PandoraPartyProject

シナリオ詳細

山岳都市は血を欲す

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 王都メフ・メフィートの遥か南。
 ――フィッツバルディ領の最南端に位置する山岳都市で武装蜂起の兆し在り。

 そんな報がローレットに届いたのは、いつもと何も変わらないある日の昼下がり。
 昼食後に瞑想を楽しむユリーカも飛び起きるほどの大事件である。
「本当に武装蜂起なら、それはそれで対処の仕方があるのです」
 先ほどまで気持ち良さそうに瞑想をしていたくせに、悪びれる様子もなく堂々とイレギュラーズに講釈をたれるのは『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)である。将来有望である。

「今回の事件は現地から仕入れた情報によると、計画的な扇動の色が強いそうなのです」
 ユリーカが仕入れた情報によると、『ある日』を境に数名の人間による街頭演説が始まったそうだ。
 内容としては、フィッツバルディ伯の自治についての不満から始まり、王侯貴族による封建制の批判、幻想の衰退など話のスケールは広がっていくそうだ。
 だが、理論の展開としては不自然ではない。
 武装蜂起をするならば、それ相応の説得力のある背景が必要となる。
 ――間違った世界を、自らが中心となって変革させる。
 刺激に餓えた田舎町の少年少女の心を揺り動かすには、十分に魅力的な言葉になるであろう。
 実際に、扇動者が言っていることは、根も葉もない話というわけではない。
 大人であっても、言葉巧みに『のせられる』ものもいるのではないか。

 一つだけ、ローレットが見過ごせない点があった。
 それは何か。数名の扇動者は、全員が道化の衣装を着ていたことだ。


 暗い部屋の中、蝋燭が一つ。
 闇の中にぼんやりと浮き上がるのは、恍惚の表情を浮かべた三人の男たち。
「別に、フィッツバルディもフォルデルマンも、どうでもいい……」
 頬に大きな傷のある男は、誰に相槌を求めるわけでもなく、宙を見つめて呟いた。
「何人……集った?」
 右目にアイパッチを付けた男は誰かに問う。マスクをしているため表情は分からない。
「……20人くらいだ。戦力と呼べない、小僧ばかりだ……」
 スキンヘッドで見事な体躯を誇る男が答えた。表情には恍惚感が溢れている。その理由は分からない。
「血が流れれば構わん……兎に角、集団で殺し合いをするのだ……もうすぐだ」
 頬に傷のある男は、更に続けてこう言った。
 ――間もなく、ローレットがここに精鋭を送り込んでくる。血の雨が降るぞ。最後は我々の血も捧げよう。
 我々は血を見たいだけなのだから。

GMコメント

日高ロマンと申します。よろしくお願いいたします。

ある日を境におかしくなった三人組が、地方都市で起こす扇動事件となります。

●依頼成功条件
 扇動者(首謀者)三名の拘束もしくは殺害
 ※20名の少年兵は操られていますが、話術によるものなので、説得による無力化は高確率で成功します
 ※少年兵は現実世界でいうところの成年手前くらいの年代です。
 ※少年兵の死亡は依頼成否に影響はありません

●情報確度
 A(オープニングと、この補足情報に記されていない事が発生する可能性はありません)

●ターゲット補足
 扇動者(首謀者)…三名とも神秘の使い手。武器はナイフ程度。防具は特になし。(道化のローブのみ)
 少年兵……武器は木の棒、竹やり。防具はなし。

●その他補足
 ・山岳都市に到着したところからシナリオはスタートします。
 ・イレギュラーズは、市内中央の広場で扇動者が街頭演説を行うタイミングを把握しています。
 ・山岳都市ではありますが、市内は平坦です。
 ・作戦の時間帯は昼間です。

  • 山岳都市は血を欲す完了
  • GM名日高ロマン
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年04月28日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アクア・サンシャイン(p3p000041)
トキシック・スパイクス
レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
カザン・ストーオーディン(p3p001156)
路傍の鉄
御堂・D・豪斗(p3p001181)
例のゴッド
ティミ・リリナール(p3p002042)
フェアリーミード
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
キリカ(p3p005016)
禍斬りの魔眼

リプレイ

■向かう先は遥か南
 イレギュラーズを乗せた馬車は暁を背にローレットを発つ。
 向かう先はメフ・メフィートの遥か南。
 道すがら、あるものは刃を研ぎ、あるものは獲物に弾を込める。あるものは――。
「ミス・アバークロンビー。何を読んでいるんだい?」
 海洋を彷彿とする大らかな雰囲気を纏う男の名は、『放浪カラス』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)。
 熱心に辞典のような厚さの本に目を通す少女に語り掛けた。
「メフ・メフィートの古い書店で見つけた物語だよ」
(レイヴンさん、どこかで会ったことあったかな?)
 レイヴンに既視感を感じ、目を丸くした少女は『特異運命座標』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)。
 二人は瞬く間に打ち解け、話に花を咲かせているうちに、馬車がガタンという音と共に急停車した。
「到着したようね」
 アレクシアは読みかけの本に栞を挟み馬車に残した。
「この物語、依頼が終わったらゆっくり読むんだ」
 私は深緑出身だから幻想で出回っているお話もいっぱい読んでみたい、とアレクシアは目を輝かせた。
 これから命を懸けて戦うものが、戦いの後の展望を語るのは、あまりよろしくない傾向がある。
(……フラグか?)
 レイヴンは一抹の不安を飲み込んで、彼女に続き馬車を降りた。
 続いて、『ちょーハンパない』アクア・サンシャイン(p3p000041)もひらりと馬車から飛び降りた。
 そして振り返って馬車の荷台を一瞥する。
 ――今日は除草剤はいらないよね。アクアは荷台に残した除草剤を見て思案する。
 彼女にとって除草剤はマストアイテム。できれば常に携帯したいところだが。
 アクアはほんの少しだけ心許ない気持ちを抱きつつ、山岳都市に向かう。

「少年兵達が首謀者側に集まってこなければいいんですけど」
「うん。そこだけが気がかりだね」
 『儚き雫』ティミ・リリナール(p3p002042)と『路傍の鉄』カザン・ストーオーディン(p3p001156)は首謀者と対峙する役割だ。
 首謀者は捕縛する方針で認識は一致している。
 不殺を貫くのはただの博愛主義ではない。あくまで少年兵達への精神的負担を考えてのこと。
 ――本当なら、血に酔った狂人は始末されても文句は言えないはずだ。討たれる覚悟はできているだろう。
 カザンは敢えて口にはしない。
 ――本当なら、無垢な心を弄ぶような輩や許しておけない。もし少年兵達がいなかったら。
 ティミも敢えて口にはしない。

 『尾花栗毛』ラダ・ジグリ(p3p000271)は先行して山岳都市の偵察にまわる。
 風のように小道を駆け上がり、素早く都市に侵入する。
 彼女は常人を卓越した反射神経を誇り、例え待ち伏せがあっても不意打ちを受ける心配はない。偵察は適任であった。 
 ――警備は無しか。こんなものか。
 警戒態勢、首謀者一味と少年兵の配置は瞬く間に把握した。

 続いて、山岳都市に足を踏み入れたのは『禍斬りの魔眼』キリカ(p3p005016)だった。
 彼女は思案する。
 狂気に冒された者は救えないと聞いていた。
 しかし、少年達だけでも守り、救わなければならない。今ならば、きっと間に合う。
「此度は、刀を抜く事は無さそうですね」
 少年兵達は傷つけることなく事を済ませる。彼女は胸に強い意志を抱き歩を進めた。

 最後にゆらりと馬車から降りたのは――『神格者』御堂・D・豪斗(p3p001181)である。
 彼はローブに身を包み、フードを深くかぶっている。
 体からは金色のオーラが溢れ出ていた。
 恐らく、彼は力を抑えているのだろう。それでも、あり余る圧倒的な存在感。
「……時は今」
 彼はゆっくりと歩を進めた。

「首謀者の演説台に向き合う様に少年兵が整列している。分かりやすい配置だ」
 ラダは路地裏に潜む一同に偵察結果を共有する。
「だが、演説台の裏に数名の控えがいるようだ。首謀者との戦いに参入してくる可能性はある」
「それは厄介だけど、今から計画の変更は難しいな」
 カザンは腕を組み、路地裏から演説台を遠めに見つめた。
「ある程度は想定済みよ。少年兵にどんなに邪魔をされても、手は出さないわ!」
 アクアは拳を握り息巻く。その時、首謀者達による演説が始まった。

 ――我々は扇動者ではない。
 ――世に救済をもたらすことだけを考えている。
 ――そのためには、諸君らの助けが必要だ。

「ふん、くだらんアジテーションだ」
 豪斗は演説を一蹴する。呼応するようにキリカがずい、と前に出る。
「少年兵にはあんな子供も沢山います。扇動者はお任せします。私たちは必ず少年兵を説得しますから」
 キリカは刀の鍔を紐で結んだ。今一度、不殺を心に誓う。
「よし。じゃあワタシ達は説得班の動きに併せて動き出す」
 レイヴンがそう言うと、ラダは静かに頷いた。
 そしてアレクシア、豪斗、キリカは動き出す。

■真摯な言葉
「ゴッドのアガペは切り札だから」
 まずは私達で様子を見てみる。アレクシアとキリカは固唾を飲んで少年兵達の背後に迫った。
「みんな聞いて!」
 アレクシアはありったけの息を吐き出して叫んだ。
「君たちは多分みんなそれぞれに不満があるんだと思う。そういう現状を何とかしたい気持ちも本物なんだと思う。だけど、そのために武器を持っちゃダメだよ!」
 彼女の言葉に数名の少年兵が振り返る。演説台の首謀者達はまだイレギュラーズの存在に気が付いていない。
 キリカも続く。
「私達の言葉にどうか耳を傾けて下さい!」
 彼女は手を広げ、無手であることを少年兵達に知らしめる。しかし――
「うるさい!演説の邪魔だ!」
 少年兵の一人が石を投げつけた。一人、また一人とイレギュラーズ達に敵意を示す。
 石がアレクシアの額をかすめ、鮮血が滴り落ちる。
「力に返ってくるのは力だけ。誰かをその手に掛けてしまったら今度狙われるのは君たちになる!」
 彼女は血を拭おうともせず説得を続けた。
「あなた方の友。家族。そういった方々を思い出して下さい」
 キリカはアレクシアを庇うように前に出る。キリカは詰め寄られ胸倉を掴まれた。それでもキリカの視線は前だけを見据えている。
 気が付けば演説台の前にいた少年兵全員が振り返り説得班を取り囲んでいた。
 自らの言葉に悦に入っていた首謀者達も気が付いた。

「あんたたち、なんなんだよ」
 アレクシアに石を投げた少年は明らかに同様の色が見えた。

「君たちも誰かを傷つけたいわけじゃないでしょう? なら他に地に足を付けたやり方もあるはずだよ! あの人達に唆されちゃダメ!」
「家族との想い出は苦しみだけでしたか? 真にすべき事は、そういった方々を守る事ではないのですか?」
 集団の熱狂は冷め、アレクシアとキリカの叫びだけが辺りに響き渡る。

■道化退場
 ラダは人馬一体の突進で瞬く間に演説台の下に潜り込んだ。少年兵達の死角となる。
「なんだ貴様! あの不届き物の仲間か!」
 道化の衣装を来た三人の男は、眼下のラダに睨みを利かせる。
 しかし、ラダは我関せずと公演台から強引に道化を引きずり下ろした。
「舞台の上と下は分けるべきだろう、道化」
 ラダは引きずり下ろした道化たちを強引に突き飛ばして一か所に集めた。
 そこにアクアが詰め寄る。
「何がしたいの? 世界はそりゃ綺麗じゃないけど、血まみれにして綺麗になると思ってるの!?」
「血は美しいぞ……」
「言っても無駄のようね」
 もはや力で解決するしかない。それを悟ったアクアはゆっくりと後退する。

 カザン、アクア、レイヴン、ティミ、ラダは首謀者と交戦を開始する。
 まずは、ラダ、カザン、アクアが三人をきっちりマークする。
「君たちに理がないことは、僕たちがこれから証明する」
 カザンが戦端を開いた。 
 彼は圧倒的な瞬発力で間合いを詰め、アイパッチをした男の腹に渾身の拳を放つ。
 男を思わず膝を折って呻いた。レイヴンはその隙を見逃さない。
「さあ、来い。水の使いよ」
 レイヴンが念じると水が次第に鳥の姿を形成していく。ハヤブサである。
 ハヤブサは一度上昇してから、驚異的な速さで急降下し、跪いた男の頭部に追い打ちをかける。
 ラダはそこに狙いを合わせて、男の右肘を打ち抜いた。
 彼女の獲物にとってはやや苦手な間合いであったが見事命中させた。
 集中攻撃を受け満身創痍のアイパッチの男は最後の力で魔弾を放ちレイヴンに直撃させる。
 次に動いたのはアクアだ。反撃を許したが、5体3の戦いである。一気呵成に攻めれば負ける気はしない。彼女はマークを継続しつつも、攻勢に転じる。
「どうか死にませんように」
 アクアは狙いを済ませて毒を打ち出した。直撃したアイパッチの男は顔面蒼白となり、喉元を抑えながら転げまわる。継続戦闘は誰が見てもできない状況だ。
「おいで」
 レイヴンは水でカモメを作り出し、自身の傷を癒す。ここまで、攻守共にバランスの取れた戦闘経過だった。

 次に、残った二人の首謀者が巻き返しを図る。
 少年兵の集団と合流したかったが、マークされているため身動きが取れない。
「おい、貴様らでいい! 手を貸せ!」
 演説台の下に配置した三人の少年兵がいた。三人とも少女で非戦闘員であろう。案の定、三人の少女は怯えて動けない。
「使えないやつらめ!」
 あろうことか、スキンヘッドの首謀者は手短な少女に向かって魔弾を放つ。
 しかし、カザンが割って入り肩代わりする。
「……誰の血も君達のものではないが、今日、僕の血を流すことだけは特に許そう」
 魔力弾では倒せないと見ると、スキンヘッドの男はナイフでカザンの胸を刺した。
 避けようと思えば避けれたが、彼は敢えて微動だにしなかった。
「ただ、そんななまくらでは僕一人殺せはしない」
 カザンは拳に魔力を込め、渾身の力でスキンヘッドの男を殴りつけ吹き飛ばす。
「殺しはしません。もう起き上がらないでください」
 ティミは妖精の加護を纏い、黒鎌で一閃。男は胸を大きく切り裂かれ崩れ落ちた。だが、急所は外してある。
「彼等のやり方を見たか。君達に何をしようとした? あれは、君達のために戦う者では決してない」
 カザンはゆっくりと少女達に向かって歩み寄る。
「僕の姿を見ろ。この傷、痛そう見えるか?」
 カザンはあえて傷を受けた胸元を少女達に見せた。
 どくどくと血が音を立てて流れている。
「五体無事で死ねるなんてマシなほうだ。君たちは『こっち側』に足を踏み入れる覚悟はあるのか?」
 少女達はカザンから目を反らす。
 ティミがカザンに駆け寄り、手際よく傷を癒す。そして、彼女は少女達に静かに言った。
「自分たちの未来の姿を想像してください。この人達の様になってしまってもいいのですか?」
 それに貴方達の装備は、街の兵士に勝てるものだと思いますか? 冷静に考えてください。
 カザンの姿に恐れを抱いたのか。ティミの言葉が堪えたのか。
 演説台裏の少女達は完全に口を閉ざした。しかし――、
「私は嫌なのよ! こんな山奥で退屈した一生を過ごすなんて!」
 一人の少女が震える手でナイフを握った。
「好きな子はいないの?」
 アクアがぽつりと言葉を零した。
「え? いるけど……」
「その人の頭に、棍棒を振り下ろす気? そのナイフで胸を刺す気?」
「そんなことは……」
 ――だったら、想像してみなさい! 何をしようとしていたのかを!
 アクアは思いを込めて少女の頬をはった。
 少女が手にしたナイフはからん、という音を立てて石畳みに転がった。
「ならば、最後の一人まで玉砕覚悟で戦うまで……」
 頬に傷のある男が息巻く、しかし――銃声と共に崩れ落ちた。
「そんな覚悟は不要だ」
 ラダは男の膝を撃ち抜いた。アクアは転げまわる男に悠々と近づき――
「命を奪う気はないけれど……まぁ、死なないように祈るわ」
 彼女が放った毒撃をもって舞台裏の制圧は完了した。

 ラダは失神した三人の首謀者をロープで縛り、出血を伴う傷は応急処置を施した。
「おい、生きてるか?」
「……おのれ」
 ふん。生きていればいい。ラダは無事とわかると首謀者を強引に物陰に押し込んだ。
 彼女は不殺主義者というわけではない。
 この状況で血を流すことの意味の無さ、そして立ち尽くす三名の少女を気にしてのこと。
「不満はあるのは分かる。大人に相談してもだめなこともある。だけど諦めるな。継続は力だ」
 ラダの言葉に少女たちは小さく頷いた。
 
 キリカは身動きが取れない首謀者の背後に立ち、刀を抜いた。
「この都市で刀を抜くのは恐らく、これが最初で最後でしょう」
 彼女の魔眼に何かが映った。
 そして一度だけ太刀を振り――鞘に戻す。
「……ひぃ」
「今更、命を奪うつもりはありません」
 首謀者たちは己の体を見合わせるのも、五体満足のままである。キリカは彼らの体を斬ったわけではない。
 ――しかし。何かは斬った。だがあれは……。
 病か。呪詛か。或いは狂気か。彼女自身も判断が付かなかった。
「まだこの騒ぎの原因は掴めませんか」
 彼女はメフ・メフィートの方角を見つめて目を細めた。

■降臨
 ――ユーとユー。よくここまで抑えてくれた。後は任せてもらおう。
 豪斗はキリカとアレクシアの言葉に動じた少年兵の前に、ゆらりと立つ。
「時は今!」
 豪斗はフードをおろし、よく通る声で叫ぶと、眼前の少年兵達は不意を突かれたかのように浮足立つ。
「人の子が自ら考え、選びとったロードであればゴッドも思う所はあれど口は出すまい。だが! 今ユー達の前にあるロードは歪み、操り、いわば選ばされしロード!」
「な、何者だ! 体が光っているぞ?」
 豪斗の体から迸るオーラが少年兵達の顔を金色に染め上げる。
「ユー達のフューチャーはライフは斯様な、ドリームですらない言葉に奪われてよいものではない!」
「あれはなんだ……あの男の周りに文字が浮かんでいるぞ?」
 豪斗の背には謎の文字が浮かび上がる。その文字、或いは文様かもしれない。それは解読することは適わない。
 しかしながら、圧倒的な説得力がその場にいるものすべて、イレギュラーズさえも、彼のオーラに圧倒される。
「真のアウェイクニングは今ではない! 変革は……正しさと共に在れ!」
 豪斗が一歩前に出ると、少年兵達は一歩後退する。
「くそ、石を投げてやれ!」
 少年兵の一人が豪斗に向かって石を投げるそぶりを見せる。だが――
「やめろ! あいつは、いや、あの方は、ただの人ではない、気がするんだ」
 既に豪斗のアガペは少年兵達の胸に響いている。
「――クエスチョンだ! ユーのパゥワーは何のために、誰が為にある!? 再度問おう。ユーのパゥワーは何のために、誰が為にある!?」

 山奥の村の少年と少女。
 キリカとアレクシアの献身的な姿勢を見て『何か』に気が付いた。
 そして、ゴッドのアガペで全て『元』に戻った。

「戦闘は終わったようだが、敢えて言おう。道化ども!」
 ゴッドは演説台に颯爽と飛び乗り、捕縛された扇動者達を見下ろした。
「道化は、スマイルの為にあれ!!!!」

 ――このタウンにはブラッドもティアーも一滴たりとも流させぬぞ。彼はそう言うと、静かに山岳都市を後にした。
 何人かの少年兵達は豪斗、いやゴッドの後についていこうとしたが、キリカとアレクシアが必死に説得して事なきを得た。

■凱旋
 ――待ってください。ティミは連行される三人の首謀者の前に立つ。
「もう二度と、貴方たちの快楽の為に、無垢な心を踏みにじる行いは止めて下さい」
「小娘が何を偉そうに。救いのないしがらみから解き放つことの何が悪い」
 ――救いのない?
 ティミは胸の内で首謀者の言葉を反芻した。
 『救いのない』なんて言葉は、彼女の前で軽々しく口にするのは滑稽である。彼女の過去は筆舌に尽くし難い。
「この大鎌で――」
「ひぃ、やめろ!」
 ティミはアダマスの鎌を降り下ろすも、男の眼前で止めた。
 貴方たちの首を刎ねるのは簡単です。ですが、殺しません。
「子供たちにそんな光景を見せたくないから!」
 ――貴方たちは更生の機会が与えられた。悔い改めてください。それだけです。
 ティミはそう言うと踵を返した。 

「キミ達、時は黄金にも勝る財産だよ」
 レイヴンは立ち尽くす少年兵達に、鷹揚な表情で歩み寄る。
「具体的に、君らくらいからちゃんとしたトコで働きはじめると二十歳位には割と良い金額が溜まっていてだね」
 彼は勿体付けるように含みを残す。
「何が言いたいかというとね……ウチ海洋だけど就職する?」
 少年兵達は、レイヴンの背に大洋とカモメの群れをイメージした。
 彼は海洋の名門貴族・ポルードイ家の次男である。
 フランクな物言いの中にも品格の高さがうかがえる。
「悪いようにはしない。気が向いたら訪ねてくればいい」
 少年兵達は去り行くレイヴンの背をいつまでも見つめていた。

 事件は無事解決となり、一同は帰路につく。
 皆が乗り込もうとした馬車の中からは金色の光が溢れていた。
 ユー達、遅かったじゃないか、と豪斗が中で待ちくたびれていた。

「さて、読書の続きを……」
 アレクシアは予定通り、読書を再開する。
(フラグを、折ったのか……?)
 一同は顔を見合わせた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。見事成功となりました。

PAGETOPPAGEBOTTOM