PandoraPartyProject

シナリオ詳細

無念の行方

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

⚫それが彼女の回り灯籠
 ああ、神様。私は悪いことを、したのでしょうか。
 分不相応な願いを、したのでしょうか。
 幼い頃から貴族の娘として、父に従い、母に倣い、大人しく生きてきたではありませんか。
 父が私利私欲に走り、母が不貞に溺れても、良い娘であり続けたというのに。
 ただ一度。たった一度の我が儘を許されぬ程の罪を、どこで負ったというのでしょう。
 権利を取り合う政略結婚を断り、私を好きと言い、愛していると手を差し伸べてくれた人が、平民だったからですか?
 顔を真っ赤にして怒鳴り散らす父に、仮面のような無表情で見つめる母に、彼を選ぶと逆らったからですか?
 私は、ただ。
 私自身の生き方を、自分で選びたかっただけだというのに。
 心の底から笑って、生きていると思いたかっただけなのに。
 ああ、だからどうか……どうか神様、お助けください!
 暗闇から出づる、漆黒の影達は死神のようなのです! 彼らは淀みなく、滑る様に動いて私達を取り囲むと、銀に光る刃物を突き付けてきました。
 父が愚かにも武器を取り、首を跳ねられる光景を。
 母が醜くも服をはだけ命乞いをし、縦に割かれる光景を。
 それを見た私は、やっと解放されるのだ、と。
 自身の状況を考えずに喜んだ事こそ、私の罪なのでしょうか。
 許してください。助けてください。生かしてください。死にたくない。生きていたい。
 あの暖かい人の下へ、私はーー。
 
⚫亡き者からの依頼
 ギルドの一角に、イレギュラーズ達が集まっていた。
 召集した張本人、『黒猫の』ショウ(p3n000005)は、フードに翳った瞳でイレギュラーズを見ると、口を開く。
「腐敗が進む幻想国内では、非人道的な出来事も珍しくはない。これは、そのうちの一つと言えるだろう」
 そう前置きをして一息。知っている人もいるかもしれないが、と、そう続ける。
「とある貴族の一家が、暗殺されたそうだ」
 そのニュースは、少し前にローレットでも話題に上がったものだった。下手人は不明のまま、三つの遺体が発見された事件。
 金品には一切手を付けられておらず、一撃で絶命させられたと解る鮮やかな手口と、証拠をほとんど残さない手際は、捜査を難航させていた。
 ところが昨日、犯人達の行方を掴んだと情報が持ち込まれたのだという。
「提供者は、殺された貴族の娘と恋人同士だった男だ」
 周りが諦める中、独自の調査を続け、執念で追い続けていたと言う。
 そして遂に、捜査は実を結び、アジトを見つけてその正体を暴いたのだ。
「だが、彼はそこで失敗してしまった……。情報を持ち帰る最中に敵に見つかって攻撃され、深手を負ったんだ」
 ローレットへ辿り着いた時には既に、虫の息だったとショウは語る。
 その彼が情報を記したのがこれだ。と、血と泥に滲んだ紙が机に広げられる。
「息を引き取るまでずっと、彼は言っていたよ。どうか、仇を取ってくれ、と」
 アジトの位置は、幻想国内の山の側にある平屋だ。犯人達は7人でそこに隠れ住み、金次第で暗殺や強盗等を実行しているらしい。
「躊躇い無く人命を奪う奴等だ。更なる被害が出る前に、ここで止めないといけない。だから力を貸してくれ、イレギュラーズ」
 平屋の中はゴミや椅子が散らばっているが、空間は広く、出入口は一つしかないという。
 突入すれば、戦闘終了まで敵は逃げる事が不可能と言うことだ。
「奴等は剣と弓、二つの武器で役割を分けているらしい。剣を持つ者が前に出て、抑えている間に弓で射るスタイルだ。そして、その中に一人、リーダー格の司令塔がいる」
 7人の内、剣を持ち前に出るのは5人、弓で後方から攻撃してくるのは2人。
 リーダーは剣を持ち、状況に合わせて仲間への指示を出して連携で攻めてくる。
「敵のチームは男女混合だ。会話は可能だろうが、説得に応じるとは思えない。無力化は必須と思ってほしい。そして今回、奴等の生死は問わないものとする」
 つまり、手心を加えて捕縛するか、その場で処するかは、任せられていると考えていい。
「説明は以上だ。何よりも、君たちの無事を祈っている。どうか五体満足で帰還してくれよ?」

GMコメント

 ユズキです。
 今回は意思疏通が可能な相手との戦闘とさせていただきました。
 オープニングと合わせて、以下の補足もご参考ください。

●依頼達成条件
・暗殺犯である7人の撃破、もしくは捕縛。

●情報確度
 Aです。つまり想定外の事態(オープニングとこの補足情報に記されていない事)は絶対に起きません。

●目標敵
 リーダー:両刃剣を持った男。冷静な性格で、状況に合わせて他の仲間を動かします。
 男4人:それぞれ片刃剣を持ち、リーダーを守る様に前に出ます。
 女2人:弓兵として後方に位置しています。敵と距離を取るように動き回り、矢を射ってきます。十分に矢を持っているので、矢切れはしないと思われます。
 
●平屋内
 出入口は大きな両開き扉一つで、窓は板が打ち付けられていて塞がれていますが、灯りはあるので視界は心配ありません。また広さは十分あり、ゴミや椅子が少し散らばっている程度です。
 

 平屋へ突入するところから始まります。
 敵はイレギュラーズの接近に気付いている上に、入り口が一つなので正面からの戦闘となるでしょう。
 どう戦うのか、皆様の動きを楽沁みにしています。

  • 無念の行方完了
  • GM名ユズキ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年01月25日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
御幣島 戦神 奏(p3p000216)
黒陣白刃
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
ブルーノ・ベルトラム・バッハ(p3p000597)
涅槃寂静
フィーリエ・アルトランド(p3p000693)
侵食魔剣
刀根・白盾・灰(p3p001260)
煙草二十本男
ライセル(p3p002845)
Dáinsleif
バリツ=エドガワ(p3p004098)
死んだら犯人

リプレイ

⚫さぁ突撃だ
 彼らは、扉の前に居た。
「この依頼をギルドに持ち込んだっていう男は、どれだけ無念だっただろうか」
 扉越しに居るであろう者達を睨みながら呟く『Dáinsleif』ライセル(p3p002845)に、答える声はない。
 だが一様に、心の内ではその無念への報いを、皆が考えている。
「初依頼が復讐ね……何かの因果かな」
 『穢れた翼』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)は、静かに目を閉じて、胸元の十字架に触れながら意識を落とす。
 呟く声は囁きになり、会話するようにも聞こえた。
 そうして発動させたギフトで、彼女は思いを纏う。復讐を果たすという、死んでいった者達への思いを。
「行くか?」
 鉄甲の具合を確かめた『白朧牙虎』ブルーノ・ベルトラム・バッハ(p3p000597)が、確認を込めた言葉を作った。
 標的がこちらに気付いていて、待ち構えているという予感を感じ、不意打ちを警戒しようという意図だ。
「一歩踏み入ればそこは戦場、ですな……!」
 底から身震いさせる『屑鉄卿』刀根・白盾・灰(p3p001260)は、突入に向けて腰に下げた剣の柄を握った。
 今回、彼は人生で、初めて殺し合いを経験することになる。その事に対する怖れを抑える為の行動だ。
 十分な警戒と準備をし、しっかりと心構えを作ってからの戦闘を。と、そう思っていて、しかし、
「はい、こーんにーちわー!!」
「ええええええええ」
 理性をどこかに置いてきた『戦神』御幣島 戦神 奏(p3p000216)が、にこやかに扉を蹴破った。

⚫ファーストコンタクト
 予想外の行動は、二つの結果を得た。
 一つは、あまりにも予想外過ぎる行動に、待ち構えていた暗殺者達が身を硬直させたこと。
 そしてもう一つは、それを察したイレギュラーズが、先制の一手を打てたことだ。
 奏に続くのが早かった二人、ブルーノとライセルが、その隙を好機と見た。
 だから、二人は行く。
 二振りの刀を抜いて駆ける奏に遅れない様にと、拳を握りしめたブルーノを前に、両手で握った大剣担いでライセルが追う形だ。
「ドゥエ、トレス、迎えろ」
 一瞬遅れて、暗殺者のリーダーが慌てずに指示を飛ばす。
 そうして動いたのは、前衛に立った四人の男達。その左右の端にそれぞれ居た二人が、抜き身の片刃直剣を構えて動く。
 真っ直ぐ向かう三人を、挟み込む様な動きだ。
「おっと」
「させないわ」
 それを、防ぐ者がいる。
 『双刃剣士・黒羽の死神』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)と『侵食魔剣』フィーリエ・アルトランド(p3p000693)だ。
 向かって左から来る敵にはクロバが、右から来る敵にはフィーリエが、迎撃を阻止する為に割り込む。
「さぁて、お仕事開始と行こうぜ。死神らしく、御命頂戴と行かせてもらう!!」
 振るわれる刃を、刀と剣の二本で受け止めて、クロバは言う。
 鍔迫り合いをしたのは一瞬。弾いた双刃は、怯まず次手を繰り出す敵との斬り結びを演じて、そこに足止めをした。
「人の性は、どこも変わらないものね。この腐敗した国が良くなる様にしましょうか」
 彼の為にもね。と、そう続けたフィーリエは腰を捻らせた。大剣を大きく振りかぶって、地面に擦らす様に振り抜いて行うのは、敵を近付けさせない為の牽制だ。
 荒土を削った鋼が火花を散らせ、弧を描いた軌跡が小石を跳ね飛ばして敵の身体を打ち付ける。
「オット、受けろ」
 迎撃が不可能だと判断したリーダーは、防御の指示を出す。
 オットと呼ばれた男はその声に、前へ一歩。
 踏み出した足を軸にして腰を落とし、鞘に納めた剣を構え、深く息を吸い込む。
「手加減は出来ないから、死にたくなければ降参しな!」
 クルリ。
 言葉を作った奏が体を回し、クルリと更にもう一回転。遠心力を加えて、ただ全力で握った二刀を、待ち構える相手に叩き込む。
 甲高く、震える様な金属音が鳴り響く。
「続くぜ」
 そこへ、ブルーノが飛び込んだ。
 握った拳をそのまま引き、間合いに入った一歩を踏み込みとする。
「仕事に私情は持ち込みたかねぇんだが……テメェらはやりすぎたな。ちぃっとばかり、ムカつくぜ!」
 真っ直ぐに打ち出された拳は、構えた鞘に止められる。
 衝撃に、折れるかと思うほどにたわむ剣が、その威力を物語っていた。
「デケム」
 攻撃後のブルーノへ、残るデケムと言う男が剣を突き出した。
 身を捩っても回避しきれず、浅くない傷が白い毛並みを赤くする。
「っ、ライセル殿! 追って下さりますですか!?」
 そう指示する灰の言葉はどこかおかしいが、ライセルはその意図を汲んだ。
 ブルーノに殴られ後退するオットに向け、逃がさないようにと大剣を上段から振り下ろし、叩きつける。
 そうして足を止め、剣で受け止めた敵へと、続く灰は抜き打ちで切り払う。
「射て」
 そこに、後衛で控えていた弓兵が矢を放つ。山なりに飛来する二本が、ライセルの身体を射抜いた。しかし、彼は退かない。
「ここでバリツだ」
 そういって、踏み留まるライセルの影から躍り出るのは、レスラーマスクで顔を覆う『死んだら犯人』バリツ=エドガワ(p3p004098)だ。
 畳み掛けられ、防御ががら空きのオットへ近付くと、その胴体に目掛けて拳をめり込ませた。
「そして、バリツだ」
 逞しい腕が、完全に捉えた敵への連撃を放つ。
 めり込ませた拳を引く動きと合わせ、逆の拳を振りかぶって、更にぶちこんだ。
「がっ、ふ……!」
 漏れ出る呼気と共に、どろりとした血がオットの口から吹き出る。
 間違いなく、内臓への損傷が見てとれる吐血だ。
「仕留めます」
 満身創痍の体を、ティアは見逃さない。
 低空飛行で戦場の中心を迂回するように進み、死に体を横手から見れる位置で止まる。矢を番え、存分に引き絞ったそれは、黒い怨念を纏って放たれた。
「――」
 そして彼は、糸が切れた様に倒れる。
 仰向けに天井を見上げる瞳に、光はもう無い。
 
⚫それぞれの戦い方
 戦況を有利に進めたイレギュラーズは、しかし、優位に立ったわけではない。
 オットを仕留めるまでの連携を見ていたリーダーが、戦法を合わせてきたからだ。目の前で息絶えた仲間には目もくれない暗殺者達の行動は速い。
「さあ、次は誰だい? リーダー」
 身体に刺さった矢を引き抜きながら言うライセルの声に、
「あぁええあっと、どうすれば……こ、攻撃を集中ですぞぅ!」
 司令塔の役割を果たすべく、内心のドギマギを無理矢理抑え込んだ灰が言葉を作り、それを合図にそれぞれが動く。
 イレギュラーズの狙いは、クロバとの斬り結びで傷が多いドゥエという前衛の男に定められた。
 そして、真っ先に行くのはやはり、奏だ。
「仇討ちなんてガラじゃないのよねー」
 なんて言いながら、先程と同じように、何も気にせず力を存分に奮う。
 強く踏み込んでから行う二刀の斬撃は、大きく振り上げた体勢からの斬り下ろしだ。
「了解です灰さん。私も、狙います」
 ブオンッ! と空振る奏から間合いを取るドゥエへ、ティアは軽く開いた手を向ける。
 意識を集中させ、魔方陣を展開して精製するのは魔力の弾丸だ。
 それを、鋭く射出する。
「よし、次はこいつにバリツだな、よいバリツだ」
「おう、よくわからねぇがそうだな」
 腕をクロスさせてティアの攻撃を受けたドゥエに向かい、筋骨逞しい二人の男が向かう。
 鏡写しの様に振りかぶった拳は同時に放たれ、重くて鈍い、骨を軋ませる様な音を響かせながら、交差した腕を弾き飛ばす。
 がらんと空いた無防備な身体を、ライセルは追撃の好機と見た。
 筋肉と筋肉の間をすり抜ける様にして前へ進み、剣先を前にするように武器を構えて仕掛けに行く。
「――危ない!」
 誰かが叫んだその時、ライセルの胴と脚へまたも矢が突き刺さる。
 ……こちらと同じ戦略だ。
 と、そうイレギュラーズは察した。
 一番体力の低くなった者から確実に仕留める、と言う。そういう作戦だ、と。
「ぐっ、おおお!」
 グラリ、と、ダメージを負ったライセルは、暗殺者達の予想に反して止まらなかった。
 彼を動かすのは、依頼人への想い。
 悔しさ、悲しさの果てに、絶望を抱えて亡くなった男の為に、
「――その無念は俺が晴らす!!」
 ドゥエの胸へと大剣を突き立て、横へと払うように斬った。
「気は晴れたか?」
 そうして生まれた血飛沫の中を、押し入る様にして進む者がいる。
 リーダー格の男だ。
 両刃の剣を振り子の様に大きく引いて、一気に振り上げようとする動きでライセルを仕留めにかかる。
「仲間がやられたのに冷静ね。何処までその冷静さが保てるのかしら?」
 そこへ割り込むフィーリエは、迎える様に上からの振り下ろしを行った。
 ぶつかり合う鋼はすぐに逸れ、不規則な軌跡を描いた後に切り返される。刻んだ道筋を折り返す様にした一閃は、浅い傷を双方に与えて、血を滲ませた。
「私にかまけていて、いいのか?」
 ライセルに迫る敵はリーダーだけではない。フィーリエが最初に抑えたトレスと言う名の男が一人と、ブルーノを斬ったデケムの二人が、フリーとなって戦場を駆ける。
 しかし、
「心配は要らないわ」
 と、そう言う声は静かで。
「こちら、私が抑えますぞ。そちらはクロバ殿にお任せします!」
「応! 任された!」
 手にした盾を構え、灰は前に行く。
 押しきろうとタックルしてくる相手に対して、彼が取るのは防御の構えだ。
 どっしりと腰を落とし、盾を持つ方を差し出す様に半足を引いた姿勢は、びくともしない壁の様な堅牢さだった。
「お前の相手は、オレがしてやる」
 灰の逆側から敵を抑えるクロバは、しかし守るだけではない。
 左右にそれぞれ形の違う刃を握って、足取りの軽いステップを刻んで目の前の相手へ斬りかかっていった。


⚫圧倒する
 守りを欠いた暗殺者達の劣勢が覆ることはなかった。
 純粋な力の差が、戦闘の進行を加速させていく。
 クロバが外を抑え、フィーリエがリーダーを足止めし、遠距離から飛んで来る矢は灰の盾に遮られる。
 翼をはためかせ、やや高い視点から戦場を見回せたティアは、そんな状況を正確に把握出来ていた。
「そう、私の目はごまかせない。貴族殺しの実行犯それは……コイツだ」
 そして見るのは、バリツが、バリツによる止めのバリツを極め、三人目の男を大地に沈めた所だ。
「……うん、まあ。神様の言いたいことは、わかるけれど」
 矢を番えて弓を引き分けるティアは、狙いを付けながらそう呟き、一瞬の間を開けてから放つ。
 狙いの行く先は、ブルーノが殴り倒した男の肩へと突き立つ軌道だ。
「隙ありそっこだー!」
 そうして怯みを見せた身体を、奏の一刀が袈裟に両断した。
「前衛は倒れましたぞ。次は弓使いへ狙いを……あっ、反対等あれば全然平気ですが、あっ、ではそのように!」
「了解、リーダー!」
「承知!」
 決して軽くない傷を負っているライセルとクロバが、灰の判断に強く応えた。
「残り、少ないみたいね」
「そのようだな」
 間合いを詰められた弓兵の不利は、誰から見ても致命的だ。
 人数も、この戦闘の終わりまでの時間も、あと少しだと暗に含めながらフィーリエは相対する敵に言う。
 答えるリーダーの声は静かで、ぴくりとも変わらない表情は冷たい。
「斬られる覚悟は出来ている、と言うわけね」
 そう思いながら、彼女はリーダーの攻撃を武器でいなして呼吸を整える。
 ……持久戦ね。
 仲間が残りの敵を片付けるまで抑え続ける役を通す為に、少しでも回復を、一秒でも長く足止めをと、構えを正した。
 そんな凌ぎのやり取りを背にして進むライセルは、先ほどとは少し違っていた。
「女性に剣を振るうのって苦手だなぁ」
 微かな躊躇いが、彼の歩幅を狭める。
「でも、仕方ないよね。こっちも、仕事だからさ」
 だから、
「今だよ! クロバ!」
 横薙ぎに振り抜いた大剣で胴を払い、入れ替わるようにしてクロバと立ち位置を交換する。
「応……!」
 応えたクロバは、膝を折る弓兵へと踏み出して行く。逆手に刀を握り、腰を回す様に捻って一閃させて敵を追い抜いた。
 そうして彼は、弓兵の首を、胴体から斬り離した。
「残りは――」
 言葉と同時、視線が集まったのは、もう一人の弓兵だ。
 フィーリエ以外の七人は、今までと同じように事を成す為に行く。
「――!?」
 敵の構えた矢は弦から離れる事はなく、ただ静かに、使用者だった女と共に砕けた。

⚫雌雄は決した
「逝ったか」
 八人のイレギュラーズに対し、一人になったリーダーは辺りを見回した。
 見るのは、今から自分を殺しにかかってくる者達ではなく、倒れた仲間の屍だ。
「最近、殺した貴族の一家、覚えてる? あれさ、誰に金積まれたの?」
 正直に答えるわけもない。とは思いながら、囲みを完成させてからライセルが問う。
 しかし、予想に反して返った答えは、
「お前なら使い捨てる駒に身分を明かすのか?」
 どこまでも冷ややかな一言だった。それは、暗殺者達は黒幕を知らないという証言になる。
「んで、どーするダンナ? 裸で命乞いでもしてみるか? ……あー、見たくねえからいいわ」
「お前達は勘違いをしているな」
 そんなブルーノの軽口にも、彼は答えた。
「他所がどうかは知らないが、少なくとも俺達は生に固執しない」
 命を奪うのだからそれが当然だ、と。そんな返答だ。
 そして、両刃の剣を両手で握り締め、顔の高さで水平に構えて突撃の体勢を作る。
「お前達の言葉を借りよう。仕方ないだろう? こっちも仕事なのだから」
 言葉を発しながら行くのは、やはりダメージの大きいライセルに向かってだ。
「初めから殺しにかかってきたそちらと、依頼だから暗殺を為すこちらに、差違などあるものか……!」
「ッ!!」
 迎えるライセルが取ったのは、捨て身の反撃だった。突き出される剣は敢えて避けず、相打つ様に大剣をすれ違わせて突き立てる。
「暗殺屋風情が、偉そうに」
 よろめいたリーダーに横合いから素早く向かう奏は、声と同時に二刀を交差させるように振り抜いた。
 それに合わせ、ティアは反対側から矢を射る。
「ちっ」
 刀の一撃を剣で防ぎ、飛来する矢は掲げた腕で受ける。
「拳が疼きやがる! 一発で済むと思うなよッ!!」
 左右からの挟撃に両手が塞がった懐へ、正面からブルーノが行った。
 がら空きの鳩尾を、下から振り抜いた拳が抉るように刺さり、崩れ落ちる様な挙動を見せたリーダーの顔面へ打ち下ろす様に、二発目の拳をぶちこんだ。
「銭次第で人様のお命頂戴する奴の末路なんざこんなもんだ。ま、他人の事ァ言えねえがよ」
 めきょ。と、そんな砕けた音を響かせて仰向けに倒れた彼は、二度と動くことはなかった。

⚫それからの少しだけ
 戦闘の終わった平屋から少し離れた位置に、七つの簡素な墓が出来ていた。
 晒された死体が亡者と化すのでは、と心配したフィーリエの考えによって埋葬された、暗殺者達の墓だ。
「……やっぱり、黒幕の正体はわからなかったですね」
 霊魂との交信を図ったものの、有益な情報は得られなかったティアが呟く。
「真実は一つ。だが、私達が真相を知ったところでどうしようもないところもある。仇はとったということで、終わらせてやろう」
 ナイスファイト。ローレットへ帰る道すがらに、バリツは快活に笑ってそう言った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ユズキです。
シナリオへの参加、ありがとうございました。
幻想国は色々あるんだなと思えるきっかけになればなと思います。

それではまたどこかで。

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