PandoraPartyProject

シナリオ詳細

再現性東京2010:痛いの痛いのとんでいけ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●危ない、はるきくん!
「はるきー! そっちにいったぞ!」
「う、うん!」
 ころがるサッカーボールは、勢いよく公園の柵にはねかえって、どうろにはみだしちゃった。
 あ、しまった。
 追いかけるのに夢中で、ぼくはよく前を見ていなかった。
 トラックがいた。
 ブレーキの音がして、すごくおおきくとばされた。
 いたかった。とってもいたかったとおもう。
 ほんとはもっと気をつけなきゃだめだった。
 おとうさん、おかあさん、悲しむかな。
「危ない、はるきくん!」

●病室にて
 お父さんとお母さんがないてる。
 でも、ぼくはきせきてきにケガがなかったみたい。
 すりきずのひとつもなかったって。
 どうしてだろう? あのときたしかに、いたかったのに。
「それはね、ぼくのおかげなのさ!」
「え?」
 病室に現れたのは、小さなマスコットみたいなやつだった。へんなの。そういえば、病院のポスターのキャラクターに似ている。
 大きな点滴みたいなものをもっていて、ちょっとこわかったけど、でも、えがおだ。
「あーあ、惜しかった……半分か。じゃなかった、あぶないところだったよね。よそみしちゃだめだよ、はるきくん!」
 誰だろう、と思ったら、それは名乗り始めた。
「僕はね、”けんけが”くん!」
 えっと、なまえは「けんけが」? へんななまえだ。
「みんなを助ける正義のヒーロー。
 みんなが痛い思いをするのがどうしてもいやなんだ。
 だから、きみが受けるはずだった”痛み”を、こうやってうつしたんだよ!」

●僕たちはヒーロー
 けんけがくんは、恥ずかしがりやさんだから、みんなとおはなしはしたくないみたい。
 かわりにぼくが、”痛み”や”ケガ”を集めてまわっている。
「いわばヒーローの助手ってところだね!」
 ぼくは公園をパトロールして、ケガをしているどうぶつや人を見かけたら、こうやってやる。手を当てて……。
「いたいのいたいのとんでいけ」
 膝を擦りむいた女の子が、ぱっと泣き止んだ。
「わぁ! ほんとうにいたくなくなった!」
「よかった。えっと、このことはないしょだよ」
 やっぱり痛いのはいやだから、みんな、いたくなくなればいいよね。
「あーあー。擦り傷や動物程度だと知れてるなあ。やっぱり人間がいいな。大けがをした人間とか……が倒れてたらたいへんだよね! だからしっかりパトロールしないとね、はるきくん!」
「あとどのくらいで、いたいのたまるの?」
「あとちょっと。もうちょっとだよ! そうしたら、はるきくんとはお別れだね。そうしたら、ぼくはまた次の人をさがしにいけるよ!」
「ヒーローはたのしいから、ちょっとさみしいかな」
「なーにいってるの。いっしゅんだよ!」

●オブジェクトクラス:Euclid
「……というわけね」
 カフェ・ローレットにて、音呂気・ひよのは、まことしやかに流れる「ケガを癒す少年」の噂を説明した。
「彼は傷を治して回ってるだけだから、害がないといえばないわね。でもそんな都合のいい夜妖<ヨル>は、いないわ。何かが起ころうとしているなら……止めてほしいの」

GMコメント

布川です。最近はとあるSteamゲームにはまって管理人をしています。
えーっと。はい。
今回は秘匿情報ましましで、それなりにハードに行くのでよろしくお願いします!

●目標
少年の救出
 無傷で、とはいいませんがそれなりに無事な形で。

●登場
悪性怪異:
 巨大な輸血用血液パックを背負ったマスコットです。デフォルメのかなりきいた人…?型?です。
 再現性東京のとある病院のイメージキャラクターに酷似しているらしいです……。が別にそこに意図はありません。
 とても友好的で、こいつから攻撃を仕掛けることはありません。専守防衛です。これはSafeに違いないや!

「待って、どうして人を助ける邪魔をするの?」
「ぼくたちは困った人を助けたいだけだよ。だよねっ、はるきくん!」
「誰だっていたいのはいやでしょ? そんなのなかったことにしたいでしょ?」
「ぼくたちは人助けしているだけだよ!」
 OP時点で輸血用血液パックのメモリはだいたい「10」のうちだいたい「8」でした。
 シナリオ進行中に、はるきくんとともに人を癒して回っているので、だいたい「9」になっています(行動で変動あり)。

■攻撃手段
「気を付けて、はるきくん! こいつらわるいやつだったんだ!」
 攻撃された場合は仕方ありません。
 温厚なけんけがくんも反撃をします。
 けれど、攻撃性能は、それほど高くありませんし、素早くもありません。
 耐久度低めでHPが高くないので、手練れのイレギュラーズであればすぐ倒せそうです!
(※とはいえ、さすがに1撃ということはないです)

・メスアタック
 メスを振り回したり、投擲します。流血を与えます。

・反撃
 至近でダメージを与えると、たまっていた血液が降りかかり、棘(30%の確定ダメージ)を受けます。
 しかし、けんけがくんはあまりやりたがりません。
 人がけがをするのはみたくありませんからね!
 
・注射器アタック
 防御力を無視する必殺の一撃です。貫通一直線。

・ばんそうこう!
 自分の出血、流血、失血を治します。

・大丈夫? 治してあげようか?
 けんけが君は戦闘中、イレギュラーズたちにも治療を持ちかけてきます。
 受け入れるとなんとHPが全快します!やった!
 ……判定なしに断ることができます。

・???
 カウントが10になるか、戦闘不能になった場合に起こります。
 強制的に戦闘を終了します。

●はるきくん
6歳の少年です。
一週間ほど前に事故に遭いましたが、奇跡的に無傷でした。
両親からもらったサッカーボールが宝物。
気弱でちょっと引っ込み思案です。事故に遭うきっかけとなった一緒に遊んでいたお友達とは気まずくて疎遠になってしまいました。
けんけがくんの言うことを聞いてしまいます。
「いたいのはかなしいから、なおすのは良いことだよね?」
「けんけがくんは……いい子なのかな……でも……」

戦闘中、攻撃のターゲットになることはありません。

・輸血パック
最初は半分くらいパックがたまっていたみたい。
もう少しで満タンになるんだ!
そしたらけんけがくんは次の人を助けに行けるんだって。

・友達
お友達のごうくん。一緒にサッカーをしていたよ。
ぼくがボールを取りに行って事故にあったのを気にしてるみたいで、さけられちゃう。
ぼくはなんともなかったんだけどね。
さみしいけどけんけがくんはほうっておけば?っていう。

●ここ最近の不審死事件(ニュースなどで)
源さん……中年の男性。大工をやっていた。二週間前に、高所から落下したが無傷。
しかし、一週間後に不審死。打ち所が悪く、気が付かないうちに悪化したのだろう。「まるで、何倍もの高さから落下したようだった。」との医師の見解がある。
 なお、病気で余命僅かと宣告された奥さんがいたが、そちらは快気している。このことについては語りたがらないが……。
上手く調べれば病室を訪ねることもできるだろう。

●確定情報(ここに関しては大丈夫)
・けんけが君は逃げようとしない
・イレギュラーズたちの手で倒せば、けんけが君は間違いなく消滅する。
 連続した事件のようですが、第二、第三の被害者が現れることはありません。この件はこれでおしまいです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はDです。
 多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
 様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。

  • 再現性東京2010:痛いの痛いのとんでいけ 完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年08月25日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
メイ=ルゥ(p3p007582)
シティガール
桐神 きり(p3p007718)
太井 数子(p3p007907)
不撓の刃
メーコ・メープル(p3p008206)
ふわふわめぇめぇ
ハンス・キングスレー(p3p008418)
運命射手
晋 飛(p3p008588)
倫理コード違反

リプレイ

●その意図は?
 多くの謎、正体の見えない怪異。
「ふむ……普段とは毛色の違った依頼ですね」
 桐神 きり(p3p007718)のオッドアイがキラリと光る。やることは人助けではあるが、抜け目なくリスクを推し量っているのもまたきりだ。
「気に入らねェハナシだな」
『朱の願い』晋 飛(p3p008588)は顔をしかめる。これが美女なら迷わずに助けたろうか。いや、なんだかんだ、ガキが死んでも目覚めは悪い、と思う。
「世の中には、行動の理由――”どうして”そう思ったか――を理解し難い者もいる。
恐らく、我々とは違う常識を持っているのだろう。だが、行動の目的――”だから”どうするか――はあると考えている」
『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)は、包帯の下、この事件の裏にあるヨルの意図に思いを巡らせる。
 決して交わることのない存在、ヨル。
 その思惑に乗るわけにはいかない。
「故に」と、リュグナーは人差し指を当てる。「我々はその目的を潰すことを考えるのだ……例え、その目的の手段が誰かを救う事だったとしても、な」
「……危険性やその目的の手掛かりを漠然とでも得ることが出来れば、何かを起こす前に対処する為の手立てになる筈」
『虚刃流直弟』ハンス・キングスレー(p3p008418)は、痛ましげに水色の目を細める。伏せられた睫が揺れる。
「ふむふむ、なかなか面白い事になりそうな予感がしてきました。真実と結末を知るために頑張りましょうかね!」
 きりは、ぐいと帽子を被り直す。

「ん……なるほどですめぇ。それはなんとかしたいところですめぇ」
『不退転の贖罪』メーコ・メープル(p3p008206)は、ぱちりと目を開ける。寝ていたわけではない。今まで、静かに耳を傾けていたのだ。
「め、メイは許せないのですよ!」
『シティガール』メイ=ルゥ(p3p007582)はふるふると小さな拳を握る。
「一生懸命ケガを治そうとする男の子を利用するなんて! ひどいのですよ!」
「さて、少年の場所か……」
 リュグナーは素早く目撃情報を地図にプロットする。
「小さい子、でしたっけ、普通に考えれば学校にいそうですね」
「いままでの被害者も気になるわ! とはいえ、話を聞けるかしら……」
『不撓の刃』太井 数子(p3p007907)というのはかつての名。この世界の「ミーティア」は小首を傾げる。
「病院……か」
『双色クリムゾン』赤羽・大地(p3p004151)は、ヨルに隠された被害者のものとおぼしき新聞記事を眺めていた。

●失われたものたちとの邂逅
 ミーティアは大きな病院の前で空を見上げた。
 さらりと揺れる金の髪。女学生だったころは近いような、遠いような。……この町の紡ぎ出そうとする「日常」は、ちょっと昔に似ているような気もする。
 よく似た棟がいくつもあったが、ミーティアの耳は鋭く、人々の噂話を聞いていた。
「ねえ、あちらの奥さん……旦那さんをなくされて、気の毒にねえ」
「でも、お体は良くなったみたいで、きっと旦那さんが悪いモノを持って行ってくれたのね」
(こっちね)
 病室は3階、消毒液の匂い。
 行く先に幽霊花、あとには死人花。首周りの傷跡をぐるぐると回る魂たちが、赤羽・大地に答える。
「偉大な死霊術師だったんだゾ」と語る赤羽、そのどこまでが本当のところかは知れないと大地は言うが、こうして魂と語らう様を見ていれば、あながち嘘でもないのかも知れない。
 一つの魂が、名残惜しそうにとどまっている。
「源さん」
 名を呼べば、答えた。
(何か、ヨウか……)
「貴方と同じように、一度は救われたはずの命が、理不尽にも奪われようとしている」
「この地に住まウ、人を騙し操る悪辣な怪異によっテ、ナ」
 交互に語る赤羽は、あるいは大地は。
 真摯な双色は、命令をしなかった。
 ただ願い、語りかける。
「今のままでは、まだ幼い彼も、同じ末路を辿る。きっとその身に余る痛みを受けて、息絶えることになる」
 幼い彼、と聞いて、魂はわずかに考えるように震えた。
「だかラ、答えてはくれないカ。アンタが何故、死んじまったのかヲ」
 ああ、あのヨルが。
 魂が悔しそうに揺れる。
 あのヨルには気をつけろ、と、男の魂が言う。
 かなえてくれたが、その分、いや、それ以上に。根こそぎ多くを持って行く……。

「ばーちゃん、大丈夫か!? 急に様態が悪くなったって聞いたから心配したよ……」
「あら……?」
 部屋に飛び込んできた少年に、夫人は目を丸くする。
「あ。間違えた。最近祖母も祖父も倒れたので慌ててしまって……」
 赤の瞳と赤い髪。元気そうな若者……赤羽・大地だ。
「あら、貴女はもしかして、源さんの奥様かしら?」
 ミーティアはふわりと微笑み、優雅なお辞儀を見せた。
「はじめまして。私、源さんに自転車を直してもらったの」
「まあ! そう……あの人が……」
「奥さんをとても心配していたよ」
(ああ、そう聞いタ。先ほど、ナ)
「……よかったら、お話相手になってちょうだいな」
 曰く、ある日あっさりと居なくなってしまったあの人は、自分の病気も、一緒に持っていったようだと夫人は語る。
「そう聞けば、外からは美しい話に思えるでしょうけれど……死んでほしくなかったし、死のうとも思っていたはずないわ……」
(そうよね。そんなこと、あっていいはずがない……!)
 強く握りしめたミーティアのティーカップ。
 水面が揺れる。
「あら、ごめんなさい」
「ううん、なんでもないわ。とても美味しいお茶ね」
(そう、この怒りは……)
(奴にぶつけるサ、せいぜい)

●二人の少年
「お、いましたいましたよっと。あれが……おそらく、はるきくんですね」
「一人、こちらを見ているな」
 リュグナーときりは、捜索範囲を絞ったことで、ついに少年に至っていた。時刻にして、かなり順調と言えるだろう。何やら奇妙な存在と一緒だ。
「あれがヨルか」
「行ってくるか」
 手のひらをひらりとふって、少年の元へと向かう飛。
 少年の近くには、もう一人の少年の影。
 はるきの近くをちらちらと見ていたが、こちらの姿に気がつくと脱兎のごとくに駆けて行く。警戒心が強そうだ。だが、所詮は子供であり、とっくに調べはついている。
「あの子は、ごうくん、といったっけ……」
 ハンスは少年の背中を見ていた。
「ん……何か知っていそうですめぇ」
「そうだね。何らかの誘導を受けているか……『何かを目撃した可能性』もある。
轢かれて大怪我をした……或いは跳ね飛ばされたにも関わらず無傷のはるき君の姿、とかね」

(事故のきっかけとなってしまった事ではるき君を避けているらしいけど……それも本当なのかわからない)
 ならば考えられるのは、やはり、あのヨルの目撃か。
「え」
 ふわりと降り立つような軽やかなハンスの姿に、ごうは思わず足をとめた。
 警戒心を抱く前に、目を引かれる。
(あれ?)
 男の人だろうか、女の人だろうか。
 一瞬迷って、髪も短くて、ようやく男性だと分かるのだけれど。思わず見とれてしまう柔らかな笑みで。
 男の人をきれいだと思ったのは初めてだった。
 しゃがんで目線を一緒にする。
 笑いかければ、花がほころびたように。まるで夢でも見ているかのようで、動けなかったように思う。
 いま、この場所で、羽は畳んでいたけれど、かつての偶像は日に光を浴びて、なおも神々しい。
「こんにちは。僕、はるき君と友達なんだ。少し聞きたい事があるんだけど……おにーさんとお話、して貰えるかな?」
 悪い人だろうか?
 でも、そんな気がしない。だってこんなにきれいだから。
「お菓子もあるよ、ふふ」
「はあ、はあ、ようやく追いついたですよ!」
 ようやくやってきたのはメイだ。
「な、なんだよ!」
「メイたちは、ごうくんにお話があるのですよ!」

「ごうくんもはるきくんも、6歳でしたっけ?」
「そうだけど?」
「メイは11歳ですよ!」
「むむむ……」
 ふんすふんすと胸を張るメイ。年齢の不利を悟るごう。
「お姉さんとして小さい子を助けるのは当然なのですよ」
 一族では末っ子で、特異点でも11だと年少組である。
 だからついお姉さんぶってしまうのだ。
(6歳の子が悪性怪異に巻き込まれてるなら、ちゃんと日常に戻してあげないといけないのですよ。なぜならメイは11歳、つまりお姉さんなので!)
「何しに来たんだよ」
「そう。お話があって来たのです」
「やっぱり君は、見たんだね」
「っ……!」
 そう、ごうは目撃していた。
 ふわりと跳ね上がって、ガードレールもひしゃげたあのとき、無傷だったはるきの姿を。
 それから、それとなく会わなくなって……。
「へ、変なのが居て……信じてもらえないだろうけど、俺……」
「信じますですよ! そのために来たのです。はるき君が、変なものの言いなりになっているみたいなのですよ……」
「もう、俺のこときらいで、きっと……あいつとのほうが仲が良いんだ」
「事故の事を気にしてる様なら、なおさらちゃんと会ってお話してほしいのですよ。大丈夫。お姉さんがついているのですよ!」
「連れて行ってあげるよ」
 君が望むならば、と、ハンス。

●ヒーローの定義
「はるきくんはほんとうにやるきあるの?」
 剣呑な声。でも、顔を見上げればいつものマスコット。
「なーんてね。さ、とっとと探しに行こうか」
「……うわっ」
 ばん、と魔術式が展開する。展開した式は、……3m級の二足戦闘ロボットを呼び出した。
「え、ええ!?」
 それは計算され尽くされた必然が、不思議を掌握した世界の機動兵器。飛の声が爽やかに響き渡る。
『はるき! ヒーローの指令で君を守りに来たんだ』
「わぁ! 僕を? でも、えっと」
 一瞬だけ何か言いたげな目のマスコット。だが、露骨に答えることはなく。ロボットをじろじろ見て、てへ、とウインクする。
「……うん! まあ、いいんじゃないかな? ぼくたち、ヒーローだからね!」
『よし、一緒にパトロールだ!』
「すごいすごい!」
 彼らが探せども探せども、ケガ人は見つからない。
 リュグナーときりが、それとなくあたりを封鎖しているせいである。
「ねえ、なんか、邪魔してない? ふたりとも、やる気はあるの?」
「えっ」
『落ち着けよ、ケンカしたくないだろ?』
 さりげなく飛が立ちはだかる。
「はるき!」
 と、そこへやってきたのは、……はるきの友人、ごうだった。aPhoneで連絡をとりあって、ここに来たのだ。
「そいつの言うこと、聞いちゃだめだ!」
「え?」
「こっちですめぇ!」
 メーコが羊飼いの杖をふるい、危急の鐘を鳴らした。
 リュグナーが鎌をふるう。アモンの脊髄を触媒とした死神の鎌。
 スケフィントンの娘。
 黒いキューブで敵を包み、内包する苦痛を施す。まがまがしく包まれた一瞬、本来のおぞましい姿を映し出す。
 血を流し、慌てて傷口を押さえるヨル。
「けんけが、くん?」
「ハルキクン、まさか、ウラギッタリ、しないよね?」
 だが、すでに一人ではなかった。
「けんけが君が正義のヒーローなら、お友達のこと放っておくのはおかしいのですよ!
本当にヒーローなら、まずお友達のことを気にするはずなのですよ」
「はるき!」
「自分がたのしいことするためにお友達をないがしろにするのは間違ってるのですよ」
「ああもう、本当にイライラするなあ!」
 マスコットの一撃を受け止めるのは、本物のヒーロー。
 飛の姿だ。
「気に入らねぇがテメェがはるきの命を救ったのは事実だぜ。だが、そこまでだ」
「はるき! 絶対にお前を守るから俺達とお前の友達を信じろ!」
「「だまされちゃだめだ!」」
 唖然とするはるき。
「子供を騙して利用して、正義のヒーローだなんてよく言えたものだわ。自分の為だけにしている事が正義なんて認めない!」
 ふわりと降り立つミーティアがいる。フォーリングスターをくるりと回し、まっすぐに立ち向かう姿。
「美少女ヒーロー、ここに見参!
人を助けるフリをして悪さを働く献血怪獣、流星の彼方へブッ飛ばすわよ!」
「お分かりですか? もう、ここにはあなたは必要ありません」
「ひどいよ……! ひどいよ! なら、ナラ、【死んでもらわないと】」
 本格的に正体を表し、まがまがしく変化するヨル。

●正体を現す
「さあ、もう歪んだ祝福は解けたんだ」
 はるきに手を伸ばすヨルを、ハンスの虚刃流萌芽【空踏】が払いのける。
 ハリボテの敵の笑み、数段上を行く、柔らかな笑みが悪夢を奪い去って、微笑む。
「いきますですよ!」
 メイの蹴りが血液を振り落とす。痛みが身をさいなむけれど。
「こんなことでは負けないですよ。なぜならメイは……お姉さんですから!」
「ああっ! なんてことするのさー! ユルサナイ……ユルサナイ!」
「むっ、返り血に――ほう」
 返り血を奪う度、身が軋む。けれど、それは確かに相手を苦しめているようにも見える。
「僕はタダみんなをいやしてイタだけナノに! ねえ、そのケガ、その痛みをちょうだいよ! ちょうだいちょうだい!」
「悪いが、我は貴様を信用していないのでな」
 太陽光に逆らって、リュグナーの影が伸びる。
 アガレスの閉鎖が、ヨルをとらえた。
「ご苦労様です。周りにはケガ人はいないですね」
 きりがやってきた。
「ふ、ふ、ふ! じゃあ、君たちが痛がればいいや!」
「大丈夫ですめぇ。メーコがいますめぇ。あんなチカラに頼らなくたって」
 歌声。
 メーコのミリアドハーモニクスが、仲間を癒していく。
「だな。そっちからは、断る!」
 飛の研ぎ澄まされた暴力が、敵を襲った。
「わっ」
『大丈夫だ、はるき!』
 飛は、重装甲の左半身で敵に体当たりを仕掛けるとともに、右腕をヨルの口へと向けた。右腕は、ショットガン。反動をものともせず受け止め、至近射撃を追撃に叩き込んだ。
 こなれた暴力、その研ぎ澄まされた物理法則の一つの頂点。
 あらゆる命を砕く獣の牙。
 守る戦闘でもあったが……。
 飛はこの戦闘を、楽しんでいる。
(ああ、こうでなくちゃなァ?)
 求めるのは、燃えるような刹那。リスクなしのそれではなく。痛みを自分のものとして引き受けるもの……。
「ねえ、もっと回復できるよ? 痛みなんて感じないほうがいいでしょ?」
「そんなの、一切お断りよ!」
 ミーティアのフォーリングスターが流星のようにきらめいて。反動を受けてもなお立っていて。
 傷だらけだけど、堂々と敵を睨んでいて。
 背は見せない。
 心配だったけれど。
 胸が痛かったけれど、それでもどこかかっこいい。
 たぶん、あれがヒーローということ。
「……歪んだ理ガ」
 赤羽の言葉に、大地が同意する。
「ああ、見えた」
 大地が、逆再生を奏でる。生命の理を紡ぐ力が逆流し、ほとばしってあふれ出す。
「はい、回復です。お代? いりませんよ」
 きりの治癒光陣が、仲間を癒やした。

「さあ」
 ハンスの祈るような所作は具現角【空踏】を介し、空想から現実となって切り裂いた。
「お友達が待っているです!」
 もはやヨルのまがまがしさは明白で、ヒーローはごっこだったと気がついた。
(ケガを治すの、いけないことだったのかな……)
 ぎゅ、と拳を握るはるきに、ミーティアは微笑む。
「あら、怪我を治してあげるなんて、とても優しいのね。
ヒーローの素質あるわよ」
「お姉さん、痛そうだよ。なおしてもらわないと、いたいまま……」
 ミーティアは優しく頬を撫でる。
「でも、痛みや傷、起きたことを無かったことにする都合のいい話は存在しないの
痛みは経験、傷は勲章! 立ちはだかる困難は乗り越えるためにあるのよ」
 できる、かな。
『できるさ!』
 飛が言う。
「心優しいはるき君なら、痛くて泣いてる子も他のやり方で助けられるんじゃないかしら?」
「ぼく、いたいのいやだったし、死にたくなかった」
「そうだね」
「ああ、そうサ」
『死にたくない』。赤羽と大地も、それが始まりだった。生きようとする生命。
「みんなにもしんでほしくなかったの」
 二足戦闘ロボットがうなりをあげて、マスコットをひき潰した。
「貴様の目的は何だ? いや、聞くまでもないか」
「痛みを! 痛みを、チョウダイよ!」
「あいにくと、間に合ってますよ」
 きりの絶界が衝撃を防いだ。
 自身を中心に、仲間を癒す魔術陣を展開する。
「もっと痛みを! 痛みをよこせよぉおお! アアアアア!」
 破裂して行く、全てが。
「まずい!」
 血液袋がはじけ飛ぼうとしている。きりが颯爽とごうの首根っこをひっつかみ、後ろへと放り投げる。
『来い!』
 英雄叙事詩が響き渡った。アームドギアから飛び出した男が、少年をアームドギアに放り投げ、そのまま突進していく。
(どうしよう、いたいの、こわいよ)
 狂ったように爆発する血液袋が、はじけ飛ぶ。
「絶対にお前を守るから俺達とお前の友達を信じろ!」
「っ……!」
 メイがぎゅうとはるきを抱きしめる。
「いきますよ!」
 きりの治癒光陣。
「まだ目を閉じては駄目よ! ヒーローなのだから!」

 遠くなっていく意識。
 おいで、おいで、と手招きする。
 でも誰かが呼んでる。
「そっちじゃないですめぇ」
 からん、からんと呼ぶような。すごく軽やかな鐘の音。
 導くような、音色。
「はるきくん! 目を覚ますのですよ!」
『どうしたの、はるきくん! とっても痛いよ。痛いのはいやでしょ? こっち、こっちだよ』
 いたいの、すきじゃないけれど。
「死ぬのはまだはやいサ」
 赤羽の声が響き渡った。
 衝撃。
(ぼく、やっぱり生きていたいな)
 墜ちていくヨルがはるきの足首をつかもうと、悪あがきに手を伸ばして。
「クハハハハ! 負けを認めたらどうだ」
 大公爵アガレスの影が、ヨルを幾重にも包んで行く。マスコットはあとはゆっくり、地獄に落ちていくのみ。
「アーア……」
 あと少しだったのに、と舌打ちが聞こえた。

成否

失敗

MVP

リュグナー(p3p000614)
虚言の境界

状態異常

メーコ・メープル(p3p008206)[重傷]
ふわふわめぇめぇ
晋 飛(p3p008588)[重傷]
倫理コード違反

あとがき

失敗判定ではあるのですが、活躍により重傷相当で済みました。
ハードと覚悟を決めていて、下手をすればほんとうに容赦なく少年が死ぬまであったので(割とやむなしと思っていたので)、十分な戦果だと思います!

PAGETOPPAGEBOTTOM