PandoraPartyProject

シナリオ詳細

埋葬された希望達

完了

参加者 : 2 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●押し付けられた"死"
 ぼんやりとしていた意識と身体の感覚を徐々に取り戻しはじめる。
 ぴく、と振れる指。……正しくは、触れているであろう指。
 そこにあったのは何処までも深い闇と壁だ。

「――!」

 助けを呼ぶ声に外からの反応はなく、状況も分からないままに目の前の壁を打ち壊す。
 バキバキッ! と硬めの繊維が裂ける音がして、木くずが飛び散った。
 埃に噎せながら壁を跨いで外に出ると――そこは薄暗い穴ぐらの中。

「こっ……これは一体、どういう事なんでしょうか!?」
『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)が戸惑いがちに見回すと、彼岸会 無量(p3p007169)と目が合った。
 彼女はスッとウィズィが脱出した"壁"の方を指さす。示されるがまま振り向けば、上蓋が割られて壊れてしまった棺桶が2つ。
 ひとつはウィズィ、もうひとつは無量が眠っていたものだ。

「どういう訳か私達は、埋葬されてしまったようです」
 墓を荒らされ荒ぶる霊を鎮めたのは、まだ無量の記憶に新しい。
 それが今度は何の因果か、己が墓穴に埋められてしまうとは……。

 棺の中へクッションのように敷き詰められた花々は未だ瑞々しく、埋められてから時間はそれほど経過していないようだ。
 埋葬作業の名残か、はたまた"あの世"への手向けの一部か。墓穴のすみっこには真新しいシャベルが転がっている。
 通気口は何処にもなく、うかうかしていればいずれ酸素も薄れてゆくだろう。

――誰が? 何のために?

 朧げな記憶を辿り、曖昧な過去を拾い集め。二人の証言を繋ぎ合わせていく事、しばし。
 浮彫になったのは、一人の境界案内人の存在。

『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)。"止まる導"の通り名を持つ彼は、命の止まる事――つまるは死を見つめ直す物語を大切にしている。

「とはいえ、境界図書館には数多の異世界が混在しているせいで、いくらでも仕事が選べる状況だ。
 訪れるのもハイリスクな場所へ、好き好んでいく特異運命座標は居ないと思って……諦めていた一冊がある」

 取り出された漆黒の表紙の本の名は《エターナルグレイヴ》。
 あらゆる生命が生まれながらに埋葬され、生きる喜びを知らぬまま短い一生を終える絶望の世界。

「昔はこんな、恐ろしい理のある異世界じゃあなかった。エピタフと名乗る魔王が全てを変えちまったんだ。
 なぁ、ウィズィ、無量。お前さん達の絆を見込んで頼ませてもらう。どうかこの世界を救ってはくれねぇか?」

●哀しき墓標(エピタフ)

 ガリ、ガリ、ガリ。
 喪服のようなドレスを纏った一人の少女が、花畑の中で墓石に名を刻んでいる。
「無量お姉ちゃんと、ウィズィお姉ちゃん……異世界からのお客様。ふふっ、棺桶は気に入ってくれたかなぁ」

 お花もたっぷり棺に詰めたし、深くふかーく埋めてあげたよ。
 エピタフは知ってるんだ。イキモノって、生きていくのが大変なんだって。疲れるんだって。
 だから眠らせてあげるの。もう傷ついたりしないように、もう疲れてしまわないように。

「さぁ、安らかに眠りましょう? 愛しているわ、お姉ちゃん達!」

NMコメント

 ご指名ありがとうございました! NMの芳董(ほうとう)です。
 じわじわと足元から這い上がる死の気配。棺桶から始まる貴方達だけの物語。どうぞお楽しみください。

●目的
 魔王『エピタフ』の撃破

●場所
 異世界《エターナルグレイヴ》
 魔王『エピタフ』が世界の理(ことわり)を歪めた事により、生まれ落ちると同時に埋葬され、死を迎える絶望の世界。
 2人も例にもれず何処かへ埋葬されてしまいました。スタート地点は墓穴となります。

●敵
 魔王『エピタフ』
 喪服を着た銀髪の少女。大地から力を借りる事で植物を操り、中距離から近距離の攻撃をしかけてきます。
 無邪気な性格ですが、それゆえに残酷。死は安らかな眠りであると強く信じ、それを強要してくるようです。

 墓守の従者×6
『エピタフ』の呼び声に応える従者。生ける屍です。
 剣や拳による近接戦闘を得意としていますが、彼らの真骨頂は奇襲攻撃。
 命を無視された者達だからこそ出来る襲い方をするのだとか。

●その他
 穴の中は薄暗く、棺を納めるため大きな空洞になっていますが、残された空気には限りがあります。
 掘り進んだとしても、その先に空が見えるとは限らない。
 間近に迫る死の気配に、特異運命座標は何を思うのか――この機会にぜひ、考えてみてください。

 また、境界案内人の赤斗は基本登場しませんが、呼び出せば登場するかもしれません。

 説明は以上です。それでは、よい旅路を!

  • 埋葬された希望達完了
  • NM名芳董
  • 種別リクエスト(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年08月24日 22時10分
  • 参加人数2/2人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 2 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(2人)

彼岸会 空観(p3p007169)
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌

リプレイ

●埋葬された希望達
 荒くれ者の集まりである海賊にも、秩序はあるのだという。
 掟を破った者に与えられる罰――置き去り刑。文字通り無人の孤島に放逐される罰ではあるが、そこには一握りの希望が添えられる。
 少量の水とパン。そして自殺も選べるようにと、弾ひとつだけを込められた銃。

「さ、て」

 墓穴の中に投棄されただけか、はたまた埋葬者が与えた"一握りの希望"か。転がっていたシャベルの柄を握り、『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)はゆっくりと身を起こした。

「こんなところで死ねない。死ぬのは死んでもゴメンだからね」
「……ええ、そうですね。一先ずは脱出が最優先」

 静かに告げて並び立つのは『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)。効率的に抜け出す方法はないか暫く壁を観察していたものの、ウィズィニャラァムが泥臭くても前へ進む事を悟ったのだろう。共に壁へとシャベルを向ける。

「長丁場になる予感がします」
「大丈夫、背筋は鍛えてんだ」

 ウィズィニャラァムはしなやかな筋肉を誇るように大きく腕を引き、深々と土壁へ刃先を突き刺す。力任せに横へ一気に抉りぬき、大きく土を掻いて捨てる。
 無量は壁の柔らかい所を見抜き、疾風のように土を掻き出す。第三眼を幾度も使い、勝利を視て来た彼女には、『線』が見えずとも掘るべき場所を直感で感じとれるのだ。

 思い思いの方向へと堀りはじめ、出だしは至って順調。故に――難攻するより性分が悪い。目の前の作業に思考する必要が無いせいか、邪念が2人の心を徐々に蝕んでいく。

●明日へ繋がる道
 隣にはいつも死が溢れていた。

 餓えて砂を食みながら死する小さき者。
 口減らしに捨てられる年老いた者。
 病に伏し子らに詫びながら血を吐く者――。

 死は決して遠くにある恐怖ではなく、
 一切皆苦、此岸に生きる事は地獄であると。

『同じだね、無量お姉ちゃん』
 何処からか少女の囁きが耳を掠める。その声は柔らかく懐くような声色だった。
『零れた涙を掬い上げても元に戻す事は出来ないの。だから眠りを与えてあげる。
 痛む前に。苦しむ前に……この世に、絶望する前に』

「確かに、魔王エピタフの思考も理解が出来る。何より私も同じ考えでありました」
『なら葬ろう! 私と一緒に――』
「けれど、其れは違ったのです」

 凛とした言葉と共に繰り出された刃先は邪悪な少女の影を退け、目の前の壁を突き崩した!
 パラパラと土が落ち、砂埃の後に対峙する無量とウィズィニャラァム。
「うわっ、穴が繋がった!?」
「折角ですから、此処から二人で同じ方へ」
 邪念を掃った無量の瞳に陰りは無い。対してウィズィニャラァムの方は、焦りの色が顔に滲む。

(死ねない。死にたくない)

 死なないという決意ならば人一倍、元より持っている。
 それはウィズィニャラァムの恋人の考えでもあり、恋人という存在そのものが齎した彼女の心境の変化でもあった。
 しかし、その上で"生き方"というのは意識した事がなく。『どう生きるか』の大切さを己が人生をもって彼女に示したのが無量だ。だからまた、あの時のように――。

「ねえ、無量さん」
 掘る。
「私さ。生きるって、前に進むことだと思ってたんだ」
 掘る、掘る。
 問いかける間も手は休めない。……いや、休める余裕がない。

「でも……私達は今、生きてるのかな」

 誰にも見えぬ土の中でただ藻掻いているだけ。
 確かに死んではいないけれど……。

(あ、だめ。だめだ……)

 心のブレーカーが今にも落ちそうだ。ここで切れてしまったら、もう――。
「今私達が生きているか、ですか」
 
 無量は考えるような素振りを見せた後、壁を掘り進める手を止め一点を指差した。
 白い指で示したのは――今まで掘り進めてきた道。

「これが証左で御座いましょう」

 歩いた後が道となる、掘った場所が道となる。
 辛く、苦しい。そしてそれは殆ど他人には理解されない。
 掘った道を埋め掘り直す事は出来ず、その道を歩んだ責任は己にのみある。

「けれど、少なくとも今この場には貴女の他に私が居る」

……。
……ああ、そうか。

 ほんの少し前までは交わらぬ穴を掘っていた。
 然し今やその二つの穴は交わり、絡み合い、共に在る。
 無量とウィズィニャラァム。生まれも育ちも違う二人が互いの人生(みち)を歩んだ果てに、巡り合う事が出来たように。

 掘り続けなければ出会う事はなかった。
 生き続けなければ出会う事はなかった。

 正に今この状況こそ、生きると言う事なのではないか!

「そうだ。私達は今、地上の“光に向かって”掘り進めている。光に向かって生きてきた道がある」
「憑き物が落ちたような顔ですね」
「……うん。私なりに答えが見つかったから」

 私にとっての光は…きっと、
 交誼を成して共に歩む、縁紡いだ皆。
――そして。

「無量さん」
 向き直って、土と砂だらけの顔で笑う。
「……ありがとう」
「――」
 ほんの一瞬、見開かれる無量の目。それはすぐに細められ、穏やかさを帯びた。
「どう致しまして」

 闇の中に放り出されようと、互いに照らし合えばいい。
 二人であれば責任も、苦しみも半分。この先に何が待ち受けようと、諦める事はあり得ない!

「行きます」
「せーの!」

 息を合わせ、土壁の斜め上へと同時にシャベルを突き立てる。
 刹那、崩れた土の隙間から小さな光が差し込んで――。

●光の方へ
 土の下から怨嗟が聞こえる。

――生キタイノニ、ドウシテ。

――イヤダ、マダ死ニタクナイ。

 それは生まれながらに死を突き付けられた、この世界の命の声。
 悲痛な嘆きを雨のように浴びながら、魔王たる少女エピタフは慈愛に濡れた微笑を零す。
 弔いの花が一面に咲く白い花畑の中、月と星明かりに照らされて。

「痛いよね。怖いよね。苦しいよね。大丈夫――その感情は無価値。その嘆きは無意味。
 だって全部、誰かを傷つける前に土へ還るんだもの!」

 ビュッ!!

 恍惚の時間を破るように鉄の塊がエピタフへと飛来する。反射的に彼女が大きく飛びずさると、先程まで彼女が居たはずの場所に深々と突き刺さるシャベル。

「……何で」
 それにエピタフは見覚えがあった。抱えていた石の板。刻みかけの名。
「せっかく眠らせてあげたのに」
「私は死ねない。私に光を……生き様を与えてくれる人がいるから!」

 迷いのない言葉が少女の胸を貫く。言葉のナイフで零れるのは血ではなく、だくだくと溢れ出る黒い感情。

「生き様? なにそれ。訳わかんないっ!」
 怒りに呼応するかのようにエピタフの足元の土が盛り上がり、野太い植物の蔓が伸びる。辺りに白い花弁を散らせ迫りくるそれへ立ちはだかるウィズィニャラァム。

「さあ…Step on it!! 行くよ、無量さん!」
「ええ。背中は任せます」

 構えたまま、人差し指と中指をクイクイと曲げて挑発し、迫りくる蔓を真正面からブン殴る!

「私のこの手は……光を掴む、勝利の拳だあぁぁーーーッツ!!」

 衝突した瞬間、轟音と共に巻き上がる砂埃。競り負けたのは――蔓の方だ。急速に成長を促されたそれはダメージを吸収しきれず朽ちていく。

「嘘……でしょ? たかが人間の、たかが拳ひとつで、どうして……ッ!」
「教えて差し上げましょう」

 動揺するエピタフの横に躍り出た無量が刃を奮う。盾になるよう呼び出された屍の従者が現れては数度斬り合い、ガキィン! と鋭い音を立てて屍の剣を弾き飛ばして、その躯体を両断しきる。

「確かに生きる事は辛く、苦しく、時には死が安らぎとなる。
 けれど人は生きる上で手を繋ぎ、助け合う」

 無量に向かい死角から狂刃が振り下ろされると、ウィズィニャラァムが横合いから払いのけた。
 ウィズィニャラァムが頑健な盾となり、無量が鋭い矛となる。一心同体、睨むエピタフの前で堂々と手を重ねる二人。

「掌のしわとしわを合わせる様に確りと、それこそが『しあわせ』です。
 それを知る為に私達は生まれ、生きていく」

 私は其れを一度違えた。
――故に、今度は間違えない。

「分からない。分からないよ」

 重ねられた手を凝視してエピタフは狼狽えた。
 だって私は、生まれながらにどうしようもなく化け物で。何でも無に還す事しか知らなくて。
 手を合わせる他人(ひと)なんて今更いる筈がない。だから嫌いだ。大嫌い。
 目の前の二人も、頬を流れる熱いものも――何もかも全て、消してしまえば!!

「もういいや。分からなくても……お姉ちゃん達はどうせ死んじゃうんだからさぁ!!」

 エピタフの身体から夥しい瘴気と共に植物の鎌が現れる。握りしめたそれを奮いながら狂ったように笑う少女へ対峙する無量。
 研ぎ澄まされた神経は世界の悲鳴を吸い上げ、一体となる。
 全は一となり、一は全を持つ。見開かれた眼の先に映るのは『最適な太刀筋』。

「死す時の為、私は生きる。ウィズィニャラァム、貴女に誇れる様に」

――唯刀・阿頼耶識

「この技をもって我が道阻む者を、斬る!!」

 ドウ!! と風が起こる。
 繰り出されたのはたった一筋。されどそれは適格にエピタフを討ち、真っ二つに切り裂いた。
 飛び散る血はなく、少女の身からは夥しい黒い煙が噴き出す。

「ああぁぁ……」

 土の下に命を埋葬してきた魔王は地に還る事すら許されず、空へ溶けるように揺らいで――消えた。

「終わっ……た?」
「……はい。終わりました」

 墓穴に閉じ込められてからどれ程の時間が経っただろう。互いに口にしあってようやく確信する。終わった。全て――この異世界に救う病魔を打ち払い、今ここに生きている!

「無量さん」
「はい」
「帰ろう。光の方へ……私達を待ってくれてる、皆の方へ!」

 ウィズィニャラァムが伸ばした手を、無量はしっかりと握り返した。
 斜陽が木々の隙間からさし込み、夜明けの光が二人を照らす。太陽の登る方へ、二人はゆっくりと歩き出し――その世界を後にした。

成否

成功

状態異常

なし

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