シナリオ詳細
再現性東京2010:好きですぅ!付き合ってくだぁさい!
オープニング
●いつもの放課後
ここは、練達が作りあげた日常。
閉鎖空間の中で、危ういバランスで保たれる日々があった。
放課後の希望ヶ浜学園。
女子生徒がわいわいと集まり、恋の話に花を咲かせている。
「ねぇねぇ、裏川さん、またいつもの”占い”、お願いできない? 告白した方がいいかどうか、迷ってるの」
「ふふ、いいわよ。
こっくりさん、こっくりさん、彼女とあの先輩の相性はどうかしら」
前髪を長く伸ばした少女が、机の上の十円玉を押さえ、ゆっくりと人差し指をすべらせる。
”は・い”
「きゃあっ」
結果に一喜一憂する少女たち。
(ああ、面白いわ。あたしがテキトーにやってるだけなのに)
ある日、裏川はオカルト研究部の部室で文字盤を拾った。それを使ってはじめた他愛ない戯れが、今や学園の流行となっていた。
あまり注目されることがなかったから、人に囲まれるのは新鮮だ。
「ねえねえ、やっぱり先輩は髪の長い人が好きだって」
「清楚系が好み……」
最初は、ほんとうに他愛のない相談だったのだ。
「すごい! 先輩、彼女と別れたって!」
「あの、吹奏楽のレギュラーの子、部活やめちゃったって!」
「裏川さんの占い、やっぱりあたるのね!」
なぜか、みんなはこの文字盤の言うとおりの感情を抱いていく。
ゆえに、占いは当たる。
(運命の糸も、あたしが操ってるみたい)
文字盤の上の10円玉がカタカタ揺れる。
これ、あたしが動かしてるだけなのに。
いや、本当に自分が動かしているんだろうか?
”は・い”
ああなんだ、やっぱり自分が動かしているのね。
裏川は思考をやめた。
だって、文字盤がそういうのだもの。
学園に新たな人間がやってきたのは、そんなときだった。
「それで! それで、噂の転校生との占いをしてほしいの!」
「あの新任の先生、……先生、独身だと思う? せめて好きな人がいるかどうか……」
「いいわ、占ってあげる」
●モテ期
かくして、この日常を守るために、希望ヶ浜学園にやってきたイレギュラーズ。
好かれている。
やたら好かれている。
最初こそ遠めに見守られていたり、興味を持たれているんだろうなあ、程度のささやかなものであった好意は、今や爆発寸前だ。
「好きですぅ!付き合ってくだぁさい!」
さらに、日に日にエスカレートしていくのである。
拾ってくれた鉛筆を大切そうにしていたり、ちょっと気持ち悪いくらいには。
ふいに、彼らのaPhoneが揺れた。
「この一件には、おそらく夜妖<ヨル>が絡んでいる。至急、原因を調査し、退治されたし……」
- 再現性東京2010:好きですぅ!付き合ってくだぁさい!完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年08月08日 22時26分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●むっちーを囲む会
「むっちー! 先生にしかられちゃった。ぎゅーってさせて!」
「むっちー! お弁当一緒に食べよう!」
「わーい! にぎやか!」
『ムスティおじーちゃん』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)は楽しい休み時間を過ごしていた。
見た目は校長でもおかしくはないが、れっきとした生徒である。
いったい何年留年したのか。
人気者だが、成績もふるわない上に不純同性好遊を満喫し、教師の頭を悩ませ、一般男子生徒をおののかせている。
「むっちー、放課後ヒマ?」
「ちょっと! むっちーとは私が先に約束してたんだけど!」
「は? 今度でいいじゃん」
「おい女子ども! むっちー困ってるだろうが!」
最近、ムスティラーフの周りがぎすぎすしている。
「わわわ、けんかしないで!」
男女入り交じるキャットファイト。
(なんかいつもよりみんなのアタックが激しい気がする!)
これが流行の最先端だというなら、乗り遅れないように今のトレンドを仕入れなくてはならない。
●ある日の図書室
「夏川さんって、本、好きなんだね」
図書室で本を読んでいた『星さがし』夏川・初季(p3p007835)は顔を上げる。見覚えのある男子生徒だ。
「あっ、なんでもない! 邪魔してごめん!」
「あー、邪魔しちゃったッスか?」
図書室にやってきた『機心模索』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)が申し訳なさそうにしていた。
「いいえ、ちょっと……困っていたくらいですから。……制服、似合っていますよ」
「ありがとうッス!」
イルミナは照れくさそうに笑った。新しい制服なのだ。
「実はイルミナもちょっと運動場から逃げてきたところッス! イルミナがモテたって仕方ないッスからね! でもやっぱりなんか、ヘンッスよねえ」
「はい。やはり何かがあるとみていいのではないかと」
「明るい希望ヶ浜生活のためにも、早急に解決しないとッス!」
●蛮勇ときゃっきゃ
「あ、あの! ……」
『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)は、モップを担いで、やや柄の悪いポーズでしゃがみこんで休憩している。用務員という肩書きである。
校舎裏に呼び出されたのだが、待てども待てども、一向に話が始まる様子はない。
「あのなあ、こっちも暇じゃねぇんだぞ。言いたいことがあるならとっとと言え」
「す! 好きです!」
「あーはいはい……間に合ってる」
すげなくあしらうグドルフ。
「けっ……ガキどもからモテたって嬉しくも何ともねえんだがなあ。
ボンキュッボンのイイオンナからの誘いなら、いくらでも乗ってやるんだがねえ。ゲハハハ!」
そう言って、豪快に笑うのだった。
「ねぇねぇ、聞いた!? グドルフさん、大人っぽい人が好きなんだって!」
「ああー」
「ばっさり切られちゃうんだけど、そこが素敵……」
「優しさだよねえー」
そんな会話を、当の本人は庭作業をしながら偶然窓の外から聞いていた。
(けっ、ガキどもはいい気なもんだ)
「大人っぽい……モカ先生とか?」
「あああっ、困る! 私の憧れのモカ先生……」
モカ先生。『エージェント・バーテンダー』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)である。
パンツスーツに身を包んだスレンダーな英語教師は、女生徒を中心に絶大な人気を誇っていた。
「最初は素敵なお兄さんだと思ったもんね」
今の胸のサイズが控えめになっているのはギフトによるものとは知るまい。
「知ってる? イタリア語もできるらしいよ」
「ええー!」
「じゃあやっぱり……たま先生……みたいな?」
たま先生は、『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)である。抜群のスタイルの音楽教師であった。
「なんだ、私のことを話していたのか?」
「た、たま先生!」
「何が知りたいんだ? この際だ、何でも聞いてみるといいぞ。良く知りたいからな。この学校の事と、君達の事を」
妖艶に微笑む音楽教師に、生徒は頬を赤らめる。
●もう一つの怪異
放課後の、平和な世界。
(私が、居た世界にも、似たような世界がありました)
『汚れた手』ビジュ(p3p007497)がヨルと違うとするなら、守ろうとする側だというところか。教室の通気口に潜んで、この怪異についての情報収集をしていた。
(私はそこの出身では、ありませんが、非日常に排他的という事は、一致しています。少なくとも、私はヒトに好まれる存在ではないでしょう。私は彼ら、彼女らにとっては、化物の類……)
「ねぇ、成り代わり、って知ってる?」
「ええっ!?」
「あのね、教室で一人残っていたらね、……ぱくって食べられちゃうの! そしたら……そのスライムはね、そっくり同じ人になって、日常を過ごすの」
「うそ、怖い、やめて」
「なーんてね! ビビり過ぎだって!」
「……うう」
(それでも誰かを守れるのならば、恐怖の感情も、甘んじて受けましょう)
「怖いなあ。大丈夫か裏川さんに占ってもらおうかな……」
でろりととけるようにして、ビジュは排水溝へと流れていく。
占い。
気になる言葉だ。
●羽衣教会学園支部
「会長! 教えについてもっと詳しく聞きたいです!」
会長と言っても生徒会長の類いではない。
『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)の率いるがんばる宗教団体「羽衣教会」は、この練達の聖域とも呼べる場所にも手を伸ばしていた。
「もっと教えを理解したいです!」
「ここの解釈についてなのですが……」
転入から数日で、あっという間に学園の中心人物となっていた。
「会長めっちゃモテてる!ㅤやった、信者がいっぱいだ!ㅤ羽衣教会をよろしくお願いします!」
「翼にはまだまだ遠いのだと実感します。勢力を広めていきましょう!」
「おーっ!」
排水溝から、ガタリと物音がした。
「ん?」
(少し、よろしい、ですか)
●中庭の作戦会議
「おっと、こっちは清掃中だぜ」
(グドルフ、さん、ありがとう、ございます)
イレギュラーズたちは、中庭に集合していた。ビジュはグレーチングに潜んでいた。
「え、これ夜妖の仕業なの!?ㅤじゃあ先に言質とっとかないと!」
茄子子は超常現象だろうと都合が良いなら良い。だが、一過性の勢いで終わってしまっては困る。
「魔術や占い、……ですか」
「通常なら、忌まれる、ものかも、しれませんが」
「はい。そのような「おまじない」ならば、興味を抱いている人もいるでしょう」
初季は静かに頷いた。
「はいっ! イルミナ、占いを受けてみたって子を見つけてきたッス。文字盤を使うタイプみたいッスね」
「ほうほう! 会長が突撃インタビューしてくるよ! 最近なんか面白い事とかなかった?」
恐るべき茄子子の人心掌握。
大勢が占いを頼っていることを突き止め、またたくまに学園の人間関係図を描き出していた。
「ふむ」
恋愛関係にムスティラーフが5回くらいでてくる。
「てへっ」
泥沼である。
気になるのは一人の人物。
「なるほどな。裏川ハナ……か。私も教師として気になっていた」
「ああ、なんだか孤立しているようだ」
モカと汰磨羈は、顔を見合わせる。
「オカルト部だったか。顧問に名乗り出てみようか」
●オカルト研究部
オカルト研究部の部室が控えめにノックされる。
初季だった。
「えっと、占いじゃなくて。私もこっくりさん、見学してもいいですか?」
「え?」
初季は部室に鞄を置き、ゆっくりと部屋を見て回る。
「私も占いは好きなんですよ。オカルト研究部なんてものもあるんですね」
「部員も今じゃほとんどいないけど……」
「ふふ、これからは私も通ってみましょうか。文字盤で占うのでしたっけ。あら、タロットがありますね。ほかの占いはどうですか? 私の好きな占いもお教えしますよ」
慣れた様子でタロットを切る初季。友達になれるかもしれないと、ハナは淡い期待を抱いた。
(そんなはずないか)
初季がやってきてからは、少し楽しくなった。
部員もちょっと戻ってきたし……。
「部室はここか? 今日から顧問になることになった」
なんと、あのモカ先生が顧問としてやってきたのだ。
●楽しい日々
ばあん、と勢いよく扉が開いた。
茄子子である。
「はいはいはーい!ㅤ会長も占って欲しいです!」
「わ、私と!? あの……えっとえっと」
「会長ハナくんと友達になりたいんだけど!ㅤ相性とかどうかな!」
「えっ、えっ……!」
友達になれますように、と祈りながら動かす。
なんだか、このところうまくいっている気がした。
(やっぱり、占いがあれば……!)
「楽しそうだな。私も占ってみてくれないか? とりあえず、恋愛運でも」
モカが対面に座る。
「先生でも、悩むことってあるんですね」
「あるさ」
自分で考える必要はない。放っておいても文字盤が答えてくれる。
(やはり、ひとりでに動いているように見える)
ハナは占うところを初季には見せようとしない。それはせっかくの友達に見抜かれたくないから、かもしれない。
初季は小さなネズミを召喚し、そっと忍ばせていた。
「次、僕もいいかな?」
ムスティラーフだ。
「占ってもらう内容はそうだね、僕と君との相性なんてどうかな?」
「えっ」
前髪をのける。
目を見て、茶目っ気のあるウィンク。
「あっ……」
慌てて振り払ってしまったが、いやではなかった。頬が赤い。
「最近無茶してないかい? 顔に隈ができてるよ」
(それで、多分、ちょっと気になるくらいなのが……)
かすかに抱いた気持ちが自覚できるほど強くなったのだろう。やはりこれは……。
「ほかの占いはできないの?」
「えっと、でも、なんでも占えるよ?」
文字盤の上の手が震える。
ファミリアーを通じて様子を見ていた初季が、飛び出して手首をつかむ。
「ハナさん、それは、……あってはならないものです」
文字盤がガタガタと揺れる。
「そいつぁ人をイカれさせるやべえもんだぞ。さっさとこっちによこしな!」
グドルフが叫んだ。
「い、いや、これがなかったら!」
「……ま、人気者の地位に立てるもんをそう簡単に手放すわけねえわな」
グドルフは不敵に笑う。山賊の笑みだ。
「ハナさん。あなたは占いをやめたら一人ぼっちに戻ると思っているのでしょうか。
そんな事はありません。私はあなたと友達になりたいです」
初季はまっすぐにハナの目を見た。
「せっかく出会えたんですからこれからはもっと別の話もしましょう。オカルトの話でもいいですし、おしゃれにだって一緒に挑戦してみましょう」
「……」
「今度一緒に服を買ってみませんか。きっと楽しいですから」
頷きたかった。
けれど、手は勝手に動く。
いいえ、いいえいいえ。
その声は裏川のものではない。
文字が浮かび上がる。
「ひっ……」
「だから……お願い、そのヨルを倒させて下さい。あなたは必ず助けます」
初季は裏川をかばって、前に出る。
「へっ、化けの皮がはがれたか。たく、ミミズがのたくったような字しやがって、気色悪ィんだよ!」
●もじ
「はっ!」
モカが素早く斬神空波を放った。
機動力が、文字盤を切り裂く。
瞬く間に次々と距離を詰めてゆく。素早く、素早く。そして姿勢を低くすると、あたりを蹴りが乱舞する。
毒蜂乱舞脚。文字のいくつかそのまま欠落した。
「オオオオオオッ!!!!」
ブロッキングバッシュ。ビジュは伸び、思い切り文字盤をたたきつけた。
「悪しきものよ、少女の前から消えよ」
悪夢のような光景。
だが、教室はもとのまま。ビジュの保護結界によって、空間は守られていた。傷つく体は即座に修復されていく。
「特異な存在への憧れ、それ自体に酔う――正に思春期だな」
「せ、先生!」
ハナの手をとり、ふわりと飛んだ汰磨羈。くるりと空中で体を回転させ、ハナより遠くへと投げる。
「悪い気はしないが。戯れるのは、事を片付けた後でだ」
そのまま地面を蹴り、壁を蹴ってもうひと飛びだ。繰り出される無間睡蓮が、教室のあちこちに水面の波紋を描き出した。結界が文字を包み込み、斬撃が四方八方から降りそそぐ。すたり、と床に着地したと同時に結界はかききえ、文字だったものが残っていた。
「つ・よ・い・の・ろ・い」
浮かび上がる文字が呪術めいた攻撃を繰り出すが、動きは唐突に鈍る。初季のドゥームウィスパーのほうが上だ。
「負けませんよ」
「はいはーい! 立って立って」
茄子子のクェーサーアナライズが、呪いを打ち消す。
(ビジュさんが押さえてくれている、今ッス!)
青い閃光が教室をないだ。
イルミナのテネムラス・トライキェン。エネルギーをまとった腕が、思い切り文字を焼け焦がす。
「た・い・ほ・」
うの文字がかすれてなぎ倒されていった。ムスティラーフのむっち砲……ではない。口から吐き出された緑の閃光は太く、太く束ねられてゆく。
か細い砲弾はかき消えて、派手な爆風が広がる。
「へっ、景気づけの一発か」
グドルフのライトヒールが傷を塞いでいった。
(平然と立ってるこの人たち……何者なの?)
ハナは教室の隅で、呆然として成り行きを見守るしかなかった。
「おう、邪魔だ。離れてな」
おずおずと頷いて、引っ込む。
「ゆ・み」
文字盤の攻撃は、ふらふらと見当違いのところを射貫いた。動きは、鈍い。モカは容易にそれをかわした。イルミナはエネルギーフィールドを展開し、受け止める。
「エネルギーの使い方がなってないッスね!」
AKAによって、イルミナはテネムラス・トライキェン。薄い膜が、一点に集中させて文字盤を貫く。
ビジュのブロッキングバッシュが、文字を壁に押し込んでいく。文字盤がばらばらに崩れる。
「貴様の様な類は、力を発揮する為の手法と存在自体が直結していると相場が決まっている」
汰磨羈は振るう刃で、文字の一つ一つを削り取っていく。何か発しようとした言葉が、睡蓮に散る。
「つまり。その字全てを削り切れば終いだ」
ムスティラーフの宝石の角がきらりとかがやいた。祈りと共に角から放たれる蒼碧の光が、明るくこの場を照らし出す。
「よしっ」
「パターンが見えてきましたね」
初季のファントムチェイサーが、追い詰める。吹き飛んだ文字盤を、グドルフの蹴りが捉えた。
「おらあっ!」
勢いよく壁にたたきつけられ、文字がバラバラに散る。
ずいぶんと減った。
茄子子の天使の歌が皆を癒やす。
「大丈夫ハナくん、けがしてない?」
「え?」
「え、会長とハナくんはもう友達でしょ!」
ハナは驚いて目を見開く。
「うんうん、わかるよ!ㅤ人に任せるのは楽だもんね!ㅤだったら今度は会長を頼るといいよ!ㅤ友達だからね!ㅤ当然だよ!」
まるで救世主に見え……。
「とりあえず、後だ!」
モカのソニックエッジが音速で枯れていく言葉を狩りとってゆく。流星双撃。連続した蹴りが、残った文字を跳ね上げる。
「はっ」
汰磨羈の睡蓮が1文字を包む。
「ラスト……スパートォ!」
イルミナのテネムラス・トライキェンが、出力を上げる。
「もらったぁ!」
グドルフが、思い切り山賊の斧を振り下ろした。
文字盤は、ぴしりぴしりとひびが入り、ついには真っ二つである。
繰り出される言葉は、もはや意味のない文字列となっている。逃げ出す一字を、初季のファントムチェイサーが仕留めた。
「、」
ムスティラーフの大むっち砲が、文字盤の言葉をかき消した。塊は取っ組み合って、見えなくなる。
「はいはーい! ラスト!」
ミリアドハーモニクスがビジュを立ち上がらせた。
「あなたは、ここにあって、いいものでは、ない」
ビジュは動いた。驚くべき素早さで大きく広がり、そのまま体当たりをかます。
のたうち回る文字盤を、ビジュの一撃が、押しつぶした。
●おわり
モカが、そっと裏川に目線を合わせる。
「あなたはそれが無ければ一人ぼっちだと思い込んでるようだが。心に壁を作っているのは、あなた自身なのではないだろうか」
「……?」
「壁を自分で壊して、周りをよく見てごらん。私は助言しかできない。あなたの人生はあなたの物であるからだ」
「改めて、お友達になってくれると嬉しいッスけど」
イルミナが照れくさそうに言う。
「占いなんかに頼らなくても……いえ、占い自体は大いに結構ですが!
ヨルの力なんてなくてもきっとお友達にはなれるはずッス!」
「もうっ、会長を頼っていいんだよ」
「……年齢が離れてはいるが、私もハナさんと友達になりたい」
モカが、優しく手を差し伸べる。
安心して、泣き出してしまった。
(あれ? あのスライムは?)
黒い塊はゆらゆらと揺らめいていた。不思議と、もう怖くはない。ぺこりとお辞儀でもしたように見えた。
「あなたならすぐに、素敵な友人がつくれるでしょう。その為の手伝いは、彼らがきっと」
アレは夢、だったのだろうか。
「私は消えましょう。この街に、私は相応しくないのです」
ハナは、疲れからか、そのまま気絶するように眠ってしまった。
●それから
「ねぇ、聞いた?」
「この学園に、守り神がいるんだって……」
ビジュの話は、形を変えて学園に残ったようだ。
「同じ姿をしてね、助けてくれるの」
「まったく、ギャンブルみてえに当たるも当たらねえも分からねえのが占いだろうが。
必ず当たる占いなんて面白くもなんともねえ」
グドルフは、窓枠に体を預けた。
「嬢ちゃんよお、好かれてえなら好かれるような努力が必要だぜ。
受け身のままモテちまうってえのは、おれさまみてえなイケメンだけなのさ。ゲハハハ!」
話しかけられることは減ったが、隠れファンは未だに多い。
「裏川」
授業中、モカにあてられて立ち上がる。
「よし」
モカは、ちょっと茶目っ気のある笑みを見せて。
”友達”なのは秘密の約束だ。
放課後。
「ふむ」
「せ、先生……」
汰磨羈はちょっと考えて、ハナの上着のボタンを一個開ける。
「こう見えて、千年単位で生きているからな。色々と教えてやれるぞ。色々と、な」
「これ、派手すぎじゃないですか?」
「度胸ッスよ!」
「会長は人が増えればよし!」
「初季ちゃんも、な、何か言ってよぉ!」
「切っ掛けが何であれ、占いを通して知り合った人が多いなら、それを活用するのも手だ
」
「誰かに認められるよりも先に自分で自分を認められるようにしないと何時までたっても先に進めないからね。とっても似合ってるよ!」
ムスティラーフが笑う。
「綺麗になって、知り合った皆を驚かせにいこうか。交流の上で、インパクトを与える事は大事だからな」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
……というわけで、学園のヨルは見事に退治され、裏川ハナもまた自分の居場所を見つけたようです。
お疲れさまでした!
ちょっと多めのおしゃれをしてみたハナは、おそらくは劇的に何か変わるということもないのでしょうけれど、友達に「いいじゃん」と言われて、ちょっと話すきっかけが増えて……。
と、順当な生活を送るのではないかと思います。
楽しく日常を送るのに忙しいようです。
気が向いたらまた一緒に学園生活を送りましょうね!
GMコメント
●目標
裏川の持つ文字盤の破壊
一件が占いであることを突き止め、裏川の文字盤を破壊してください。
●状況
希望ヶ浜市、希望ヶ浜学園にやってきたイレギュラーズたち。
なにやら、異様にモテています。
最初こそささやかなものでありましたが、道がすらラブレターを渡されたりお姉様お兄様と慕われたり、ファンクラブができていたり、異常です。
好かれ方は人により、恋愛的な意味で追いかけられるものから、憧れのようでもあったり、部活で慕われていたり、たくさん差し入れをもらったり、様々なようです。
文字版のヨルの影響は「もともと持っている感情の増幅」です。
基本的には好意なのですが、もしかすると異様にねたまれたりしているなど、ネガティブ方面に追いかけられる方もいるかもしれません。
あるいは、異様な好奇心を向けられている場合もあるかもしれません。
プレイング指定可能です。基本的には好かれています。
●ヨル
・「こっくりさん」
その本体は文字盤で、文字の集合体のようです。
あ~んの文字、はい・いいえの文字が浮いて攻撃してきます。
文字がすべてそろっている序盤の火力はかなり高いです。ぼろぼろになっていくと行動が制限されていきます。
裏川には攻撃しません。
●登場人物
裏川ハナ
前髪を長く伸ばした少女。自身がなく、あまり友達がいない物静かなタイプ。
いじめられているなどの問題はないのだが、孤立しがち。
おしゃれをしてみたいがよくわかっていない。人の視線がちょっと怖い。
今回のことで注目され、嬉しがっているようだ。
生徒に対して占いを行っている。
無意識に文字盤に乗っ取られており、隈がある。
占いをやめることに対しては(ひとりに戻りたくないので)否定的。
本格的に文字盤を破壊しようとすると立ちふさがる。
「あなたも占ってほしいの?」
●後日
文字版のヨルを退治すると上記の異様な好意はある程度おさまるはずですが、占いはもともとの感情を増幅させるもの。
相変わらずモテているかもしれません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
それも『学園の生徒や職員』という形で……。
●希望ヶ浜学園
再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。
●夜妖<ヨル>
都市伝説やモンスターの総称。
科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
関わりたくないものです。
完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)
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