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シナリオ詳細

<夏の夢の終わりに>魔女たちの大戦争

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●魔女の模範解答
 妖精城アヴァル=ケイン前。二つに分かれた勢力がにらみ合い、一触即発の空気を作っていた。
 凍てつく花々と砕けたアーチ。ついこの前まで妖精達が大好きな女王様へ会いに何度も遊びに通ったお庭は無数の靴跡に踏み壊され、はるか後方にて優雅にくつろぐ魔女によって占拠されていた。
 兵隊となっているのは大量の『アルベドブランク』。
 遺伝子情報を用いずに仮想霊体を埋め込むことによって擬似的かつ短期間のみ稼働させることに成功した低コスト型のアルベドホムンクルス。その戦闘仕様である。
「あれだけの数をどうやって……」
 対するはファルカウ森林警備隊および妖精郷妖精団による混成部隊。そしてその最前線に立つ、アルメリア・イーグルトン(p3p006810)はじめイレギュラーズチームである。
「あの、妖精たち……」
 アルメリアは己の胸に手を当て、先の戦いを思い出していた。
 フェアリーシードが大量に作られていたドーム状の遺跡内。アルベド・タイプアルメリアと遭遇し交戦した際のことである。タータリクスが『人工の大魔女』と呼んだ、アルメリアと強力なフェアリーシードと、そして特別なもうひとつのアイテムを掛け合わせて作られたらしい非常に強力な固体との戦闘だった。
 アルメリアたちの必死の抵抗はしかし、アルベドからの激しい猛攻を抑えることができず敗北。大量のフェアリーシードは持ち去られる結果になってしまった。
 ぐ、と胸元を掴む手に力がこもる。
「ここまでくれば『とりもどす』のは難しいかもしれない。けど、この現状に『とりかえし』をつけることはできるわ」
 そうよね? と仲間達へと振り返る。
 武装した妖精や深緑ハーモニアたちは頷き、そしてイレギュラーズたちも同じように応えた。
「アルメリア様。フェデラーと申します」
 緑髪のハーモニア青年フェデラーが、アルメリアのそばに片膝をついて頭を垂れた。
「この戦端を拓いたのは他ならぬあなたがたローレット・イレギュラーズであります。
 我々森林警備隊はあくまで協力の立場。この『大魔女の庭』攻略作戦に際しましては、指揮下に入る所存であります」
「そ、そんなにかしこまらなくても」
 おそらくは年上の男性に傅かれて思わず慌てるアルメリア。
 そんな彼女に、フェデラーはすこし複雑な顔をした。
「その……ラウラ様からのお言いつけでして」
「お、お母さん!?」
 アルメリアの脳裏に、あのテンション高めの母の姿が浮かんだ。
 フェデラーの言を通して、まるで直接語りかけてくるかのようだ。
 あえて、その想像のまま語ろう。とても長くなるのでメカクレお姉さんの甘い声を想像しながら楽しくお読みいただきたい。

『アルメリアちゃんが妖精郷を救うだなんて、まるでロスローリエン伝説みたいで嬉しいわー。
 やっぱり外の旅をさせて正解だったわね。毎日おうちにいないのは寂しいけど、かわいい子には旅をさせよっていうものねぇ……。
 おっと、しみじみしちゃったわ。今、アルメリアちゃんは自分の遺伝子から作られたアルベド段階のホムンクルスと戦ったんだったわね。
 ターちゃんってばあんなに小さかったのに……あら、またしみじみ。
 アルベドっていうのは錬金術の書「大いなる業」における卑金属を金へ変える途中段階と考えられていたものよ。
 この存在は……うーん、そうねぇ。今のターちゃんくらい必死なら、神人合一段階といわずともその間くらいまでなら行けるはず。その段階をキトリニタスっていうのよ。
 アルメリアちゃんのまねっこボディには仙辰砂っていう賢者の石の偽物みたいなアイテムが使われてるんだけど、これによってすごーく能力が拡張されてるの。
 こうなってくると行使する魔術の規模もものすごく広くなるわねぇ。例えば……自分の幽体をいっぱい増やして離脱させて、沢山の仮想肉体に憑依させて精神を統一させるなんてこともできるんじゃないかしら。
 もしそうなったら数人がかりじゃ手をつけられなくなっちゃうだろうしぃ、私が昔育てた子たちを送っておくわね。
 それじゃあ頑張って! 夜は歯磨きをしてたくさん寝るのよ。あなたを愛するママより☆』

「……要約すると?」
「我々を指揮して、あの軍勢を倒しましょう」

●妖精郷と人工大魔女
 妖精郷が冬に閉ざされ、城は錬金術師タータリクスによって占拠された。
 経緯の説明は省くとして、この未曾有の大災害及び大事件を解決するにはいますぐ妖精城アヴァル=ケインへ進撃し魔種たちを駆逐。冬の力を払わねばならない。
 そのために攻略が必要となったのが、この妖精城前大庭園であった。
 他の仲間は地下道や別方角から続々と侵入をしかけているが、このエリアの攻略が成功すれば大部隊を馬車に乗せるなどして大胆に城へ投入できるようになる。
 森林警備隊や妖精団たちの力を借りるのに重要な作戦なのだ。
「作戦内容はこうです。
 いま投入可能な人員を混ぜ、アルメリア様たちローレット・イレギュラーズ一人一人をリーダーとした混成部隊を編成します。
 様々なメンバーが揃っていますので、編成の自由はかなり効くでしょう。
 敵はいわば軍隊と言う名の巨大生物。精神のリンクによって自律稼働するアルベドの大部隊です。
 これを突破するのはだいぶホネですが……我々の力が合わされば決して不可能ではないはずです」
 部隊編成のバランスもさることながら、リーダーとなったあなたの振る舞いや部下に『どこまでリスクを侵させるか』も重要になってくるだろう。
 更に言うならアルベドたちに格納されているフェアリーシードをこの忙しさの中で無事に取り出すには不殺攻撃や手加減をした攻撃といった戦術的余裕を持たせる必要も出てくる。
 どこまで目指すか。どこまで侵すか。そして最後の責任を負う自分はどこまでやるのか。
 その『選択』こそが、戦いのゆくえを分けることになる。
 頭を抱え、わしゃわしゃとやるアルメリア。
「な、なんで私がそんな重大な……」
「アルメリア様。それに対してはこう答えるようにと仰せつかっています」
 フェデラーは咳払いをして胸を叩くと、真面目な顔をしてこういった。
「『何事も経験よ☆ アルメリアちゃん!』」

GMコメント

■オーダー
・成功条件:キトリニタス・タイプアルメリアの撃破
・オプションA:アルベドからフェアリーシードを『一個以上』回収する
・オプションB:アルベドからフェアリーシードを『半数以上』回収する
・オプションC:アルベドからフェアリーシードを『すべて』回収する
・オプションD:部下を半数まで生存させる
・オプションE:部下を全員生存させる

 成功条件の達成はもちろんですが、オプションのどこまで達成するかはあらかじめ相談して決定しておいたほうがよいでしょう。
 今回は非常に状況が激しく乱れるため、『〇〇を目指すがダメそうなら〇〇へ妥協する』といった柔軟な対応がとりづらくなります。より極端に言うと『ダメそう』な次点で依頼失敗リスクが跳ね上がります。

■パーティー編成
 自分の部下を編成してください。
 1PCにつき5人まで。人員は森林警備隊とアルヴィオンの武装妖精たちから選びます。
 ビルド傾向や持ってるスキルなどある程度の柔軟性はとれますが、今居る人員と装備の中から選ぶことになるので極端すぎるものは難しいでしょう。
 それぞれの固体戦闘力は『ふつう』程度とします。詰み対策として厳密に決めません。

 部下たちは特に命令しなくても戦いますが、PCが部下を上手に使う、ないしは命令するプレイングを書くことで結果的に戦闘力が上がります。
 ポイントは『自分の個性を活かすには仲間がどう動いてくれたら理想的か』です。
 ある程度は自由にやって貰って構いませんが、目安として『適当に頑張らせる』『他の味方に預ける』『なんとかしてもらう』とだけ短ーく書いてあった場合、気づくと全滅していたります。逆にレベル1のPCが士気を高めたり作戦を細かく決めたりといったプレイング全振りでいった場合、だいぶしぶとく自分を守りながら戦ってくれるでしょう。

 あと、よかったら部隊名も決めると楽しいでしょう。一応デフォルトでは『アルメリア隊』みたく名前+隊で呼ばれます。

■敵軍について
 敵軍とこちらの軍は大きな距離をあけ、ひらたーく並んで展開している状態からスタートします。
 敵軍の兵隊は低コスト型のアルベドで、全員フェアリーシードが入っています。
 敵は頭数こそこっちより少ないですが、固体戦闘力がかなり高いため1チームごと連携して対処していきましょう。
 お勧め戦術は、1チームで2~3アルベドを対応して戦うことです。
 逆に1アルベドずつに全軍集中して各個撃破を狙おうとするとこっちがまとめて潰されかねないので、戦力を分散しておくのが吉です。

 敵の大将はキトリニタス・タイプアルメリア。
 アルベドから進化したことで力が大幅に増大し、外見や迫力はもうちょっとだいぶ若い頃のラウラ・イーグルトンみたくなっています。
 広範囲にむけた魔法攻撃などとんでもない威力の攻撃が可能で、かなり自由に戦場を闊歩できます。
 が、序盤はPCたちの出方を見るつもりのようで、アルベドたちへの付与や回復にあたる構えを見せています。

■リスク判断について
 このシナリオでは、リスクの選択が重要になってきます。
・部下が傷ついた時、戦闘不能前に撤退させるか否か
 戦闘不能になった部下は他の部下の助けなしでは撤退できず、戦場に放置された場合十中八九死亡します。ただし途中で撤退すればそれだけ行使できる戦力が減少します。これはPC自身にも当てはまることです。
・アルベドからフェアリーシードを安全に取り出すか
 部下に命令し、威力の低い不殺攻撃などを行うことでフェアリーシードを傷つけずに倒し、安全に摘出することが可能です。
 状況的にトドメのタイミングをとるのがほぼ不可能なため、不殺だけで攻撃するといった具合にかなりこちらの戦力が低下します。
 あえて妖精の救出を諦め、全力で殲滅するのも大事な手です。

※フェアリーシードとは
 アルベドを構成するにあたって格納されているアイテム。妖精が中に入っており、このままアルベドを倒すと妖精も死んでしまう。逆に妖精を取り出すとアルベドは死亡する。
 キトリニタス段階になると完全定着するため、取り出しは不可能。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <夏の夢の終わりに>魔女たちの大戦争Lv:20以上、名声:深緑20以上完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年08月31日 22時10分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
アルメリア・イーグルトン(p3p006810)
緑雷の魔女
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)
風吹かす狩人
フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)

リプレイ

●過去は取り戻せないけれど、未来なら取り返すことができる。
「編成、完了致しました。アルメリア様」
 膝を突いて頭を垂れる森林警備隊員フェデラー。おそらくは相当な地位にありそうな彼にかしこまられるのは未だに慣れない『緑雷の魔女』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)だが。
 彼から渡された『ママのひとくち指揮官メモ☆(約500ページ)』を読みまくったことで振る舞い方がちょっとばかり分かってきた。いや、ちょっとどころではないかもしれない。
「流石……飲み込みの早い。ラウラ様も魔道書の速読に長けておられました」
「え、そ、そうなの?」
 そんなイメージなかったんだけど……と頬をかく。
 家の中ではわからなかったことが、外の世界には山ほどある。
 楽しいこと、悲しいこと、おかしなこと。それは一番身近だった母にすら言えることだ。きっとあのまま家のまわりだけで暮らしていたら、こんなことを知らないままだったろう……。
「それで、キトリニタスの軍勢を倒す計画はたちましたか」
「やっぱりそこからして考えなきゃいけないのね。ええと、そうね。できてるわ。各小隊長にも話は通してある。一部ちょっと、あれだったけど。大枠では整ったつもりよ」
「然様で御座いますか」
 フェデラーは顔を上げ、アルメリアにどこか憧憬や懐古にも似たまなざしを向けた。
「……何?」
「いいえ。アルメリア様。あなたの一助となれたこと、光栄に思います。おそらく、隊の皆も。仮にあなたのために命を落とすなら、それが我らの本望であります」
 そんな大げさな。
 とは、言えなかった。
 一口メモに、こうあった。
 隊長は、部下に『死ね』と命令できねばならない。命の責任を負うことは、生かすことだけ(甘くて美味しいところだけ)を指さないから。
「……わかったわ。花紅隊のみんな、私と一緒に死ぬ覚悟をして頂戴」
 いまはこれが、精一杯だったけれど。

「うーわあ……あれ全部アルメリアちゃんのアルベドなの?」
「あ゛~、めっちゃタイプの体型やわあ。一個か二個持ち帰ったらあかんやろか」
 『緑の治癒士』フラン・ヴィラネル(p3p006816)と一緒に簡易飛行装置でもって敵軍の全体位置を観察していた柳緑隊の隊員女性がじゅるりと口元をぬぐった。
「だめでしょ」
「あかん!? 先っちょ! 先っちょだけやから!」
「なんの?」
 着地して装置をきり、隊員達を振り返る。
 アルメリアの体型がタイプという関西弁の女性はいわゆる副隊長である。森林警備隊の中でも普段は危険生物の誘導や駆除を専門としている部隊のようで、生物の特徴を見て適切な誘導方法を選ぶというセンスに長けていた。
「深緑のピンチにこうやって戦えるようになるため強くなったんだ!
 柳緑隊! 準備はいい? あたしたちの大好きな自然を護るよ! ――点呼!」
「い~ち!」
 メガホン片手に手を上げる関西弁の女。
「ニー!」
 無数の試験管を抜いてナイフみたいに構える女。
「参ッ!」
 小太刀を交差して覆面のしたから目を光らせる男
「しい」
 若干地面からふわふわ浮いたままひつじのぬいぐるみを抱きしめる少女。
「ウホ!」
 ゴリラ。
「よーし出発!」
 フランは拳を突き上げ、腕まくりをして突き進むことにした。

 剣を大地に突き立てて、柄頭に両手をそえて未だ遠い敵軍の列を見る『揺らぐ青の月』メルナ(p3p002292)。
 キトリニタス部隊は魔法によって作り出した巨大庭園『大魔女の庭』を防衛する役割を持っているらしく。あくまでこちらが攻め込むのを待つ姿勢であるようだ。このことから、彼女たちが無能な番犬でないことが窺い知れる。
「お兄ちゃんなら、きっと……」
 目を閉じて夢想する。となりに兄が立ち、優しく自分を見下ろす様。
 こんなときどうすればいいのか。
 こんなとき兄ならどうするか。
 もう尋ねることの出来ない問いを、自分の中でかみしめる。
「なあに、作戦会議?」
 小さなボウガンを担いだ妖精がメルナの肩にとまり、冗談めいて笑った。
 目を開けて振り返る。
「みんな揃ったよ。準備万端。サーチアンドデストロイのロックンロールよ」
 自分でも意味がわかってないという風に笑って語る妖精に、メルナは笑い返し、そして……。
「今回の作戦は、アルベドに奪われたフェアリーシードを回収すること。
 できることなら全部回収したいけど、きっと私たちはそれだけの作戦と戦力を用意できない。
 囚われた妖精のみんなも、一緒に戦ってくれる皆も、死なせたくないけど……」
「なあにシケたこと言ってんだタイチョー」
「この期に及んで都合の良いハッピーエンドなんか望んでねーっすよ」
「妖精郷が冬になっちゃうくらいだもんね。全員死んでないだけマシじゃない?」
 メルナ隊の隊員妖精たちが集まり、笑い合っている。
 肩にとまっていた副隊長の妖精が、ボウガンのはじっこでこつんとメルナを叩いた。
「だいじょぶだいじょぶ。死んでも森に還るだけだって。大事なのって生き様じゃん?」
 メルナは……。
「はい、おねがいします!」
 目尻を拭って、笑い返した。

「アルベドの大群……どれほどの被害が……くそ! しかも部隊の指揮か」
 凍り付いた木の上から飛び降りる『妖精の守り手』サイズ(p3p000319)。
「やっほ、お疲れです。皆揃いましたよ」
 アースカラーで統一された五人の妖精がサイズを出迎えた。
 霊樹の皮で作られたという軽鎧をみな着込んでいる。薄くて軽くて丈夫な魔法がかかっているらしい。
 副隊長らしい焦げ茶色の羽のついた妖精が、サイズの肩をぽんぽんと叩いた。
「あんた異世界の妖精なんだって? ま、妖精のテイギってぶっちゃけわっかんねーんだけどね!」
「うちらって精霊種ってアツカイなんじゃなかったの?」
「その前はなんかよくわかんないアレだったじゃんアレ」
 勝手に会話を始める妖精たち。
 そのうち一人がサイズの背中を肘でこづいてきた。
「ねーねー女王様に挨拶したんでしょ? どだった? まじマブいべ」
「あ、ああ……」
 サイズは戦いの前だというのにだいぶ陽気な妖精達に若干気圧されたが、気持ちをとりなおすべく咳払いをした。
 その様子をみて振り返る妖精達。
「タイチョーさん。最初の命令をどーぞ」
 頷き。全員の顔を見る。
「妖精を指揮する以上俺の命令は二つだ! 救える分だけ同族を救え! そして生き延びろ!」

「ここが決戦の部隊……」
「敗北すれば、世界がひとつ失われる……か」
 『二人でひとつ』藤野 蛍(p3p003861)と『二人でひとつ』桜咲 珠緒(p3p004426)は木の枝の上に立ち、そっと互いの手を握り合った。
「大丈夫です。部隊を率いたとしても、珠緒たちのやり方は変わりません。物量戦なら、元々得意じゃないですか」
「だね」
 えへへ、と照れたように笑う。
 蛍の眼鏡に、珠緒の微笑みが映り込んだ。
 事前に調べた珠緒隊および蛍隊の隊員達の情報が薄赤色のARウィンドウとして表示展開されていく。
「故郷を、仲間を救いたいっていう気持ち、よくわかってるつもりだよ。
 帰りたい場所を、愛する人を、ボクも持ってるから……」
「はい。それは、珠緒も……」
 見つめ合う二人の左右から、妖精たちがちらりと顔をのぞき込んできた。
「なにイチャイチャしてるの? 結婚式なの?」
「結婚式!?」
 慌てて振り返る蛍。
 一方で珠緒はどこか沈んだ表情をしていた。
 この戦いで、全てを救うことはきっとできない。
 今こうして集まってくれた妖精達も、このうちどれだけ生きて帰れるかわからない。
 その決定権を、責任をおうのは苦しいことだけれど……。
「珠緒さん」
 握った手に力をこめて、蛍が力強く頷いた。
「行こう。大丈夫、ボクがついてる」
 珠緒は頷き、二人せーので木から飛び降りた。
 ――それでも、もうひとりの自身を手にかけたあの日を、繰り返させるわけにはいかないから。
 妖精達が加わり、彼女たちは魔法の粉を纏ってきらきらと光り始めた。
「行くべき場所へと志願してくれた皆さんに、命を大事に、とは言いません。
 命をかけても守りたいモノのために、共に命をかけて戦いましょう!」

「みなのもの! 『デイジー様をお守りし隊』によく集まったのじゃ!」
 『共にあれ』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)は部下に用意させた台のうえに立ち、タコ足でぐいーっと背伸びしながら胸を張った。
「この部隊のコンセプトは妾のすーぱーわらわぱわーを活かすために敵をばりばり足止めすることじゃ!」
「イエス! デイジー!」
 あめ玉を差し出す部下一号。
「よしよし。あまり無理して死ぬではないぞ」
「イエスデイジー!」
 スポドリを差し出す部下二号。
「気が利くではないか。さすが『デイジー様をお守りし隊』」
「イエス! デイジーッ!」
 ダッシュで焼きそばパン買ってきた部下三号。
「イエスデイジー! デイジー!」
 同じくダッシュで妖精マガジン買ってきた部か四号。
「くふー、良い心がけじゃ。ほめてつかわす!」
「ありがたきデイジー!」
 デイジーを後ろから抱っこしてスッて地面に下ろす部下五号。
 壺を小脇に抱え、貰ったあめ玉とかを放り込むと、デイジーは月の魔力を高め始めた。
「思い出すのう。前もこうしてタナカや豚を率いて絶望の青を攻略したものじゃ」
「さすがですデイジー!」
「妾のことは『大いなるディー』と呼べぃ」
「イエスデイジー!」
「ぬ、案外ちゃんと聞いておらんな!?」
「聞いておりますデイジー!」
「デイジー!」
「デイジーデイジー!」
「う、ううむ……元気があってよい! 出陣じゃ!」
「「イエスデイジー!」」
 部下達はデイジーの乗った神輿を担ぐと、『デイジーのうた』を歌いながら走り始めた。

 凍った芝生にござを敷き、正座姿勢でぴんと背を伸ばす『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)。
 抜けていく冷たい風が、彼女の長い髪をわずかに遊ばせた。
「雪村殿。支度が調いました」
 深緑では珍しい、和風の甲冑を纏った男が片膝をついて報告に現れた。
 肩には深緑警備隊の所属を示す紋章が描かれ、目から下をすっかり覆った木の面はギラリと歯を見せて笑うかのような模様が彫り込まれ、逆立つような髭があしらわれていた。
 彼の肩にかけられているのは銃身の長い火縄銃(マジックマスケット)。
 その後ろには同様の甲冑を纏い槍を携えた兵士が二人。軍旗を掲げた兵士が二人。
 立ち方並び方歩き方から、彼らが日頃から強固な連携を組んで戦っていることが窺い知れる。
「ご苦労様です。作戦概要は聞いておりますか」
 沙月は立ち上がり、一度手のひらを握って、開いて、今度は小指から順にしっかりと握り込んだ。
「は。我々雪村隊の任は遊撃。両翼に三個小隊ずつを展開し、我々を含めた四個小隊による中央突破と側面攻撃が狙いであると」
 静かに頷く沙月。
 相手はキトリニタスと大量のアルベド兵。低コストタイプのアルベドとはいえ、フェアリーシードを込めた本格的なモデルだ。
 仮に一体だけが相手だとしても、沙月ひとりでは戦いきれるかどうかあやしいスペックだろう。沙月ほどに戦いに精通した人間でさえ、である。
 それが二対一でも分が悪い。六人規模の小隊で強固に連携を組み、まとめて相手にすることでやっと釣り合いがとれるかもしれないといった所だ。
 しかもそれが何十体と存在し、それを統括するキトリニタスまで動くとなれば……大隊規模の連携と作戦構築が必要になるだろう。
 そしてそれでもなお、味方の死はさけられない。
「フェアリーシードの回収は、『半数』を目標にしていると聞きましたが。変更は……」
「ありません」
 求めるものに対価が生じる。それは世界の理である。
 『がんばる』程度で人の命は買えない。相応の犠牲と努力を、支払わねばならないだろう。
 そしてどれだけの犠牲を支払うべきか……実のところ、沙月を含む数人の指揮官たちは今なお決めあぐねていた。
 そして、こうも考えていた。
 ――少なくとも、このうち半分は死ぬだろう。

「とんでもない光景だな。同じ顔がここまで綺麗に整列するとは」
 『Unbreakable』フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)は黒い翼を羽ばたかせ、アルベドの軍隊を観察していた。その中心となるキトリニタス・タイプアルメリアが、観察しているフレイを見た。
 かなりの距離があったが、にっこりとこちらに微笑んだように見えた。
「……狙いはお見通し、か? まさかな」
 翼をたくみに操作して降下。
 彼を待っていた五人の森林警備隊員たちが整列していた。
 彼らの装備や服装は狩人といった風情で、木製のライフルと短剣をそれぞれ統一して装備していた。
「アンタのオーダー通りのメンツを揃えたぜ。普段は虫退治なんかやってる連中だ」
 ウェスタンハットを被ってどこかシニカルに笑う副隊長の男。
 どうやら彼とは友人関係にあるらしく、他の隊員たちもリラックスした様子だ。
「方針をもっかい聞いておいていいかい」
「ああ」
 フレイは義眼がはまったほうの目を手で押さえると、瞬きを二度した。
「俺の部隊は一人たりとも倒させるつもりはない。ちまちまと【致命】の攻撃をしてくれれば良い」
 彼の命令を一度復唱して、ウェスタンハットの副隊長は肩をすくめた。
「オイオイ。ヤバくなったら一緒にトンズラするのか? まさかアンタだけ残って英雄みてーに死のうってんじゃねーだろうな」
「冗談をいうな。俺は死なない。他に質問はあるか?」
「あー、隊長。俺からもいいか」
 眼帯をつけた男がライフルをちょいと掲げた。
「俺たちの攻撃目標ってキトリニタスだよな? あのバケモンみてーなバケモンにこいつが通用するかね」
 男が取り出したのは特殊なライフル弾だった。
 深緑ではややポピュラーな薬が塗られており、治癒の魔法を阻害する効果をもつ。
「前に相手したアルベドにゃあこの手のもんは通用しなかったって聞くぜ?」
「少なくともあれよりは性能が下なはずだ。仮に一発で仕留められなくても何発か撃てば効果が出やすいだろう。その間にキトリニタスを俺が釘付けにする」
「釘付けに……ねえ」
 髭の長い男が顎をなでながら上向いた。
「いや、アンタの実力を疑うわけじゃねえよ? いっぺん手合わせしたが、アンタは優秀なタンクファイターだ。魔術対策もバッチリだと思うぜ。けど、あんだけのバケモンがそう簡単に釣れるかね。それで済むなら、最初からアンタひとりを高いところから放り込んで終わらせてた筈だぜ?」
「……あるいは通用しないかもな。それでも、相当厄介な駒になるはずだ。『存在するだけで相手の動きを止める駒』ってのは、重要だろう?」
「ハハッ」
 フレイの言い草に隊の男達が揃って笑った。
「なあ、アンタは迷惑かもしれねえが。俺らはアンタの知らないところでだいぶ世話になったんだ。もしもの時は助けになるぜ。例えば……そうだなあ」
 副隊長の男が、またもシニカルに笑って、言った。
「代わりに死んでやるくらいならいいぜ」

「これは……大変、だなんて甘ったれた言葉だと頭を撃ち抜かれそうな状態だネ。
 今回任された仕事はアルベドの“処理”、幻想種の親友を殺す事……とても心苦しい事さナ」
 やれやれと首を振り、弓を手に取る『風吹かす狩人』ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)。
「『草狩隊』」
「「ここに」」
 魔法のマントに身を包んだ男達がジュルナットの背後にザッと音をたてて現れた。
「あなたの伝説は聞いたことがあります。こうして指揮下に入ることが出来て光栄です」
「おやおや」
 おじいちゃんをそんなにおだててるものじゃないよと手を振って、ジュルナットは腰掛けていた岩から立ち上がる。
 ひゅうと音を立てて、彼のそばを風が吹き抜けていった。
 まるで風に愛されたかのように、心地よいかぜだけを纏って歩き出すジュルナット。
「やらねば死ぬのはこっち、任された部隊と共に仕事に当たるサ。
 ……『草狩隊』、職務を全うするヨ」
「「御意に」」
 ジュルナットを中心とするように、マントの男達が歩き出す。
 向かうは地獄。
 人工大魔女キトリニタス・タイプアルメリア率いる、魔女の軍勢。

●ハンニバルによろしく
「雪村隊、突貫します」
 ローレット混成大隊の実質的な切り込み役は雪村隊が担うことになった。
 先述したように混成大隊は左右両翼にそれぞれ三個小隊を展開し、平たい陣形で迎え撃つアルベド部隊を各中隊ごとに独立して攻撃。これを不殺担当中隊とした。
 その間中央の四個小隊を攻撃担当中隊とし、キトリニタスへの攻撃を目的に動くこととなった。
 当初たてたのは中央に切り込んで左右の不殺中隊へ偏った側面攻撃を行うことで敵部隊を順に壊滅させていくというものである。
 対してキトリニタスがとった戦術もまた、中央浸透からの側面攻撃であった。
 つまりは、最初の衝突が勝ったほうが陣形の有利をとれるということになる。
「堤、西脇、前へ。ディレとコンチネルは両名を回復支援」
「「御意」」
 甲冑を纏った槍兵が名乗り口上を放ちながら二名で突撃。その後ろを幟旗を掲げた治癒兵が続く。
 彼らのそれを迎え撃ったのは四人組のアルベド部隊だった。
 うち二名を【怒り】によってバラバラに引きつけ、残る二名が回復役への集中攻撃を実施。それをタンク担当が庇う形で拮抗状態がおきた。
 釣り合うということは、傾けることができるということ。
 沙月はすかさず敵部隊の自由な兵士へ接近し、隙を突いての連続打撃を打ち込んだ。
 舞うように繰り出された打撃がアルベドの体勢を大きく崩し、そこへ雪村隊サブアタッカーの松栄が火縄銃による射撃でしとめにかかった。
 そうしている間にタンク担当の西脇が膝を突く。
 集中攻撃に加わるアルベドの数が50%ほど増加したことで防御力と回復支援が間に合わなくなったのである。
 それだけアルベドたちは高い火力を保有しているということだろう。
「殺すことを躊躇うことは彼らを苦しみから解放させず苦し続けさせること、それを狩りで学んできたからネ。草狩隊、援護を」
 そこへジュルナット率いる草狩隊の砲撃が集中。更にタンク担当三名が密集して庇うことでダメージを大幅に軽減した。
 アルベド部隊のスペックやスキル構成は個体ごとの違いはあれど遠距離からの魔法による大火力攻撃に寄っていた。個体ごとのフォロー範囲の広さゆえに密集することは希だったが、攻撃火力を集中させるにあたって味方を巻き込みづらく範囲攻撃を選択しやすいという面もあった。
 集中した火力支援によってアルベドを弱らせ、ここぞというタイミングで矢を放つジュルナット。フェアリーシードの予測箇所を的確に貫いたことで、アルベドは砂となって崩れていった。
「ハハ、非情に徹しなきゃならんって点で狩人って生業に感謝する事は金輪際あって欲しくないネ」
 と、ここまで敵戦力を撃滅する場面のみを記述したが、味方戦力が無傷だったわけではない。敵の火力に押しきられる形で戦闘不能になる味方が現れ、その撤退可否について判断を下す必要が生じていた。
「ここはひとまず、『いのちだいじに』じゃ」
 ローレット混成大隊各指揮官の判断はこの点に置いて割れていた。
 部下の死亡を避けるため、撤退支援要員をつけて戦闘不能者を撤退させる者。ないしは戦闘不能になるまえに自主的な撤退を命じる者などがいる一方で、戦力の急速な低下を避けるためにあえて死ぬことを求める者もあった。
 これに関して正しさはない。取捨選択であり、目標への等価交換である。誰も殺さず全てを成し遂げたいとするなら、生じた大幅赤字を埋める何らかのリソースを投入しなければならない。そしてそれを支払うことはできないと、彼らは判断したのである。
 賢明であり、英断であった。
「『デイジー様をお守りし隊』、残るメンバーで再突入じゃ。埒を明けよ!」
 デイジーは掲げた壺から月の魔力を引っ張り出すと、天空に丸めて凶悪な力へと変換していった。
 それを阻むため、放物線を描いて飛来する無数の爆撃魔法。
「イエスデイジー!」
 盾をかざして防御を固めた部下がデイジー神輿をおろし、鉄壁の防御&ブロック陣形とを形成していった。
 そこへ容赦ない魔法が降り注ぎ、呪殺スタイルによる防御不能のダメージが突き刺さっていく。
 巻き起こる大爆発。その中を、フレイは翼を広げ矢の如く突破していった。
「さて、キトリニタス……俺の相手をしてもらおうか」
 目標は当初述べていたとおり、キトリニタス・タイプアルメリア。
 フレイは柄状の礼装から焔の刀身を生み出すと、キトリニタスめがけて斬りかかった。
 正面に生まれた魔術障壁が剣を阻み、キトリニタスは頬にぴとりと人差し指を当てる。
 考え事でもするように首をかしげると……。
「あら、あら。遊んで欲しいのね? いま忙しいんだけど……そうねぇ、皆にナイショで、チョットだけよ?」
 キトリニタスは笑ってその人差し指をフレイに突き出した。
 すさまじい衝撃が突き抜ける……が、彼の纏った球形の結界がダメージをフルカット。
「どうした、俺はまだまだ耐えられるぞ。キトリニタスとはこんなものか。これならオリジナルの方が何倍も強い」
「可愛い挑発の仕方ねぇ。お姉さん、やらなくちゃいけないことがあるんだけど……サービスでもう少し遊んであげるわね」
 キトリニタスは突き出す指を二本に増やすと、八十八枚の大型魔方陣を超圧縮し分厚い鉄板の如く空中に出現させた。
 流石に危機感を抱いて防御姿勢をとるフレイ。
 途端、彼の結界が強制的に破壊され、さらなる魔術砲撃がフレイの身体を複雑に貫いていった。
「おい、フレイ!」
 ライフルを構えたフレイ隊の隊員達が慌てた声を出すが、フレイは口元の血を拭って立ち上がった。結界やオーラの鎧を再び身に纏う。
「俺のことはいい。作戦通りに致命弾を撃て」
「あ、ああ……!」
 一斉射撃を開始するフレイ隊。
 かざした手のひらから魔術障壁を出して弾ききると、キトリニタスはくすくすと笑った。
「私を釘付けにしたいのね? 夢中になっちゃって……。んー、そうねえ。『うちの子』たちには悪いけど、もうちょっとだけ火遊びしちゃおうかしら」

 キトリニタスはアルベド部隊を比較的中央に多く集めたことで、こちらの中央攻撃担当中隊は苦戦を強いられた一方左右両翼の不殺担当中隊は有利にことを進めることができた。
 彼らの『アルベドに格納されたフェアリーシードを全体の半分まで回収する』という目標を、それだけ叶えやすかったということである。
 戦術した取捨選択と等価交換でも、ある。
「その姿といい、あの時の『宿題』なんて言い草といい、私じゃなくてお母さんのほうにフォーカスしていたなんてね。
 あの時止めを刺さなかったこと、後悔させてあげるわ。フェデラーさん、総員攻撃準備!」
「承知しました」
 アルメリアはマジックカイトシールドをかざしながら走ると、飛来する大量の雷撃魔法の嵐を六連魔方陣によって貫いた。
 このために習得した『制圧魔法』である。テーザーガンよろしく着弾地点から魔法の糸を飛ばすと、緑の被殺傷電撃が範囲内のアルベドへと浴びせられる。
 その隙を突くようにフェデラーたちが魔方陣を展開。
 雷の蛇を召喚するとアルベドへと襲いかからせた。
 ちらりと中央部隊を見やる。
 こちらが不殺攻撃を徹底してフェアリーシード回収にいそしむ一方、中央の部隊は手加減なしの徹底攻撃でアルベドをフェアリーシードごと破壊している。勝利のための、犠牲だ。
「manjyusakaがこことは別の場所で救い出されていることを祈るだけ……。
 ごめんね、今はこれで精いっぱい。もし会えたら、謝りたいわ」
「アルちゃんさがって!」
 フランは森の魔法を自らにかけると、荒れ狂う雷撃のなかをまるで雨に打たれて遊ぶ子供のように力強く駆け抜けていった。
「皆! 準備はいい!? 一人でも多くもどきさんを引きつけるよ! 効果範囲を重ねて補正をねらって! 孤立を避けて動くの!」
「はいな!」
 フラン率いる柳緑隊の三名が派手な名乗り口上を仕掛ける一方、そんな彼女たちのうけるダメージをとりかえす係としてひつじぐるみを抱えた少女とゴリラが治癒のダンスを踊っていた。
「みんな、ここが正念場だよ。あたしたちは、逃げない!」
 アルベドのうち一体が、棒状のマジックアイテムから魔方陣越しに魔術剣を生み出し至近距離から斬りかかってくる。
「うにゅう!」
 それを魔法をかけた両手で真剣白刃取りするフラン。
 強引に刃を押し込まれそうになるが……。
「今だよ、メルナ先輩!」
「ありがとう、フランちゃん」
 冷静な、風に消えそうな囁きと共に、メルナが大地を蹴って跳躍した。
 大上段から繰り出される剣の一撃。
 と同時に流星のごとく彼女の周囲に集まった妖精兵たちが魔法の刃を繰り出してアルベドの身体を切り裂いていく。
「っしゃあ、フェアリーシードげっとぉ!」
 弾丸のごとく貫いた妖精が球体を抱えてターン。
 投げてよこしたそれを、メルナはすばやくキャッチした。
 彼女のまわりをくるくると飛び回る妖精たち。
 振り返ると、まだ数体のアルベドが魔方陣を展開し攻撃姿勢をとっていた。
「お兄ちゃんなら……」
「Hayタイチョー、次の命令は?」
 肩を小突かれ、メルナはきりりと表情を引き締めた。
「無論不殺。集中攻撃! 救える魂は救って見せる! 全員『私』についてきて!」
「「そーこなくっちゃあ!!」」

 一方こちらは右翼側、不殺第一中隊。
「メリーとサヴァンは弱ってる奴を狙え。ファウナは危ない奴を守り、ジェリンとジュリアは傷の深い仲間を優先して回復するんだ!」
 サイズはサイズ隊の妖精兵たちを応援したり鼓舞したりしながら作戦指示を飛ばしていた。
「そして俺は……!」
 部下の妖精たちより一回り大きい程度の背丈となったサイズは、武器であり本体ともいうべき『カルマブラッド』を握りしめてアルベドへ突撃。
 刃を突き立てるとフェアリーシードを破壊せずに引っこ抜いていく。
「このために編み出した技だ。全力で救うぞ。俺の前で妖精をひとりだって死なせたりしない。皆もだ!」
 サイズは自分と共に殴る蹴るの不殺攻撃を繰り出してくれる妖精兵たちへ振り向いた。
「もし戦闘不能になりそうになったら撤退するんだ。生存優先で動くんだぞ!」
「「はーい!!」」
 サイズの部隊が攻撃に集中できているのには理由がある。
 珠緒隊と蛍隊による密接かつ高度な連携である。
「全体の成功の鍵を握る大事な局面、絶対に失敗できない作戦。
 責任重大だけど、全てをかけて必ず成功させてみせるわ!」
 蛍は超改造制服を展開。二冊の教科書を放り投げると、それぞれをフォースシールドとフォースソードへ変換装着。こちらへ大量の雷撃を発射してくるアルベド部隊のど真ん中へと突撃していった。
「今ここにある誰かの命のために! ボクの命、皆さんに預けます!」
 シールドをかざすと高らかな学校のチャイム音と共に桜吹雪が発生。
 嵐となってアルベドたちへとぶつかっていく。
 そんな彼女をフォローすべく、左右にぴったりとついた妖精が妖精楽器を演奏。更に後方についた妖精たちが一斉に蛍の母校校歌を合唱し始めた。
 そうすることで彼女たち蛍隊の周囲に卵形の障壁が形成され、飛来する雷撃や桜の魔術に惑わされて魔法の剣で斬りかかってくるアルベドたちの攻撃を阻んだ。
 もはや定番。もとい鉄板となりつつあることだが、蛍が耐えて&珠緒が守るという抜群のコンビネーションは極めて優秀なタンクとして機能するのみならず、中隊規模に拡大してさえその優秀さを発揮していた。
「各員配置に! 数少ない初速の強みを燃やし尽くすため、お力添えください!」
 珠緒は左から右へと手をスライドさせると解析用のウィンドウを展開した。
 彼女の前方にずらりと扇状に並んだ妖精達もまた同じようにウィンドウを展開し、エネミースキャンや超視力、モンスター知識や高い計算能力を駆使して敵部隊のデータ解析を進めていた。
 情報はテレパスを通じて珠緒へ集められ、集積した情報を統合しまた妖精達の解析へ分担させるという集合並列処理を行っていたのである。
「隊長、お嫁さんに敵機集中。数5!」
「カノジョさんが超防御陣形に移行。計上損害20%!」
「敵も馬鹿じゃないってことですね。蛍さんの防御へ対応するのに15秒もかけてない……って、呼び方!」
「旦那さんがよかった?」
「スパダリ?」
 振り返る妖精にぶんぶん首を振ると、珠緒はうっかり吐血しそうになった口を押さえてかわりにブラッドマジックに変換した。
「被殺傷魔術による爆撃を開始。エネルギー供給及び威力強化を平行して行います。カウント3、2、1――ファイア」
 妖精のアナウンスにそってエネルギーを溢れんばかりにした珠緒が、突き出した手のひらから真っ赤な砲弾を発射。着弾地点に赤い光が迸った。

●魔女の蹂躙と報いる一矢
 状況が大きく変化した。キトリニタス・タイプアルメリアが中央浸透部隊をアルベド部隊によって足止めしつつ、自身は複数のアルベドを連れ勝手に移動を始めたのである。
 基本的にこの大隊戦闘は兵の数と配置が戦況を決めていたが、キトリニタスに関しては一人で二個小隊と同じかそれ以上の戦闘力をもつと予想されていた。アルベド段階ですでに8人のイレギュラーズ部隊を壊滅させていたからだ。
 最初にこの被害を被ったのは右翼側不殺第一中隊。
 アルベドとの戦いに集中し、相当数のフェアリーシードを回収しつつあったサイズ、珠緒、蛍の各小隊は急速に接近するキトリニタスへの対応を余儀なくされた。
 このうち最初に撤退を始めたのは強烈な砲撃によってHPを大きく削られたサイズ隊の妖精兵たちである。
「お前達は逃げろ! 俺はギリギリまで戦う!」
 肉体ごと吹き飛びそうになったのをパンドラの力でぎりぎり持ち直し、サイズは鎌を握って攻撃。このときの攻撃対象はあくまでアルベドであった。なぜならサイズの目的は一貫してフェアリーシードの回収。つまり妖精を救うことだったからだ。
 その様子を適切に察知していたのが、珠緒隊である。
「隊長、あの妖精のひと、このままだと死にます」
「うちら珠緒隊もそろそろマズいよ。ペッコとボグが息してない」
「皆さん……」
 珠緒はぐっと歯を食いしばった。
「そんな顔しないで隊長。私ら、死ぬことなんて怖くないよ。故郷がなくなるほうがずっと怖いじゃん」
 頷き、珠緒は蛍にテレパス通信を入れた。
「蛍さん。このまま右翼中隊を維持するのは不可能です。支援も見込めない以上、この先を見据えて動くべきかと……」
「分かってるよ、珠緒さん。どこまでも一緒に」
 その瞬間から、珠緒と蛍は孤立しかけているサイズを救出するべく動き始めた。
 キトリニタスの火力を前にしては治癒や防御はほぼ意味を成さない。
「こっちだよ、キトリニタス! 貴女の好きにはさせない!」
 猛烈な勢いで突っ込んだ蛍隊が倒れたサイズを抱える形で庇い、キトリニタスの魔法を受けきった。
 ドンという音と共に周囲の大気そのものが吹き飛び、呼吸すらできぬまま吹き上がる砂塵と縦横に回転する遠心力に身体が引きちぎられないように耐えた。
「うっぐ……!」
 バウンドし、転がる。
 蛍を覆っていた卵形の結界は既に壊れ、周囲には羽のちぎれた妖精達が倒れていた。
「皆……!」
「あははあ。泣かない泣かない。ちょっと土にかえるだけ。お嫁さんと仲良くねー」
 へらりと笑って、眠るように目を瞑る妖精。
 蛍はキッと顔をあげ、その手を珠緒が掴んだ。
 手のひらから伝わる熱が。
 これまで紡いできた沢山の思い出が。
 二人の未来を切り開いていく。
 いま、運命がひとつ、二人のために曲がった。
「失ってなるものですか蛍さんと手を取り合い過ごす日々へ、勝って帰るのです……!」
「いくよ、珠緒さん!」
 蛍と珠緒。二人の力がぴったりとあわさり、まるで奇跡のようにキトリニタスの片腕を吹き飛ばした。
「あら、まあ……なんて……」
 その様子にうっとりと目を細めるキトリニタス。
「なんて、素敵。摘むのがもったいないほどに……きれいな花ね……」

 右翼中隊を壊滅させたキトリニタスは再び中央の攻撃中隊へと舞い戻ってきた。
 指先で天空をさし、にっこりと笑う。
「生き急ぎたいひとこの指とぉーまれ」
 瞬間、無数の光の柱が大地に生まれた。
 否。それが雷だと思えないほどに膨大なエネルギーをもった攻撃が何度も連続で大地を蹂躙したのである。
「ぐおっ……!」
 隊員を庇って吹き飛ぶフレイ。
「ここは任せて先に行け! すぐに追いつく!」
「そんな台詞真顔で言った奴初めて見たぞ! ってばか! 俺らを庇ってアンタが死んだら――」
 怒鳴りつけてくるウェスタンハットの男に、フレイは不敵に笑って返した。
「安心しろ。俺は死なない」
 事実、というべきか。キトリニタスはフレイへの対策に慎重になっていた。ただ攻撃をぶちまける頭の悪い戦術ではフレイに完封される恐れがあると踏んだからである。それだけ、彼が脅威だったのだ。
 よって徹底的に防御を破り、倒せるきっちりのところでコストを調整するという倒し方でフレイを攻略しにきたのだった。
 そうして彼が稼いだ隙は部下達を逃がすのに充分だった。
「そんなところで寝ておる場合ではないのじゃ。妾が助けに来た故、もう少し辛抱するのじゃ!」
 駆けつけたデイジーが部下達を使ってフレイの部下や逃げ遅れた他の部下達を回収しはじめた。
「よしっ、良い感じなのじゃ。後で妾からご褒美にいっぱい褒めてやるのじゃ~」
「「イエス、デイジー!」」
 デイジーが残り少ない部下へ顎で『逃げろ』と示すと、まだ動ける者が倒れた者を担ぐかたちで部下達は撤退していった。
「さあて、どうしてやるかの」
 アイドルのようににこにこ顔だったデイジーが、スッと冷たい表情になって振り返った。
「まだ動ける味方を再編成してきたヨ」
 そこへ加わるジュルナット。彼もまた、いつもの穏やかでほっこりとした表情を一変させ、獲物を前にした獣のように糸目をうっすら開いていた。
「『死なば諸共』なんて、考えてないよネ」
「じょーだんではないのじゃ。妾の命は三千世界に優先されるんじゃぞ? いまやクラーク家をしょって立つ妾なのじゃ」
「後半よくわからないけど……ウン、狙いは分かったヨ」
 弓を構え、ダンッと後方へと飛び退きながら射撃を開始するジュルナット。
 彼の号令に伴って、支援攻撃チームが魔術やライフルによる射撃によってキトリニタス――の周りで防御を固めようとするアルベド部隊を攻撃。
「一矢報いるなら、その一矢が通る穴を」
「こじ開けるのじゃー!」
 デイジーは大地を力強く踏みつけると、飛び上がった無数の魔力球をアルベドたちへと放火。
 爆発によって浮きあがった砂塵が、ゆらりとそよかぜに揺れたように見えた。
 ……否、風ではない。
 察知した殺気に反応して魔術障壁を展開したキトリニタス――の背後に、沙月は花のように立っていた。
「まあ。素敵な歩法ね……すっかり、騙されたわ」
「それが、あなたの隙です」
 キトリニタスが振り返るより早く、沙月は超高速で手刀、足刀、暴風のごとく連打を浴びせ、最後は掌底によってキトリニタスを吹き飛ばした。
 空中を回転しながら、まだかろうじて存在する左腕を突き出すキトリニタス。
 再びあの『光の柱群』が発生し、風景もろとも沙月たちが飲み込まれていく。

 アルベドの首を切り飛ばし、蒼い炎をあとにひくメルナ。
「これで、全部ですね……」
 メルナは深く息をつくと、残り少ない部下へと振り返った。
「ううん、全部じゃない。大物が残ってる」
 肩にとまった妖精は、片方の羽がちぎれぽたぽたと血を流していた。
「逃げろって、言わないんだね」
「……うん」
 メルナは剣を握り直し、こちらへゆっくりと歩いてくるキトリニタスへと向き直った。
 彼女の耳につかまり、片手を突き出して魔法の攻撃姿勢に入る妖精。
「いい目じゃん。付き合いがいあるぅ」
「……」
「『ごめんね』なんて言わないでよね。ホントいえば、巻き込んだのは私たちの方なんだから。妖精の問題を、人間に押しつけるなんて妖精失格じゃん。せいぜいお酒をめんつゆに変えるくらいのイタズラじゃないと」
 えへへと笑い、妖精は魔術砲撃を開始。
 と同時にメルナは走り出した。
 手刀に魔術の電撃を纏わせたキトリニタスと『つばぜり合い』に持ち込むメルナ。
 至近距離から連射した魔術がキトリニタスの魔術障壁を突破して小さな傷をいくつも作った。
「素敵なお友達が一杯いるのね、アルメリアちゃん。嬉しいわ」
 キトリニタスはたれた前髪の間からギラリとめをひからせると、激しい電撃で周囲一帯を包み込んだ。
 まるで風にあそばれる木の葉のように舞って地面へと落ちるメルナ。
 一方で、キトリニタスの腕はばちばちぶすんと煙をふいて、手首から先がちぎれて落ちてしまった。
 どうしたものだろうという顔で、すっかり無くしてしまった両手をそれぞれ見下ろすキトリニタス。
「ま、いいわね。そのうちまた生えるでしょう。それより、も……」
 前を向くときだ。
「……」
 アルメリア。そしてフラン。
 二人は一度手を繋ぎ、互いの顔を見て強く頷いてから手を離した。
「アルメリアちゃん。本当に、いいお友達を沢山もったのね」
「そうかしら。まだまだよ、私は」
 アルメリアはこれまで一度も開かなかった腰のポーチを解放すると、タロットカードのデッキから数枚を取り出した。
 扇状に開く。
 『決意』『勇気』『信念』『希望』古代文字で刻まれた言葉が合わさり、淡く光をもっている。
 タロットカードに描かれたのはおとぎ話に語られた勇者とその協力者たちである。
 零番目のカードを抜き取り、翻した。
「私は、物語の誰かになりたかった。冬の王を打ち倒した勇者アイオン。妖精郷に春をもたらしたロスローリエン。そんな風に語れる誰かに、なりたかったのかもしれないわ」
「今更ですよ、アルメリア様」
 フェデラーが隣に立ち、おかしそうに笑った。
 『絵本の外の大冒険』を初めて、アルメリアは世界中を駆け巡った。
 そしていま。
「あなたはもう、物語に語られる英雄です」
「そうだよ、アルちゃん! すっかり有名人じゃん」
 にこにこ笑って、目一杯にため込んだ森の魔法を全身にみなぎらせるフラン。
「ウホ」
 親指を立てるゴリラ。
 アルメリアは頭痛を感じて頭に手を当てた。
「あなたも大概よね……フラン」
「もう、あたしたちは物語の読者じゃないんだよ。大冒険の中に、いるんだよ」
「そうかもしれないわね。だったら――」
 カードを放つアルメリア。
 と同時にキトリニタス・タイプ・アルメリアは足を大きく踏み出し、『竜囁魔術(ドラゴンブレス)』を放った。
 理解不能な特殊な言語が魔術そのものとなり、膨大な光が放射される。
 飛び出していったのはフェデラーとゴリラだった。
 光の中にかき消える――が、それだけではない。
 それぞれフランとアルメリアを掴み、高く上空へと放り投げたのだ。
 ハッと顔を上げ、連続で魔術を放つ。
 デッキのカード全てを解放して大量の障壁を張り巡らせるアルメリア。
 カードは悉く焼け焦げたが、最後に残った白紙のカード二枚だけが光を放ってそこにのこった。
 ぱしりとつかみ取るフラン。手の中で、カードの絵柄がフランとアルメリアに変わった。
「タダで終わらせない! あたしたちの『冒険』をみせてやる!」
 力強く握った拳がキトリニタスの顔面めがけて繰り出され、至近距離で放たれたブレスが衝突。
 フランは弾き飛ばされるも、そうして出来た一瞬の隙をアルメリアの直列魔方陣が埋めた。
 距離にして40メートル。大量の魔方陣が連なり連なり、キトリニタスの眼前3センチの距離に最後の魔方陣が開いた。
 目を見開くキトリニタス。
「受けなさい、『私』!」
 狙い澄ました超高熱の雷が、緑の竜となってキトリニタスの顔面を打ち抜いていく。

「はぁ……はぁ……」
 膝を突き、今にも倒れそうに地面に片手をつくアルメリア。
 かたわらにはフランが倒れ、ううんと小さく唸っている。
 もう一歩も動ける気がしなかった。
 対して……。
「■■■■、■■■■■■!」
 右腕と左手首を失い、更に下顎から上を喪失したキトリニタス・タイプ・アルメリアが、言語とすら思えないような音声で『笑って』いた。
 じゅくじゅくと肉体が再生を始める。
 衣服らしい衣服を纏わず、最低限の布だけを貼り付けて両手と頭を再生しきったキトリニタスは、『うふふ』と笑って舌なめずりをした。
「アルメリアちゃん。アルメリアちゃん。とっても、とっても、嬉しいわ。こんなに強く、たくましくなって。わたし、とっても嬉しい。この感情がなんなのか、わたしにも分からないけど……」
 もはや動けず、魔法の一発もうてないアルメリアに近づき、彼女の頬に手を当てた。
「もっともっと、もっともっともっと強くなってね。わたし、ずっと待っているから」
 そこまで語ると、キトリニタスはアルメリアから手を離して数歩後退。あたりを包む煙霧の中に消えていった。

成否

失敗

MVP

フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘

状態異常

ツリー・ロド(p3p000319)[重傷]
ロストプライド
桜咲 珠緒(p3p004426)[重傷]
比翼連理・攻
ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)[重傷]
風吹かす狩人
フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)[重傷]

あとがき

 ――『大魔女の庭』を防衛していたアルベド部隊は壊滅しました。
 ――キトリニタス・タイプ・アルメリアは姿を消しました。行方は分かっていません。
 ――キトリニタスの撃破には失敗しましたが、戦場のクリアリングには成功。味方部隊の進撃が始まります。

 ――倒したアルベドのうち半数からフェアリーシードを回収。妖精たちは助かるとみられています。

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