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シナリオ詳細

<夏の夢の終わりに>ホワイトプランを潰せ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●物語はいよいよ終盤へ
 イレギュラーズの活躍により、エウィンの町は開放され、妖精女王ファレノプシスも魔種たちの手から無事に助け出された。
 だが、 妖精郷を取り巻く悪意の糸は、未だ解れぬままだ。
 町を追われた魔種たちは、妖精城アヴァル=ケインへと撤退し、籠城の構えを見せている。

 『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)の目前に、『城攻め』の為に呼び集められたイレギュラーズが、万全の用意を整えて立っている。
 その頼もしい姿に満足して、情報屋は深くうなずいた。冷たくかじかんだ手に息を吹きかけ、こすり合わせてから、口を開いた。
「魔種タータリクス以下がアヴァル=ケイン城を選んだのは、ただ籠城するためだけじゃない。もうすうすう感づいていると思うが、この冬が戻って来たような異常な寒さは、城に籠った魔種が『冬の王』を目覚めさせてしまったことが原因だ。お前たちにはこれから、他の仲間たちとともにこの寒さの原因を取り除いてもらいたい」
 妖精郷には、遠い昔から英雄たちによって封じられた、『冬の王』と呼ばれる強大な邪妖精が眠っていた。
 力を欲した魔種たちが、城の地下深くに封じられていた『冬の王』を解き放ったのだ。
「ブルーベルは『冬の王を封印していた力』を、クオン=フユツキは『冬の王の力』を得て、ともに姿をくらましたとされている。『冬の王』自身も妖精郷から消え失せたらしい。だが、『冬の王』が解放されたために、妖精郷は常冬の国にってしまった」
 クルールは丸眼鏡の奥で、凍ったまつげをバチバチさせた。足で草を踏みしだくたびに、シャリシャリッと氷を砕くような音がする。
 冬と言ってもいま妖精郷を襲っているのは、飛びきり厳しい冬。草花はおろか周りの木々すら凍りつき、時折ではあるが猛吹雪が襲ってくる有り様だ。
「ま、こんな状況だ。大量の魔物や魔種に守られた城攻めは厄介でしかない。そこで今回は深緑の迷宮森林警備隊も、妖精郷に来て力を貸してくれるそうだ」
 何分巨大な城である。魔物や魔種がうしゃうじゃ立て籠もっているということもあるが、陥落させるまで、朝から晩まで責め続けなくてはならない。イレギュラーズだけで戦い続けるのは困難だ。
 強い風が地に積もる雪を巻き上げ、クルールが指さす先を白くけぶらせる。
 吹雪きの切れ間から除く城の輪郭の一部が、妙にとげとげしていた。
「見えるか? 城の屋根にアンテナのようなものが立てられているのが。何のためのものかわからないが、あれはもともと城にあったものじゃない。立て籠もっている連中が立てたものだ。どうせロクなもんじゃないだろう。そこでお前たちの出番だ。
 警備隊と一緒に行って、城の屋根の上からアンテナと魔物たちを完全排除してきてくれ」

 妖精城アヴァル=ケインに進撃し、邪妖精や魔種共をアルヴィオンから駆逐し、冬の力打ち払わなければならない。
 為損じることは許されない。そうなれば妖精郷は冬に飲まれて滅亡するだろうから……。

●白く凍る城の屋根で
 屍屍屍屍。
 笑い声さえ瞬時に固く凍りつく。
 屋根の上では、音を立てて逆巻く寒風をさえぎるもがない。体感温度は地上より数十度は低いだろう。
 白いわんこは一体で、黙々と、城の屋根に巨大なアンテナをいくつも設置していた。正直、城の中でぬくぬくしていたい気分である。雪が降っている庭を喜んで駆けずり回る犬ばかりではないのだ。
 直前になって逃亡した主の言葉が、ワンコの石頭の中をカラカラと転がり回る。
『わんこ、休むな。我らが勝利するその時まで、決して手を止めてはならぬ。妖精郷の隅々にまでこのホワイトプランを広げるため、どんどんアンテナを増やすのだ!』
「……わふぅ↓」
 逃げ足の速さには自信があったが、まさか主に置いて逃げられてしまうとは。
 白いわんこは思った。
 僕ちんも主が放り出したブランなどうっちゃって、ミキティの所へ逃げていこうかしらん。三英雄たちを探しに行くのもいいかも。あるいは深緑に戻って、電波キノコたちと面白おかしく暮らすのも悪くない……。
 吹雪く風に耳をちぎり飛ばされそうになって、はっと顔をあげた。
 いかん、いかん。
 ここで逃げ出したら、自分の存在意義が無くなってしまう。自分はこのホワイトプランのために作られたマスコットなのだ。
 上手くいったら他の魔種に飼ってもらおう。そうしよう。
「わぉぉぉぉっん!!」
 白いわんこは遠吠えをあげ、ぽっこりと突き出たお腹を(一時的に)引っ込めると、アンテナのポールを持ち上げた。

GMコメント

●依頼条件
 ・ゴーレムの撃破。
 ・アンテナ群の破壊。

●日時と場所
・昼。
・雪、時々猛吹雪。くそ寒い。
・妖精城アヴァル=ケイン、尖塔と尖塔の間のの屋根。
 傾斜角度30℃、急こう配の屋根。
 屋根は寒さで凍りついているため、とても滑りやすくなっています。
 峰の部分が平坦(150センチ幅)になっており、そこにアンテナが立てられています。
 横に2人並んで立つことはできますが、武器を振り回すのは無理でしょう。
 尖塔と尖塔の間は20メートル。
 左右どちらの尖塔からでも屋根の峰に出られます。

 ゴーレムはちょうど屋根の真ん中で作業しています。
 左の尖塔側にはまだ立てられていないアンテナのポールが4本、寝かされています。
 右の尖塔側にはすでにアンテナが6本立てられています。

※妖精城アヴァル=ケイン 城とは。
 魔種達が占拠する、城様の巨大な古代遺跡です。
 大きさは人間サイズで、無数の部屋や中庭、地下室等を有しています。

●敵1……白いわんこのゴーレム1体
 錬金術で作られた、喋る二足歩行の石犬。
 耳は長くたれ、尻尾は短いです。
 腹がぽこんと出ていて、なんだかぬいぐるみみたい。
 【吠える】……神・範/崩れ。吠えます。
 【嗤う】……神・範/乱れ。しひひひ。
 【ぐーぱんち】……物・近単/猫パンチよりは痛いかも。
 【投げる】……物・貫通2/流血。倒れているアンテナを投げる(回数制限あり)。
 ※【これが定められし旅路(ディスティニー)】高確率で逃走。今回は使いません。

●敵2……アンテナのゴーレム4本
 「ホワイトプラン(逃亡したわんこの主が勝手に命名)」の為に建てられたアンテナ。
  アンテナの太さは直径30センチ。高さは3メートル。
  2メートル間隔で建てられています。
 【冷気旋風】……神・遠/凍結。
 【氷の細刃】……物・近/出血。

※立てられていないアンテナは力を発揮しませんが、ゴーレムが武器として使用します。

●NPC……深緑の迷宮森林警備隊。10名。剣と弓で武装。
 イレギュラーズから要請があれば、尖塔の一番上の小窓から弓で攻撃してくれます。
 ただし、真ん中にいる魔種たちの所までは矢を飛ばせません。
 また頼めば尖塔の出入り口を固めてくれますし、左右の屋根の下で待機もしてくれます。

●その他
屋根の上は非常に風が強く、乱気流が発生しており、飛行しての攻撃に命中率低下のペナルティがつきます。
尖塔の出入り口にドアはありません。
魔物たちやイレギュラーズが屋根から滑り落ちても死にませんが、警備隊隊員は落ちると死にます。
屋根から地上へ滑り落ちてしまうと、飛行がない限り、戦場復帰までかなり時間がかかります。
落ちた時のための対策を立てておくとよいでしょう。

  • <夏の夢の終わりに>ホワイトプランを潰せ完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月31日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)
うつろう恵み
ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)
強襲型メイド
奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
エト・アステリズム(p3p004324)
想星紡ぎ
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
マヤ ハグロ(p3p008008)
リサ・ディーラング(p3p008016)
特異運命座標

リプレイ


 猛吹雪きで白くけぶる城の屋根を見上げて、『強襲型メイド』ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)はちょっぴり心が痛んだ。
 かわいそうなわんこ……。
 あそこでたった一体、主に見捨てられてなおも、その計画を進めているという。なんと健気なことか。主に困らされるのはメイドも同じ。立場は違えど、シンパシーを感じる。
「まあ、それとお仕事は別のお話。私はただオーダーをこなすだけなんですけどもね」
「そうね。きっちり仕留めましょう」
 『キャプテン・マヤ』マヤ ハグロ(p3p008008)は防寒着の襟を合わせた。
 これで寒さに体が震えることはないが、視界の悪さが少々気になった。大しけの海で戦ったことはあるが、猛吹雪の中で戦った経験はない。これがファーストケースだ。
(「まぁいいわ、こんな不利な状況下でも戦わなければならないのは事実。海賊の戦い、見せてあげるわ!」)
 ひとたびリボルバーが火を噴けば、嵐にのさかまく波を飛びかける海燕ごとく、弾は敵を捉えるだろう。
 『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)は仲間を代表して、深緑の迷宮森林警備隊十名に、それぞれ指示をだしていた。
 屋根の下に二人待機させ、のこりを右の尖塔と左の尖塔に振り分ける。右の尖塔に配置する警備隊隊員が多めだ。イレギュラーズと一緒に上へあがる隊員たちには、くれぐれも落ちないように、と注意した。自分自身は左の塔から屋根に出ることになっている。
 下から屋根を見上げて、拳を突きあげた。
「わんこ! 今度こそ逃がさねぇぞ」
 同じく左の尖塔から登ることになっている『物語No.0973《星の姫》』コルク・テイルス・メモリクス(p3p004324)が、極寒を退ける温かな笑みを、同行者たちに向けた。
「さあ、春を取り戻しにいきましょう!」 
 何もかも凍りついた単色の景色は、妖精の国に相応しくない。冬の王だかなんたか知らないが、自分たちの手で、妖精郷本来の、常春の景色を取り戻すのだ。
 お気に入りのコートに身を包んだ『木漏れ日妖精』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は、歩きながら妖精たちと交渉する。
「屋根から落としたアンテナが人に当たったりしないように、気をつけて欲しいの。大声で警告するとか」
 何事にも万が一はあり得る。下に残す森林警備隊員の上にアンテナが落ちないともかぎらない。怪我人や死人は出したくなかった。
「あ、無茶はしないでね。それであなたたちが怪我でもしたら、本末転倒だもの」
 『揺蕩』タイム(p3p007854)が、二の腕をこすって暖めながら、愚痴をこぼす。
「このままじゃ、妖精郷の何もかもが死に絶えてしまうわ。ここが踏ん張りどころ! みんな、がんばろうね……!」
 言いながら左の塔のドアを押し開く。
 濃い闇の中にうっすらと、螺旋階段の輪郭が浮かんでいた。
 森林警備隊の一人が、カンテラを手にイレギュラーズの先を行く。
 階段が凍っているので、タイムは足を滑らさないように壁について手をついた。たちまち指が凍えてこわばる。
「ほんとうに寒いわ。防寒ブーツ、履いてきてよかった」
 同じころ、右の尖塔を登る『うつろう恵み』フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)も、同じようなことを考えていた。
 階段の床にはった氷に厚みはなく、ブーツの底のスパイクですぐに割れる。屋根の床もそうだといいのだが。
 ふと、フェリシア は思うところがあって、段の途中で足を止めた。
 下段で『ザ・ハンマーの弟子』リサ・ディーラング(p3p008016)が、氷が薄く削れるような声を振るわせる。
「さささ寒いっす! とっとと終わらせに行くっす!」
「ごめんなさい。ちょっとだけ、待って」
 足元まで伸びる緩やかにウェーブした銀髪を、地上よりずっと風が強い屋根の上で邪魔にならないように、固い三つ編みにして束ねる。
「ああ、なるほどっす」
 リサも視界確保のゴーグルを額から降ろして、目を覆った。防寒効果はないに等しいが、切るような風から柔らかい目を守ってくれるだろう。
「オッケーっすか?」
「これで万全、です。あったかい妖精郷を、戻しに……行きましょう」


 螺旋階段は徐々に、ぼんやりとした明るさに満たされた。螺旋階段は、うねうねと、いくつもの階層を結び、続いていた。
「これ、一度落ちるとマジ戻るのに時間がかかりそうだな」
 落ちなければいいのですわ、とタイムが一悟の背に声を当てる。
「まあ、そうなんだけど」
「風の音が近い……。そろそろ屋根ですよ」
 森林警備隊の二人が脇にどいて、イレギュラーズを先に通す。外に出た先で、屋根の雪が地吹雪のように激しく舞っていた。
 一悟は少し先に、もぞもぞと動く小さな雪だるま――もとい、白い石犬のゴーレムを見つけた。
「やい、くそ石犬! 不細工のくせに、深緑じゃよくも足蹴りにしてくれたな。ぶっ壊して漬物石にしてやるぜ!」
「わふぅ!!?」
 わんこはぴょこんと飛び上がると、体を半回転させて着地した。
 どさどさと体に積もらせていた雪が落ちて、犬の垂れ耳が露わになる。一悟の売り言葉に噛みつこうと牙を見せたところで、ようやく魔物らしく見えるようになった。
「えっ、なに、この子ちょっと可愛い?」
 風の中からしっかり褒め言葉を聞き取ったわんこが、牙を引っ込め、小首をかしげてタイムに媚びを売る。
「くぅぅん」
「……って、そんな事言ってる場合じゃなかった。見かけに騙されちゃだめよね」
 タイムは指揮杖を取り出すと、風にたなびく春色の布を重ねた衣装の上からポンと胸を叩いて、魔道精神を呼び覚ました。
 わんこが目をぱちくりさせる。
「媚びたってかわいくねーんだよ、さっさとかかってきやがれクソ犬」
 唸り声を発しながら、わんこが駆けだした。
「タイム、転がってるアンテナに気をつけろよ!」
「はい」
 転倒を恐れて床すれすれに体を浮かせた一悟とタイムも、わんこに向かっていく。
 屋根の反対側、右の塔から無数の矢が放たれはじめた。吹雪きをついて鋭い飛翔音が左の尖塔まで届く。あちら側でも攻撃が始まったようだ。
 詩を口ずさむフェリシアの声は聞こえないが、英雄の気を受けて体が内から膨れ上がる。これで魔物たちの攻撃にもいくらか耐えられる気がした。
(「始まりましたね。では、私たちも……ファイト、コルクです。がんばってアンテナを撤去しましょう」)
 コルクは自分で自分を祝福、激励すると、オデットと森林警備隊の二人とともに、まだ建てられていないアンテナの撤去を始めた。
 オデットはアンテナの片端を持ち上げながら、バディを組んだ森林警備隊を気遣う。
「思っていたよりも重い……けど、少し押したりすれば落ちるはず。一緒に落ちないようにしてね 。妖精さんは、下の人たちに合図をお願い」
 そこへ吹雪の中を飛んであがって来たマヤが屋根に着地した。
「遅くなってごめんなさい。それにしても、なんて風なのかしら。すっかり体が冷え切ってしまったわ」
 マヤはズボンのポケットからラム酒が入った小瓶を取り出して、一気に飲み干した。瞬時に喉が焼け、胃の底でカッと炎があがる。
 コルクはアンテナを一本下へ落とすと、マヤを祝福した。
「マヤ様、ヘルモルト様たちがアンテナの攻撃にさらされています」
「わかった、任せて――。我は海賊マヤ・ハグロ! 城に立てこもる愚かな者どもよ、私と戦う勇気があれば、正面切ってかかってくるがいい!」
 とたん、左の尖塔に吹きつける寒風が強くなった。
 雪が壁のように固まって、渦巻きながら殴りつけてくる。それも波状に。
 わんこと戦っている一悟が氷の刃で身を切れら、赤い血を鈍色の空に吹きあげた。
「一悟様!」
 コルクは撤去作業を中断し、いそいで絵本を開いた。星屑の冠が淡い光を放つ。
「星襲の姫の名に元に――。名もなき星よ、希望を携えて天より駆け下れ!」
 分厚い雪雲に覆われた大空の一点が割れ、次々に星が飛び出して、倒れた一悟の上に流れ落ちた。


「奥州様たちが敵を引きつけてくれている間に、テキパキ片付けていきましょう!」
 工業技術で知り得た知識、機械や建造物を修理する際で着目するポイントを逆に活かし、屋根との継ぎ目や根元の支柱をクリティカルスナイプやハニーコムガトリングで容赦なく壊して倒していくっす。
 ヘルモルトは横殴りの寒風にあえて逆らわず、むしろ抱かれるようにして最前のアンテナへ近づいた。
 塔の小窓から射られる無数の矢に傷つけられ、もろくなっているポールに腕を絡めると、そのまま腰でへし折るようにして投げ打った。
 すかさずフェリシアとリサが駆け寄って、倒れたアンテナを持ち上げた。フェリシアが、事故が起こらないように屋根の下へ大声で呼びかける。
「右側から一本、落ちます。お気をつけて……!」
 風に細切れにされながらも、わかりました、という声が下から届いた。
 せい、の、とリサと声を揃え、アンテナを屋根の下へ落とす。
 アンテナは屋根に当って大きく弾んだあと、転がり落ちて行った。轟音がして盛大に雪が吹きあげるると、また屋根に風の音が戻ってきた。
「次、片付けます。フォローしてください」、とヘルモルト。
 殺気を受けて右から二番目のアンテナが、攻撃を左から右へ切り替えた。
 凍てつく風がアンテナの周りでうなりをあげはじめ――。
「おっと、残念。私の方がちょい早かったっすね!」
 リサはメイド服の影からアンテナと屋根の溶接部分を狙ってレイルガンを発射した。弧を描いて飛ぶ斬撃が、土台部分に切り込み、崩した。
 傾き倒れてきたアンテナを、フェリシアが蹴り上げる。
「後始末願います!」
「別に砕いてしまってもいいんだろ、っす!!」
 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!
 風の音を弾き飛ばして屋根に落ちる重低音の回転音。毎秒数百発でリサのレイルガンより射出された弾が、空にあがった三メートルのアンテナを粉々に撃ち砕いていく。
 少しだけ、屋根に吹きつける風が弱まった。
 フェリシアが胸の前で手を合わせ、指を組む。
「これなら……私の哀歌、魔物たちの胸に、響き……ますね。聞いて、くれますか?」
 
 ――海底のセイレーンは、空にかかる虹へ手を伸ばす。
 ――どんなに欲しても、決して届かないと知りつつ。
 
 ――純粋すぎるがゆえに起きてしまった『罪』、あなたはなんという呪いをかけたのですか?
 アンテナはリサの胸の奥をかき乱す、甘く痺れるような歌声を拾った。たちまち魅了され、氷結電波の発信を止めた。
 猛吹雪だったものが、吹雪きにまで減じた。
 それまで風に流されて届かなかった尖塔からの援護射撃の矢が、三本目のポールに刺さり始めた。左からはマヤが投げたラム酒爆弾が、四本目と三本目に当って炎をあげる。
「あと二本。フェリシア様の歌に魅了されているうちに、一気に片付けます!!」
 純白のエプロンが寒気を切って翻る。
 ヘルモルトは自分自身を中心に小さなサイクロンを発生させた。強力な遠心力が、渦の中に屋根の上に積もった雪や氷、二本のアンテナゴーレムを土台ごと、パワフルに吸引していく。
「ま、丸ごと……ごっそり……すごいっす!!」
 ゴミクズ同然になって空から落ちて来たアンテナの残骸を、リサとフェリシアはテキパキと屋根の下へ落としていった。


 寒風の刃に全身を切り刻まれながらも、白いわんこにヘッドロックを決めた一悟は、目の前で起こた光景にデジャブを感じていた。
 オデットが放った清浄の光を浴びて、傷が癒えていく感覚に心地よくくすぐられているせいだろうか。つい思ったことを口から零してしまった。
「ダイ○ン?」
 それは吸引力の変わらない、ただひとつのクリーナー。一悟が元いた世界では有名な家電メーカーの名前。
 わんこのぽっこりしたお腹を、手でポコポコ叩いて愛でていたタイムが顔をあげる。
「ダ○ソン? なんですか、それは?」
「わぉぉぉーん!!」
 起死回生の遠吠え一発。わんこは一悟の腕からするりと抜け出すと、タイムの頭をぐーぱんちでポカリとやって尻もちをつかせた。そのままタイムを屋根の端まで転がして、下へ落とそうとする。
「そんなことはさせないわ!!」
 マヤのリボルバーが火を噴いた。飛び出した弾丸は血の匂いを嗅ぎつけた鯱のごとく、寒風をついて飛び、わんこの後頭部を穿つ。
「わ、わ、わふぅ!?」
 と、と、と、とたたらを踏んだわんこの背を、今度はオデットが弾く魔曲の音色が叩き押す。
「さぁ、木漏れ日妖精が春を告げに来たわよ!」
 堕天の杖の先で、見えざるピアノの鍵盤を叩く。
 その楽章の主題は、オデットが混沌に召喚されたばかりの春に、まるでいたずら書きのように書いた、前奏曲だった。厳しい冬を耐え抜いて芽吹いた、逞しい命の輝きを思わせる旋律が、石犬の背を奈落へ向けて押しだす。
「悪いわんこはそのまま屋根から落ちちゃって、どうぞ」
「わぉぉぉん!!」
 わんこは屋根の縁で堪え、とどまった。
「頭を砕いてやるぜ。んでもって、落ちろ!」
 一悟が炎を纏わせたトンファーを振り抜く。
 ――が、わんこはトンファーの下をかいくぐり、一悟の脇を抜けた。
「しししし死!」
 体勢を崩した一悟の腰に、グーパンチをくれて屋根から叩き落とす。
 すぐ傍にいたタイムがとっさに腕を伸ばして、落ちる一悟の足を掴んだ。
 ヘルモルトが駆けつけて一悟を引き上げにかかる。フェリシアとリサも撤去作業をょ中断して、慌てて救助に向かう。わんこの追撃を阻むため、右の尖塔から森林警備隊が矢を射かけた。
 だが、誰も体が思うように動かせないでいた。わんこの嗤い声で三半規管が狂わされ、体の芯が痺れているのだ。
「みんな、頑張って。いま直してあげる」
 オデットが光の妖精としての力を発揮し、清浄の光を屋根の上に灯す。光に触れた体から、邪悪な波動が取り除かれていった。
 どう、と笑った瞬間、オデットはわんこと目が合った。
「ひ、こっち来る!?」
 まだイレギュラーズが本来の動きを取り戻す前に。体を低くして走り出したわんこの狙いは、オデットのコルクの足元、まだ屋根に残っているアンテナだ。
 わんこの前足がアンテナの頭を掴み、持ち上げる。
「――!?」
 アンテナが『ばきん』という鈍い音を立てて、屋根に叩きつけられた。わんこが前足を股の間に差し込んで、身をくねらせる。
  マヤが持ち上がったアンテナの中ほどを、上から強く踏みつけたのだ。
「かっこいい! さすがですわ、マヤ様!」
 コルクは海の女戦士に胸を高鳴らせながら、絵本の中から勇者の赤い色を取り出して、マヤや自分たちの体ににまとわせた。
「悪い魔物をやっつけちゃってください!」
 ガルルルルッ。
 怒りで目を吊り上げたわんこが猛然と猛然といどみかかってくると、マヤはカトラスをぬきなから後退した。こちらを攻撃すると見せかけて、屋根の先、螺旋階段に通じている戸口へ行こうとしているのだなと見ぬいたマヤは、相手が逃げたすことかできないように、先につっかかっていった。
「消えなさい!!」
 振るい落した曲剣の刃がわんこの耳を切り落とす。返す刃で反対側の耳も切り飛ばした。
 わんこは泣きながらマヤたち背を向けると、反対側へ活路を求めた。
 しかし――。
「くぅぅ……ん」
「かわいく泣いてもダメです」
 タイムとヘルモルト、そして助けあげられた一悟が壁を作って逃走を阻む。後にはタイムとヘルモルトが控えており、なおかつ、尖塔の窓からは森林警備隊たちが狙いをつけていた。
 右に逃げるよりも、左に逃げる方が可能性が高い。そう判断したらしく、またもわんこが嗤って身を翻す。
「あら、私の方が上手に痺れさせることができますわよ」
 タイムがさっと突きだしたタクトの先から迸る稲妻が、わんこの割れた後頭部を捉え、穿つ。
「わ……ぉ……」
 亀裂の溝が楔状に深まり、たてよこななめ、蜘蛛の巣のように拡がって、最後は粉々に砕けた。


 妖精郷はまだまだ冬に閉じ込められている。だが、イレギュラーズは春が戻ってくる兆しを明るくなってきた雲の色に見て取っていた。
 フェリシアはほんの少し、表情を緩めた。
「もう少し、ですね。妖精郷に、春が戻ってくる、のは……」
「一刻もはやく常春をとりもどさないと、ですわ」、とコルク。
 最後の一本を屋根から落としたオデットが、隣で腰を伸ばす。
「そうだね。警備隊のみなさん、お疲れさまでした。あ、妖精さんたちも、お手伝いありがとう」
「それにしても何がしたかったのかよくわかんねーやつだったな」
 一悟が粉々になった石犬の欠片を拾い集めながら言う。
「ちょっと変な子だったけど、御主人様に置いて行かれても働くゴーレムさんだったわね。命令なんてほっぽりだしたってよかったのに……」
 湿り気を帯びたタイムの言葉が、わんこの欠片の上に落ちる。
 マヤが呟いた。
「何某の部下としての矜持のほかに、彼には魔物は魔物であるという矜持があったんでしょう。
たぶんね」
 リサはゴーグルを額の上に押し上げた。
「私もわんこがかわいそうに思えてきたっす。ひどい主人っすよね」
 ヘルモルトは集められた石犬の欠片を、屋根の上からそっと撒いた。
「そういうロクデナシは遠からず自滅しますよ。さあ、ここを片付けたら次はお城の中です。もう一頑張りしましょう!」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

みなさん、お疲れ様です。
無事、城の屋根から極寒の悪しき電波を広めていたアンテナを撤去し、白い石犬のゴーレムを撃破しました。
妖精郷を襲う異変はまだ続ていますが、きっと春は戻ってくるでしょう。
みなさんの活躍に期待しております。

ご参加ありがとうございました。

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