PandoraPartyProject

シナリオ詳細

再現性東京2010:無限路の怪

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●無限路
「ねえねえ、知ってる? あの大通りを抜けた先の噂!」
「何それ? あそこの大通りの向こうなんて、別にただの道路でしょ?」
 制服を着た2人の少女のうち、茶髪の方の問いかけに黒髪の少女は半ば呆れたようにそう言った。
「そうそう、あの道路の事! あのね、あの道路なんだけど夜になったら、ぐぐーって伸びるんだって!」
「はぁ? 伸びる? なにそれ。怪談? それにしたって、伸びるってなに?」
「夜、あの道を通るとすごく長くなってるらしいよ。
 不思議だよね。せいぜいが100mあるかないかぐらいなのに。
 陽が昇ってる時よりもずっとずっと向こう側に着くのが遅くなるんだって。
 それで、問題はここからなんだけど……」
「あほくさ。そんなのあるわけない。幽霊? おばけ? 妖怪? そんなのおとぎ話かフィクションよ」
 そう言って肩を竦め、黒髪の少女はその話題を打ち切った。

 ――あぁ、まったく。そんなことがあるわけがないのだから。
 大方、夜中暗くて向こうが見えず、距離感が掴めなくてそう感じるだけだろう。

 ――なんて、そう思ってた。

 じぃ、じぃ、ぱちぱち、じぃ、ぶぅん、ぱち

 不規則に不快な音を立てる切れかかった街灯が電柱の足元を照らしている。
 辺りはすでに完全な闇に閉ざされ、ただ電柱の足元を照らすだけの街灯では、とうてい道の全体を示すことなど無理だろう。

 もうすぐ夏だというのに、やけに肌寒いのもきっと、この闇のせいだ。
 だから、『そういうの』がいるはずない。
 少女は深呼吸をすると、そこに足を踏み入れた。
 まるで底が抜けたような暗い夜道を、少女は歩き始めた。

 ――あぁ、どれくらい経っただろう。
 叔母の家はこの先だ。きっともう、着いていてもおかしくないけれど。
 着いてないのはこの道が真っ暗で、まったく同じに見えるせいだ。

 そうであるに違いない。だって、ほら。

 ――あそこに赤いワンピースの女が立っている。

 さっきまで見当たらなかったその女がいることは、進んでいるからに違いないのだから。

 ――そうだ、その手にナニカ、液体の滴るモノを持っているのだとしても。


 『練達』再現性東京2010街。
 それは突如としてこちらの世界に飛ばされてきた人々――旅人(ウォーカー)と呼ばれる人々の中でも、
 地球という異世界から呼ばれながら、特異運命座標であることを拒んだ者達が故郷を再現して築き上げた聖域である。
 科学文明の中に生まれ、神や魔――怪異を遠ざけてきた人々の中には、急転直下、小説よりも奇抜な環境変化に適応しきれなかった者達も当然ながら存在する。
 明日の命どころか、帰り道さえ覚束ない片道切符。
 悍ましくも目を向ければ微笑を返してくる魔を、彼らは当然の選択のように『見ない』ことにした。
 そうしたある種の現実逃避の中、彼らは高層建築物とコンクリートに囲まれ、迷路の如く入り組んだ安寧の地を築いたわけだ。
 そして、いくら自分たちの目の前にいようと、いくら聞こえてこようと、彼らはそれをあり得ないと断じ、不変で単調な毎日を繰り返す。

 ――とはいえ、だ。
 彼らの現実逃避など知った事ではないのが魔というものなのもまた道理だった。
 彼らが見ようとしなかろうが、魔の気配は確実に彼らの居場所を蝕みつつあった。
 そんな中、それら悪性怪異:夜妖<ヨル>を退治する専門家として、イレギュラーズは『希望ヶ浜学園』に招待された。
 東京西部にある小さな町を再現した『希望ヶ浜』にあるこの学園は、普通の学園としての顔の他に、夜妖<ヨル>を退治する人材を育成する機関でもあった。


 陽が落ちて月が輝くころ、バイブレーションとけたたましい着信音が鳴り響く。
 君は慌てて――或いは落ち着いて音の原因である端末をいじると、ぽんっと画面に情報が浮かび上がる。
 『夜妖<ヨル>発生』の文字と無機質な場所の情報だけ伝えられ、ぶつんと切られる。
 その場から立ち上がり、急いでその場所へと動き出した。
 しばらくすれば、同じように端末を持って一つの方向に向かう人影が7つ。
 ぼんやりと端末の光が影を照らしている。




 ――ねぇ、知ってる? あそこの道路には化け物がいるんだって。

 ――道に終わりが見れなくなったら、赤い女に合わないように気を付けて。

 ――そいつは君も一緒に連れていきたがってるんだから。

GMコメント

さて、そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。

このオープニングを書いてるとき、
ものすごく寒気がしてたのは内緒です。

それでは、さっそく詳細をば。

●オーダー
夜妖<ヨル>の討伐

●戦場
幅の直径5mほど、町中に左右が家の壁になっている一方通行の道路。
本来であれば100mほどの距離しかありません。
怪異の影響で文字通り無限に長く伸びている印象を受けますが、
実際には100mのうち、中の50mをループしています。

『ループしてない区間/ループ区間/ループしてない区間
=25m/50m/25m』という感じです。

この性質上、例えば機動力6でずっとまっすぐ移動する場合、50m走った後、
ループ開始地点に戻り、そこから10mのところで止まります。

街灯がありますがこれは取り付けられた電柱の足元しか照らしてくれていません。
光源をお持ちでない場合、回避、命中、防技などにマイナスの補正が入ります。

●敵データ
【無限路の怪】
 赤いワンピースに血で濡れたかなり大きめの鉈を持つ女の姿をしています。
 倒さない限りループが終わりません。
 ループ区間の折り返し地点で電柱の足元にぼんやりと突っ立っており、獲物を見つけると攻撃してきます。
 鉈による攻撃には【失血】【狂気】【致命】【呪縛】の効果があります。
 また、この怪異そのものであるためか、光源を持たずとも正確な攻撃をしてきます。

回避、反応、EXA、命中などは比較的高く、それ以外のステータスは並です。

●その他
【黒髪の少女】
 皆様が突入時、怪異に襲われそうになって悲鳴を上げ、そのまま気絶します。
 記憶に残らず、悪夢か何かと思うでしょう。
 ほっといても大丈夫ですが、怪異は彼女を襲うかもしれません。

【茶髪の少女】
人並みにオカルトに興味がある程度の女の子です。本当に怪異がいるなんて思ってもいません。もちろん、友人が怪異に襲われることなんてこれっぽっちも思ってないでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
 希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
 練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
 そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
 それも『学園の生徒や職員』という形で……。

●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

  • 再現性東京2010:無限路の怪完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
アシェン・ディチェット(p3p008621)
玩具の輪舞
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
天下無双の狩人
ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)
あいの為に

リプレイ

●おいでませ無限路へ
(一方通行の狭い路地のかたちを借りた、これなるは怪しのモノの狩り場。
敵に有利な場所に踏み込んで戦うなんて、以前なら考えられない無謀ですけれど……)
 黙考しながら『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)は一方通行の路地を走り抜けていた。
 効率を重視して大切なものを取りこぼす生き方はもうこりごりだと、その無謀こそが自らの歩む人としての道であると胸に刻みながら。
(この街並みからして僕には不思議だけど、出てくる敵も外とは変わったものが多いね)
 深緑西部にある小さな町を出身とする『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)にとってはこの練達――『東京』なる都市を再現したこの地そのものが見慣れぬものだった。
「さあ、さっくり片付けて家に帰るとしよう。美味しいご飯が待っているよ」
 見慣れぬ街を走り抜ける姿に迷いは見られない。
 黒いスーツを着込む『筋肉最強説』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)は相手の様子を情報として受け取りつつ走る。
(『学校』に合わせた『ジャージ』っておようふくだけど変じゃないよね?
 首輪と鎖はついたままだけど……『学生』っぽくみえるかな?)
 自らの身だしなみを確かめるようにくるりと回った『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)はそっと首輪と鎖に手を触れる。
 普段のどちらかというと水ぼらしい衣装や容姿と異なる現状にどことなくむずむずする。
「本当のお化けでしたら怖いけれど、いるのは敵さんなのよね?」
 『玩具の輪舞』アシェン・ディチェット(p3p008621)はソレに入った直後、ぽつりと呟いて、ふるりと体を震わせた。
「夜妖<ヨル>か……俺の居た世界だと「怪異」とか「都市伝説」が近いかな。
あんなのと戦うなんて正気じゃないけど、それを可能にするのがイレギュラーズの力ってやつなんだろうな」
 そういう『弓使い(ビギナー)』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)は手慣れた様子でa-phoneをいじる。
「……異国の大地、神もきっとわたくし達を見ておいででしょう」
 さもそう思っているかのように呟く『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)は静かなものであった。
「あっちを行ったらこっちに、こっちを行ったらあっちに……? うーん、よくわかんないな!」
 現場のことを聞いた『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)は疑問符を浮かべていた。

 イレギュラーズが各々に現場に足を踏み入れて少し。
「まあ、こんなにも長い道だったかしら……?」
 思った以上に長いその距離に、ディチェットが振り返り退路を確認する。
 ――不意に。そう、不意に空気が変わった。
 澱んだ魔力のようなものが大気中を漂い、酔ったように感覚が歪む。
「きゃぁぁぁあああッ―――!!」
 つんざくような悲鳴が響いた。
 その声が聞こえたままに、イレギュラーズは走り出す。
「貴様が何の目的なのかに興味もない。
 だがこれ以上被害者を増やすのであれば容赦はしない! いざ―――参る!」
 ブレンダは叫び、同時に走り出す。
 しかし、それよりも前に敵が動いていた。
 暗視の向こう側、ぱたりと倒れた少女から、女が視線をブレンダに向け――走り出した。
『アァアアァア!!!!』
 甲高い声と共に女が握る凶器が閃く。
 強烈な一撃が、ブレンダが抜いた二本の愛刀の間をすり抜け、その身に傷を刻む。
 ぴしりと鮮血が散る。ブレンダはそのまま体を無理やりに動かし、ウェントゥス・シニストラを振るう。
 暴風が女の動きを止め、同時に受けた傷跡を気迫で塞ぎ繋ぐ。
「日頃からあれこれといろんな物と戦っているからな……
 今更鉈を持った女程度に怯むわけもあるまい!」
 啖呵を切ると共に、双剣を構えなおす。胡乱な瞳をした女と視線が交わった。
 瑠璃は練達上位式を用いて馬車を走らせ気絶した少女を荷台に収容すると走らせた。
 馬車が疾走し始めて直ぐに、ぐわんと何かが捻じ曲げられるような感覚。
 停止したそこの遥かな向こうで、仲間たちが各々動き出していた。
 式に動きを止めさせ、魔眼を起こす。
 水面に揺らめく月の如く、その向こう側で、亡者の群れが影を塗り替え姿を現していく。
 他者を識別することなきその亡者が襲い掛かる。
 明確な敵を選べない戦場でのそれはあまり推奨されまいが、状態異常ぐらいであれば味方の手で回復すればいい。
 腰にあるランプである程度の範囲を見やすくしたリュコスは女の方へと近づいていく。
「女の人……でも、敵、なんだよね……?
 おっかない武器もってる……。なんだか怖いよ……」
 少し怯えながらも勇気を振り絞る。
 握りしめたチェーンソーを振るい放つ連続攻撃は執拗に女を狙って撃ち込まれていく。
 女から放たれる臭いは独特なものだった。
 血なまぐさいような、無味乾燥なような、とにかく言語化しにくい香りだが――唯一言えることがあるとしたら、鼻にしたくない悪臭であることぐらいだ。
 自らの周囲に纏う魔力を活性化させることで発光するウィリアムは自らにめぐる魔力と周囲に満ちる魔素を共鳴させる。
 形成するは魔法剣。今限定で発光する魔力と感応した剣は鮮やかな光を放つ。
 ウィリアムは少しだけ呼吸を整える。
「……修羅殲刃」
 呟くと同時に走らせるは必殺の斬撃。悠久の時を不得手なソレに費やして成し遂げて見せた彼女の剣を参考にした一閃は、あらぬ方向から女を斬りつけた。
 ガチャリ、ディチェットはグリード・ラプターに銃弾をこめた。
 そのまま後退し、暗視で見える敵の場所めがけて弾丸を放つ。
 その弾丸はまっすぐに女の場所へと連続して撃ち込まれていく。
 強烈な弾丸を見舞われた女が体勢を崩した。
 茄子子は松明片手に女の下へと走り寄っていた。
 そのまま、仲間たちへと号令を発する。
 魔性を帯びた大号令は仲間たちを半ば無理矢理に適切な処置を施させて救いあげる。
 ライはマギ・インスティンクトによる神秘へ適応する本能を活性化させると、そのまま魔力の弾丸を銃へと込めた。
 慈悲を与えるべく込められた魔の弾丸は、真っすぐに女を撃ち抜いた。
「一発撃たれた程度ではくたばらない……
 ええ、ええ、単にイカレたジャンキーが錯乱している……という訳ではなさそうですね」
 やれやれと言わんばかりに敵を見る。その視線に皮肉げな色が見えた。
 ミヅハは敵の背後にいた。引き返せるのか試した結果、内臓をかき回されるような気持ち悪さと共に敵の背後にいつの間にか立っていたのだ。
 意識を集中させ、弓を構える。抜け出せぬのが分かった以上、やることは一つだった。
 立ち位置を調整して味方のいない位置にまで移動したミヅハは、射角を調整しながらじっと敵を見る。
 ほんの一瞬を見て、ミヅハは矢を放った。
 長大な射程を持って放たれる一矢が怪異の動きを縫い留めた。
 高い回避性能だが、仲間たちの連携の最後という事もあり、敵の動きが鈍っていた。

●永遠の行路などなく
 戦いは長引いていた。ブレンダをはじめ、メンバーの傷は多い。
 ブレンダは流石のタフネスさはあるものの、回避能力や防御技術が高いわけではないため、彼女への攻撃は苛烈を極め、その体力は仲間の回復ペースをしばしば超えて傷となっている。
 最前衛で怪異の居場所を照らし続けた茄子子へもその牙は走り、致命的な傷を受けつつある。
 茄子子はブレンダに意識を向け、天使の歌を奏でた。
 神聖なる救いの音色、穏やかでゆったりとした祝福の音が、ブレンダやリュコス、といった前衛で戦い続けた者達の傷を癒していく。
 最前衛で行なうその行動は敵からすればかなりの厄介ではあったが、持ち前の命運の良さが彼女の回避行動を上手く補強している。
 瑠璃は宝石剣を媒介に魔力を増幅させつつあった。
 高められた魔力を魔眼に込め、力を解放する。
 見据えた敵への視線は見えない悪意となって怪異を追い詰めていく。
 ウィリアムは魔力を練り上げていた。
 自然界と共鳴、増幅した魔力はウィリアムの周囲を旋風となって巻き上げる。
 ウィリアムは手を敵にめがけて翳しながら、旋風を収束させていく。
 形成された空気が破壊力へと変質し、女へと叩きつけられる。
 着弾の瞬間、強烈な超振動が女の身体を深く傷つけた。
「それ……怖いからおろして!」
 鉈を握る女の腕目掛け、リュコスは曲刀を振り下ろす。
 自らの血液で出来たその曲刀は女を浅く切り裂き、その腕から血があふれ出る。
 怪異はそれに対してそっと傷口を抑えながらリュコスの方をにらみ据えた。
 ディチェットは立ち位置を工夫していた。
 狭くループ範囲も確定しているこの戦場において、超遠距離から正確に弾丸を射抜くのは困難であった。
「……やっと見つけたわ。ここからなら――」
 構えるグリード・ラプター。欲深き猛禽の爪を彷彿とさせるライフルの引き金を、静かに引いた。
 音もなく、風を切って放たれた弾丸。その着弾を見るよりも前に、ディチェットはもう一発、銃弾を放つ。
 先に放たれた弾丸は、まるで予想だにしないタイミングで怪異を撃ち抜き――それに動きを取られたがら空きの胴部へ、追撃のもう一発が炸裂する。
 ミヅハは引き絞った弦を離す。
 月の女神の加護を持つと伝わる神の弓に、不思議な光が放たれる。
 手に持つ矢に魔力が漲り、微かに月食の輝きを帯びる。
 そこから放たれるは必殺の魔弾。
 風を切り裂き放たれた矢は、月夜に翔ける流星のように美しく、深く、死を予期するかの如く的確に女をえぐる。
 ライは幾度目になるか分からない引き金を引いた。
 『慈悲』より放たれるまっすぐな魔弾は、ライの思う通りに真っすぐに怪異の身体を刻み付ける。
 その魔弾はライの手で緻密なコントロールをされ、真っすぐにミヅハの明けた傷跡目掛けて駆け抜けた。
 パンドラの輝きを漲らせながら、ブレンダは剣を握る手に力を籠める。
「ループだなんだと小難しいことは私にはわからん。
 だが一つ確実なのは貴様を倒せばこの不可思議な現象も終わる!
 ならばその最短ルートを突っ切らせてもらおう!!! ――行くぞ!」
 双剣に宿る炎と風を大いに掻き立て、剣舞を見舞う。
 紅蓮の炎が暴風に煽られてその威力を増やしながら切り刻んでいく。
 無駄のない熟練の剣さばきが女に対応の隙すら与えず傷を増やしていった。
 多くの傷を受けた怪異の身体はボロボロだった。
『アァァアア』
 怪異が悲鳴のようなものを天に向けて叫ぶ。
 嘆きのような、怒りのような、悲しみのような不思議な声だった。
 蓄積する疲労感を振り払うように、イレギュラーズは武器を構え、怪異目掛けて再びの猛攻を試みた。


「斬ればいい、というのは楽でいいな」
 双剣を鞘に戻したブレンダは静かにそう呟いた。
 足元にはたった今斬り降ろされた赤い衣服の女の姿がある。
 ブレンダから視線を外し、元に戻った時、そこには女の姿はなかった。

 月の明かりは進み、景色も少しずつ変わっている。
 ループ現象が終わったのは明らかだった。
「ええっと怪我は……なさそうだね。もう夜も遅いし、家まで送ろうか……」
 戦闘が終わり、少女の様子を確かめたウィリアムはほぅ、と小さく息を吐いた。
 気絶したままの少女にはけがのようなものは見られない。
「そうだね……」
 茄子子は頷くと唸る少女に優しく笑いかけて、その髪をそっと撫でてやる。
「これはただの悪夢だよ。目が覚めれば、きっとこの出来事は忘れてしまう。……だから大丈夫」
 呟いた言葉が少女に聞こえたのかは分からない。けれど、少しだけその表情が穏やかなものに変わったような気がした。
「……『夜妖』ってみんなあんな怖いのばかりなのかな……?」
 迫り来た敵の事を思いだしてリュコスはふるふると頭を振った。
「そうね……何とかなりましたけれど、ずっと閉じ込められていたらと思うと少し恐ろしいわ。
 頭の良い夜妖などがいたらそんな事も出来てしまいそうだもの……」
 起こりうる事件の事を思ってディチェットも頷いた。
「まぁ、新しいのが出てきたらその時だな」
 ミヅハは怪異に襲われていた少女から出来る限り離れた位置でそう会話に入っていく。
「……行けども行けども進めない…引き返す事も出来ず…終わりには死が待つ暗闇の一本道
 ふふ……貧民街でよくあるクソのような人の生にそっくりでしたね……」
 自嘲気味にライが笑う。
 月明かりと街灯の輝きに導かれるように、イレギュラーズは限りを得た夜道を走りだした。
 瑠璃は上位練達式に馬車の動きを任せながら、そんなライの言葉を聞いた。
 見上げれば白っぽい月明かりが自分たちを見守るかのようだった。

成否

成功

MVP

ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)
あいの為に

状態異常

ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)[重傷]
薄明を見る者

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

ステータスシート読みにくいと思ったら……縦読み……と驚かされたので
MVPはあなたに。殺意たかい……

PAGETOPPAGEBOTTOM