特異運命座標とお菓子の国

オープニング

　たくさんある異世界のうちの一つ、その名を『スイーツランド』という。
　名前の通り、そこはすべてがお菓子で出来た国である。
　ビスケットの壁にチョコレートのドアにカラフルなドロップのランプの家はもちろん、青い空はブルーシロップ、真っ白な雲はコットンキャンディ。
　その辺りに咲いている薔薇だって甘い砂糖菓子で出来ていて、まさに食べられる王国なのだ。
　そこに優しい王様と王妃様。
　そしてちょっぴりわがままで甘えん坊なお姫様が住民たちと仲良く暮らしていた。
　お姫様はお菓子はもちろん、御伽噺が大好き。

　そんな、ある日お姫様が爺やを呼び出した。
「ねぇ、爺や！　お菓子で出来ていない国があるって本当？」
　目を輝かせて尋ねる姫に、自慢の髭を撫でながら爺やは答える。
「話には聞いたことがありますな。もっとも爺もこの目で見たことはございませぬが……」
「私行ってみたいわ！　そうだメランジェなら連れて行ってくれるかしら？」
　慌てて愛馬のところへ駆けていこうとした幼い姫を、爺やは慌てて止めた。
「ややや、姫様！　それは御伽噺の世界ですぞ！」
「あらどうして？　爺やだって見たことがないのでしょう？」
　ならあるかもしれないじゃない！
　と興奮気味の姫に少し前の自分の発言を爺は反省した。
　何とかその日は宥めて、マシュマロで出来た天蓋付きのベッドにて眠らせることに成功したのだが……。

　その日、姫は夢を見た。
　たくさんの人がこのスイーツランドに来て降り立つ夢だ。
　お菓子で出来ている国に驚く人。
　そうっと砂糖菓子の薔薇の花びらを摘まんでは恐る恐る口に入れている人。
　お菓子の家の前でこれ本当に食べていいの……？　と困惑する人。
　姫は夢の中の人たちに声を掛けた。
「ねぇ、あなた達の世界はお菓子で出来ていないって本当？」
　目線を合わせてくれた一人の青年が答える。
「そうだよ、だから本当にお菓子で出来ている国があるなんて驚いているんだ」
　生まれてこの方お菓子に囲まれて、全部がお菓子ができているのが当たり前の世界の姫にとって青年のお話は本当に興味深かった。
　もっともっと、とおねだりしていると聞こえてくる小鳥のさえずりと蜂蜜で出来た太陽の日差し。
　どうやら夢から覚めてしまったらしい。
「あーあ……夢かぁ……」
　どうせだったら本当になってくれればいいのに。
　小さい頬を膨らませた彼女はこれから起こる不思議な出会いをまだ知らない。

●
「さて、今回の旅行先……いや依頼内容を伝えるぜ」
　完全に旅行って言ってたじゃん――。
　と、いうあなたのツッコミは無視してショートケーキにフォークを差している境界案内人、朧が言った。
「お前さん達、菓子は好きかい」
　何でもそこはすべてがお菓子で出来た世界なのだという。
　簡単に言うと国全体が食べ放題のスイーツパラダイスなんだそうだ。
「食い過ぎても一晩経てば元通りらしいから、気を使う必要はないぜ」
　だが、甘い物が苦手な者はどうしたら？　と質問の声が上がる。
　飄々として朧は回答した。
「別に食べなくてもいい。そこには幼いおひいさま（お姫様）がいるみたいでな。その子にこっちでの話をしてやればいいさ」
　じゃ、好きなだけ甘い夢を楽しんできなねと、朧はあなた方を送り出した。

　


　

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第2章

第2章 第1節

　日は高く昇り気づけば昼。
　スイーツランドはまだまだ活気に満ちている。
　城ではシェフやメイドがランチメニューや掃除に追われ、姫は無邪気に遊んでいる。
　どうやらお菓子の町の方では開店し始めた店があるらしく、お菓子を使ったアクセサリーなんかも売っているそうだ。
　さぁ、何をして過ごそうか？

・二章
　昼です、お日様は高くまさにランチやおやつにぴったりの時間です。
　朝のお城では、昼ご飯（全部お菓子）の準備をしていたり、お掃除をしているようです。
　お菓子で出来た町では住民たちが和やかに挨拶を交わしています。
　お店なんかも開きはじめ、お買い物が楽しめそうです。


●できる事（例）
・お菓子の国を探検してみる。
・お城を探検してみる
・お菓子を食べる（一つのお菓子を延々にでも、たくさんの種類を少しずつでも）
・姫とお話しする（遊ぶも可）
・街で買い物してみる。

●境界案内人
　朧
　ご指定がなければ登場しません。ご指名があればホイホイついていきます。
　甘い物は人並みに好きだそうですが、最近歳のせいか胃もたれがうわなにするやめろ。

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第2章 第2節

「ねぇお姫様、あなたのお名前を教えてくれるかな」
　すっかり自分になついた小さな姫に『献心のカレンデュラ』アイシャ（p3p008698）は微笑んだ。
　名を聞かれた姫は嬉しそうに答える。
「ホイップ！　私はホイップよ！」
「私はアイシャ。砂漠の国から来たのよ」
「砂漠！しってるわ、一面砂なんでしょう？」
「ええ、そうよ」

　名前まで甘い姫にくすりと小さく笑みながらアイシャはホイップにぽつりと語りだした。
　自身の生まれ育った故郷の事、大好きな家族の話。
　じっとアイシャの目を見て真剣に話を聞くホイップの姿がまだ幼い妹と重なった。
　
　あの子にも綺麗なドレスを着せてあげたいな。
　きっと大はしゃぎで喜ぶだろうな。

「アイシャちゃん？」
　不思議そうにアイシャの名前を呼ぶ声が、アイシャの意識をこちらに呼び戻した。
　無意識の内に、ホイップの頭を撫でていてしまったらしい。

「あっ……急にごめんね。妹の事を思い出しちゃって……」
「妹がいるの？」
「ええ、そうよ。あなたと同じくらいの歳でとても甘えん坊なんだ」
　
　そしてこんな遊びが好きなのよ！
　と、ホイップを抱き上げて、アイシャは自分の顔よりも高い位置に持ち上げぐるりと回る。
　自分ではまず見ることのない高い場所からの視点にホイップは大はしゃぎであった。
　きゃっきゃと喜ぶ幼い笑顔に懐かしさをアイシャは覚える。
　
　執事さんには内緒の遊び。
　次は何して遊びましょうか？
　
　

成否

成功

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第2章 第3節

「……このような世界は予想外です」
　依頼、と聞いて真面目にやってきた『0℃の博愛』ブラッド・バートレット（p3p008661）は目の前に広がるスイーツランドに瞬きを二、三度繰り返した。
　実際に口にしたわけではないが目に映るだけで味覚が甘いと判断している気がする。
「お菓子の世界の歩き方の知識はありませんね」
　普通に食べながら歩けばよいのでは？
　と、思われるかもしれないがブラッドは定義を重んじる真面目な男だ。
　彼が一度『お菓子の世界の歩き方がある』と決めたら周りが何を言おうがその歩き方を順守する。
　そんな男だ。
　なので彼は視界に捉えた濃紺の星空のスカートを翻した少女に声を掛けた。
　
「こんにちは、お嬢さん。俺はブラッドと申します」
　名を呼ばれ長い睫毛を震わせたのは『物語No.0973《星の姫》』コルク・テイルス・メモリクス（p3p004324）であった。
「ご機嫌よう、こんにちは！」
　手慣れたカーテーシーと笑顔を添えて、星の姫はブラッドに答える。

「挨拶を有難う。私はコルクと申しますわ」
「お菓子はお好きですか？　俺は特別好むわけでも無いのでこの世界をどう歩けば良いか迷っていたところです。よろしければご一緒に周っていただけると助かります」
　すっと頭を下げたブラッドにコルクはあらあらと白魚のような手を口元へ遣った。
「あら、ブラット様は甘味は普通……と言った感じですかしら。ふふ、ならば共に参りましょう」

　素敵なスイーツが私達を待っていますわ！

　びしっと、はるか彼方を指さしたコルク。
　こうして星の姫と融通の利かない聖職者はお菓子の世界へ足を踏み出した。

　グミがなっている低木、プレッツエルのリース、クッキーで出来た柵――。
　どれを食べようか本当に悩んでしまう。
　目に映る物が甘い香りで私を食べてと誘ってきている気がする。
　うーん、うーんと辺りを見渡していたコルクの目に鮮やかな赤が目に留まった。
　少しだけ速足で赤の元へ近づくと、それは深紅の薔薇を象った精工な飴細工であった。
　本物の薔薇を手折る様に指に力を込めれば、パキリと小さく音が鳴った。

「精密な薔薇の飴細工ですね。現実味が無くて不思議な感じがします。」
　後ろから覗き込んでいたブラッドが率直な感想を漏らす。
「やはり一般的にこのような世界を『夢のよう』と言うのでしょうか」
　ぼそり、とつぶやいたブラッドにコルクは「夢？」と、一本薔薇を差し出した。
「夢だと仰るのならば、この薔薇を覚えていて。ふふ。これで貴方と私は、甘い夢のお友達ですわ」
　二人で食べた薔薇の味。
　舌の上で蕩けた其の味を、鮮明に覚えていることでしょう？

　少女に不釣り合いな妖艶な微笑。まるで星の雲をつかむようなふわふわとした、甘い香りに。
　理解はできないが、彼女も夢のよう。というのだろうかとブラッドは赤い花びらを噛み砕いた。

　がりっという音と共に砂糖が舌に融けていった。

成否

成功

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第2章 第4節

「話に聞いていた通り、本当に何でもお菓子で出来ているのですね」
『ぽんこつ魔法使い』ユージェニー・エンデ（p3p008892）は目の前ビスケットの壁を見上げた。
「……なんだか食べるのが勿体ないような気がします」　
　芸術作品の様で食べてしまうのは躊躇われた。

●
　ユージェニーが城内を散策していると、軽い足音が聞こえてきた。
　この国の姫、ホイップである。彼女はユージェニーに駆け寄った。
「こんにちは！　ねぇ、あなたもお外の国の人？」
　そうだと答えるとホイップは途端に瞳を輝かせた。
「嬉しいわ！　一緒に遊びましょ？」
　ホイップは無邪気に強請った。
　何をして遊ぼうかと思案しているとホイップは両手で透明な小さな珠を見せてきた。

「これはビー玉ですか？　いや、飴？　飴で出来たビー玉かしら……。」
　球体には周囲の景色が映りこんで美しい色が広がっている。
「わたくし、ビー玉遊びなら少しやったことがありますわ」
「この飴はびーだまというの？」
　ビー玉を手に取って指で弾く。思い返すのは幼い記憶。
　お人好しのメイドが教えてくれた遊び。
　カン、と甲高い音がして弾かれたビー玉を懸命に追いかけるホイップ。
「もう一回！　もう一回やって！」
　大層気に入ったらしくホイップは何度もビー玉をユージェニーのところへ持ってくる。
　胸の内に温かさを感じながらユージェニーはあのメイドさんもこんな気持であったのかなと、またビー玉を転がした。
　

成否

成功

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第2章 第5節

「マシュマロっていうの食べたくなっちゃったナ」
　お菓子の街を歩くのは『子供じゃないヨ！』シェプ（p3p008891）である。
　姫と別れたシェプは『マシュマロ』に想いを馳せる。
　ベッドというからには家具屋に置いてあるのだろうか？
　辺りを見渡し、シェプは寝具を扱っている店を見つけた。
　中では優しそうな店主が品物の点検をしている。

「あの、こんにちハ！ボク、シェプっていうノ」
「あら！　綿飴みたいに可愛いお客様ね」
　店主は膝を折りシェプに目線を合わせてくれた。

「あのボク、マシュマロっていうの探してルノ。どこに行けば食べられル？」
「マシュマロをお探しなの？」
「もちもちしててとっても美味しいものって聞いたノ。多分ボクそれ大好き……！」
　なんとも可愛らしい様子に店主は微笑んだ。

「それならこの店にたんとありますよ。すこし待っていてくれる？」
　シェプの頭を撫でた後、店主は小さな白い物が入った籠を持ってきた。

「これがマシュマロよ。さぁ、どうぞ」
「いただきまス！」
　一つ摘まんで口（？）の中へ。
　程よい弾力とほんのりした甘さにシェプは目を瞠った。こんなに美味しいなんテ！
　満足するまで食べたシェプに店主はお土産にマシュマロの入った袋を持たせてくれた。
　店主にお礼と別れを告げ、シェプはまた歩き出す。

「わたあめみたいで可愛いって言われたけど今度はわたあめっていうお菓子を探そうかナ……」
　次の目標は決まったようだ。

成否

成功