PandoraPartyProject

シナリオ詳細

あなたが死ぬまで数えてあげる

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「よう、英雄サン」
 そう茶化すように声を掛けてきたのは聖都フォン・ルーベルグを拠点として活動する探偵、サントノーレ・パンデピスであった。白髪交じりの黒髪を乱雑に結った男は紫煙を煙らせ、ちょいと手招く。
「ちょっと頼みたいことがあるんだが、いいかね」
 馴染みの酒場まで来て欲しいと彼が人目避けるように移動するのをゆったりと追いかけた。天義の聖騎士を志していたがその道からドロップアウトした彼は色々と『訳知り』だ。今回も何かキナ臭い事をキャッチしたのかも知れない――あのベアトリーチェ・ラ・レーテの一件では『黒衣の占い師』の尻尾を掴むのに一役買ったのだからこうも息を潜めて動かなくとも、と言う声も有るが彼自身これが性分だ。
「さ、1杯は奢ろう。仕事の前払いって事でな」
 自身は琥珀色のウイスキーをロックグラスに注ぎ「子供にゃジュースだぜ」と揶揄う声音を振らせるサントノーレは上機嫌だ。
「いや、ツイてる。丁度、どうしたモンかと思ってたんだ。
 クソ聖職者の尻尾を掴んだはいいが、俺も目立っちまってね。表だっては動けやしない」
 その物言いの時点で以前の天義なら断罪モノだ。
 ベアトリーチェ・ラ・レーテの一件で目立ちすぎたという彼が今回その尻尾を掴んだというのはとある村の修道女の噂であった。
 修道女ブリジッダは毎月一度礼拝の日を定めているらしい。村の敬虔なる神の徒はその日にお祈りに向かうことが通例だ。だが――ここ最近はお祈りに行ったはずの娘達が数人姿を消しているという。
 年若い少女を中心に姿を消す。これはどうしたモノかと聖騎士団へ――詰まるところ、リンツァトルテ・コンフィズリー始めとする騎士団員に依頼が言ったわけだが彼らの調査ではにこりと微笑む美しい修道女との出会いしか得られなかったわけだ。
「そこで俺ですよ」とサントノーレはふふんと鼻を鳴らした。自慢げな彼は騎士団より調査を引き継ぎ、助手の少女と共に修道女ブリジッダの身辺を調査したという。
 助手の少女については機会があれば紹介する――との事だが。

「ありゃサイコキラーだな。白か黒かなら黒だ。紛れもない」

 ――彼が言うのだから、そうなのだろう……。


 修道女ブリジッダは敬虔なる神の徒だ。司祭ダミアーノがこの世を去ってからも一人で教会を切り盛りしてきた。長い栗毛にそばかすの素朴な娘であった。素朴ながらも美しいその娘は日々お祈りを捧げて人々を導いてきたらしい。
 だが――彼女はある日目覚めてしまった。
 けがをした一人の少女が泣きながら教会に訪れたらしい。まだ10にも満たぬ子供であった。
 擦りむいた膝から流れる血にどうしようもなく魅せられた。脂汗が滲み、唾液が咥内を満たし続けた。上質なるワインが其処には存在するような気さえしてブリジッダは「ああ」と唸った。
 それ以来、彼女の許に向かった少女は帰ってこない。

 お祈りの日、サントノーレと共にイレギュラーズは修道女ブリジッダの教会へと向かった。長い栗毛にそばかすの素朴な娘は「ご機嫌よう」と微笑んだ。
「ブリジッダ、残念だがお祈りの日にはならないぜ。何人殺した?」
「……存じ上げませんが」
「馬鹿だな、お前は。お祈りの日に決まって女子供が居なくなりゃ疑いの目も向くだろうが。
 で、何人だ? クソ聖職者らしく神様に懺悔してみろよ」
 吐き捨てるサントノーレの言葉にブリジッダはうふふ、と笑った。まるで悪魔でも憑いているかのように――目を見開き頭を抱えた後、只、静かに。まるで導くような声音で彼女は一言だけ言った。

「――あなたが死ぬまで数えてあげる」

GMコメント

夏あかねです。サントノーレと一緒。

●成功条件
 修道女ブリジッダの捕縛

●修道女ブリジッダ
 天義のある村で協会を一人で切り盛りする素朴な娘。
 血、肉等人間を構成する物質に『魅せられ』て力の弱い者を徐々に甚振る事を好みます。それ故にか、悪いモノに取憑かれたようです。
 攻撃方法は物理攻撃。鉈や果物ナイフなどの獲物を振りかざし徹底的に切り刻みます。
 捕縛のために不殺等を必要とします(ない場合はタイミングを指示すればサントノーレがお手伝いします)

●悪魔(?) *10
 ブリジッダの周りに浮遊する存在。悪魔と便宜上称しますが、モンスターの類いです。
 精霊にも似た希薄な存在がブリジッダの『残虐性』に感化されて暴走しました。
 神秘攻撃が中心。ブレイク所持。とにかく暴れ回るのが特徴です。 

●教会
 決して広いわけではありませんがこじんまりとした素朴な教会です。
 ブリジッダは決まって神の前で子供を甚振っていたようで、此処が現場です。
 尚、甚振り殺された子供達は丁重に弔われ教会の裏へと埋められているようです。

●同行NPC:サントノーレ・パンデピス
 情報収集及び撤退路等々の確保要因。自分の身くらいは自分で守れます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • あなたが死ぬまで数えてあげる完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月06日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
メルトリリス(p3p007295)
神殺しの聖女
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣

リプレイ


 酒場にてサントノーレ・パンデピスが特異運命座標にバーで語ったのは『敬虔なる神の徒』たる一人の娘の話であった。流石は神の膝元か――聖騎士に罪人を捕縛しその心身への対応は任せようと告げた探偵に『特異運命座標』ヴェルグリーズ(p3p008566)は頷いた。
「あと、行方不明になった娘達の行方は突き止めておきたいところかな。きっとずっと待っている家族もいるだろうから」
 その言葉に首を振って。唇を噛んだ『星域の観測者』小金井・正純(p3p008000)は『娘達の亡骸』さえ待ち人の許に戻らぬのかと苦しさのみが喉奥より湧き上がる。
「ああ……貴女がサントノーレ・パンデピスさま、ですね。
 姉がお世話になったようで。……できればそのときのお話も是非――と思うけれど、まずはやることやってから、ですね!」
 姉と告げたその言葉にサントノーレは『戦花』メルトリリス(p3p007295)をまじまじと見遣る。その桃色の髪に凜とした立ち姿。サントノーレの脳裏に過ったのは『あの災厄』に飲まれていった聖女の姿であった。「ああ」と小さく呟いてから彼は肩を竦める。
「妹ちゃんがいたのか。まあ、思い出話するってんなら後で一杯位は奢るさ」
「ふふ。有り難く」
 人懐っこい笑みを浮かべたメルトリリス。その笑顔を見るとどこか心がざわめくような気がしてサントノーレは肩を竦めた。
「サントノーレ。情報を有難う。……そうか、修道女ブリジッダ。神に仕えるべき存在が、か」
『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は憂うように目を伏せた。話を聞くに修道女ブリジッダは心に巣喰った悪魔にその欲望を肥大化させたのかも知れない。
「生まれ持った本能か、それとも後発的なものであったか……」
「本能。素質があっただけ、なのか。其れとも、抑え込まれていた願望であったのか。
 ……どちらにせよ、禁忌を、知ってはならぬ味を知った以上、彼女はもう――」
 首を振る。切なげに眉を寄せた『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)。情報を聞けば聞くほどに『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)の胸は痛む。
「なんで……」
 どうして、と問いかけようとも――屹度、リュコスやリゲルが求める言葉は返ってこないのだ。
「殴っても心を痛めなくて良いって、素晴らしいことですね!」
 ポジティブにそう言ったのは『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)。悪意のある存在に対して因果応報と断じて対処に応じれると言うのが一番だ。しかし、瑠璃のように割り切れる者ばかりでないのが実情だ。
「趣味や嗜好は人それぞれだろうが……他の人に迷惑や害を及ぼすようなものを放っておくわけには行かない。捕えて二度と同じ事件が起きないようにしよう」
 静かに、そう言った『ハニーゴールドの温もり』ポテト=アークライト(p3p000294)。サントノーレが奢った『一杯』を喉まで流し込んでからゆっくりと立ち上がる。埃被ったカウンターにサントノーレが適当な金貨を投げる様子を横目で見てから彼女は愛しい人の名を呼んだ。
「行こうリゲル。この事件を終わらせるんだ」
 ――向かうは、修道女ブリジッダが悪魔と共に踊った教会であった。


 お祈りの日――瑠璃はぱちり、と瞬いた。長い栗毛にそばかすの素朴な娘がにんまりと微笑んでいた。まるで特異運命座標のことを「祈りに来た敬虔なる徒」であるかのように、何も知らぬような顔をして迎え入れてくれたのだ。

「――あなたが死ぬまで数えてあげる」

 ぞう、と周囲から姿を現したのは黒き獣であった。逆立つ毛が凶暴性を顕わすように、ブリジッダを護るようにぐるりと取り囲んでいる。その姿を見たときヴェルグリーズの脳裏に過ったのは『悪魔』という言葉であった。
(……この周囲には行方不明となった娘達は居ないか。流石に修道女の『皮を被っている』だけあって身辺は出来る限りクリーンにしてあるのか?)
 悪魔、と唇から漏れたその音に満足そうにブリジッダは周辺に浮遊する獣を撫で付ける。
「聞きましたか? 貴方達は悪魔だそうです。ふふ……嬉しいでしょう?」
 何が嬉しいんだと呻いたサントノーレを護るようにメルトリリスは一歩踏み出す。その手には騎士の剣を、その拳は罪を裁くが為に固く握りしめられる。神聖な力を秘めた外套を『貼りつけて』メルトリリスは堂々と声を張った。
「天義が騎士見習いメルトリリス! ――ブリジッタ、言い逃れはもう出来ないからね!!」
 びしり、と切っ先がブリジッダを指し示せばころころと女は笑った。聖騎士の前では純朴な修道女出会ったという彼女は見る影も無くしている。メルトリリスは後方を見遣る、大前提としてサントノーレを護ると決めていた彼女は、サントノーレ自身の意思はさておき姉(ロストレイン)に優しく接してくれたという過去を無視することは出来なかった。
「サントノーレ、下がっていてくれ」
「はいよ。俺が前にいりゃ『メルトちゃん』も大変だろうしな」
 ウィンク一つ、軽薄な笑いを浮かべるサントノーレに「余裕だな」とポテトは笑う。教会を保護するように結界を張り巡らせたポテトは戦いへと駆り立てる守護の魔術をアッシュへと施す。
「頼む」 
 呟かれた言葉にアッシュは頷いた。周辺に悪魔を漂わせる修道女。その『反逆』は由緒正しき天義の貴族たるリゲルには耐えられぬ。闇にその心を明け渡すと言うならば――光で引き上げてみせると全身をきらりと輝かせる。
 その目映さに後方から「うお」とサントノーレの声が聞こえたがリゲルは気にすることは無い。「行くぞ」――と、その手を伸ばす。
 放つは炎星-炎舞。狙い定め、火球は嵐が如く降り続ける。悪魔へと挑発するような淡い光を纏いリゲルがその身を投じると同時、その手には美しき銀の一振り。ささやかで決して叶うことの無き夢をその身に纏いアッシュはブリジッダの前へと滑り込んだ。
「ふふ、殺して欲しいのは貴女?」
「……どうせ、元より疵だらけなのですから、今更、疵付くことを恐れる理由もないのです」
 それでも、黙って殺されやしないという気概は少女の小さな肢体に詰まっている。疵だらけのその身を憂う唇が蛇を産み出しブリジッダへと放つ。
 椅子の影に隠して居たのであろう鉈が蛇の頭を平気で落とすその様子に正純は首を振った。
(どちらにせよ、彼女はもう正道には戻れないでしょう。
 ……信仰の形は否定しません。しませんが、これは信仰などではない。神への祈りを言い訳にした悪逆に他ならないのだから)
 リゲルの許へと集う悪魔達へと向けて月女神の加護を強く受けた弓を爪弾けば、鮮やかな月光が悪魔へ向けて降り注ぐ。それは、鏃の雨――酷く降り注ぐ驟雨の中でリュコスは「ねえ」と唇を震わせた。
「なんでそんなにひどいことができるの……?」
 悪魔を切り裂くチェーンソー。髪さえも殺してみせると殺傷力に優れた執拗な一撃はただ、その黒き体に疵を刻みつける。リュコスの言葉にブリジッダは反応したように顔を上げる。
「なんで?」
「……ころされた人たちはきっと痛くてつらい思いをしてた。
 小さな子が多かったってことはいっぱい泣いたりしたんだと思う……それなのに……」
 恐ろしい事だと口にする度にリュコスの唇は戦慄いた。平和を愛することは刃を持たぬ訳では無い。彼女が悪魔を傷つけようともブリジッダは其れを非難することは無いのだ。
「もともと、そうだったの? それとも、悪魔たちみたいな悪いものにとりつかれたから、こんなひどいことしてるの……?」
 リュコスの疑問に、屹度彼女は『元の性質から変化していないのだろう』と正純は目を伏せた。ブリジッダという娘は修道女でありながら、その心の中にそうした衝動を秘めていたのだろう。ストッパーとなっていた司祭ダミアーノが去ってから『彼女を止める存在が消え去った』。
 迫り来る悪魔を一刀両断しヴェルグリーズは教会の扉へと視線を向ける。踏み締めた刃が悪魔を分断したその様子にブリジッダが笑った声が響く。
「――わかってる。とくに理由がなくたってこんなことをできる人がいるんだって。
 でも……ね、もしかしたら……なんて思うんだ。ブリジッダはどう思ってるの……?」
 リュコスの問いかけに――ブリジッダは「楽しいですよ」とうっとりとしたように微笑んだ。


 修道女ブリジッダをただ一人で抑えることとなったアッシュは自身より流れる血を止めることはしなかった。滴る血潮を拭うこともしないのはブリジッダ好みの『レディ』となって見せるため。
「……ダンスの相手にしては、些か拙いでしょうが。暫く、お付き合いいただきますよ」
「いいえ、とっても『素敵です』よ」
 鉈が大きく振り上げられる。毒が回ったブリジッダへと暗き闇を放ちながらアッシュは会いたいし続ける。こうしてブリジッダとのダンスを続けていれば仲間達が悪魔を倒し、その闇を払うが如く光明を与えてくれるのだ。輝く光は聖なる哉、踊るアッシュは新たに刻まれた疵に等構うこと無く彼女を見た。そばかすに長い栗毛、素朴などこにでも居そうな純朴な女――彼女を視線で追いかける正純は悪魔達の数が減りつつあることに気付いていた。
(所詮は悪魔と言ってもモンスターがその名を借りただけの紛い物ですね……!)
 誰も倒れさせぬようにと癒やしを送るポテトは自身の役割を十全に果たすために指揮棒を振るう。無敵の進軍を約束させるように、そして褪せず錆び付かぬ心を動かすように願いを護る盾を手に彼女は「アッシュ」と名を呼んだ。
「私が支える。だから、大丈夫だ」
 小さく頷いて、アッシュはブリジッダの鉈を受け止める。するりと悪魔の傍を抜けた瑠璃の唇が釣り上がる。ブリジッダを横目で見ながらも、彼女の動きを確認し続けていた瑠璃は水月の魔眼で修道女を睨め付ける。神秘の増幅が瑠璃のその身を巡り、魔的な勘が冴え渡る。
「本来から貴女が『そう』なのであれば、有り難いことですね。
 思う存分に殴りつけることが出来る。人命を害したことを呪うような人ならば、目覚めが悪いではありませんか」
 戦死した者からの情報収集を主としていた乙女は、因果から解き放たれても戦場に身を置くこととなった。然し、心痛まぬ相手ならば思う存分に戦える。
「遺言なら、後でいくらでも聞いてあげるわ」
「まあ。私が倒れるのと貴方方が死ぬのと何方が早いでしょうね」
 おっとりとしたその口調にメルトリリスは唇をぎり、と噛んだ。悪魔へと放った最大級の魔力。
 聖騎士と聖女を輩出するロストレイン家の娘はブリジッダのその言葉に目の前も眩むような衝撃を覚えていた。
「禁欲的に生活するはずの修道女がなんてことを……。
 信仰を守る立場でもあるのに、血ごときに道を間違えたのか――悪魔もいるし本当に本人の意思のみで道を間違えただけなのだろうか?」
「ええ、『私は本当に自分で間違えたのです』。メルトリリスと仰いましたか?
 ……禁欲的に生活すれば抑え込んだ欲望は肥大化するでしょう。貴女も天義の騎士だというならば」
 メルトリリスは首を振る。天義の騎士であろうとも――『欲を捨て神に仕えなければならなく』とも。人を愛することを許せども、人を害することを神は是としないことを彼女は知っている。
「……それならば相当な爆弾を抱えて生きてきたようね。
 罪ありきとして異端審問に処される今、それを問うことさえ不毛かもしれないけれど! ブリジッタ、なぜ、なぜこんな!」
「好ましいから、それ以外にありますか?」
 悍ましい、眸が其処にはあった。瑠璃は『遺言』を読み取らんと考えた。嗚呼、それでも『何処にあるのか』が分からぬ現状は聞くことも出来ないか。
「ブリジッダさん。一つ分かることがあるので申し上げても?」
「ええ」
 ――読み取らなくても彼女の言葉を、そしてこれまでのことを考えれば瑠璃は全てを知っていると目を細めた。メルトリリスの魔砲が全てを蹴散らし、その向こう側に飛び込むようにリゲルが剣を振り上げる。
 その一撃を支援するように魔力を纏った瑠璃の眸がすう、と細められた。
「どこで子供たちに切りつけたか、子供たちはどんな顔をしていたか。
 どのタイミングで絶望したか……ああ、けれど、ブリジッタさんは子供よりも、その材料にご執心なのでしたね」
 ブリジッダは笑った。最早自身を守るべき悪魔は存在していないというのに。アッシュに「頑張ったな」と声かけたポテトが癒やし支援を送れば、彼女はゆるりと頷いた。
「屹度、此処に救いなんてものは無いのでしょう
 貴女の為に、人が死に過ぎました……だからせめて。今日でお仕舞にしましょう?」
「終いになどする物ですか! ああ、もう少し『斬』らせて頂いても?」
 うっとりと。少しずつ甚振って、傷つき絶命するまでの時間を数えるようにブリジッダの懐から見えた懐中時計の針が動き続ける。「他の子供より長いですね」と微笑んだその笑みにアッシュの背にぞわりとした気配が走る。
「アッシュは倒れさせない」
 ポテトの言葉に頷いたリゲルはブリジッダと彼女の名を呼んだ。狂っているような素振り、しかし昼と夜ではその姿は大きく違うとでも言う様に欲に濡れぬ彼女は丁重に子供を弔い、神に仕えているのだ。
「子供達を丁重に弔ったのは何故だ?
 自らの本能と、君が宿している敬虔な心との葛藤に苦しんでいるんじゃないのか?」
 鉈が振り上げられる。アッシュと入れ替わるようにブリジッダの前へと飛び込んだリゲルは叫ぶ心優しき天義の騎士は彼女にだって手を伸ばす。幾らだって切りつけられても良いと。
「1人では本能に抗えないかもしれない。だが周囲の力を借りれば、きっと克服できる
 心の中の悪魔と戦うんだ! 俺も出来る限り協力する!」
「お優しいことですわね。けれど、もう無理でしょう」
 首を振ったブリジッダにリゲルは唇を噛んだ。ブリジッダに免罪符を手渡そうとも――彼女はきっと『大罪人』の烙印を張られるのかも知れない。
 その命を絶たぬように――正純は気を配り続ける。リュコスとヴェルグリーズが重ねた攻撃は、ただ、『命を奪わぬような優しい』気配を孕んでいる。この場の誰もが、この修道女を捕縛するために立っているのだ。だからこそ、女は自身が報復で殺されぬ事に驚愕した。
「――殺さないのですか」
 鉈が、音を立てて落ちた。そこに立っていたのは狂気に濡れ悪魔と共に子らを甚振る女では無い。ただの一人の、どこにでも居る純朴な修道女だった。


「ブリジッダ……これ以上お前の犠牲者は増やさせはしない。
 然るべき場所で、然るべき罰を受けてくれ。サントノーレ、ブリジッダを頼んだ」
 ポテトの言葉に、ちらりとリゲルを見たサントノーレは頭を掻く。もしも、ブリジッダという女が本能に負けないのであればその罪を軽くし更生をと願わずには居られなかった。
「……神よ、どうか――」
 救いの慈愛を、と。唇にしたその言葉に瑠璃は「本当に、度し難い」と溜息を吐き出した。
「このあと……ブリジッダはどうなるんだろう?」
 リュコスの問いに正しく答えることは出来ない。全ては異端審問によって決定されるのだから。
「後は天義の異端審問に任せるしか無いのね。サントノーレ様、宜しくお願いします。
 嘆きの谷の血錆になるのだろうか、更生は、出来ないのかな……」
 メルトリリスもリゲルと同じ。どれ程までに魔に魅入られていようともその命を無碍に谷へと投げる必要は無いと考えていた。
「狂わされたのでしょうか」
 アッシュはぐるりと縄に掛かったブリジッダの様子を見詰めた。
「其れとも、憑りつかれたのは切っ掛けに過ぎなかったのか。
 どちらにせよ。もう、誰も帰っては来ないのですね……」
 この教会の主はいなくなるのだろう。ヴェルグリーズはブリジッダの被害者が生きていて呉れることを切に願っていた。しかし、サントノーレがどこか困ったように首を振るそれに目を見開いた。
「あ、サントノーレさま。クソ聖職者って。汚い言葉は、めっ、です!」
 メルトリリスが告げた言葉にサントノーレは目を丸くする。凜とした騎士装束の娘が見せた愛らしい側面にふ、と小さく笑みを漏らした。
「んじゃ、ゴミ聖職者だ」
「そ、それも、めっ!」
 注意するメルトリリスの肩をぽん、と叩く。「姉さんのことは、俺も守れなくて済まん」とその横顔に囁いて――サントノーレはブリジッダと共に聖騎士団の元へと足を運んでゆく。戦闘中、背後に下がっていた彼が裏手に墓地があったと告げたその言葉に瑠璃は「そこにいたのですか」と目を伏せた。ヴェルグリーズは走り寄る。整えられた子らの墓の前で膝をつく。
「……整えて、家族にこの場所を教えてあげなくちゃ。
 家族の元に早く帰してあげるのが一番だろうから。でも……残念だし、悲しいことだね」
 そう呟く。その言葉に頷いた正純は祈りを捧げた。
「苦しかったでしょう。辛かったでしょう。
 ……あなた達の苦しみの全てを、私には癒せない。
 故にせめて祈りだけでも捧げさせてください。新たな星の元に、生まれ変われるように」
 正純の隣で、そっとポテトは花を差し出した。守れなくて済まないと、子供達に告げて。
 美しく咲いた花は、祈りを届けるように風に揺れて。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加有難うございました。
 サントノーレさんが折角ならプレゼントしたいとごねたので。

「また会おうぜ、ローレット」とのことです。アドラステイアのことも在りますし……天義はこれからも騒がしくなりそうですね。

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