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シナリオ詳細

誰ぞ受信せよこの受難~睦月~

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●こだわり
 ピアノを弾く時は手甲を外す。手袋もだ。厚さにしてわずか1mmに満たない布地でも、鍵盤をたたく時の感触が変わる。それは音の響きをくぐもらせ、のびやかでかろやかな本来のピアノの表現力をしおれさせる。だから、ピアノを弾く時は素手、絶対。
 爪切りは使わない。週に一度やすりで整え、保護のためにトップコートを塗っている。ピアノの鍵盤は固い。長時間弾いていると爪が割れることもある。手が痛くて弾けないなんて本末転倒だから、用心しすぎることはない。思えば一人でいる時はだいたいピアノを触っている気がする。楽器と言うものは浮気性の女に似て、すこし間が開けばとたんに音が悪くなる。けれども、かまってやればやるほど、花のように美しく咲く。その蔦にからめとられる瞬間が睦月は好きだ。旋律へ埋没していく感覚。雑念が消え、忘我の境地で己もまた楽器の一部になる。音楽はいい。特にピアノは。英雄のごとく力強き勇気にあふれた音も、かぼそき幽霊のごとき哀れな音色も、願いながら鍵盤を叩けば自在に聞かせてくれる。暦へ迎え入れられてからは、元の付くピアニストになった睦月だが、その腕はさらに洗練されていた。
 最後の音符の余韻が静寂に消えた。
 美に絡めとられていた睦月の精神がゆっくりと浮かび上がり、待っているのは、現実。
「いや見事見事、天晴じゃわい」
 でっぷり太った蛙を思わせる八百万が手を叩く。畳の上に白いグランドピアノを置かせるという趣味の悪さに、睦月は内心辟易しながら笑みを取り繕った。
「楽しんでくれましたか」
「うむ、よき演奏じゃった。わしのお抱え音楽家になってくりゃれ。今の仕事の3倍、いや5倍だそう」
 すぐに金の話を出すあたりお里が知れるというものだ。その八百万の貴族、河津乃守は、睦月に近寄り手を取った。分厚く生ぬるい両手が睦月の手を包み込む。
「本当にすばらしい、すばらしいの一言じゃ。どうじゃ。うなずいてくれればおぬしに屋敷を一つ与えよう。朝に夕にわしをその手で慰めてくれ」
 ……それは囲い者と言うのではないか。
「滑らかで整った美しい手じゃ。忍になどしておくのはもったいない」
「お声がけはありがたいのですが、私には既に主がおります。河津乃守様へはもっといい人が現れますよ」
 睦月は引きつった笑みでそう返したのだが……。


「頭領! 頭領ー!」
 スパァンとふすまが開かれ、黒影 鬼灯 (p3p007949)はわたわたと散らばっていた人形用ドレスをかき集め、自分の背に隠した。
「違うぞ睦月。これは俺のへそくりから出したもので断じて勝手に買い込んだものではない」
『ということにしてほしいのだわ!』
「あああ、その話はあとでじっくり聞きますが、まずは私の頼みを聞いてください!」
「いいぜいいぜ。さすがにお人形鑑賞会も飽きてきたところだ」
 ただならぬ事態を察し、ニコラス・コルゥ・ハイド (p3p007576)は大歓迎だとばかりに両手を広げた。
「睦月クンがそんなに慌てるなんテ、穏やかじゃないネ。話してごらんヨ」
 おじいちゃんことジュルナット・ウィウスト (p3p007518)は飄々とした顔に、若干の疑問を抱いている。
 睦月と言えば鬼灯を頂点とする忍集団、暦の中でも会計を託されているやり手の青年だ。眼鏡の奥に宿るルビーのような瞳が印象的で、両手の形の良さは手甲をしていてもわかるほどだ。
「てかずいぶん早いお帰りじゃん? 今日は暦のみんなはそれぞれの用事で出払ってるって聞いたけど」
 壁の時計をちらりと眺め、錫蘭 ルフナ(p3p004350)が口を挟んだ。部下たちが帰ってくるのは夕方になると鬼灯から聞かされていたからだ。同じ豊穣の地とはいえ、行って帰ってくるだけで一刻はかかる。
 そう、ここは豊穣。静寂の海を越えた先に現れた新天地。鬼灯が「なんだか気に入った」という理由で空き家になっていた屋敷を一つ買いこんだ、暦たちの新しい隠れ家である。拠点が定まれば次になすべきはコネクションづくりだ。睦月はその中でも最難関、この地方で大きな顔をしている河津乃守のご機嫌取りに行ったのだ。穏やかで物腰柔らかな睦月ならばきっとよい関係を築いて帰ってくるだろうと、誰もが期待していたのだが。
「じつはとんでもないことが起こって、取るものもとりあえず逃げ帰ってきた次第です」
「睦月さんがそこまで言うなんて、よっぽどのことですの!」
「いったい何があったので御座いましょう。もしや先方の機嫌を害してしまったとか?」
 睦月を心配するノリア・ソーリア (p3p000062)に続いて、夜乃 幻 (p3p000824)もきもち声をひそめる。
「……恥ずかしながら、そのとおりです」
「おや、あの御仁はそこまで悪辣とは聞いてないが」
 それどこ情報だ、とみんなが思った。といっても、言ってる本人が武器商人 (p3p001107)なので口には出さなかった。
「睦月様、結局のところ今どういう状況なのですか?」
 気遣う眞踏 (p3p008383)が柳眉を寄せる。とたん、ためにためていた恨み節がほとばしる。
「河津乃守の御前でピアノを披露したのですが、あの方、音楽のことなんてさっぱりですよ。何曲か弾くうちにうんざりして途中でにゃんこふんじゃったに編曲してもまったく反応なしで、じったり私の手を見つめてるんです。あげくお抱えにならないかと誘われて、断ったら「ころしてでもうばいとるでおじゃる!」と激高して刺客を放たれました……!」
「刺客だと!?」
「睦月様、失礼とは存じますが、もっと断りようがあったのでは?」
 驚く鬼灯の陰から、幻がそっと問いかける。しかし睦月は叫んだ。
「だって嫌なものは嫌だよ!」
『……やっちゃったのだわ』
「こればっかりはな」
 鬼灯と人形は同時にこめかみを揉んだ。
「はい、すみません、やってしまいました。刺客は邪魔するものはすべて薙ぎ払ってでも私を奪うつもりのようです。やつらはもうすぐそこまで差し迫ってます! 頭領、なにとぞ、私をお助け願えませんでしょうか。そのドレス代は見逃すという事で、ひとつ」
「そういうことなら俺の全精力を傾けよう。安心しろ睦月。べつに嫁殿のドレス代のためではない。同じ暦だからだ」
「頭領……!」
「あの、睦月様、感動してるところ悪いんですけど、刺客の数はわかりますか?」
 眞踏の問いに睦月は答えた。
「百人」
「「ひゃくにん」」

GMコメント

みどりです。リクエストありがとうございました。遅くなってごめんなさい。

さて、タワーディフェンスよろしく向かってくる刺客をちぎっては投げちぎっては投げしましょう。
睦月もいっしょに戦わせることができます。
そのさい、睦月が優先的に狙われますので体力の残量には注意してあげてください。

●エネミー
シカク・ニンジャ いっぱい
イヤーッってするとグワーッて飛んでいくタイプのニンジャ。
命中が高く回避と反応がそこそこ。
毒系や麻痺系のBSを使ってきます。
そこだけ気を付けてあとは無双しましょう。
ニンジャソードによる近接攻撃のみで、人数に任せて隠れ家のあちこちから入り込もうとしてきます。

河津乃守直属 スゴイ・ツヨイ・ニンジャ 4人
皆さんに匹敵する力を持ったニンジャです。
回避がアホみたいに高いです。全体的なステータスのバランスが取れていて、命中と反応、抵抗が高めです。防技は低め。
毒系と麻痺系はもちろん、防無と必殺、さらにバフ(アーリーデイズ相当)を持ち合わせています。
ニンジャソードのほか、クナイシュリケンでのR4万能攻撃も得意とします。
シカク・ニンジャに紛れこんでいますが、もともとは武士だったようで、正面切っての戦いを挑まれると張り切ります。つまり怒り特効。

●戦場
豊穣の隠れ家
枯山水が美しい平屋の日本式家屋
さっそく弥生が魔改造しており、あちこちに抜け道がある ※罠は霜月に怒られてやめた
足元ペナルティは特になし
気軽にドンパチしてください

●友軍
暦・睦月
普段は会計にいそしむも、やる時はやる元商人でピアニストの忍 眞踏の保護者
暦の一角を担うだけあって頼れます。
今回は下記の手段で戦うようです。
・魔力撃相当の斬撃
・ロベリアの花相当の忍術
・超分析相当の忍術
・魔砲相当の忍術 ※一回だけ

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 忍とニンジャは違う生き物です。

  • 誰ぞ受信せよこの受難~睦月~完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年08月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
武器商人(p3p001107)
闇之雲
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
澱の森の仔
ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)
風吹かす狩人
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
眞踏(p3p008383)
書記

リプレイ


「これが屋敷の抜け道を書いた地図だ」
 鬼灯は迷路みたいな書き込みがされた大判の紙を皆の前に広げた。
「なにこれ、モグラの巣?」
「罠のことを土竜と呼ぶこともあるから……まあなんだ、大目に見てやってくれ」
 地図を覗きこんだルフナがさっそく悪態をついた。鬼灯の方は恐縮するばかりだ。
「いヤ、でもよくできてるヨ。迷路みたいに見えるのハ、目的地までの最短距離を計算してあるからだネ」
 ジュルナットは感心したのか、楽し気に地図上で指を滑らせている。
「なるほど、ここをこういけば、こっちに出られるのですね。たしかに、合理的、弥生さんが作られただけあります。……罠はない、ですよね?」
「ない。それは霜月から聞いている」
「ああ、安心しました。移動中に罠にかかったら目も当てられませんもの」
 眞踏は心底ほっとしたのか鬼灯へ笑顔を向けた。鬼灯は睦月へ目をやり、呆れたような声を出した。
「しかし元商人の睦月がまさか盛大にやらかすとは思わなかったな……」
「……誠に申し訳ありません」
「だあいじょうぶ。睦月様は自分がお守り致します」
「眞踏……」
「ふふ、頼りないですか?」
「いいや逆だよ。頼りにしてる」
「はいっ!」
 眞踏は地図にかぶりついて狙撃ポイントを確認した。鬼灯の胸元で章姫が小声で言う。
『一体何があったのかしら……? でも殺してでも奪いとるってなんだか睦月さんお姫様になったみたいなのだわ!』
(うん、嫁殿。それ睦月に言ったらかなり凹むと思うから言っちゃダメだよ)
「……とにかく、睦月さんが、いなくなってしまうと、鬼灯さんが、嫁殿さんに、無駄遣いしすぎてしまいますの……そうならないよう、お力に、なりますの!」
「わかっていただけますか!」
「睦月……俺はそんなにか? 俺はそこまでか?」
 ノリアの言葉に感激する睦月にじったりした影を落とす鬼灯。
「プライドより客観的判断を優先すべきじゃないかな。でもまあ、よく帰ってきたね睦月さん。偉い偉い。大丈夫だよ、僕らのところまで来れたなら、もう大丈夫。誰の物に手ぇ出したのか、ちゃんと教えてきてあげるよ」
 猫のように笑うルフナはぞくりとするほど妖艶だった。河津乃守のところへ行っていたのがルフナでなくてよかったと、睦月は余計な心配をした。ニコラスはさっきからひいふうみいと指を折っている。
「一人あたり13人程度倒せばいいのか。でもそれじゃつまんねぇな。攻撃役の中で、誰が一番的倒せるか競争しようぜ! 強い奴もいるようだが、そいつは普通のニンジャの10人換算でしよ!」
「いいねそれ、のった」
「面白そうで御座います」
 武器商人は得体のしれない笑みを見せ、幻は挑戦的な視線をニコラスへ向けた。睦月の手をちらりと見た武器商人が畳に転がり頬杖を突く。
「うン、楽器を嗜むコの指は細くて綺麗だよね。我(アタシ)のかわいい小鳥の指も、そりゃあ綺麗なものだからよくわかる。確かにさ、我(アタシ)も欲しい物を手に入れるのに手段は選ばないクチだけどさ」
 そのままころんと横向けになると、口の端を釣り上げた。
「だからって刺客100人はちょっと欲望が強火すぎて笑っちゃうよねぇ……ヒヒヒヒヒ!」
「睦月様も大変な変態に目をつけられて……、なんていう不幸な方でしょう。それにしても100人は武器商人様のおっしゃるとおりですね。その裕福さをもうちょっと賢いことに使えないものでしょうか。……おや、ふむ、少し動いてみましょうか」
 幻はしゃなりと立ち上がると、庭に面したふすまを開いた。幻は靴を履くと一呼吸置き、一気に庭の松へ接近した。ステッキが松の幹を鋭く突く。
「グワーッ!」
 光学迷彩で身を隠していたニンジャが吹き飛んでいく。しめやかに爆発四散。それを合図に壁を乗り越え、次々と屋敷へ乗り込んでくるニンジャの群れ。鬼灯たち一同は立ち上がった。
「汚い花火だな。さあ、舞台の幕をあげようか」


「え~とはてさて何だったかナ……」
 屋敷のうえ、狙撃ポイントへ到達したジュルナットは頬をかいた。なんかこういう時言っとかなきゃいけないセリフがあった気がする。
「あゝそうだ思い出した。思い出しタ! ドーモ、シカク=ニンジャサン、ジュルナット・ウィウストでス。これで礼儀はバッチリだネ、ドンパチやっちゃうヨ!」
 きりきりと引き絞るはゲイザー・メテオライト。つがえた矢はプラチナ。日光を反射し、獣の牙のように光る。
「とっておきだヨ!」
 いかなる魔法か。それとも技法か。宙へ放たれた、たった一本の矢が、矢衾となってシカク・ニンジャに襲い掛かる。さながら銀雨が降り注ぐがごとく。
「グワーッ!」
 砕ける庭石、飛び散る木の枝。
「おおー、連爆連爆。派手でいいネ!」
 ジュルナットはすぐさま次の矢をつがえた。体勢を変え、こんどは右寄りにプラチナの雨を降らせる。
「グワーッ!」
「鴨打ちってやつさネ! 忍ばないニンジャなんてただの動く的だヨ!」
「グワーッ!」
「グワーッ!」
「近づかれなければ如何ということはないヨ、ウカツさナ! スリケン代わりに矢を受け取るんだネ!」
 爆撃にも似た範囲攻撃にニンジャたちは思うように屋敷へ近づくことができない。
(はッ、殺気!)
 ジュルナットは反射的に立ち位置を変えた。その頬をかすめ、飛んでいくクナイ。
「本命登場だネ……」
 流れ落ちた血を舐めとり、ジュルナットは矢を取り換えた。

「イヤーッ!」
 せっかくなのでニコラスはそう叫んで奇襲をもくろみた。気配を断っていた彼の存在に木っ端的存在であるシカク・ニンジャが気づけるわけがない。
「グワーッ!」
 屋敷に潜り込もうとしたニンジャはニコラスの逆いらっしゃいませを受けて吹っ飛ぶ。
「かはは!! 数が多すぎんだろ。一人捕まえたいのにこの人数は馬鹿だろ。変態なの? 全員変態なの?」
 ニコラスは絶望と名づけられた大剣で、あたりを薙ぎ払うと逆手に持ち替えた。その刃に炎がともり、みるみるうちに燃え広がっていく。ボッ、どこからか飛んできた木の葉が熱にやられて自然発火し、灰になっていく。じわりと周りを囲むニンジャ相手に、巨大な松明と化した大剣を手にしたニコラスは獰猛な笑みを浮かべた。
「多い、多いわアンタら。ねーわ。一人奪うためにこの人数は引くわ。あれか。テメェらも睦月さんの手にゾッコンの変態ってか?」
「我らはニンジャ、掟に命を賭す者」
「ハッ! んなくだらねぇ命令をありがたがるなんざ、上司が上司なら部下も部下だな! 変態同士、手を取り合って欲情しとけよ。さっさと帰れ。帰る気ねぇなら……」
 ニコラスは大剣を振り上げた。
「テメェらの運の悪さに後悔するんだな!」
 大地へ大剣を叩きつけたとたん、爆発が起こった。
「グワーッ!」
 巻き込まれたニンジャの断末魔があがる。煙が昇り、砕けた庭が大剣のすさまじさを物語っていた。
「おらおらどうしたビビってんじゃねえぞ! 見ての通り俺は独り身だぜ。お相手募集中のド変態様は寄って来いよ! そして俺を賭けに勝たせな、その命を持ってよ!」

 何人ものニンジャがノリアへ向かってじりじりと距離を詰めてくる。
(ニンジャって……こんなにもたくさんで、攻めてくるものですの!? 忍ぶとはなんだったのでしょうか……)
 そして近くの鬼灯へ視線を走らせ、「ん、んー」って顔になった。
「……今さらでしたの……」
「何か言ったか、ノリア殿」
「……言ってもせんないことですの、今は目の前の脅威を片付けるですの!」
『そのとおりね!!』
「嫁殿は俺が守るゆえ、胸元に入っていてほしい」
『うん、鬼灯君の邪魔はしないわ! 応援はするけど!』
 そこへふすまを蹴破り、シカク・ニンジャの群れが現れた。
「ちっ、いつのまに背後に。このままでは睦月のところまでたどり着かれてしまう」
「こういう時こそ……わたしの出番ですの……!」
 ノリアはニンジャを挑発できそうな言葉を一生懸命考え、つるんとしたゼラチン質の尻尾を見せつけた。アクアの儚い瞳をしぱしぱさせ、まつ毛に涙すらためて訴えかける。
「睦月さんを、倒そうと思うなら……その前に、わたしを、お寿司にしてみせると、いいですの!」
 見事。ニンジャはスシに弱い。さらに言うならノリアは上物に位置する。食欲につられたニンジャが次々とノリアの体を切り取らんとニンジャ・ソードを突き立てる。
「グワーッ!」
 ニンジャがもんどりうって倒れた。大海の力に抱かれたノリアの身には攻撃を反射する棘効果がついているのだ。痛い。そう、まるで素足で牡蠣殻を踏んだごとく、ニンジャの体にはざっくりと傷が刻み込まれていた。ニンジャの一人が色の違うソードへ持ち替えたのを素早く認め、ノリアはさらに声を上げる。
「麻痺毒を、使って、いいんですか? ……あとで、食べるときに、味が、落ちてしまうですの!」
 ん? でも最長6ターンで抜けるから、生けじめにして1分待てばよいのでは。思考し動きがにぶったところこそノリアの思うつぼ、渾身の水鉄砲で反撃だ。
「これでも、くらいなさい、ですのー!」
「グワーッ!」
 巻き込まれたニンジャともども、乱射される海流の勢いに押し流される。何人かが柱に叩きつけられ、爆発した。なおもノリアへ狙いをつけるニンジャ。その足元を、鉄球が通り過ぎた。足を払われたニンジャがドミノ倒しに転がる。
「かかったな。忍形劇『如月』」
 部下の名を冠した忍術はすべてを破壊する。鬼灯は如月がいつもそうするように、魔糸の変じた鎖をジャラジャラと鳴り響かせ、ニンジャどもの恐怖をあおった。だが根性だけはお墨付きのニンジャ。後先考えずの特攻をあらゆる角度から同時に鬼灯へ仕掛ける。
「それで注意をそらしたつもりか。残念なオツムだ」
 頭上で鉄球を振り回す鬼灯。奇襲をかけたつもりのニンジャは次々と弾き飛ばされていく。
「グワーッ!」
『あとねあとね! こんなこともあろうかとね! 唐辛子のお粉の瓶を持ってきたのだわ! このお粉をね! 敵さんのお目目にべちってするのだわ!』
「それ誰に教わったの?? ねぇ、嫁殿??」
『弥生さん!!』

 ――「よろしいですか、奥方。貴女様のように可憐な方はいくら頭領や俺らがいるといえど輩に誘拐されるかもしれません。ですのでコレを」。

「弥生いいいいいいいいいいいいい! 嫁殿に何を教えてるんだああああああああああああああ!」

「向こうは順調なようだね。ヒヒヒ」
 鬼灯の絶叫を遠くに聞いた武器商人は、屋敷の反対側でニンジャと対峙していた。無限かと思われたニンジャの攻勢も果てが見えてきた。だがいまだスゴイ・ツヨイ・ニンジャは姿を現さず、時折クナイが飛んでくるだけに過ぎない。そのクナイは的確に急所を狙っており、敵の力量がうかがい知れたが、二種のシールドを重ね掛けしている武器商人にとっては片腹痛いものだった。こがねの輪、しろがねの円、惑星環に守られた武器商人。ただでさえ何者ともつかぬただならぬ雰囲気を発しており、さらに攻撃が利かないとなるとニンジャどもも攻めあぐねている。
「イヤーッ!」
 背後からニンジャが飛びかかった。死角ならあるいはと踏んだのかもしれない。武器商人はそちらを振り向かず、ニンジャ・ソードだけを素手でつかみとった。
「何っ、こやつ……! くっ、抜けぬ!」
 岩へ食いこんだようにぴくりとも動かないニンジャ・ソード。武器商人はあくびをしてやっとニンジャへ顔を向けた。雨露の銀糸の下から、三日月を浮かべた両眼が透けている。ずるりと影が伸び、ニンジャの体にまとわりついた。冷たい手が昇ってくる。くちゃくちゃと音を立てるは自分の足か。ついにニンジャは自ら武器を手放し逃げ出した。
「敵前逃亡とは許せぬ!」
 そのニンジャは血みどろの肉塊となって大地に倒れた。裏切り者を始末したニンジャが士気を高め、武器商人を取り巻く。
「かわいそうにねぇ。数さえ勝れば勝利できる、そんな戦しかしてこなかったんだねぇ。哀れにもほどがあるよ」
 ニンジャどもは一斉に攻撃するが、すべてを金銀の環が受け止め、なかったことにしていく。ガキン、固い音がして、クナイがシールドへ突き刺さった。それを見た武器商人はにたりと三日月を作る。両腕を広げ、さも無防備なふりで朗々と呼び声を上げた。
「さァさァ、頼政の弓矢を以って我(アタシ)を打ち倒す者はいるかぃ? 畏れを知らぬ勇猛な者はこちらへおいで。我こそはと思うものはこちらへおいで。臆病者でないというならば、その名を聞かせてごらん! ヒヒヒ!」
「ええ、ごもっとも。武士ともあろうものが黒づくめに身をやつしてお可哀そうに。武士ならば正々堂々頭巾を脱いで正面から闘うのが筋というものでは御座いませんでしょうか?」
 木の上から声が響いた。幻だ。あちらでひらり、こちらでぶすりと、遊撃に徹していた幻が加勢に来たのだ。曲がりくねった枝の上に堂々と陣取り、シルクハットをはずして蝶の群れを溢れさせる。
 ――ゆらり。
 空気が、大気が揺れた。幻は強い殺気を感じ、次の瞬間跳躍した。幻の立っていた枝が弾けるように折れ、跳ね飛んでいく。
「お待ちしておりました。無粋なお客様」
「……」
 そのニンジャは、黒い頭巾で顔全体を覆っており、ニンジャというよりは黒子を思わせた。怒りのせいだろうか、強いプレッシャーを感じる。
「たった一人の気持ち悪い男のために命をかけるなんて無駄だと思いませんか。それをこの鬼灯様は、わずか8人で一人の部下を守ってくれるのですよ。どっちについた方がいいでしょうね?」
「……掟は守らねばならぬ」
 言うなりそのニンジャは幻へ跳び蹴りを放った。狼のように鋭い蹴り。しかし幻はギリギリのところで身をひねって避けると、カウンター気味に奇術を打ち込む。
「その心意気だけは評価いたしますよ」
 幻は追撃で回し蹴りを入れ、さらに夫への想いを刃へ変えてニンジャを切り刻んだ。愛おしい、愛おしい存在が胸をよぎるたびに、幻は強くなれる。

「ああーもう! 忙しいったらー!」
 ルフナは屋敷中を駆けずり回っていた。そこここで戦闘が起きているのだ。まったく抜け道があってよかった。しかも戦闘は終盤にさしかかっており、スゴイ・ツヨイ・ニンジャが猛威を振るっていた。
「てかなんで100人もいるのさ、ふざけないでよ! ヒマなの? ウケる! そのヒマっぷりこっちに回してよね!」
 半ばキレながらルフナは目の前の壁に似せた扉をどかんと蹴った。驚くニンジャども。どうやらニンジャの群れのど真ん中へ出てしまったようだ。攻撃が雨あられと降るが、ルフナはその華奢な体に似合わない頑丈さでもって受け流した。すぐに瞼を閉じ、治癒の詠唱へ入る。
「いろめきたまえ、ひもろぎの、永久の停滞。澱の森。なまめかしき夜のなよなよしい草葉の嘆き――」
(……ナ)
(……ルフナ)
(帰っておいで)
 二人の兄の幻聴が聞こえる。
(ディンブラ兄さん、ヌワラエリヤ兄さん……)
 ルフナは閉じていた瞼を開いた。
「ウザいんだよねほんと! いちいち念話で話しかけてくんなよ! こっちは忙しいの!」
 あの森をでて、知ってしまったから。このカラフルでポップで、刻一刻と姿を変える残酷で生きるに値する世界を。
「ルフナさん! 回復を!」
「はいはい、今やるよー!」
 眞踏が睦月を連れて転がり込んできた。ジャムったままの銃を抱え、睦月の忍術でしのいでいる。スゴイ・ツヨイ・ニンジャの気配が感じられた。
「睦月様すみません。お守りするつもりが……アイエエエエ……ここにもニンジャナンデ……ドウシテ……」
「眞踏、よくがんばった。すこし落ち着け。お互い背中は預けただろ? 私はここで敵を食い止める。頼むよ」
 睦月の真剣な眼差しを受け、眞踏は自分の頬をビンタした。
「よぉし、後は野となれ山となれ! です!」
 その時、絶対音感がクナイの風を切る音を察知した。
「睦月様危ない!」
 眞踏が睦月の前で体を張る。ざっくりと腹に刺さったクナイ。激痛に眞踏はぐらついたが、ルフナがこれでもかと癒やし倒す。
「毒? 麻痺? 効くとお思いで!?」
 強引にクナイを引き抜き、眞踏は片手を突き上げた。
「自分はまひゅみ……。クソッ、痛い。舌噛んだ! そんな眼で見るなって、ワンモアプリーズ!!! ドーモ、ニンジャ=サン。眞踏です!!!!!」
 やけくそ気味にはなった挑発は、しかしバッチリ効いた。眞踏へニンジャが群がっていく。その中でも黒子にそっくりなニンジャを見つけ出し、眞踏はシールドバッシュをしかけた。同時に一歩下がり、ニンジャの位置をまとめる。
「睦月様、今です!!」
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」
 魔砲のごときすさまじい力の奔流が視界を真っ白に染め上げた。


 どうにかニンジャを退けることが出来た一同。
「これで安泰だな」
 鬼灯がそう言った瞬間、がっしゃん。屋敷が潰れた。
「……かなりドンパチやったしネ」
「……魔改造でスカスカにもなってたしねぇ」
「えーと、修繕費、いやもう建て替え、あっ、目眩が」
「睦月様! 睦月様ー!」
 ともあれ勝利だイレギュラーズ!
「いいです! もう飲まないとやってられません! 宴会しましょう宴会! 未成年はジュースで!」
 睦月の鶴の一声で、飲めや歌えの騒ぎになった。
 帰ってきた暦たちは崩壊した屋敷の前で飲んでる一同を見て何やってんのと固まったらしい。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

リクエストありがとうございましたー!
暦の皆さんはそろってかっこいいので、ついつい描写したくなってしまいます。CVまでついてるのほんと細かくていい。

それでは、またのご利用をお待ちしてます。

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