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シナリオ詳細

<禍ツ星>富くじと呪いの宝船

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●栄の港町
 大きな商船が港に入り切らず、沖にいくつも停泊している。
 ここは栄の港町。
 カムイグラの中でも十指に入る商業都市だ。夏祭りの最中とあって、街も港も一段と賑わっている。

「今年の夏まつりやけど、海の向こうの『ねお・ふろんてぃあ』って国といっしょにやるんやてな」
「今頃なにいうてんねんな。遅いわ。今年はありがたーい「妖避けの祭具」を宝船の巫女さまが特別につこうて、お告げをしてくるはるんやで」
「そうやった。そうやった。祭りにあわせて『富くじ』も売られるんやったな」
「せや、今年のはくじを持ってたら誰でも宝船に乗せてもらえるんや」
「へえ、それはくじ買わんといかんな。今年は家族の分も……あ、あかん。わし、いま金ない。貸しといて」

 かしましくしゃべる栄商人の後ろを、瓦版が飛んで行く。
 役人に牢へ引きたてられていく瓦版屋が手放した一枚だ。役人が回収し損ねた瓦版はこれの他にもあと八枚あった。


 イレギュラーズにとってカムイグラは問題が山積みの国である。
 大海原を超えた先に文化的にも確りとした国家が存在した事、その現在のトップが魔種である事、八百万(精霊種)と鬼人種の確執など等々。
「神ヶ浜で行われる夏祭りを楽しんでくれ、と言いたいところだが、その前にひとつ仕事を頼まれてくれ」
 どこにでも現れるローレットの情報屋、『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)はみたらし団子を平らげると、盆に代金を置いた。
「神ヶ浜から歩いて一日のところに栄という港町がある。実はそこでも夏祭りが行われているんだが、ちょっと物騒なことが書かれた瓦版を拾ってな」
 ふところから四つ折りにした和紙を取りだして、赤敷の上で広げる。
「瓦版の内容を要約すると、宝船……正月や夏祭りなどで特別に出す祝い船に乗った町人が、下船後に行方不明になっているらしい。それと並行して、街では押し込み強盗、火つけ、ボヤ騒ぎやなど、物騒な事件が増えているそうだ。
ちょっと気になってその瓦版を作った男を探したんだが……役人にしょっ引かれて牢屋に入れらていた」
 役人に容疑を聞いても頑として教えてくれなかったらしい。しょっ引いた役人本人にもどうやらわかっていないようだった、とクルールは言った。
「で、独自に調べた」
 クルールは、宝船を下船後に行方不明になっていた男たちを、ある商家に押し込みする寸前に捕まえた。男たちを殴って正気づかせた後、詳しい話を聞き出したという。
「この事件の裏には『肉腫(ガイアキャンサー)』が関わってるような気がする。恐らく、怪しげな祭具を持つ宝船の巫女が『肉腫』だろう。舟夫たちも『肉腫』に操られているとみて間違いない」
 クルールは三度笠を手に立ち上がった。
「道々、巫女とその手下などについては話す。『肉腫』退治に乗る気がある奴はついて来てくれ」

GMコメント

●依頼条件
・『肉腫』宝船の巫女の撃退、または撃破
・『妖避けの祭具』神楽鈴の破壊

●場所
・栄の港町
・宝船
※ 宝船に乗船するための『富くじ』は、クルールが8人分購入してもっています。
※ 宝船に乗船しようとたくさんの人が港で列を作っています。

●敵
・『肉腫』宝船の巫女あかり/1体……人間体の『肉腫(オリジン)』です。
 詳細データはありません。
 『妖避けの祭具』神楽鈴を使って、『お告げ』を聞きに来た人々を
 『肉腫(ベイン )』にして悪事を働かせています。

・『肉腫』舟夫/八体……人間体の『肉腫(ベイン )』です。
 あかりによって操られています。グーパンチで目を覚まします。
・『肉腫』町人/八体……人間体の『肉腫(ベイン )』です。
 イレギュラーズの前に乗船して、巫女からお告げをもらった人々です。
 男が二人、女が二人、老婆が一人、男の子が二人、女の子が一人。
 グーパンチで目を覚まします。
・鳥女/二羽……二羽カモメに小さな女の顔がついた化け物です。
 飛行。
 ※ 宝船が港を離れるまでは出てきません。
 足でひっかくほか、鋭くとがった歯で噛みつきます。
 不快な鳴き声を発します(不吉)。

●その他
 イレギュラーズの後ろに三十人ほど町人が列を作っています。
 イレギュラーズの前にも三人ほどが乗船を待っています。
 港で大きな騒ぎ、とくに宝船の近くで騒ぎが起これば、宝船は碇をあげて港を離れ出します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <禍ツ星>富くじと呪いの宝船完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年08月06日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リア・ライム(p3p000289)
トワイライト・ウォーカー
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
モニカ(p3p008641)
太陽石
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

リプレイ


 早朝。お天道さまが早くも眩い光をまき散らし、ベタ凪ぎの海をギラギラと輝かせている。まさにお祭り日和。特に富くじ売り場と宝船の周りは賑やかだ。
「おお、あれか!」
 白く、巨大な一つ帆の宝船を一目見るなり、『小さき者と共に』カイト・シャルラハ(p3p000684)の船乗り魂が震えた。
(「海洋、いやどの国の船とも全然形が違うな」)
 宝船に仕立てられていたのは、千石船と呼ばれるものだった。船側にひし形の装飾が施され、反り返るように船尾が高い。
 『鬨の声』コラバポス 夏子(p3p000808)は差し出された富札を二本の指で挟み取ると、情報屋をからかった。
「こんな早い順番、よく押さえられたね~。もしかして、黄金色のお菓子でも使ったのかなぁ?」
 夏子とカイトの前に並んでいるのはたったの三人。岸と船との間にかけられた歩み板の前に並んで乗船を待っている。
 今年の富くじはハズレ札でも宝船に乗れるうえ、巫女からタダでお告げが聞けるのだ。少しでも得があるなら並びたくもなる。
(「まさか肉腫にされて悪事の片棒を担がされることになるとは、お天道様でもこ存じあるめェ……って、イレギュラーズにはばれちゃったけどね」)
 情報屋によると、自分たちの前に八人乗って、八人降りている。一度に乗れるのは八人までらしい。
 それを横で聞いていた『トワイライト・ウォーカー』リア・ライム(p3p000289)が、前の三人が邪魔ね、と呟いた。
 前の三人が乗り込めば、イレギュラーズは仲間のうちから三人を岸に残すことになる。それ以前に、肉腫にされる可能性がある者たちを船に乗せるわけにはいかない。
「ところで、先に降りた八人はどうするの。肉腫になっている可能性があるんでしょ?」
 それに関しては俺が対処する、と情報屋は雑踏の中に姿を消した。
「それじゃあ、私たちはこっちを頑張りましょうか」
 了解、というなり『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)はにじみ出る色香とともに、胸元からカネの入ったきんちゃく袋を取り出した。
 作戦開始だ。
「ごめんなさい! ……いくらでも出すので、みなさんの『富札』売ってください!」
 きょとんとする町民たちの前に黄金の雨が降る。
「さあ、拾った拾った!」
 巫女のありがたいお告げよりも、目の前の小銭。うまくすれば富くじを買った金より多く回収できるかもしれない……という心理が働いたようだ。
 町人たちがカネを拾い始める。
 カイトは一足先に宝船へ飛んだ。
 だが、中にはカネに目もくれず、かたくなに列を離れない者たちがいる。先に並んでいた三人もそうだった。
「こっちは高い私費使ってんのよ、言う事聞きなさい!」
 『新たな可能性』笹木 花丸(p3p008689)は後ろから、利香の肩をポンとたたいた。
「先に乗った町人たちが降りてこない……後ろの人たち、お願い」
 乗船が始まった。
 歩み板に足をかけた遊び人の袖を、リアが引いて止める。
「てめぇ、どういう了見だ!」
 花丸は若夫婦を引き受けた。
「私達はイレギュラーズ、皆が言う神使だよ」
「神使……ああ、海の向こうからやって来た異人さん?」
 遊び人も若夫婦も、半信半疑の顔で花丸たちをじろじろと眺める。
 あれれ、と夏子が声をあげて遊び人の肩を抱いた。
「我々知らない? 神使だよ お上からの調査依頼でね?」
 お上と聞いて遊び人が身を固くした。若夫婦も神妙な顔をする。
 そうそうお上の依頼、と花丸が畳みかける。
「皆は知っているかな? 宝船に乗った町人が下船後に行方不明になるお話や、街で物騒な事件が増え続けているって言うお話を。このお話が単なる噂で宝船と関係ないって言うならいいんだ。でも、もし違ったら?」
 『太陽石』モニカ(p3p008641)はすっかり腰が引けた三人を列から離した。
「あ、私も神使――特別調査ってやつね。とにかくこの船に乗るのを控えてほしいな。オ・ネ・ガ・イ☆」
 なんとも蠱惑的な目差や仕草で、妖しく、美しく、町人たちの心を絡めとり、宝船から興味を奪う――。
「わわっ! 今の私、ちょーサキュバスっぽくない? ねぇ、利香ちゃん先輩!」
 キャッキャ、キャッキャとはしゃぐモニカを、町人たちがカネ拾いの手を止めて見つめる。
 『優愛の吸血種』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)が、凛とした声をあげた。
「皆さん聞いてください! 私の名は、ユーリエ・シュトラール。この栄の港町に忍び寄る悪事を解決するため、都より参った神使です」
 いまいち反応が鈍い。
 またまた夏子がアシストに入る。
「彼女のこと、知らないの? 今をトキメク神使だぜぇ~?」
 光焔 桜も友人を持ち上げにかかる。
「栄の皆様、光焔 桜と申します。此方のユーリエ様は、豊穣をより良い未来へと導く為に活動なさっている方でございます。私が窮地に陥った時に駆け付けていただいた英雄です。ここは私に免じて耳を傾けては頂けないでしょうか」
「ありがとうございます、夏子さん、桜さん」
 ユーリエは瓦版の写しを高く掲げた。
「皆さんの楽しみである富くじを利用し、この宝船が悪事を働こうとしています。ここにいる宝船は本来の宝船ではないのです! あなた達の富くじを。そして伝統のお祭りを取り返すために。ここは私たちに任せて乗船を控えて頂けないでしょうか」
 もちろん、と桜が舞う。
「お詫びに私が此処で芸を披露し、皆さんを楽しませましょう」
 たおやかに揺れる髪と踊る指先、奏でる歌声。イレギュラーズの周りにいる全員が彼女の歌と音に静かに聞き入る。
 宝船の上にいる舟夫とすでに肉腫と化した町人を除いて。
 宝船の後ろに止めた小型船の操縦席から、『蒼海の語部』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)が怒鳴った。
「宝船が動き出したでござる。早く乗って、早く!」
「え……待ちなさいよ。待てって、こら!」
 利香たちが慌てて歩み板を駆け上がっていく。
 咲耶は船を古賀 朝霧に船を任せると、岸へ飛び移った。
 岸を離れる宝船見て一部の町民たちが騒ぎ始めたのだ。
 咲耶は両腕を大きく広げて、押し寄せる町人たちを止めにかかった。
「みなのもの待たれよ。もう遅い。いまさら追ったところで手遅れでござるぞ。ああ、待て、待って……無論、詫びは致す!」
 ユーリエも声を張った。
「私たちを信じてください。あの宝船は……いえ、あれは宝船ではありません。みなさんに幸をもたらすどころか、栄に凶事を広めていたのです。みなさんに何も告げず港を離れていく、それこそが証拠!」
 ショックが作り出した沈黙に、桜の指よりほのかに弾き出された琴の音が流れ込む。
 一人、また一人と、琴の調べに引き寄せられていった。
 ほっとしもつかの間のこと、朝霧が船の窓から手を振って咲耶とユーリエを呼ぶ。
「乗ってください! 急いで宝船を追いかけますよ」


 カイトは透視能力を使って、空から宝船の巫女を探していた。
「……見つけたぞ巫女。それにアンタが盗んだ金も」
 仲間たちが乗り込む前に、宝船が岸から離れだしたときはギョッとした。だが、すぐに気づいた仲間たちが舟夫たちを押しのけて宝船に乗り込むと、カイトも巫女の居場所を手土産に戦列へ加わった。
 歩み板を渡った先は、人の背丈分だけ低い荷置き場になっていた。船全体を三分割してちょうど真ん中、帆柱より前がへこんでいる。
 カイトは帆柱の下にある扉を槍の先で示した。
「あかりはあの中だ!」
 すると目つきの怪しい町人たちが集まって、扉を隠した。夫婦らしき男女が二組、年寄りと子供までいる。
「あんな小さな子供まで……くそ、やりにくいぜ」
 褌姿の男が殴り掛かってきた。
 カイトは三叉蒼槍を回して石突を前にすると、舟夫のみぞおちを突いて気絶させた。
 一段高い船首甲板にいた舟夫が、飛び落ちて来た。肉腫化した町人たちも一斉に襲い掛かってくる。
 混乱の中、リアは肉腫たちに強い声をぶつけて叱咤する。
「目を覚ましなさい! あかりとやらになにを言われたのか覚えていないんじゃないの?
 あなたたち、騙されて操られているのよ」
 たじろいだところへ、夏子が派手な音と光を炸裂させて肉腫たちをよろめかせた。
 吃驚としている肉腫たちに向かってノリノリで見得を切る。
「さぁお立ち会い! 我等神使が大立ち回り!」
 カイトは船尾の上甲板に飛び上がった。
「少々乱暴だが我慢してくれ」
 帆を繰る舟夫たちを気絶させては次々と、荷置き場へ落とす。
 利香とモニカも動いた。夏子のおちゃめな演出で尻をついた町人たちへ、次々とグーパンチをお見舞いしていく。
「この世界の美味い話って裏があるんですよ。こんな風にね!」
 目が覚めた町人たちは、伝馬込(てんまこみ)と呼ばれる荷渡し口へ送った。
「できれば自分の足で歩いてくれると助かるわ。あら、そういえば……」
 味方の船は来ているのかしら、と利香がモニカに確認する。
「えっと……リアさーん、咲耶さんたちは?」
 ここに、と答えたのは咲耶本人だった。
「ユーリエ殿も一緒でござるよ。お待たせしたでござるか?」
「いいえ、グッドタイミングよ。さっそく悪いんだけど、お婆さんを船に移すから手伝ってくれない?」
「お安い御用でござるよ、リア殿」
 咲耶は上から朝霧に声を落とすと、リアと一緒に老婆を小型船へ移した。
 花丸は投げ落とされた大きな碇にカウンターの拳を叩き込んで、海へ弾き落とした。舷側の一部が壊れ、水柱が立つ。しょっぱい水しぶきを全身に浴びた花丸は、脇の小さな階段から船首上甲板に上がった。
「花丸ちゃんが相手だ。かかってこい!」
 舟夫の腹へ拳をめり込ませる。
「ゴメン、ホントーにゴメンねっ!」
 しっかり手加減はしているが、一般人相手ではやはり気が咎める。
 モニカは、正気に戻ったとたん火がついたように泣き出した子供たちに『魔法のボトルシップ』を見せた。
「は~い、泣かないで。これを見て」
 初めて目にする帆船にたちまち魅了されて、子供たちが泣き止む。
「いまからこれを大きくするよ。ねえ、乗りたくない?」
 子供たちがうなずくと、モニカはボトルを海へ投げ込んだ。
 船縁から身を乗り出して、朝霧にボトルシップのえい航を頼む。
「朝霧さーん、ヨロシクね♪」
 ユーリエは、伝馬込のあたりでウロウロしていた子の親たちに声をかけた。
「落ち着いて、子供たちと一緒に私の後ろへ退避してください! 私たちはあなた方を助けにきた神使いです。いまから私たちの船に移って――」
 けたたましくも不快な鳴き声が、波の音を割って船上に響く。
 帆の裏から二羽の怪鳥が飛んできた。鋭い足の爪がユーリエの頭をかすめて過ぎる。
 正気づいたばかりの舟夫頭が、鳥女を見て悲鳴をあげる。
「ひいいっ」
 夏子は強く手を打ち鳴らした。
「はい怖がらない。大丈夫、僕たち神使が助けてあげるからね~」
 舟夫頭は普段の落着きを取り戻した。さすが海の男。勇ましくも日に焼けた腕を振って、襲い掛かってきた怪鳥の足を払った。
「どこから飛んできやがった。おなごの顔をつけた鳥の化け物め!」
 威勢がいいのは結構だが、この調子で船に居残られると困る。
 夏子は金柑頭の舟夫頭をピシッと指さした。
「勇敢な男、そうそこの貴方は我々を盾に! 子供女性を守りつつ、下の船に連れてったげてねー!」
「左様。ここは危険でござる。お主達は早く隣の船へ移られよ!」
「そうだよ、逃げて。あとは花丸ちゃんたちが引き受けた」
 カイトが空中で二羽を追いかけ、イレギュラーズが待ち構える荷受け場へ追い込んでいく。
 ユーリエは舟夫頭の腕の傷を癒すと、急いで小型船へ送った。
「全員、咲耶さんとモニカさんの船に移りました。あとは二羽の鳥女と、その中に立てこもっている巫女だけです」
 朝霧たちは一足先に港へ戻っていったようだ。
 万が一、肉腫たちとの戦闘の結果で宝船が沈むことになっても、まだカイトの『紅鷹丸』がある。
「……とはいうものの、できればこの船は壊したくないな」
 個人的興味もさることながら、たとえそれが敵の船であっても、一己の船乗りとして無残に沈むところは見たくなかった。
 咲耶が鴉羽を投げて鳥女を打ち落とす。
 残り一羽をカイトが赤い翼で起こした爆風に巻き込んで墜落させた。
「鳥は串がおいしいよね~」といいつつ、夏子が神の槍でとどめをさすと、神経を逆なでする不吉な鳴き声が途絶え、波の音が船上を支配した。
 イレギュラーズの目が一枚の扉に集中する。
「そんじゃ一等賞、肉種の首、頂いちゃいましょうか!」
 わくわくしながら利香が宣言する。

 ――面白いことをいうの。

 ゆるりと開かれていく扉の奥で、ちりん、ちりんと音がした。涼しげな音色、しかし邪悪な響きがるある。
「私の首を取る、とな?」
 照り返しが金色のフィルタをかける景色の中に、白い人影がぬうっと現れ出た。
「アンタがあかりか。こちらから押し掛ける手間が省けたぜ、ありがとうよ」
 肉腫の巫女は、カイトの皮肉を鈴が転がるような笑い声で受ける。
 若く整った面立ち。一重まぶたの穏やかな目には悲しみが湛えられ、およそ情というものを映さぬ平たい眉には憂いの匂いが満ちている。艶の良い頬ながら細面で肌は透き通っているものの、得体のしれない気配があった。
 巫女にエネミースキャンを試みたリアが、いまの自分の力では太刀打ちできないと悟って後ろにさがった。
「気をつけて。この女、体に見合わず頑丈よ」
「ほかには?」
「そうね……」
 やり取りの間、あかりは眉一つ動かさなかった。どうぞお好きな調べなさい、といった感じで自然にしている。
「正体は蛇……海蛇かしら?」
 ほほほ、と巫女は笑った。
「正解じゃ。して、おまえたち。なにゆえ私の救済を邪魔立てする?」
「キュウサイ? おいしそうな響きだけど食べ物じゃないよね。さて、なんだろな~、なんだろな?」
 夏子は茶化したが、徐々に高まっていく肉腫の威圧を受けて、笑ってみせる余裕がない。
 それでも滑らかな動きで、神の栄光をまとう槍の穂先をあかりに向けた。
「人々の迷いを断ち切り、欲望を解き放ってやることじゃ」
「へぇ、まるで魔種みたいなことをいうのね」
「ほほほ、魔種がいかなるものか知らぬ。我ら肉腫は己に忠実なだけじゃ。それゆえ、何かとしがらみに縛られておる人を哀れに思い、助けたいと思うての。それがそんなにいけないことなのかえ?」
 咲耶は表情を硬くして、すり足であかりとの間合いを詰めていく。
「少々悪ふざけが過ぎるぞでござるな、宝船の巫女とやら」
 怒りとともに放たれた黒羽が、蒼い影を落として飛ぶ。音は後からついてきた。
 あかりは神楽鈴の柄で受け止めようとしたが、矢は柄に刺さらず、横を抜けて巫女の白衣に突き刺さり、苦痛に満ちた悲鳴を生んだ。
「よし、ガンガン攻めるぞ!」
 カイトは翼を振るった。黒に続けとばかりに無数の赤羽がうなりをあげて飛ぶ。
 シャリン、と鈴が鳴って明かりの姿がかすみ、消えた。あとに赤羽が木の板壁に突き刺さった小気味よい音の余韻だけが残る。
「リア、あかりはどこへ行った?」
「うしろっ」
 うなじに息がかかるのを感じ、くちばしを回す。とたん、カイトは衝撃を受けて吹き飛ばされた。 とっさにあかりが持つ神楽鈴に腕を伸ばす。
 手で掴み損ね、意地で指の先を柄にひっかけた。
 神具を落とすまいと、あかりの意識が神楽鈴に集中する。
「チャンス! 夢魔の舞、見せてあげる」
 足を滑らせるようにして一気に間を詰めた利香が、ムチ状に刃を伸ばした魔剣を振るい乱舞する。
 切る、というよりは叩く感じで巫女の体を打ちすえた。切れた白衣が赤く地に染まりながら散り散りになって板に落ちる。
 首から下、白い肌を覆うつややかな鱗が現れた。
 あかりは目を赤く燃え立たせ、細く開けた唇の隙間からシューと威嚇の音を吐いた。
「来るわよ、防御して」
 リアの警告があったにもかかわらず、次の瞬間にはイレギュラーズ全員が横に吹っ飛ばされていた。船縁に当って返され、板の上に倒れる。
 次こそ海へ落してやろう、とあかりが再び長く伸ばした体をくねらせる。
 あかりは仮の姿を脱いで、本来の姿を見せていた。荷受け場の真ん中でとぐろを巻いている。でかい。そして長い。白頭の回りを複数のしゃれこうべが取り囲んでおり、青白い火の玉が飾りのように飛んでいる。
 神楽鈴はどこに、と探してみれば、米のとぎ汁のような液を滴らせる鋭い牙で噛んでいた。
「牙に毒」、とリア。
「毒が何だ! 花そんなもん怖くないぞ、花丸ちゃんたちをなめんなよ」
 花丸は勢いよく跳ね起きた。他の者もさっと起きて身構える。
「今日を楽しみにしてた人達は確かに居たんだ。その落とし前だけは確りとつけさせてもらうから、覚悟して?」
 花丸は鎌首をもたげるあかりに駆け寄ると、硬くて傷だらけの拳で乱れ打ちした。
 息を乱しながらも振るう腕は片時も休めない。
 あかりの牙からしたたり落ちる毒が花丸の体を濡らした。
 ユーリエは己の影を動かして、朱色の血清結界を張った。
「え?」
 リンリンとなる鈴の音が聞こえて、くらりと体が傾いた。船の揺れではない。波は穏やかだ。戦いの前まで風を受けて大きくはらんでいた帆もしぼんでいる。
「これは、呪具による支援の類でしょうか……しっかり確認して皆さんに伝えなければ!」
 みわたすと、全員が耳に手をあてて体を低くしていた。酷く酔ったように、体をふらつかせている。三半規管を狂わせる類いのものらしい。
 ユーリエは自分に自分で喝を入れると、血清結界を強化した。
「みなさん、頑張ってください。どんな傷を受けても、わたしが癒してあげます!」
「楽になったよ。さすが美少女だね。僕とつきあわない?」
「夏子さん、ふざけていると怒りますよ」
 叱られてしゅんとしたのもつかの間の事、夏子はすぐ立ち直った。あはは、と笑って右腕を振り上げ、真顔で叫ぶ。
「コラバポス 夏子。いきまーす!」
 光。
 轟音が大気を震わせて、鈴音を破壊した。
「黴菌バーリアってね!」
 たん、たん、たん、と長い脚を動かして花丸に並ぶや、大きく円を描いて振り下ろされる白頭を、力いっぱいシリウスの盾でぶっ叩く。
「元を絶ちゃ解決……すんだろぉがッ!」
 しゃれこうべのいくつかが割れて砕け、甲板に散らばった。あかりが口を開いて、痛みに吼える。
 落ちる神楽鈴が落ちて、シャリンと音をたてた。
 すかさずモニカが見えない糸を飛ばして、あかりの体を縛り上げる。
「拾い食いは駄目だよ☆」
 カイトが赤羽を飛ばし、落ちた神楽鈴を真っ二つに断った。
「よし、やった……って、あかりはどこだ?」
 まるで神隠しにでもあったように、巨大な海蛇の肉腫は消えていた。

 ――縁があればまた会おうぞ。

 静かな鈴のごときつぶやきを残し、今度こそあかりは海に消えた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

カイト・シャルラハ(p3p000684)[重傷]
風読禽
笹木 花丸(p3p008689)[重傷]
堅牢彩華

あとがき

あかりには逃げられましたが、正体を見破ったうえ、神楽鈴の破壊に成功しました。
しばらくは大人しくしていることでしょう。
しかし、いずれは倒さねばならぬ相手です。

ご参加ありがとうございました。

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