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シナリオ詳細

再現性東京2010:或いは、0時44分発、霧の駅行終末電車…

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●0時44分
 練達の一区画。再現性東京のとある駅。
 そここそが、とある噂の舞台であった。
 終電もなくなった深夜0時44分、その駅には無人の電車が停まるという。
 よくある都市伝説だ。
 その電車に乗ると、存在しない駅に連れていかれるというのもよくある話。
 そして、その者は二度と戻って来ないというのもお決まりのパターンと言えるだろう。
 実際に、時折噂を確かめに来て、行方不明になる者も、何にも遭えずに帰ってくる者もいる。
 けれど、しかし……。
 見知らぬ駅に連れ去られ、帰って来たものが現れたのは、初めてのことだった。

 ひどく憔悴し、錯乱したその青年曰く「肝試しのつもりだった」そうである。
 警備員に見つからないよう、ひっそりと駅に忍び込み、深夜0時44分の電車に飛び乗った。
 どことも知れない闇の中を走ることおよそ十分。
 辿り着いたその場所は、霧に囲まれた無人の駅であったらしい。
 そして、その駅のホームには人の姿があった。
 虚ろな目をした、まるで死者のような人々だ。
 彼がその霧の駅から、東京へ帰還出来たのは偶然だったのだろう。
 死者のような人の群れは、続々と電車に乗ると席に座った。
 その数はおよそ10数人ほど。
 電車の発進を見送るのは、黒づくめの駅員……駅長、だろうか。
 腐った果実のような色の瞳をしていたと青年は言う。
 記憶では、その黒い駅員服が蟲でも詰まっているように不気味に蠢いていたらしい。
 そして、彼は気付けば駅で気を失って倒れていたところを駅員に発見されたのである。
「あの時、一緒に乗ってた連中は……一体どこに行ったんだろうな」
 と、青い顔をして彼は言う。

●霧の駅
「というわけで、今回の任務内容は“霧の駅”の壊滅だ」
 そう言って『黒猫の』ショウ(p3n000005)はイレギュラーズたちの顔を見回した。
 霧の駅に現れたのは、おそらく〝夜妖〟と呼ばれるモンスターの類であろう。
 どういった目的か、それは霧の駅で発生し、再現性東京へ移動しているらしい。
 既に、幾らかが再現性東京に潜り込んでいるのだが、そちらの捜索には時間がかかる。
 それならば、これ以上の拡散を防ぐためにも根本から潰すべきと、そういう判断だ。
「ターゲットは“霧の駅”に集まった10体~15体ほどの夜妖……そうだな、〝侵食者〟とでも呼ぼうか」
 それから、とショウは指を1本立てて言葉を続ける。
「侵食者のほかに〝駅長〟も討伐対象だ。そいつは霧の駅で暴れていれば現れるだろう」
 霧の駅の周辺の地形は不明だ。
 おそらく、駅から外へ出ることはできないと思われる。
「戻って来た青年曰く、駅には線路が1本と、広いホームがあったらしい。戦場となるのはホームと、ホームへ続く階段、そして駅の待合所となるだろうね」
 侵入者はホームに集まっているが、駅長との戦闘もホームで発生するとは限らない。
 今回の任務の主な目的はあくまで〝霧の駅〟の破壊である。
「駅長を逃がさないよう注意してくれよ。駅長がいる限り、駅は何度でも発生する可能性が高い」
 駅を破壊し、電車に乗って東京へ戻ってくる。
 今回の任務を簡単にまとめると、そういう話になる。
「侵入者たちや駅長の攻撃には【苦鳴】や【猛毒】が付与されている。あぁ、駅長は侵入者たちよりも強いだろうな」
 駅のホームには明かりが灯っているようなので、視界に問題はない。
 だが、駅にはトイレや売店、駅員室などの設備がある。
 そういった死角の多い場所での戦闘が予想される点も、人によっては要注意だろうか。
「あぁ、それとな……電車に5体以上の侵入者が乗ると電車は発進するようだ。その場合は任務失敗。急ぎ電車に乗って、戻って来てくれ」
 と、そう言って。
 ショウはイレギュラーズを送り出す。

GMコメント

●ターゲット
・駅長(夜妖)×1
霧の駅の駅長。
黒い駅員服を纏った〝黒い男〟
腐った果実のような、不気味な瞳をしているらしい。
駅員たちよりも強く、またその本性はどうやら人ではないようだ。
駅のどこかにいる。
駅長を討伐することで霧の駅は消滅する。そのため駅長は、場合によっては逃走を図ることもある。

真夜中の怪:物近単に大ダメージ
威力の高い物理攻撃。

霧の駅:神遠範に中ダメージ、苦鳴or猛毒
対象を霧で覆う攻撃。霧に包まれたその中で、何が起きているのかは不明。



・侵入者(夜妖)×10~15
虚ろな表情の、まるで死人染みた様子の人々。
霧の駅で発生し、電車に乗って東京へと侵入しているようだ。
人と見れば無条件に襲って来るのか、それとも何かの条件がそろうことで襲って来るのかは現時点では不明。

侵食:神近ラに小ダメージ、苦鳴or猛毒
対象の頭部を掴み、その精神にダメージを与える。


●場所
深夜0時44分の電車に乗ると辿り着ける〝存在しないはずの駅〟
駅には霧が立ち込めている。明かりは灯っているため暗所というわけではないが、遠くを見通すことはできない。
駅のホームには〝侵入者〟たちが待ち構えている。
また、駅長を討伐することで霧の駅は消滅する。
駅長討伐後は、急ぎ電車に乗って帰還する必要がある。
また、電車に5名以上の侵入者が搭乗すると電車は東京へ向け発車する。
その際は迅速に電車に乗り、帰還する必要がある。
※乗り遅れると戦闘不能&重症となります。
駅のホーム、階段、待合所、その他トイレや売店、駅員詰め所などが戦場となるだろう。

●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
 希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
 練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
 そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
 それも『学園の生徒や職員』という形で……。

●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

  • 再現性東京2010:或いは、0時44分発、霧の駅行終末電車…完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月04日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐
久泉 清鷹(p3p008726)
新たな可能性

リプレイ

●0時44分発
 ガタンゴトンと車体が揺れる。
 再現性東京のとある駅。終電後の発車した存在するはずのない電車に乗って、8人の男女はどこかへ向かう。
 車両は1つ。窓の外は真っ暗闇。
「グオーウオー」
静かな車体に響く声。まるで獣の唸るかのような……否、それは『劫掠のバアル・ペオル』岩倉・鈴音(p3p006119)のいびきであった。
チラとそちらを一瞥し、『知識の蒐集者』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)は窓の外へと視線を向けた。
「電車という乗り物自体初めてなのだが……レールの上を走るはずの物が、見知らぬ場所に辿り着くというのは面白いものだ」
 窓の外に見える景色に次第に霧が混じり始める。
白く染まる景色を見ながら、久泉 清鷹(p3p008726)は顎に手を添えた。
「どういう原理で動いているのか……まぁ、危険は無いようだが」
 清鷹は目を凝らし、霧の中を覗き見る。
 視界は悪い。けれど、この電車が行く先は「霧の駅」。名前からもわかる通り、霧に覆われた〝存在しないはずの駅〟だ。
「心霊スポットとか苦手なんだけど! 幽霊は重いからね!」
電車の椅子に背を預け『満月の緋狐』ヴォルペ(p3p007135)はにへらと緩く笑った。
 ガタンゴトン。
 揺れが少し弱くなる。電車の速度が落ちたのだ。
 やがて、電車は完全に停止……。
 ゆっくりと、車両のドアが開いていった。

 白く霞んだ視界の中で、無数の人影が揺らめいた。
 それは虚ろな表情の男女。まるで死人のような様。
 彼らの名は“侵入者”……電車に乗り込み、再現性東京へと向かう夜妖であった。
「こりゃまた面倒な事に巻きこまれちまったねえ。ま、仕方ねえ。サッサと終わらせて、夜の街に飲み行くとしようやあ!」
 片手に山刀、片手に斧を。
巨躯をかがめて『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)は駅のホームへ踏み出した。
 目の前に迫る侵入者へ向け、無造作に山刀を叩き込む。
 重たい音を共に、深く胸を抉られた侵入者は蹈鞴を踏んで後退した。

電車から飛び出す影が2つ。
1つは金の髪を靡かせる『マム』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)。もう1つは、ハイデマリーの召喚した蝙蝠であった。
「リゲル殿、索敵はお任せするであります!」
眼下へ向けて、ハイデマリーはそう告げる。銀の髪の青年『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)がぐっと親指を突き立て呼応した。
「任せてくれ。油断なくキッチリ熟してみせるぞ!」
 手にした剣で侵入者たちを牽制しながら、リゲルは駅のホームを駆ける。
 彼の所持するスキル【エネミーサーチ】の柵的範囲は100メートル。霧の駅の発生源である〝駅長〟と呼ばれる夜妖を発見するためには、ホームだけでなく駅構内へも注意を払う必要があった。

青白い手が『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)の頭部を鷲掴む。霧の中から滲みだすように現れた侵入者から不意を打たれた形であった。
 直後、イグナートの精神を苦痛が苛む。
 ギリ、と歯を食いしばりイグナートは敢えて努めて笑みを浮かべた。
「ぐっ……魔種にもイロイロな能力の連中が居たけれど、夜妖はまたドクトクな能力持ちが多いね」
 頬を伝う一筋の汗。
「シッ!!」
 振るわれる機械の右腕。
鋭い拳打をイグナートは侵入者の胸に叩き込む。

●霧の駅にて
 霧を掻き消し、疾駆するのは魔力の弾丸。
 車両のドアの前に立ち、グレイシアは周囲に視線を巡らせた。
 侵入者は濃い霧の中に紛れている。おかげで、どれだけのダメージを与えたのか、何体討伐に成功したのか、といった点が確認し辛い。
 手応えで言うのなら、少なくとも1体は消し飛ばしたはずだが……。
「11体以上を倒すまでは防衛に尽力すべきであろう……まぁ、元々吾輩はホームに残るつもりであったが」
 グレイシアは腕を掲げる。
 その手の前に展開される魔法陣。霧の中に侵入者の影が揺らいだその瞬間、グレイシアはパチンと指を打ち鳴らす。
 射出された数発の魔弾が、侵入者の全身を打ちのめした。
 一瞬、霧が晴れたその場所には頬を引きつらせた清鷹の姿。どうやら今しがたグレイシアが倒した侵入者は、彼の得物であったらしい。

 斧による一撃が、侵入者の頭部を潰す。
 グドルフがその体を蹴り飛ばすと、侵入者は悲鳴も上げず地面に倒れた。まるでマネキンのようだ。血の一滴さえ零れていない。
「ちっ、不気味な奴らだぜ……って、なんだぁ?」
 グドルフは眉間に皺を寄せ、周囲へと視線を巡らせた。ブゥン、と耳障りな音が彼の耳朶を打ったのだ。
 けれど、音の正体は確認できない。
 否……それどころか、ほんの数十センチ先の様子さえ目視出来ないほどに濃い霧に覆われているではないか。
「こいつぁ……」
 
「ぐ……おぉぉっ!!」
 苦し気な呻き声。
 次いで、霧の中から血に濡れたグドルフが現れる。
「え、何事ですカー?」
 ぎょっと目を見開いて、鈴音はグドルフへ問いかけた。
 侵入者たちと相対していた鈴音には、彼の身に何が起きたかわからない。額を濡らす血を拭い、グドルフは不機嫌そうに唸る。
「駅長だ……ちくしょう、どこにいやがる?」
「なんとっ! 見敵必殺、みつけしだい掃討だー!」
 鈴音の声が、駅のホームに木霊した。

「階段だ!」
 そう告げたのはリゲルであった。
 駆け出すリゲルは、ほんの一瞬自身の背後へ視線を向けた。
「グドルフさん! ここは頼みます!」
 リゲルの言葉に、グドルフは軽く手を掲げることで意を返す。駅長の居場所を知った捜索班……リゲル、ハイデマリー、ヴォルペ、イグナートはほぼ同時に行動を開始。
 けれど、まだまだ駅のホームに侵入者の数は多かった。
「邪魔をするなっ!」
 進路を阻む侵入者へ向け、リゲルは剣を振り抜いた。
 悲鳴もなく、抵抗もなく、リゲルの剣は侵入者の胴に食い込む。まるで、溶けかけたガムでも斬りつけたような不気味な感覚に、リゲルは頬を引きつらせた。
 一瞬、足が止まったリゲルの背後に侵入者が迫る。
「あ……やば」
 頬を引きつらせるリゲル。
 だが、侵入者の手はリゲルに触れない。
 伸ばされたその腕を、横合いから割り込んだイグナートの拳がへし折ったのだ。

 きらきらとした燐光を、全身に纏いハイデマリーは宙を舞う。
 その身を包むは“魔法少女”の衣装であった。脇に抱えた小型のレールガンを構え、そっと片方の目を閉じる。
 すぅ、と深く息を吸い、引き金にかけた指先に力を籠める。
 ほんの数センチほど引き金が引き絞られて……。
 バチ、と空気の爆ぜる音。
 放たれた弾丸は僅かに軌道を曲げながら、階段の影に隠れていた駅長の腹部を撃ち抜いた。
「的中であります!」
 撃ち抜かれた駅長は、どうやら階段を転げ落ちていったらしい。
 追撃のためにハイデマリーは宙を舞って後を追う。ハイデマリーへ向け、侵入者たちが腕を伸ばすが、彼女はすいすいと泳ぐようにそれを回避。
 ハイデマリーが階段へと飛び込んだ、その瞬間……。
「うわっ……!?」
 その視界は霧に覆われ、白に染まった。

 血に濡れたハイデマリーが地面を転がる。
 見た目ほどに大きなダメージを受けたわけではないようだが、どうやら毒に侵されているようだ。
「君はちょっと休んでいないよ」
 ハイデマリーの肩を軽く叩いて、ヴォルペは階段を跳び下りた。ほんの数歩で駅構内に着地して、視線を左右へ巡らせる。
 角を曲がり、待合室へと消えていく駅長の姿を視界の端に捕らえるとヴォルペはそちらへ駆け出した。
「出来るなら今日この場限りで消滅してもらわないとね?」
 滑り込むように待合室へと立ち入ると、ヴォルペは好戦的に笑った。
 ガン、と手甲で壁を叩いて仲間たちに自分の居場所を伝えると、駅長へ向け彼は言う。
「さぁ、おにーさんと遊ぼうか?」
 直後、駅長の身体が不気味に激しく蠢いた。

 服の内側で何かが暴れる。
 無数の何かが蠢いているのだ。
 眉をしかめて、ヴォルペはゆっくりと駅長の傍へ近づいた。
 駅長は待合室の端に立ったまま、接近するヴォルペを観察している。その身体は相変わらず不気味に蠢き続けており、ヴォルペは視線を逸らせない。
 背後から、タタタという軽い足音。仲間が追いついて来たのだと、ヴォルペは笑みを深くした。
「ヴォルペ! 駅長を叩きに行くよ!」
 追いついて来たのはイグナートだ。
 その瞬間に、動き始めたのは3人。
 右の拳に雷を宿し、イグナートはまっすぐ最短距離で駅長へ向け殴り掛かった。
 そんなイグナートの特攻から僅かに遅れて、ヴォルペは壁際……駅長の視覚外から側面攻撃へと移る。
 そして、3人目……。
 駅長の身体が一際大きく震えると、その頭部があるべき場所から大量の霧が溢れ出した。
 
 溢れた霧がイグナートを飲み込んだ。
 否、それは白く小さな虫の大群。
 イグナートが霧に覆われていた時間は、ほんの数秒ほどだったろうか。
 バチバチと電光が瞬いて、イグナートは霧を打ち消し跳び出した。
飛び散る鮮血。待合室の床を紅に濡らす。
「駅長の正体なんて知りたくなかった……ロクなもんじゃないと思ったからね」
 と、そう呟いたのはヴォルペであった。
「それならソッコウで落としにかかるよ!」
 真正面からはイグナート。
 左側面からはヴォルペが迫る。
 逃走か、迎撃か……駅長が判断に迷ったその隙に2人の拳が、胴と胸とを打ち抜いた。

 音もなく、清鷹は数歩前に出た。
「特に恨みはないが、その存在は害になる。なればこそ、斬らせて貰おう」
 シャラン、と涼しい鞘なりの音。
「久泉清鷹、押して参る!」
 霧の中に閃く刀身。
 一閃。
 侵入者の頭部が地面に落ちた。油断なく刀を正眼に構え、清鷹は数歩後退する。
 ドアの守護をグレイシアとグドルフに任せ、清鷹と鈴音は遊撃に……といっても、移動範囲は車両付近ではあるが……移行している。
 霧の中から伸ばされた、青白い腕を鍔で受け止め刀身近くに身を寄せた。
 身体全体を使うようにして、清鷹は侵入者を弾く。
「ここを任されたからには一体たりとも乗せぬぞ!」
 大きくよろけたその胸に、清鷹は刀を突き刺した。

 清鷹の戦いに派手さはない。
 けれど、質実剛健という言葉がふさわしい堅実な戦いぶりである。
 油断をすることなく、絶え間なく周囲に気を配り……侵入者の姿を見れば速く鋭く斬りつける。
 そのように、堅実な戦いをする清鷹とは対照的に鈴音のそれは派手だった。
 豪快……と、そう言ってもいいかもしれない。
「ざんねーん!  この電車はアタシら専用なんで。死者乗り込み禁止だよ!」
 霧の中で物音がすれば、彼女は素早く視線をそちらへと向ける。
 左目を覆い隠す眼帯を粗い手付きで取り払う。
 猫のような瞳孔に、霧の中で揺らめく影が反射した。
「薙ぎ払うっ!」
 右の瞳を手で覆い、鈴音は告げた。
 直後、霧を引き裂き疾駆するのは不可視の魔力。
怖気が走るほどに濃縮された悪意の波動が、侵入者の身体を撃ち抜いた。
 ゆっくりと倒れていく侵入者。
 だが、まだ完全に倒し終えたわけではないと彼女は直観で理解した。
「……成仏させてやる、観念せいっ」
 鈴音は告げる。
 一瞬の後、霧が弾けて、侵入者の首が跳んだ。
 それを為したのは鈴音の放った不可視の刃だ。
戦果に満足したのだろうか。深く頷き、彼女は次の獲物を探す。

●最終電車
 額を流れる血を拭いヴォルペは獣の笑みを浮かべた。
 朱に濡れた鋼の手甲を頭の位置に掲げた彼は、ギリと強く拳を握った。
「はは、楽しくなってきた!」
 地面を蹴ってヴォルペは駆けた。
 駅長は、ゆらりと揺れるような足取りで逃走を図る。向かう先は駅の出口……一際濃い霧に包まれたその位置へと逃げ込まれては、駅長を討伐することは叶わないだろう。
 ヴォルペの進路を塞ぐように、濃い霧が湧く。
 両の腕を顔の前で交差させ、ヴォルペは霧へと突っ込んだ。姿勢を低くしたヴォルペの背を踏み、宙へ跳んだのはイグナートだ。
「逃げる前に落とすのがリソウだったけど……もうシバラクは付き合ってもらう!」
 握った拳に雷が宿る。
 ヴォルペを踏み台にして、霧の効果範囲から抜けたイグナートはまっすぐ駅長を睨みつける。
 逃走する駅長の背へ向け、落下の勢いを乗せた拳を放った。けれど、駅長はギリギリのところでその攻撃を回避する。
 駅長服が破れ、霧が溢れた。
 ボトリ、と地面に何かが落ちる。それは腐った眼球だ。
 残ったもう片方の眼球で、駅長はイグナートを見据えた。
 立ち上がり、両の拳を顔の位置に掲げるが……。
「もっとシュウイを見た方がいい」
 にぃ、と口角を上げ告げた。
「騎士の……いや、教師の矜持に懸けて、人々や生徒達を、護らせてもらう!」
 煌めく銀閃。
 リゲルによる斬撃が、駅長の胴を薙ぎ払う。
ぐにゃり、と人に非ざる角度で曲がる駅長の身体は、一瞬の停滞の後、宙へと打ち上げられた。
 霧の軌跡を引きながら、駅長の身体が宙を舞う。苦し紛れに展開された霧がリゲルを包む。
 霧に視界を閉ざされながら、けれどリゲルは「これでいい」と呟いた。

 床に膝を突いた姿勢で、ハイデマリーは呼吸を止めた。
 集中を重ねたその心は凪いでいる。
 構えたレールガンの銃口は、宙を舞う駅長へと向いていた。
 ゆっくりと、その指先に力を込めて……。
 放たれた魔光が、一瞬の後駅長の頭部を撃ち抜いた。
「討伐成功であります」
 肺に溜まった空気を吐き出し、ハイデマリーはそう呟いた。

 1体……数秒の後、もう1体。
散発的に襲い来る侵入者たちと相対しつつも、グドルフは山刀を肩に担いだ。
 次はどこから襲い来るのか……右か、左か、それとも前か。
 視線を巡らすグドルフは、そこで僅かな違和感を覚える。
「あ?」
 霧が次第に薄れているのだ。
 否……薄くなっているのは霧だけではない。駅のホームのその端が、まるで蒸発するかのようにゆっくり消え始めているではないか。
「やべえやべえ、なんか色々薄れてきてんぞ!? さっさとズラかろうぜ!」
 侵入者を切り裂きながらグドルフは叫ぶ。
 グドルフの声に反応し、清鷹は刀を鞘へと仕舞う。 
 晴れた霧の中、動く侵入者の影は2。
 これ以上、車両を守護する必要もないが……。
「駅長を取ったか。だが……」
 駅長の討伐に向かった仲間たちが帰って来ない。いつまでもホームに留まるわけにはいかないが、仲間を見捨てることもできない。
「いや、戻って来たようだ。速やかに帰還に移るとしよう」
 ホームの階段へ視線を向けて、グレイシアはそう告げた。
 残る3体の侵入者たちは、階段へ向け進んでいく。このままでは、戻って来た仲間たちと遭遇してしまう進路であった。
「邪魔をしないでもらおう」
 グレイシアの声が低く響く。
 その手の前に展開された魔法陣から、空を切り裂き魔弾が飛んだ。
 侵入者の1体を、狙い違わず消滅させたグレイシア。さらにもう1撃、と魔法陣を展開するがそれより先にハイデマリーが姿を見せる。
 次いで、ヴォルペ、リゲル、イグナート。侵入者へ向け、イグナートは拳を構える。
「そんなことより、さっさと帰るよー!」
 イグナートを制止したのは、車両の窓から身を乗り出した鈴音であった。
 ハッ、とした表情を浮かべたイグナートは、拳を降ろすと車両へ向かう。見れば、前方のドアは既に仕舞った後だった。
「おぉい、急げお前らっ!」
 後方のドアを抑え込むのはグドルフだ。グレイシアと清鷹が……遅れて、ハイデマリー、ヴォルペ、リゲル……そして最後にイグナートがドアを潜った。
 ゆっくりと電車が発車する。
 ガタンゴトン。
 仲間が揃っていることを確認し、清鷹は大きくため息を零す。
「これはなかなか気がせくな。出来ることなら今後はあまりこう言う場面に出くわさないことを祈りたいものだ」
「あぁ、まったく。慌ただしい初乗車になってしまったな」
 座席に座ったグレイシアは、苦笑を浮かべてそう告げる。
 疲れはてた様子の仲間たちを見回し……鈴音などはすでに座席でいびきをかいて眠っているが……グドルフは腰に手を当て呵々大笑。
「間一髪ってところだったな! ところで、このままこいつは何処まで進むんだろうな。酒場のありそうな場所まで運んでってくれねえもんかねえ!」
彼だけはまだ元気が有り余っているようで。
 そんなグドルフへ向けて、清鷹は小さく笑みを零した。

 ガタンゴトン。
 闇の中を電車が進む。
 遥か後方。霧の駅は、いつの間にか消えていた。

成否

成功

MVP

ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
駅長の討伐され、霧の駅は消滅しました。
今後、侵入者が再現性東京へと潜り込むことはなくなったかと思います。
依頼は成功です。

此度の依頼、お楽しみいただけましたでしょうか。
お楽しみいただけたなら幸いです。
また、機会があれば別の依頼でお会いしましょう。

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