シナリオ詳細
鰻 美味し 鹿野川
オープニング
●鰻狩り職人の憂鬱
豊穣の鹿野川(かのかわ)流域では、夏バテの予防に大鰻――いわゆる、ジャイアントイール――を食べるという風習がある。そして、熟練の職人による大鰻狩りの風景は、夏の風物詩となっていた。
だが、大鰻狩りには危険が伴う。鰻狩り職人は負傷などによって年々その数を減らし、かつて数十人を数えたのが、今では十人にも満たなくなってしまっていた。
「……とうとう、これだけになっちまったか」
「太助も五郎左も、去年の傷が祟って今年はもう無理だってえからなぁ」
「しかし、大鰻狩りはやらんわけにはいくめえ」
「そだな……放っといたら、他の魚が食い尽くされて獲れんくなるでなぁ」
その十人にも満たない鰻狩り職人達は、一所に集まって頭を悩ませる。大鰻狩りは単に夏バテ予防のためのものではなく、大鰻の餌となる他の魚を保護するために間引くと言う目的もあったのだ。
はぁ、と深く溜息をつき、頭を悩ませる一同。そのうち、鰻狩り職人の一人がおずおずと口を開いた。
「……なぁ。神使に頼るって、できんだろか?
今、神威神楽のいろんな依頼を受けてるって言うけどよぉ。
頼んだら、俺らの代わりに大鰻狩りを引き受けてくれるかもしんねえ」
「しかし、大鰻狩りは素人だろう? 上手くやれるもんかね。
大鰻の間引きは出来ても、身を台無しにされたらつまらん」
「俺は賛成だ。どちらにしろ、俺らだけではもう手が足んねえ。
狩り方は先に教えとけばいいやな」
人手不足と言う事実に結論が決まると、鰻狩り職人達はローレットに依頼を出すべくさらに話し合うのだった。
●いざ鰻を食いに
「豊穣まで、巨大鰻を食べに連れて行ってくれませんか?
……もとい、豊穣で巨大鰻を狩る依頼があるのですが、参加してくれる人はいませんか?」
うっかり本音を漏らしてから、『真昼のランタン』羽田羅 勘蔵(p3n000126)は慌てて訂正して依頼への参加者を募る。
元の世界では鰻が絶滅危惧種だったこともありここ数年鰻断ちをしていた勘蔵だが、豊穣から大鰻狩りの依頼が来たのをいいことに、久々に鰻料理を楽しむ腹だ。
勘蔵の本音に苦笑いしながら、イレギュラーズ達は続きの説明を促す。
「元は現地の人々が、他の魚をがっつり食べてしまう巨大鰻を間引きしつつ、その身で夏バテ予防をするために毎年『大鰻狩り』と言うのをしていたそうなんです。
ですが、鰻狩り職人が減少して手が回らなくなったと言うことで、ローレットに依頼が回ってきました。
狩り方に注文はありますが、その注文をちゃんと守れば、美味しい鰻料理にありつけますよ!」
その味を妄想しているのか、勘蔵は満面の笑みを浮かべつつ熱っぽく訴える。
「……と言うわけで、この依頼を受けて鰻を食べに行きましょう! 是非!」
また本音を漏らしながらいつになくグイグイ押してくる勘蔵に根負けしたか、イレギュラーズ達は依頼を受けることにした。
- 鰻 美味し 鹿野川完了
- GM名緑城雄山
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年08月10日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●大鰻狩りと聞いて
「わぁい、うなぎ! 私、仕事にかこつけて美味しいもの食べられる依頼だーいすき!」
情報屋の募集に真っ先に応じ、嬉々として大鰻狩りの依頼を受けたのは、『never miss you』ゼファー(p3p007625)だった。既に、脳裏にその味が浮かび始めている。
「カムイグラの鰻は、なかなかに逞しいようで」
体長十メートルの鰻と聞いて、『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は呟いた。もっとも、寛治にとってそのサイズは重要ではない。
(さて、味を見るのが楽しみですね)
味は如何ほどのものか。寛治の関心はそこにあった。
「音に聞く、大鰻狩りやわ」
「もう、そんな季節か」
「いつか食べてみたい思うてたけど、まさか狩りまでできはるなんてなぁ。
ふふ、張り切らなあかんね」
「ああ。食うばかりじゃなく自分で捕るのも悪くはない……搦め手を使えぬのはちと困るがのう」
ともに豊穣で生きてきた鬼人種である『神使』陰陽 秘巫(p3p008761)と『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)は、大鰻狩りのことを元々知っていたようだ。そして、実際に狩りに携わると言うことに、興味津々という風だった。
(ウナギ……幼生を海で見かけたことなら何度か……産卵地はついぞ見つけたことはないがのう)
海生まれの海種である『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)にとって、成魚が川魚であるウナギは馴染みが薄くはあったものの、興味はあった。
(見かけも変わってはおるが穴子やら鱧、うつぼにウミヘビなぞ居るのにこれだけ珍重されるのは、その生態の謎が神秘性を帯びる故かも知れんのう。
どう捌くか、お手並みは拝見じゃ)
そう推論を立てるクレマァダだったが、しばらく後にウナギが珍重される理由がそこにはないことを知ることになる。
(うなぎさん……贅沢ものだから、食べさせてもらえませんでした!
それはさておいて、困っている方がいるのであれば、お手伝いします!)
過去は横に置いておいて、『想い出渡り鳥』小烏 ひばり(p3p008786)は困っている人のためにと気合いを入れた。大鰻狩りと聞いて盛り上がる面々に、どんな味がするのかと興味を引かれるところはあったが、まずは依頼を果たすのが先決だった。
●大鰻との遭遇
鹿野川に到着したイレギュラーズ達は、依頼人である職人達と合流する。
その最中、水鳥が川魚を狙って水面へと急降下した。だが、水鳥が水面に触れた瞬間、ザバァッ! と巨大鰻が水面から飛び出して、水鳥を一呑みにしてしまう。
(う、うなぎちこげん大きかとね……!? どげんしたら、こげん大きく育つんやろうね?
……これを、二十匹も獲るん? どげんして獲るんやろ。
倒すのはできるばってん……引き揚げるのは工夫せないかんね)
その巨大さに、『穢奈』鐵 祈乃(p3p008762)は驚きを隠せない。巨大鰻と聞いてはいたものの、まさかここまで大きいものとは思っていなかったのだ。
(……私が知ってるうなぎとは、かけ離れた特大スケールに見えるんですけど?
距離感間違ってない? 大丈夫?)
「――こんなサイズとは、聞いておらぬぞ?!」
初めて目の当たりにする巨大鰻に驚きを隠せないのは、祈乃だけではなかった。ゼファーは眼をぱちくりとさせて困惑し、クレマァダは声に出して叫んだ。
(食べるためだけにこんなに大きな鰻を捕まえに行くとは……僕には到底理解出来ませんね)
『喰われた半心』カッツェ・サンドーラ(p3p007670)は、呆れたように内心で独り言ちる。
実際には他の水産資源を保護すると言う目的もあるにはあるのだが、それはさておき、食べるだけなら苦労してあんなものを狩らなくても困ることはないはずだ。『喜』の感情が喪われたために「食」に喜びを見いだせないカッツェには、何処か楽しそうに大鰻狩りに挑もうとする他のイレギュラーズ達も、わざわざ危険を冒して大鰻を狩る職人達も理解の範疇の外だった。
●四隻、それぞれの戦い
漁師達から一通りの説明を受けると、大鰻狩りが始まった。
四隻の船に二人ずつが乗り合わせ、上流寄りの東岸、少し下ったところの西岸、さらに少し下ったところの東岸、下流寄りの西岸とジグザグに散らばって、鰻を探していく。
一番上流寄りに陣取ったのは、寛治とクレマァダが乗る船だ。
クレマァダが音の反響を用いて巨大鰻のいる位置を探り当てると、寛治はそこから三十メートルほど距離を置いたところへ船を動かした。
「ふむ、確かに見にくいのう……」
ザブンと川へ飛び込んだクレマァダが、水中の視界を確かめて呟く。
「早速、動き出しましたよ」
「うむ、わかっておる」
職人達が言うには、川の濁りが周囲と変わるのを見逃さないのが巨大鰻を識別するコツとのことだった。それでも職人達はその兆候を発見しきれず奇襲されるのがしばしばだったが、遙か遠くまで見渡す視力を持つ寛治には、細長い濁りの流れが他の流れを横切ってくるのがはっきりと見えた。
「出来るだけ美味しい状態で食べたいですからね。ここは腕の見せ所です」
動き出した巨大鰻達の機先を制して、寛治が頭と思しき場所を見定めて鋼の雨を降らせ、クレマァダが人の心では理解しえぬ歌を歌う。
巨大鰻二匹が、ぷかりと川の水面に浮かび上がった。濁った水中の中でわかりにくかったが、二匹は二人の攻撃をまともに受けたのだ。それを見た職人達の船が、浮いた巨大鰻に近寄ると素早く船上に引き上げて、岸へと運んでいく。
その隙を狙って別の巨大鰻が近寄ったが、クレマァダが衝撃波を放って突き放したところで、寛治が魔弾を放って頭部を撃ち抜き、虫の息まで追い込んでいく。
「……ここじゃっ!」
最期の力を振り絞ってクレマァダの腕に噛みついた巨大鰻だったが、それは同時にクレマァダに止めを刺す機会を与えることにもなった。
クレマァダは首の後ろの神経を狙い、噛まれていない方の腕で拳を叩き付ける。押し寄せる波の様に迫る衝撃が、まず巨大鰻の表皮の滑りによる防御を破り、次いで巨大鰻の神経に到達して昏倒に追い込んだ。
寛治とクレマァダの船より少し下ったところにいるのは、瑞鬼とカッツェの船だ。
(鰻が視認できず、他に方法もない以上、来るのを待つしか無いようじゃ)
瑞鬼が用意しておいた釣り糸に鶏肉を括り付けて船首から垂らし、二人は巨大鰻の出現を待った。
しばらくすると、突然水中から飛び出した巨大鰻が、瑞鬼めがけて襲いかかる。
「逃がさぬぞ!」
巨大鰻の奇襲を回避した瑞鬼は、巨大鰻の頭に不可視の衝撃を叩き付けて、その注意を自身へと引く。
(「お疲れ様です。もう少し頑張ってくださいね。僕ここから見てますんで」と言ってあとは見てるだけでいたいのですが……)
カッツェはそう思うものの、依頼に参加した以上はそうはいかない。瑞鬼を援護するべく、近術を発動して巨大鰻に叩き込んだ。
その後も巨大鰻は執拗に瑞鬼を狙うが、瑞鬼にはまともに傷を負わせることが出来ない。
「搦め手が使えぬと、あれこれ面倒じゃな……」
瑞鬼の攻撃手段は搦め手――状態異常を与えるものが主であり、しかもその状態異常には巨大鰻の身を変質させると言われるものが含まれていた。カッツェが近術で攻撃するものの、滑る皮膚に弾かれることもあり巨大鰻を仕留めるだけの傷は負わせられないでいる。
さらに悪いことには、巨大鰻との戦闘中に、別の巨大鰻が船首から垂らしている鶏肉に食いついた。
「わしはこの鰻の相手で手が離せぬ。その鰻を引き揚げるのはお主に任せたぞ」
「ええっ!? ……僕一人でこんなでかいの釣るんですか?
顔色変わらないとはいえ、力仕事はしんどいんですよ……!」
それでも、このまま放っておいては船を沈められかねない。むしろ自分が引きずり込まれるのではと思いつつも、カッツェは必死に巨大鰻を引き揚げようとするのだった。
「こう見えて、私ってばそれなりに器用ですからね。
大船に乗ったつもりでいて頂戴な! まあこれ小舟ですけど」
「はい、よろしくお願いします!」
そんな会話を交わしているゼファーとひばりの船は、瑞鬼とカッツェ船より少し下ったところへと向かっていった。
ひばりが卓越した聴力で、ソナーのように巨大鰻の位置を探り、その位置を槍で示す。ゼファーは奇襲を受けないよう、ひばりが報せた位置に注意を払いつつ、防御を固めた。
「くふふ。うなぎさんも驚いちゃうかもしれませんよ」
やがて巨大鰻との距離が詰まると、ひばりはその出現位置に槍を構える。
「そんじゃあ、軽くヒネってやりましょうか! なんなら、この船の上で捌いてやるわよ!」
巨大鰻の頭が水上に飛び出したところで、ひばりの槍が突き刺さる。
姿を見せた巨大鰻に向かって、ゼファーは叫んだ。その言葉がわかるはずはないが、戦意は巨大鰻に伝わったようであり、巨大鰻はその目をぎょろりとゼファーに向ける。
巨大鰻は水上に飛び上がる度にゼファーをその顎で噛まんとするが、ゼファーは蜃気楼のように掴み所のない動きでそれを許さない。そればかりか、巨大鰻はゼファーとひばりの二本の槍に次々と傷つけられる一方だった。
程なくして、巨大鰻は水面にぷかりと浮かび上がる。職人達の船が、すぐさまそれを岸へと運ぶ。ゼファーとひばりは、すぐさま次の巨大鰻を探し始めた。
同時に三体を相手取ることになってしまって手間取る局面もあったが、ゼファーとひばりはそんな調子で次々と巨大鰻を仕留めていった。
一番下流寄りには、秘巫と祈乃が乗る船があった。
「青が薄うなっているのが、大鰻の居場所やね――ほぅれ、妾(わたし)は此処よ」
秘巫は、温度視覚によって巨大鰻の位置を探り当てることが出来た。そして、探り当てた巨大鰻に対し、幽世へと誘う艶笑を向ける。巨大鰻達は本能的に何かを感じたのか、水中から飛び出すと、次々と秘巫に食らいつかんとした。
「ここからが本番たい。攻撃は任せてね」
巨大鰻達が秘巫に噛みつくそばから、祈乃は次々と拳を巨大鰻の頭に叩き付ける。
(ダメージ通るんかな……?)
だが、つるつると滑る表皮に拳が滑り、手応えは感じられないでいた。
……けっきょく、二人は持久戦の末に、一匹目の巨大鰻を仕留める。
そして残る巨大鰻も狩ろうとしていた最中――幾度も巨大鰻の顎に噛みつかれ、ダメージの重なった秘巫の首がポロリと落ちた。身体も、バタリとその場に崩れ落ちる。
「ひっ……!? よ、ようも秘巫を……!」
「――ふふ、妾(わたし)は死なへんのよ。祈乃には心配させてごめんね」
「えっ、ええええっ!? ど、どげんなっとるとやろか……?」
噛まれてもいない首が何故落ちたのかはさておき、そうなったのは巨大鰻達のせいだと祈乃が怒りに燃えたところで、立ち上がった秘巫の身体は首を拾い上げると元に戻す。
首が落ちたのを目の当たりにし、間違いなく死んだと思った秘巫に声をかけられた祈乃は、巨大鰻達への怒りは何処へやら、盛大に驚いた。しかも、先程まで女性的な雰囲気だったのに、今は男性的な雰囲気を纏っているではないか!
「話は後よ。今は大鰻狩りに集中しましょ」
かくして、二人は再度巨大鰻に立ち向かう。そして、秘巫がいくら攻撃されても倒れない以上、巨大鰻達に勝ち目があるはずはなかった。
●待ちに待った時間
イレギュラーズ達が仕留めた鰻は、職人達によって手早く捌かれていく。そのほとんどは、流域の町や村へと運び出されて、夏の味となることだろう。
その間に、カッツェは秘巫に何度も回復を試みていた。大鰻狩りの最中は、他の船にいる者までは距離の関係で回復を行うことが出来ず、大鰻狩りの終わった今になってしまったのだ。
「ふふ、ありがとさん」
傷を癒やしてもらった秘巫は、カッツェに笑顔を向ける。カッツェも、笑顔を作って秘巫に返した。
カッツェによる回復が終わる頃には、イレギュラーズ達に振る舞われる巨大鰻が捌かれはじめていた。この巨大鰻は瑞鬼の希望で、カッツェが釣り上げたものが選ばれていた。
他の巨大鰻とは違って、大きく切り分けた身が、さらに細かく切り分けられていく。ちょうど、通常サイズの鰻を開いたぐらいの大きさのものに、もう一~二回り大きいものも用意された。
「大きかうなぎの味は普通のうなぎと変わらんやろうか?
蒲焼きに蒸籠蒸し、ご飯と一緒に食べたいね!
あたしはうなぎばそげん食べたことなかけん、今日を凄く楽しみにしてたんばい。
きっと、美味しかばい」
「みなさまが楽しみにしている顔を見て、わっちも楽しみでした!
お腹いっぱい食べても、大丈夫ですよね?」
「これだけ大きいんだもの。私達だけじゃ食べきれないわよ。焼き上がりが楽しみね?」
次々と調理の準備が整えられるのを見て、祈乃、ひばり、ゼファーは楽しみで仕方ないと言った様子だった。彼女達ほどはっきりと態度には出さないけれど、寛治、クレマァダ、瑞鬼、秘巫も巨大鰻の料理が楽しみであることは変わりない。カッツェだけは表情を変えることなく、ただ準備が進むのを眺めていた。
そして、巨大鰻の身が焼かれるにつれて、香ばしい香りが辺りに広がり、イレギュラーズ達の鼻腔をくすぐった。塩を振っただけの白焼きに、甘いタレを付けた蒲焼きが次々と焼き上げられていく。
「ねぇ、早く食べよう!」
「はいはい、どうぞ」
「職人さん、ありがとうございます! いただきます!」
もう待ちきれないと言わんばかりに、祈乃が蒲焼きを職人にせがむ。職人は笑いながら、祈乃の持つ皿に蒲焼きを置いた。次いで職人から蒲焼きをもらったひばりは、職人に礼を言ってから蒲焼きを頬張る。
他の面々も、焼き上がった巨大鰻の蒲焼きを口にする。噛む度に身から脂が流れ出し、甘いタレと混ざり合う。巨大鰻の白身はふうわりとしていて、それでいてタレや脂に決して負けてはいない。三位一体のハーモニーが、口の中で醸し出されていた。
白焼きはタレがない分、白身の風味がはっきりとよくわかる。振られている塩が脂がくどくなりすぎるのを抑えて、食欲をさらに刺激する。
より大きく切り分けた方は、通常サイズの蒲焼きや白焼きよりも食べ応えがあり、そして白身の風味がより強く口の中に広がっていく。これはこれで、悪くなかった。
「美味い! この調理法は、見たことがない!! 身に串を打って焼くのか……。
タレもうまいが身の風味をそのまま味わえる白焼きもたまらんのう……」
巨大鰻の美味さに、クレマァダは天を仰ぎつつ、鰻が珍重される理由を理解した。
(確かに、味はいいですね……)
カッツェは巨大鰻の味を楽しむことこそできないものの、わざわざ巨大な鰻を狩る理由は少し出来た様な気がした。
蒲焼きと白焼きがある程度焼き上がった頃には、肝吸いと肝串も饗された。肝吸いは肝のコクのある濃厚な味わいが舌の上に広がり、それを澄んだ汁が包み込む。肝串は焼けた肝とタレの香ばしさが、コクのある味わいと共に口の中に広がっていく。
「これは、冷酒を合わせたい所ですね。柔らかい酸味のある、旨口の酒がいい」
「なら、これはどうじゃ?」
「おお、頂きます」
寛治のつぶやきに、瑞鬼は予め用意していた豊穣産の酒を取りだした。二人は肝串を肴に、酒も嗜んでいく。
「丼もよかねぇ。お米が、蒲焼きの味を受け止めてるばい」
「そうですね! 本当に美味しくて、たまりません!」
祈乃とひばりは、蒲焼きをご飯に乗せて鰻丼を楽しみはじめていた。ほかほかのご飯が鰻の濃厚な味と交ざり合って、口の中で一つとなる。
「はぁ……大鰻、満喫しましたわぁ……」
「そうねぇ。いい、依頼だったわ。また来年も、受けたいものね」
思いつく限りの巨大鰻料理を満腹になるまで楽しんだ秘巫が、ふぅ、と息を吐いた。ゼファーも満足したらしく、秘巫に同意する。
巨大鰻の料理を満喫したのは、秘巫とゼファーだけではない。『楽しむ』と言うことが出来ないカッツェを除く全員が、存分に巨大鰻の料理を楽しんだ。
●大鰻狩りを今後も持続するために
「――問題の本質は後継者不足です。我々もずっとお手伝いできるわけではありません」
「そうや。今年は妾(わたし)らに頼って乗り越えても、来年も再来年もとはいかへんやろ」
鰻を堪能して人心地付いて、これから後片付けとなったところで寛治は漁師達に切り出した。秘巫も同じように思っていたのか、寛治に同意を示す。
「はぁ……とは言え、どうしたらいいのか」
「怪我での引退が多いんなら、より丈夫な舟で戦えるよう補強するとかな。
他にも若いもんに遠くから大鰻狩りを見てもろて、カッコいい! と思われれば跡継ぎもちぃとはできはるんちゃう?」
「そして、危険に見合う収入となるよう、巨大鰻がより価値を持つ街へと売るのはいかがでしょうか?
仲買い人の伝手はあります。相応の収入が得られる仕事になれば、若い人も巨大鰻の漁に加わってくれるかと思料しますよ」
「おお……!」
ピンと来ていなかった様子の漁師達に、秘巫と寛治は自らの持つアイデアを語っていく。漁師達は最初は戸惑っていたが、やがて互いの意志を確かめるように顔を見合わせ、詳細を二人に尋ねていく。
大鰻狩りの人手不足が解消される日は近い――かもしれない。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
シナリオへのご参加、どうもありがとうございました。
鰻の美味しさを想像出来るリプレイになっていましたら幸いです。
GMコメント
こんにちは、緑城雄山です。
先日は土用の丑の日でしたね。鰻を食べたくなってしまったので、巨大鰻を狩って食べるシナリオを用意しました。皆さんのご参加をお待ちしております。
●成功条件
巨大鰻20体以上の撃破、捕獲
●失敗条件
巨大鰻25体以上の撃破、捕獲
下記「狩り方について」で厳禁と指定している攻撃の使用
※基本的には、失敗条件を満たしそうな場合は鰻狩り職人達が止めてくれます。
そのため、失敗条件が適用されるのはシナリオブレイクに近いプレイングが
故意に送られたと判断される場合のみです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ロケーション
鹿野川中流。かなり広くて水深もそこそこあります。透明度は低めです。
イレギュラーズ達はそれぞれ別の船(定員2名まで)に乗り込んで(可能であれば直接潜っても構いません)、広く分散して大鰻狩りを行うことになります。
そのため、プレイングで「相互に」同じ船に乗り合わせると書いて同じ船に乗らない限り、支援や連携は出来ません。
●巨大鰻 ✕30
直径50cm、体長10m程の鰻です。その大きさのせいか群れてはいないため、広く分かれて探す必要があります。
大鰻狩りでは締めた鶏の肉を餌に巨大鰻を探しますが、獰猛な性質であるせいか船を狙ったり、水上にジャンプして鰻狩り職人を狙ってくることもあります。
命中はそれほどでもありませんが牙や歯は鋭いため攻撃されれば痛く、身体が滑るため回避や防御技術にプラス補正が入っています。
また、川の透明度は低めであるため視覚以外に察知する方法が無い限り、初撃もしくは一度距離を取った後の攻撃は奇襲扱いとなって回避にペナルティーが入ります。
攻撃手段は噛みつきのみです。
●狩り方について
基本的に、雷撃や電撃に属する攻撃、爆発など激しすぎる衝撃を発生させる攻撃は他の魚にも影響を及ぼすため厳禁です。
また、巨大鰻は水中にいるため火を用いた攻撃は威力が大幅に低下します。
・以下のBSを発生させる攻撃は、巨大鰻の身を変質させて味を落としたり食べられなくしたりしてしまうため、使わないことが推奨されます。
【毒】【猛毒】【致死毒】
【火炎】【業火】【炎獄】
【凍結】【氷結】【氷漬】
【痺れ】【ショック】【感電】
【窒息】【苦悩】【懊悩】
【麻痺】【呪縛】【石化】
●戦闘後について
推奨される狩り方を厳守出来れば、鰻狩り職人達が謝礼として1匹捌いて、巨大鰻の料理を振る舞ってくれます。味は、私達の知る鰻にかなり近いものです。
●同行NPC
『真昼のランタン』羽田羅 勘蔵(p3n000126)
ただし、勘蔵は戦闘には参加しませんし、巨大鰻を食べるシーンでも基本的に描写はされません。
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