シナリオ詳細
再現性東京2010:結婚? してますけど? 画面の中から? 出てこないだけですけど?
オープニング
●ある日の授業にて
「――という事だ。この化学式は試験に出るので覚えておくように」
ある日の希望ヶ浜。ある日の希望ヶ浜学園。
化学教師である『練達の科学者』クロエ=クローズ(p3n000162)の授業が、静かに行われていた。
その教室の片隅――机の上に教科書を立てて、一見勉学にいそしんでいるふりをしながら、教科書の影にaPhoneを隠し、その画面を見つめている一人の男子学生の姿あった。
aPhoneの画面には、近頃流行のAIコンシェルジュが起動していて、そのキャラクターである『星観ラン』の姿が見える。
「ねぇねぇ、良一君。授業中だよ。ちゃんと受けなくていいの?」
星観ランが、むっ、とした様子で男子学生――国見良一へと声をかけた。
もし『星観ラン』と言うアプリケーションに詳しい者がいたら、その発言に驚いたかもしれない。
AIコンシェルジュとは、基本的に音声入力に反応し、アプリの起動やネットワーク検索、質問への返答を行う、単純な機能のアプリだ。自発的に会話を行うことはもちろん、周囲の状況を把握し、適切な会話を行う事、使用者の名前を憶えて発話することなどはできないはずである。
加えて――その星観ランは、あまりにも、複雑な表情やポーズをとってみせた。本来星観ランには、プリセットされたポーズや表情しか存在ないはずである。それはまるで、さながら、生きているかのように――。
「いいんだ。ランちゃんと話してる方が楽しいし」
どこかとろり、とした表情で、良一は言う。
「もう、悪い子。でも、ランもそんな良一君が好き」
星観ランも頬を染めて、笑った。
――そんな彼らのひそやかな睦言を、クロエは目の端でとらえていた。ふむん、と唸る。しかしクロエは授業を中断することなく、ひとまず授業を続行するのであった。
●討伐せよ、デジタルサキュバス
「デジタルサキュバスの類だな、あれは。まさか生徒が引っ掛かるとは。情けないというか、相手の手練手管が上だったというか……」
放課後、希望ヶ浜学園高等部。その化学準備室の自分の椅子に座り込んで、クロエは招集に応じてくれたイレギュラーズ達へと、そう告げた。
デジタルサキュバス? とイレギュラーズ達は首をかしげる。クロエはカップにコーヒーを組み、イレギュラーズ達へと配りながら、
「ああ、外での活動がメインだった君たちにはなじみが薄いか……コンピューター上に存在する架空のキャラクターに魂が宿ったタイプの『夜妖<ヨル>』だ。持ち主を誘惑して、その生命力を吸い殺してしまう」
と、答える。イレギュラーズ達は驚いた。そのような事があるのか――クロエはゆっくりと頷きながら、
「だが、例えば――人形に命が宿って、人を呪う。例えば、幽霊画に魂が宿って、中から抜け出す。こういった事例ならば、外にもあったんじゃないかな? 基本は同じだよ。人間が作った、人間を模した精巧なものには、魂が宿る。再現性東京の言い伝えに則って言うなら、付喪神のようなものだ」
なるほど、そう考えれば――納得できるかもしれない。クロエは自分でもコーヒーをすすりつつ、続けた。
「デジタルサキュバスに取り付かれているのは、国見良一という当校の学生だ。取り付かれた人間は著しく判断力が鈍るから、aPhoneを捨てろと忠告しても、捨てたりはしないだろう」
まぁ、aPhoneは、希望ヶ浜で生きていく上での、生活必需品だ。捨てろと言われて、ハイ捨てます、と言うのも中々な難しいだろうが。
「そこで……君たちには、彼と接触し、aPhoneを破壊してほしい。すでにこの後、進路指導の名目で視聴覚室に呼び出しているから、そこでaPhoneを取り上げて破壊するんだ……だが、少し問題がある」
クロエの話によれば、デジタルサキュバスはすでに相当、良一からエネルギーを回収しているらしく、外部へ攻撃を行えるほどに成長している可能性があるのだという。
また、既にデジタルネットワーク生命体となったデジタルサキュバスは、ネットワークがつながっている限り、それを通じて外部へと逃げだしてしまう可能性があるのだ、とも。
「そこで、練達で開発した強力なジャミング装置を使う。これを使えば、視聴覚室内部のネットワークが遮断され、デジタルサキュバスも逃げ出すことは出来ないだろう。このジャミング装置の稼働時間は4分間。強力な分短いが、その間に何とかaPhoneを破壊してほしい」
クロエは手の平ほどの大きさのジャミング装置をイレギュラーズ達に託しつつ、ふむん、と唸った。
「……こんな所だろうか。では、『夜妖<ヨル>』の討伐をよろしく頼むぞ。くれぐれも、君たち自身が、デジタルサキュバスに囚われないようにな」
少しばかり冗談めかして、クロエは君たちを送り出した――。
- 再現性東京2010:結婚? してますけど? 画面の中から? 出てこないだけですけど?完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年08月27日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●デジタル・アナログ・リアル
「クローズ先生、遅いな……」
国見良一が、視聴覚室に設置された椅子に腰かけながら、ぼやく。
進路指導のため――と呼び出された彼だったが、呼び出した当人である化学教師、クロエの姿はない。放課後もしばし時が過ぎ、夕暮れと夜のとばりが混ざった黄昏時の明かりが、室内を照らしている。
「ねぇ、良一君、帰っちゃおうよ。きっと先生、良一君のこと忘れちゃってるんだ」
aPhoneから声が聞こえる。デジタルコンシェルジュアプリのキャラクターである、青髪の少女、星観ラン――そのデータを乗っ取り改ざんした夜妖、デジタルサキュバスだ。それは良一を誘惑し、自身の生命力を自身の餌とする夜妖である。
可愛らしさを演出するように、唇を尖らせてみるラン――その内心はさておき、帰りたいというのは事実である。
と言うより――進路指導などくだらない。もうじき良一の生命エネルギーは、自分に食いつくされるのだ。進路など――先のことなど、彼にはもう存在しないわけである。
と。
がらり、と視聴覚室の扉が開かれた。中に入ってきたのは、クロエ――ではない。それは、学園の養護教諭の一人である、『la mano di Dio』シルキィ(p3p008115)、そして園芸の教師である『子連れ紅茶マイスター』Suvia=Westbury(p3p000114)だった。
「あれ、シルキィ先生に、Westbury先生。どうして二人が?」
「クロエちゃんが急用でねぇ。わたしたちが代わりにお話聞くことになったのぉ」
にこにこと――シルキィが微笑む。
「『あなた達』と、しっかりお話をしないといけませんからね」
同様に、Suviaもまた、微笑んだ。
二人の笑顔に――ランは本能的な忌避の感覚を抱いた。
「良一君、帰ろ」
静かに――しかし強い口調で。ランは言う。
「え、でも」
良一が声上げるのを遮って、シルキィは声をあげた。
「そうだよぉ、ランちゃん……言ったでしょ? わたしたち、あなたにお話があるんだからぁ」
その言葉と同時に、6名の男女が視聴覚室に飛び込んできた。それは、ローレットのイレギュラーズ……怪異討伐の専門家たちだ。
かちり、とシルキィは、手にした小さな装置のスイッチを入れた。途端、甲高い音が一瞬鳴り響き、すぐに無音になる――良一には、何が起きたのか分からない。だが、ランだけが、耳を押さえ、苦痛に歪んだ表情を見せた。
「ランちゃん……?」
良一が心配げに尋ねるのへ、ランは声を荒らげた。
「ジャミングか!?」
「せいかぁい。約束通り進路指導と行きたい所だけど……このままじゃ、良一くんに未来はない。それに時間もないしぃ、ランちゃん、あなたの事、力づくでも止めさせてもらうよぉ!」
「デジタルサキュバスって言ったわね? こちとらアナログサキュバスですけど???」
『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)がにやり、と笑ってランの寄生するaPhoneを睨みつけた。利香の身を包む制服は、希望ヶ浜のそれではない――体のラインの良く出る、些か煽情的なデザインの物である。
「謎の女子小学生(自称)――モニカちゃん推参!! こちとらリアルサキュバスぞ???」
くい、と胸を張って宣言するのは『太陽石』モニカ(p3p008641)である。二人のサキュバスの登場に、ランは苦虫をかみつぶしたような表情を見せた。
「同業者か……人の獲物を横取りに来たってわけね!?」
「は????? 横取り????? わかってないわねぇ。夢魔は襲わず、ただ誘うだけ……人の領分踏み込んでるんじゃないわよこのやろー?????」
「私たちが、真のサキュバスの――そう、ゆーわくってヤツを見せて差し上げますし! よーし、やっちゃいましょうリカちゃん先輩!!」
「ランちゃん、これって……」
事態を飲み込めない良一が声をあげる。誘惑が聞いてる分、頭の回転が鈍い……ランは内心舌打ちしつつ、
「良一君、あの子たち、私を殺そうとしてるの!」
怯えるような表情を見せつつ、ランが声をあげる。
「そんな……どうして!」
「わからない、けど……おねがい、私を守って! 良一君!」
ぐらり、と良一の視界が揺れる。高濃度で打ち込まれたランの魅了のプログラムが、良一の思考を霞ませた。
「わかった……ランちゃんは俺が守る……!」
良一が手にしたのは、対妖用の刀――それを抜き去り、イレギュラーズ達へと威嚇するように向ける。
「あれは……チャームの魔術なのか? 機械で、プログラムで、サキュバスで……夜妖ってのは何でもありなのかよ」
『機工技師』アオイ=アークライト(p3p005658)が警戒しつつ、ぼやく。
「まぁ、またよくわっかんねえもんが出たけど、人に害を為すものなら倒すべし……というか壊すべしか?」
「良一さまが健全な学校生活を過ごせる様、アレを破壊しましょう」
『はじまりはメイドから』シルフィナ(p3p007508)が短剣を構えつつ、言った。
「やーん、怖いー」
ランが怯えるように、媚びるように声をあげる。それだけで、良一のこちらに対する敵意は高まったようだ。精神の深い所まで、ランに侵されているのだろう。
aPhoneが、重力に逆らうように、宙を浮遊した。それもまた、デジタルサキュバスたるランの能力だろう。外界に影響を及ぼす力を行使できるとは、どうやら相当、力を蓄えている様だ。
「はっ、惚れた女のために命張るってのは男の甲斐性だな! 女に破滅させられるのもまた、男の特権よ。だがな、悪いが今日は、それを止めに来たんでな!」
『朱の願い』晋 飛(p3p008588)は楽しげに笑った。
「ランちゃんは、俺たちで相手させてもらうぜ! ぶっ壊れるまでな!」
「AIコンシェルジュかぁ……私もいつでも褒めてくれる理想の王子様なんかが欲しいなぁ……こほん。それはさておき、純真な少年を食い物にする様な悪い魂は、輪廻の輪に還してリサイクルしちゃおうねっ!」
『なぐるよ!』巡理 リイン(p3p000831)は、『Reintermination』を構える。
「さぁ、はじめるよぉ、皆! 4分以内に、決着をつけるよぉ!」
シルキィの言葉に、イレギュラーズ達は一気に駆けだした。
●誘惑・蠱惑・困惑
「――ふっ!」
呼気と共に、シルフィナがラン――宙に浮かぶaPhoneへと突撃。破壊すべく短刀を振るう――が、ばぢい、という音とともに、中空で何かが衝突する感覚が、シルフィナの手を襲った。
「――魔術障壁、ですか」
シルフィナが呟く。aPhoneを守る様に、何枚もの障壁が、イレギュラーズ達の攻撃を防ぐべく瞬時に展開されている。
「あら、守られてるばかりが女じゃないわよ」
ランの呟きと共に、無数の魔法陣が周囲に展開される。同時に放たれる闇色の雷が、黄昏時に視聴覚室を走った。激しい雷撃が、イレギュラーズ達の肌を叩く――走る熱さと痛み。
「厄介ですね……この性質、正体はよくわかりませんが、練達のゴーストのようなものなのでしょうか」
Suviaが痛みに顔をしかめる――同時にポーションを取り出し、傷口に振りかけた。瞬く間に傷を治す魔法の薬液が、その痛みを和らげる。
「良一さんの方は――」
Suviaが視線をやれば、利香に斬りかかろうとする良一の姿が見えた。利香は任せて、とウインク一つ。良一を弄ぶようにその攻撃をさばいて見せる。
「そんな子より私と一緒に遊びましょう? いひひひ……♪」
挑発するように、誘惑するように――開いた胸の谷間を見せつける利香。放たれる魅了の力が、ランのチャームと良一の中で激しくぶつかり合う――と書くとサキュバス同士の魅了魔術のぶつかり合いのように感じるが、まぁ概ね良一がどっちに転ぶか迷っているだけである。とはいえ仕方あるまい。健全な青少年にとっては、清楚な女の子の(ように見える)ランと、えっちなお姉さんの利香に魅了されては、こればっかりは激しく迷うのは仕方あるまい。
「いひひ♪ とぉっても、柔らかいわよぉ?」
何が、とは言わないが、何が、かは分ってしまう。いや、多分利香は――全部柔らかい気がする。これは良一君の個人的な感想である。思わず生唾を飲み込んだ。良一君が。
「ねぇねぇ、お兄さん……私たちと一緒に遊ぼうよ。きっと、楽しいよ?」
ここでモニカの参戦だ! 小さな体ながら、いや、それ故にその上目遣いの眼から感じる淫靡な雰囲気は、禁忌の果実に手を伸ばすに等しい。それを味わえるとして、味わわないものがいるのだろうか――しかも合法だぞ。
「う、うっ……」
二人のサキュバスから放たれる強烈な魅了(アピール)。流石にこれには純朴な青少年が太刀打ちできるものではない。手にした刀から力が萎える――トドメとばかりに、利香は良一を優しくハグした。その胸に、顔を埋めさせる。温かな体温。柔らかさ。甘い香り――脳裏を犯していく。
「もう、危ない刀を振り回して……ダメな子ねえ? でもお姉さんは優しいから許してアゲル♪」
「ねぇ、お兄さんのこと……少しだけ、つまみ食いさせて?」
マジで? いいよ?
「うん、あっちは大丈夫そうだ」
思わず目をそらしながら、アオイは言った。なんだか頬が熱い気がする――いやぁ、あれ以上あっちを直視してはいけない気がする。色々と。
こほん、と咳払い一つ。
「お前を守る囮(デコイ)は無力化されてる――諦めるんだな!」
投げつけたスパナ――それに追走する歯車が、がりがりと音を立てて魔術障壁を削っていく。
「くっ……あんなののどこがいいのよ! あのスケベ小僧!」
ランがたまらず吠える。
「そのスケベ小僧のスケベ心を弄んでるのは、そっちも同じだろうが!」
アオイが叫ぶと、歯車が激しく回転した。ばりん、と音を立てて、魔術障壁がまたいくつか割れて消えていく。
「おう、だったら俺に乗り換えねぇか?」
飛がにかり、と笑って、ランへと声をかけた。
「他人の女には触らない主義の俺でも、ランちゃんは可愛いと思うぜ? 何より他の星観ランとは一味違うぜ、その意思がある眼差しに絶妙な仕草、たまらねぇな」
一気に接近する――真正面からaPhone、その中のランと目を合わせる。
「良一なんざやめて俺の女にならねぇか? 俺の女になる以上、俺が全力で守ってやるぜ? 艷やかな髪も、その柔らかな曲線美も、希望が浜に降り立った女神だぜ」
「――そうね。それも悪くない……けど」
ばちり、と音を立てて、闇色の雷が飛を襲う――飛はギリギリでそれを跳躍して回避した。
「アンタの仲間の同業者がムカつくのよねぇ……!」
憎々し気に表情を歪めるラン。その本性が徐々に表に出てくるにつれて、その表情また醜いものへと変貌していく。
「はっ、流石サキュバス! そう簡単には落ちねぇか。いいぜ、男ってのはな、そう簡単になびかねぇ女に惚れるってもんよ」
地に降りたち、手にした凶器で魔術障壁を殴りつける飛。
「だがランよ、男は餌じゃねぇ、男は獣だってぇ事をよーっく教えてやるぜ! 俺の拳に魂込めて、お前の魂に俺って男をマーキングしてやっからよ!」
「そう言う押せ押せ系の男は、趣味じゃないのよ! なよなよしてる方が食いやすいわ!」
魔術障壁に力を込めて、飛を押し返そうとするラン。だが飛は逆に強く凶器で殴りつけると、魔術障壁をまた数枚破り去った。
「はっ! 結局そうやって、相手の事餌としか思ってないんだ。所詮見せかけの愛なんてこんなもんですよ、一万年出直してきなさいってんだ!」
モニカが胸を張って、そう言った。相手も自分も心地よく。一夜の夢の提供と、その報酬にささやかな愛を――それがサキュバスと言うものである。お相手には、敬意と誠意を大切に。モニカはそう思う。
「なんだか激しく風紀が乱れてる気がするねぇ」
養護教諭としては、なんだか見過ごせない気がしてくるシルキィである。
「やっぱり、そう言うのの源はやっつけるよぉ!」
黒いキューブを解き放つシルキィ。放たれたそれは魔術障壁ごとaPhoneを飲み込み、その闇の内へと飲み込んでいく。キューブに内包されしは、あらゆる苦痛――それがランを、デジタルサキュバスのプログラムを侵蝕し、内部からダメージを与えていく。
「ちくしょう! あんたも! ふわふわしながら保健室で無意識に生徒を誘惑してるタイプだわ!」
「失礼だねぇ、そんなことないよぉ!」
ムッとした様子で反論するシルキィ。でもナイスバディだからなぁ……。
「サキュバスしかいないのか、ここには……」
思わずぼやくアオイへ、
「だからぁ、わたしは違うよぉ!」
抗議の声をあげるシルキィである。でもシルキィ先生もすごくいいと思う。これは良一の個人的な感想であるが。
「っとと、皆ぁ、時間がないよぉ!」
シルキィが声をあげた。手元のジャミング装置の活動限界が近い。
「了解っ! 一気にケリをつけますっ!」
リインが『Reintermination』を振り上げ、突撃――魔術障壁に向けて、一気に振り下ろす! 斬! 刃が魔術障壁を一気に切り裂き、aPhoneを露出させる!
「あんたも――」
ランが吠えるのを遮って、リインは叫んだ。
「念のため言っておくけど、私はサキュバスじゃなくて死神だよっ!」
『Reintermination』を振るう――aPhoneがとっさに後方へと飛ぶ――ちっ、と音を立てて、刃がaPhoneの画面を切り裂いた。横一文字に、aPhoneの画面ガラスに切り裂き線が走る。
「ひっ……!」
ランが悲鳴をあげた。なけなしの力を込めて、さらに後方へ跳躍――するのを、Suviaの魔性の茨が絡めとった。逃げられない! ランはとっさに、魔術障壁を限界まで展開する――。
「これで――!」
アオイが放つ歯車が、魔術障壁を破壊する! 一枚、二枚――。
ぶつん。と。
シルキィの手元で、音が鳴った。
提供されたジャミング装置が限界を迎えた音だった。
「しまっ――」
シルフィナが思わず声をあげる――ジャミングが解かれたことに気づいたランは、その顔を邪悪に歪めて見せた。
「逃がすな! とどめを!」
アオイが叫ぶ。歯車が三枚目の魔術障壁を破壊し、aPhoneへと迫り――。
「覚えてなさいよ! 特に同業者! あんた達、絶対に許さない……!」
ぶち、とその画面が暗転する。同時に、aPhoneが地に落下した。刹那の後にその空間を、アオイの歯車が通過していく。
飛がとっさに駆けだした。aPhoneの電源を投入する。
「音声入力をお願いします」
そこにいた星観ランは、テンプレートの言葉だけを告げる、ただのAIコンシェルジュだった。
飛が舌打ち一つ、頭を振る。
「逃げられた……」
リインは悔し気に、うめくのだった。
●ひとまずの結末
「やっぱり……少し衰弱してるみたいだねぇ」
利香の胸の中に抱かれた良一を看ながら、シルキィが心配げに呟いた。
ラン……デジタルサキュバスが逃走し、すぐに良一は正気を取り戻した。しかし、それまでにデジタルサキュバスに生命力を吸われていたのだろう、酷く消耗した様子を見せていた。
「けれど、命に別状はない……のは、幸いですね」
リインが胸をなでおろす。ひとまず、被害者を救う事は出来たのだ。そこは喜ぶべきだろう。
――問題は。
「雨宮さん……いえ、利香さん! 俺、俺……本気なんです……!」
「あら、そう……いひひ♪」
利香の魅了が強力に効きすぎているという事なのであるが。いやまぁ、多分魅了の魔術など使わなくても、えっちなお姉さんに戦闘中ずっと弄ばれては、堕ちてしまうのもしょうがないだろう。健全な青少年なんだぞ。
「しょうがないわねぇ。『雨宿り』って言う宿があるから、元気になったらいらっしゃい? 住所はねぇ」
「いや、営業すんなよ……」
アオイが思わず突っ込んだ。
「うんうん、これがサキュバスの正しい姿だね!」
モニカが満足げに頷く。そう言う事らしい。
「しかし、逃げられちまった……って事は、シルキィちゃんとのデートはお預けかねぇ」
飛がうなだれた。ひとまず被害者を救えたことは事実であるが、討伐対象が逃走してしまったことも事実だ。任務としては。失敗、という事になるだろう。大団円、とはいかなかったわけだ。
「厄介ですね。警戒を続ける必要があるでしょう」
シルフィナが呟くのへ、
「そうですねぇ。またうちの生徒が狙われなければよいですけれど……」
Suviaが頷いた。
結果はさておき、イレギュラーズ達の任務はここに幕を閉じた。
サキュバスから救われた少年は、また別のサキュバスに強烈に魅了されてしまったわけだが――。
「あら、ハッピーエンドよ? いひひ♪」
口元に人差し指などを当てつつ、利香は妖艶に笑ってみせた。
そう言う事で、良いらしい。
成否
失敗
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
目標には逃げられてしまいましたが、ひとまずハッピーエンドという事で。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
僕もデジタルサキュバスに吸い殺されたいな、とか思ったり思わなかったりしました。
●成功条件
1.4分以内に、国見良一のaPhoneを破壊する
2.国見良一が生存している
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●再現性東京2010街『希望ヶ浜』とは?
練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
それも『学園の生徒や職員』という形で……。
●希望ヶ浜学園とは?
再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。
●夜妖<ヨル>とは?
都市伝説やモンスターの総称。
科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
関わりたくないものです。
完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)
●状況
デジタルサキュバスと呼ばれる『夜妖<ヨル>』が発生し、希望ヶ浜学園の生徒、国見良一が憑りつかれてしまいました。
このままでは彼は餌にされ、その生命エネルギーをすべて吸われてしまうでしょう。
彼を助けるためにも、デジタルサキュバスの寄生するaPhoneを破壊する必要があります。
デジタルサキュバスの逃亡を防止するため、練達製のジャミング装置が、皆さんには支給されています。しかし、このジャミング装置は4分間しか機能を発揮しません。
また、デジタルサキュバスに魅了された国見良一自身も、皆さんの敵となって襲い掛かって来るでしょう。
これらの妨害と制限を突破し、見事aPhoneを破壊するのが、皆さんの任務です。
作戦決行時刻は夕刻。視聴覚室が舞台ではありますが、戦闘上での弊害や、移動可能距離の制限などはないものとします。
●エネミーデータ
デジタルサキュバス・星観ラン ×1
国見良一のaPhoneに寄生する『夜妖<ヨル>』です。青髪ストレートのマジメキャラ。胸はおっきい。
耐久力はaPhone相当ですが、破壊を免れるために周囲に防御障壁を貼っており(ストレートに言うとHPがあります)、また外部へ神秘攻撃や『魅了』『呪い』を付与する攻撃など行う為、簡単には破壊できないでしょう。
なお、良一を好き、と言うような言動をとっていますが、本心は実に残虐であり、良一の事も餌程度にしか思っていません。
国見良一 ×1
デジタルサキュバスに取り付かれてしまった被害者です。
ですが、デジタルサキュバスに強力に魅了されているため、彼女を守る様に行動します。
イレギュラーズの皆さんほどの実力者ではありませんが、彼もまた『夜妖<ヨル>』と戦う希望ヶ浜学園のひとり。それなりの戦闘能力はあります。
主に刀を用いた物理攻撃を使用してきます。
なお、彼もまた被害者であるので、ある程度傷を負わせる程度は許容されますが、命を奪う事は避けてください。
デジタルサキュバスが撃破された場合、彼はすぐに正気に戻ります。
以上となります。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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