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シナリオ詳細

彼女たちの聖戦

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●隣人愛の適用範囲
「あら。アルマンダ様のお姿が……」
 聖教の国、山間に建つテオドラ女子修道院の礼拝堂には守護聖人たちの絵姿が立ち並び、乙女たちを日々見守っている。建物自体もそれなりに歴史があり、老朽化が心配になって来る頃合いだ。
 この修道院の主たる聖人、勇士アルマンダのもの以外にも聖人の絵姿や彫像は幾つかあり、同様に劣化している。ゆくゆくはすべて修復すべきだが、美術品の修復は難しく、一度にそう出来るものではない。修道院長と祭司を兼ねる女性、タルサはどうすべきか思考を巡らせる。誰に相談しようか、そう考えていた矢先。

「シスタータルサ! ご機嫌よう」
「失礼します。シスタータルサ」

 元気な声と静かな声に振り返れば、ふたりの副修道長、カティアとジルダの姿があった。二人とも信仰に篤く勤勉で、タルサと共に山間の花園を支える娘たちだ。
「シスタータルサ。あの、気がかりな事があるのですが……」
「私もです。……ああ、シスターカティア。どうぞお先に」
 謙譲の美徳を実践するジルダと、遠慮なく受け取るカティア。感謝をもって受け取る事も、また美徳である。
「ここ最近、皆さまの絵姿が少し崩れていますよね。アルマンダ様は勿論ですが、他のお方も……」
「ええ、シスターカティア。ちょうど、私もそれで悩んでいたところなのです」
「アルマンダ様は真っ先として、次に修復すべきなのは、アルマンダ様のお次に重要なお方で」
「……え、ええ」
『アルマンダの次』というカティアの言葉に、ジルダの眉がぴくりと動く。二者の間に緊張が走る。彼女たちは、何処に出しても恥ずかしくない神の徒なのは疑いないのだが、ひとつだけ。

「次に重要なお方は、もちろんフロリエル様ですよね! 何しろ最初に啓示を授けられ、ずっと共に戦い、やがて伴侶となられたお方なのですから!」
「……は?」
 カティアに発言を譲ったジルダの目が、みるみる吊り上がる。

「シスターカティアは、少々勘違いをされておられるようですが。二番目に重要なお方といえば、人の立場ながらもアルマンダ様を……それこそ幼い頃からずっと支えておられたルルナ様でしょう。第一、ルルナ様の方がアルマンダ様をずっと長いこと支えておられましたよ」
 物静かそうなジルダが、決河の勢いで一息に語る。
「あ? ルルナ様って、ずっと後ろで守られてただけでしょう? 自分で武器を取ろうともしないで?」
「何も、武器を振るうだけが戦いではありません。精神的な支えというものが、我らテオドラの子に分からない訳はないでしょう? ですから、ご伴侶だってルルナ様に決まっているというか、流れを読めば分るでしょう。常識的に考えて」
「常識? その常識というのは、聖典や戒律にそう書かれていたの? シスタージルダの思い込みではなくて?」
「わざわざ書くまでもない、という事ですよ。だいたい貴女は、普段からものを考えなさ過ぎる。それで迷惑を被った姉妹たちが、今までどれほど居たことか」
「お、お待ちなさいふたりとも! アルマンダ様の御前ですよ!」
 最重要な聖者と院長の静止でふたりは押し黙り、結局、有耶無耶のまま聖堂は無人となった。

(ああ。やはり、こうなってしまいますよね……)
 ふたりの言は『間違ってはいない』というか、聖典の何処を探してもアルマンダの伴侶についての記述が無く、解釈は幾つかあるものの議論のテーブルにはほぼ上がらない。
 熱心すぎるが故の激情と敵意。それが、神の徒ふたりの唯一にして最大の欠点だった。

 礼拝堂を去ったシスターふたり。敬愛する二者の手前一度は引いたものの、やはり腹の虫が収まらぬ。カティアとジルダ、それぞれに付く修道女たちも集まってきていた。
「大体ねぇ、ずっと前から思ってはいたけど! おかしいじゃないですか! アルマンダ様が傷ついた時も碌に何もしなかったおん……お方が! 彼と並び立って彼女ヅ……伴侶となるなんて!」
「そちらこそ、おかしいと思わないのですか? 確かにフロリエル様は御使いであらせられますが、ぽっと出……急に入ってきた第三のお方にアルマンダ様がなびくなんて。ルルナ様には、啓示を受ける前からの積み重ねが長くあるというのに。歴史が違うのですよ、御使い様とは」
「おだまらっしゃい! 長さじゃなくて、どれほどの熱をもって愛したか! その方が、大事に決まっているではありませんか! それでもあのおん……ルルナ様だと仰るシスター・ジルダと姉妹の皆さまは、愛を感じる心が足りないのでは?」
「そちらこそ。そもそもあのめぎつ……フロリエル様がもたらしたものって、相当に理不尽な試練ばかりだったではありませんか。その度にアルマンダ様をお支えしたのがルルナ様ですよ。第一ルルナ様だって守られているだけではありません、彼女も後々、力を得たではありませんか。それでもあの頭沸い……フロリエル様の方だと仰るのなら、聖典の文章や文脈を正しく解せず、好き勝手に己の理想を押し付けているという事になるのでは?」
 言い争いの様相は参加の姉妹たちを巻き込んで激化し、徐々に地獄の様相を呈し始める。
 なまじ、それぞれの解釈の先導者たるカティアとジルダのふたりに強いカリスマがあった事も災いして、伝統ある修道女たちの花園は分裂の危機に陥る事となった。

 程なくして、カティア派とジルダ派、どちらか片方が歴史あるテオドラを離れ、新たな教義を立ち上げる事となった訳だが。
 どちらがテオドラを離れるか。そして、テオドラから離れた一派はどうなるのか。
「つまり、互いに家族や隣人ではなくなる」
「隣人ではない、という事は――」

●正義の敵はまた別の正義
『どうか。どうか彼女たちを止めてください』
 ローレットに届いた依頼の手紙は、切羽詰まった感情に満ちている。依頼主、院長のタルサのの青ざめた表情が目に浮かぶようだ。プルサティラが、今回の依頼と手紙について整理し、内容を読み上げていく。
「……タルサさんからのお手紙を要約しますと、修道院の中で聖典の『解釈違い』があり、それが元で……喧嘩、というよりも殺し合いにまで発展しそうなのです」
 タルサは昨晩『そうなる』と、夢でお告げを受けたという。そう頻繁に見るものではないが、これまでに受けたお告げはすべてその通りか、それより軽いものが実現しており、今回の背景から考えても、かなり正確と思われる。
「隣人同士の殺し合いというのはまず『不正義』ですし、夢はあくまで最悪の状況……というものだそうです。……勿論。勿論、何も起こらないに越した事は、ないのですが」
「仲良く、とか、人との違いを大切にしよう、とか。ただしい事は幾らでも言えるし、言う自由だって当然あるけれど。彼女たちは、納得しないでしょうね」
 思い当たる節があるのか、プルーはため息交じりにそう言った後、語気を強めて続ける。
「例えばだけど。同じブル―系でも、コバルト・ブルーとウルトラマリン・ブルーって見るからに別物じゃない。それを同じアオ、って括る人って信じられる? 今後のお付き合いも考えてしまうレベルよね。どうして分からないのか……それが分からないのよね」
 いつも通りなプルーの言葉。分かる者にはよく分かるが、分からない者には物凄く分からないしその分からなさが腹立たしいとか、第三者に伝わりにくいとか、複雑な問題――という事を言いたかったようだ。
「えー、と……あとは、あとはそうですね……信仰とか、そういった教えをどう解釈してどう実践するか、というのはつまり、その人の『生き方』そのものですよね。ですから、考えや解釈の否定というのはすなわち、その人の人生まるごとの否定になってしまうと……私にも信仰がありましたから、何となく想像は出来ます」
 死に救いを求め、その苦しさをまるごと肯定された事で立ち直ったプルサティラは彼女なりの意見を述べる。

「す、すみません、空気を重くしてしまったかも……そうですね、皆さんはとにかく、死者をひとりも出さないように動いてくだされば、との事です」
 時にぶつかり合う事もあるし、衝突も完全に『悪』と言い切れない事は多く、他人の信念を変えることは非常に難しい。おそらく杞憂に終わるだろうが、最悪の結果だけは避けたい。それが依頼主、タルサの願いだ。

「修道女といっても、近隣集落の治安維持も兼ねている子たちだから、結構手ごわいかしらね。変に手加減しようものなら、こちらがやられかねないわ」
 気を付けて、と。色彩の魔女があなた達を送り出す。予知された刻限までの猶予はあまり無い。
 最悪の結末を回避すべく、あなた達は急ぎ乙女の園へ向かう。

GMコメント

ねんがんの 天義シナリオを つくれたぞ! 天義と豊穣推しです。
A×BはB×Aと全然別モノなのになかなか分かってもらえない問題とかもありますよね。

・・・・・・・・・・

●目標
テオドラ女子修道院内の衝突に介入し、死者を出さないこと
(それ以外の要素はオマケなので触れても、触れなくても一切自由です)

●ロケーションなど
時刻はお昼、修道院前の広場です。山間の小さな集落の中にあり、
住民や他の修道女は怖がって避難していますので、
周りは気にしなくてOKです。

●エネミー

 〇【ロマンが大事な】カティア
  フロリエル(御使い)派筆頭。非常に情熱的で、信仰に入れ込んでいます。
  物理・神秘両方を扱うゴリゴリのアタッカーで、強いカリスマのもと
  傘下の修道女が自然にまとまっています。

 ・剣魔双撃:物至単/大ダメージ【ブレイク】
 ・ヘヴンレイ・ストライク(情熱的に布教):物近単/【ブレイク・連】
 ・もえあがるハート(とうとさをさけぶ):神近範/中ダメージ【炎獄・混乱】

 ・篤き信念【P】:
  守るべきものが彼女たちを強くしています(EXFが上がります)
  『余程明確な殺意を伴う攻撃』以外の攻撃では死亡しません。
  (必殺の攻撃は戦闘不能までに留まります)
  つまり『PCさん側は』割と雑に殴っても大丈夫です。
   
 〇フロリエル派・カティア傘下の修道女×8
  特に過激派の皆さんです。カティア同様、物理または神秘のパワー型。
  主な使用スキルは以下です。

  ・ヘイトレッド・トランブル:物至単/大ダメージ(少しFBし易いです)
  ・制圧攻勢(力こそ愛/パワー):物遠範/中ダメージ【弱点】
  ・アイアース(解釈を死守せよ):物至単/大ダメージ【攻勢BS回復5・自カ至】
  ・天使の歌:神自域/HP回復【識別】【治癒】
  ・篤き信念【P】


 〇【常識的に考えれば】ジルダ
  ルルナ(幼馴染)派筆頭。目の敵のカティアとは逆に、常にクールを心がけており
  己の信念についてはきわめてロジカルに話しますが、
  なんだかんだめんどくさいです。

  ・レインヘイルファランクス(冷静に布教):神近列/中ダメージ【出血・致命・弱点】
  ・クェーサーアナライズ:神自域/AP・BS回復【治癒・識別・副】
  ・指揮官適正【P】:R2以内の味方の命中・回避・CT上昇、FB下降
  ・篤き信念【P】

 〇ルルナ派・ジルダ傘下の修道女×6
  こちらも過激派です。若干数の不利がありますが、
  ジルダの指揮力+冷静な立ち回りで十二分にカバーしてきます。
  きわめてバランスの良い能力値と編成になっています。

  ・ロベリアの花(解釈憎いと人まで憎い):神遠範/小ダメージ【呪殺・毒・窒息】
  ・アッシュトゥアッシュ:神中単/やや大ダメージ【ブレイク】
  ・スーパーアンコール:神近単/AP回復【治癒】
  ・天使の歌:勿論ですが、『味方』だけを回復します
  ・篤き信念【P】

シナリオ開始時、カティア陣営とルルナ陣営との距離は10m、
皆さんと修道女たちの距離も10mほどになります。
特別な何かが無ければ、修道女陣営は解釈違い相手>
皆さんのうちで特に邪魔になる方、の優先順で攻撃してきます。

●情報精度:A
実際在籍する者からの情報で、非常に精度が高いです。
想定外の内容は絶対に起こりません。
また、依頼主が夢に見た内容は『予知される中で最も悪い状況』になります。

・・・・・・

★『アルマンダ記』
天義にいくつもある聖者の逸話集のひとつ、成立年代不明のエピソード群です。
基本を押さえつつも物語形式で分かり易い事から、テオドラ修道院の第一聖典となっています。
荒廃しきった時代、大いなる存在に見出された勇者アルマンダが
天からの使いや地上の仲間たちに支えられながら、やがてひとつの王国を成し
大いなる福音を広め、たくさんの子孫を成し、天寿をまっとうする……
というのが大まかなストーリーになります。

今回の争点、アルマンダの伴侶についての明記がされていません。
アルマンダに啓示をもたらし共に戦った御使いのフロリエルか、
幼馴染でずっと心理的支えとなっていたシスターのルルナとするかが、
彼女たちの争点になっています。
この辺りはあくまで枝葉部分だったのであまり協議される事がなく、
不明のまま時が過ぎています。

★オプション:アルマンダ記の作者になろう!
結構な長さで逸話も多く、人生に大事な事はすべてここに書いてある、
とまで言われています(なにしろ『聖書』なので)
「こういう話もあった」「いいや、アルマンダの相手はあの時助けた……」など、
でっち上げたストーリーや解釈、登場人物などが聖典に実際書かれていた
(エピソードとして存在する)内容になります。
シスターとのやり取りのネタや、EXプレ部分も含めたお遊びなどにご利用ください。

・・・・・・

なんか情報量多いですが、お前らの正義なんか知らねえ! で、
ガン無視制裁に来ていただいても一向にかまいません。
自由に遊んでいってください!

  • 彼女たちの聖戦完了
  • GM名白夜ゆう
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月29日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
一条 佐里(p3p007118)
砂上に座す
ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐
カイト・C・ロストレイン(p3p007200)
天空の騎士
メルトリリス(p3p007295)
神殺しの聖女
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
三國・誠司(p3p008563)
一般人

リプレイ

●ミクロな英雄物語
「おにーさんのお仕事は護る事だけど、今回は何だろうね」
「む、むむ? ご伴侶争い、ですか?」
 いつも通りのお仕事に来た『満月の緋狐』ヴォルペ(p3p007135)に、ピンと来ていない『戦花』メルトリリス(p3p007295)が首を傾げる。
「大から小まで、喧嘩の原因ナンバーワンは意見違いさ。それはある程度仕方ない。しかし、修道院の花同士で殺し合いとは」
 あくまで最悪の場合で、そこに至る確率は高くはないとの事だったが。
「元は同じ教えの元にあっただけに、少し悲しい気もしますね……神様も悲しんでいらっしゃる、ような」
「信仰の道は色々ある。天義にしては珍しくない事だが」
『天空の騎士』カイト・C・ロストレイン(p3p007200)が、妹を励ますように並び立つ。
「意見がぶつかる事くらいありますし、不透明な部分の所為でいがみあう事もあるけれど……」
 綺麗事で終えられない事柄なんて幾らでも、それこそ元の世界でも気が滅入る程に見てきた『銀の腕』一条 佐里(p3p007118)だが、この衝突はまだ救えると信じて。
 状況は既に始まっている。
 カティアとジルダ以下、修道女たちが二派に分かれて睨み合い、介入者たちも既に罵詈雑言の渦中にある。意見の否定か人格の否定か。ここに至ってはもはや、区別する事に意味は無い。
「わー。英雄もまさか自分の伴侶が誰かで争いが起きてるなんて知ったら、生涯独身宣言しそうだよね」
「はわわ、早く止めねばなりませんっ。神様も悲しんでいらっしゃるでしょう」
 ヴォルペは呑気に言い放ち、慌てたメルトリリスは声を上げる。
「あ、あのー! イレギュラーズです! 天義の、騎士です! 見習いですが……」
 その声は雑言に埋もれ、なかなか届かない。
「待って待って! 落ち着いて!」
『1680万色に輝く』三國・誠司(p3p008563)とカイトが割って入る。憎悪の爪牙に襲われた修道女を誠司が庇い、カイトはカティアを抑えに入る。
 誠司はこの場に挑む際、一切の武装を置いてきた。これは個人の信念への介入であり、どちらにも当然正義がある。
 故に決して“銃を向けない”。自身の発言に責任を持つ為に。救われた修道女は、その姿に『アルマンダ力の高さを見た』。
「部外者がどうこう言うのは良くないけれど……一度傷ついた以上は、部外者とは言わせない」
 多少強引な割り込みと思うが、最悪を避ける為の最善を。

「わたしは、アルマンダ記を読んだことは、ありませんけれど……皆様が、そこまで、熱中なさるということは、さぞかし、すばらしいものに、違いありませんの」
「ええ、今からでも是非に」
「歓迎するわ! 御使い様……フロリエル様がお素敵よ!」
「幼馴染のルルナ様でしょう。常識的に考えて」
『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は、修道院の双璧から猛烈な歓待を受けた。
「アルマンダ記! 天義女子としては読んでますとも!」
 生粋の天義人、『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は履修済みである。
「私は天義の聖奠聖騎士、サクラ・ロウライト! テオドラ女子修道院長の依頼にて止めにきました!」
 熱心なのは良いし気持ちは分かるが、少々のめり込み過ぎだ。サクラが横合いから介入し、両陣を三日月の軌跡で薙ぎ払う。その剣は不殺の祈り。
「ですです! 争いはやめましょう、刃物とかそゆのはいけません!」
 天にまします我らの神よ――メルトリリスが、やむなくジルダへ簡易封印を施す。傷つけたくはないが、終わらせる為にと。
「落ち着いて、お話ししましょう! あの! 聞いてますかー!?」
「聞いてないね、これは……コラコラ、落ち着いて! お互いの言い分は聞くから!」
 妹の為にも惨劇を防がんと、カイトが修道女たちを宥めんとする。兄妹の姿は、御使いのようで――
 彼らはかのロストレイン家。気づいた修道女が一瞬浮足立つも、血気盛んに上がった爆炎によって再びの殴り合いとなる。
「まあまあ、ここはひとつ。詳しくないおにーさんに、アルマンダとやらのお話を聞かせてよ」
 これは布教の好機と、カティアとジルダの両者がヴォルペに向けて早口に語り出す。
 あまりに多すぎる情報の圧を彼なりに整理したところ、御使いには運命的なボーイミーツガールの良さ、幼馴染には幼馴染の良さがあるようだ。
「どちらも素敵な考察だし、興味深いな。これだけの熱量で何かを想えるって、素晴らしい事じゃない?」
「ええ。素晴らしい、という事は、わたしにもよく分かりました」
 部外者ながら熱心に耳を傾けるヴォルペとノリアに対し、修道女たちの警戒が少しだけ緩む。ノリアが続けて問う。
「この聖典が、『最初から今ほどすばらしかった』のならば、成立年代不明、なんてことが、あるのでしょうか……?」
「それがですね。アルマンダ記の解釈は多岐に渡るもので……」
『星域の観測者』小金井・正純(p3p008000)は語る。信ずる道は違えど、解釈揺れはよくある事。あとから書き加えられた部分や見つかっていない部分も多く、伝わる過程での変容もあろう。
「私の解釈としては、これは己の信仰を見つけるためのものだと理解しています」
 誰を伴侶とし、どのような結末を迎えたのか。それは信じる者の手に委ねられ、『読み手が加わってはじめて完成する』ものであり。
「ですから、この争い自体がこの聖書にとって解釈違いなのですよ」
「私も同感ですが、なかなか届きませんね……少し、頭を冷やして貰いましょうか」
 修道女たちを縫い留めるように、佐里が正確に気糸を放つ。よりによってこの聖なる場所で、命の奪い合いなんて。
「譲れないほど大切な想いがあるのはお互い同じってこと、分かって貰えればいいんだけど……難しいかな」
 ヴォルペが呟く。情熱なき者は、正義にも悪にもなり得ぬもの。
 頭で分かってはいるけれど、という類のぶつかり合いに己が持たぬ情熱を見て、少しだけ眩しく思うのだった。

「……さて、語る事はひと通り語り終えました。私も参りましょうか」
 己は己の信じる道を。しかし、願わくば彼らにも星の導きがあらん事を。正純も静かに弓を引いた。

●献身の勇者
 七光纏う剣撃に、横一列を貫く氷槍。破壊の応酬が止まらない。
「そんなにはしゃぎたいなら、おにーさんと遊ぼうか!」
 ほどほどに信じる聖なるかなをその身に降ろし、どちらも大切に愛でようと、ヴォルペは修道女たちを手招いた。
 暴風さながらに暴れるカティアを、カイトは虚ろの魔剣で諫める。
「いだっ!?」
 ばこーん、と良い音が響いた。
「だから、武器をおさめろ! 死者が出る。血を流して何になる、神が御喜びになるとでもお思いか!?」
「でも! でも!!」
 その想いに『罪は無い』が、殺しともなれば絶対的に悪となる。それは共通の認識だ。
「お願い聞いて、もう争わないで! 天義は潔癖の国、争う血の色は好みません!」
 恐怖を砕く聖女の祈りが、一面に咲いた悪意の花を等しく打ち払う。
「こんなの誰も望んでいない。そうでしょう?」
「そうよ、やめなさい! 自分の事でこのような争いが起これば、アルマンダ様がお嘆きになるってわからないの!?」
 芒に月。殺人剣の極意をもって、不殺の月光を繰り出すサクラ。己が目指す信仰と、抑えようのない裡なる衝動は常に自身の中で衝突し、鬩ぎ合う。
 今でこそ受け入れる事が出来たが、どうにも出来ない事は痛いほど分かる。けれども、そう。

「カップリングは押し付けない! それが天義女子の嗜みだよ!」
 なるほどそれはカップリングと呼ぶのかと、同じ天義のロストレイン兄妹はひとつ学んだ。

 両陣の真ん中。遠き大海の抱擁に身を委ね、ノリアは語る。
「わたしは、こう、思いますの……『当初のアルマンダ記』も、たしかに、見事なものだったのでしょう……」
 しかし、今のアルマンダ記はどうか。その真価を知る者たちが、更に良くしようと変えていったのではと。
「つまり、その……伴侶が、書かれていなかったのにも、きっと、理由があるに、ちがいありませんの」
 アルマンダ記の編者とあらば、誰もが当然聖人・福者。伴侶を定める事は、そういった先人の意に反してはいないか。ノリアは疑問を投げかけ続ける。
 違う、そういう事じゃない、と殲滅術式が放たれるが、ノリアが動じる事は無く。術を放った修道女の方が、全身を刺す痛みによろめいた。
「これは、聖者の茨……言い争いの、その罰です」
 決して崩せない大海の如く。少女の棘を受けた修道女たちは、俄かに畏怖の念を抱いた。

 真横から降り注ぐ地上の流れ星。正純が広範囲に降ろした輝くものは決して対象を殺さず、力のみを奪う。
 容赦のない憤怒の赤と灰燼の光が迫る中、傷ついた修道女を佐里が片腕で庇い、サクラが自陣の後ろへ送る。
「怪我した人は、どうか下がって!」
「頼む! ……分かってくれた人は、手伝って欲しい!」
「あ、あの。私も……」
 カイトの説得が功を奏し、修道女の一人が申し出て怪我人の運び手を担う。
 僅かながらも届いた声に、ロストレイン兄妹は天に感謝の祈りを捧げた。

「なぁ、あんたらの力って何の為にある? 本気で互いを殺したいのか?」
 前へ進み出た誠司が、カティアとジルダの両者に問う。
 相手の為に曲げるとか、落とし所といった綺麗事では決して無く。きっとそう、この二人は『どうにもならない』。本当に倒れる位までやり切らなければ気が済まず、こちらを見向きする事も無いだろうが、誠司は決して諦めない。
「おにーさんは護る事がお仕事なんだ。どちらの花も美しいのに、片方だけしか選べないなんて勿体ないだろう?」
 両陣営をヴォルペは平等に愛し、もとい護って回る。
 歴史の真実に興味は無く、ただすべての花を護らんとしたヴォルぺだが――彼は『愛し過ぎた』。猛火に剣、あらゆる武器で瞬時に滅多刺しとなる。
 今回に関しては全くの余談、豆知識ではあるが、花の間に挟まらんとする男はかなりの場合において『不正義』の鉄槌が下りがちなのだ。
「神様は、どう解釈されても相手を尊び、理解することから始まるものです! どうか、これ以上は、やめて!!」
 メルトリリスが大怪我を追った修道女を苛烈な炎から庇い、火傷を負いながらも呼びかけ続ける。
「天義の裁判にかけ、嘆きの谷に身を投げたいのか!?」
 カイトはカティアを雷撃の一閃で打つ。自身への痛みも伴う一撃だが、生半可な攻撃では彼女を引かせる事も、崩す事も出来ない。
「ただ一つ以外を悪として刃を持つ心こそが、悪であり罪。だから、どうか。武器をおさめてください!」
 大粒の涙を零しながら、聖女はただ叫ぶ。今の彼女にはそれしか出来ない。
 お互いを許し合えないのは何とも難しく悲しいものと、涙を流す妹を見てカイトは思う。だからどうか、

 ――『光あれ』!
 機はまさに今と、サクラの声が高らかに響いた。

「推しではないカップリングを貶めるなんて言語道断! 自分の推しは絶対だとしても! 他人の推しも尊重しなさい!」
 修道女たちと同じ目線でサクラが語る。込み入り過ぎた話になっても、隣人愛の基本は同じ。
「お優しいアルマンダ様、フロリエル様やルルナ様もそんな事を望まないでしょ!」
 篤く信じる三者の名。修道女たちにぴったりと寄り添う聖騎士の言葉を聞いて、両陣営に動揺が走る。

 厄介な射撃を行ってくる正純にカティア派の拳が迫るが、月の加護を受けた弓の本体で殴り返し退ける。不意を突かれた修道女は、その場で派手に尻餅をついた。
「人の色恋に熱くなるのは勝手ですが、それで信仰を語るのは片腹痛いですねぇ」
 厄介なその気持ちを、そうと知って煽る正純。その言葉に反応した残りのジルダ派からも多少の流れ弾が飛んで来るが、それで良い。気を逸らせるならば。
「お互いにとって大切なことを、思い込みや願望で踏みにじらないでください。大切な事や大切な人へは、思いやって接する――それがあなた方の『道』でしょう?」
 佐里が修道女の一人を蹴飛ばし、気絶に追いやる。
「あなた達がその道へ踏み出した最初の一歩、最初の気持ちはなんですか?」
 きっとそう、分かってはいるのだ。だから思い出して欲しい。

 修道女はとうとう、カティアとジルダを残すのみとなる。二人の消耗も激しく、大技は打ててあと一回。
「……終わらせましょうか」
 その言葉に込められた感情は、如何なるものか。
 剛剣に氷刃、双方の最大火力が交差する中へ誠司が飛び込み、両者の武器を素手で掴む。掌に食い込む刃、流れる血に一切構わず、両者の武器を己の心臓へと向け。

「決意をみせてもらおう。その聖典が、その想いが傷つけ合う理由になるのなら――」
 出来るはずだろう? こんな、何処の馬の骨ともわからない男の一人くらい。

『解釈違い』がどんな意味を持つのか、誠司には分からない。それでも、悲しみを生む存在を聖典だとは呼びたくない。静かな怒りが、刃越しに二人へ伝わる。
「……っ!」
 神の徒の武器を握る手が同時に緩み、そのまま同時に崩れ落ちる。
「ああ、やっぱり……」
 彼女たちの刃に殺意は無かった。引っ込みがつかなくなっていただけか、或いは皆の声が届いたか。
 どちらにせよ、良かった。かく言う己も、もう限界だ。
 安心すると同時に、誠司は意識を手放した。

 ここに至るまで無血という訳にはいかず、流れた血を想い、メルトリリスは未だ涙を流す。
「……嗚呼、可哀想に。よしよし、もう終わったから。大丈夫だよ」
 そんな妹を宥めるカイト。優しい兄の声を耳にした修道女の一人がひっそりと、その尊さを口にした。

●さて。今日も私の推しが尊い(尊い)
 駆け付けた院長のタルサや動ける修道女たちの助力もあり、後遺症の心配もなく、夕方にもなればすっかり全員が動けるようになっていた。
 そして今は全員での晩餐会。とりあえず一緒に飯でも食おう、というカイトの提案で設けられた一席だ。
「それじゃあ、この恵みに感謝して……腹が減るとイライラするし、まずは食おう!」
 普段の修道生活と同じだが、同じ卓を囲んでいると、やはり互いの心が近づく気がする。
「そういえば、アルマンダについてだけど……なんとなく、伴侶は二人いたんじゃないかな、って」
 カイトのそれとない疑問に、修道女の一人が答える。
「うーん、アルマンダ様の年代では、複数を娶るのは珍しくありませんでしたし、無い事もないかも……?」
 しまった、とカイトは咄嗟に口をつぐむ。折角場を収めたところに、新たな争いの種を撒いてしまったか。しかし、修道女たちの理解は得られたようだ。
「……わたしにも、解釈が、ありますの……!」
 ノリアが身を乗り出す。アルマンダはそう、『優しかった』。故に、片方を切り捨てる事は出来ず――両方を伴侶とした。つまりはハーレム。子に恵まれた理由も、そこにあると。
(ノリアさん……言っちゃいましたよ!? 大丈夫なんです!?)
 正純の解釈もノリアに近しく、両方、或いはそれ以上を囲ったと見ていたが、怖かったので黙っていた、そんな先の出来事だった。
「それを、歴史のどこかで、誰かが、みだらで、不正義な内容だと、批判して……闇に葬ってしまったんだと、思いますの!」
 伝承の編纂に当たっては、正確を期してなお『ずれ』は起こるし、時代や扱う者によって立場が変わるのもまた、非常によくある事なのだ。
(なるほど、それなら確かに……ヒ、ヒヤッとしましたよ!)
 御使い派に幼馴染派、どちらの者も納得せざるを得ないその説に『常識的に考える』ジルダは思わず感嘆を、正純は安堵の溜息を漏らした。

「ところでところで! 私の推しの話も聞いてくれるかな!?」
 少し長くなるからと機を伺っていたサクラが、今ぞとばかりに席を立つ。

「そう! 私の推しはディ×アル!」
 びしっと天を差し宣言するその声に、食卓全体の空気が大きく波打つ。

 アルマンダと長く戦場を共にした聖騎士ディヴァン。アルマンダが子供達に囲まれて帰天した記述を見るに、『彼』と添い遂げた可能性はない――けれど。
「思い出してください、アルマンダ記11巻3章『雪原の熱情』での一幕!」
 何度も読んだ大切な物語。テオドラの娘たちの瞼裏には、すぐにその情景が浮かんでくる。

『なあディヴァン、どうしてそこまでしてくれる?』
『――さて、な』

 雪降る夜の行軍中、ぱちぱちと燃える焚火の前で交わされる何気ない会話。はぐらかすように答えるディヴァン。けれどしかし、アルマンダに向ける視線はとても、焚火よりも熱く。
 最期までその理由を言葉にする事が無かったのは、『出来なかった』からなのは明らかで。
「そうやって、一人の親友として共に生きたディヴァン様が私は大好きで!!」
「あ、ああ……貴女も、ご同志でしたか……」
 ぐぐっと拳を握り熱弁するサクラに対して真っ先に賛同を示したのは、院長のタルサその人だった。
「シ、シスタータルサ!?」
 まさか彼女が『そちら側』だったとは。伴侶争いに明け暮れた乙女たちが、敬愛する院長の意外な一面に驚愕のまなざしを向けた。
 なお、他の修道女たちにとってもディヴァンは『有り』、または『本命ではないが無しではない』『許容はできる』という『カップリング』の模様である。戦友という立ち位置は、やはり『強い』のだ。
「うんうん、視野はもっともっと広くていいさ。その方が見える世界が広がる」
 多分そう、と、満身創痍のヴォルペが言った。

●天義女子のたしなみとして
『踏み出した一歩は何のため? 今の姿を恩師や親友、『憧れの人』が見たらどう思いますか?』
 介入者との別れ際。佐里の言葉と、傷だらけの誠司の背が修道女たちに問いかける。
 力を振るう理由、一歩踏み出した理由なんてものは、言わずとも明白だ。ただ天の教えに心打たれ、ただ隣人を護りたいと。
「私とした事が……頭に血が登っていましたか」
「まあ、過ぎた事は良いじゃないですか! 思い切り殴り合ったら、私も頭が晴れましたし!」
 ジルダにカティア、他の修道女たちも揃って並ぶ。
「まあ、ルルナ様も……いいんじゃないですか?」
「ええ。かの御使い様も……気持ち的には納得しかねますが、常識的には分かります。それに、シスターカティア。貴女が憎い訳ではありませんでしたから」
「私もでした! 分からなくなるって、よくありますよね」
 別たんとした袂は何処へやら。ただ静かに、全員で遠くなる客人の背を見送った。

「改めてですが……」
「高いですよね。アルマンダ力」
「ディヴァン様も……ありかも知れない」
「あの一節……良いですよね、やっぱり」
「一夫多妻もあり……かも……?

 聖者アルマンダは献身の英雄。彼の絵姿を前にした夕べの祈りに、修道女たちはおおよそ同じ事を考えた。

成否

成功

MVP

サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士

状態異常

一条 佐里(p3p007118)[重傷]
砂上に座す
ヴォルペ(p3p007135)[重傷]
満月の緋狐
三國・誠司(p3p008563)[重傷]
一般人

あとがき

推しトークの時しゃべる速度と文字数が超増える系女子ーー!!

シナリオ、お疲れ様でした。
色々な解釈をいただきまして、こんな感じに優しい世界となりました。皆様尊かった……!
MVPはすごい熱量で信念を語ってくださったサクラさんへお送りします。まさか貴女が腐ってらしたとは……

改めまして、なんかあれな依頼でしたが、ご参加誠にありがとうございました!
天義好きなのでまた、今度はマジメな天義をお持ちしたいです。多分……

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