PandoraPartyProject

シナリオ詳細

妖刀の夜

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 ●
 妖刀って、何だと思います?

 隙間から吹き込んだ風が蝋燭を揺らし、そう聞いた口入れ屋の影を妖しく蠢かせた。

 果たしてこの男はこんな顔だっただろうか。

「妖刀」
「左様です」
「生憎大した学がない」
「手前もただの口入れ屋。難しい学問の話をしたい訳じゃございません。ま、気軽に」

 そう言われても、と腕を組んで唸る。
 茶を啜りながら考える振りをしてみるが、形にならない。
 そのうちに口入れ屋は、にやっと笑って、では、と手を打った。
「名刀、はどうでございましょう」
 名刀か、と口に出る。それなら分かるような気がした。
「剣を道具とするなら、その最高級品。切れ味鋭く、何人帷子を斬ろうと刃こぼれせぬ。そんな刀ではないかな」

 成程成程と口入れ屋は何度も頷いた。甚く感心したようにも馬鹿にしているようにも見える。
「それでは霊刀、宝刀は」
 また難しい事を聞くな、と呆れ、顎に手をやって天を仰いだ。
「まずそのふたつは別物であろう。宝刀は、伝家の宝刀というくらいだからお家に受け継がれる名刀の事ではないのか。いや、ただ名刀より由緒正しくて、実用性は名刀に劣る気もする」
 そこでまた茶を飲んだ。
 どうにもこの男と話しているとまるでじわりと炙られているかのように喉が渇く。
「霊刀は」
「うん……霊刀は、鬼を斬ったとか大鯰の腹を割いたら出てきたとか、神話や伝承と結びついているのではないか。実際によく斬れるとは限らんような」
 成程成程、と口入れ屋はまた大きく頷く。
 そして――――「では、妖刀は」
 話が一巡した。どうしてもその話をしたいらしい。苦笑いし、また茶をひと口。
 
 何度も、うんとか嗚呼とか唸った挙句に「曰くのある名刀」と答えると、口入れ屋は声を立てて笑った。
 この男はこんな顔だっただろうか、とまた思う。
 
「それもひとつの答えでしょうな。どうです、実は妖刀と呼ばれている刀を一振り預かっておりましてね。触ってみれば、何か感じるところがあるやも知れません」
 そう言うや、男はこちらの返答も待たずに、どこぞから刀を持ち出して目の前に置いた。
 戸惑っていると、どうぞどうぞと手で勧めてくる。
 こんなところに仕事を探しにくる貧乏浪人であれば、生涯で触った他人の剣など片手で数えられるが、違いなど分かるものだろうか。
 とはいえ、もののふの端くれ。名のある剣への好奇心はある。

「応」
 意を決して、そろりと柄に触れてみる。
 巻柄は燻革諸撮だろう。
 握った瞬間に思わず感嘆の息が洩れた。
 まるで自分の為に拵えられたかのように手に吸いつく。指の長さ、掌の大きさ、筋肉の盛り上がり、全て計算され尽したかのようだ。
 心地よい。心地よい。
「どうぞ、刃の方もご覧ください」
 どこからか口入れ屋の声がした。既に止められようとも鞘から抜いてやろうという気になっている。
 僅かに力を入れると、黒乾石目塗の鞘からゆっくりと銀色の刃が覗いた。
 さらに力を込め、完全に抜き放つ。
 その刃文の美しさに肌が泡立った。
 美しい、見事だ、と妻にも言った事のないような言葉が次々に口を吐く。
 そして心底思った――――何か、いや、誰か斬りたい、と。

 そこでまた口入れ屋の声が遠くから聞こえる。
「斬りたい、と思うものでございましょう。いえ、誤魔化さなくともよいのです。もののふであれば、おそらく誰もが思うはず。そこでどうでございましょう」
 すうと視界に口入れ屋が浮かび、目の前で膝を折って横向きに正座する。
「ここに切り込み線がございます。ここに沿って斬ってみては?」
 頭を垂れて差し出された首にはご丁寧にも墨で点線が付けられていた。全く奇妙な事だが、それを見ても最早奇妙だとは思わない。
「いいのか」
「はい」
 了承を得るや躊躇いもなく一閃。
 ごろり、と落ちた口入れ屋の首が部屋の隅まで転がる。

「これが、妖刀でございます」にんまりと笑って生首が言う。「この刀の鎮め式にご協力いただけませんでしょうか?」

NMコメント

 どうも、かそ犬と申します。
 まだ名もなき妖刀が無辜の血を啜る前に「鎮め式」に協力して下さい。
 
 妖刀を手にした者は、全ステータス(特にテクニック)が爆発的にはね上がったような圧倒的な強者感と陶酔感を得ます。実際にステータスは大きく変化していません(非力でも剣が振れるくらいにはなります)が、恐怖も痛みも感じなくなるので相討ち上等の恐るべき使い手となるでしょう。
 妖刀の真に恐ろしいところは、しかし別にあります。今すぐ誰かを斬って強さと切れ味を確かめたい、という耐え難い渇望に襲われるのです。
 
 実は神職の手によって、鎮め式は既に成功しており、この剣で人を斬る事はできません。斬りつけても刃が直前で止まってしまいます。
 式を執り行った神職は、イレギュラーズのような言ってしまえば人斬り集団でも同じように鎮め式が機能するか危惧しており、それを今回確かめて欲しいと思っています。

 場所は神威神楽の首都「高天京」によく似た異世界。
 京から少し離れた地方都市。イレギュラーズには、妖刀の囁きが強くなる日没後から夜明けまで、3時間交替で妖刀を所持したまま通りを歩いていただきます。妖刀はあなたのトラウマをほじくり、蹂躙された過去に触れ、怒りや悲しみを掻き立てて、人を斬らせようとしてきます。トラウマがなければ単に力を誇らせようと煽るかもしれません。その精神干渉は、スキルやギフトでも完全には無効化できないと思って下さい。


●プレイング
 以下の①と②について記入して下さい。
①【時間帯】
 時間帯ごとに1人が妖刀を持ち、残りの3人は少し離れて後を付いていく形になります。自分がどの時間を受けもつか相談して決めて下さい(決まっていない場合はこちらで決定させていただきます)。
 
【21時まで】仕事帰り、酔っ払い、屋台など、人通りがかなりありますが、逆に標的を絞りにくくはなります。
【0時まで】人通りは減ってゆきますが、娼婦や夜警などを見かけます。
【3時まで】外にいるのは犯罪者か狂人くらいです。あとは後ろの仲間。
【6時まで】朝早い職の人間がちらほら出てきます。

②【心情と行動】
 人斬りの誘惑を受け、次第に幻まで見て正気を失いそうになった時の心情と行動を書いて下さい。トラウマなどが書かれている方が拾いやすくなります。鎮め式は実際にはきちんと機能しており、イレギュラーズでも斬りかかった人の命を奪う事はできません。
 取り乱した仲間にどう対応するか(呼び掛けるか、取り押さえるか)も書いて下さい。

 
 筆者の傾向としてアドリブ多めとなります。
 ご縁がありましたら宜しくお願いいたします。
 

  • 妖刀の夜完了
  • NM名かそ犬
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年07月26日 22時10分
  • 参加人数4/4人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
観音打 至東(p3p008495)
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者

リプレイ

 いかに霊力、魔力が高かろうと、妖刀を抑え込もうとしてはなりません。
 この刀は心を映す鏡です。ゆめゆめお忘れなきように。

●只野・黒子の場合
 神職からそう言われて妖刀を授けられた『群鱗』只野・黒子(p3p008597)は、借り受けた襤褸菅笠の袴姿。
 3人の剣客達の好奇の視線が刀に集中しているのに苦笑いを抑えつつ、帯に妖刀を差すと意外にも立ち構えがしっくりくる。自分の得物が腰に戻ったというような落ち着きと、すぐにそれを抜いて確かめたいという一欠けらの高揚。
 成程、後者が徐々に強くなって、自分を見失うという訳か、と黒子は気を引き締める。
 
 元役人らしく今回の件での官憲への根回しと立ち回りを依頼主に確認済みの黒子であったが、実はもうひとつ確認したい事はあった。妖刀がトラウマを刺激してくるのなら、逆に言えば襲撃対象の傾向がある程度把握できるはずなのだ。彼は自分が襲うとしたら歳の近い酔っ払いだろうと告げ、仲間達のそれも聞き出そうとしたがどうにも答えは曖昧というか要領を得ぬ。尤も昨日今日知り合った人間、まして異性に無理強いできるような話でもないし、仕方ないと諦める事にした。

 少し離れた3人に頷いてから、黒子は誰そ彼時の空の下を歩き出す。
 銭湯帰りの親子、蕎麦屋から漏れる笑い声、田楽屋台に立ち止まる男達――寛いだ穏やかな空気の中、一刻半ばかり歩いても特に殺人衝動などは感じない。このまま終わるのではないか、と思い始めたその時。
 2人の酔漢が黒子の行く手を遮るように、ふらりと立ち塞がった。
 顔を見て驚く。いや服装までもがもう此の世界のものではない。
 彼らは。
「なんだぁ、只野ぉ。お前、もう仕事終わったの? 頼んだ書類全部やったのかよお」
「そうだぞぉ。お前なんか残業するくらいしか取り柄ねえだろおお?」
 黒子が元いた世界の上司、そしてその腰巾着。
 いるはずがない。分かってはいるのだ。幻なのだと。
「定時で上がるお前なんて価値ねえんだよ。首だよ、ああ? ク・ビ」

 そう言ってへらへら笑う上司の首には、丁寧にも墨で切り込み線が入っているではないか。
 そうか。そこを斬ればいいんだ。簡単だ。
 抜刀し、構える――――「只野さん!!」
 剣が首を撥ね飛ばす直前、黒子は我に返り、刃をぴたりと止めた。放っておいても止まったかもしれないが、黒子は確かに自分の意思で剣を止めたのだ。
 酷い疲れを感じてしゃがみ込むと、2人の見知らぬ男が青褪めた顔で尻餅を突いていた。
「……こう見えて役者でしてね。なかなか真に迫っていたでしょう? 」
 玉の汗を浮かべた黒子がニッと笑うと、男達はかくかくとただ頷くのだった。


●志屍瑠璃の場合
 黒子が金子を渡して男達を宥めた後、妖刀は『遺言代筆業』志屍瑠璃(p3p000416)に渡された。
 
 瑠璃がかつて所属していた諜報集団黒脛巾組は得物を選ばぬ。敵の刀、折れた刀――得物次第で技量が落ちるような忍びは長生きできぬのが常だ。だが、この名もなき妖刀を握った瞬間、確かにぞくりとするような快感を感じ、それを誰にも教えたくないと思った。この刀を自分のものにしたいと。
 大丈夫ですかと黒子が聞いてくるが、勿論とただ頷く。
 いざ歩き出すと、世界が違って見えた。
 はじめて手にした自由。混沌世界で得た自由。それに似た解放感が走る。
 擦れ違う者は疎らで、だが疎らにはいるという事。
 斬りたい、斬りたい。その首を落として、物言わぬ骸に喋らせるのが自分ではなかったのか。

 私を連れて逃げるつもりだった彼。その仲間だと私が報告した彼女。
 その生首が私をじっと見詰めている。
「ねえ、何処に逃げるつもりだったのですか?」
 目に涙が滲むのが分かった。
 どうして――こんな事を急に思い出したのでしょう。
 喉を突かないと。刀は此処に、手元にある。これで喉を突かないと。

「いけません!」
 『放浪の剣士?』蓮杖綾姫(p3p008658)が、抜刀するや自らに刃を向けた彼女から剣を叩き落とそうと斬りかかるが、瑠璃はひらりと躱し、妖しく、どこか悲しげに笑う。「邪魔をするなら、先に、あなたを」

「瑠璃殿!気を確かにもたれよ!」
 叫んで飛びかかってきた『破竜一番槍』観音打至東(p3p008495)と三合斬り結んで退がらせ、背後に回ろうとした黒子にも牽制のひと振り。
「また斬るの? 仲間を。私達みたいに」
 どこかでまた生首の声がした。
「……あなたは手に入れたんでしょう、瑠璃。自由を」今度は心なしか声が柔らかくなった。それとも自分がそう思いたいだけ? 一瞬刃を睨みつけた瑠璃は、息を吐きながら剣を下ろし、静かに納刀した。

「そう。今は誰を斬るかは私が決めます。“あなた”じゃない」


●観音打至東の場合
 瑠璃が落ち着きを取り戻すと、妖刀は至東の手に。
 墨染の羽織袴故、と鈴を帯につけた至東は軽やかに夜闇をゆく。
 ちりん、ちりん。成程追いやすい。

 時刻は丑の刻に近付き、いよいよ通りには人の姿がなく。
 この闇の中、擦れ違うのは悪人、それとも狂人か。
 はて、と至東は思う。果たして拙者は真っ直ぐ歩いているでござるかな。
 知らぬ間に道を違えて、後ろの仲間に向かってござらぬかな。

 ちりん――突然思い出す――鈴の音は夜討ちの合図。
 そうだ。そうだ。
 すぐにしなければ。押し入って皆殺し。

 ちりん。

「あれ、至東さんは?」
 角を曲がったところで綾姫が立ち止まり、目を凝らした。鈴の音は確かにこちら。だが気配がない。
 夜目の利く瑠璃は調子が悪いのか遅れていたが、異常に気付いて闇に飛び込み、鈴を括りつけられた野良猫を腕に戻ってきた。
「やられた」
「探しましょう」

 ばーーん、と戸板が蹴破られ、質屋夫妻は飛び起きた。
 何者かが侵入したのだ。驚き過ぎてただ動転するうちに、銀色の刃が僅かな明かりを反射し闇に煌めく。
「ひい! だ、誰かぁぁ!!」

 虚ろな目で剣を振り上げる侵入者――その顔に何かが投げつけられ、狂刃は目標を変えてそれを叩き落とした。
 ちりんと音を立てて両断されたのは、至東が付けていたはずの鈴だ。
「至東さん。先程の台詞そのままお返ししますよ。気を確かに」
 鈴を放ったのは瑠璃。振り返った至東は、妖しげな笑みを浮かべ、感心したように仲間達を見回す。
「もう追い付いてきたのでござるか。されば御免。これも戦国の習い」
 庭へ飛び出した至東は今度は待ち構えていた綾姫と打ち合い、刃が火花を散らす。
 その間に黒子が質屋夫妻と下男達を避難させ、瑠璃が彼らを追えぬよう立ちはだかった。
 瑠璃が加勢して1対2となった至東が一瞬退がると、綾姫は驚くべき事に剣を下ろし、いきなり至東の腰の物を指差す。
「至東さんは妖刀がいいんですよね? ならその腰の刀、私に下さい!」
「は、なんと?」
「私に下さいよ、そっちの刀! 二本差しには合いませんよね? いいじゃないですか!」

 急に毒気を抜かれたように至東は困った顔になって、眉を下げ、剣も下げた。
「拙者のこの楠切村正も……いい刀なのでござるよ。譲るという訳には」
「じゃ妖刀下さい! どっちもは駄目ですよ」
「駄目、でござるか」
「駄目です」

 じゃあ、といった感じで至東が渋々綾姫に差し出したのは――――妖刀。


●蓮杖綾姫の場合
「いや、面目次第もござらん」
「目が生き生きしてましたよ。どっちが本当の顔か分からないくらい」
 平静を取り戻した至東が頭を下げると、そう言う綾姫は抜き身のままの妖刀を食い入るように見詰めていて、早くも飲まれそうな気配すらある。
 駆け付けた夜回りの同心に話をつけていた黒子が小走りに駆け寄ってきて、俺はここに残って後始末していきます、と言った。質屋には迷惑料だか口止め料だかを渡して示談という形に持ち込むのだろう。その為の金子は依頼主から渡されている。

「じゃ、行きましょう! 黒子さん、あとお願いします!」
 どちらかというと控えめな性格に見えた綾姫が振り返りもせずにさっさと歩き出したので、瑠璃と至東は顔を見合わせた。
 これは多分に剣が絡むと性格が変わる綾姫の個性なのだが、そうとは知らぬ2人にとっては既に魅入られたかと警戒もしたくなる。

 歩き回るうちに東の空が薄っすらと白み始めた。
 夜明けが近付くにつれ、釣り竿を担いだ男達と何人か擦れ違ったが、帯剣した小柄な少女が目をぎらぎらさせながら値踏みするように見詰めてくるのを、皆気味悪そうに避けてゆく。

 いけない、いけない。刀が止まるとはいえ、悪人でもない人を驚かしては駄目。
 そもそも抜かずに済めばその方がいいもの。
「……本当に?」
 何処からか声が聞こえた気がする。
 そっと柄の巻柄を指でなぞると、彼女の中で何かが弾けた。
 「もし、すみませんがそこの貴方」
 すす、と近付かれ、天秤棒を担いだ男はぎょっとした顔で固まる。鬼や妖しの類と思ったのかもしれない。
「大変申し訳ないのですが、斬らせていただいても宜しいですか?」
「は?」
「綾姫さん!」

 ぬるりと抜刀した綾姫の足を瑠璃が威嚇術で狙ったが彼女は大きく飛び退き、次に至東と斬り結んで力比べで弾き飛ばすと――妖刀の力だ――また男へと標的を変えて、その眉間へ剣を振り下ろす。
 しかし、刃は直前でぴたりと静止した。
「やっぱり……駄目ですね。いや、これは大丈夫ですね、と言うべき?」
 彼女に過去の記憶はない。だが剣の巫女たる彼女には理解できた。
「鎮め式は……上手くいっていますよ」
 綾姫は震える声で言った。


●妖刀の夜が明けて
 妖刀は、念の為今少し祈祷の必要ありと判断され、刀箱に納められて奥殿へと運ばれて行った。
 立ち去る段になると、なんとなく後ろ髪ひかれるような思いがする。
 思わず振り返ると全員が同時にそうしていて、互いに顔を見合わせ、少し笑った。

成否

成功

状態異常

なし

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