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シナリオ詳細

<月蝕アグノシア>桜花のコドク

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 私が、私として生まれた時。最初に感じたものは、耐えがたいほどの喪失感だった。

 妖精たちの村を、黒く、どろどろとした人型の怪物が蹂躙する。逃げ惑う妖精たちを、私は冷たい目で見ていた。
 それらは、材料。贄だ。主に捧げられる贄。
 ――私と同じですね。
 一瞬、そう考えて頭を振った。その考えを打ち消すように、痛む身体を擦った。
 自分が贄だった、などと言う事実はない――それは、私の元となった人物の記憶だ。この身体を蝕む痛みもまた――かつて、元となった人物がそうであった、と言うだけの。
 身体を擦る。痛みが走る――気のせいだ、今は傷などない。いや、元々傷などなかった。でも、痛い。痛む。
 いやな記憶だった。自分には関係ない、そう理解しているはずなのに――自分を贄へと捧げた人々を、世界を、強く恨んでしまうほどに。
 でもそれ以上につらいのは。
 なにか、大切な何かが欠けてしまったかのような、深い、重い、喪失感だ。隣にいて当然の何かが欠けている、そう思えるような……漠然とした不安にも近い、それが、私の胸に強く強く圧し掛かる。
「ニグレド、はやく。はやく、材料を捕まえるのです」
 声をあげた。焦燥感に急かされるがままに。材料があれば――アルベドが作れる。作ってもらえる。
 そうすれば――この喪失感を埋めてくれる、誰かが――ああ、誰かが、きっと、出来るはずだから。
「はやく、はやく……誰か」
 私のコドクを、埋めておくれ。

●桜花乱舞
 『二人でひとつ』桜咲 珠緒(p3p004426)のアルベドが発見された――。
 そのような知らせが、イレギュラーズ達の元へと飛び込んできた。
 ――魔種、タータリクスの陰謀により、『おとぎ話の門(アーカンシェル)』は機能不全に追い込まれた。大迷宮ヘイムダリオンを突破し、妖精郷アルヴィオンへと到達したイレギュラーズ達が見た物は、タータリクス一派により襲撃を受けた、郷の姿であった。
 妖精郷奪還のために活動を開始したイレギュラーズ達。だが、その前にタータリクス麾下の怪物たちが立ちはだかろうとしている。
 アルベドとは、そんなタータリクス一派によって作り上げられた怪物である。イレギュラーズ達の情報をもとに作り上げられたとされるその怪物は、元となった人物に近しい戦闘能力を持つ強敵だ。
 そして厄介なのは、その身体の内に、核となる『フェアリーシード』を内蔵していることだ。フェアリーシードは捕獲された妖精そのものであり、アルベドを単純に殺害するだけでは、内部の妖精も同時に死亡することとなってしまう。
 そんな、あらゆる意味で厄介な相手であるアルベドであるが、前述した通り、珠緒のアルベドが発見されたという。
 アルベド・珠緒は、『ニグレド』と呼ばれる、黒い人型の怪物を使役し、妖精の村を襲っているのだという。
「アルベドは、次の村に行くみたいなの。このままだと、次の村が危ないの!」
 逃げてきた妖精の話によれば、その進行ルートには新たな村があり、このままでは次なる被害がもたらされるのは、想像するに難くはない。
 となれば――速やかにアルベド・珠緒へと攻撃を仕掛け、これを討伐し、止める必要がある。
「アルベドの向かってる村は、ここからすぐなの!」
 妖精に導かれ、イレギュラーズ達はアルベドの進行ルート上にある村へと、先回りすることとなった――。


 ゆっくりと、次の村へと向かう。身体が痛む。心が痛む。
 心が悲鳴を上げている。
 あの人に会いたい。あの人に会いたい。
 でも、それは――誰なのか。解らない。ただ、欠けているという確信だけがあった。

 ――私は進む。
 その先に、己の心を埋めてくれる何かがあると信じて――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 妖精の村へ向けて進行するアルベド。
 これを撃退してください。

●成功条件
 すべての敵の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●状況
 妖精の村へと向けてアルベドと配下のニグレドたちが侵攻中である、という情報を得ました。
 皆さんは、この妖精の村へと先回りし、アルベドたちを迎撃。撃退してください。
 アルベドには、『フェアリーシード』と呼ばれる核が内蔵されています。これは捕まえられた妖精が姿を変えて埋め込まれたものであり、これを破壊することでアルベドの活動を停止させることができますが、同時に妖精は死亡してしまいます。
 今回、妖精の生死は、成功条件には問いません。もちろん、妖精を救う事も可能です。
 作戦決行時刻は昼。周囲には妖精の集落がありますが、特にペナルティなどは発生しないものとします。

●エネミーデータ
 ニグレド ×7
  アルベドの素体ともなる、黒い人型の怪物です。
  今回は、近接攻撃タイプが4、遠隔攻撃タイプが3の割合で配置されています。
  全般的にHPが高めで、ややタフな印象です。

 アルベド・珠緒 ×1
  『二人でひとつ』桜咲 珠緒(p3p004426)さんを元にしたアルベドです。
  自我を持ち合わせていますが、妖精のそれと混ざり合ったため、珠緒さんそのものという訳ではありません。が、珠緒さんの記憶などもある程度持ち合わせているようです。
  神秘攻撃タイプのアタッカーで、白い血と桜の花をモチーフにした攻撃をしてきます。
  遠近両対応の攻撃を行いますが、遠距離レンジの方が威力が高いようです。


 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • <月蝕アグノシア>桜花のコドク完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月17日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
マルク・シリング(p3p001309)
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
藤野 蛍(p3p003861)
桜花絢爛
桜咲 珠緒(p3p004426)
桜花爛漫
羽住・利一(p3p007934)
特異運命座標

リプレイ

●桜花と、黒と
 足元に広がる、妖精たちの村。今は、その住民たちは全員が避難していて、残るは八名のイレギュラーズのみである。
 イレギュラーズ達の任務は、敵の迎撃である。此方へと向かいつつある、アルベドをリーダーとする敵の群れ、それを撃退することが目的だ。
「アルベド……イレギュラーズのコピーか。どういった理屈で生まれたのか、少々気になるが――」
 ふむ、と口元に手をやり唸るのは『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)。イレギュラーズのコピー生命体たるアルベドに、多少の興味を抱きつつも、ゼフィラの興味の本筋は、むしろ妖精郷そのものへと向いている。
「手早く片付けなければね。中には妖精が捕らわれているんだろう?」
「そうっスね。見知った顔が相手ってのは少しやりにくいっスけど……」
 『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)が頷いた。アルベドの体内には、妖精がフェアリーシードと呼ばれる結晶状態で取り込まれている。それは、アルベドの心臓にしてバッテリー。妖精の生命力を動力源に活動するのが、アルベドと言う魔物だ。
「今回の相手は……桜咲の姿を模しているんだな」
 『ハニーゴールドの温もり』ポテト=アークライト(p3p000294)が言う。ポテトの言う通り、情報が確かであるならば、相手は『二人でひとつ』桜咲 珠緒(p3p004426)のアルベドであるという。
「はい……であるならば、きっと酷く苦しんでいるのです」
 珠緒は静かに、そう言った。すでに遭遇した妖精たちの証言から、アルベドが、何か苦痛に耐えるようなそぶりを見せているという情報は得ている。
 そして、そのことに、珠緒は心当たりがあった。
 かつての、出身世界での記憶……今は遠い出来事のように思える、しかし珠緒の心の奥底に残り続けるその記憶。それが、アルベドにも継承されてしまっているのだとしたら。
 珠緒は、再び己の足で歩くことができた。しかしそれは、自分が決して独りではないという事を知ったからだ。
 もし、独りであったのだとしたら。
 心は疾うに、朽ちていただろう、と。
「彼女は、珠緒が珠緒である十分条件を満たさぬまま、成立してしまっている……そのように、感じるのです」
 こふっ、と珠緒は血を吐いた。重篤なそれではない。こうして癖のように血を吐くこともまた、珠緒を構成する要素の一つだ。だがそれすら――アルベドにとっては苦痛であるのかもしれない。
「珠緒さん、大丈夫? ハンカチ、使って?」
 『二人でひとつ』藤野 蛍(p3p003861)が、心配げにハンカチを差し出すのへ、珠緒は微笑んだ。そして隣にいる蛍こそが、今の珠緒を構成する、重要な要素なのだ。
 それが、無いのだとしたら。
 アルベドは――。
 がさり、と、草を踏みしめる音が聞こえた。
 イレギュラーズ達がそちらの方へと視線をやれば、黒い、黒い七体の怪物に囲まれるように、白い、白い人影が一つ――。
「……本当に、うり二つ、なので御座いますね」
 『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)が言った。白い人影――アルベド。その姿はまさに、珠緒と同一のものである。
 しかし、その表情は、苛立ちと苦痛……そして底知れぬ不安感に晒されていることが見て取れた。
 ――恋する乙女を毒牙にかけ、その想い人を取り上げたコピーを作り上げるとは。
 幻は内心で、主犯たるタータリクスへの怒りを浮かべた。恋する乙女は繊細だ。それは、幻とて同じであるのだから、分かる。
 その繊細な乙女を、粗雑に複写するなど、外道の所業。
「あのアルベド、なんだか苦しそうだ……珠緒の言ったとおりに……」
 『特異運命座標』羽住・利一(p3p007934)の言葉に、珠緒は静かに頷いた。
 アルベドの内面では、珠緒の記憶が、傷となって荒れ狂っているのだろう。
 そして、その隣に誰かがいないことが、耐えがたい喪失感となって襲いかかっているのだろう。
 だから、アルベドは、あんな目をしているのだ。
 それは、あるいは自身の別の可能性のようにも見えて……。
 しかし珠緒は、視線をそらさず、アルベドを見据えた。
「……あなた、オリジナル、なのですね……!」
 その視線を察したのか、アルベドが声をあげる。憎みたいとすら思った、記憶のオリジナルが、目の前にいたのだ。
 きっ、と睨むアルベドの視線が――しかし蛍を捉えたとたんに、衝撃のそれへと変わった。
 ああ、それはきっと、恋の衝撃だ。珠緒は理解していた。アルベドが真に探しているものとは、蛍に違いないのだから。
「見つけた……」
 アルベドが、ぼそりと呟く。
「ああ、貴女、なのですね……」
 泣きそうな顔で、アルベドが呟く。
 蛍は思わず、たじろいだ。その声は、その涙は、珠緒のそれと全く、同一だったからだ。
 すがる様に、伸ばされるアルベドの手。珠緒のそれと同じ、手。
「……っ!」
 蛍はたまらず、手を伸ばしたかった。でもそれを、必死に耐えた。
 簡単に、手を取ることは出来るだろう。
 でもそれでは、何の解決にもならないのだ。
 だから蛍は、珠緒の手を強く握った。
「力を貸して、珠緒さん。……皆も、どうか」
 蛍の言葉に、イレギュラーズ達は頷いた。各々が武器を構える。臨戦態勢。
 その瞬間に、アルベドは理解した。
 この孤独は――埋まらないのだという事を。
「どうして――」
 アルベドは、吐き出すように言葉を紡いだ。しかし次の瞬間には、怒りにたぎる眼で、イレギュラーズ達を見据えていた。
「ニグレト。全滅させるのです。たとえ受け入れてくれなくても、血さえ、血さえ残っていれば」
 あの子を、作れるはずだ、と。
 その命令に応じるように、ニグレドたちが、おおお、呻き声をあげた。黒い体をぐにゅりと動かし、進軍を開始する。
「僕らの背中には、妖精の村がある。絶対に、ここを抜かれる訳には行かない」
 マルク・シリング(p3p001309)の言葉に、イレギュラーズ達が頷く。
「それに……それだけじゃない。あのアルベドの中にいる妖精も、必ず助けるんだ……!」
 その想いは、イレギュラーズ達も同じくするものである。
 果たしてその言葉を合図に、イレギュラーズ達もまた、行動を開始した。

●黒と、白と
 ニグレド、その黒き怪物が進軍する。腕を巨大な剛腕へと変化させ、それ自身を凶器としてイレギュラーズ達に殴り掛かる。
「おっと……!」
 ポテトは盾を構えて、その打撃を受け止めた。がつん! 衝撃と打撃音があたりに響き、ポテトが顔をしかめる。
「見た目通りの剛腕と言った所だな……けれど!」
 ポテトは盾で剛腕を打ち払うと、後方に跳躍して距離を取る。
「お前たちの相手は、私だ!」
 利一は前線にて名乗りを上げた。すぐにニグレドが殺到して、利一を殴殺すべく拳を振り上げる。
 ず、と音を立てて振り下ろされたそれを、利一は腕で受け止め――次の瞬間には流れるように地に受け流した。ずん、と剛腕が大地にめり込む。同時に利一は小石を拾い上げると、銃弾めいた速度で手から打ち出した。
 ぼん! ニグレドの顔面に着弾の衝撃が走り、黒い顔が爆ぜて溶けて消える。べちゃり、とニグレドが黒い液体になって散華、地にしみていく。
「ニグレドと言ったかな? これもどういう所以で現れたのか気になるが……」
 ゼフィラは笑いつつ、大弓を構える。放つは精神力の弾丸。弾丸はニグレドの腕を吹き飛ばし、続く二射がニグレドの胸を貫く。ばしゃん、と音を立ててニグレドが砕け散るのへ、
「手早く片付けさせてもらおうか」
 次なる敵をポイントする――そこへ、ニグレドの遠距離砲撃が発射された。黒い己の肉体を砲弾のように変形させ、力任せに放り投げる。
「おっと、当たったら痛いじゃ済まなさそうだ」
 慌てて飛びずさるゼフィラ――その姿が消えた一瞬の後に、次々と砲弾が落着。大地に穴をあけていく。
「砲撃手っスか! こっちもシュートは得意なんっスよ!」
 葵はシルバーのサッカーボールを放り投げると、それを一度、胸でリフティングした。そして抜群のコントロールで足元へと落下させると、そのまま勢いよく蹴り上げる。
 ボールに記された流星のごとく、ボールはニグレドへと迫る。ぼん! サッカーボールはニグレドの腹を突き破り、その衝撃を四肢へと走らせた。耐え切れず、ニグレドが爆散する。
「ゴール! っスよ!」
「直接人を狙ったら、イエローカードじゃないかな?」
 くすりと笑うゼフィラに、葵は肩をすくめてみせた。
「試合だったら、そうかもっスね!」
 葵は次なるボールを取り出すと、再び鋭く蹴り上げる――シュートがニグレド(ゴール)へと突き刺さり、その身体を爆散させた。
「さて――あなた達は、一体だれを想い、夢を見るの御座いましょうか」
 幻の披露する奇術――それは不思議な力を持った奇術だ。それを見た物は、想い人の夢を見るのだという。果たしてニグレドは何を見たのか。ただ、錯乱するように振るわれる拳が、その精神に何らかの傷を残したことは間違いない。
 錯乱する様子を見せたニグレドへ、裁きの光が突き刺さった。神聖なる光はニグレドを焼き払い、刹那の内に消滅させる。マルクの攻撃だ。
「数は……減ってきた! 今なら、アルベドへ攻撃できるはずだよ!」
 マルクが叫んだ。再び放つ聖光が、道を照らすように、アルベドを守護していたニグレドを薙ぎ払う。
「さぁ、今のうちに行くんだ! 僕たちも、ニグレドを片付けたらすぐに応援に向かうよ!」
「その間、戦場は私達で支える! 彼女を、止めてくるんだ!」
 回復術式を編み上げながら、ポテトが言う。放たれた術式が、珠緒と蛍、二人の背中を押した。
「珠緒さんっ!」
 蛍が、言った。
「はいっ!」
 珠緒が、頷いた。
 二人は駆けだした。その先には、アルベドの姿があった。

●白と、桜花と
「あなたの相手は、珠緒たちが」
 珠緒、そして蛍は相対する。珠緒のアルベドと。
 アルベドは、辛そうにその顔を歪めた。それは、幻痛によるものか。あるいは、己の隣に、誰もいないことへの苦しみか。
「ごめんなさい。珠緒のような者が元となってしまい……」
 珠緒は、瞳を伏せた。
「独りでは、いつ自身の吐いた血に溺れ果てるとも知れぬ身。もっと力に溢れた方であれば、貴女も楽だったでしょうに」
「同情する……つもりなのですか……だったら……!」
 その隣にいるものを呉れ。
 アルベドは、そう叫びたかったように、珠緒には思えた。
「……しかし、貴女の連れ添いを作らせるわけには、参りません」
 珠緒が、蛍の手を、握った。
 蛍は、それを、優しく握り返した。
 その光景を、アルベドは、辛そうに見ていた。
 ――そんな目で見ないで。
 蛍は、叫びだしたかった。
 愛しい人の姿と声を持ちながら、愛しい人そのものではない人。
 別人だとわかっていても、心が痛む。
 だとしても――いや、だからこそ、この心の痛みなどは、偽善であり、傲慢であるとわかっていた。
 彼女の隣には、行けない。行くつもりもない。
 蛍の隣には、珠緒が居た。
「馬鹿に……しないで……ッ!」
 アルベドが動く――白い血液が迸り、それは根を張る様に中空を走った。
「『血束・蝕』によく似た……コピースキル……!?」
 珠緒がとっさに衝撃術式を展開、白き血液の根を迎撃にかかる。ばふ、と音を立てて衝術が爆発。空中で爆発した根が、白い桜の花びらとなって散る――。
「あなた達を倒す! 倒して、私も――貴女を手に入れるのです!」
 舞うように、アルベドがステップ――再び繰り出される血液の根。
「させない……んだからっ!」
 蛍が走る。その手に掲げるは純白の手甲。己の肉体を最大限に強化、加速し、珠緒を庇うように前へ。その手甲で、白き血液の根を受け止めた。力が抜けていくような感覚――手甲より咲く、白き桜。
「蛍さん……!」
「前を向いてっ!」
 蛍が叫んだ。
「ボクも、前を見るからっ!」
 蛍がその手を掲げた。途端、アルベドを包み込むのは、色鮮やかな桜吹雪の結界!
「これは……っ!」
 アルベドが、その桜吹雪に刹那、視界を失う――その隙をついて、珠緒が放つ魔力の一撃が、アルベドの身体を叩いた。
 二人だからこそできる、連携の一撃――アルベドが苦痛に表情を歪めながら、三度白き桜花を咲かせようとその手を掲げる。
「させないっスよ!」
 葵の声が響いた。同時に放たれたサッカーボールが、掲げられたアルベドの手を打ち据えた!
「女子だしね……顔はやめといたっスよ」
「さて、ニグレドは全て討伐した。残るはキミだけだな」
 ゼフィラがそう告げる。すでに周囲のニグレドは全滅している。イレギュラーズ達も相応の傷は負ったが、健在だ。
「アルベドの桜咲様、貴方の特徴は血。フェアリーシードは心臓ですね?」
 幻が静かに告げるのへ、アルベドは自嘲気味に笑った。
「よく、分かっているのですね。痛みも伴う、ポンコツなのですよ」
「痛みを伴うのは、そこが君の本当の居場所ではないからだよ」
 マルクが声をあげる。
「必ず君を助けるよ。だから、怖いと思うけど、絶対に諦めないで」
 それは、アルベドの中に隠された妖精へと向けた言葉であった。けれどアルベドは、それを自身へ向けられたものだと理解した。
「だったら……私にも、愛する人を下さい。あの人を、私にください!」
「孤独か。それを癒せるのは、でも、蛍じゃないんだよ」
 利一が言う。
「貴方は、その想いを利用されているだけ。それでいいのですか?」
 幻が続いた。アルベドは、泣きそうな顔で笑った。
「利用されていようといまいと、この身体の痛みは消えない。私はこんな寂しい想いのまま、消えたくはないのです」
 アルベドはその両手を掲げる。白い無数の根が、空を這った。
「問答は無用か。手荒になるけれど……止めるぞ、みんな!」
 ポテトが叫ぶ――同時に回復術式が展開し、仲間達の背中を押した。
 イレギュラーズと白い血液の根、どれが同時に走った。走る白い根が中空で爆散し、白い桜の花びらを散らせ、イレギュラーズ達へと刃物のごとく降り注ぐ。
 その身を傷つけながら、イレギュラーズ達は進撃した! 各々武器を構えて、最後の攻撃に映る!
 幻の披露する奇術――飛び回る蒼い蝶が、アルベドを幻惑する。その隙間を縫って、葵の魔弾が、アルベドの右腕を貫いた。
 アルベドがその右腕を掲げる――流れる血が鞭のようなものを形成し、眼前にいた利一を打ちのめすべく振るわれる――利一はそれを受け止め、反撃に蹴りの一撃を放つ。
 アルベドが、蹴りを受け止め後方へ跳躍――そこへマルクの聖光が降り注いだ。光に身体を焼かれたアルベドが、その体勢を大きく崩す。
 駄目押しとばかりのゼフィラの弾丸が襲い掛かった。体勢を崩したアルベドに、その銃弾を避けられることは無く、右足を貫かれたアルベドは地に倒れ伏す。
「まだ……まだ……っ!」
 ざり、と土を掴むアルベドに、珠緒はゆっくりと、近づいた。
 二人の目が合う。苦しみに満ちた目。悲しみに満ちた目。
「ごめんなさい、なのです」
 珠緒が言った。
「貴女はきっと、悪くない。でも……ごめんなさい」
 掲げた手が、衝撃術式を描く。放たれた術式が、アルベドの身体を打ち据えて――その意識が暗転した。

●桜花と、桜花と
 無力化したアルベドの身体から、フェアリーシードを抜き取る事は容易だった。胸を切り開いて、取り出す。其れだけだ。
 それだけだが――蛍の、珠緒の心は苦しい。
 できれば――アルベド自身も、救ってやりたかった。だがそれは、傲慢なのだろうか? 答えは出せないまま――ただ、蛍はアルベドの手を握り、珠緒はアルベドの苦痛がわずかで済むことを祈った。
「――ボクは、あなたの大切な人にはなれないけれど」
 フェアリーシードが取り除かれたアルベドが、その身体を白いどろどろとしたものへと変質させ、溶けて消えてゆく。
 そんな中で、蛍は手を握り続けた。
「本当の貴女が、大切な誰かに出会えるって……祈ってる」
 溶け行く中で、アルベドは安らかに、瞳を閉じた……気がした。其れもまた、思い込みだったのかもしれない。それでも珠緒は、蛍は、最後にアルベドが安らかに逝ったことを、信じずにはいられないのだった。
「おやすみなさい……珠緒」
 珠緒は静かに、そう呟いた。
「アルベド桜咲は、藤野に会ってどう思ったんだろう……? 嬉しかったのか、自分の隣にいてくれる藤野ではないことが辛かったのか……」
 ポテトの言葉に、言葉を返せるものはいない。その答えを知る者は、今は地にしみて消えていった。
「最期に……孤独から解放されたなら、良いんだけどな」
 利一が言う。今はそれを、信じてやまない。
「なんか……やりきれないっスね。それも敵の狙いなのかもっスけど」
 葵の言葉に、ゼフィラが頷いた。
「古来より、相手の姿を真似ようとする者の魂胆なんて変わりないさ。解っては、いるのだけれどね」
「タータリクス……やはり、許すことは出来ませんね」
 幻の言葉には、やはり静かな怒りが込められていた。このままタータリクスを放置していては、さらなる悲劇が発生するに違いないのだ。
「でも……妖精たちは助けられた。それできっと、よかったんだと思う」
 マルクが言う。それは確かな、イレギュラーズ達の成果であった――。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様のご活躍により、アルベドは倒れ、コアとなった妖精は救出されました。

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