PandoraPartyProject

シナリオ詳細

体面か命か

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●風土病への配慮を求めて
 幻想領内のとある村──。
 ここには特殊な風土病が存在していた。
 しかし、この風土病を抑える薬草もまた存在しているため、ずっと平穏に暮らしてきた村人達。
 この状況に変化が生じたのは、この薬草を風土病にかかっていない者が摂取した場合、幻覚や幻聴が生じて依存性も非常に強いということが判明してからだ。
 薬草の使用や栽培が禁じられ、採取できないように幻想領内で最も多くの薬草が自生している村の近くの山への立ち入りまで制限されてしまった。
 以前、ローレット所属のイレギュラーズが介入したことにより、村人にはこっそりこの薬草がたくさん届けられたのだが、使っていればいずれ尽きるのが道理である。
 村長はイレギュラーズによって丸薬にされたこの薬草の管理を行っていたが、半分近くまで減ってきた丸薬を見て頭を抱えていた。
 また薬草を採ってきてもらうのも良いが、それではまた同じことの繰り返しだ。
 根本的な解決にはならない。

 こうなったら、薬草の使用や栽培についての制限を限定的に解除してもらうしかない。
 村長も以前かなりそのために苦心したが、成功しなかった。
 だからこそ、以前は応急措置としてイレギュラーズに薬草を採って来てもらったのだ。
 その際、薬草を採取しただけでなく長期保存できるよう丸薬にすることに成功したのは、イレギュラーズだった。
 自分達にはできないことでも、イレギュラーズならば。
 前回の彼らの活躍により、そんな信頼も村人達の中には芽生えている。
 それならば……。
 貴族の説得をイレギュラーズに依頼するしかない。
 村長はついにそう決心し、再びローレット本部を訪れることにしたのである。

●村長、再び
「ど、どうも。また来てしまいました」
 以前にも応対をしたことがあるため、今回も『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が村長の話を聞くことになった。
「いつでも歓迎するのです! 今回はどうしたのですか?」
 少し緊張している様子の村長をリラックスさせようと、ユリーカが笑顔で応えている。
「実は、村の風土病を抑える薬草を禁じた貴族さまを、説得してもらえないかと。村の者が薬草を使えるようにどうにか……」
「説得ですか。確かに、その方が良いかもしれないのです……」
 ユリーカも村の事情についてはある程度知っている。
 彼らがこれからも風土病で命を落とさないようにするには、それが一番だろう。
「別に私達が山に入れなくても構わないんです。ただ、薬草をいただければ。
 配給でも何でも良いので、定期的に摂取できる状態になりさえすれば、それで良いのですから」

 ただ、貴族にも体面はあるだろう。
 万が一にも、薬草を与えて中毒症状になる者が出ようものなら、いい笑いものである。
 村の者、というよりもこの特殊な風土病にかかっている者なら、摂取しても心配されているような症状が出ないことを証明する必要もありそうだ。
 そして、まずは貴族に会うことができなければ話にもならない。
 村長では、どう頑張っても会えなかったようだ。
「分かりました。今回も、きっと何とかしてみせるのです!」
 ユリーカは、村長を安心させようと自信ありげに胸を張ってみせる。
「ああ、良かった……これで私たちも安心できます。どうか、よろしくお願いします」
 イレギュラーズへの信頼もあるのだろう。
 村長は、ホッとした様子で村へと帰って行った。

GMコメント

 閲覧ありがとうございます、文月です。
 今回は薬草を禁じた貴族に、薬草を使わせてもらえるよう説得するのが目的です。
 以下、補足となります。

●成功条件
 ・貴族の説得
  「風土病にかかっている村人達が薬草を使える」ような状況を貴族が認めるよう説得するのが成功の最低条件です。
  村長が言っているように、配給制でも何でも構いません。
  村人が薬草を定期的に摂取できるようにすれば良いです。

●貴族についての確定情報
 ・30代後半の男性で妻子持ち
 ・マシムオンという蛇のモンスターを丸ごと1匹欲しがっているらしい
 ・体面はかなり気にするタイプ
 ・あまり賢くないがプライドは高いので、馬鹿だと思われたくない
 ・世間知らず
 ・偉そう
 ・おだてられると弱い
 ・屋敷内には使用人だけでなく警備の私兵もいる

 手土産にマシムオンでも持参すれば、門前払いされることはないでしょう。
 貴族の性格を上手く利用し、説得してください。

●マシムオンについての確定情報
 ・毒蛇なので毒注意(死なないが麻痺して動けなくなる)
 ・最大10mの個体もいるらしい
 ・貴族が欲しがっているのは比較的小さな個体で、1mもあればいい
 ・精力剤として使われることが多い
 ・欲しがる人は大体こっそり入手したがる
 ・生息地はあまり人の入らない森、山など
 ・ヤブの中にいることが多い
 ・群れは作らない

●風土病について
 ・薬草を定期的に摂取しないと弱い者から死んでしまう
 ・長い間、村人は皆きちんと薬草を摂取してきたので、風土病が原因で死ぬ者はいなかった
 ・前回、薬草が尽きかけて子供や老人といった体力のない者が寝込んだ
 ・薬草は1度に少量ずつ摂取すれば良い

●おまけ
 知らなくても問題ありませんが、前回の件に興味がある方はこちらをどうぞ。
 (https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/172)

●その他
 口調や性格等が分かりやすいよう書いていただけたりしますと、大変助かります。アドリブ不可と記載がない場合はアドリブが入ることもありますのでご注意ください。
 皆様のご参加、お待ちしております。

  • 体面か命か完了
  • GM名文月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年05月04日 20時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
銀城 黒羽(p3p000505)
アレフ(p3p000794)
純なる気配
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
ティアブラス(p3p004950)
自称天使

リプレイ

●下準備
 風土病に苦しむ村人達を救うため、貴族を説得するのが今回の依頼目的だが、まずは手土産としてマシムオンを捕獲するのが近道になりそうだ。
 それを聞いて早速マシムオン捕獲に動いたイレギュラーズ達だった。
「なるほど、なかなか独特なにおいだな」
 村の薬屋から干したマシムオンの一部を借り、『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)が超嗅覚を使ってにおいを嗅ぎ、覚える。
 干しているので人間だとほとんど分からない程度のにおいだが、猟犬並みの嗅覚となったジェイクには少しきついくらいだ。
 『叡智の捕食者』ドラマ・ゲツク(p3p000172)は村長から風土病について話を聞いている。
 文献でも残っていれば、貴族を説得するのに役立つかもしれない。
「何しろ、小さな村なので文献までは。もしかしたら、貴族様のところに何かあるかもしれませんが…」
 確かに、貴族のところになら領主としての記録が何かしら残っているかもしれないが、はっきりしない。
 『応報の翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)は、マシムオンを精力剤とする時にどんな個体が向いているのか、薬屋から聞いている。
「マシムオンの背中側には縞模様があるんですが、これがくっきりしてる方が効果が高いと言われています。
 あと、大きすぎると良くありません。1mくらいがオススメです」
 念のため、薬屋の説明を聞きながらメモを取る。
 『堕ちた光』アレフ(p3p000794)もその隣で薬屋から話を聞く。
「保存方法は、干すか酒にするかですかね。煎じて飲むなら血抜きしてから干しますが、内臓も抜いておくとよりいいです。
 酒にするならしばらく瓶の中に水と一緒に入れ、水を交換しながら胃の中の物を全部出させて、それから酒瓶に移して酒を注ぎ、しばらく漬け込みます。
 酒は度数35度以上がいいですね。度数が低いと腐敗しやすくなりますから」
 酒に漬ける場合は胃の中身を出すために生け捕りにした方が良いようで、干す場合もできれば頭を狙って殺すのがオススメだそうだ。
 貴族がどういう使い方をしたいのか分からないが、とりあえず2匹もいれば十分だろう。
 持ち帰る時も、1匹ずつ瓶に入れるのが良いということだった。
 確かに瓶なら中身が確認しやすいし、きちんと封をしておけば逃げ出す心配もないはずだ。
 捕獲方法も聞き出し、あまり大きな個体でない限り蛇つかみ棒とやらを使えば意外と難しくなさそうなので安心する8人だったが、毒にだけは気を付けなければ面倒そうである。
 この村の近くでマシムオンがいる場所を聞き出し、捕獲の準備を整えて全員で向かうことにした。

 2匹は捕獲したいので、2グループで探す。
 村の近く、薬草が採れるという山とは別の山に入り、森を見つけたところで左右に分かれて進む。
 右に進んだA班はドラマ、アレフ、ミニュイ、マルク・シリング(p3p001309)の4人だ。
 アレフの超聴力、ドラマの自然会話やミニュイのエコーロケーションでマシムオンを探す。
 藪の中、微かに蛇の腹が地面を擦る音をアレフが聞きつけ、手の動きだけで他の3人に位置を知らせる。
「待って、これ大きすぎるかも……」
 アレフに代わって超聴力で微かな音を聞き続けていたドラマが慌てて止める。
 静かにマシムオンの方へと向かっていた3人が動きを止め、音で位置を把握していたアレフがそっと藪の中を覗き込むと、胴体が人の腰くらいの太さはありそうなマシムオンがこちらを見てとぐろを巻き、細長い舌をシュルシュルと出し入れしていた。
 一瞬、全員の動きが止まる。
 アレフの後ろからマルクがマギシュートで攻撃し、巨大なマシムオンの眉間を撃ち抜く。
 その直後、ミニュイが精密射撃による全力攻撃を行い、マルクが撃ち抜いたのとほぼ同じ位置を撃ち抜くが、バリスタによる強力な一撃はマシムオンの頭を半分ほど吹き飛ばしていた。
「助かった、ありがとう」
 礼を言うアレフにマルクとミニュイが頷いてみせる。
 仕留めたマシムオンは、どう見ても薬として使うには大きすぎた。
 また探し始めるとアレフが木の上で寝ているマシムオンを見つけ、薬にするのにもちょうど良さそうな大きさだったので、村で借りた蛇つかみ棒を使ってミニュイが掴む。
 驚いてマシムオンが起きてしまったが、そのまま用意してきた瓶に入れてドラマがしっかりと蓋をする。
 この瓶は、アレフが持ってきていたバッグに入れて持ち帰ることにした。
「毒蛇とのことですが、薬にもなる……一体何のお薬なのでしょう?」
 ドラマが村への帰り道でそう言って首を傾げるが、何に使うのか察している他の者もあえて答えず適当に誤魔化すのだった。
「何にしても、思ったより楽に捕獲できて助かったよね」
 ミニュイがそう言って話を逸らし、ドラマもこれに同意して自然に他の話題へと移っていった。

 左側へ向かったB班は『暇人』銀城 黒羽(p3p000505)、ジェイク、リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)、『自称天使』ティアブラス(p3p004950)の4人だ。
 ジェイクが村で覚えたマシムオンのにおいを超嗅覚で探し、黒羽が捜索スキルでこれをサポートする。
 ジェイクは忍び歩きも行い、かなり慎重に動いている。
 やがてジェイクがマシムオンの位置を察知し、手信号で他の3人にこれを知らせる。
 すぐに黒羽がマシムオンを釵で挑発し、囮として動く。
 ただでさえ縄張りを侵されてイライラしているのか、マシムオンはすぐに釣れた。
 囮役を担当している黒羽は、その後は自分から攻撃することはしない。
 ティアブラスは元々ただの手伝いとして同行しているので、リースリットの後ろに隠れて見ている。
 黒羽に釣られて出てきたマシムオンをジェイクがリボルバーで奇襲攻撃し、さらに多段牽制やバウンティフィアーで畳み掛けていく。
 3mほどの中型のマシムオンは反撃する間もなく、銃弾によって何発も撃ち抜かれて絶命した。
 小型のマシムオン相手なら原型を留めていられないくらい激しい攻撃を浴びせられては、中型と言えどひとたまりもなかったようだ。
 確実に倒したことを確認するジェイクの脇から、もう1匹マシムオンが藪から這い出てきた。
 こちらは薬にするのにちょうど良さそうなサイズだ。
 これ幸い、とリースリットが威嚇術を使って気絶させ、瓶に入れて蓋をする。
 黒羽がザックにこれを入れ、村に持ち帰る。

●さあ、貴族の屋敷へ
 一旦村に戻り、8人揃ってから改めて貴族のところへ向かう準備を整える。
 アレフの提案で村長も同行し、貴族の目の前で薬草を服用してみせることになった。
 村長が赴くことで、説得する際に貴族からの条件をどこまで受け入れられるか、逆に村側からどこまで譲歩して欲しいかの確認も可能となる。
 今のところ、村にあるのは丸薬となった薬草だけだが、これを見せることも説得に役立つかもしれない。
 また、リースリットの提案で全員がきちんと身なりを整えるのも忘れない。
 仮にも貴族の屋敷へ向かおうというのだから、これは必須とも言えるだろう。
 ジェイクも変化で人の姿になり、貴族やその護衛達に警戒されないようにしてから向かった。

 8人のイレギュラーズと村長が貴族の屋敷の前に到着すると、2人いる屋敷の門番の片方にリースリットが話しかける。
「領主様にお目通り願いたく、お探しになっているという例の物を、僭越ながらご用意させていただきました」
 これを聞いた門番は、一旦屋敷の中へ入って貴族に確認を取り、9人を中へと招き入れた。
 応接室まで通された9人だが、途中見た貴族の屋敷はかなり豪華で、調度品も高価そうな凝った意匠の物ばかりだった。
「こういう問題はどこにでもあるもんなんだな。まあ、難しい問題だとは思うぜ。
 貴族どうこうとかじゃなく、世間の目は気になる奴は気になっちまうもんだしな」
 黒羽が村長にそう話す。
 応接室で待たされることになったが、なかなか貴族が姿を見せないので小声でそれぞれに話し始めているのだ。
「貴族様には貴族様のご都合があるのは、もちろん分かっているんです。ただ、そのままだと村人の命にかかわりますから……」
「そうだな。全面禁止にして民を殺してちゃ世話ねぇし、管理できてないって思われて貴族様の面目も丸潰れだ。
 今回の依頼を成功させるのは、貴族様のためでもあるってことだな」
 黒羽がそこまで話したところでようやく貴族が姿を見せた。

「我が屋敷へようこそ。何でも、私の欲しい物を手に入れてくれたとか?」
 貴族は挨拶もそこそこに早速本題に入る。
「お目通りが叶い光栄です、領主様」
「お忙しい中、お時間をいただけたことに感謝いたします。お探しの物はこちらに」
 まずはドラマとマルクがそう言って頭を下げ、ドラマに促されて黒羽とアレフがマシムオンを持って一歩前に出る。
 もちろん、マシムオンは瓶に入ったままで、その瓶は布に包まれている。
「おぉ、2ひ…コホン。2本も入手してくれたのか、ありがたい」
 つい2匹、と言いかけて慌てて言い直しているあたり、やはり貴族も何を欲しがっていたのかはあまり人に知られたくないようだ。
 室内には使用人が何人か控えており、貴族は明らかにそちらを気にしてチラチラ見ている。
「そうそう、忘れていましたわ。差し出がましいですが私からも一つ、輝く女神の涙を献上いたしましょう。
 女性に対して素敵なプレゼントがより貴方を引き立てるというモノです」
 ティアブラスが笑顔で言い、小瓶を取り出した。
「おお、さらにそのような贈り物まで。それらは執事に渡してもらおうかな。クリスチャン、頼むぞ」
 これを聞いて控えていた執事が黒羽とアレフから瓶を、ティアブラスから小瓶を受け取り、部屋を出てどこかへ持って行った。
「礼は何が良いかな?」
 ようやくこちらの本題に入れそうだ。

●貴族の説得
「実は、例の薬草について、領主である貴族様にご提案させていただきたい事がありまして」
 まずはリースリットがそう切り出す。
「例の薬草?」
「ええ、危険な薬物が広まるのを阻止せねばならない――領主として立派に務めを果たされた物と。むしろ讃えられるべき英断でありましょう」
 いまいちピンときていない様子の貴族だが、あえて説明せずに話を続けることで自分で察するよう、リースリットが持って行く。
「あぁ、あー…あれか、うん。あれだな」
 まだ確信は持てていないようだが、貴族は見栄をはって分かったように頷いている。
「賢き知のある貴方の考えは正しいものでございます。ただ……貴方様はとても惜しい話も残してしまっております。
 少しだけでもお話を聞いて頂けますか?」
 ティアブラスも貴族をおだてつつ、話を進めていく。
「む、私の英断に惜しい話があると。申してみよ」
「毒と薬は表裏一体、たとえ毒蛇であっても薬として利用できることがあるのと同じように、貴族様が禁止された薬草にも、薬としての活用法があるのです」
 今度はドラマがそう話す。
「私が禁止した薬草が、薬としても使えると?」
 貴族は不思議そうに顎を撫でながらさらに話を促してくる。
 そこでミニュイが村長に耳打ちし、村の風土病について、そしてその薬として使われてきた薬草が貴族によって禁止されているのだということを説明させる。
「何と、そんな病があったのか」
 村長の話を聞き、貴族は驚いているようだ。
 過去の領主はどうだったか分からないが、薬草によって病が抑えられて来たことで、今の領主である彼はそのことを知らずにいたようだ。
 ふぅむと目を閉じて何事か考え始める貴族を見て、イレギュラーズが更に話を続ける。
「風土病の方には薬となり、それ以外の方には毒となってしまう薬草……何とも厄介な話ではあります」
 ドラマが言うと、貴族が大きく頷く。
「そこで、薬草が出回らない様に管理を継続した上で、風土病での死者を防ぐために村人達には薬草を採取、使用する許可を頂きたいのです」
「そうだな、お前達が言っていることが真実であればそれは当然の要求だろう」
 マルクの言葉に貴族が目を開けて同意してみせる。
「しかし、本当に村人達には幻覚症状などが出ないのか?」
 貴族の懸念はもっともである。
 このためにアレフが村長を連れてきたのだ。
 隣に立っているミニュイに促され、村長が丸薬を取り出して薬草から作ったものであることを説明する。
 一旦これをミニュイが貴族に渡して確認してもらい、村長に返すと村長がこれを飲んで見せた。
 心配そうに経過を見守る貴族だが、5分経過しても特に何も起きない。
 村長にとっては当然のことなのだが、まだ心配なのかさらに20分程経過するまで待ち、そこでようやく貴族も納得したらしい。
 
「このように、風土病にかかっている者なら、薬草を摂取しても中毒症状が出ません」
 リースリットが再確認させるように言い、話を進めていく。
「何故、どうしてこの村の人々は薬草を摂取しても何も起こらないのか。それは分かっていません。
 ですが、聡明なあなた様なら……こうして目の当たりにした今なら、信じて頂けるのではないでしょうか」
 アレフも貴族を褒め、おだてて上手く乗せようとする。
 ジェイクは口下手だからと余計なことは言わず、説得を他の者に任せて愛想笑いしながら、要所要所で相槌を打っていた。
「それは信じても良いが……しかし、どうしたものかな、これは」
 貴族は、うーんと唸って悩んでいる様子だ。
「例えば、村で薬草の採取量と使用量を記録して、定期的に記録と薬の残量を照合することで、採取した薬草が風土病の薬にしか使われていない事を確認する、というのはいかがでしょうか」
 マルクが具体的な案を提示してみせる。
 礼儀作法や説得のスキルも使っているので、貴族もマルクの発言を受け入れやすいようだ。
 ミニュイもジェイク同様、説得には加わらないが適度に相槌を打っている。
 黒羽はと言うと、こちらも口下手だからと説得には加わっていないが、ところどころで貴族を褒めて後押しする役に徹していた。
「山で見張りとして常駐している兵士が確認役を兼ねれば、新たに人を派遣するコストは発生しませんし、他の地域で類似の病が発生した時にいち早く薬を提供できれば、きっと名君として知れ渡ります。
 それだけでなく、特産品による経済利益にも期待できるでしょう」
 マルクの言葉に貴族が小さく片眉を上げた。
 「名君」という言葉に反応したようだ。
「なるほど、なるほど……なかなか良い案だな、それは」
「実際の価値は私には分かりませんが、これだけ品と格がある調度品を揃えておられる貴方のことです。
 きっと、最良のご決断を下されることでしょう」
 アレフも屋敷内の調度品を褒めつつ、貴族をその気にさせていく。
 それでもまだ悩んでいる様子の貴族を見て、ティアブラスも説得に加わる。
「今回の件を上手く処理すれば、貴方の地位はより盤石になり、歴史に名を刻む名君と成りえましょう」
 貴族はまだ悩んでいる風だが、よく見れば口元がにやけそうなのをこらえているらしいのが分かる。
 どうやら、褒められるのがよほど嬉しかったのか、もう少し悩んでいるふりをして褒めてもらおうとしているようだ。
 小さい男である。
 これに気付き、黒羽やジェイク、ミニュイに村長まで加わり、ひとしきり全員で貴族を褒め称えた。
「薬として加工・管理する事が出来れば、人々は皆あなた様の威光にますます平伏し、その名声は更に高まる事間違いなしです」
 貴族はリースリットの言葉に頷いてみせる。
「その通りだ。何しろ私は名君だからな」
 嬉しそうに笑っている貴族を見て、村長はようやくホッとした様子を見せた。
「勿論、今すぐに成果が得られるものではございません。ですが、先見の明を持つ貴族様ですもの。
 今回のお話も、その広いお心で受け入れてくださるに違いありません」
 ティアブラスもニコニコしながらそんな風にダメ押しする。
「ローレットとしても『名君』の頼みとあれば、例えば……そう、『毒蛇退治』のようなお仕事も喜んで請け負えるかと……」
 マルクがさらにダメ押しとばかりに、貴族にもメリットがあることを伝える。
 ミニュイや黒羽、ジェイクも口々にこれに同意してみせた。
「そこまで言われては、『名君』として認めぬわけにはいかんなぁ」
 貴族は仕方ないなという口ぶりでそう言うが、顔はにやけていた。
 この領主で大丈夫なのか、という不安が村長の心には多少生まれたが、薬草の使用については無事に説得できた。

 この後、貴族は9人を労い、イレギュラーズが提案した内容を使用人にまとめさせた。
「上手く説得できたのはいいが、何だか心配な領主だったな」
 屋敷を出た後、黒羽がそんな風に漏らす。
「幻想貴族としてはまとも、な方じゃないかな……」
 ミニュイがそう返したが、実に難しいところだ。
 民のことを考えていないわけではなさそうだが、おだてに弱すぎる。
 説得は成功したが、不思議な心持ちで屋敷を後にする9人であった。
 なお、この数日後には薬草について新たな決まりが領内に広く告知されることになった。
 その内容は、ほとんどがイレギュラーズの提案そのままだったのは言うまでもない。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 大変お疲れ様でした。
 今回は私、文月の担当しましたシナリオにご参加いただきありがとうございました。

 皆様のお陰で、貴族の説得は成功しました。
 これで村の人々はいつでも薬草を採ることができるようになりました。
 今後は、風土病で命の危険を感じることもなくなるはずです。

 少しでも楽しんでいただけましたならば幸いです。
 またの機会がありましたら、よろしくお願いいたします。

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