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シナリオ詳細

Song of Green Day

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●彼ら彼女らが望む時間
 ローレットにてもたらされた盗掘集団を排除する依頼を受けて、深緑にやってきた六名のイレギュラーズ。
 そこまで強くはなかった盗掘集団を、存分に痛めつけて追い払った事で、依頼はあっさりと達成された。
 余りにも早くに解決したものだから、時間にはとても余裕がある。
 御天道・タント(p3p006204)は、「困りましたわね」と呟いた。
「まだ時間に余裕もありますし、このまま戻るには少しもったいないですわ!」
 彼女に賛同するように頷くシュテルン(p3p006791)。
「もう少し、いたい」
 二人の少女の声を聞いて、残る四人も概ね同意という顔をする。
 手を挙げたのはクラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)。柔和な笑みを崩さず、彼女は時間潰しの提案を口にした。
「では、散歩をしてみるというのはどうですか?」
 彼女の提案に、ブラッド・バートレット(p3p008661)は無表情のままではあるが、「平和である事として確認するのも良いかもしれません」と呟き、横で聞いていたラクリマ・イース(p3p004247)とハンス・キングスレー(p3p008418)は顔を見合わせてから、「それもいいか」という顔をして同意の声を上げた。
 タントが拳を振り上げ、いつものハイテンションさで合図の言葉を告げる。
「それじゃあ、行きますわよ!」
 彼女に続くように「おー」と小さく手を挙げたのは一人しか居なかったとかそうでなかったとか。

●それは深き緑の中にてまどろむような
 深緑には様々な動物が存在している。
 ローレットや他の国であれば家畜化されていそうな動物も、ここでは野生としてのびのびと生きている。
 木々の中で変わったものを見つけたりする度に声を上げるタントと、見に行くシュテルン。
 ブラッドは辺りを警戒しつつ、先程の盗賊のような侵入者が居ないか、形跡をチェックしている。
 ラクリマとハンスはそれなりに会話を続けているが、ふと気づけば猫を追っていこうとするクラリーチェにラクリマが声をかける様子も見られた。
 まだ日も高く、木漏れ日も心地よい。木々のおかげでそこまで暑くないのも幸いだ。
 平和な時間を過ごす中で、歌が聞こえてきたのはそんな時だ。
 歌に気付いたのはラクリマである。歌の上手い彼がそれに気付いたのは偶然だったのかもしれない。
「誰か歌ってます」
「え?」
 聞き返したハンスにラクリマは唇に指を当てる事で静寂を促す。つられるように他の四人も口を閉じる。
 耳をすませば、確かに微かではあるが歌が聞こえてきた。
 どこからだろう、と思いながら音に注意して歌の方へ向かう六人。
 近づく度に聞こえてくる歌。途中で止まる事もあったが、その間を補うように音が鳴らされていた。弦楽器の音のように思えた。
 歌に近づくにつれ、道も少しずつ開けていく。
 木々を抜けた先に見えたのは、整備されたような草原だった。
 円形の広場を形作っているような場所はさほど広くなく、小さな家が一軒経つぐらいの大きさだ。
 当然、そのくらいの広さであれば、広場の端で動物達を前にして歌っていた者が六人に気付くのもすぐである。
 見た目からしてハーモニアの少年のようだった。ハープを弾いていた手を止め、唇を閉じて突然の乱入者を見やる。
 警戒する少年だが、目を輝かせている者が居るのを見て、敵意は無いと判断したようだ。彼の方から声をかけてくれた。
「こんにちは。あなた達は?」
 猫に足を擦り寄られながらクラリーチェが簡潔に返事する。
「散歩中の者ですわ」
 合ってるといえば合っているのだが、細かい事はさておき。
 ラクリマが美しい顔に微笑みを浮かべて称賛した。
「素敵な歌ですね」
「ありがとうございます」
「私も良いと思いましたわ! よろしければ、もっとお聞かせいただけませんか!」
 先程から目を輝かせているタントが、話しながら近づいていく。興味があるのか、シュテルンも一緒に近づいていく。
 あまり近付きすぎるといけないという考えからブラッドが追いかけ、二人の肩を軽く叩いて足を止めさせる。
 その流れを見ていたからか、少年の警戒は完全に解けたようだ。小さく笑って、彼は六人に向けて誘いをかける。
「良ければ、一緒に歌いませんか? 音を鳴らすのでもいいですけど」
「ぜひ!」
 タントの即答に、少年が苦笑いした。
 周りでは動物達が少しだが集まっている。歌声に反応して集まっていたらしい。
 少年が再び音をかき鳴らした事で、立ち上がっていた動物達が再び座り込む。
 束の間の休息、そして交流をすべく、六人はそれぞれ思い思いに過ごす事にするのだった。

GMコメント

深緑は久しぶりです。
暑い時って森の中が涼しい事ありますよね。え、無い?
ま、まあ、さておき、深緑にて交流(?)となります。

とあるハーモニアの少年と動物達との交流をお楽しみください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ハーモニアの少年
ハープ演奏者。
歌は人よりは少し上手い程度。
警戒が解かれた今は話しかければ笑顔で対応してくれる。
ハープ以外にも横笛を持ってきている。
音楽と踊りが好き。

●動物達
少年の演奏と歌が好きなのか、集まってきている。
猫やら犬やら牛に馬、あと兎。数はそれぞれ一匹か二匹程度。
小型の鳥も居るが、大体が枝の上に停まっている。
人馴れしているようで、敵意を持って近づかなければそれなりに友好的な態度を示してくれる。

●交流
元々持っていたとして使用するも良し、口笛にするも良し。
あるいは少年から横笛を借りるのも有り。
もしくは音に合わせて踊るのも良い。
手拍子で参加するのも有りだし、歌うのもOK。
音楽での参加が苦手な場合、動物と触れ合うのでも良い。

  • Song of Green Day完了
  • GM名古里兎 握
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年08月17日 22時10分
  • 参加人数6/6人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
シュテルン(p3p006791)
ブルースターは枯れ果てて
ハンス・キングスレー(p3p008418)
運命射手
ブラッド・バートレット(p3p008661)
0℃の博愛

リプレイ

●それは最初の印象が肝心で
 交流にはつきものの自己紹介。
 先駆けて名乗りを上げたのは、『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)である。
「オーッホッホッホッ! さあさ、折角の機会、折角の素敵な出会いですわ! この! わたくし!」
 彼女が指をパチンと鳴らせば、

  \きらめけ!/
  \ぼくらの!/
\\\タント様!///

「が! このひとときを彩って差し上げますわーー!」
 どこからともなく聞こえてきた声が彼女の自己紹介をしてくれた。ついでに、右手のピースを額に当て、左手を腰に当てるポーズをとった事で拍手喝采大歓声が沸き起こる。
 彼女だけの特殊な自己紹介から一転して、タントはハーモニアの少年に向き直る。
「ところで、お名前はなんと仰いますの?」
 目を輝かせて尋ねる彼女に、少年は目を白黒させるばかりだ。
 タントに対し、「落ち着いてください」と『0℃の博愛』ブラッド・バートレット(p3p008661)が肩を軽く叩いて声をかける。
 彼女の横から『こころの花唄』シュテルン(p3p006791)が顔を出し、あどけない顔で少年に尋ねた。
「お名前聞いても、いー?」
「あ、えっと……」
 突然の合唱辺りから困惑気味の少年の横に、シスターが立つ。『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)だ。
 彼女は優しい微笑みを浮かべると、まずは一礼してから口を開いた。
「こんにちは。私はクラリーチェと申します。ご迷惑でなければあなたのお名前を聞かせて頂けますか?」
「は、はい。ネイザーと申します」
 おそらくはクラリーチェにつられたのか、言葉遣いが更に丁寧になっている少年ことネイザー。
 微笑むクラリーチェは、仲間の人影を見つけると再度ネイザーに一礼をしてその場を離れた。
 彼女と入れ替わりにやってきたのは、『虚刃流直弟』ハンス・キングスレー(p3p008418)。嬉しそうな顔でハンスは挨拶をする。
「初めまして、声を掛けてくれてありがとう。……とても、とても素敵な音色が聴こえたものだから。皆誘われてしまったみたい。
 僕はハンス、ハンス・キングスレー。ふふ、よろしくね!」
「はい、こちらこそ」
 コホン、と咳払いを一つしたのは、ブラッドだ。
 自己紹介をするべく、彼は改めてネイザーへ向き直る。
「俺はブラッド・バートレットです。君の近くで目を輝かせているその少女はシュテルン。それから、動物達を連れているあの者ですが」
 視線が彼――『冷たい薔薇』ラクリマ・イース(p3p004247)に集まり、それに気付いたラクリマは笑って自己紹介をした。
「ラクリマ・イースです。こちらの子ロリババアはミモザ、シマウマ軍馬のこの子はゼブライース、こちらの白薔薇眼帯のウォンバットはシロバラさんです。よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ。動物がお好きなんですね」
 褒められて、彼の笑顔は嬉しそうなものへと変化する。
 これでお互いの自己紹介は終わった。
 それが動物達にも理解されていたのかは分からないが、一匹の猫が短く「ニャー」と鳴いた。
 少しだけ、微笑む顔が広がる。
 改めて、ここからは交流の時間だ。動物達や音を楽しもうではないか。

●それぞれの得意不得意
 少年ネイザーはハープの他に横笛を持参していた。
 楽器が得意という者は周りにおらず、代わりにタントが踊る事を名乗り出た。
 タントが踊る事を宣言すれば、シュテルンも「踊る!」と挙手をする。
「では手を取り合って踊りましょうですわ!」
「うん!」
 仲良しな様子を見て周りも思わず笑顔を零す。
「それでしたら、テンポの速い曲からしましょうか?」
「私はそれで構いませんわ!」
「シュテも、それで! 楽しいなら、いい!」
 乗り気な二人にネイザーは「わかりました」と答え、横笛を口に当てる。
 流れ出る澄んだ音が軽快なリズムを刻み、タントが「さあ、シュテルン様! 一緒に踊りましょう!」と声をかけて手を取り、二人でステップを踏み始める。
 足並みは曲が教えてくれた。両手を取ってスキップしながらクルクルと回る二人。
 曲に合わせてクラリーチェも手拍子を披露する。
 周りに居る動物達は興味があったり無かったりだ。興味がある動物は主にタントとシュテルンの踊りを見つめている。
 手拍子はせずに見つめているのはブラッドとラクリマ。ハンスも同様なのだが、違うのは音程を外さない程度に小さな声で鼻歌を歌っている事だろうか。
 ネイザーが奏でてくれた曲はさほど長くなく、けれど二回繰り返すには丁度良い長さであった。
 おかげで踊り子二人は息が上がったが、その笑顔は満足げだ。
 心配したラクリマが二人に休憩を勧める。
「少し休憩を取ったらどうですか?」
「これしき! と言いたいところですが、ペース配分は大事ですわね」
「うん、シュテも、また踊りたい。今は、休む」
 納得し、休息を取る二人に、犬や牛が近づいて頭をこすりつけていく。それらにきゃーきゃーと楽しげな声を上げた。
 動物達が懐いている様子を見て、「休憩の間に動物達と触れ合うのも良いでしょうね」とクラリーチェが話せば、ラクリマも「いいですね」と賛同する。彼の周りにも連れてきた動物達が行儀良く鎮座している。
 気難しい顔をしたブラッドに、ハンスが「どうしたの?」と尋ねると、彼は少し言いにくそうに返事した。
「俺はあまり動物に好かれる質ではないらしいので……」
「それなら、仲良くなれるコツを教えてもらったらどうですか? クラリーチェさんとか、ほら、あんなに猫が」
 彼の言葉に従って視線を移せば、芝生に座るクラリーチェの周りには猫が多く寄ってきては寛いでいた。一体いつの間に増えたのか。
「どの子もおとなしいですね。……ああ、そちらに行っては行けませんよ」
 謎ではあるが、交流という目的では問題ないのだからいいかと納得する事にした。
「折角ですから、クラリーチェさんに極意を尋ねてみては?」
「極意、ですか」
 果たして彼女のアレは極意と関係あるのかと思ったが、あれだけ懐かれているのならば、もしかしたら何かコツがあるのかもしれない。
 意を決してクラリーチェに近づけば、あっという間に猫が逃げてしまった。
 ショックを受けつつも、自分を見上げる彼女に「教えていただきたい事があるのですが」と切り出す。
「はい、何でしょう?」
「どうすれば貴女のように動物に好かれるのでしょうか?」
「……どうすれば、と言われましても……そうですね。
 こちらから近寄ると驚かせてしまうかもしれません。ですので寄って来てくれるのを待ちましょう」
「なるほど」
「あとは、触りたいオーラを出してはいけない事でしょうか。動物達はそういう部分を感じ取るようですから」
「……なるほど」
 難しい話だと思ったが、それは自分だけの感性だろう。現に、自分以外は動物達に懐かれているのだから。
 皆から少し離れた所に位置取り、座り込むブラッド。視線を動物達に集中するのではなく仲間達に集中する。彼なりに考えた動物達から意識を逸らす作戦だ。
 彼に動物が一匹でも多く寄り添いますように、とクラリーチェは密かに祈る。
 ブラッドの位置からは仲間達の姿がよく見えた。
 ラクリマは動物達と難なく交流出来ているようだ。自身が連れてきた動物達以外にも、彼に近寄ってきた動物達の姿がある。
 彼が簡単に懐かれている様子なのは、動物との意思疎通が出来るからだ。
 といっても簡単な会話しか出来ないのだが、こういった場であればそれで十分だろう。
 子ロリババアやシマウマ軍馬に関しても、ラクリマを介して紹介された事で警戒心も解けたらしい。じゃれ合う姿が見られた。
 ハンスがネイザーへ声をかけている。
「飛びながら歌を唄おうと思うのですが、動物さん達がビックリしませんでしょうか?」
「この子達は大きな声さえ気をつければ大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。気をつけて唄いますが、大きな声だったら止めてくれますか?」
「わかりました」
 快諾したネイザーにもう一度お礼を言って、ハンスが青い羽を羽ばたかせる。
 地面を蹴り、木の枝の高さほどまで浮くと、ゆっくりと仲間達や動物達の周りを飛び回る。
 彼が唇から零した歌は、童歌<ナーサリーライム>。
 いつだったか、旅人から聞いた話。
 あの頃、自分とよく似た少女と共に聞いた思い出。
 あの話を自分の言葉で歌にして、唄っていく。
 気付けば、ネイザーがハープを奏でてくれていた。歌の邪魔にならないように控えめな音でゆっくりと。
 童歌が終わると、仲間達から拍手が送られた。
 タントとシュテルンからは特に強い拍手が送られており、二人から賛辞の言葉がハンスへ贈られる。
「素敵な歌でしたわ!」
「ハンス、歌、いい」
「そうですか? ありがとうございます」
 照れながら笑う彼。
 ラクリマが立ち上がり、「では、次は僕が唄っても良いですか?」と尋ねる。
 地面に降り立ったハンスが「どうぞ」と促せば、ラクリマは「ありがとうございます」と頷いた。
 すぅ、と深呼吸を一つして、ラクリマはお腹から声を出す。
 彼が唄うは、聖歌ではなく、明るく楽しい歌。
 彼の持つギフトにより、歌声が動物を含めた皆の心に癒やしを届けた。
 楽しい雰囲気の歌に、シュテルンが耐えきれなかったのか立ち上がって思いのままに動き出す。
 タントも負けじと思いのままに踊る。
 先程と異なって二人が思い思いに踊るダンスはちぐはぐだが、楽しそうな雰囲気は確かに伝わってきた。
 クラリーチェも再び手拍子をしており、ハンスやブラッドも共に手拍子をする。ブラッドはやや遠慮がちではあったが。
 歌い終えた時、ラクリマの顔はどこか晴れやかな顔をしていた。
 クラリーチェから歌の感想が届けられる。
「楽しい歌でしたね」
「ありがとうございます。こういう歌は小さい頃よく歌っていたんですよ。久しぶりに歌ったら懐かしい気持ちになりました」
 幼い頃を思い出したのか、嬉しそうに笑うラクリマ。
 次は自分だとばかりに、元気よく挙手をするシュテルン。
「歌は、シュテも好き! だーい好き!」
 そう言って、彼女も歌い出した。
 シュテルンの唇から零れた歌は、なんとなく、誰かに向けたような歌に聞こえた。
 歌い終わった彼女に、ネイザーが問う。
「なんだか変わった歌ですね。まるで、誰かに向けたような印象を受けました」
「シュテはね、ずっとずっと歌ってたの……『あなた』に届くように」
「『あなた』、ですか? 誰ですか?」
「シュテもね、わかんない」
 笑いながら返す彼女の言葉に、ネイザーだけでなくその場の皆が頭にクエスチョンマークを浮かべる。
 そんな様子も気にせずに、彼女は言葉を続ける。
「でもね、でもね! いつか会える、そんな気がする! だから、シュテは歌うの!」
 あまりにもあっけらかんと言うものだから、それ以上は言葉が出なかった。
 彼女のその漠然とした何かが叶うと良いと、思ったのは誰であったか。
 目をキラキラさせてネイザーに向き直る彼女は、忙しい表情を浮かべる子だ。
 彼女は、少年へと質問をした。
「あなたは歌好き、だから、歌う?」
 その質問に対し、ネイザー少年は、「はい」と即答した。
 彼の答えにシュテルンはクルクルと回りながら笑顔を浮かべる。
「きっと、その気持ち、どーぶつの、皆も、伝わる、してる!
 だってだって、みーんな、楽しそー、してる、だもん!」
 シュテルンから見た動物達の表情の事だろうか。
 彼女の話を聞いて、ネイザーは嬉しそうに笑った。
 離れた所から見ていたブラッドが、よく通る声で語る。
「いやはや、皆さん上手いですね。私は歌も踊りも苦手なので、こうして見る事しか出来ませんでしたが」
「そんな事ありませんわ! 手拍子をされていたではありませんの!」
「他の方に比べれば控えめでしたよ」
「それでも、参加していた事に変わりありませんわよ! もっと自信をお持ちなさいませ!」
 タントに窘められて、ブラッドはその大柄な体躯に似合わず縮こませた。
 すると、一匹の猫がゆっくりと近づいてきた。
 彼女の方に近づいているのかと思いきや、意外にもブラッドの方へとやってきて。
 緊張で固まるブラッドへと進む猫の歩みは変わらず、そして彼の服に鼻をこすりつけた。
 それから彼の隣にて座り込み、低い声で鳴く。
 仲間達が小声でブラッドへ、「チャンスですよ!」とか「そーっと、そーっと!」など、アドバイスをする。
 緊張で震えるブラッドの手が、恐る恐るその背中を撫でる。
 猫は怒る事もなく、ただされるがままになっている。
 「やったー!」と手を取り合うタントとシュテルン。クラリーチェは安堵の溜息。ハンスとラクリマは「良かったです」と微笑み、ネイザーは祝いの音を奏でた。
 ゆっくりと撫でるブラッドの顔はどこか嬉しそうだった。

●楽しい時間はあっという間に
 気付けば、そろそろ帰らねばならない時刻となった。
 傾き始めた陽光を受けて、イレギュラーズは立ち上がる。
 クラリーチェが名残惜しそうな猫を撫でながらネイザーへ感謝の意を述べた。
「今日はありがとうございました。ネイザーさんのおかげで楽しい時間を過ごせましたわ」
「こちらこそ。この子達もいつもと違う交流を楽しめたようで、ありがとうございます」
 お礼の言葉を返す少年の服を、シュテルンが掴んで軽く引っ張る。
「どーぶつ達、触れ合う。歌、歌う、素敵、思う!」
「そうですね、素敵な事です」
「……また会える? また会えるかな?
 会えたら。いいな……その時はあなたの歌もね、覚える、だから!」
「……はい。また会えたら、その時は一緒に唄いましょう」
「うん!」
 交わされる約束が果たされる事を願い、シュテルンは笑顔を浮かべた。
 近づいてきたハンスと入れ替わるように下がる。
 ハンスは青い羽を動かすと、ネイザーを優しく包むように軽く覆った。
 彼の耳元で、囁く。
「幸福が、君に降り注ぎますように」
 おそらく、彼には淡い幸せに似た感覚が一瞬とはいえやってきただろう。
 羽を広げ、微笑みながら下がるハンス。
 ラクリマが進み出て、ネイザーへお礼を言う。
「動物と共に自然の中でゆったりとした時間を過ごすのも悪くないですね。ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました」
 入れ替わりでやってきたブラッドは、片手を差し出した。
 握手を求められている事を知り、応える少年。
「良い経験をさせてもらいました。ありがとうございます」
「猫ちゃん、懐いてくれて良かったですね。他の動物達とも触れあえるよう、祈ります」
「ええ、今日の経験を糧に、次からも頑張ってみようと思います」
 固く握手をして、それからイレギュラーズは帰り道へと足を進めた。
 帰り際、タントが振り返り、大きく手を振りながら変わらない元気な声で少年に別れの挨拶を告げた。
「とっても楽しいひとときでしたわー! また会う日まで! ごきげんよう!」
 同じように手を振り返してくれたネイザーにもう一度大きく手を振って、タントは仲間の後を追う。

 もし、あの少年とまた会う事があったなら、その時はどんな時だろうか。
 楽しい交流の一時は、こうして幕を閉じるのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

皆様お疲れ様でした。
楽しく書かせていただきました。
お子さん達それぞれの思い出となりましたなら嬉しいです。

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