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シナリオ詳細

てふ、舞ふは想ひいろ

完了

参加者 : 2 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 その色は、恐ろしいかたちをしていた。
 かげろいに赫々たるは夕陽が如く燃えている。指先にぷつりと浮き上がった血液が酸素に触れて瞬く間にその色彩を鮮烈に変化させた。ヘモグロビンの色素をも凌駕するは焔のいろ。赤血球、白血球、血小板――そして、決して逃れられぬ縁の如き炎の因子。

 ――こわい。

 暗がりの土蔵で砂を掻いた。爪先は黒く染まり、じゃりと音を立てる。ひかりなど、どこにもない。かみさまは、祝福を呉れていた。その身の魔力に、美しき赫々たる焔を。

 炎神さまは、あいを識り、慈しみ、魔法使いの一族を作り出したと聞いていた。その祝福を受け入れた一族であったことも。
 けれど――生れ落ちた娘は氷の妖精が愛を与えた。祝福を与えた。これからのさいわいをねがった。
 緋眼は氷の蒼い青い色へと染まり、かみさまのことを拒絶した。忌むべき娘としてその存在をひた隠された。待望の娘子であったというのに、よりにもよって相対する氷とは、と謗る声が聞こえてくる。

 長い、長いひとりだけ。
 かみさまの愛はその身の中に確かに息衝いていた。
 炎の加護として、一族の少女を護ると、渦巻きながら。


 茹だる様な日だった。身を焦がすような陽光が燦燦と降り注ぎ、赤く赤く盛り続ける。
 太陽を孕んだような狂乱の日であった。
 家屋は焼け落ち、黒く焦げた残骸より太陽を孕んだ焔の翼を揺らした鳥が飛び立ったのだという。
 ラサの村々を焼いたその鳥を、討伐して欲しいと言う依頼がErstine・Winstein (p3p007325)に舞い込んだ時、彼女の耳に飛び込んだのは『炎の耐性』があるという友人の話であった。
 直ぐ様にコンタクトを取り、早期的に『火の鳥』を斃したいと――そう願ったErstineにアイラ (p3p006523)はじいとその言葉を聞いていた。動く事も出来ない儘、氷の瞳が揺れ動く。
「ひのとり?」
「そう……火の鳥が現れたの。茹だる様な日に身を焦がすような炎、太陽を孕んだような狂乱――そのかたちたる鳥は瞬く間に村を焼いたらしいわ」
 どくり、と心の臓が跳ね上がった。唇の色が失われていく。美しい氷のいろに、不安が募る。
 茹だる様な、熱。
 身を焦がすような、炎。
 太陽の如き、狂乱。

「――こわい」
 ぽつり、と。
「こわいの、エルスさん。
 ボクの認められなかった炎が、すべてを燃やすことが……炎を使って生きることが」
 零されたその言葉にErstineは息を飲んだ。
 怖ろしい。
 屹度、その炎を目にしたときに認めなくてはならなくなる。
 怖ろしい。
 縋るアイラの指先を、ぎゅ、と握った。
「……大丈夫?」
 黒く影が落ちた。空より落とされた暗澹に、混じり込んだ狂乱の気配にアイラは目を見張る。
 太陽が、落ちてくる。そのまぼろしが如く――火鳥はそこに居た。

GMコメント

 日下部あやめです。リクエストありがとうございます。

●成功条件
 火の鳥の討伐

●火の鳥
 茹だる様な熱を。身を焦がすような炎と太陽の如き繚乱の化身。
 その焔の翼は、ちらりちらりと火の粉を落とし、村々へと種を蒔きます。
 焦げ臭いにおいと共に、空より落ちる太陽は、まるで『炎のかみさま』のような姿です。
 屹度、Erstineさんは美しいと感じるでしょう。
 屹度、アイラさんは恐ろしいと感じるでしょう。

 攻撃方法は非常に単調です。それほど強敵とは言えないと思います。
 Erstineさんとアイラさん、二人が力を合わせれば屹度。

●炎の因子
 アイラさんの生まれに纏わるお話。
 炎の神様が恋をし、誕生したその一族は緋眼を象徴とした炎の魔法使いでした。
 しかし、生誕してすぐに氷の妖精の祝福を受けたアイラさんは炎の瞳を氷のいろへと変化させてしまったのです。
 そうして、一族では存在を隠され、禁忌とされたそうです。

 けれど、貴女のその躰には炎の力が宿っているのです。
 怖ろしい。
 だから――その不安を、受け入れられるように前を向く、道を。どうぞ、探してください。
 一人では、倒せなくても二人なら。

 屹度、貴女なら受け入れられると信じています。

  • てふ、舞ふは想ひいろ完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年07月30日 22時10分
  • 参加人数2/2人
  • 相談7日
  • 参加費---RC

参加者 : 2 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(2人)

アイラ・ディアグレイス(p3p006523)
生命の蝶
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)

リプレイ


 ――あかい。


 ちりちりと肌を焦がすが如く、暈を被った日輪が照らす。白堊の道を行くのは二人の少女。
 一方は『Ultima vampire』エルス・ティーネ(p3p007325)。豊かな烏羽色を揺らした夜の眷属の娘。口端より吸血種の牙をそろりと覗かせた儚げな娘は密やかな棘毒をひた隠しにしたようにもう一方の少女の名を呼んだ。アイラ、と。『未来に幸あれ』アイラ(p3p006523)は升花色の髪を熱風に揺らし、唇を噛み締める。白く色彩の変貌した形の良い唇と同じようにそのかんばせからはごっそりと色彩が抜け落ちる。冴え冴えとした氷の色の瞳を隠す様にその両掌で覆い隠し、深く息を吐き出す。
「大丈夫よ、さぁ……一緒に乗り越えましょ!」
 エルスは励ます様に、そう言った。震える少女の白魚の指先を掬い上げる。何かを畏れるという感情はエルスとて識っていた――乗り越えたばかりの丸い丸い月。皓月の輝く夜にその光を帯びたように両の瞳は色付いた。長い烏羽の色さえも鮮やかなる血色に染め上げられる。永きを生きるその身でも乗り越える事を懼れたのだ。それでも――二人でなら、とエルスが握る指先は体温など忘れたかのように冷たかった。

 太陽を孕んだような狂乱の日、茹だる様な暑さが白砂を焼き肌をも壊すその日。
 家屋は焼け落ち、黒く焦げた残骸より太陽を孕んだ翼を得た鳥が村々を焼いた。炎の鳥、火の象徴。
 その目撃情報を得たエルスは周辺住民に避難を促し、俯いたアイラの背を撫でる。狂乱が訪れる前に――「皆さん、ここは火の鳥が来るわ……どうか避難を」とエルスは静かにそう言った。
 ラサ傭兵商会連合ではその名も通る娘の凛とした指示に頷く住民たちは少ない荷を担ぎ上げて走り去っていく。その背を見送ったアイラは顔を上げ、息を飲んだ。天蓋に堂々とその輝きを放つ鮮やかなる金烏が存在している。どくり、と体中の血液が沸騰する様な感覚にアイラは唇を覆った。
 炎の、におい。熱い、狂乱。
 燻る炎の如くじりじりと全てを焦がした天蓋の存在。その向こう側に、確かに存在した焔。

 ――こわい。

 理解したくないと脳が拒絶していた。理解したくなくとも、厭と言う程に体が理解っていた。
 こわい。震える。こわい。懼れる。こわい。
 ボクは――炎が、こわいのだ。
「アイラさん」
 エルスが呼ぶ。その声にアイラの唇が震えた。こわい。その思いが胸の内側に込み上げては嚥下できない儘に溢れだしそうになる。今すぐに喉奥より叫声を響かせれば楽になれるのであろうか。いいや、屹度それっぽっちでは何も救われやしないこと位分かっている。酸素を供給するために開けた唇の間からぜいぜいと幾度となく呼吸音が漏れ出した。
 己の中で沸き立つ緋炎の血潮が沸き立った。沸騰している、とそう感じたのは頭が莫迦になったからではない。緋眼を象徴する『Laureate』の一族。血潮に刻まれたまじないは悍ましい呪いであり、幸運なる救済であり――自身を人為らざる物とする確固たる火炎の惧れ。
「アイラさんはとても強い子よ。
 少なくとも私は…私だけでもアイラさんの強さを信じてる。
 だって…満月の時の私を見ても大好きだと言ってくれたでしょ?」
 そっと、怯え俯くアイラの背をエルスは撫でた。自身が未だ己の名を知らぬ頃――エルスティーネであった頃。六月六日、天蓋にぽかりと美しい月が登ったその日――

 ――ねぇ、エルスさん。ボク達はありのままの貴女と過ごしたい――
 
 ――……ありの、ままの、私……――

 ――そうです。そしてそれは『今』の貴女もそうなんです――

 そう言って、満月の檻より彼女を連れ出すが如く。そう告げたアイラの言葉を返す様にエルスは静かに問いかけた。聞かせて欲しい、と。踏み込みすぎかしら、囁くその声音に静かに、静かに。雨垂れの如く言葉を溢す。
「……、ええ、と。ボクの、元の世界での、おはなしに、なります」
 旅人(うぉーかー)である自分たちはこの世界に存在しない要素を身に宿す。それは永劫とも呼べる刻を生きたエルスの身にも確かに存在するものだ。
「ボクの……家族の、おはなしです」
「家族――」
 そう、唇に乗せればエルスは自身の脳裏に薄桃の髪をした少女の姿がちらついた。振り払うように、アイラの手を握りしめる。かぞく、ともう一度唇に乗せアイラは唇を震わせる。
「炎のかみさまから、祝福を受けた、赤い目の、一族でした。
 炎を使うことに長けていた、半獣の、一族です。
 ボクも。本来なら、赤い目をして生まれるはずでした」
 ――けれど、アイラの瞳は美しい氷のいろをしている。エルスは目を瞠った。その瞳が一族の証というならば。
 語るのも、思い出すのも恐ろしく悍ましく。アイラは忌み子と自身を罵る声を思い出したようにそ、と耳を塞ぐ。蔑む声が、降る。
「ボクは、出来損ない。或いは、忌み子と。閉じ込められた。
 ……彼らの象徴である、炎が。ボクは、きらいです」
 そして――自身のその身のうちに猛る炎の因子がどうしようもない程に彼らを『家族』と示すから。
「ボクは――家族のかたちが、わかりません。
 彼らからもらったのは、嘲笑と、罵倒と、暴力だけだったから」
「……そう、家族……。そうね、私も家族のかたちには、あまり自身が持てないかもしれない」
 アイラは自身の故郷を識らないと。暴力のいろで塗り固められた恐れの象徴など、何も知らないと首を振った・薄情だろうか、と唇を震わせる彼女に「それなら、私もそうかしら」とエルスは囁いた。エルスは怒りで故郷を滅ぼした。彼女が薄情と言うならば――きっと、自分だって。
「……だから、ですかね。乗り越えるのは。少し、怖いように、思えました」
「……そう、そうなのね。うん。私はね、貴女の言葉に勇気づけられたの。
 満月の夜も――すこぉしだけ。外に居たって良いって思えたの。
 ……だから――だから、貴女が乗り越えたいって望むなら。力になりたいと、そう思うわ」
 エルスは静かにそう笑った。炎の因子、獣の血。それが、彼女の体から溢れる血潮を炎と為す物だとするならば。
「大丈夫、あなたの炎は傷つける為のものじゃない。誰かを支え力になれる温かいものよ」
 火は、全てを燃やし尽すだけじゃない。心を温め、そして、生きる支えになるはずだから――


 ――燃やせ!

 ちがうよ、神様。

 ――総てを壊せ!

 ちがう、ちがうの。ボクはただ、大切なひとを、護りたいだけなの。


 飛来した火の鳥を真っ直ぐに見据えて、エルスは自身が前線で立ち回るとアイラに告げた。
 その美しいかんばせから引いていく色彩に、どれ程の重圧が伸し掛って居るのかは痛いほどに分かった。唇を噛みしめた。赤い血が――自分が厭う物が流れたとしてもエルスはアイラを守るが為、その足に力を込めた。
「アイラさん、先ずはあの鳥をどうにかするわ。……大丈夫?」
 エルスの言葉に、アイラは静かに頷いた。嗚呼、体という体の、血管の中で炎が沸き立っている――! 沸騰している、脳が逆上せそうな程に衝動を溢れさせる。
(炎の鳥……本来の私、氷の吸血鬼だったなら、近づくのも震えてしまいそうな敵。
 けれど――今はそんな私以上に震えている子がいるもの。
 こんな時ばかり、呪いに感謝してしまうのは……皮肉な事ね)
 エルスは小さく笑った。両脚に力を込める。封蝋の指輪に僅かな光を点せば燃え盛るが如く烈火が力を貸す。溶けない氷の鎖がじゃらりと音ならし、魔術で作り上げられた大鎌は凍て付く氷の気配を帯びる。その氷は自身の『心許す相手』にしか溶けることは無いとでも言う様に、翼広げた狂乱の金烏へと全力を放つ。
 美しく冷たい薔薇が如く。一歩、その身を躍らせるように跳躍したエルスの唇が命刈り取るが如く告死を囁いた。その響きは美しくも悍ましい死神が如く――的確に金烏をその場に縫い止める。
(エルスさんが、戦ってる)
 どくり、と鼓動が脈を打つ。アイラの指先に止まった燐葉色の蝶は気儘に踊るように揺れる。
(ボクだって、)
 魔力が込められたラピスラズリのマニキュア包まれた指先が震える。

 ――かみさま。

 ――ボクは、あなたが、こわい。けど、まもりたいものがある。だからボクに、力を。

 長い濡羽の色が僅かに炎に揺れる。火の粉を払うように、狂乱を眼前に受け止めて凍て付く氷の如く瞳を細めるエルスの唇が釣り上がる。死棘思わす言ノ葉を口にするにも喉が焼けそうな程の茹だる狂乱の熱を前に、其れでもと立ち向かう彼女を思いアイラは首を振った。

 傲慢だと思う。それでも、護りたい。
 愛するひとを、彼と帰る場所を――ボクを友と呼んでくれるひとを。
「アイラ」と呼んでくれる愛しい人が居ることを識っている。彼の魔力に染まった蝶がこの指先で励ましてくれるから。
「アイラさん」と微笑んだ彼女が、守ろうと力を振るっている。怯え恐れた彼女の扉を開かせたのはボクだったのに。

 化け物みたいな、こんな血でも、忌み子とよばれたボクの瞳でも。
 ――こんなにもちっぽけなボクの手でも、それが叶うのなら!

「……ボクは、もう。指をさして嗤われた家族のこえにも。
 貴方がくれた、炎の祝福にも。怯えたりなんか……しないッ!!」
 アイラの体から炎が沸き立った。エルスが背に感じたのは狂乱の如き――そして、美しき赤。
 瑠璃の毒に蝕まれるように愛が生まれた。
 氷の瞳に愛されるように。恐ろしさも寒さも失った。
 緋炎の血潮は――その身に、獣の力を与え、蝶々を踊らせる。
「アイラさん……!」
 炎の中、一人でも挫けず戦う彼女の声にアイラはぎこちなく頷いた。
 恐れるばかりでは、失う物が多すぎる。掌からは直ぐに総て毀れ落ちるのだから。

 彼はボクのことを、どんなときもあいしてくれた。
 エルスさんがボクの手を握ってくれた。
 彼らを護るためのちからを、捨てることなどできようか。

「……力を貸してください、エルスさん」
「ええ。貴女が、そう、望むのならば」
 エルスは静かにそう言った。変幻の邪剣を振り下ろす。ステップ踏むようにその身を金烏と踊らせたエルスはアイラの中で確かに『変化』が訪れた事に気付いた。
 誰かを守るために。自分を守るために。そして、何かを為すために。
 乗り越えるべき壁が其処にあったのだというように膝を震わせて『おもいの色』を形に変える。
「ボクの緋(あか)は。ボクの炎は。もう誰にも、消させはしない!!」
 ぞう、と。音を立てた焔が金烏をも焦がす。狂乱の熱を、其れをも上回るほどの氷と炎を。
 総てを纏わせて、砕けるように落ちていく。

 ――この血の運命すら、糧にしてみせる。

 ボクの血潮は、護るために。ボクの炎は、導くために。
 そうして。総てを照らすひかりに、なりますようにと――つよくつよく、願った。君とある為に。


「やった、やったわ! アイラさんはやっぱり強かったの、とっても!」
 その日、ラサの群を焼いた狂乱の炎は消え失せた。エルスはほっと胸を撫で下ろす。
 砂漠の民を救えたこと――そして、それ以上に、アイラという少女が――自身にも勇気を与えてくれた彼女が、一つの岐路に立ち、選び取れたことに感謝をして。
「……貴方の試練に立ち会えて本当に良かった、信じてたわアイラ」
 そう、生涯で初めて呼び捨てにすることの出来た友へ、エルスは労るように声を掛けた。
 華奢な背中を、やさしく、やさしく、恐れる物を振り払うように撫で付ける。
「ボクは――乗り越えれた、んですね」
「そうよ。……おつかれさま」
 ゆっくりと。エルスに凭れ眠るように目を伏せたアイラは、静かに遠い世界の――その身に刻まれた、かみさまを呼んだ。

 ……かみ、さま。ボクは、嫌われていたのだとおもっていた。

 炎神さまは、あいを識り、慈しみ、魔法使いの一族を作り出したと聞いていた。
 その祝福を、ひとと、あなたのちいさなちいさな、戀。
 とおい世界の貴方の戀のあかし。それを、ボクにものこしてくれて――ありがとう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度はひとつの選択へのリクエストを誠に有り難うございました。
 おもひのいろは、あなたの鮮やかなる緋の色のように。

 これからの、おふたりにさいわいがありますよう。
 有り難うございました。

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