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シナリオ詳細

<禍ツ星>夕立に刃を研ぐ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●剛髭殿
 刀の焼き入れは、力の入る工程だ。
 刃を水槽に沈めると、もうもうと白煙が上がる。
 この水槽を、フネと呼ぶのだ。
(大海原の先、か)
 このカムイグラにも、――大海を踏破せしものたちが訪れ、新しい世界が開けた。

 ハンマーを振り下ろす音が、小気味よく鍛冶屋に響いている。
「おおーい、せいが出るなあ、ゴーシュ殿!」
 かの地で剛髭(ごうし)となり、どれほどの月日が経っただろうか。
 バグ召喚によってこの国に飛ばされたゴーシュ・ラウンドランドは、すっかり鍛冶屋としてカムイグラの一員であった。
 なにかと他人の世話を焼く性質相まって、ここの住民とは良い関係を築いている。
 近所の男が、差し入れの握り飯を持ってきたのだった。
「いやー、いつも助かってるよ。ゴーシュ殿の扱う農具ったら、ほんとに良い品だもんなあ。たぶん、一番すごいのは武器なんだろうけどなぁ。立派ではあると思うんだが、俺には善し悪しがわからねぇや」
 男はしみじみと壁にかかった武器を見る。
「さてさて、注文は鍋だったかのう? 用意しておるよ」
「ああ。ゴーシュ殿。ありがとなあ、一生ものだものな! うちの姪がな、ついに嫁入りさあ」
「おおっ、そうか。幼子の成長はあっという間じゃのう……」
 ゴーシュは、知り合いの幼子の姿を浮かべる。
「でっかいお祭りがあるだろ? 夏祭りってやつ。せっかくだから、あれに合わせて盛大に祝ってやろうと思ってるんだってよぉ」
「それは、嬢ちゃんも喜んでることじゃろうの」
「あー……」
 男はあいまいな返事をする。
「それが、ずっとふさぎ込んじまってさあ。なんだろうな? 互いに好いた者どうしでさあ、ようやっと、のはずなんだがなあ……はねっかえりでも、親元を離れるのは寂しいのかねぇ」
「ううむ……」
「たぶん一時的なものだと思うけどな。きっと大丈夫だと思うんだ。とにかく、剛髭殿も来てくれると、姪っ子も喜ぶよ」

●異変
「はっ!」
 ゴーシュは、自らの打ち出した刀で妖怪を両断する。
(まだまだ、腕は鈍っておらんようじゃ)
 ゴーシュは作り手でもあり、武人でもあった。
 カムイグラに飛ばされてなお、鉄帝人としての気質が根付いている。
 しかし、気にかかることがある。
 ここのところの魑魅魍魎らはどこか異質だ。まるでねじ曲げられたかのように、正常な動植物がいきなり狂う。
 『此岸ノ辺』への空気が、重い。
 バグ召喚された同じ境遇の者を気にかけ、足繁く通うゴーシュであるからこそ分かる。
 近く、何かが起こるのではないか。
(祝いの場には、ふさわしくはないかもしれんが……やむをえんのう)
 ゴーシュは、式に武器を持っていくことに決める。

●夏祭り
「いえーい、美味しいもの食べようぜ!」
『お騒がせ』キータ・ペテルソン(p3n000049)はどうやら祭り目当てでカムイグラにやってきたようだ。
「とっておきの情報を発表するぜ。あっちはかき氷! こっちはフランクフルトでこれが焼きそばなんだぜ。あっちのリンゴ飴はすっかすかで……いやー、なんか今日は結婚式! らしくて、このへんみんなすごく気前が良いんだぜ! 食べる順番、考えておいてな!」
 役には立たないようではある。
「あ、で、結婚式だからって、ずーっと倉にしまわれてた祭具が使われるんだって! ずっと前にお上から賜ったものらしいぜ! いいなー」
 舞台の主役。
 白無垢の花嫁は、すっきりした顔をしている。
 その手には、懐刀。
 見間違いだろうか。嫌な笑みを浮かべたような気がする。
 花嫁が不意に立ち上がり、刀を抜いた。
「! いかん!」
 とっさに賓客であったゴーシュが立ち上がり、攻撃を防いだ。
「えっ、この国の? そういう出し物!?」
「早く逃げるのじゃ!」
 もう一人の主役は、といえば。
 大丈夫だよ、というように、花嫁にそっと手を重ねた。

GMコメント

初めての夫婦の共同作業です。やったね!
たいへんなことになりそうなのでなんとかしてあげてください。

●目標
・死人を出さずに場を納める

●状況
 花嫁の持っている守り刀が、どうやら原因の呪具であるようです。
 場には結婚を祝うために集まった村人たちや客がいます。
 鍛冶屋としていち早くそれに気がついたゴーシュは、それを破壊しようとしています。

・簡単な立食パーティー形式で、一番奥に主賓、それぞれのテーブルに来賓が、という形になっています。

●祝ってやる
 どこからか紛れ込んだ守り刀が原因のようです。
 呪具を手にしたものは手にした者を中心に狂気に駆られ、殺人に抵抗がなくなるようです。
 現在影響下にあるのは花嫁、花婿の二人と、狂気にあてられた出席者の親族四人。
 どうやらそれが「祝福である」「自分たちなりの、恩返しである」と思い込んでしまっているようです。
 この呪具の効果は、イレギュラーズやゴーシュには影響がありません。また、ゴーシュが睨んだとおり、破壊で影響が解除されます。
 至近距離のモブはちょっと危ないかもしれません。

・花嫁…短剣を所持している。
・花婿…警備の者から弓を奪ったようだ。弓を所持しはじめた。
・親族ら…それぞれその場にあった食事用のナイフやフォークなどを手にしている。

●登場
ゴーシュ・ラウンドランド
 元鉄帝人。戦えます。
 指示がなければ避難誘導と防戦に回ります。

●その他
 なにもしなければ、被害を出さなかった場合でも、おそらくこの結婚式はご破算になるでしょう。
 素朴な青年と、普通の村娘同士の望んだ結婚でした。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
 意地悪なひっかけはありませんが、割と状況が流動的です。

  • <禍ツ星>夕立に刃を研ぐ完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月05日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
希うアザラシ
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀焔の乙女
ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
ユン(p3p008676)
四季遊み
鏖ヶ塚 孤屠(p3p008743)
日々吐血

リプレイ

●コンマ1秒
 花嫁が凶刃を振るおうとした、その刹那。
『エージェント・バーテンダー』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)はこの場の誰よりも速く、とっさの動きに追従していた。
 テーブルを足場に、高く飛び上がり、稼いだ高度で距離を詰める。
 先の机に足の踏み場がないとみるや、モカは体をひねり空を蹴った。
 正確無比。
 これ以上はないというスピードで花嫁へと至り、腕を蹴り上げて刃物の軌道をそらす。両親を狙った凶刃は、空を切った。
「まったく……めでたい結婚の宴に水を差さざるを得ないが、人的被害を出さないためには仕方がない」
 流星流格闘術・基本ノ型。
 護身術として編み出した技は、攻撃をそらすのにはこの上なく有効だ。

 参列者たちは何が起こったのかまるでわからず、あたりはざわついている。
 それに混じって、狂気に当てられたものが数名。彼らはめいめいにカトラリーを手に取っていた。
「ゴーシュさん! みんなをお願い!」
『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は、すかさず傍らの武器をとった。花婿の引き絞る矢にもひるまない。
(晴れ舞台を自らの手で台無しにする事になるなんて、不憫でしかないわ。何としてでも、最小限の被害に留めてこの場を収めるわよ!)
 判断をディアノイマンへと委ね、助けることだけを胸に、先陣を切る。
 ロサ・サフィリスは鞘に収めたまま。フィルマメントデコルテをひるがえし。それは、まるで演出の一つであるかのようで、こんな状況であってもなお、人目を惹いて、あちらこちらからため息が漏れる。
「どうして邪魔をするの!? 私は。みんなに、ありがとうって言いたいだけ!」
「だめだよ! そんなの間違ってる!」
『猫さんと宝探し』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)が翼を広げた。
 名乗りを上げるアクセルに一斉に注目が集まった。重力を振り切って、自由自在に空へと飛び立つ。蒼渡りの色が、夕暮れの空と重なる。
「今しようとしていることは本当にいいことなのか考えてみてよ!」
 強いられた狂気を呼び戻すのは、おそらくはそう簡単なものではない。けれど、それでも通じるものがあると信じたかった。
 狂気にあてられ、参列客が振り上げるフォークを『四季遊み』ユン(p3p008676)が蹴り落とす。
 ユンをにらみつける女は、ユンの微笑みに呆となった。
 慈しむようなものだった。
『斬鬼』は抜かれることはない。あっという間に、柳風崩しで女の視界がひっくり返る。はっとして正気に返ると、今、攻撃しようとした相手は……ユンは、憎しみを向けるでもなく、ただそこにある。
「あぶないからね。……離れておいで」
 あちこちで乱闘が起こりかけている。
 戦闘の衝撃で机の上から落下する皿は、砕け散ることはなく受け止められた。
 この場は、『満月の緋狐』ヴォルペ(p3p007135)の、保護結界に包まれていた。
「いったいどうしちまったっていうんだ!」
「これは、呪具の仕業だね」
 正確に言えば、まだ断定できる状況ではないかもしれない。けれど、道筋だった”説明”は、今、すぐに必要なものだった。
 一瞬にして顔見知りが狂気に陥り、武器を振り回しているこの場では。
「おにーさんたちは、ローレットのお仕事で来たんだ。何者かがすり替えた呪具の破壊のために」
「な、なんだって!?」
 参列者たちは、イレギュラーズたちがこの事態に備えていたからこそ、素早く対処できたのだと思ったことだろう。
 否。偶然だ。
 嫌な予感はあったかもしれない。だが、何が起こるかなど予想もつかない。
 一瞬にして、針の穴に糸を通すような連携を見せたのだ。
「呪具が破壊出来ればみんな正気に戻るはずだ。だから、おにーさんたちに任せて」
 断言は、希望のための布石である。
 逃げる客を背後にかばい、ヴォルペは堂々と戦場を往く。
「さあ、おにーさんと遊ぼうか!」
「よしっ! 大丈夫!」
 戦線を維持していたアクセルが後ろへ下がり、背中を預けた。
 拍撃。
 音はない。
 ただ、結果だけがそこに。
 何かをそぎ取られたように、花嫁の体はぐらりと傾ぐ。
『群鱗』只野・黒子(p3p008597)の一撃だった。
 そこはちょうど、逃げ惑う客の射線上。
 黒子が必要な場所にいたのは、幸運ではない。
 敵味方入り交じる戦場で、状況を冷静に見据えていたからだ。
 この混乱の中、この流れを見極めるのは至難の業だったろう。
 黒子の誘導に従って、招待客が避難していく。
 遠回りであろうとも安全な道筋を。その間の時間は、自分と仲間たちが稼ぐ。
 黒子はジェットパックを用いて、上へと飛んだ。
 花嫁の刃が、きらりと光る。
(やはりあの刀が、正気を失わせているようなのですね)
「イレギュラーズがここにいるっきゅ! 花嫁さんの持ってる祭具はすり替えられた偽物っきゅー!」
『三人だけど一人!』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)が叫ぶ。
 戦場に立つのはやはり怖いけれど、でも、こうすれば誰かを救える。
 グリュックが、そうだと言ってくれている気がする。
 レーゲンを奮い立たせていたのは、胸の内の暖かい思い出だった。
(レーさん、グリュックが子供の時に結婚式ごっこしたことあるっきゅ。
ごっこで、この式みたいな参列者は一人もいないけど……)
 切り株の上に座るレーゲンの手を取るグリュック。
 咲き誇る花々。
 当人のほか、誰にも知られないものだったけれど、それは、きっと、この式で得られたはずの光景に近いもの。
 泣きたくなるほどに幸せな光景。
(これからずっと一緒にいられると思うと、ごっこでもすっごい幸せになったっきゅ。
だから……だから!)
 レーゲンは降り注ぐ攻撃にも耐え、果敢に己を奮い立たせる。
「新郎新婦にとって一世一代の大イベントであるこの結婚式を、絶対にご破算なんかにさせないっきゅ!」
「おい、どうして止めるんだ! 祝ってやろうとは思わねぇのか!」
 狂気に囚われた客が叫ぶ。
「ちょっとすみませんが大人しくしてて下さい!」
「へぶう!」
『鏖ヶ塚流槍術』鏖ヶ塚 孤屠(p3p008743)の一撃が、男に拳をのめり込ませた。
 顔では跡が残ってしまってちょっと気が引けるところではある。というわけで、狙いは腹にした。
 重い打撃が、一撃にして意識を刈り取った。
(大丈夫でしょう、多分!)
 しょっちゅう血を吐く日々と比べたらおつりが来るくらいだ。
 事実、武術をたしなむ孤屠の狙いすました一撃は必要最小限のダメージで相手をのした。
 ベストな判断といえるだろう。
「くっ……」
 敵味方入り混じる戦場に、弓を構えた正気の警備員が、どうするべきか迷っていた。援護か、避難客の誘導か、それとも……。
「正気の人は今すぐ花嫁から離れて、黒子さんに従って避難するっきゅ! 警備員の人は、正気の人の避難を手伝ってほしいっきゅ! 狂暴化した新郎新婦と出席者達は、レーさん達が全力で命を救うから任せてっきゅ!」
 だから、手出しはしないでほしい。
 誰にも傷ついてほしくはない。
「きゅう……! お願いっきゅ!」
 レーゲンの意図をくみ取って、正気の警備員は向ける武器を下ろした。

●感謝を捧ぐ
「どいて、どいてよ!」
「断る」
 モカは、花嫁の凶刃を的確に逸らした。
 モカの動きは、正確だった。そして、素早い動きは、回数を重ねても一向に陰る気配はない。同じリズムだ。
「せっかくここまで育ててもらったのに、このままじゃ……ありがとうっていえない!」
「そんな感謝、させないっきゅ!」
「なんだとぉ!」
 取り巻きたちが立ちふさがる。レーゲンは、下がってためた。タイヤ森アザラシパワーでの、加速。
 ヴィントグロッケが音なく祈りを奏でる。
 グリュックが、レーゲンを放り投げた。
「わあっ!」
 狂気に当てられた男の顔面に、すかさずもふっとした感触が広がる。
(もふっと森アザラシ! 略してM・MAっきゅ!)
 渾身の、もふもふすりすりきゅうきゅうである。
「きゅうきゅう!」
「きゅうきゅう」
「きゅ、きゅう……」
 至極平和的に、ばったりと倒れた男。ふう、と、一仕事終えてレーゲンがどいてみれば、幸せそうな顔をしている。
 ……どちらかといえば猫派だった男が、後日、すっかりアザラシ派になってしまったのは別の話だったりする。
「どうして! どうして!邪魔をするの!」
「気がついてよ! ……それは、恩返しなんかじゃない!」
 アクセルは引かない。
 守りを固めながら、ひらりと身をかわし。
 神気閃光が、激しくまたたいた。
「おかしいでしょ! こんな素敵な催しなのに、みんながケガをするなんて、悲しいよ! だから……!」
 最初こそ、その声は狂気に阻まれて届かなかったかもしれない。
 けれど、諦めないアクセルの姿に。まっすぐに立つアクセルの姿に、人々は勇気づけられていた。
 呪具の近く、ぼんやりとした表情を浮かべた参列客がはっと気が付いたように距離をとる。
 恐怖し、混乱していた招待客たちは、イレギュラーズたちによって統制を取り戻しつつあった。
 けが人をかばって運ぶゴーシュは、勇ましく立ち向かう若者の姿を見る。
「いったいこれはなんなんだ!?」
「仕方ねえ、全部あの呪具とやらが悪いんだ!」
(頼んだぞ、アクセル殿……! どうにか耐えてくれ!)

 アルテミアが、矢をつがえる花婿の元へと迫る。虚式『風雅』を忍ばせ、隙を誘う呼び水として。本命のロサ・サフィリス。
 焔纏・破刀。
 青き炎を剣に纏わせ、花婿を一息になぎ払った。
 狙い澄ました一撃が、矢を両断する。
「うわっ」
 アルテミアの太刀筋は流麗に流れ、とどまらずに再びの一撃を食らわせる。
 大技と呼べる技を難なくと繰り返すアルテミアの姿勢に乱れはない。
 花婿は吹き飛ばされた。やはり、音もなく。
 黒子の拍撃が懐に入った。
 放たれた矢を、黒子はその身で矢を受け止め、へし折った。
 続けて、何かを行った。
 奪疲。それは、友軍から疲弊と不安を「奪い」、活力を取り戻す術式。気の流れに混じって、邪なものがあるのを感じた。
(客の錯乱は一時的なものか)
 やはり、狂気が深く根ざしているのは花嫁と花婿。呼びかけは……客には割合に有効である。
 花嫁の刃を受け止めたヴォルペは、そのまま手首を掴み、強い意志を叩き込む。
「折角の素敵な日に傷物になるような悲しい真似、おにーさんは許せないな」
「ううっ」
 ユンの一撃で、目の前の女性が正気を取り戻した。血に染まるフォークに、青い顔を浮かべる。
「大丈夫」
 ユンは優しく言った。
 イモータリティが、ユンの傷を癒してゆく。まるで夢から醒めたようにはっとして。とん、と背中を押され、黒子に従い戦場の外へと導かれる。
 どうしてだろう、パニックになることもなかった。
「私も、血には、慣れておりますからね」
 孤屠は攻撃をひらりとかわし、残る一人に一撃を見舞った。
 相手から振り下ろされるナイフは、紙一重でかわした。
 傷ついても傷ついても、死は遠く。まだ遠い。

●避難、完了
「はっ」
 モカの繰り出した二度の蹴りが、花嫁を大きく下がらせた。来賓たちはすでに遠く、もはや、敵は花嫁と花婿のみとなっていた。
 花嫁の動きに、疲れが見えてきた。
「この感謝は……せめて、せめて、あなたたちに返すわ!」
 鋭い反撃は、ヴォルペの動きを止める理由にはならない。
「はは、楽しくなってきた!」
 ヴォルペは、いっそう笑ってみせる。
 煉気破戒掌でたたき込んだ気が、陽の気と混じり合って、揺らぐ。
「大丈夫! まだ立てるよ!」
「ラストスパートといこうか」
 攻撃を押さえていたアクセルの神気閃光が、刀の軌道をそらす。
「っ……」
 アルテミアの一撃が、花婿の矢筒をとらえた。
 息をつく暇もないほどの連撃。転がっていく矢筒に手を伸ばすが、アルテミアがとっさに弾き飛ばした。
「せめて、一矢だけでも……!」
「させないっきゅ!」
 MA・B。森アザラシバレット。溜めた魔力は、誰かを傷つけるものではない。
(グリュック……!)
 弾丸のように、レーゲンは一直線に花婿のもとへと飛んだ。
 二人を合流させないように。黒子の拍撃が決まる。
「さあ、お二人とも刃傷沙汰はダメですよ。恩を仇で返してどうするんですか!」
 孤屠が、飛んできた矢を拳でべきりと折った。
「うっ……」
 弓はもう使えない。花婿が矢を握る。
 最後の一撃で、アルテミアが二刀を手放した。
 いや、違う。手放したのだ。自分の意志で。
 アルテミアは姿勢を低くし、花婿の顎にノーギルティを打ち込んだ。
 花婿は脳震盪を起こして、きれいに倒れる。
 残るは、花嫁のみとなった。

●純白の衣装
「あっ……」
 すかさずに距離を詰めるモカ。
 追い詰めた。
 最後の力を振り絞り、花嫁は凶刃を振るう。
 モカが、花嫁の持っている刀を狙って腕を蹴り上げた。
 花嫁は手を伸ばすが、鋭く蹴って弾き飛ばす。
 刀が、ついに花嫁の手を離れる。
「いまっきゅ!」
 レーゲンが、花嫁に体当たりを食らわせようとじりじり下がる。
 黒子が、奪静を使用した。冷静さを欠いた花嫁は、判断を一瞬遅らせる。
「どいて、どいてよ!」
 ヴォルペとアクセルが、攻撃を通すはずもない。
 守り刀は、孤屠が鮮やかに鍵槍の柄で弾き飛ばして。
 くるくると宙を舞い、ユンのそばへと。
 ユンがそれを拾った。
(祝福の呪いか……)
 ユンは、ふと、自分がこの場に居合わせた偶然を思った。
(結婚式なんて縁が無かったし、此度は偶々居ただけで然程分かってないけど。
大きな晴れ舞台を潰すだけじゃなくて、誰かの人生まで壊れる可能性がありそうだから……)
 だから、ここでやるべきことはわかった。
 自分がここに居合わせたのは、このためなのかもしれない。
 花嫁ははっとすれば、泣き出して。
 新郎はおろおろと、ただ背をさする。
 でも、気がついただろうか?
 花嫁の白い装束は、この激しい戦いの中、驚くほど汚れていなかった。
 会場は、おそらくは黒子が戦場を誘導したおかげだろう。
 ヴォルペの保護結界に包まれて、壊滅的な損傷もない。
 やってきた客に重傷を負った者は、誰一人としていない。

●後の祭り
「ゴーシュさん、これ……」
 アクセルが守り刀を持ってきた。
「ううむ、守り刀か。すり替えられたというのは……」
「とっさに話を合わせただけなんだ」
 アクセルが首を横に振った。
「でも、本当に誰かが呪いをかけたのかもしれないね」
「しかし、これでは式は……」
「大丈夫だよ。ほら、おにーさんたち、がんばったから」
 ヴォルペは後ろを振り返る。

「けがをした人は、集まってほしいっきゅ!」
 レーゲンは招待客たちを集め、癒やしの力を発揮していた。
 ユンが前へと進み出る。
 その瞬間、誰しもが示し合わせたように黙った。
「今日壊した守り刀は持ち主の精神状態を異常にさせる、呪具と呼ばれるものだった。これとよく似た事件を僕達は知っている」
 静かな言葉は、染み渡るように会場に響いた。
「此度の騒動の原因は、倉にあった祭具である守り刀。何者かがこの刀を偽物である呪具とすり替えていたかもしれない」
 そこには、少し嘘がある。この場を収めるには必要だった嘘が。彼らのせいではない、ということ。
(……この刀をすりかえた、ということで、保管していた人間のせいではないということかのう。……事実、そうなのかもしれんのじゃが……)
 このタイミングでこの騒動が起こったことに、何者かの思惑を感じないでもないのだ。
「誰もひどいけがはしなかったよね。それに、会場も無事だよー」
 ヴォルペはあたりを見渡す。
「そうだね、これでもう大丈夫。大丈夫。痛くないよ」
 誰よりも攻撃を受けたアクセルは痛みを隠して言った。
 その様子に、異議を唱えられるものはいない。
 木枯らしが吹き、装飾品が、風に揺られて倒れ……。
「はっ」
 孤屠が。皿を槍の柄で受け止め、ひょいと上に投げる。バック宙で、モカがキャッチした。まばらな拍手に、口笛に。おひねりを投げ出すものまでいた。
(原因はこの呪具に違いないが。事実、守り刀として、この場を収めるために、役目を果たしたのかもしれんのう……)

「あとは花嫁さんだけっきゅ!」
 レーゲンは、そっと花嫁の涙を拭う。腫れた目の赤みが消える。そのレーゲンの手も、また傷ついている。レーゲンはあわててヒレをしまう。
 レーゲンは、改めて客に向き直った。
「おねがいっきゅ! 愛し合ってる二人を引き裂かないで欲しいっきゅ!」
 いちばん傷ついた側が、どうしてか必死に頼むのである。
「悪いのはあちこちで呪具をすり替えた誰かさんで、2人は狂気にあてられただけだから……ご破算は悲しいっきゅ」
「道具をいかに使うかは、人の心次第。呪具に負けたなど悔しいだろうのう。このゴーシュが、式の成功を見届ける」
 花嫁がまた涙をこぼした。
 これは、うれし泣きだ。
 アルテミアがそっと、花嫁の涙をぬぐう。
「少し悪い夢を見ていただけ。これから二人で幸せになるのだから、暗い顔は似合いませんよ?」

●もう一度
 かくして、ゴーシュの手によって呪われた守り刀は折られた。人々は傷つきながらも、再び笑いあうことができた。

 戦闘で散らばったものを片付けて。
 黒子が買い出しで食材を持ってきて。
 あっというまに、モカがそれを料理してしまう。
「え? 美味しい! 食べたことない!」
「……Stella Biancaをよろしく」
「では、末永く縁の続くことを願いまして」
 孤屠の鏖ヶ塚流の槍術が流れるように繰り出され、皆が手を叩いた。一生懸命に戦ったイレギュラーズは、簡単な治療を受けつつも、特別な席へと通される。
「めでたしめでたし、ってね。いやー、おにーさん、頑張ったなあ」

 泣いた花嫁が着替える間。孤屠とモカが時間をくれた。
 やはり何事もなかったように、とはならないけれど、式は祝福と喜びをもって行われることとなる。ちょっと気まずそうで、でも嬉しそうな花婿の姿。幸せなものだとわかるだろう。
「お父さん、お母さん、この場に集まってくれたみなさん。そして……呪いから、私を助けてくださったみなさん。ほんとうに、ほんとうにありがとう。私、この日を……一生忘れることはないと思います」
 こうして、戻った日常は、ただ、穏やかに過ぎていった。
「新郎新婦に祝福あれ!」

成否

成功

MVP

レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
希うアザラシ

状態異常

レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)[重傷]
希うアザラシ

あとがき

というわけで、見事に結婚式を挙げることができました。お疲れ様でした。
GMとしては、おそらくこのまま式は無理だろうから、うまくいっても後日仕切りなおして、ということになるかと思っていたのですが、大けがを負った招待客がおらず、会場も無事で、不殺に成功ということで、イベント続行しちゃいました。

代々伝わるものが原因ということで心証が悪くなるかもなと思ったのですが、誰かがすり替えたという優しい嘘が素晴らしかったですね!
というわけで、MVPは代表して森アザラシさんへ。

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