PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<幻想配達人>白い封筒

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 透けるほどに心地の良い青空だった。
煤けた大地、小さな小屋。此処はまだ被害が少ないほうなのだと、戦場を回り民間人の避難指示に勤しむ父は言っていた。
恵まれていることも知っている、それでも胸は張り裂けそうで。口に運ぶ食事はあまり味がしない。ただ、考えるのは手紙の返事は何時だろうかと、それだけだった。
少女の幼馴染は国と国との戦争に行ってしまった。行ってくる。とまるで近所のコンビニに出かけていくかのような気楽さで、そのまま人型兵器に乗って。──結局、最後まで隠し事ばかりだったな。知っていたらもう少し話も出来たのに。気の利いた応援とか、言えたかもしれないのに。
そういう素直ではないところが、彼の優しさだったのだろうけれど。何処にいるかも、生きているのかも分からないなんて……。不安に思わないはずがないことに、気づかないんだ。大馬鹿者だよ、君は。
だから、手紙を書いた。
昔からある、小さなおまじない。白い封筒と、便箋に気持ちを書いて。まっしろい鳩に託せば、何時の日か、思いは届くでしょう。
何もしないことに耐えかねて、そんな子供だましにまで手を出したのは数週間前のこと。今考えていること、最近の出来事。そして何も言わなかったことへのちいさなあてつけ。考える限りを書きなぐって、偶然近くに居た鳩に託した。素直にくちばしに咥えて飛び去ったのには驚いたけれど。それきりだ。
小さな気休めだと首を振ってもやっぱり、どうしても、気になって。
気がつけば、空を眺めている。今日もそうだ。一つだけ違ったのは──。

雲ひとつ無い空に白い点。それは大きく、大きく広がっていく。思わず期待を込めて空を仰いだ。そう。思った通り。それは鳩だ。しかも、そのくちばしに、誇りとともに携えているのは、よれて崩れているけれど、確かに。

思わず涙が零れそうになる。けれど泣くのは今じゃない。笑って、あの小さな郵便屋を労って。ミルクの一つでも出しながら。彼が寄越したお手紙を、しっかり読んでやらなくちゃ。手紙なんて貰ったのは、初めてだから。


 鳩が飛ぶ。鳩が飛ぶ。
空と、海と、陸と、宇宙にさえも鳩が飛ぶ。
光と、夢と、愛と。絶望と希望と。沢山のものを詰め込んで鳩は飛ぶ。
輝かしい世界を歌うように、絶望に満ちた世界を救うように。
──あの日、貴方の手紙を乗せて飛んだ鳩が、真っ白い封筒を携えて帰ってきた。
くりくりとした目できょとりと貴方を見つめ、手紙を受け取るのを今か、今かと待っている。
淡い夢、なのかもしれない。物語の中の、脚色された事実なのかもしれない。
けれども、手紙は想いを運ぶもの。きっとその事実だけは、真実なのだろう。


「手紙が届いているわ」

『ホライゾンシーカー』ポルックス・ジェミニは貴方を呼び止める。

「鳩さんが待っているの。よかったら、受け取ってあげてくれる?」

NMコメント

ゆーがっとめーる。はじめまして、もしくはお久しぶりです、金華鉄仙です。
いつか、どこかの大事な人から、手紙が来ているみたいですよ。
こちら私の前作<幻想配達人>白い便箋の続編になりますが、そちらは把握せずとも大丈夫だと思います。

●世界観
<幻想配達人>と呼ばれる世界で、様々な小世界が連なるオムニバスな世界です。
一人ひとり、もしくはプレイングを合わせた方々で別の世界に飛ばされ、鳩から手紙を受け取ることになります。メタ的に言うと何を言っても秘密は守られます。
そのため、希望する世界観等ありましたらそれとなく伝えていただけると情景描写などに利用させていただきます。無ければそれっぽく書きます。
たとえば冒頭の世界はロボット物の戦記世界で、少女の幼馴染はパイロットです。
ただ、全世界共通して白い鳩が手紙の運び手である、という認識があり、鳩だけは何があっても殺さないという風潮があります。

●目的
手紙を受け取る。そして読んだり、読まなかったりする。
反応は様々だと思いますので、そういった所を描かせていただきたいです。

●書いていただきたいこと
・届いた手紙の送り手(関係性も合わせてどうぞ)
・届いた手紙の内容
・どのような思いでそれを書いたのか
・手紙の見た目
あたりがあるととてもリプレイを書きやすいです。
他にもどんどん心情や行動などください!!! 助かります!!

  • <幻想配達人>白い封筒完了
  • NM名金華鉄仙
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年08月18日 22時15分
  • 参加人数4/4人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
緒形(p3p008043)
異界の怪異
クロエ・ブランシェット(p3p008486)
奉唱のウィスプ

リプレイ


 しーちゃんにお手紙を書こう。そんな冬宮・寒櫻院・睦月にあてがわれたのは小さな机つきの小さな部屋だった。窓は開け放たれていて、枠に小さな白い鳩がちょこんと座り、睦月の様子をうかがっている。なんだか少し微笑ましくて、口元を抑えながら机に向かった。
かりかり。筆を執り、文字を綴る音。

「ねえ、鳩さん」

文章を考えるほんの小さな間、顔を上げて睦月は鳩に語りかける。鳩は小さく首を傾げて、睦月を見ていた。

「ありがとうってすてきな言葉だよね。今の僕の気分にぴったりな言葉」

やっぱり折角手紙にするのだから、面と向かって言えないことが良い。つまり、普段伝えられていない気持ち……。感謝を、ありがとうという言葉を目一杯詰め込もうと決めた。

「……いつも、僕のわがままに付き合わせてばかりだから、さ」

大切で、一番好きな僕の幼馴染。願いは叶わなくても、思いは届かなくても。

「さあ、出来た!」

書き上げた手紙を睦月は丁寧に畳んで、便箋の中に入れる。きちんと、自分だと分かるように封をして。返事……帰ってくるといいけれど。

咥えやすいように横向きにして、鳩へと向ければ器用に咥え、翼を広げる。一声鳴いて飛び立った。
空へ、高く舞い上がる。

期待と、少しのドキドキを込めて。睦月は消えてなくなるまでその影を見つめていた。


 大きく空を旋回して、鳩が向かったのはすぐ隣の部屋。嘴で器用に窓を開けて、すやすやと行儀よく寝息をたてる青年、秋宮・史之の枕元にちょこんと座る。
鳩は手紙を足元に落とした。くるるぅ。と耳元で鳴き声一つ。

「……ぁ……は、へ!?」

突然の来訪者に、ぼんやりとした寝起きの忠之の意識が急激に覚醒する。思わず飛び起きて眼鏡を掛けて、訝しげに鳩を見た。そして、手紙を。

「手紙……か……。今どき伝書鳩とか古風、だけど。混沌では普通だったりするのかな」

とりあえず危険はないのだろうと判断し、肩の力を抜く。鳩を背をやんわり撫でてやり、手紙の見分を始めた。

「冬宮の印……。てことはカンちゃんからか」

 隣の部屋に居るんだから直接伝えればいいのに。とも思うが、いつもの気まぐれだろう。一体何が書いてあるのだろうかと拾い上げた手紙の封を開ける。
予想通り、其処にあるのは見慣れた幼馴染の字だった。

『しーちゃんへ、いつもありがとう
ごはん作ってくれて、洗濯してくれて、掃除してくれて、僕のお世話してくれて
いつも服選んでくれてありがとう
いつも一緒に遊んでくれてありがとう
いつも一緒に出かけてくれてありがとう
これからもよろしく
ふたりでたくさん思い出作っていこうね』

其処から溢れるのは純粋な感謝。そして、親愛の思い。けれども、忠之は渋い顔だった。
こんな手紙を渡されても困ってしまう。だって、睦月の世話をしているのはただの惰性に他ならないから。それなのに真っ直ぐな思いを向けられてしまうのは、勘違いにも程がある。
……勘違いさせているのが自分だということにも、とっくに気づいているけれど。

 こんな手紙破り捨ててしまおうと思ったのに手が止まってしまった。
このままで居たいことを願う自分に耐えられない。
本当はもう身の回りのことなんて自分でできることも、自分が思うよりも、睦月が大人になったことも知っている。

「ありがとうってさ。……重いよ」

 ふと、言葉が溢れる。自分が睦月をどう思っているかなんて考えたくもなかった。ふともたげた考えを、いつものようにかき消す。
真逆の子が好きなはずなんだ。だから。
向けられた笑顔を、直視出来る気はしない。意味を薄々と気づいてしまっているから。
……もっと、カンちゃんは俺みたいなクズよりいい人を見つけるべきだ。

手紙の裏に、さらさらと忠之は返事を書いた。私情が出来る限り挟まないような、そんな応えを。
持っていっておくれ、と声をかければ素直に鳩は受け取って、嘴にそれを備える。
飛び立つ前、一度だけ彼を振り返ったように見えたのは、気のせいだろうか。


 忠之の部屋を飛びだった鳩が睦月の部屋の窓辺に戻ってきた。
クッキーを片手に帰りを待っていた睦月は目を輝かせてそちらに駆け寄る。

「早速お便りが来たの? なんて書いてあるんだろう。ドキドキする。ワクワクする!」

期待に胸を膨らませて手紙を受け取る。違和感。
これは先程睦月が忠之に向けて送った手紙だ。突っ返されただけかと一瞬落胆するものの、裏に何か書いてあることに気づく。

『カンちゃんへ
(1)俺のベッドにもぐりこまないこと
(2)料理の邪魔をしないこと
(3)遊びに誘う時は俺の予定を聞いてからにすること
(4)俺が居なくて平気になること』

「……しょっぱいなぁー」

 思わず空を仰いで呟いた。いつもどおりだ。少しは素敵な言葉とか期待してたんだけど。流石に都合が良すぎたようだ。
確かに彼は海洋の女王様に夢中。睦月のことなど見向きもしない。
でも、睦月は違う。もう少し近い存在に、どうしたらなれるんだろう。……試して、悩んで。結局はいつもご愁傷様。約束、4だけは守れる日は来ないのだろうな。もう少しだけでもいいから近づきたいのだ。たとえ心が離れていても。


 鳩がたどり着いたのは真夜中が支配する学校。しん、と辺りは静まり返っているようで、その実はそうではない。
耳をすませばひたひた、足音が聞こえる。くすくす、笑い声が聞こえる。伸びる手を掻い潜るように、ごろんと堕ちた首を意に介さず鳩は進んでいく。

14個目のトイレを通り過ぎ、手すりで少しばかりの休息をとっていたところで輪郭がぼやけた男のような声が聞こえた。

「あいがっと、めーる。よくもまあこんな所まで御出でなすったものだ、鳩さんや」

悪意と死と怪談が蔓延る多重連続閉鎖空間の『学校』へようこそ。そう語る声は朗らかに聞こえて。

「ああいや。似ているけど違う場所か。よくもまあ再現したものだ」

なにせ、あの子達はもういないから。しかし怪異(どうるい)まで居るのは驚いたけど。少し懐かしそうにつぶやきつつ、怪異は手を拱いた。

「廊下の手すりに止まってないで、こっちの理科準備室へお入り。粗方の怪異は殺したから其処よりは安全さね」

扉が開く。声に誘われて鳩は翼を広げた。吸い込まれるように、薄暗い部屋に降り立つ。

 其処には黒いスーツにフルフェイスヘルメットの何かがいた。朱の瞳は一つ。記号化されたそれは、鳩をまっすぐに見据えている。

「アレらは殺す気が無くても致命傷になるんだって事を理解出来ないからなあ……。無事で良かった」

大きな目が細められる。小さな鳩は小さく鳴いて、黒スーツの肩に止まった。

「おっと。それで鳩さんのご用は、その手紙かね?」

折りたたまれた紙。粗雑なものであるが、ごわごわとした感触に怪異は覚えがあった。

「……これは、自由帳の切れ端かね。成程。おっと、気になるのかい?」

広げた手紙を鳩が覗き込むのを怪異は止めなかった。見られて困るものでもないのだから。

「これは最初に死んだ子からのお手紙さね。死亡診断書の一部かな、書き写すの大変だっただろうね。……良かったねえ。『かえれた、いく』ってさ」

【緒形さん】は、あの子たちが創った神様(かいだん)だから。願いを叶えてあげたんだ。
手紙を出席簿に綴じながら、黒スーツの怪異、緒形は鳩に語りかける。
けれど、鳴り響いていたノックの音が煩くなってきていた。

「……もう行きなさい。でも、良ければ、一番最後に死んだ子のお手紙も持ってきておくれ。あの子たちが生きていた証だから」

緒形は窓を開け放つ。生温い風が一気に舞い込んできてカーテンが大きく揺れた。闇夜の中の流れ星のように、鳩は空へと舞い上がって、消えていった。



「……風光明媚、と呼ぶのでしょうね。素敵な場所です」

 クロエ・ブランシェットが降り立った街にはさんさんと、空から温もりが降り注いでいた。暑すぎず、溢れる光はやわらかく。水路が無数に走る。珍しげに見て回るクロエの横をゴンドラが通り過ぎていった。何処からか吟遊詩人だろうか。ハープが緩やかに鳴り、歌う声が聞こえる。
なんとなく、ふと振り返った船の上に見知った人が居たような気がして。クロエはそのゴンドラを追いかけた。
たどり着いたのは船着き場。目の前には大きな湖があって、白鳥やら、鴨やらが思い思いに体を波にまかせ揺れていた。ゴンドラの中には誰も居なかったけれど、代わりにクロエを待つ小さな影が一つ。

「……ぽっぽさん?」

首をかしげる。クロエが手を伸ばせば鳩は人差し指に止まって、手紙を差し向けた。
誰だろうと受け取って、開けてみれば千切れたノートのページが一つ。

普段よりも優しい言葉と、普段よりも丁寧な文字。綴ったのはクロエの父だろう。

『クロエへ
母さんと作ってくれたクッキーは食べたぞ。上手くできてるじゃないか。
このところ一緒に過ごす時間を取れなくてすまないが、日々成長していっていることを嬉しく思う。

お前は聞き分けがいいが、もう少し甘えてもいいと思うぞ。
困ったことがあれば……いや、困ってなくても話したいなら何でも話してくれ。
お前と母さんには笑っていてほしいからな。笑顔を守れるように努力する。

それじゃ、また明日な。クロエにとって楽しい日になることを願う。』

「……見抜かれていたのですね」
思わず手紙を抱きしめる。父親はカウンセラーで、いつも忙しそうにしていた。そしてそれを気遣って、あまり困らせないようにしていたことを思い出す。
……甘えても、よかったんですね。父さん。

肩に止まったままの鳩を優しく撫でて、抱き寄せる。無人のゴンドラに乗り込むと、音もなく、滑るように湖の中を進み始めた。

「懐かしさをありがとう、ぽっぽさん」

風が舞い上がる。湖畔に生えていた百合が空に咲いていく。落ちかけた夕日とのコントラストがどうにも輝いて見えて。
クロエは郷愁に任せて歌を口ずさみ始めた。きっと、誰かに教えてもらった。懐かしい響きの歌を。

成否

成功

状態異常

なし

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