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シナリオ詳細

<イワサマー・フェスティバル2020>七月七日もエンジェルいわしの日ってことにしようや

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ちなみに本当のエンジェルイワシの日は10月4日だよ。理由が気になったら自分で調べてみてね。
 海洋王国が新天地を発見し、夏も近づく七月七日。来る大イベントに向けて人々は浮き足立っていた。
 それは世界各国変わらぬことだが、こと海洋王国においてはひと味違う。
 そう、今年はカムイグラでの夏m――。
「今日はエンジェルイワシの日だよ!」
 満面の笑みでカメラにスライドインしてくるアンジュ・サルディーネ (p3p006960)。
 次の水着を選ぼうと必死に何かを回していたソア (p3p007025)がハッとして振り返る。
「ちょっと、何言ってるの。さすがにそれはないよ。今は夏m――」
「今日はエンジェルイワシの日だよね?」
 アンジュは犬と森ゴリラの襟首をガッと掴むと、二人の耳元でそれぞれ『進めるぞ』と囁いた。
「今日はエンジェルイワシの日です!!!!」
「エンジェルイワシをたたえようね!!!!」
 ガタガタ震えながら叫ぶロク (p3p005176)とフラン・ヴィラネル (p3p006816)。
「そういうわけだから、称えてね」
「称えてねと言われても……」
 ジェック・アーロン (p3p004755)は眉を寄せてうーんと空をあおぎみた。
「お困りのヨウですわね!」
「その声はっ」
 髪をなびかせ振り返るジェックの目に映ったものは。
 ――ガスマスクをつけて虚空を見上げるタント
 ――ガスマスクに手をかけるタント。
 ――ガスマスクをはずそうとしてどこをどうすればいいのか分からず頭のあちこちをペチペチするタント
 ――若干涙目になってこっちを見るタント
 ――両手を突き出して猛烈に走ってくるタント
「ハズせなくなりましたわー! ハッ、コレはまさかジェック様と同じあノ――」
「おちついて」
 ぴょいーんと抱きついてきた御天道・タント (p3p006204)の頭に手を回し、ベルトを操作してガスマスクを外してあげるジェック。
「向こうじゃ外れたら大変なことになる装備だったからね。簡単に外せないようになってるんだよ」
「安心しましたわー」
 ほえーんとゆるんだ顔でジェックの胸に頭をうめるタント。
「「…………」」
 その一連の様子をしばらーく観察していたフランたちは、ハッとして言うべきことを思い出した。
「そ、そうだ! 祝う称えるっていっても何をすればいいかわかんないよ!」
「わからないのぉ~?」
 笑顔から一ミリも表情を変えずに、低いトーンで囁くアンジュ。
「しっています! 一億年と二千年前から決まってます! ね! ロクくん! ね!!!!」
「えっなにそれわたしわかんない犬だしお散歩しよしっぽしっぽ追いかけるね首いたい首!」
 ロクに助けを求めるフランと犬になりきって現実から逃げるロク。
 そんな、デッドロックめいた状態のせいで話が進まず依頼がここで終わろうかとしていた現場に突然の美少女ライダーが!
「「お困りのようだな!」ですね!」
 アルプス・ローダー (p3p000034)にノーヘルでまたがる咲花・百合子 (p3p001385)。
 清楚にサングラスを外すと、清楚に流れる重厚なギターソロBGMのなかで髪を清楚にかきあげた。
「エンジェルイワシの日が何かわからぬならば」
 ハンドルをこちらへきって、ヘッドライトをモールス信号ばりにぺかぺか点滅させるアルプスローダー。
「私たちで作ってしまえばいいのです」
「具体的にはイワシフライを山のように食えばよかろう」
「イワシを食べるな!」
 金属バットを内角低めにスイングするアンジュ。
 対象、バイクのエンジンルーム。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」
「将を射んと欲すればまず馬を射よ――理にかなったスイングであるな」
「今の絶対私のせいじゃないですよね」
 きゅうって百合子へ振り替えたアイボールセンサーがピンク色の光彩レンズをカッと見開いた。
「話を戻してさ……」
 唇に人差し指をトントンとやって、ジェックは眉を左右非対称にゆがめた。
「アタシたち今から何をすればいいの」
「ジェック様、あまりに状況に対して素直すぎでは?」
「当然、エンジェルイワシを広めるよ!」
 アンジュはわーいといって両手で万歳すると、その手で少女がやっちゃいけないサインをビッてした。
「あとイワシを食べる人達を■すよ」
「「――!?」」
 オーケー皆、クレイジータイムが始まるぜ。

 と、みせかけて。

●そして運命のイワシは回り出す
 ――『僕は……誰だろう……』
 浜に打ち上げられた子イワシが偶然にも見知らぬ少女に助けられ、大きな金魚鉢の中で飼われていたという。
 イワシはその環境に満足していたが、貧しい長屋暮らしゆえだろうか、借金をこしらえすぎた父がパンクなヤクザ者たちに連れて行かれ、家財道具一式が今まさに奪われようとしていた。
「おい見ろよ、こいつ魚なんか飼っていやがる」
「育てて食うつもりなんだろ。どれ、俺が買ってやろう。旬は先だが小腹が空いた。八兵衛、八兵衛、火をたいておけよ」
「へい旦那!」
 喧嘩慣れしたであろう男が木刀を肩にひっかけ、片腕側の上着を脱いで肘をひっかけるという乱暴なスタイルのまま金魚鉢へと歩み寄る。
 おかっぱ頭の少女はやめてと叫んですがりつくが、後ろ髪を別の男がつかみ取った。
「魚ぐれえでケチケチするんじゃねえや」
「ピーピーうるせえガキだなあ。黙らせておけ。八兵衛、火はまだか!」
「へい只今!」
 銀色の髪をした海法師(ディープシー)の少女。少女が、泣いている。
 ――『僕には、娘が、いた……気がする……』
 生まれて間もない子イワシは、身に覚えの無い父性と記憶にない血縁を想像して、きょろりと目を動かした。
 ――『たすけなくては』
 途端、イワシは金魚鉢から飛び上がり、ヒレを白い産毛でいっぱいにした。それはまさしく、エンジェルいわしの姿であった。
 ここ、新天地。
 カムイグラでの物語である。

GMコメント

 ご用命ありがとうございます。私はなぜその日が10月4日だからというだけの理由でエンジェルイワシの里親捜しなんていう依頼を作ってしまったのか。ことここに至ると運命の掲示だったのかもしれないと思うようになりました。
 故にってわけじゃあないが、付き合うぜ。今夜は。

■オーダー
 アンジュの無茶ぶりにより、夏祭り前で浮かれるカムイグラでエンジェルいわし祭りを開催させられるハメになりました。
 そんな皆さんはとりまその辺の長屋に押し入り七輪で魚焼いてるご家庭を一軒一軒回っては『イワシはやめとけ』て言ってあげるという寄行を繰り返しなんなら通報されかけていましたが、そんな中で『イワシさんをたべないで!』という少女の悲痛な叫びを聞きつけました。
 こんな状況で上手に答えてください――はいアンジュ亭さん早かった。
(このシナリオフックはPLに対する絶大な信頼によってできています)

■NPC紹介
・少女
 名も知らぬ少女です。この時点でこの子が誰なのかすら分かっていません。
 髪が銀色でディープシーだってことくらいです。

・子イワシ
 つい先日カムイグラの浜に打ち上げられたところを少女に助けられました。
 身に覚えの無い父性や記憶に無い娘になんだかぼんやーりとしていますが、謎の使命感にかられ飛び上がったところなんとエンジェルいわしに変身しました。なぜ? 本当になぜ?

■現場
 所得の低い方々が細々暮らす長屋街です。皆さんはここに集結していてもいいし、していなくてもいい。

  • <イワサマー・フェスティバル2020>七月七日もエンジェルいわしの日ってことにしようや完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年07月22日 23時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルプス・ローダー(p3p000034)
特異運命座標
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
ロク(p3p005176)
クソ犬
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
アンジュ・サルディーネ(p3p006960)
世界の合言葉はいわし
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣

リプレイ

●こころせよ、祭りである
 今から始まるお話はテンションからなにからコロコロ変わり続けるので感情が迷子になったら感情のおまわりさんに道を聞いてね。

「死にたいと願うなら、止めはしない」
 海岸を裸足で歩く。後ろ手に持ったガスマスクが、波打ち際を見つめている。
 垂れ下がったベルト金具が、斜めがけしたライフルのストックに当たっては鳴いた。
 立ち止まる『お姉チャン』ジェック・アーロン(p3p004755)。
「生きるよりも辛い地獄などどこにもなかった」
 とおくで揺れる陽炎を越えて、麗しく長い金髪が揺れている。
 手を振り、駆け寄る姿が。目を大きく開いて頬を赤らめる顔が見える。
 目が良くて良かったと、ジェックはほんのりと笑った。
「生きたいと、守りたいと、そう願うなら。
 生を願う執着を、死を恐れる幸福を、アタシは決して見捨てない」
 駆け寄る、『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)。
 途中で躓いて転びそうになるが、ジェックがそれを抱きかかえるように支えた。
「何をつぶやいていましたの?」
「……昔と、今のことかな」
 雪に積もった灰のような色をしたまつげが上下した。
 見上げるタントの長いまつげに、沈みゆく太陽のような目に、それが映っている。
「生きたいという想いを踏み躙る者がいるならば、わたくしは向かわねばなりません」
 タントの言葉に、ジェックは『ん』とだけ応えた。
 さまようように手首をなでたタントの手を、からめるように握る。
「いこうか」
「ええ、ええ! 全力で参りま――」
「ねえそこの食堂イワシ半額だって! ねえ行こう!」
 『イワ死兆』フラン・ヴィラネル(p3p006816)がすげー勢いでスライドインしてきた。
 さっきまでかかってたムーディーなレコードが踏み砕かれ、キラキラしたエフェクトが海の向こうへ飛んでいく。
「ジェック先輩もガスマスクとれたんだし沢山ご飯食べられるもんね! あたしのお勧めはオイルサーディンをパスタに絡めたやつかな。けど鉄板はやっぱり直火焼きをご飯に乗っけてほくほく食――」
 笑顔のまま、フランが『く』の字に折れ曲がった。
 画面右上に出る巨大な『!?』。
 気づけば、さっきまでフランが居た場所にはオンザバイクの『エンジェルいわし』アンジュ・サルディーネ(p3p006960)がいた。
 ヘルメットのシールドを親指でカッと上げ、たまった熱気を放出した。
「いわしを広め、いわしを愛し、いわしと遊ぶ。
 そんな素晴らしいお祭りを知らないなんて、この国もまだまだだね。しっかり広めないと。
 ……ところで今だれかイワシを食べるとか言った?」
 小刻みに首を横に振るジェックとタント。
「今日はイワシの日。イワサマー・フェスティバルだよ。こんな日にいわしにナメた口きくアンチイワシストは自慢のバイクで追い詰めるね。……追い詰めるよね?」
 バイクの……っていうか『イワ死兆』アルプス・ローダー(p3p000034)のアイボールをアンジェは指でつつーってなで始める。
 アイボールをガタガタふるわせ、アルプスは『オイツメマス!』って謎の電子音で喋った。アバターはどうした。アバターは。
 そんな彼女たちの横にころんって腹ばいになって転がる『イワ死兆』ロク(p3p005176)。
「いわしって七輪で炙ると身の脂の焦げた香りがもうたまらn――」
 ぶおーん。
 いまの四文字で急にアルプスローダーがウィリーしたさまを想像出来ただろうか?
 その一秒後にどうなるか、ご想像いただけようか?
「やだなあ冗談だよ冗談! いわしなんて食べるはずないよねわたしいぬだし! いぬだしー! あーチョコレートたべたいなー!」
 おなか出したままハッハして転げ回るロク。
「面白いことを言うね。殺すのは最後にしてあげるね」
「それ嘘になるやつだよね」
 いつもの依頼じゃありえない、やばやばなワードが簡単にぶっぱなされる。ここは禁句のトリガーが軽い場所。イワシワールドである。
「吾もチョコたべゆー! たべゆであるー!」
 おなか出してハッハいいながら転げ回る『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)。
 見下ろした仲間達の視線を受けて、百合子はぴたりと動きを止めた。
 両手両足をなんかあのおなか出した犬みたいな姿勢で止めたまま、清楚100%の能登声を発しはじめた。
「今日の美少女占い! 最下位は~~~~カニ座! 血雨時々いわし!!
 ラッキーファッションは血肉で染まったブラッディ真っ白コーデ!」
 トゥワ! というかけ声と共にいつもの声に戻った百合子は勢いよく立ち上がった。
「今日の美少女マニフェシュとは三つ
 『いわしをたべるな』
 『いわしをたべるな』
 『ころすぞ』
 である。これで美少女力を高めていくのである!」
 百合子は目を怪しく光らせると、ぬらありと振り返った。
「……であるな?」
「ひっ!」
 それまで我関せずタイガーしていた『雷虎』ソア(p3p007025)が一気にニャーンした。
「ううっ……ふぇ……今日は……」
 (はじめておつかいにいく時のBGMとかを流してご覧ください)
 ソアちゃんいっぱい考えました。
 今日は七夕。夏祭りの真っ最中。
 イワシだって食べるもん!
 けど――。
「今日はイワシの日ぃぃーーーー!!!!」
 野生(?)の本能が震えた。
 ここで不用意に喋れば森ゴリラの二の舞。
 こちとら森のタイガー精霊である。ここで出番が終わってイワ死兆するけにはいかぬのだ。
「復唱ォ!」
「『いわしをたべるな』!」
 ソアは片腕を高く掲げるドイツ式敬礼をした。
「いわしは!?」
「「トモダチ!」」
「たべたら!?」
「「コロスゾ!」」
「よーし、イワシフェスティバルのはっじまりだよ~~~~!」
「「おーっ!!」」
 ウィリーして走り出すバイクのあとを、ソアたちは猛烈に走り出した。
 それではオープニングテーマにのせて走り出す仲間達をご覧ください。

●イワシクソ知識。イワシにはレモン百分の一個分のビタミンCが含まれて居るぞ!
 旬でないとはいえイワシはうまい。七輪の上にのっけてうちわでぱたぱたする風景がカムイグラの長屋街でも行われていた。
「ママー、おなかすいたー」
「もうすぐできるわよ。はいイワシの丸焼――」
「あぶなーーーーい!」
 きりもみ回転して突っ込んできたロクがいぬパンチで殴り倒し、親子からイワシを奪い取った。
「危なかったね。もしこれを食べてたら大変なことになってたもぐもぐいわしうまい!」
 ペロッてするロク。
 その遠くぅーの背景から集中線つきで迫るアンジュオンザバイク。
 ヴォンという音と共に轢かれたロクが、別の意味でペロッてしながら親子を見上げた。
「……こうなるよ」
「ヒッ」
 すぐ向かいのおうちでイワシ食ってたオッサンがなにこれって目で見てきたが、ロクは即座に立ち上がっていぬキックでイワシを吐かせた。
「あぶなーーーい! あっこれ処理しといてメカコロ!」
「NOJA!」
 落ちた『イワシだったもの』をノズルでじゅーってすっていくメカ子ロリババア。
 ペロッてした次の瞬間反対側の背景から集中線つきで迫るアンジュオンザバイクが次のシーンではメカコロを撥ねていた。
 飛んできたメカコロの頭に手を合わせ、フランは周りを見回した。
 するといるいるイワシイーター。
 この辺じゃ旬とか関係なくみんなイワシ食うのかなってくらいポピュラーに鍋で煮たイワシの身をすりつぶして餃子の皮に包んだよくわかんないけど美味いものを食そうとしていた。
 ほんとに食べたくなったら千葉の九十九里浜沿いにイワシ料理専門店があるから行ってみてね。
 けど今食べるのは――
「あぶなーーーーーい!」
 残像を作りながら急接近したフランがおっさんの背中に組み付いてからのフランバックドロップを繰り出した。
「イワシを食べるとイワ死兆がつくよ! そう、あたしみたいに!」
 悲しみの連鎖を断ち切りたい的な涙を拭って、フランは長屋街を振り返った。
 それはもうあっちこっちでイワシを焼こうとしてる人々。びちびちするイワシ。
 フランは手を伸ばし、スローモーションで走り出した。
 髪をなびかせてキラキラした涙の滴を風にちらしながら片手を伸ばして走り出すあのアニメOPでよく見る動きを想像していただきたい。
 そのうえで。
「フランバックドロップ!」
「グワー!」
「フランパイルドライバー!」
「グワー!」
「フランフェニックススプラッシュ!」
「「グワー!」」
 ステータスに反してフィジカルロールが強すぎるフラン(E:イワシの呪い)であった。

 さて、そろそろ本題っていうか主題に移ろう。
「やめてー! いわしさんをたべないで!」
 金魚鉢に飼っていたイワシを食べようとする借金取り。
 それを阻もうとすがりつく少女。
 放送作家がこんなの書いてきたら監督にヤキ入れられるような話だが、そんな現場に――突然のアンジュオンザバイクが!
「ごめんやっしゃー!」
「さーでぃん!?」
 登場即撥ね。きりもみ回転しながら飛んでいく借金取りと、アクセルのところを握ってぶおんぶおーんって口でいうアンジュ(無免許)。
 そう、アルプスちゃんが無免許さんを載せる貴重なシーンである。たぶん荷物として載せてるんちゃうかな。
「誰かな? イワシを食べようとするのは……」
「イワシ食って何が悪いんじゃ!」
「人類悪だよ!」
 ちゃきって包丁を構えたアンジュに、借金取りたちは驚愕した。っていうか引いた。近所にこんなこと言う子が現れたらとりあえず頷いておくくらいにはヤバい目をしていた。笑顔なのがなおやばかった。
「皆様、ここはわたくしに任せて!」
 両腕広げてずざーってスライドして現れたタント。
「急いでお逃げ下さいまし」
「誰!?」
 困惑する少女と奇跡めいたきらきらを纏ったエンジェルいわし。二人に向け、タントは二本指をおでこからピッてやってみせた。
「あなたを守る者……ですわ!」
「「ぬかせぇ!」」
 前方及び左右から同時に掴みかかる借金取りマン。
 そんな彼らのほっぺにタントの平手がぺぺぺーんて叩きつけられた。
「ここは通しませんわ!」
「いやそんなこと言――」
 ぺーんってするタント。
「ここは通しませんわ!」
「……はい」
 斜め下を見て震える借金取り。
 そんな彼のヘッドに、カタクチイワシがサクーッて突き刺さった。
「ぐわー!?」
 血を吹いて倒れる借金取り。
 長屋数部屋分をまたいだ先で、障子戸にあけた穴からライフルを突き出すジェックの姿があった。
 余談だけどライフルの語源はライフリング加工された筒部分にあってこれがない時代のものが一般にはマスケットでありいわば技術的中間点にあたるライフリング加工されたマスケットをライフリングマスケットと呼ぶよ。飛距離と威力が段違いだったらしいよ。
 つまりいますっとんでったいわしは爆発力によって押し出されライフリングの溝にそって回転しながらとんでったことになるね。
「ぐわー!?」
 さっきの続きであることを強調しながらもっかいその場に倒れてくれる借金取り。
「イワシをたべる子はいねがー!」
 続いて庭側の障子戸をクロスチョップで破壊しながら突入してきたソア。
 借金取りの直前空中できゅるるるるって身体を丸めて回転すると、急に身体を伸ばしてドロップタイガーキックを繰り出した。
 物理法則? 知らんな。
「ぐわー!?」
「イワシをたべるとろくなことにならないよ!」
「エンジェルいわしはね、人の心から生まれるの。
 誰かを守りたい気持ち、誰かを愛する喜び。
 天使のような心を持ついわしが人の愛に触れた時、その羽を大きく広げられるの」
 急に語りだすアンジュを、ソアがうっかり二度見した。
「え、エンジェルいわしって同種どうしのかけあわせでできる卵生生物じゃ……」
「あ?」
「にゃんでもにゃい!」
 おすわりしてお口にチャックするソア。
 今日はまったくタイガーしないソアちゃんであった。
「賢明であるな」
 床の畳をガッて下から開いて現れる百合子。
「ヤクザもん、ゲットであるぜ!」
 用なしになった金魚鉢(通称スジモンボール)を激しい回転をかけて投げつけると、直撃して顔面が大変なことになったスジモンに残像を作りながら襲いかかった。
「今日の吾はちょっぴり修羅であるぞ★」
 ホアアって叫びながらお優雅に百裂突きを繰り出すと背中に『清楚』の文字を輝かせながらターン。
「グワー!?」
 スジモンっていうか借金取りマンはスローモーションで飛んでいった。
「いわしの世界は苦界であろう……せめて痛みを知らずに散るがよい」

●イワシクソ知識。千葉県の小学校には海へイワシを食いに行くイベントがある。米持参で。
 畳に膝をついて、タントの後ろから肩越しに手を回す。
 障子戸を台にしたライフルに、手の甲にそっとかぶせるようにして持ち方を伝えた。
「よく見て、狙って……」
 肩越しに囁くと、タントの髪のふわふわとした感触が頬と顎をなでるようだった。
 ジェックは今すぐにでもガスマスクを外したい気持ちに駆られたが、呼吸を整えて目視に集中した。
 片目を瞑りスコープを覗くタントと、自らの視力と直感で位置を測定するジェック。
「今だよ、タント」
 タントはその声を心に刻み込みながら、トリガーにかけた指を優しく引いた。
 ジェックはいう。引き金をひく強さは弾に乗らない。
 どれだけ殺意を身体に出しても、弾は正常な爆発と回転しかおこさない。
 だから正しい殺意は、優しく静かに、そして小さく正確に動くべきだ。
「悪いね、これも――」
「――仕事は仕事、ですわ」
 タントは身体に残る銃の反動に目を瞑り、ジェックの胸に頭をあず――
「イワシィー!」
 頭に『イワシ』って書いたろうそくを四本くらいさしたフランがあの、なに、棒でザッザッて振る紙のやつ(正しくは御幣っていうよ)を振り回しながら長屋に飛び込んできた。
 飛び込むっていうか頭からダイブして障子戸を破壊し畳のうえを転がり回った。
「イワシの声が聞こえるの! イワシがあたしを責めるのォ!」
 うわーって言いながら頭を壁に叩きつけるフラン。
 流れる血。外で聞こえる雷鳴。
 こんな人がおうちに入ってきたら病院か警察のどっちかに連絡するところだが借金取りマンたちはそういうの呼べる立場じゃないらしく……。
「ひ、ひい……」
 ただただ引いていた。
「こんにちわ、わたしコヨーテ。こっちはそこで出会ったイワシの焼死体」
 って言いながらぽいっと上に投げると流れるようにひとのみで食った。
「おいしい! やっぱりイワシは焼きに限――」
「美少女」
 パチンと指を鳴らすサングラスをかけたアンジュ。
 頭に麻袋を被った百合子が『ケケーッ!』っていいながら立ち上がった。
「えっだれこれは」
「やれ」
「ケケーッ!」
 リアクションをする暇すら与えずにお子様には見せられない指の立て方をするアンジュ。
 イワシストの徒となった百合子はロクのツボというツボを押して少女漫画タッチに変えると次の瞬間爆発させた。
「ぎゃああああああああ!?」
 こうはなりたくない借金取りマン(案外ここまでの猛攻で死んでない)たちは『えぇ……』ってドン引きしながら帰って行った。

 さて、残るはこのエンジェルいわしと少女だが……。
「しかし、吾、実は野生のエンジェルいわしは初めて見たのである……。
 結構人に懐くのであるなぁ! はっはっは! ――羽を広げて威嚇するでないわ!」
 キシャーって威嚇のポーズをとるエンジェルいわしに対して同じくキシャーっていいながら清楚に蟷螂拳の構えをとる百合子。
 それまで借金取りさんを撥ねることに徹していたプロバイクのアルプスローダーは、ここでやっとアイボールを動かして喋り始めた。
「ここはひとつ、なんか父性のめざめたいわしに乗じて少女の亡くなった父が生まれ変わってエンジェルいわしになったんだよと諭しておくのはどうでしょう」
「それ採用」
 ビッって両手の指でアルプスローダーをさすと、アンジュはヘルメットを脱いで畳に下りた。そうだよさっきまで室内でオンザバイクだよ。
「大丈夫だった? きみのいわしを思う声、アンジュには聞こえたよ。これからもその心を大切にしてね」
 さっきまでのムーブから急に聖女みたいなノリを出すが、少女とエンジェルいわしはなんでか素直に頷いた。アンジュのギフト能力が強火で生かされるおそらく史上初の瞬間だったのかもしれない。
「君はずっとこの子の元に居てあげて。家族としてね。
 アンジュにはたっくさんパパがいるし、いわし大好きって言ってくれる7人の友達もいる! きみも今日から友達だよ!」
「えっ」
 ロクやフランたちが固まったが。
「好きだよね?」
 アンジュが包丁片手に笑顔で振り向いたので必死に首を縦に振った。
「いわし好きな人に悪い人はいない! さ、一緒にいわし祭りを楽しもう!」
 アンジュは少女とエンジェルいわしの手(?)をひいて外へ出た。
 出た、ところで。
「ま゛っ!?」
 串に刺した焼きイワシを猛烈にムシャっていたソアと目が合った。
 スッと取り出す、ほうちょう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 イワシ祭りはたのしいね!(白目)

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