シナリオ詳細
<月蝕アグノシア>妖精の町に迫るモノ
オープニング
●妖精の町
エウィンを訪れたものはさいわいである。
そこは小さき妖精が暮らす湖畔の町。
おとぎ話にでも出てきそうな、小さな茸の家に、花の城。
記憶のどこかにあった、懐かしい光景。
大人になる頃には、忘れ去ってしまう儚い夢の果て。
うららかな常春の日差しとそよぐ風――。
エウィンは、妖精たちが住まう町である。
妖精郷アルヴィオンでも最大の規模だが、人間たちからすると玩具のようでもあった。
「いつもと変わらず、可愛らしい町っすね。踏み潰したくなるっすよ」
町の大きさからすると、彼女は巨人に見えるだろう。
巨大な剣を持ち、漂白されたように白い、女戦士であった。
蹂躙する――。
簡単であろう。
歩けば、家々を踏み潰せる。
「……どうしてっすかね? この光景、踏みつけてしまいたくなっちゃうっす」
なぜなら、あまりに穏やかで楽しげであるから。
自分が苦しい目に遭わされたというのに、何事もなかったかのように過ごす妖精たちが許せなかった。
『核』となって宿る部分から湧き出す、どす黒い憎悪と嫉妬であった。
「さあ、飲み込んでやるっすよ。スライム、あなたたちも続くっす」
彼女の背後に、何匹ものスライムが蠢いていた。
●妖精の町の危機
「大変なのです!」
『新米情報屋』ユーリカ・ユリカ(p3n000003)がローレットのメンバーを集めていった。
「エウィンの町に……スライムを引き連れたエミリアさんが現われたのです!」
エミリア・カーライル(p3p008375)は、ローレットのメンバーである。
それがスライムを引き連れているとは、どういうことなのだろうか?
「どうも、アルベド……というもの、らしいのです。造られた魔物ということなのです」
アルベトとは、タータリスクという錬金術師が造りあげた魔物であるという。
イレギュラーズから採取した血液、毛髪等、体組織の一部を使うことによってできあがるようだ。
ただ、それだけでは肉体のみの存在だが、その体内に『核』を埋め込むことによって自立できるようになる。
「問題は、その『核』なのです」
きゅっと、拳を握りしめる。
ユーリカは、何かを決意してから皆に話した。
「『核』の材料は、妖精さんたちなのです……」
おぞましい事実であった。
魂のない肉体を動かすために、妖精そのものを仮初の命として埋め込むのだ。
「アルベドは、スライムを引き連れてエウィンを侵略するつもりみたいなのです。妖精さんたちを助けて上げてほしいのです」
悲しみの目を向け、ユーリカはすがるように言った。
妖精の町を、ローレットのメンバーたちは救えるだろうか?
- <月蝕アグノシア>妖精の町に迫るモノ完了
- GM名解谷アキラ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年07月15日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●妖精の街に迫るスライムの波
「妖精の皆さん! スライムが迫っています! 今のうちに避難してください」
『星満ちて』小金井・正純(p3p008000)の声が妖精の町エウィンに響いた。
可愛らしい家々で平和に暮らしていた妖精たちは、慌てて小さな家財道具をまとめて避難を開始する。
妖精たちからすると、人間サイズの襲撃者は怪獣の襲撃を受けるのと同等の脅威であろう。
これにしたがってやってくるスライムも、ぬるぬるの津波のようになってしまう。
「妖精さん……たすけないとね。それにしても、酷い事を考えるね……」
『黒紫夢想』アイゼルネ(p3p007580)も、妖精たちを避難させるために誘導する。
しかし、そんな中でやってきたアルベドという存在には、悲しみを覚えたようだ。ようだというのは、彼女の表情が変わらないためである。
アイゼルネは出自不明のアサシンである。常に無表情でいるのはその経歴ゆえのことであろう。だが、表情がないことと心がないことは違う。
妖精たちのささやかな日常を破壊するものには、胸のうちに憤りがある。
ともかく、町の外まで妖精たちを逃がせたならば、しめたものだ。
これを追ってきたアルベドとスライムに奇襲を仕掛けようと仲間たちが待機している。
その間、敵を引きつけるのは、『胡乱な渡り鳥』東雲・リヒト・斑鳩(p3p001144)と『鋼鉄の冒険者』エミリア・カーライル(p3p008375)の役目である。
特に、アルベドの元にされたエミリアには、声を大にして言いたいことがあった。
「さて、タイプエミリアとは……」
見れば見るほど、よく似ているとエミリアは感じた。
ただ、アルベドのエミリアは、色褪せておりそこは大きく違う。まるで、スライムにまみれて色が落ちてしまった自分のように思えた。
「人の真似して好き勝手やるような輩は此方の癪に障りますね。ええ、実に気に喰わない」
リヒトもアルベドの存在を認める気はなかった。
ともかく、このアルベドとスライムたちを誘い出し、妖精たちの避難を助けるのだ。
「おやおや、そこの随分と色褪せたお嬢さん。どこへ行こうというのかな?」
「色褪せた、とはなんすか?」
挑発的な物言いによって、アルペドの意識を自身に向けることに成功した。
「色褪せた……。いや、白黒、というには実に黒い。中身はまっくろくろすけだねぇ。あはははは」
「わたしの中身がどうだって言うんすか」
「怒り、嫉妬、憎悪。結構結構、実に結構なことだよ。が、所詮その程度でしかないのかな? いたくつまらないねぇ、期待外れもいいところだよ」
リヒトの目的は、アルベドの核となる妖精の心情を振る舞いから解体し、もっとも気に障る点を言葉で紡ぎ出していくことだった。
「その程度では私たちを捉えることもできないんじゃないかなぁ? それともなんだい? 試すのが怖いのかい?」
そんな挑発。
エミリアのアルベドの核となった妖精の、触れられたくない部分を逆なでしていく。
「ほらほら、鬼さんこちらだよ? おっと、その目は飾りだったかな。それとも怒りに目が曇るってヤツかい? これは失敬失敬」
敵を誘い出すためには、残酷に言葉を紡ぎ出すこともできるのだった。
「そんなに倒されたいのなら、お望み通りにしてやるっすよ!」
核となっている妖精の感情は、自由を奪われ、そのためにそうではない者たちへの嫉妬と憎悪に囚われている。
すでに冷静ではない。だからこそ、挑発は有効だった。
「さてここいらで役者交代といこうじゃァないか。それでは失礼させてもらうよ」
リヒトはアルペドを引きつけ、十分に誘導した。思惑通りであった。
曲芸射撃によって、リボルバーからアルベドの身体をかすめるように撃つ。
狙いは、アルベドの活動の源となるフェアリーシードをかばわせるこだ。
そして十分に引きつけてからは、今度はエミリアの番であった。
「この乙女の恥じらいは剣にてスライムにぶつけてやるっす!」
彼女がスライムまみれになったのは、故あってのことなのだ。
別に、スライムにまみれたかったわけではない。
まるで望んでスライムまみれになり、動画を撮られかけたりしたのも望んではいないことであった。
しかし、このように自身の分身がスライムを引き連れて現われたとなると、ますます誤解が広がってしまいそうだ。
「スライムまみれになった恥じらいは、ダンジョンに置いてきたっす! スライムは任せろっす!」
花も恥じらう乙女であるが、今はそのことは置いておく。
誤解を解くのは、戦いを終えてからでいい。
「こっちっす! スライムども!」
あえて、エミリアはスライムを引きつけける。
あの日あの時、スライムまみれになった感覚は、今も覚えている。
「ははっ、やっぱり好き好んでスライムにまみれたんすね」
アルベドのエミリアは、そんなエミリアの内心を知っているかのように煽る。
「だ、黙るといいっす!! ええええいっ!!」
思わず激昂したエミリアに、さっそくスライムが襲ってくる。
その第一波をみずからの身体を盾にして食い止め、スライムにまみれながらも大剣を振り回して吹き飛ばした。
「まずぅ、このぉ、スライムってやつはどうにかしないとですよねぇ」
『とんでも田舎系灰色熊』ワーブ・シートン(p3p001966)が、のそりと動いた。
「服だけ溶かすってぇ。でもぉ、おいらの毛を台無しにはさせたくないからぁ、全力でいくですよぅ」
スライムとの距離は、反撃を受けぬように詰めてぶんっと腕を振り回した。
川を溯上する鮭を一撃で跳ね飛ばすという熊の一撃を食らってはスライムもたまらない。
元々不定形のその体が、ビチャビチャを飛沫を上げて吹き飛んでしまった。
「あんたたちはぁ、お呼びじゃないんですよぅ」
のんきな声に聞こえるが、スライムからしたらたまらないであろう。
熊の腕力で好き放題に撹拌されて蹴散らされる。
彼らが原始的で、痛覚も感情もないのは救いに思えた。
●一心不乱の反撃へ
「スライムまみれ、と来たでござるか……」
スライムにまみれるエミリアを見て、『破竜一番槍』観音打 至東(p3p008495)は思わずつぶやいていた。
「拙者、興味はnoござる――と、いうことにしておき候。またの機会もあり申そう! YES我慢、NO暴走!」
などと、至東は複雑な心情を口にした。
花の乙女がスライムに塗れるような、あられもない姿を晒すわけにはいかない。
ぬるぬるにぬめる感触、そして結果として視線を集めてしまうという、おいしい目に遭うのを期待するなど、断じてないのだ。
「アルベド、と言ったか。いのちを核とする外道の技、拙者が斬り捨てる!」
そう、今回は真面目に侍をやると決めたのである。
エミリアがスライムを食い止めている間に、アルベドを倒してしまうつもりだ。
一瞬、スライムを撒き散らしながら奮闘するエミリアのことが気になりつつも、やはり真面目に戦わねばならない。
真面目に戦い、アルベドを速攻で倒せればスライムと戯れられるかも、といった期待は皆には内緒である。
「……どうやら、憎悪と嫉妬を行動の因としているようでござる」
ともかく、至東はアルベドの核となる妖精の内心を読み取った。
「それはつまり、こちらへの悪意を持ちつつも、己の生存・存在の続行をこそ是としているということ。死んだらジェラシれないでござるしネ」
そう、憎悪と嫉妬は生あるからこそ。
裏を返せば、強烈な生への執着があるということだ。
「何を訳のわからぬことを言っているっすか!」
内心を読まれるというのは、かなり居心地が悪いものだ。
特に憎悪と嫉妬というのは、できれは伏して起きたい感情であろう。
アルベドは、渾身の力を込めて巨剣の刃を振り下ろす。
十分な威力があるその一撃を、優れた反応で察知し、なんなく躱してみせた。
「怒りに任せた攻撃ほど、躱しやすいものはない。して、さような相手ならば、隠し物がどこにあるか――探るのは、たやすうござる」
剣というものは、その内面性が出る。
こうやって読みきったからこそ、その軌跡もあらかじめ予想できる。
「秘剣、沙淫レ――」
ゆるやかに見えて、それでいて無駄のない連撃。
アルペを確実に追い詰めていく。
「むううう……!」
憎悪と嫉妬という負の感情では、決して防ぐことはできない。
しかし、至東の目的は手傷を与えることではなく、この連撃からどこをかばおうとするか出会った。
「なるほど、心の臓と同じでござるか」
憎悪と嫉妬は、生への執着であることは先程述べた。
だからこそ、無意識的にフェアリーシードの位置をかばおうとするのだ。
「ステンバーイ、ステンバーイ……」
「はっ!? あのダンボールは……」
ごそっ……。いつの間にかそこに置かれていたダンボールが動いた。
ここにいる誰もが、何故そんなところに置かれているダンボールの存在に気がつかなかったのだろうか? 動き出すまでそのように思わせるほど、さりげないものであった。
それほどまでに高度な心理的迷彩効果を計算してのものだ。
ダンボールの中から姿を見せたのは、『博徒』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)である。
(スライムでベタベタになるってのはなぁ……。というか野郎がなっても誰得だよ。そんな事より妖精助けてやらねぇとな)
閉塞的なダンボールの中でそのようなことを考えながら、この機会を狙っていたのだ。
「そんなところに潜んでいたっすか!?」
完全な不意打ちである。
完全に気配を遮断してからの、狙いすました一撃を躱すことはできなかった。
「フェアリーシードの場所は心臓の位置か。やりやすいんだか、やりにくいんだか」
急所である心臓を狙うのは、戦闘の常法でもあるが、今回は核とされた妖精を救出することを目的としている。あえてその部分を傷つけることなくえぐり出すという戦法を取らねばならない。
心臓の位置にフェアリーシードがあると見切ったイレギュラーズは、引きつけたアルペドに対して攻撃を開始した。
「さあ、合法的に滅多撃ちのチャンスです! 普段撃てない分張り切りましょう! ……ごほん、ええ! 敵を撃つためですから!」
正純が号令をかけ、後方からマジックミサイルを発射する。
これに紛れるように、アイゼルネが必殺のアン・グスタを放った。
「くあっ……!?」
独自に調合した劇薬が塗布されたナイフは、アルベドにあらゆる苦痛を与えることになる。
『かくて我、此処に在り』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)もこのタイミングで動き、外三光を放った。
「助けます、だから少しだけ耐えてくださいね。私も撃ち抜かないよう耐えますので…!」
正純はアルベドの核にされた妖精に向かって語りかける。
あくまでも、彼女たちは救いに来たのだ。
望みもしないのにフェアリーシードにされ、アルベドを動かす一部にされた妖精を。
「うるさいうるさいっ! みんな私がこうならずによかったって、心の中で安堵してるに違いないっす!」
「――いい加減、目を覚ますっす! 本気でいかせてもらうっすよ!」
エミリアの肉体を、機械が覆っていく。
胸部から首にかけて、手甲、脚甲のように。
髪の緑の部分も、職種のように動き、まとわりついたスライムを引き剥がしていった。
感情の高ぶりによって発動する彼女のギフトMODE:SADだ。
「相手も自分……ならば、言葉よりももっと伝わるものがあるはずっす!」
あらゆる感情と、渾身の力を込めた鉄拳を繰り出し、アルペドの顎にクリーンヒットした。
(これは……!)
言葉だけでは伝わらない感情がある。
いや、感情すべてを言葉にしようというのは、無理がある。
ほどばしる怒りの大きさなど、言葉を尽くしても表現できるものではないだろう。
だからこそ――。
繰り出した一撃に、どれだけの思いが込められているか。
言葉では伝えられないが、痛みによって伝えられるものが、ある。
肉体と肉体を通して生まれるコミュニケーション、すなわち肉体言語――。もっとも原始的にして単純明快なノンバーバル。
アルベドは、いやフェアリーシードの妖精は、エミリアが全身全霊を込めた右ストレートから、その思いの丈を受け取った。いや、受け取らざるを得なかった。
スライムまみれになってしまったことへの周知とその怒り、乙女の恥じらいをしまっておかねばならないやるせなさ。そしてまた、拳による攻撃によって怒りはあれど殺意がないことの証明。
彼女が本気になったのは、優しさなのかもしれない。
そのようなものが、ないまぜになって振るわれた拳の重みを思い知った。
「う、うう……」
地面に倒れたアルベドを、ニコラスが覗き込む。
「苦しかったんだな。辛かったんだな。すまねぇな、助けるの遅くなっちまってよ。今助けてやる」
「助け、る……?」
「そうだ。お前は、そのアルベドの心臓でコアになってるんだろ? 答えろ、そしたら俺たちも全力でてめぇを助けてやる!」
「う、うん……」
アルベドを通して、核にされた妖精は頷いた。
彼らは、自分を救うために本気になってくれたのだ。
なら、信じてもいいだろう。
薄れゆく意識の中で、妖精は彼らに身を委ねることにした。
「その心、仕置きつかまつる。……チャージだけ、ネ♪」
「どうにもですよぅ」
至東とワーブが言うと、アルベドは静かに目を閉じた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした! フェアリーシードの場所を戦いながら探して助けるというプレイングによって、核とされた妖精も救われました。
やはり肉体言語は強い、そう思った次第です。
よいプレイングがいろいろありましたが、中でも憎しみや嫉妬が生への執着と見切った観音打 至東さんには、MVPを差し上げます。
アルベドの元になってしまったエミリアさんも、おかげでシナリオが盛り上がったことのお礼を述べさせていただきます。
それでは、またお会いしましょう。
GMコメント
■このシナリオについて
皆さんこんちわ、解谷アキラです。
妖精郷での新展開を受けてのシナリオとなります。
妖精の町エウィンを、現われたアルベドとスライムから守ってあげてください。
・アルベド
これまで密かに採取されていたイレギュラーズの体組織から造られた魔物のようです。
本来なら、肉体のみなのですが核となるフェアリーシードを埋め込むことによって活動するようになります。
このフェアリーシードの材料は妖精です。
戦闘力は強力なものと推測されます。
このシナリオのアルベトは、エミリア・カーライル(p3p008375)の体組織からできあがっています。
・フェアリーシード
材料にされた妖精たちが材料です。
これを破壊すればアルベドも機能停止します。
破壊すると、妖精は死亡します。
逆に言えば、まだ死は確定していません。
フェアリーシードがどこに埋まっているのかを知る場合は、プレイングで正確に探す必要があります。
・スライム
10匹ほど引き連れられています。
こちらは、強いモンスターではないようです。
このアルベドは、素体の影響によって敵対者をスライムまみれにしようとする衝動があるので注意してください。
というわけで、事前情報は以上となります。
皆様の参加をお待ちしております。
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