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シナリオ詳細

<月蝕アグノシア>無邪気とは許されざる大罪である

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●たいしたことではない
 何もかもたいしたことではない。たとえば妖精郷が魔種に占拠された事実も、イレギュラーズによって大迷宮が踏破された事実も、再びつながった妖精郷との門から命からがら妖精たちが逃げ延びた事実も、彼彼女らがローレットなる組織へ救済を依頼したことも。『アルベド』たちには興味がなかった。命令され、動く。ただそれだけの存在でしかない彼らにとって、心とは不要な夾雑物に過ぎないからだ。生まれたばかりの幼い心に仕組まれたは『命令を遂行する』ただそれだけ。あとは無邪気なほどの好奇心。授かった力をどれだけ振るえるか。それだけ、それだけ。

●ローレットにて
「……マルク・シリング(p3p001309)とリゲル=アークライト(p3p000442)の『アルベド』が出現した」
『無口な雄弁』リリコ(p3n000096)はそう言った。大きなリボンは悩ましげにゆらゆらと揺れている。
「……場所は妖精郷の湖畔の町『エウィン』。そこで彼らは街を壊す破壊活動を行っている。エウィンは……そうね、ミニチュアの街といえばわかるかしら。貴女たちにとっては、段ボール箱くらいの大きさの家が並んでいて、壊すのは簡単。それはあなたたちにとっても」
 リリコは一息ついた。
「……手のひら大の妖精がまだまだたくさん取り残されている。その妖精たちも殺戮の犠牲になっている。放っておけば……エウィンは瓦礫と死体だらけの街になる。……アルベドは強靭で、今回はまず倒せないと思ったほうがいい。それよりも街の妖精たちを助けてあげて」
 リリコのリボンが難しげにさやさや揺れた。
「……倒せないというのは、アルベドには妖精が埋め込まれているから。アルベドを普通に倒すと、中にいる妖精も死んじゃうの」
 この妖精を助けてほしいと、妖精の女王から特別に願いが出ているのだそうだ。
「……中にいる妖精は、いわば電池のような役割を果たしていて、妖精が衰弱死したらアルベドも絶える……だけど、生きている限りアルベドは無敵の強さを誇り続ける」
 だけどね、とリリコは言った。
「……アルベドにも弱点がある。それは『心』。……今のアルベドはまっさらな幼児のような心しか持っていない。だから強い。だけど、痛みを知り、大人になっていけば、1個人としての強さに収まっていく」
 幼児的万能感がそのままアルベドの強さに直結しているのだとリリコは言う。
「……もしあなたたちの中でアルベドの本体になった人々がいるならば、自分の最悪の過去を詳細に思い出してみて。アルベドとその人の心は繋がっている。あなたのトラウマがアルベドにフラッシュバックして、アルベドは一時的に戦闘能力を失うから」

●エウィン
「黒星!」
 銀髪のアルベドは抜身の刃を閃かせた。剣圧が遠くまで走り、遠くにあった塔を粉微塵にした。
「なるほど、こう使うのか」
 そのアルベドは、気に入ったのか、何度か黒星を打っていた。
「まとめてやったほうがよくないかな。……神気閃光」
 空から光が降り注ぎ、一帯を瓦礫の山にした。その跡地を眺めていた銀髪のアルベドが唇を尖らす。
「誰も死んでないじゃないか。意味がないだろう」
「不殺だからね。あとは踏み潰せばいいだけだよ」
 そう言うと茶髪のアルベドは目の前を飛んで逃げようとした妖精をキャッチした。
「妖精って華奢なんだね。僕でも握りつぶせるよ」
 茶髪のアルベドが真っ赤に染まった手を開くと、そこにはくちゃくちゃになった死体があった。おそらくもう遺族でも判別はつかないだろう。そのアルベドはしゃがみこみ、建物の裏口から次々と出てくる妖精を捕まえて、ぱきぱきと握りつぶしていた。
「楽しいか?」
「うん、なんだっけ、ぷちぷちを潰してるみたいな気分」
「あー、わかるわかる。でも俺は街を壊してるほうが楽しいな」
 湖畔の町を散歩でもするような気軽さで、アルベドたちは歩いていた。家々を踏み潰しながら。そのたびに小さなレンガ造りの建物が壊れ、中に居た妖精たちの悲鳴と断末魔が響き渡った。
「あれ、誰か来たみたいだ」
 茶髪のアルベドが立ち上がった。その子供のように純粋な瞳。
「やあ、いい天気だな。何か用か?」
 そう銀髪のアルベドはあなたたちへ声をかけた。自分たちの招いた惨状など、まったく意に介していない。アルベドたちにかけらも悪意はないのが、あなたにはまた不愉快だった。

GMコメント

みどりです。とうとう出てきました、アルベドさん。
おこちゃまなアルベドさんたちへひとつ教育してやりましょう。
ノーマルですが、元になった人たちが人たちなのでまともに戦うと実質ハードです。
足止めは心へ訴えかけるのが一番でしょう。

●やること
1)エウィンの破壊を防ぐ
2)妖精の避難と負傷した妖精の救護
3)アルベドへの対処

●エネミー
アルベド『リゲル=アークライト』 前衛 ハイバランストータルファイター・【精神無効】【足止無効】【麻痺無効】
・名乗り口上 物特特 【怒り】
・銀閃 付自単【反】副 
・凍星-絶対零度 物至単 【防無】【致命】
・黒星 物超単 【万能】【致死毒】【失血】【怒り】

アルベド『マルク・シリング』 後衛 超神秘・高命中・【精神無効】
・超分析 神自域 BS回復
・魔曲・四重奏 神遠単 【毒】【火炎】【窒息】【ショック】
・神気閃光 神中範 【不殺】【痺れ】【乱れ】【識別】
・大天使の祝福 神遠単 HP・BS回復

●戦場
エウィンの一角
碁盤状に道路が走り、街が築かれており、既に4割方破壊されている
移動および回避に中規模のペナルティ

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <月蝕アグノシア>無邪気とは許されざる大罪である完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月15日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
マルク・シリング(p3p001309)
ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)
光の槍
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)
銀なる者

リプレイ


「妖精さん……こんな、こんなことって……」
『魔法騎士』セララ(p3p000273)は聖剣ラグナロクを鞘ばしらせた。
「妖精さんたちの街をこんなにめちゃくちゃにするなんて! ボクは怒ったよ!」
 同時に「魔法騎士」のカードを取り出し、自身へインストール。輝きが華奢なその身を包んだ次の瞬間、長いマントが顕現した。
 戦場についた一行は、あまりの惨状に息をのんでいた。無数の瓦礫。その下で虫の息の妖精たち。エウィンの一角はすでに四割が破壊されており、息絶えた妖精も少なくなかった。あたりには避難を急ぐ妖精たちがあふれ、傷ついた仲間をかまう余裕などない。
「これは……随分と手ひどく破壊されたもんだ。さすがにこのまま戦えば残された妖精の方が危ないか……。なら先に妖精の救助を優先する他ないな」
『かくて我、此処に在り』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)は深刻な顔でそう告げる。実際、彼の読みは当たっていた。うかつな移動や戦闘は、二次被害を出すだけだろう。
「ああ、旋律が、旋律が……! 待って、途切れないで、今助けに来たの。待って!」
 あちこちから聞こえる断末魔の終止符に『旋律を知る者』リア・クォーツ(p3p004937)は胸が張り裂けんばかりだった。衝動に突き動かされるまま足元の瓦礫をかき分け、手のひら大の妖精を救い上げる。
「お願い、死なないで。お願いよ……!」
 その妖精は生きているのが不思議なほどの重傷を負っていた。両手でその妖精を包み込み、必死に励ましの言葉をかけ続ける。その両手へふわりと重ねられる白い手。
「時よ、この者を連れたもうな。汝の鎌は諸人へ平等なれば、いましばし猶予を。天命はいまだ時を刻み続け、永久の眠りは先のことなれば」
 ミリアドハーモニクスの暖かな光が生まれ、リアの手の中の妖精は息を吹き返した。
「ああ、ありがとう。ありがとう!」
『銀なる者』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)はゆるく首を振った。
「こんなのは氷山の一角だ。……しかし、酷い光景だね。彼ら二人だけで、この一帯をここまで破壊したのか……」
 視線を向けられたアルベドたちは不思議そうにまばたきした。
「造物主様はなんとおっしゃっていたかな」
「『エウィンに居る者はみな殺せ』だよ」
「じゃあ、あの人たちもだ。妖精より手強そうだな。楽しみだ」
 銀髪のアルベドが剣を構え、シリウスの大盾を若干引いて半身になった。
「あの人たちだけじゃなくてちゃんと妖精も殺さなくちゃ」
「そうだな。そっちはおまえに任せる」
「OK」
 軽い調子で言い合うアルベドたちに、マルク・シリング(p3p001309)の怒りが爆発した。
「命を、何だと思っているんだ……! 僕の姿で、これ以上、命を弄ぶことは許さない……!」
「何を言ってるのかわからない。それに造物主様のご命令は絶対だ」
 銀髪のアルベドが動いた。足元の家を、中にいる妖精ごと踏みつぶしながら。さいしょから意識の外なのか。
「あんなのが……俺のコピーなのか?」
 愕然とした『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)の隣で『ハニーゴールドの温もり』ポテト=アークライト(p3p000294)が眉間を寄せ険しい顔をする。
「コピー? あれが? ……リゲル。私には『あれ』がまったくの別人に思える」
「ええ、私もです」
 リアが答えた。
「豊かで幅広いリゲルさんと違って、あのアルベドたちの旋律は単調で半端。まるで覚えたての一小節をくりかえしているよう。リゲルさんとマルクさんの姿形に莫大な能力を乗せて、昨日今日生れ出たようないびつさがあります。そっくりな別人と考えたほうがいいです。とはいえ」
 リアは崩れはてたエウィンの街並みを見渡した。
「だからといって、知り合いの顔でこんなこと、輪をかけて許されないけどね!」
「そうです。ここまで好き勝手されて放っておけるほど、ルル達はおひとよしでものんきでもないのです」
『光の槍』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)が鋭い視線でアルベドたちを睨みつけた。
「力を持つならそれを何に使うか……しっかりと考えなければいけないのに……命じられるがまま命を奪う行動を見過ごすわけにはいきません。ルル達が来たからには、もう絶対に妖精さん達を殺させません!」
「あの子、とても怒ってるね」
 茶髪のアルベドが苦笑に似た表情を浮かべた。
「歩きにくくてイライラしてるんじゃないのか。まあいいさ、どうでも。それより、こっちの獲物はもらうからな!」
 銀髪のアルベドが吠える。リゲルはその一撃を銀の剣で受け止めた。
(重い――!)
 予想外の力。次をまともに受ければ剣が折れる。そう考えたリゲルは、膂力で無理矢理矛先をそらし、アルベドの攻撃を受け流した。距離を取ったアルベドは、新たな被害を増やしながら着地した。
「強いな、おまえ」
「おまえじゃない。リゲル=アークライトだ」
 アルベドの声に、リゲルは憮然として答えた。
(まずいな……アルベドどもめ、気にもせず周りを巻き込んでいるぞ。そのうえ強力だ、手加減できる相手じゃない。こっちは足元全部に気を配らなきゃならんというのに)
 マラカイトは低くうなった。


 人助けセンサーが恐ろしい勢いで鳴り響いている。軽微なものから重度まで、頭がおかしくなりそうな悲鳴の数々。ルルリアは風を踏み、地面から軽く浮き上がった。足元が問題になる今回において、飛行は非常に有効といえよう。
「妖精さん、待たせはしません。ルルが今行きます!」
 ルルリアは今にも消えそうなか細い通信を優先した。瓦礫の上を飛び回り、慎重にそれらをどけながら息も絶え絶えな妖精を見つけだしてはハイ・ヒールを歌う。
「風さん、風さん、いとしきこの世界の、いとしきこの命。運ばないで。さらわないで。流さないで。恩寵を代わりにここへ。風さん、ルルの一番の友達」
 暖かな風がルルリアを取り巻いた。
「動ける妖精さん、飛べる妖精さんはルルについてきてください! 安全地帯まで送ります!」
 動けない妖精たちを抱えるだけ抱え、郊外で待機しているリウィルディアのもとへ送る。
 同じことをしているのがセララだ。
「ボクが来たからには大丈夫だよ! 黎明と煌めきの魔法騎士セララ、みんなの笑顔のために参上!」
 あえて明るい笑みを浮かべ、セララは見得を切った。彼女の明るさは、突然の悲劇にみまわれ混乱していた妖精たちの清涼剤だった。救いを求めて群がる妖精たちへ優しい笑みを見せると、セララは足元に気を付けて足を速める。走りぬいては腕の中の命がこぼれてしまうから、あえて競歩の速さで。
(アイドルはいつだって笑顔だもんね。みんなに元気を与える存在、ボクはそうなりたい)
 セララは笑顔をふりまき、ちょこまかと動いて傷ついた妖精をマントの内ポケットへ包み込んだ。可憐なマントが血で汚れていくが、かまいはしない。今は妖精の命が最優先。
(この小さな街にとって、ボクたちは巨人だもの。うかつに動くとひどい結果が待ってる。気をつけなきゃ)
 難しい顔をしているのはマラカイトだ。ティンダロスに乗ったはいいものの、とても走り回れるような状況ではない。きっとそうしてしまえば埋もれている妖精だけでなく、逃げまどい右往左往している踏みつぶしてしまうだろう。そう判断した彼は、舌打ちすると軍馬のような巨躯を持つ狼から降り、地道に救護活動を始めた。
「無事なやつはティンダロスにつかまれ。生き残りたいならな。ティンダロス、あの白いのは無視しろ。間違っても襲い掛かるなよ」
 猟犬は主人の言葉がわかるかのようにうなずき、身を低くした。でたらめに飛び回っていた手のひらサイズの妖精たちが次々とティンダロスにしがみつき、翅のひしゃげた妖精が必死になって足を昇っていく。
「よし、それだけ元気なら大丈夫だな。行くぞティンダロス。くれぐれも建物は踏んでくれるな?」
 大通りに沿って魔狼を疾駆させる。ティンダロスは心得ているかのように、獣の動きでロングジャンプを繰り返し、接地を可能な限り少なくする。マラカイト自身は現場へ残り、まるで崩した積み木のような街並みにため息をつきつつ、ひとつひとつ丁寧に瓦礫をどける。マラカイトにとっては積み木でも、妖精にとっては十分な脅威だ。瓦礫を動かすたびに、怪我をした、あるいは腰を抜かした、そして既に手遅れな妖精が現れて彼は渋い顔をした。
 郊外で待機していたリウィルディアもまた、苦虫をかみつぶした顔をしていた。命を選別しなくてはならないその重さが彼の胸へのしかかっている。だがそれ以上に、魔力が足りない。運ばれてくる妖精の多さに内心焦りが湧いていた。表面には出さず、せめて止血くらいしてやろうと服を引き裂き、細かくひも状にして包帯代わりに。爪楊枝みたいな小枝で添え木も当ててやる。だが本当にそれはただの応急処置でしかなく。目の前で一人の妖精が、ふっと吐息を漏らしてくたりと力を抜く。もう永遠に動かない。周りの妖精が動揺しないよう、リウィルディアは静かな表情のままその妖精のまぶたを閉じさせ、岩陰へ隠してやる。そこには既にたくさんの遺体があった。
(くやしい……くやしいな。僕にもっと力があれば)
 数は暴力だ。怒涛のような怪我人を前に、救える命と救えない命を決め、トリアージを行う。目視で確認できる重症度は、ほとんどが見放さなければならない患者ばかりだ。内臓破裂や心身症を起こしている妖精もいる。意識を氷へ沈め、リウィルディアはつとめて冷静に振舞った。乱れた心で調和は歌えない。
「生命の樹よ。ここへ生えよ。世界樹の葉よ。ここへひとひら。偉大なる聖霊よ、癒しの慈悲を垂れたもう」
 何度もくりかえすメロディ。そのたびに、妖精の顔が安らかになっていく。

「あっちに妖精が集められてるみたいだ。僕が行ってくるよ」
「ああ、行って来い。俺はこいつの相手をしてる」
 アルベドたちが短く言葉を交わす。
「待て! なんのつもりだ!」
 動き出した茶髪のアルベドへ向かい、ポテトが声をあげる。
「? 何って、あんまり妖精を助けられたら困るから、邪魔しに行くよ」
 至極当然のようにそう答えられ、ポテトは絶句した。
「Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate! とあああああーーーー!」
 そこへ飛び込んできた影があった。リアだ。水晶の剣で斬りかかられたアルベドは、驚きを隠さず反射的にローブをひるがえす。ぞりりりっ。茶髪のアルベドは左腕でその一撃を受けた。剣がめりこみ、アルベドの腕が肘まで裂ける。
「これが痛みってやつかな。じんじんする。……大天使よ」
 アルベドは平然と聖句を唱えた。傷口がふさがっていく。
「えええええ! そんなのあり!?」
「そいつの邪魔をするな!」
 リゲルと切り結んでいた銀髪のアルベドが、前へ出てリアへも攻撃の手を加える。
「何っ!? どういうことだ!」
 複数回行動。ポテトの良く知るリゲルであれば、そうそうは出ないはずのアクションだ。
「えっ、なにに驚いてるのかよくわからない」
 銀髪のアルベドが困惑した表情を見せる。
「うっとおしいなあ、もう」
 茶髪のアルベドの周りに白い光が集まっていく。その身がふわりと浮きあがった。
「くるよ!」
 後ろに控えていたマルクが叫ぶ。祝福の詠唱に入りながら。
「……神気閃光」
 天と地を繋ぐかのような光の奔流が走る。新たな瓦礫が生まれ、まだ残っていた妖精たちの体が反動で飛び跳ねる。光は圏内に居たリゲルとポテト、さらにリアの体へ深刻なダメージを与えた。
「巻き込むな!」
 思わずポテトは怒鳴りつけた。自分たちではない。妖精たちをだ。今の一撃で新たに生まれた犠牲に心が痛む。ポテトはすぐに天使の歌を歌った。
「巻き込むなと言われてもな。そっちが邪魔しに来たんだろう、そんな風に言われる覚えはないんだが」
 リゲルそっくりのアルベドはふてくされてすらいる。
 そのやりとりを眺めていたリウィルディアは、重傷の妖精たちを抱え少しずつ後退しながらつぶやいた。
「……笑えないね。彼らの姿で、ありえないほど悪意の欠片もないとは」
 止めなきゃ、必ず。だけどこのままじゃ被害が広がるばかりだ。どうすれば……。

●心
「僕のコピーなら知ってるはずだ。あの故郷を……」
 マルクが自分に似たアルベドへ語りかける。「故郷?」そうアルベドは返した。
「造物主様の試験管のこと?」
 いっそ穏やかなまでにそう言われ、マルクは理解した。こいつは何もかも自分たちとは違うのだ、と。外面ばかり立派で、内側はスカスカな肉の塊だ。ならば教えてやらねばなるまい。思いを、感情を、心そのものを。マルクはリゲルと目くばせする。リゲルもまた同じことを思ったようだった。
「俺自身が街を壊す姿、とても見ていられない。俺は君のオリジナルだ! その蛮行を、止めに来た!」
 堂々と宣言すると、リゲルは剣をふるい、銀髪のアルベドと鍔迫り合いへ持ち込んだ。
「壊すのは楽しいかい?」
「ああ、おまえは違うのか? さっきからおまえたちはよくわからないことばかり言う」
 アルベドは理解できないとばかりに眉を寄せる。
「そうやって蹂躙する悦びに堕ちていく者は多いんだ……」
 誰に言うともなくリゲルはこぼした。彼の胸に広がるのは闇よりなお暗い思い出。反転し、魔種になった。あの悪夢。

 殺す。それが悦楽だった。
 正義を見失い、志をなくし、ただ自分の力を見せつけるためだけにこの剣を……あれが夢でよかったと俺はいまだに思う。若者を斬った、老人を斬った、女を、赤子を斬った。命あるものはすべて標的だった。追いつき、追い詰め、斬り伏せる。返り血で手が染まり、全身が紅になる、肉を貫く鈍い手応え、新たな血が流れるたび胸に広がる歓喜を、そうだ、俺は喜んで殺した。尊敬するレオパル様すら、最愛のポテトすら……!

 思い出すだけで、心臓を握りつぶされるような不快と苦痛が蘇り、リゲルは必死で持ちこたえた。
「……なっ」
 変化は突然だった。リゲルの姿をしたアルベドは飛び退り、胸を抑えた。
「なんだこれは! おまえは、こんなものを胸に持っているのか?」
「ああ、そうだ。これは俺の、消えないトラウマだ。君には少々刺激が強すぎるかな」
「なんだこの、いやでヘンな感じのものは、わけがわからない。どうしてこんなものを抱えて平気な顔をしていられる? どうしてだ?」
「心の痛みを知らないのか……哀れだな!」
 動揺しているアルベドへリゲルは一気に距離を詰めた。
「今の君では俺に勝てない! 幼さを払しょくして出直してこい、流星剣!」
「ぐあっ!」
 もろに入った銀髪のアルベドが吹き飛ばされる。凹んだ鎧が滑稽に見えた。
「……!」
 茶髪のアルベドがその姿を見て口元を動かす。逡巡がその目に浮かんだことに、マルクはふと気づいた。
(もしかして今、相方の名前を呼ぼうとしたのか?)
 仮にそうだとすれば、言い淀んだのはなぜか。おそらくはと、マルクは考え至った。名前がないのだ、このふたりには。造物主とやらは最初から使い潰すつもりなのだろう。少なくとも、彼らの存在にたいして重きを置いていないのは察しがついた。
「……」
 マルクは全身から力を抜き、心の準備をした。そうでもなければあの暗い故郷を思い起こすことは難しかったから。

 寒い……村だったな。貧苦にあえぎ、春を待てずに死んでいく村人たち。自然の脅威にあらがうことなんて誰にもできない。ただ家の中、からっぽの暖炉の前で毛布を巻き付けて寄り添うだけで。凶作に見舞われ、狩りも振るわず、ついに食糧が尽きたあの年。文字通り冬を超えられず、滅びてしまった僕の故郷。

 茶髪のアルベドは、マルクを見つめたまま棒立ちになっていた。自分があの厳寒へ放り込まれたように、うすら寒い怖気を浮かべている。
「これは、こんなものが、どうして? こんなもの切除してしまえばいい。なかったことにすればいい。何故ずっと抱いているんだ。こんなものを……」
「切除? なかったことに? そんな単純なものじゃない。これでも、いいや、これが僕のルーツなんだ!」
 断固として言い切ると、マルクは神気閃光の詠唱に入った。
「抗うことのできない脅威が、無慈悲に命を奪う、今お前たちがエウィンにしている事と同じだ。妖精たちにしていることと同じだ。自分があの冬と同じだということに気づけ……!」
 マルクの神気閃光は、正確にアルベドたちだけを撃ちぬいた。

「つっ、痛ぁ!」
 アルベドたちは混乱していた。もうすこし彼らに語彙があったならば、恐怖していると気づいたかもしれない。虫がさされたほどにしか感じなかった痛みが、激痛に変わっている。なにより、胸に流し込まれた冷たく、暗いもの。それが体も頭も重くさせている。どちらが先だったか、あるいは両方か。気が付くと彼らは敵に背を向け、全速力で走り出していた。その背には年相応の矜持も意地もなく、ただぶたれた子どもが一目散に逃げ帰るかのようだった。

「逃げたな……」
 あっけにとられたポテトが言う。ああ、と、リゲルも答える。エウィンの一角を襲った台風は、あっさりと退却した。
(これで終わりだろうか?)
 マルクはこぶしを握り締めた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

名前のないアルベドたちはどこへ行ったのでしょうか。
おつかれさまです。いかがでしたか。
今はゆっくり体を休めてください。

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