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シナリオ詳細

荷馬車を襲う騎馬強盗

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●値切った末路
 乾ききった荒野を隊商が行く。
 馬車は見た目より頑丈で、逞ましい馬に引っ張られて速度もなかなかだ。
「ヒャッハー!!」
 そんな平和な光景が一瞬で崩れ去る。
 馬蹄の音を響かせ、肩パッドにモヒカンヘアーの強盗団が現れたのだ!
「ちょっと待ってくれ。訳が分からんぞ!?」
 隊商の長が顔を真っ青にして叫ぶ。
 積み荷は少し痛んだ小麦で、買うのも安かったが売値も安くなる。
 新調した大型馬車だって走行距離の長い中古品で、略奪されても多分売り物にならない。
「速度を緩めるな。追いつかれるぞ」
 傭兵が馬車後部へ移る。
 時雨と名乗っているこの傭兵は、2本の足で立っているのに荷馬車の揺れを感じさせない。
「何者だ」
 騎馬集団が隊商を追いかけている。
 馬に乗っているのは明らかに堅気ではない。
 無骨な回転式拳銃を振り回し、優れた体格を誇示する薄着の連中だ。
「……本当に何者だ?」
 まずは小手調べ。
 威力を抑えて射程を伸ばし、はるか遠くにある手綱を斬り飛ばす。
 賊が馬の制御に失敗。
 勢いよく馬が跳ね、モヒカンが鞍から転がり落ちた。
「ヒャーハー!」
 走り続ける賊から、歓声が上がった。
「物狂いの類いか」
 時雨が眉を寄せる。
 利害を考えずに襲ってくる強盗は、ある意味で最悪の存在だ。
 全滅させるまで戦うことになれば怪我をする確率が急上昇する。
 しかも敵はかなりの使い手だ。随分とはしゃいでいるが上体が揺れていない奴が者が多い。
「報酬が足りぬな」
 淡々と言う。
 別に怖じ気づいている訳ではない。
 依頼人である隊商主が、依頼料を値切るためあれをしなくていいこれをしなくていいという条件を多数つけているのだ。当然のように、護衛は時雨1人しかいない。
「おい、生き延びる気がある荷を捨てろ。あの契約では最後までは付付き合えぬ」
 御者台へ強く言う。
 それを聞いた賊達が不満そうな顔をしているのに気づき、時雨がうんざりした気配を放つ。
「だ、大丈夫だ。次のオアシスにイレギュラーズがいる、はずだ、多分っ」
 隊商主が必死の表情で怒鳴り返す。
 時雨は、契約に反しない程度に戦い離脱するつもりでいた。

●ローレットにて
「警備依頼なのです」
 ラサは特に暑いかもですと、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は冷たいジュースをちびちび飲みながら説明する。
「オアシスに3日間待機して盗賊や強盗を見かけたらごめんなさいするまで攻撃する依頼なのです」
 半ばバカンスにも聞こえるが、ユーリカは戦闘が確実に起きると判断しているようだ。
 空になったグラスを名残惜しげに片付け、大きな地図をテーブルに広げる。
 広大な領域の地図なのに、オアシスの位置くらいしか書かれていない。
「このあたりで騎馬強盗団の目撃情報があるです」
 ヒャッハーヒャッハーと大声で五月蠅い連中だ。
 馬を巧みに乗りこなし、投げ縄を使った足止めを得意としているらしい。
「いまのところ殺人の報告はないです」
 だから助命しろという意味ではない。
 強烈な復讐者がいないので、捕獲後強制労働につかせて被害者への補償金を稼がせ易いということだ。
「オアシスに到着した翌日に1つ隊商が通りがかる予定なのです。しばらく護衛とかしてあげると喜ばれるかもです」
 強盗団の規模についてに情報が届いておらず、ユーリカは楽勝な依頼として認識していた。

GMコメント

 難しい背景とかが一切ない戦闘依頼です。
 ヒャッハー!


●ロケーション
 荒野です。
 敵の馬を殺害しても全く問題ありません。


●エネミー
『強盗団平メンバー』×16
 何故か肌面積が大きいので防御技術と特殊抵抗が低いです。回避は高め。
 機動力4の馬を操ります。1人につき馬1頭。
 ・大型リボルバー :物近単 【必殺】    威力の強い拳銃です。命中は低レベル。
 ・投げ縄     :神遠単 【無】【足止】 巧みな投げ縄術です。
 ・人騎一体体当たり:物中単 【移】     非常に強力ですが、回避された場合騎手が鞍から落ちてしまいます。

『強盗団リーダー』×1
 モヒカンにこだわりのある騎馬強盗です。部下はリーダーの格好の真似をしています。
 馬は逞しいですが小柄で、大柄なリーダーの足がときどき地面に触れています。
 機動力は5あります。
 ・投げ縄     :神遠単 【無】        下手。
 ・人騎一体体当たり:物超単 【移】        愛馬との友情攻撃。
 ・超大型リボルバー:物近単 【必殺】【ブレイク】 凄まじい反動を本人の腕力でねじ伏せています。


●友軍
『大型輸送馬車』×3
 全長10メートル近い大型馬車。
 非常に逞しい馬が1頭で1両牽いていて、機動力は4あります。
 馬車は古く、脆いです。
 馬は強いですが戦いに参加するほどの忠誠心を持っていないので、本当に危なくなると馬車を捨てて逃げ出します。

『時雨』
 かなりの使い手です。
 遠距離攻撃も可能ですが本領は白兵戦です。
 既に働き過ぎだと感じているので、イレギュラーズが『大型輸送馬車』を守り始めると自衛に徹しようとするかもしれません。


●地図
 1文字縦横10メートル。戦闘開始時点の状況。北向きのやや強い風。上が北。
 abcdefgh
1□□□□□□□□
2□□3□□□□■
3□□□□2□□□
4□□□□□□□□
5□□□□□□□□
6□□□1□□□□
7□□□□強□□×
8強強□□□□□□
9□□強□□□□バ

□=荒野。移動にペナルティ無し。オアシスを除いて全てこの地形です。
1=1両目の『大型輸送馬車』が北上中。『時雨』がe7の敵と交戦中。
2=2両目の『大型輸送馬車』が北上中。
3=3両目の『大型輸送馬車』が北上中。
強=4人の『強盗団平メンバー』が、最も近くの『大型輸送馬車』を目指しています。
×=『強盗団リーダー』が東から迂回し『大型輸送馬車』の北に回り込もうとしています。
■=オアシス。被害を出すと大問題に。イレギュラーズの初期位置です。

 北はずっと、砂の荒野です。
 オアシスには東に少し続いています。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 荷馬車を襲う騎馬強盗完了
  • GM名馬車猪
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月23日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
ルウ・ジャガーノート(p3p000937)
暴風
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
カイロ・コールド(p3p008306)
闇と土蛇
ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)
あいの為に

リプレイ

●対決! ヒャッハー騎馬軍団
 銀色の髪が踊る。
 『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は2本の足だけで騎馬を上回る速度を叩きだし、実に12人と12頭からなる集団の機先を制した。
「ここを通りたかったら私を倒してからにしてね!」
 挑発と牽制だ。
 薄らと薄汚れた騎馬盗賊達は怒り、それ以上に新たな獲物に歓喜する。
「見ろよあの肌っ」
「ボロい馬車とは比較になんねぇぞっ」
 情欲の視線よりも金銭に飢えた視線の方が多い。
 見た目からは想像も出来ないほど達者な馬術を使い、ヒャッハーな強盗達が投げ縄に勢いをつけスティアを狙う
 スティアは優れた戦士として、人の上に立つ貴族として、余裕の態度を崩さない。
 だが現実として窮地にある。
 稲妻を思わせる速度と激しい方向変更で大半の縄を躱しても、いくつかの縄はスティアまで届いて実に巧みに巻付き足を止めようとする。
 その全てを防ぎはしたが、1度の攻防で2度ほどひやりとした。
 個人としての能力は彼女が圧倒している。だが数の不利は如何ともしがたい。
 スティアの挑発がたまたま効かなかった1集団4騎が、彼女を迂回し隊商馬車を直接狙おうとしていた。
「暑さで頭ヒャッハーしているような連中に今更負けてられっかよ!」
 『暴風』ルウ・ジャガーノート(p3p000937)の声が荒野に響き渡る。
 怒鳴っている訳ではない。
 体格も声量も何もかもが優れているのだ。
「足を止めろ!」
 強盗団が投げ縄を繰り出す。
 2つは焦りから明後日の方向へ飛び、しかし残る2つはジャガーノートの左腕と、恐るべき偶然で首に巻き付いた。
「よしこれで」
 騎馬強盗は勝ち誇りもせず安堵する。
 恐るべき戦士になんとか対抗出来ると、身の程知らずの考えを抱いてしまった。
「ヤるじゃねぇか! なら遠慮はいらねぇな。ごめんなさいするまでブン殴りまくって、全員砂漠から追い出してやるぞ!」
 馬の脚力を活かして縄を引っ張っているのに、ジャガーノートの首の筋肉に負けている。
 多少速度が落ちても馬ほどもある脚力で近づいて、ジャガーノートの極太筋肉がそれ以上に巨大な剣を高速で旋回させた。
「ィぎっ」
 強盗も馬も戦慣れしている。
 回避も受けも見事と評すことの出来る水準だ。
 しかし熟練の技と圧倒的腕力から繰り出された斬撃が、彼等の守りを突破し皮膚を切り裂き肉を抉る。
「は」
 ジャガーノートがにんまりと笑う。
 スティアが一時後退する。
 7騎の強盗が、スティアも追う余裕もなく大型リボルバーを構えてジャガーノートを狙う。
 砂煙を貫通し、いくつもの鉛玉がジャガーノートに達して血飛沫を生じさせた。
「殺される来てくれるとはなぁ!!」
 この程度は死なないし折れない。
 彼女は血塗れの体で返り血塗れの大剣を振り上げ、地面に埋まった岩塊に振り下ろす。
 炸裂弾じみた範囲攻撃が賊達を襲う。
 乾いた大地が大量の血を吸い込み、死闘の後半戦が始まった。

●荷馬車防衛戦
 これまで見たこともない超人的な戦いに、御者達は安堵することが出来ず動揺した。
 賊は隙を見逃さない。
 次々打たれていく仲間を助けるため、馬車に乗る人々を人質にしようと全開以上の速度で駆けてくる。
 馬車も御者もイレギュラーズとは比較にならないほど脆くて弱い。
 このままでは、致命的な事態になりかねなかった。
 『果てのなき欲望』カイロ・コールド(p3p008306)はいつも通りにニコニコ顔だがテンションが下がっている。
「はて、あの規模の盗賊から護衛をしろと? ……別にいいですけど、少しくらいは報酬に色を付けて下さいよ」
「馬車を止めろぉ! 降伏すれば命だけは助けっ、恨むなよっ」
 賊は勧告に応じる気配がないことに気づいて舌打ちし、怯える御者ではなく得体の知れない神官を狙う。
 一人殺すことで戦いを止めるなどと、自分勝手極まる思考で引き金を引いた。
 反動は骨に響くほどで、賊は殺害を確信した。
 なのにカイロは笑顔のまま。血もほとんど流れていない。それどころか、小型の銃で撃たれたような痛みが賊の胸にある。
「護衛ですから離れることも出来ないのですよね……」
「ぐっ、だが無敵じゃねぇはずだ」
 騎馬強盗が覚悟を決めて発砲を続ける。
 カイロは御者や馬車を庇わざるを得ず、ダメージを反射し反撃するが受けた被害はカイロの方が大きい。
「はい。無敵ではありませんよ?」
 カイロの血が止まる。
 傷口が理矢理に繋ぎ合わせる様に気づいて、賊はとんでもない存在を相手にしていることに気づいてしまった。
「駄目だ。他を攻めろぉっ」
 悲鳴にしか聞こえない指示が、強盗の口から転がり出た。
 全力で走る馬車の荷台で、状態を揺らしもせず時雨が立っている。
 ただし気配は透明人間じみて薄い。
 イレギュラーズが到着した以上、これ以上戦って無意味と判断しているのだ。
 紅の雷が乾いた空気を貫く。
 馬が野生動物そのものの反応で躱し、乗り手である半裸肩パッド男が直撃を受け髪をこんがり焼かれた。
「全く……。あきれ果てたものだね」
 『雷光・紫電一閃』マリア・レイシス(p3p006685)は不機嫌だ。
「職がないのか何か知らないが、他人を傷付け財を奪うなどもってのほかだ」
 この賊達は隊商を襲う体力と気力があるのだ。
 それで悪事を働くことを、新米領主にして熟練イレギュラーズのマリアは許容しない。
「ラサの強盗だなんていつもの事だけれど」
 馬車に飛び移ろうとした賊を、『Ultima vampire』エルス・ティーネ(p3p007325)の指先が二度撫でた。
 賊だけでなくその愛馬も体術と回避術に自負があったが、物理的な間合も意識の間合もエルスにコントロールされる。
 二度にわたって大量の精気を消し飛ばされ、活力と速度を失い馬車に落ち着けずに離れていった。
 銃弾が飛び込んでくる。
 イレギュラーズ達にとっては簡単に躱せるか当たってもたいした被害にならない攻撃だ。
 しかし、おんぼろの馬車にとっては当たり所次第で1発で壊れる威力を持つ。
「ああ……強盗などと、神は悲しんでおられます……」
 姿は美形、纏う気配は清楚、しかし目の奥にどろりとしたものを蓄えた『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)が大仰に嘆いている。
 馬車を追う強盗ややりにくそうな表情になり、隊商主や御者が救いを求める目を向ける。
「神は彼らの生存を望まれているようです。ああ、なんという……」
 めんどくさ、という声が聞こえた気がして離れようとした時雨に、とある書類が突きつけられた。
「このような手段はお嫌いかもしれませんが」
 某所の口座番号と取引暗証番号だ。
 この1枚に載っている情報を使えば綺麗なお金が手に入る。
 要するに、とても質の良い賄賂である。
「私はあなたに報いる手段を他に知らないのです」
 演技と見抜いた時雨が一瞬勘違いしてしまいそうになるほど、潤んだ目で見上げるライはとても可憐だった。
 時雨は頷かない。
 護衛依頼をうける前に示されたら同意しただろうが、今は戦闘中であり裏付けをとるのも難しいからだ。
「時雨さん、とお呼びして良いでしょうか」
 スティアは戦闘開始直後から今まで馬車にも乗らず走りまわっているのに、息は全く乱れていない。
 真剣な彼女は凜としていて、愛嬌に溢れたいつもとは別の顔を見せている。
「私はこう見ても天義の貴族なの」
 戦塵が装備についていても、彼女の立ち振る舞いは美しい。
「だからここで恩を売って、コネを作ってみるっていうことで戦闘を継続して貰えないかな?」
 スティアはライが提示したものに気付いていない。
 時雨がじっとみつめると、ライは無言で目を逸らす。
 時雨は諦めたように息を吐き、書面の記憶しひとつ頷いた。
 銃声より速く銃弾が迫る。
 それが隊商主に達する前に、時雨が弾いて地面に打ち落とした。
 マリアの攻撃スタイルが変わった。
 隊商護衛を時雨に任すことで攻撃に専念可能となり、仕切り直すため一旦後退する賊を追い、手綱握る手やあぶみにかけた足を的確に攻撃する。
 普通に攻撃するよりも与えるダメージは少ない。
 だがそれでいいのだ。今殺すつもりはない。
「君達! 真面目に働いたらどうだい? 勤労はいいものだよ? 何か事情があるなら聞くよ?」
 領地経営を始めたせいか、説得力が以前より上がっている。
「黙れっ」
 舐められたと判断した賊が、押し込まれた無理な体勢から抜き打ちで銃撃する。
 威力最優先で狙いは甘くても1人殺すには十分。
「ふふ! 銃弾より私の方が速いかもね?」
 重厚を見てから防ぐことの出来るマリアには、数人がかりで銃撃しても無意味であった。
「ラサという国で暴れようものなら、私はこのままあなた方の前に立たなくてはいけないわね?」
 対照的に、エルスは積極的には攻めない。
 マリアと同じく殺さず捕まえるつもりであるし、流血で賊の心を折るのはジャガーノートの攻撃で十分と判断している。
「私は甘えた考え方を持っているようだから、あなた方強盗は、全員生きたまま国につき出せたならって思う」
 エルスも強い光を浴びているのに肌には染みひとつなく、長寿種故の幼げな容姿は浮き世離れしたものも感じさせる。
「その方がこっ酷い拷問が待っているもの、普通に殺すより効きそうじゃない?」
 だからこんなことを言われると、本気で言っているとしか思えないのだ。
 エルスが本気になった瞬間、賊達は人間として終わることすら出来なくなる。
 それは多くの血と涙を流させてきた賊達でも、とてもとても怖いことだ。
「ビビるな。ボスがついてるんだ。こいつらなんてっ」
 賊の声は上擦っている。
 遠くから、馬の悲鳴が聞こえていた。

●真の主
 モヒカンを風になびかせながら、強盗団の頭が不敵に笑った。
「罠か」
 荷馬車の守りが固すぎる。
 護衛が強いだけでは説明出来ない水準だ。
「素晴らしいファッションセンスですね」
 体に完璧にあったスーツを着込んだ『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は落ち着いている。
 荷物の陰に隠れようとして下半身を隠せていない隊商主とはモノが違う。
「そのような格好をしなければ相手を威圧できない弱小、という認識でよろしいですか?」
 馬鹿にする気配は皆無。
 珍獣を観察する学者を思わせる視線が、賊として百戦錬磨なモヒカンの神経を逆撫でした。
「舐めやがって」
 威力に特化しバランスが崩れた大型拳銃を寛治に向ける。
 発砲音は酷く重く、かすめただけで重傷になりかねない威力を感じさせる。
 『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)が立ち塞がった。
 モヒカンの抜き打ちは素早く盾とするものも用意出来なかったが、鍛えた分厚い筋肉で受け止め、血は流れても眉ひとつ動かさず姿勢も崩さない。
 義弘は無言のまま賊の頭を睨み付け、中間点で火花が散った。
「元気のいい強盗団ですね」
 寛治が上機嫌に微笑む。
 イレギュラーズが抑えている賊達に商品を見る目を向けて、最後に硝煙立ち上る大型拳銃を構えたモヒカンを見下ろす。
 小柄だがこの洗浄にいる馬でも最も速く逞しい戦馬が、得体の知れない恐怖を感じてぶるりと震えた。
「タコ部屋でよく働いてくれそうです」
 出来るだけ生かし、死ねば事故死扱い。
 合法的な手段のみで強盗団を地獄に叩き込むつもりだ。
「糞がっ」
 モヒカンは逃げたくても逃げられない。
 寛治を殺さなければここで逃げても追い詰められると直感したのだ。
 死すら覚悟して、怯える愛馬に自らの命を託して突撃を仕掛けた。
 義弘が加速する。
 人馬一体の突撃を受ければ最低でも重傷なのは承知の上。
 小柄戦馬が最高速に達するより早く接触して、足先から指先までの全ての骨と筋を活かしモヒカン&戦馬を正面から受け止めた。
「何ぃ!?」
 モヒカンが目を剥く。
 骨が折れる振動が伝わってくるのに義弘は泰然としている。
 衝撃の大部分は大地に流され義弘の体への被害は最小限。
 寛治という政治的脅威に届かないことが、モヒカンの精神的余裕を失わせていく。
「どこを見ている」
 義弘の声に痛みの影響はある。
 それでも、モヒカンの部下達とは違い闘志と冷静さを保っている。
「畜生が。おい、無事な奴は集まれっ」
 モヒカンはここまで追い詰められても手下を使い捨てにするつもりはない。
 寛治を殺さない限り生きる可能性すらないと断じて、生存を掴むため部下と共に戦い抜くつもりだ。
「これ以上やっても、もう勝ち目はねえだろう。大人しく縄をかけられろよ」
 義弘が降伏勧告を行う。
 目を向けなくてもモヒカンの手下の気配が減っているのが分かる。
「ヤクザの俺が言って聞かせて、なんて柄でもねぇのは承知しているが。捕まえた方がいいってんなら、それに越した事はねぇ」
 生きて捉えることが出来れば商人連中に恩を売れる。
 それに、必要のない殺しは好みではないのだ。
「さて」
 寛治が黒い長傘を開く。
 シャフトには違和感なく銃が組み込まれ、寛治の強靱な腕と足腰で支えられて完全に静止している。
「そろそろお仕舞いにしましょう」
 銃弾の驟雨が騎馬強盗団を襲い、血と悲鳴が地面を濡らす。。
 モヒカン一人では、手下を守ることなど不可能だった。

●止め
「しつこいですね」
 阿鼻叫喚の賊達に、ライが冷めた瞳と整った指先を向ける。
 無数の光弾が陽光に負けない強さで出現をして、一呼吸の時間の後にライの手前から扇状に飛んでいく。
「少し強すぎましたか」
 賊の悲鳴は激減した。
 無言で倒れた者も息はしているようなので、多分きっと大丈夫だ。
「糞ったれ! 人質をとればっ」
 モヒカンは傷だらけでも闘志を失わない。
 怯えた男が隊商主つまりイレギュラーズの依頼人であるとようやく気づき、愛馬と共に駆け寄り人質にしようと試みる。
 小柄な馬がひひんと警告する。
 マリアのすらりとした足が、紅雷を纏ってレールガンじみた速度で賊の長を狙う。
 多少躱しても防いでも馬に当たらない軌道であることと分かり、モヒカンの顔に納得の表情が浮かぶ。
 これほどの差があるなら負けるのも当然だ。
「けどなぁっ」
 モヒカンは悪党で外道でもある。だが手下を捨てて逃げることだけはしない。
 モヒカンは口に溢れた血を地面に吐き捨て、0に限りなく近い勝機を掴むため馬と共に駆ける。
「残念だったわね。この国において、私が強盗に手を抜くなんて事……有り得ないわ?」
 エルスが呼び出した黒い顎が砂を押しのけ人馬に迫る。
 オアシスへの接近を防ぐことを主目的に放たれたので、モヒカンは辛うじて回避することが出来た。
「まだだっ」
 モヒカンの気配が濃くなり、小型馬の闘志が燃え上がる。
 ボスの奮闘に手下達が刺激され、汗と血と砂にまみれた男達が必死に立ち上がろうとした。
「改心できるチャンスはあげないとね」
 スティアの手元に水球が生じる。
 飲み干しても顔を洗うのに使っても気持ち良さそうな、乾いた大地では黄金ほどではないが貴重な水だ。
 モヒカンがはっとしてスティアから離れようとする。
 が、足音も立てずに忍び寄った時雨が、スティアに向かってモヒカンを蹴り飛ばした。
「逃げっ」
 愛馬に指示が届くより早く、新鮮な水がモヒカンの口と鼻に直撃して呼吸を妨げる。
 疲れ果てた心身では持ち堪えることは不可能だ。
 絶妙な酸素不足が、脳も内臓も傷つけずにモヒカンな強盗の意識を刈り取るのだった。

●お縄
「人間って頑丈ですね」
 死にそうだった強盗にだけ治療を施してから、カイロは隊商から融通させた包帯を投げ渡す。
「ありがとよ」
 複雑な表情を浮かべる賊達ではあるが、反抗する気配は皆無だ。
 ボスが無惨に殺されたなら復讐を考えもしただろうが、重傷ですらない状態で捕縛されたため逆らう理由がなかった。
「ふふ、きつい拷問を受けて是非反省してちょうだいねっ!」
 エルスは笑顔を浮かべている。
 捕まった賊が苦しみの末に殺されても憐れむものはあまりいない。
 過酷な現実を直視させられ、賊達の士気がさらに落ち込む。
「そうなる予定ではあったのですが」
 エルスと示し合わせた寛治が、実に爽やかに説明する。
「クライアントの意向です。転職を斡旋いたしますよ」
 隊商主は、なんのこと? と顔に出ているが口に出さない程度の頭はある。
「なぁ君達」
 雷神を連想させる戦いぶりだったマリアも、今は普通の意味で頼り甲斐のある人物に見える。
「刑期を終えて真面目に働く気があるなら私の領地に来ると良い。軍人として鍛えてあげよう! 軍事力に定評がある良い領地だよ! もちろん給料や住居も用意するとも!」
 まるで決定事項のように語り連絡先を渡す。
「戦った私には分かる。君達はそれなりに腕っぷしがあるようだし、それを良いことに使うべきさ! 誓って進んで戦争なんかはしない! 考えてみて!」
 手下達が喜び、モヒカンが絶望の表情になった。
 イベントの連続に圧倒された隊商主が役に立たず、時雨は仕方なく停止中の馬車と乗員の警備をしている。
 情報として受け取った報酬を改めて脳内で確認をして、危険な存在と関わってしまったのではと考えた。
「ええ、まあ、ギャンブルですね」
 ライがいる。
 時雨の得意な白兵戦なら勝てる相手だが、時雨はライの得意分野に巻き込まれている。
「今回はその技術に出番はありませんが……普段はギャンブラーなもので。安定して稼げない? 負けたらどうする? イカサマの一つもできずしてギャンブラーは名乗れませんよ。負けるかもしない勝負なんてしません。ええ、ええ、ですから、帳簿に載せられないお金なのですけどね。内緒ですよ、内緒……ここだけの内緒話です」
 どこまで本当か、今の時雨には判断出来なかった。
「完全防ぎきれなかった……でもせめて整備のお手伝いはさせてね」
 エルスが力仕事を主に行っている。
 隊商主や御者や馬は無事で馬車も使用可能だ。
 だが弾痕はありこちにあり、隊商が安全に戻るためには修理は必須だった。
 カイロと義弘は来た道を戻っている。
 オアシスの横を通り過ぎ、荒野ではあるがほんの少しだけ特徴的な地形の手前で止まる。
「昔から繰り返されている訳ですね」
 大半が風化してしまっているが、馬車だ。
 義弘は刀傷に気付き、カイロは微かに漂う憎悪の残滓に気づく。
「金にはならないのですよね」
 だが大した手間にはならない。
 ラサ式の祈りを手早く捧げ、残滓が完全に消えたのを確認してから反転、オアシスを目指す。
 しばらくは、この土地で平和が続くはずである。

成否

成功

MVP

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女

状態異常

ルウ・ジャガーノート(p3p000937)[重傷]
暴風

あとがき

 ご参加ありがとうございます。

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