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シナリオ詳細

<禍ツ星>迫り食らうは黒き焔刃

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●祭り囃子はまだはやく
 からん、こらんと歩く人々の下駄の音が心地いい調となって耳をうつ。
 今はまだ日も高いが、夜が更ければ並ぶ提灯たちも火を灯し、あの独特の光を照らすのだろう。
 祭りを楽しむ人々の様子を眺めながら、遠く故郷の事に思いを馳せる。
 肇は、そんなカムイグラの縁日にとけるように馴染んでいた。
 ――目を閉じて、風に乗って聞こえる喧騒に耳を傾けたその時だった。
「うわぁぁあああ!!!!」
「な、なんだ何もんだ!?」
「た、たすけ――――ぎゃぁぁあああ!!!」
 とっさに目を開いて、聞こえた方を振り返る。
 ここからでは様子はうかがえないが、大太刀が天へ斬り上げられるのが見えた。
「辻斬り……?」
 唐笠帽子をそっと持ち上げ、そちらを見て呟き、愛刀に手を置いた。
「お、おい、武者様が来られたぞ!」
 そんな言葉の直後、鮮血二つ。更には悲鳴がとどろいた。
「お、おい、与吉! 大丈夫か!? ぐあっ!? なにすんだてめぇ……!」
「なんだかわからないけど、拙そうなことになってるわね……!」
 混乱が広がっていく――その様子に耐え切れなくなったように、肇は混乱の中枢へと走り抜けた。

 そこに広がるは地獄絵図。
 渦中のど真ん中、そこにいるのは人型の何か。
 人ではない――妖でもない。せめていうならば、精霊種というのが近いだろうが――それも確実に違うだろう。
 自らの身体のそこら中から炎を走らせるソレを、肇は知らない。
 ゾッとするほど濃い呪を帯びた大太刀を手にするその化け物の周囲には、多くの人々がいる。
 彼らはどよめき、蠢きながら、発狂したように周囲の混乱を冗長させていく。
 人型が動く――その先にいるのは、尻もちをついて後ずさりをする一人の男。
 肇は咄嗟に双刀を抜き、その前へと躍り出た。

●其は大地の癌
「皆さま。すぐに神ヶ浜に向かってください」
 アナイス(p3n000154)が切羽詰まった様子でそう告げる。
 大海原を超え、大魔種、滅海竜との激闘を繰り広げた先――カムイグラ。
 政治の中枢に食い込む魔種の悪意。八百万(精霊種)と鬼人種の確執――様々な課題が存在する新天地。
 一先ずは神ヶ浜で行われる夏祭りを楽しもう――そう考えていた矢先のことだ。
「特異運命座標を忌むナナオウギ最高権力者……そして、巫女姫が夏祭りを快諾したのも、恐らくはこれでしょう。
 実は、夏祭りの会場に呪具の類が出回っているようなのですが……これはそれとも少し趣が異なります」
 そう言ってアナイスが君たちに差し出したのは、一枚の資料だ。
「現場は直ぐ近く、見てもらった方が速いでしょうが、実は『肉腫』と呼ばれる者達も暴れているのです。
 その中の多くは凶暴化こそすれ、比較的弱く、肉腫となる前の意識があったりする個体もいるようなのですが……」
 聞き慣れぬ肉腫――或いはガイアキャンサーと呼ばれるモノは、滅びのアークが蓄積された事により発生した『この世で生まれた、この世の異物』なのだという。
 それはちょうど、『精霊種』や『秘宝種』がイレギュラーズの接触により変化を受けたように。
 いうならば、『滅びのアーク側の精霊種』とでもいうべき存在なのだとか。
「その比較的弱い者達は、生まれ落ちたその瞬間から肉腫――純正肉腫によってそう変ずるようです。
 この純正肉腫が暴れています。今は近くにいたらしい女性の傭兵が庇っているようですが、それも長く続かないでしょう。
 何とかして、この純正肉腫を撤退に追い込んでください」
「討伐じゃなくて……ですか?」
「はい……理由としては単純なのですが、今回は夏祭りのただなか……人々が多すぎるのです。
 それに、肉腫は精霊種のアーク版と申しました通り、『何が肉腫になるか分からない以上』
 下手に討伐のために力を入れ、長期戦を演じればその分だけ敵が増える――かもしれません」

GMコメント

さて、そんなわけで夏祭り真っただ中の全体依頼が始まりましたね。
こちらでは新要素となる肉腫(ガイアキャンサー)との戦いになります。

速めの再会となりました。

●オーダー
純正肉腫(ガイアキャンサーオリジン)の撤退

●戦場
縁日の会場。避難が開始されてはいるものの、
それでもまだ人が多く存在しています。
彼らが完全退避を速くするにはするには誰かの先導が必要です。

見晴らしは大変良いです。

●エネミーデータ
【純正肉腫(ガイアキャンサーオリジン)】
生まれた時からの肉腫、悪意の塊です。人型をしつつ、全身のあちこちに極少の炎を迸らせています。
その外見から、炎の要素を持つと推定されます。また、その手には呪具らしき大太刀が握られています。

非常に高い物攻、神攻を有し、反応、防技などは高め。
回避、EXAは並み、それ以外の能力はやや低めですが、魔種相当には強力な個体であると言えます。

・スキル
紅蓮斬光(A):物中貫 威力中 【災厄】【業炎】【呪い】
冥獄殺刃(A):物近単 威力大 【災厄】【致命】【業炎】
業焔三連(A):神超単 威力中 【万能】【災厄】【??】【連】
焔昇振舞(A):神?? 威力? 【??】【??】【狂気】
斬傷膿種(P):パンドラを持たぬ存在への攻撃時、対象を肉腫化する

【複製肉腫(ガイアキャンサーベイン)】×6~
純正(オリジン)によりなにがしかの干渉を受けた者達。
これまで疫病と呼ばれていた案件は、どうやらこの複製肉腫だったようです。
今回のケースではオリジンにより斬撃を受け傷を負った者がなっている様子。
皆一応に凶暴化しています。元々は八百万や鬼人種です。
彼らの生死は問いませんが、オリジンとは異なり、『戦闘不能』にすることで戻る可能性が大いにあります。

殆どが一撃で倒れる雑魚敵です。
ただし、警備隊を務めた武者達3人は他のベインよりも多少強力です。

●味方NPCデータ
【永倉肇】
『金星獲り』すずな(p3p005307)さんの関係者、かつての仕事仲間の一人でした。
懐かしき日の記憶、懐かしき日の声(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3629)での再開以来、
かなり早期、2度目の再会となりました。
普通にお祭りに参加していたところ、純正肉腫に鉢合わせたようです。

彼女自身もパンドラを持つ旅人(ウォーカー)のため、肉腫化は免れています。
とはいえ、魔種相当の純正肉腫に加え、向かってくる複製肉腫相手にも注意しつつ
たった一人で戦い続けるのは純粋に無謀と言わざるを得ません。
皆さまが合流するころにはかなり疲弊をしています。回復が必要です。

吸葛と銘打たれた大小二振りの妖刀を武器に、
華奢な体からは思えぬ豪快で力強いパワーファイトをしかける他、
剛力の加護を利用し、射程圏内に剣圧を撃ち抜く
遠距離攻撃も加えたオールラウンダーになっています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <禍ツ星>迫り食らうは黒き焔刃完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年08月05日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
七鳥・天十里(p3p001668)
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
すずな(p3p005307)
信ず刄
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
篠崎 升麻(p3p008630)
童心万華

リプレイ

●黒き焔
 はじめの身体はボロボロだった。
 致命的な幾つかの傷からは血が流れ、そこら中に焼きついた焔が身を蝕む。
 意識して周囲を見れば、まだ逃げ惑う人々の数は多い。
 何より、あれを抑えながら人々を守ること自体、かなりの無茶だった。
 喧騒を気にかける余裕など、ほとんど残ってない。
「あぁもう! 鬱陶しいのよ!」
 刀を鍔側深く握り、へばり付いてきた民衆二人の鳩尾を撃ち抜いて気絶させ、剣を振り下ろす武者2人を後ろに跳んで躱せば、眼前に矢があった。
 躱せどぴしりと頬を掠める傷。無理な動きをした足がもつれつつも何とか着地し――咄嗟に双刀を重ねて構える。
 振り下ろされるは漆黒の焔に燃え上がる巨大な太刀。防ぐのではだめだ、やるなら躱せ。
 わかっていても、今の身体では、体勢ではそれも難しい。
 確かな刃の痛みが、全身を焼きうつ呪いが、上から下へと走り抜けた。
「ぐっ……」
 見上げる長身、そこで悪意に満ちた双眸と目が合った。
「終わりだ、小娘――」
 深く重い声。太刀に帯びる焔と共に、ぎらつく刃が迫ってくる。
(……拙いわね)
 わかっていても、身体を動かすのは間に合うまい。
 食らえば致命傷のそれは――当たらなかった。
「貴様――誰だ」
 自分と男の間に、人が割り込んでいた。
「折角みんなが楽しくお祭りやってるところで、よくもまーひどいことしてくれるね!
 そういうやつ許せないなー、悪者は嫌いだよ」
 太刀を二つの銃で抑えるようにして防ぐ『ガンスリンガー』七鳥・天十里(p3p001668)は男をにらみ据える。
「……この輝き、後ろの小娘と同じか……! 忌々しい!」
 ぎりぎりと力任せに押し込むような敵の一撃を弾き、伝えられていた傭兵をかばうように立つ。
「お祭りを邪魔するなんて……そこの屋台のとか、おいしそうだったのに。
 なんだかよくわからない敵だけど、ゆるせないね……!」
 愛らしい兎耳をゆらゆらと揺らす『ひだまりうさぎ』コゼット(p3p002755)の声を聞きつけた男がそちらに視線を向ける。
「神使……悍ましい奴らだ! 貴様から殺してくれる!」
 ゴウと燃える焔の熱量を上げる男が叫ぶ。
「一体なんですかこれは! 折角のお祭りが台無しに……! ってはじめちゃん!?」
「うるさいわね、クソわんこ……頭に響くでしょ」
 傷だらけの身体を無理やり起こすはじめの姿を見た『金星獲り』すずな(p3p005307)はいつも通りの憎たらしさ――いや、空元気のような言葉を無視してはじめに近づいた。
「まさか、今まで一人で……? はじめちゃんのバカ! なにやってんですか、こんなに無理して……ほら、こっち来てください!」
「ちょ、わかったわよ……いっ――」
 すずなに引きずられるようにしてはじめが後退したところで、魔方陣が浮かび上がり、結界が張り巡らされた。
 散り付く焔が消え、夥しい傷が癒えていく。
「よくここまで耐えた。……後は私たちが、多少の『助力』を行うとしよう」
「……助かったわ。ありがとう。この調子なら……」
 魔方陣――幻想理論「碧緑の宮殿」を使用した『Knowl-Edge』シグ・ローデッド(p3p000483)の言葉にはじめが頷き、立ち上がる。
 それでも傷が深いことは見ればわかる。
「これ以上無理するのは私許さないですよ! 避難誘導のお手伝いしてください!」
「……――分かったわよ」
 少しばかり複雑な表情を浮かべたはじめも、直ぐに頷いてすずなと同じように周囲の避難誘導を始めた。
「皆さんは早くこの場を離れて下さい、危険です! ほらはじめちゃんも声出して!」
 すずなははじめを戦場から離すようにその身体を押しながら周囲で怯えながら右往左往する民衆に声をかけていく。
「分かったわよ! 押さないで! あんた達、まずは落ち着きなさい!
 落ち着いて、無理をしないであいつから離れなさい!
 大丈夫、あいつらは神使よ! あいつらを全力で守ってくれるはずよ!」
 はじめも同じように叫びながら人々の方へ声をかけていく。

「――いくッスよ!」
 二人と入れ替わるように前に出たのは『黒犬短刃』鹿ノ子(p3p007279)だ。
「雪の型――雪上断火!」
 黒蝶を振るい、突貫と共に放つ技は深々と降り積もる雪のように静かに、幾度に渡って切り刻んでいく。
「防御技術が高い? 回避力がある? そんなもの、命運(クリティカル)を前に成す術はなし!
 耐えていれば凌げると思ったら大間違いッス!
 二撃、三撃、四撃、いつ終わるか分からない連撃を耐えきる覚悟はあるッスか!」
 それは最早、一握りの命運などでは決してない。たぐいまれな不運を絶対的にねじ伏せた猛攻が純正肉腫へと連続して撃ち込まれる。
「やってくれるではないか、貴様ら――」
 憎悪に満ちた瞳をコゼットに向けた純正肉腫の握る呪の太刀が振り降ろされる。
 コゼットはそれを軽やかに躱すが、翻って迫った刀身が微かにその身に傷を付けた。
「祭りの場を打ち壊すとは、情緒の欠片もありませんね……」
 霊気によって両手を硬質化させた『玲瓏の壁』鬼桜 雪之丞(p3p002312)は、純正肉腫の周囲で呻く複製肉腫に聞き知らせるように手を叩いた。
 鈴の音のように軽やかで穏やかなその音色は戦場においては異質であり、人々の注意を惹くに大きな効果があった。
「おいでませ。おいでませ。傷が痛むなら此方へ。傷を苛む憎悪なら、此の身へどうぞ」
 甲冑姿の武者2人が雪之丞の姿に警戒するように白刃を握り接近していく。
 それの後を続くように平民らしき1人、接近し始めた。
「おいおい、マジかよ……!
 よりにもよって、こんな形で祭をぶち壊しやがって
 肉腫だかなんだか知らねえが、許さねぇ!
 お前ら、僕が相手してやる! かかってこい!」
 駆け付けた『特異運命座標』篠崎 升麻(p3p008630)は周囲の様子を見ると、直ぐに名乗り向上を上げた。
 それに反応した武者1人と、平民が2人、升麻の声に反応して動きを見せる。
 自らに破邪の結界と魔力障壁を展開した『狐です』長月・イナリ(p3p008096)はコゼットと純正肉腫の間に割り込むように躍り出た。
「その程度の炎で私を燃やし尽くそうなんて甘い考えだわ!
 私も燃やしたいなら、せめて火之迦具土様の炎でも持って来ることね!」
 挑発と共に布都御魂剣と天叢雲剣、それぞれの贋作を構える。
「邪魔立てするな、小娘!!」
「その程度の炎で私を燃やし尽くそうなんて甘い考えだわ!
 私も燃やしたいなら、せめて火之迦具土様の炎でも持って来ることね!」
 立ちふさがったイナリごと切り捨てるように、純正肉腫が太刀を振る。
 業炎を纏った斬撃が振り下ろされ、イナリはそれに合わせて剣を向ける。
 ひどく重い一太刀だが、イナリに齎される業炎も、その深い呪いも、イナリにとってはさしたるものではない。
 一撃の猛威はイナリに庇われるコゼットにも走るが、コゼットはそれを持ち前の回避技術を駆使して潜り抜ける。
 天十里は左腕を後ろに向け、グラップルワイヤーを使って思いっきり自分の身体を後退にすっ飛ばす。
 model.1をホルスターにおさめ、夕暮れを純正肉腫に向ける。
 引き戻しの終わり、左腕を軸に無理矢理体を起こし、銃口向けた引き金を引く。
 静かな発砲音と共に放たれた一発の弾丸は防御の出来ぬ関節を撃ち抜いた。
 イナリは双刀に簡易の封印術式を籠めると、思いっきり純正肉腫目掛けて叩きつけた。
 強かに撃ち込まれた一撃が肉腫に傷を付ける。
「さて、魔剣の加護……という側面を見せるのも最近は多くなってきている。そう簡単には倒れさせはしないさ」
 シグは自らの魔力を大きく高め、コゼットとイナリに加護が行き届く場所まで移動すると、ブレイクフィアーによる状態異常からの治癒を施す。
 コゼットは魔兎の毛を用いた小盾を振り抜いた。
 その下に秘められていた暗器が走り、純正肉腫の持つ太刀めがけて飛翔する。
 幾つかの暗器が肉腫の腕に突き立ち、潜められた毒性がもたらされる。
 鹿ノ子はツインテールを靡かせ、再度の連撃を叩き込む。
 安定して放たれる連続攻撃は順調に純正肉腫を刻んでいく。
 深々と撃ち込まれる連撃は、一撃こそさほどの火力でこそないものの、その手数を以て純正肉腫を圧倒する。

 雪之丞は夜刀・虚と鵺、両刀を振り回し始める。
 純黒と漆黒の二刀は回転し始めれば、まるで黒い台風の如き暴風を生み出した。
 接近してきた複製肉腫たちを全員巻き込む漆黒の台風は、1人の平民を地面に崩れ落とす。
 残りの武者2人もその場で動きを止める。
「殺しはしません。ただ、その身を苛む呪いを祓うのみです」
 武者2人の姿を見据えながら、雪之丞は立ち位置を調整していく。
 升麻は妖刀を振りぬいた。
 妖刀に帯びた霊力は群青色の輝きを放っていた。
 それは命を禊ぐ海。
 荒波の如き暴力的な波涛に打ち据えられた2人の平民と武者1人が呑み込まれていく。
 命を取ることなく、只鎮める母なる海の波涛を受け、平民2人がその場に崩れ落ちる。
「チッ……不殺の技で殴るとはいえ、犠牲者を攻撃すんのは辛ぇモンだな!」
 地面に沈んだ2人を見下ろした升麻は舌打ちし、白刃を握り近づいてくる武者と相対する。
「じゃあはじめちゃん! 次はここで倒れてる人たちを安全な場所へ!」
 避難誘導を終えたすずなははじめへそう告げた。
「……なんで私があんたの命令を受けなきゃいけないのよ!」
「はじめちゃんにしか出来ないんですよ、今は!」
 少し不機嫌な様子を見せるはじめに対してすずなはさらに言葉を続ける。
「私も、これ以上はじめちゃんに無茶して欲しくないから――お願い!」
「…………分かったわよ。まったく、今回だけは譲ってあげるわ」
 ついっと顔を横に向けたはじめが、倒れている平民たちの方へと走り寄っていく。
 すずなはそれを見て安堵の息を漏らすと、竜胆を抜き、純正肉腫の方へ視線を向け、走り出した。
(見るからに燃えてますが、準備は万全! 心頭滅却すれば火もまた涼し、です!)
 竜胆を握る手に力が入る。踏み込む足にも。
 それなのにどこか思考は冷静に。


 魔種に匹敵せんばかりの猛攻は侮ることのできるものではない。
 それでも敵の注意を引いて戦い続けたことで民衆への被害は抑えられていた。
 天十里はグラップルワイヤーを純正肉腫の足元目掛けて射出すると、巻き戻しの勢いを乗せて引き金を引いた。
 銃声を置き去りにする超加速と共に打ち出された弾丸は純正肉腫の腹部に着弾、天十里は超加速の勢いを更に利用し、敵の懐に飛び込んだ。
 赤熱化した重心より放たれるは燃え上がるような天十里の意志を反映した銃弾である。
 夕暮れとmodel.1、二丁の拳銃から放たれた弾丸はまっすぐに肉体を切り刻む。
 赤熱化した余波でじゅぅと音を立てた銃身が天十里の量の手を焼いた。
 純正肉腫がその手に業炎を纏った。
 漆黒の業炎を燃え盛る弾丸と変質させた純正肉腫がイナリ目掛けて放つ。
 三度にわたって放たれた炎の弾丸がイナリへとまとわりつく。
 傷こそ至らなかった。しかし――その弾丸に込められた呪がイナリを苦しめる。
「やってくれたわね!」
 ぶるりと体を震わせ、美しい毛並みの尻尾が揺らぐ。
 イナリは煌々と輝く炎を刀身に帯びた双刀を握り締めた。
 異界の雷神が振るう魔を祓い滅する古剣、布都御魂。
 異界の山河の神より切り落とされた古剣、天叢雲。
 贋作とはいえど、振るわれる剣の力の一部は強烈無比。
 布都御魂で純正肉腫の堅牢な防御を叩き折り、天叢雲の炎獄の如き一撃を純正肉腫の肉体に刻む。
 イレギュラーズと同じようにちりつく炎に対して耐性でもあるのか、純正肉腫が猛る。
(できれば、せめて呪具……こいつのは妖刀かな、没収したいけど……)
 逃げた先で事件を起こさせぬよう、なんとか弾き飛ばしてしまえないか、試みるコゼットだったが、その成功は難しかった。
 まるで純正肉腫と一体化したかのような妖刀を彼?から奪うことは難しく、それに執着して同じ場所を狙い続ければ対応されかねなかった。
 コゼットは純正肉腫へと近づくと、その魅惑的な耳を再びぱふぱふと揺らす。その不思議な揺れ動き方に純正肉腫の視線が再びそちらに集中する。
 シグはその瞬間まで待っていた。輝く奇跡を用いてその身を復調させたまま、コトンと戦場に転がっていた。
「無機物の姿は生命活動が分かりにくいのでな。……こういう使い方もある!」
 剣の姿で転がっていたシグはふわりと宙に浮かび上がる。
 魔剣の鞘付近にある血晶――『彼女』を思わせる加護で己の魔力を急速に高めていく。
 鮮やかな赤と入り混じった光の刀身を成形し――勢いよく純正肉腫目掛けて振り下ろした。
「行きます……!」
 すずなは竜胆を自然に構え間合いを詰める。
 構える純正肉腫の太刀が見える。
 すずなは踏み込みと同時にその太刀の間を縫うようにして突きを放つ。
 弾かれた剣の動きをそのままに、勢いを詰めて、斬り降ろし、返すようにして斬り上げた。
 高速で斬り広げられた斬撃に相手が少しだけひるむ。
 まるで吸い込まれるようにすずなは次を薙ぎ払った。
 ずきりと痛む手さえ気にしない。
「これ以上荒らされる前に、お引取り願いましょう」
 すずなへの反撃に振るわれる剣に雪之丞は合わせるように雪之丞は前に出た。
 ずしりと重たい一撃が身体にのしかかる。
 その重みをそのまま利用するように前へ。
 懐へ飛び込むと同時、二つの黒が純正肉腫へと走り抜けた。
「状況が状況とはいえ、逃がさなきゃならねぇとはな……クソがッ!」
 苛立ちを露に言う升麻は踏み込みと同時に妖刀を敵に向けて薙ぎ払う。
 微かな妖力を可視化させた妖刀が軌跡を引きながら、純正肉腫の腕へと走り抜ける。
「花の型――胡蝶嵐! いつまでもそんなふうな顔をしていられると思わないことッス!」
 鹿ノ子は仲間たちの連撃を受けて体勢を崩す純正肉腫へと猛攻を叩き込む。
 黒蝶――軽量化された太刀状の黒犬レプリカがまるで黒い蝶の群れが花へ群がるが如く、無数の傷を刻み付けていく。
 そのうちの一撃が、真っすぐに伸びて純正肉腫の顔を大きく切り裂いた。
「……ぐぅぅぅう、やってくれたな!!」
 純正肉腫が顔を押さえながら唸り声をあげ、その太刀を天に掲げた。
 収束していく邪悪な魔力が、やがて太刀を振動させていく。
「――吹き飛ぶがいい!!」
 そのまま振り下ろされた刀身から放たれたのは猛烈な爆発だった。
 尋常じゃない爆風に加護がほどけ、身体が後方へ吹き飛んだ。
 イレギュラーズ達が体勢を立て直すよりも前に、純正肉腫の姿はそこにはなかった。


 横たわる人々の下に救護の者が駆け付け、運んでいく。
「撃退したけど、どうするんだろう……まわりの安全確認して
怪我人を治療したら、お祭り再開してくれるかな?」
 コゼットは周囲を見渡した。
 周囲の屋台の幾つかは余波で吹き飛び、とてもじゃないがこのまま夏祭りを再開するのは難しそうだ。
 やるにしてもここの付近では数時間のうちに再開、なんてことはほぼ無理だろう。
「疲れたわ……盾役なんて慣れない事するもんじゃないわねー」
 イナリはこわばっていた身体の力を抜いてだらける。
「はじめちゃん、何処に行くんですか?」
「もうこの傷じゃお祭りとかやってられないし、私はもう帰るわ……」
 傷を押さえるはじめの姿は痛々しい。
 いつも通りのつんけんとした様子で立ち上がる。
「はじめちゃん……無理せずちゃんと休んでくださいね!」
 立ち去っていくはじめを見ながら、すずなはそう叫ぶ。
 喧騒が徐々に戻ってくる。

成否

成功

MVP

鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり

状態異常

コゼット(p3p002755)[重傷]
ひだまりうさぎ
長月・イナリ(p3p008096)[重傷]
狐です

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。
お見事です。とはいえ、激戦ではありました。
ひとまずは傷をお癒し下さいませ。

MVPはあなたへ。なんやそのCTとFB……恐ろしい……

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