメンは盲目の神父だった。

 病で視力と、愛する妻と子を失った哀れな男だ。
 性格は極めて穏やかだったが、積もりに積もった貴族への不信感が、彼を蜂起へと駆り立てた。
 街の住民の多くも、エイメンに賛同した。
 ガブリエル・ロウ・バルツァーレクに対して直接不満があるわけではない。
 街の住民も、彼が穏健派である事は理解しており、決してガブリエルに対して悪意はない。
 だが、他の貴族は別なのだ。
 多くの貴族は一般市民を歯牙にもかけはしない。
 高慢で何もしないくせに、偉そうにしている。
 それがこの街の有力貴族に対する印象だ。

「あんな奴がこの街で偉そうな顔をしているのが俺は我慢ならねぇ!」
 一人の若い男が血気盛んにそう叫んだ。
 実際、この街の有力貴族は救いようのない人物だった。

 皆が言うのだ。
 あの男を引きずり下ろすのだ、と。

 冷静に考えれば、それだけでは意味が無い事くらい、聡明なエイメンであれば気付きそうなものなのだが、彼も怒りで我を忘れているのだろう。

 そう、問題はあの男を消せば解決するわけではない。
 改革しなければ意味が無いのだ。

 だが、血気盛んな彼らは、それにまだ気付いていなかった。


●不満
 バルツァーレク領で蜂起が起きたのは先日の事だ。
 幻想国内で積もりに積もった不満が爆発した結果、発生してしまった。
 何故このタイミングで起きたのかは、正直な所不明である。
 だが、総じて見れば、今がそのタイミングだった、と言う事になるのだろう。
 しかしながら、どうやらこの蜂起は一カ所だけでなく、色々な所で起きているらしい。

 計画性は殆どない物が多く、バルツァーレク領の複数の案件もまた、突発的な物だった。
 杜撰な計画ばかりのため、おそらくながらどう頑張っても今の所、貴族に届く牙ではないのだが、貴族たちの怒りは凄まじかった。
 早急な鎮圧を望む貴族が多く存在し、力業でもって彼らを鎮圧するべきだ、と強く主張があった。
 このまま放置していれば、昨今の猟奇事件を超える犠牲者が出るのは明白であり、万が一にでも国中で行われでもすれば、存在すると言われている『魔種』や『原罪の呼び声』に与する事態になりかねない。

 貴族たちの意見は、鎮圧で概ね纏まり、このままでは、といったその状況の中。
 ローレットがその鎮圧に待ったをかけた。

 正確には、レオンが上手く誤魔化した、というのが適切なのだが。
 レオンはこう言った。

 ――幸いに反乱蜂起は比較的小規模、初動状態のものが多い。こういった状況で大規模な軍を派兵等すれば、ヤケクソになった連中は玉砕を選ぶかも知れない。街に立て籠もり、叛乱者でない人間を盾に取る等を始めれば長引きかねない。強引な手法を取れば余計な反感を煽る可能性も極めて高い。御領地の経済圏にも大きな傷が付く。そこで、ローレットの出番だ。我々は幻想各地で『何でも屋』をこなしており、市民レベルでの知名度も十分高い。勿論、貴族様方もうちの能力はよく知ってくれている事と思う。神託やギルド条約を知らない者は少ないから上手く立ち回れば被害を極小に留める事が出来るかも知れない。
 場合によっては寛大なご処置をお願いしたいが、御領地のお話は最終的にはそちらで決めてくれて結構。重要なのはこの初動に軍を動かす事ではなく、最悪訪れる『更に大きな反乱』の為に戦力を温存する事ではないか、と。

 要約すれば今回の反乱封じはローレットがやるから軍派遣は待て、という話だ。
 全てではないものの、主流派の貴族と交渉し結果、同意を得られた、と言うのが一連の流れだ。

 【蛍火】ソルト・ラブクラフト(p3n000022)は、内容を集まったメンバーに掻い摘まんで伝えた。
「ああ、堅苦しい説明は我は好まないのだが、今回の依頼はちょっと厄介だぞ。失敗すれば、最悪国中を揺るがす大惨事になりかねないからな」
 肩をすくめながら、ソルトは遠い目をした。
「レオンの旦那が言っていた。貴族たちにまかせちまえば、被害者が海千山千だってな。クライアントの意向を無視するのは難しいが、ローレットが請け負えば相対的に大量の市民が救われるという話だったのだよ。ま、あとは、だ。例のきな臭ーいサーカス事件の解決にも繋がるかもしれないのだよ。動かない王様を椅子から立ち上がらせるにはな。今回の件でたっぷりと恩を売ってやれ、という話だ。それに、我たちの活躍次第では領地の傷は最小限で済むし、貴族にも軍費がかからない。良い事づくめだろう?ま、そう言うわけだ。やろうぜ?」
 にやり、と笑ったソルトが今回の依頼の詳細の紙を配った。

「今回の中の一見、今から話す件は、説得対象は街の神父だ。詳しくはその紙を見て欲しいのだが、どうも街の有力貴族であるガストンと言う者が諸悪の根源らしい。我もちょっと探ってみたんだが、良い噂を一切聞かないと言うある意味すごい奴だ。普通何か一個くらい褒めるところあるんだがな、政策、性格、容姿すべて、無理だ。びっくりする。……コイツを引きずり下ろした上で何か改革すれば、もしかすると暴動は起こらないかもな。どうもガブリエルの旦那に対しては街の奴は割と好意的らしいし。ガストン調査とか有効かも、な。あ、でもガストンを物理的に脅すのは辞めた方が良いな。殺すのも駄目だ。前者は逆上して何するか分からないし、後者は多分また同じような派閥の奴が出てきて意味が無い。……神父たちは使者の話は普通に話を聞いてくれるらしく、来週の頭に街の外れの教会で話をつける手はずになってる。我も情報収集には協力できるんだが、実際の説得の際は他の仕事で一緒行けないから、我のギフトとかが必要なのであれば事前に言ってくれ」

 頑張ろう、そうソルトは言った。

GMコメント

全体依頼です。
炭鉱の街アーリーが舞台。
今回の任務は、蜂起を説得で何とか穏便な状況に持っていくことが目的ですので、戦闘依頼ではありません。
(自分の身を守る程度であれば構いませんが、一般市民に対する肉体言語説得はやめてあげてください)
(蜂起した市民は全然戦闘向きではありません。居てもちょっと喧嘩が強いかも、くらいです)

●成功条件
皆さんはガブリエルの正式な使者です。
目的は蜂起を避け、相手方代表者との講和に持ち込む事。
※なお、彼らは『ガブリエルに不満があるわけではない』ので聞く耳を持ちます。
やり方は問いませんが、一般市民を力業で脅すというのは趣旨ではありませんし、使者という以上は、ガブリエルの信用を著しく失墜させる上、ローレットに対しても最悪の場合不満が出る場合もありえます。

●貴族について
ガブリエル・ロウ・バルツァーレクは戦いを望んでいません。
場合によっては自身が譲歩しても良いと考えており、貴族派ではないイレギュラーズであれば、相手も話がしやすいかも知れないという希望を持っています。

●代表者
盲目の神父・エイメン・グローリー。
40歳程の男性であり、今は聖職者だが、若い頃に一度結婚しており、息子が居た。
しかしながら、8年前に妻も息子も疫病で死亡している。
また、自身もその際に同じ病で視力を失っている。
蜂起の理由だが、元々貴族に対して不満を持っていた上、妻と子供の死も、本来であれば助かったところを、当時の貴族が特効薬を金がかかるという理由で作らなかった事、そして昨今の貴族に対する積もりに積もった不満があり、蜂起に至りました。
※ガブリエルの指示ではなく、一貴族が勝手にしたので、ガブリエルに非はありませんし、街の人も分かっています。

今回は教会に市民を集め、街の有力貴族に対して何かしらのアクションを起こそうとしています。
しかしながら、まだかなり初期の段階です。
集められた街人は300人ほどいますが、戦闘能力は基本的にないです。
居ても喧嘩がちょっと強いくらいですが、イレギュラーズたちを憎んでいるわけではないので、会話しに行って襲われることはないです。
(意味の無い挑発すれば別です。人間ですから怒ります)


●街の有力貴族
ガストンと呼ばれる太った男です。
42歳です。
色々と問題がありすぎる人物なのですが、貴族なので今まで何とかやってこれました。
街の人の怒りは、こいつが割とメインであり、コイツをなんとかするともしかすると……。
(肉体言語での圧力は事態の悪化となります。暗殺するのもNGです。彼が死んでも、現状の状況を改善できなければまた変な貴族がやってきてただの蟻地獄絵図です)

●ソルトについて
ギフトが必要であればプレイングでお願いします。
例によっておまけ参加です。

●注意
この依頼は説得依頼です。
難易度は普通ですが、説得依頼のみという性質上、説得はしっかりと相談される事をおすすめします。

  • <幻想蜂起>悪徳貴族を引きずり下ろせ完了
  • GM名ましゅまろさん
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年05月09日 21時51分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノイン ウォーカー(p3p000011)
時計塔の住人
アート・パンクアシャシュ(p3p000146)
ストレンジャー
イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)
世界の広さを識る者
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
高千穂 天満(p3p001909)
アマツカミ
ヴィエラ・オルスタンツ(p3p004222)
特異運命座標
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
ティリー=L=サザーランド(p3p005135)
大砲乙女

リプレイ

●ガストンという男
 イレギュラーズたちの手による調査はすぐさま行われた。
 今回の説得の要であろうガストンという男は、調査をすればするほど、どうしようもない人物である事が分かる。
 『商店街リザレクション』イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)は苦い表情でため息をついた。
 目的は決起を防ぐことではあったが、領主の手前、全面的に発起人たちを有利にするわけにはいかないと、そう考えていた。
 領主は何も管理するだけの存在ではない。
 傲慢なのは好ましくはないが、だからといって謙虚でも務まる者ではないのだ。
 彼が行った事は、禁制品の取引でのガストンへの圧力だった。
 実際、ガストンには禁止されている収集癖や奴隷売買などの痕跡があったにはあったのだが、ただ残念ながらそれは何の罪もない配下へと罪を押しつける事で、男は回避してしまった。
 川に毒薬を流せば反逆者を黙らせられる、との言葉にはガストンは目を細め、逆にイシュトカへと署名を迫った。
 ーー共犯となるのであれば、当然だろう、と。
 神父との対談までまだ時間はあり、それまでに相手の素性を調べる事など、貴族からすれば造作もない事、だと。
 つまり逆にガストン側からすれば脅す材料、となってしまう訳だ。
(食えない男だな)
 少なくとも、卑怯な手を思いつくくらいの知能はガストンにはあったらしい。
 だが、この場合、現段階における実物の証拠は絶対ではない。
 今はまだ提案の段階なので、イレギュラーズたちの手による調査には限りがある。
 だから、どんなものにガストンが興味を示すか、それが分かれば、あとはガブリエルに任せればいいのだ。
(ツメは甘い)
 そうほくそ笑み、言葉巧みにイシュトカは会話でガストンから出来うる限りの話を聞き出す。
 自身が優位に立っている、そう誤認しているこの哀れな貴族を転がすのは容易な事だ。
 満足したイシュトカはその場を辞した。

●情報収集
(罪のない民衆が苦しんでいる……貴族としてとても心苦しいわ)
 『特異運命座標』ティリー=L=サザーランド(p3p005135)は端麗な幼顔に不快そうな皺を作りため息を吐いた。
 ガストンは貴族としては下の下も良いところだ。
(同じ貴族として恥ずかしいと同時にとても嘆かわしい)
 民から税を頂き、それに見合った正しい統治を行うことこそが貴族の本分であろうに、それを行えない愚かな男なのだ。
 ティリーと行動を共にするのは、『アマツカミ』高千穂 天満(p3p001909)、『奇跡の体現者』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)の二人だ。
 天満は、教会へでの足止めを希望していたが、会合まで彼らは集まらないし、会合をすっ飛ばして暴動を起こす事はなさそうだったため、情報収集へと協力をしていた。
 ムスティスラーフは、信仰蒐集で人目を惹きつけながら、治療行為を行っている。
 傷ついた少女や老人がその傷を癒やされながら、ムスティスラーフへと感謝の言葉を述べる。
 ガストンについて尋ねると、住民たちははっきりと嫌そうな顔を浮かべてみせる。
「あまり、評判は良くないのかな?」
 旅人を装いながらムスティスラーフが優しく尋ねると、住民は口々に愚痴を言い始める。
 統治の仕方や、住民に対する態度、女子供への圧力など、一般的に考えて非常識な事ばかりだった。
「ふむ。やはり問題のある人物である事は確定であろうな。……困ったものだ」
 天満がため息を吐いた。
「皆さんは、今後どうなっていけば、という希望はあるの?」
 ティリーの言葉に、住民は少し考えた後に、恐る恐る口を開いた。
 彼らの希望は、贅沢では無くて良い、との事だった。
 最低限の教育と、無理のない程度の課税、そして身寄りの無い孤児たちへの炊き出しの許可、などだ。
「炊き出しの許可、か? 炊き出し事態ではなく?」
 訝しげに天満が尋ねると、住民は頷いた。
 話を聞くと、どうやら炊き出し事態は、暮らしが割と豊かな住民たちがかつてはやっていたらしいのだが、その炊き出しをガストンから禁止されていたのだ。
「……思っているよりも、この街の状況は良くないのかも知れないね。自身たちでの支援どころか、住民たちの善意の奉仕活動までも禁止するなんて」
 ムスティスラーフが考え込むように唸りながらも、傷の手当ては続けられている。
 住民の言葉に、ティリーは激しく怒りを感じていた。
「民は奴隷ではないわ。人の心までも、権力で縛ろうとするなど貴族とは言えない!」
 同じ貴族とは思えない、そうティリーは唇を噛んだ。
「世界が変われば道理も違うだろうがな、いやはや問題よ」
 天満の世界とは違う常識はあるだろうが、それでもなお、それは間違っている、そう思う。

●エイメン神父の妻子
 『特異運命座標』ヴィエラ・オルスタンツ(p3p004222)は、エイメン神父と共に、彼の妻子の墓に訪れていた。
 優しい白色の花を墓前へと供え、祈りを捧げるヴィエラにエイメンはゆっくりと頭を垂れた。
「お心遣い感謝します、ヴィエラ殿」
「……いえ、家が没落してから此方に来る事は出来ませんでしたし」
 親しい、と言える程の関係ではなかったものの、言葉を交わす程度には以前から交流のあった二人は、静かに会話をしている。
「お父様も嘆いておられました、自分が武門の出ではなくもっと頭の使う事が出来る人間なら友人を助ける事が出来たと」
「貴族とは言え、すべてが思うままに行くわけではありません」
 ヴィエラの気遣いにエイメンは苦く笑った。
 ヴィエラから、このたびの使者であると告げられた時は、エイメンは少し驚いた。
 まだ幼い少女が、まさか使者として来るとは思わなかったからだ。
 しかしながらローレット在籍であるならば納得だった。

 そんな二人を離れた所から、『時計塔の住人』ノイン ウォーカー(p3p000011)が見守っている。
 さすがに一人だけ、一応は暴動の首謀者であるエイメンと会わせるわけにはいかない、とノインが密かに同行を申し出たのだったが、二人の会話を聞いている限りでは争いにはなりえそうにはなかった。
(ローレットが話をする時間は充分にありそうな方、だ)
 少なくとも、冷静さを欠くほど狂気には陥っているようには見えない事に安堵した。
(しかし、それでも囚われたのですか、強い恐怖や憤りに。こういうのは、俺には関係ないといいたいところだったのですが、命令であらば仕方ありませんね)
 正義感で動くノインではないが、ローレットの指令であれば従うもりだったし、これからもそうだろう。

 穏やかな会話は、その後も続いた様だった。

●ガストンのお屋敷
 『ストレンジャー』アート・パンクアシャシュ(p3p000146)、『サフィールの瞳』リア・クォーツ(p3p004937)、【蛍火】ソルト・ラブクラフト(p3n000022)はガストンの屋敷を訪ねていた。
 アートは事前に別の調査をしており、少し遅れての合流だった。
「ようこそ。慰問とは光栄だな。麗しいお嬢さん」
 慰問訪問、という事だったが、美麗なリアをガストンはお気に召した様だった。
 設置されていたピアノを鮮やかに弾くと、ガストンはご機嫌だ。
 アートとソルトに、ワインを進めてくるくらいに。
 しれっとした顔で受け取る二人も、黙っているわけではない。
 アートがガストンへと質問をする。
 言葉巧みに、自身が調査した内容を示し合わせるように。
 イシュトカからの情報もアートたちには伝わっていた。
 正面突破の脅しがきかないのであれば、盗み出すしかない。
(ふぅ、全く厄介な仕事だよ)
 内心でアートはため息を吐いた。
 子供の依頼ならば無料で喜んで受けるのだが、こういうきな臭い依頼は、やはり乗らないものだ。
「お構いなく」
 ワインをどんどん進められるアートを尻目に、ソルトは室内を詳しく洞察していた。
 ピアノの演奏を終えたリアが帰ってくると、ガストンは諸手をあげて歓迎の意を示す。
「素晴らしい演奏だった」
 リアを褒めるガストンに苦く笑いながら、アートとソルトが席を外した。
 飲み過ぎたので、と言うアートたちに対して不審に思うことはなく、二人は他の部屋と移る。
 証拠の品のためにだ。
 ソルトのギフトで証拠を書き写し、盗める者は盗む。
 それに加えて、地図の作成もあった。
 ガストンがワインを飲んで酔っ払っているというのは、幸運だったのかも知れない。
 それから程なくして戻ったアートたちだったが、戻った先で見たのは酔いつぶれたガストンの姿だった。
「女には弱いみたいね? 御約束だけど」
 そうシニカルに笑ったリアに、アートとソルトは互いに顔を見合わせた。

●アーリーの住民
 丁寧な口調で話す8人のイレギュラーズたちに対して集まった住民たちは敵意を表すことなく、静かに話を聞いていた。
「ガブリエルは武力による解決ではなく対話での解決を望んでいるよ。
蜂起を起こさない事を条件は、これ。一応提案については即答はできないけれど、持ち帰って吟味することは可能だよ」
 ムスティスラーフの言葉に、エイメンが少し悩んだ様子で、ナンバー2へその書面を見せる。
「貴族も全てがガストンみたいなのじゃない。悪い貴族がいればいい貴族もいるんだ」
 信じてみないか? とのムスティスラーフの言葉に、ざわざわと教会内が騒がしくなる。
「神父様、此度の会談。私達は自分の出来る限りの事を尽くす心算です。その上で神父様と街の皆に頷いて貰える様な結果になるよう、努力致します」
 ヴィエラの言葉に、ざわついていた住民たちが顔を見合わせる。
 没落しているとはいえ、貴族の言葉である。
 貴族に対して不信感は完全には拭えなかったが、エイメン神父の妻子の墓に花を供えてくれるような人物が、ガストンたちと同じには思えなかった。
「本当にごめんなさい。あなたたち民衆を苦しめてしまって。こんなになるまで助けて上げられなくて」
 同じく貴族であるティリーも深く、頭を垂れると、戸惑いの表情で住民は見た。
 貴族はいつも高圧的だった。
 領主や管理する立場であるがゆえでもあったのだろう。
 けれど、まだ年若い少女たちにはその高慢さは感じられない。
 たとえそれが、若いが故のものであったとしても、住民たちにとっては目映い存在に見えた。
 ノインがその言葉に続くよう、静かに手を上げる。
 発言して良いか、との言葉にエイメンが、構いません、と答えると、ノインが口を開いた。
「エイメン様の過去を、少々調べさせていただきましたが、貴方の奮起には納得がいく内容だと思いましたし、同情ではありませんが、俺が貴方の立場なら同じことをしたかもしれませんね。大切なものが奪われたのです、怒らない人間なんていません。ただ民衆を己の復讐に巻き込むのはいけない」
 その言葉にエイメンが眉間に皺を寄せた。
 だが、それはノインの言葉に不快感を感じた訳ではない。
 ノインの言葉が正しい、と思ったがゆえだ。
 住民のためと言いながら、実際は自身のためだけではないのだろうか?
 そう思った事があったからだ。
「貴方の娘や妻のように、貴方が巻き込む民衆のなかには誰かの大切な人が混ざっているのですから」
 ノインの横でヴィエラが心配そうにエイメンを見ていた。
「噂レベルの内容については今後、ガブリエルの手の者に引き続き調査してもらうように伝えているから、そちらについてもカバーできると思う」
 アートは、エイメン以外の一般の住民に対して丁寧に説明した。
 ちゃっかりガストンの屋敷への訪問の際に、証拠品になりそうな物を器用に拝借していた事から物理的な証拠はばっちりである。
 協力者であるリアに視線を送ると、リアが肩をすくめた。
「これは決定事項、と言うわけではないが、ガストンが街の有力者としては不適と判断し、排斥の為の材料を集めている、のが現状だ。今、主たちに渡した資料と、余たちが集めた証拠をガブリエルへと伝える」
 天満が淡々と告げると、エイメンが深いため息をつき、椅子から立ち上がった。
「……あなた方の言う通りかも知れない」
 エイメンは後ろを振り向き、集まった住民へと高らかに告げた。
「私は自身の憎悪を理由に皆さんを利用していたのかもしれない。だが、この街が、いやこの街に住む未来の子供たちにとって、暮らしやすい良い街になって欲しいというのは本当なのです」
 失ってしまった自身の子供。
 辛いことも楽しい事もたくさんあったはずの子供の未来。
 同じ境遇の子供を増やしたくはなかった。
 裕福でなくても良いのだ。
 ただ、生きていて欲しかった。
「神父様……! 皆貴方を尊敬しているのです」
 住民の一人が声を上げた。
 神父の苦しみも分かっている、と。
「エイメン神父。きっと、ここに居る皆さんは、貴方のすべてを知っていて、貴方に協力していたんだと思うわ。……正直、私はもっと過激な状況も想定していたのよ? でも、それは杞憂だったわ」
 後ろからティリーがそっと呟いた。
 ガストンを殺したいほど憎み、己の手を血で染め上げても良い、そう思っている人がいると、覚悟はしていた。
 勿論、彼らに決意が足りないわけではない。
 もし神父がガストンの凶行に倒れるような事があれば、住民たちは武器を取り、争い傷つき、死んでいたかも知れない。
(けれど、エイメン神父がいるのであれば、きっとそんな未来は来ないわ)
 神父はその言葉に、天井を仰ぎ見た。
 住民は言う。
 エイメン神父の采配に従う、と。
 この使者たちを信頼してもいいのではないか、と。

 もはや答えは決まっていた。
 もう一度だけ、貴族たちを信じてみよう、と。

 高らかに告げた神父の言葉に、住民たちは賛成し拍手をした。


 その後、集められた情報はガブリエルへと伝わり、迅速な対応が取られた。
 公認の貴族の男はガブリエルが信頼する女性貴族となったらしい。
 まだ年若いが、知性溢れた女貴族の治世はガストンとは比べものにならなかった。
 今まで若いが故に、表舞台に立ったことがなかったのだが、今回の件で血筋や年齢よりも考慮されるべきである事がある、と判断されたが故の采配だった。
 イシュトカが調べた内容は、その後女貴族が正式に調査をし、ガストンの悪事はまた一つ明るみになった。
「伯爵の顔は立てれたかな?」
 そう冗談めかしたイシュトカの言葉に、女貴族は豪快に笑い、気に入った! とイシュトカの肩を叩いていた。
 どうやら癖のある人物が好きらしい女貴族はイシュトカを気に入ったらしい。
「帰ってもいいかい?」
 そう何度も聞くイシュトカをしばらく引き留めていたが、さすがに戻ってこないのはアレだと心配した、説得したメンバーたちが引き取りに来て事なきを得た。

 そして更迭されるガストンの元へ、リアは一人訪れていた。
 Etheric Oの演奏がガストンへと向けられる。
「怒りと嘆き」、「無邪気さと陽気さ」を表すそれぞれの曲を、落胆したガストンへと届ける。
(こいつが作ってきた世界に流れる旋律の醜さを……でも、その中にあっても美しい旋律があるのだと言う事を知ってもらいたい。まぁ、気付いたところで)
「もう遅いけれど」
 調べはガストンへと届いただろうか?
 肩を落とし何も言わないガストンの返事はなく、リアはその演奏を止めた。
「まぁ、追い出されるおっさんの見送りくらいはしてあげるわ?」
 この男に同情するべきところなどないけれど、それくらいはしてやってもいい、とそう思っていた。
 何かの救いがあれば、今後悪さはしにくいから、と。

●最後に
 鉱山の街アーリーの住民たちの心の傷が癒えるよう、せめてその日が出来るだけ早く来るよう、8人は願った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

(`・ω・´)お疲れ様でした!

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