シナリオ詳細
凍むる童を喰ふ家
オープニング
●
鉄錆びた臭いが充満している。
いやだ、いやだ。見つけないでくれ。一刻も早く居なくなってくれ。
小さな体躯を目いっぱい縮こまらせてただひたすらに祈る。
両手を口に当て、かたかた震える身体を必死に押さえる。
『わらいはんにゃ』は既にこの家に入ってきて、こちらの動きを探っている。
きし、と足元から鳴った音で咄嗟に息も動きも止めた。
気付くな、気付くな。
自分が木床を軋ませた音に動悸が止まない。
額から汗が流れていく。
囲炉裏を中央に据えた部屋、土間のある台所、外への井戸や厠に続く廊下、客間、寝室――きし、きしという音が止まない。
自分が開けるまで決して外に出てはいけないとおかあさんから言いつけられてからどれほど経ったか。
すぐ迎えに来るとおとうさんが声をかけてから幾何が過ぎたか。
短い動物のような悲鳴と、重たい何かが倒れるような激しい音がしてから、どれくらい。
――ごめんなさいごめんなさい。
少年は訳も分からず謝り続ける。
――ちゃんということを聞くから、お手伝いもするから、いいこになるから。
来るな。気付くな。
鉄錆びた臭いが充満している。
村に住んでいるおにのお兄ちゃんが言っていた。
『わらいはんにゃ』は元々子を持つ母で、子どもが好きで好きで、好きすぎてぺろりと食べてしまうそうだ。
いつの間にか止まっていた息を吸った瞬間、きし、と木床の軋む音がした。
近い。
血の気の引いたのが自分で分かった。
押し入れの戸が開く。
ひゅう、と風が流れ込む。
何かがこちらを覗きこんでくる――
●
「化け物の住む屋敷があるんだ」
鬼人種の少年が静かに口を開いた。
「笑般若と呼ばれるその化け物が、数日前にこの村から少し離れた山麓の屋敷を襲って住み着いてしまった。夫婦2人、その子ども1人が死んだ。住み着いてから近隣の村から子どもが3人いなくなり、それを助けに屋敷へ行った大人が全員行方不明となっている。……止めたけど、大丈夫だ、大人に任せておけって聞いてくれなかった」
今回の依頼はその化け物の討伐。事情はわかった、やることも把握したと言葉を交わしていると、笑般若の討伐に力を貸してくれと頭を下げた少年は、もう一つと言葉を続けた。
「……弔いをしたい。皆の骨でも布でも、持ち帰ってほしい。小さな村で、貧しいけど幸せで、静かに暮らしていただけで、……俺にも優しくしてくれた。……いい子たちで、いい人たちだったんだ」
呟くように紡いだ鬼人種の少年が顔を上げると、縋るような瞳にイレギュラーたちが映っていた。
- 凍むる童を喰ふ家完了
- GM名白葉うづき
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年07月31日 22時55分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
山の向こうに陽が沈む。
村は薄明るい光が弱々しく灯り、青々と作物を実らせる畑も普段は美しいだろう山並みも、昼間と異なる物寂しい姿を見せていた。
ぬるく、纏わりつくような風が頬を撫でる。
「力の弱い子どもを好んで喰う笑般若か。いやはや陳腐な使い古された題材だな」
ああ、反吐が出る。『お嫁殿と一緒』黒影 鬼灯(p3p007949)は黒頭巾の中で静かな侮蔑を込めて呟いた。
「未来ある子どもを喰らうとは到底許すことはできない。即刻対処し、平穏を取り戻そう」
『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)も頷くと、凛とした声に決意を滲ませている。
「子どもを優先的に狙う敵ってのは、どうにも嫌な気分になるな」
「こいつぁ許せんよなぁ。泣くも笑うも出来なくしてやらぁ!」
腕を組む『スモーキングエルフ』シガー・アッシュグレイ(p3p008560)は小さく息を吐き村灯りを見つめ、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は武器を握って屋敷がある方向を睨む。
子どもたちや村人たちの未来はあの仄暗い闇に吸い込まれていってしまった。
『雨夜の惨劇』カイト(p3p007128)もバイザーの下から暗闇を見ている。
「これはこれは……怖いですねぇ……楽しみですねぇ」
「楽しみ?」
「えぇ、えぇ……判っていますとも。悲劇は今日で終わらせましょう」
アルテラ・サン(p3p008555)の言葉に『穢奈』鐵 祈乃(p3p008762)が見上げると、鎧の中から微笑み返すような雰囲気が祈乃を見下ろした。
得体は知れないが目的は同じのようだ。
「不可解な話。なぜ子どもが可愛いから食べてしまうのでしょう」
冷涼な面持ちには感情を浮かべず、『新たな可能性』月錆 牧(p3p008765)は僅かに疑問を響かせ目を細める。
今は遠くに離れている我が子を思えば、到底行きつかない思考回路。
「うん。なして子どもば喰うんやろう。『笑般若』は、初めからそういう風に在ったんかな」
忌避され討伐されるべき対象。
そう割り切ってしまうのは簡単だが、祈乃にとってはあまり気持ちの良い考えではなかった。
理由を知ることはきっと、決して無駄なことではない。
「元がごく在り来たりな母親ならば、呪いによって感情が変質し悲劇を生んだ……そんな考えも浮かびます。――わたしたちの出来ることは変わらないかもしれませんが」
歪んで黒く染まったものが元に戻らないのならば、これ以上の悲しみを生まないためにも。
鬼灯の腕の中にいる嫁殿もやる気に満ちた表情で服裾を握った。
『鬼灯くん、もう終わらせに行くのだわ! 絶対に許さないんだから!』
「ああ。――さぁ、舞台の幕を上げようか」
終止符を打つための物語を始めよう。
●
鬼灯のサイリウムがイレギュラーズの足元を照らす。
しばらく人が通っていないためか、草が生え石は転がり方々から枝葉が覗き道は荒れ始めていた。
人の声はおろか動物や虫の鳴き声さえ無く、イレギュラーズたちの足音がやけに響く。
微かな息遣いさえ聞こえそうなほど静かな夜だった。
――やがて目当ての屋敷が見えてくる。
数日前に人が住んでいたと言われても信じられないほどの荒れようだった。
土造りの壁はところどころ剥がれ屋根には穴が開き、柱や戸には引っ掻いた跡のような傷が無数に刻まれている。
近付くほどに不快な臭いが鼻をつき、ゴリョウは顔をしかめた。
「……どデケェ悲しみを抱えてる奴が屋敷の中にいるな。他にもひぃ、ふぅ、みぃ……6つか? 中を漂ってやがる」
「ばらけているのか。笑般若を相手取った時に呼び寄せられるかもしれない」
「……お相手さんは普段から屋敷にいるみたいだな。突入するか?」
「出てこんのなら行こう。外に連れ出せたらよかね、……!」
「おやおやぁ。お客さんがたくさんいらしたねぇ」
不意打ちのように声が響いた。
屋敷に目を向けると、壊れた戸の隙間から爪の長い白い指が蠢いている。
指は蛇のように戸を這い、暗がりからぬうとその姿が顕になった。
布きれの合間から太い腕に太い脚が覗き、二本の角が生え目を三日月型に歪ませ、張り付いた笑顔を浮かべた――
「お前が笑般若か」
「はて……呼ばれたような、わからんねぇ。おぅおぅ、かいらしい子どもじゃあ」
玄関らしき場所から降り、きし、と木床の軋む音がする。
おどろおどろしい濁った瞳に見つめられた祈乃の緊張が増した。
「……なして子どもば食べるんか」
「それはなぁ。子どもは小さくて、かいらしくてかいらしくて仕様がなくて……」
血走った眼と裂けた口が三日月を模る。
「――喰ってしまいたいからじゃあ!」
土を蹴り笑般若が祈乃に迫った、しかし振りかぶった爪が祈乃に届く前にゴリョウの体躯が行く手を阻む。
「おいおい、ガキよりもっと食いでのある俺を相手してくんねぇかなぁ!?」
「人々に恐怖をもたらすお前をこれ以上捨ておく訳にはいかない」
リゲルが剣を構えると笑般若は忌々し気に歯を鳴らした。
「ぬしらも子どもはかわいかろう、邪魔せんでくりゃんせぇ」
「はいそうですかと聞く耳はないな」
「あなたの理屈は訳が分かりません」
気配の鋭い剣をシガーが構え牧も戦斧を両手に握り、じりじりと包囲を狭めていく。
――すると笑般若の身体が小刻みに震え髪が逆立ち、ぼ、ぼ、と周りの空間が音を出した。
見る見るうちに笑般若の周りに青白い炎が灯っていく。
「あぁ煩わしや煩わしや。私と子を引き裂く輩は全て消ぇえ」
「怨霊か……!」
鉄錆びた臭いが風に乗る。
三日月がにたぁ、と笑った。
●
「さてさて……厄介な特性を持っていそうですねぇ。傷付いた際は私のところへ」
忙しなく動きポーズを決めたアルテラが、怨霊の悲しげな光など掻き消すくらいぴかーと光る。
彼の眩しい光、鬼灯のサイリウムもあるがほとんどのイレギュラーズは暗闇でもある程度視界が利くため、暗さは問題にならないだろう。
「あたしが笑般若、引きつけるよ。ごめん、よろしくね」
「オメェさんが気にするこたぁねえ。一太刀も通さねえよ」
(怨霊をどう引きはがすか)
祈乃とゴリョウがこの場を離れたとて、呼び寄せられた怨霊は笑般若を追随するだろう。
連携でも取られると厄介だ。
「リゲル!」
呼ばれた方向に視線を向けると相手は小さく頷く。
それに頷き返した後、リゲルは剣を振りかざした。
「我らはローレット! 無念の魂を救済すべく、この場に馳せ参じた者なり!」
叫ぶのと同時に夜闇に突き上げた銀色が眩いばかりの光を放つ。
呻き声を上げながら怨霊が近付いてくるのを確認した後、リゲルは縁側を臨む庭へと走り出した。
「眩しい煩わしい灯りじゃ、消してやろうかねぇ!」
「おっと。俺たちの相手はアンタがしてくれねェか」
リゲルを追おうとした笑般若の背に虹色の軌跡が突き刺さった。
「ただ――お前に喰わしてやるような『子ども』は生憎『品切れ』だ。お前の『最後』を破滅で彩りに来たぜェ?」
カイトによる遠距離から不意の一撃で怒りに笑みを歪ませた妖、しかし動き出す前に無数の糸が体の自由を奪う。
「行かせんぞ、笑般若」
「ぐぅう! あぁあ煩わしや!」
「喰わるうんな、ごめんばい」
巨腕となった祈乃の左腕が、笑般若を正面から打ち怯ませる。
「憎らしや……! 喰うてやれば辛さも悲しみも何もないというに!」
糸を引きちぎった妖は剥き出した牙を今度は鬼灯に向ける――正しくは腕の中の彼女に。
鋭い牙は咄嗟に庇った鬼灯の肩に深く突き刺さり、鮮血が滴った。
「――この下郎がぁ!」
やはり狙って来た、美しい嫁殿に目が向いたことは自明の理だが、それ以上に彼女へ殺意を向けられたことがこの上なく腹立たしい!
腕を振り上げ牙を振り払った後、傷を負った側と別の手から式符が蛇のように飛び出し、憤怒をぶつけるよう笑般若の喉元に噛みつく。
体の動くままさらに手の中へ剣が生み出され、鬼神のごとく袈裟懸けに斬り下げた。
「ぎぃやああああ!!!」
「いけない……傷が深いですね」
膝をついた鬼灯に嫁殿が縋りつき、アルテラが咄嗟に治癒のきらめきを放つ。
『鬼灯くん……!』
「大丈夫だよ……無事でよかった」
頭に手を乗せ、安心させるように鬼灯は笑いかけた。
●
「ひとつ、ふたつ――むっつ。ゴリョウの見立て通りか」
肩に剣を担ぎ、数えたシガーが小さく息を吐いた。
それだけ悲しみに沈んだ、救われなかった魂がここに在る。
笑般若からは十分離したとリゲルが振り返り、剣を構える。
ぼ、ぼと音を立てながら青白い炎は彼に向かい揃って怨嗟の声を震わせた。
「オォォ……ォオ……!」
「っ……!」
悲しみ、悔恨、恨み辛み――感情の塊が刃となって襲ってくるようだ。
気を抜けば呼応してしまいそうなほどの強い無念に、歯を食いしばる。
――牧の身体からぽたり、ぽたりと血が滴る。
その紅はみるみるうちに刀の形となって闇を飛び、炎を鋭く切り裂いた。
「可哀想に。早く解放してあげましょう」
禍々しい剣がシガーの手の中で閃き、怨霊の真中に振り下ろされ炎が散る。
「元はと言えば被害者だろうが、さすがに放置は出来ないからな」
子ども想いの親だったかもしれない、ひょっとしたら子どもが転じた可能性もある。
けれどこれ以上の犠牲を、これ以上続く悲しみを許してはいけない。
炎を小さくした怨霊はそれでも恨みの声を上げ、牧たちの身体に炎を噴きつけ焦がしていく。
(悲しいな、悔しいな。無念だったろう)
炎を耐えながらリゲルは悲哀を滲ませる。
もっと生きたかったろう、心を通わせたかったろう、心を想うといくらでも悲しみが満ちる――けれど。
「この炎に焼かれる以上の苦しみを貴方たちは背負ってこられた。だからこそ、俺たちがその悲しみを終わらせる!」
リゲルの剣が一直線に閃くと、銀の刃は怨霊たちを薙ぎ払い、みるみるうちに炎を小さくした。
「静かに眠ってくれ」
続くようにシガーが怨霊の間合いに飛び込み一閃する。
極度に集中したシガーの刃は止まらず、返す刀でもう一体を切りつけた。
「もう悲しむ必要はありません」
リゲルに向く怨霊たちに牧の一撃が飛び、炎は対象が見えなくなったかのように頼りなく揺らめいた。
「お見事ですねぇ……他の怨霊もそれほど力は残ってますまい」
遅れて合流したアルテラはポーズをとり、再びぴかーと光りながら放った一筋が怨霊を消した。
鋭く放たれたシガーの紫電がいくつかの小さな炎を掻き消す。
暗闇に沈んだ牧の戦斧が怨嗟の声を消していく。
燃えさかる炎に焼けた体は、アルテラの光で再び力を取り戻す。
「もう、大丈夫です。……貴方たちの魂が安らかでありますように」
願わくば、大切な人たちと天国へ行けますよう。
最後の炎が夜闇に消えていった。
「ゴリョウ、無理せんとって?」
「ぶははっ問題ねえ! 言ったろ? オメェさんは俺が守るってよ!」
祈乃を狙う爪がまた防がれる。
いくら引っかいても噛みついてもゴリョウの身体が不調を来すことはないばかりか、傷も再生し鋭い痛みも返ってくる。
傷も痛みも蓄積しているはずだが、何でもないことのようにゴリョウは笑う。
祈乃の巨腕が振り上げられ、舌打ちをした笑般若の横っ面を殴り倒した。
地面に伏した体へさらに冷たき魔弾が降りそそぐ。
その身体は鬼灯が与えた傷で血に塗れ、動きが鈍い。
「おっと、どこに行くつもりだ」
「散々ガキを食っておきながら、今さら逃げるなんざ道理が通らねぇんだよ!」
不利を悟った笑般若が飛び起きるも、ゴリョウのトンファーが頭を叩き呪われた魔弾が突き刺さった。
「あぁ憎らしや憎らしや……!」
がりがりと地を掻く妖にカイトは眉根を寄せる。
「また子どもを喰いに行こうとしたのか? そんだけ子どもが好きなら『喰っちまった』自分自身を呪って果てろよ。さっきの怨霊どもも、好きで未練抱える嵌めになった訳じゃねぇのさ」
「……なぁ。なして子どもば喰うん」
転がる笑般若に祈乃が再び問いをぶつけると、虚ろな瞳が彼女を捉えた。
「貧しい家は、どんなに子が可愛かろうと、家に置く余裕などありゃあせん。山に置いて一人にするくらいなら――喰ろうた方が良い」
養うことが難しい子どもは、さまざまな理由で親元から離されることが多い。
それはどこかへの養子であったり、育児院に預けられたり――山に捨てられ間引かれることもあるだろう。
胸を押しつぶさんばかりの悲しみに耐えられなかった目の前の親は、子を捨てる代わりに喰ったのだ。
「なるほどな……子が好きすぎて狂っちまったのか」
怨霊だけでなく、笑般若までも深い悲しみを抱えていた訳がゴリョウにはわかった。
この妖が『作り出された』理由は、この世を取り巻く無常だ。
「まァけど、いい加減ここらで終わりにしようや。――代わりに呪ってやるよ。お前のその『在り方』を、何べんも」
カイトの両腕に装着された強化外殻から魔弾が飛び出す。
着弾した場所には、小さな氷の柱が立った――まるで、墓標のように。
●
『鬼灯くん、大丈夫……?』
「問題ないよ。治してもらったし、少し休めたから……っと」
装束は血に濡れているが、怪我も不調もアルテラに回復してもらっている。
心配そうな嫁殿に柔らかな声を返しながら、鬼灯は崩れかけた押し入れを慎重に開いた。
黒染みが飛んだ壁や床の奥へサイリウムを掲げると、引き裂かれたような布切れが散らばっていた。
鬼灯は丁寧にかき集め、布でくるんでいく。
「見つけた。……もう大丈夫だ。さ、帰ろう」
『お友達が待っているのだわ、もう大丈夫よ。怖いお化けはもういないのだわ』
「井戸の奥に大人の骨を見つけました。台所には子どものような服もいくつか」
「寝室らしき場所に帯やリボンのようなものもありました」
「大人は服も骨も残ってんだが、子どもはやっぱ少ねぇな」
「……いや、けどほとんど集められた。鬼灯が見つけたものと併せれば人数分はある」
牧やリゲル、ゴリョウ、シガーも屋敷の隅々まで探し、回収していく。
小さな布きれから歯、骨、履物の欠片――出来るだけ取りこぼさないように。
「何の前触れもない別れは辛かったでしょう。残された方たちも、心残りが消えればいいのですが」
憂うような牧の言葉にゴリョウも頷く。
「そのために弔いが必要なんだろうよ。こっから歩いて行くためにな」
リゲルは東の空を見た。
もうすぐ夜明けだ。
「俺たちはただ、彼らの来世での幸せを祈りましょう」
「おやぁ、ここにおいでで」
「うん。……この人も供養したかったんよ」
囲炉裏の間、台所にそれぞれの部屋、屋敷の外――歩き回ったアルテラが最後に見つけたのは、祈乃と小さな土山だった。
捨てられる子どもが、辛さや悲しみを抱える暇もないようにと食べてしまった。
代わりに抱えた辛さや悲しみが暴走してしまった、悲しい妖。
「優しい、子どもば愛する人やったんろうね」
手を合わせる祈乃の横で、アルテラもまた祈りを捧げる。
今を生きる自分たちが出来る、せめてもの手向けと信じて。
村の中で一筋の煙が上がる。
雲のない青空に吸い込まれ消えていく煙を、離れた場所でカイトは見送っていた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
お疲れ様でした!
笑般若も怨霊も討伐され、鬼人種の少年も救われたからか泣いて皆さんを迎えたようです。
きっとすべての魂が成仏したことでしょう。
ご参加いただきありがとうございました!
GMコメント
●達成条件
笑般若の討伐
●フィールド
時刻は夜、曇りのせいか月の光もありません。
屋敷は1階建て、間口の広い入口から入ると囲炉裏の部屋、左に台所と8畳ほどの部屋、右に6畳ほどの部屋が2部屋あります。右奥には縁側があり、井戸や厠へと続いていて、そのまま外に出られます。
●エネミー情報
・笑般若(わらいはんにゃ)
夜に現れる、子どもを食う女の妖怪。角を2本生やし、目は三日月型で口角が上がり、常に笑みを浮かべているように見えるため笑般若と呼ばれています。主な行動は長く伸びた爪の攻撃と噛みつきで、まともに受けると失血状態になり、毒によって体力もどんどんと失われていくようです。また、不可思議な呪を唱えることで相手の体を麻痺させてしまいます。
子どもがいると優先的に襲ってきます。~15歳ほどの外見ならターゲットになるかもしれません。
・怨霊×6体
笑般若に殺された、あるいは無念に思う力に引き寄せられた怨霊です。炎での攻撃のほか、深い悲しみの咆哮を受けるとショックを受ける可能性があります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●ご挨拶
こんにちは。白葉うづきです。夏が近づくとホラーの季節が来たなあと感じますね。
子どもを食べてしまう、とても怖い妖怪のお話です。
皆さまのご参加をお待ちしております。
Tweet