シナリオ詳細
Lust Murder
オープニング
●ナミダ
エディス・バルツは暗がりの中、真っ赤な椅子に座っている。しんと静まり返った部には爪を噛む音。エディスは誰よりも美しい女。ただ、蒼く澄んだ瞳は血走っている。
「フィーネ――」
指先から唾液に濡れた血液が滲んでいく。エディスは不安げに視線を彷徨わせる。
眼球が蠢き、恋人であるフィーネ・ルカーノを捜す。だが、あるのは闇ばかり。エディスはゆらりと立ち上がった。
口角を三日月に変え、からからと笑う。ふと、自分以外の音がした。
「エディス――? いるのかしら?」
明かりがぱっとつく。
「ああ、フィーネ!!」
エディスはフィーネに抱き着きフィーネの胸に顔を強く押し付ける。
「貴女、子供みたいね」
フィーネの舌先がちろりと顔を出す。笑ったのだ。
「血」
「え? なぁに?」
フィーネはエディスの言葉に目を瞬かせる。
「血の臭いがする……また、R倶楽部へ?」
エディスはフィーネを見上げる。フィーネはすぐに目を細めた。
「ええ、あそこはとても良い場所だから。エディス、今日はね。男を拷問してもらったの……ああ、鞭が肉を裂く音がとても美しかった……」
フィーネは吐息を漏らした。その顔には興奮が浮かぶがそれはすぐさま、冷たいものに変わった。
「でもね……それだけじゃつまらなくてすぐに飽きてしまったわ。男もすぐに死んでしまった」
フィーネは意地悪く笑い、エディスをじっと見つめた。
「ああ、エディス。あたくしの愛しい人――ねぇ、貴女ならどう、あたくしを満たして?」
フィーネは両手をエディスに伸ばし、躊躇いなく首を絞めていく。エディスの首がきゅっと細くなる。
「ああ……あああ!」
エディスは叫び、フィーネの顔を両手でそっと包み、微笑んだ。エディスの両手は昂奮によって大きく震えている。
●貴女の為に
ギルド『ローレット』で情報屋――ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は依頼人のエディスを見つめた。エディスの首には皮下出血があった。エディスはユリーカを見つめ、にっこりと微笑んだ。
「あわわ! び、美人さんのその仕草は反則なのです……」
ユリーカは頬を染め、かぶりを振る。そして、ユリーカはおずおずと口を開いた。
「ええと、今回の依頼は大量殺人、ですか?」
「ええ、そうね」
エディスは微笑んだ。ユリーカは躊躇いがちに「どうして大量殺戮を行うのです?」と訊ねた。
「勿論、フィーネ・ルカーノの為に」とエディスは言った。
「フィーネ・ルカーノさん? え、あの有名な財産家さんですか?」
「ええ、そうよ。私の恋人なの。彼女とは愛し合っているのよ」
「ひゃう! あ、愛し合って……」
ユリーカは真っ赤になった。
「あら、おかしい?」
「いいえ、そんなことないです!」とユリーカはかぶりを振る。その様子にエディスは上品に笑う。
「そう、良かった。ねぇ、細かい話なんだけど――」
エディスは目を細め、体温を上げるユリーカを眺めた。その場に居合わせたイレギュラーズ達はユリーカとエディスをじっと見つめている。
「場所はR倶楽部。そこで12人の猛者を殺して欲しいの。頑丈な檻の中には猛者達が鎖に繋がれている」
「鎖、ですか?」
「ええ、獣のようにね」
エディスは真っ赤な舌で唇を湿らし、言葉を続ける。
「彼らは暗示をかけられているの。だから、痛みも恐怖も感じない。そして、あなた達が檻の中に入った瞬間、猛者の鎖が外される。此処から乱戦ね」
エディスは言い、イレギュラーズ達を挑戦的に眺めた。
「攻撃によっては味方を傷付ける場合もあると思うけど……プロなら味方を傷付けずに猛者だけ殺せるでしょう? だって、彼らは長剣しか持っていないんだから」
エディスはくすりと笑う。
●R倶楽部
フィーネは恋人であるエディスにエスコートされ、観覧席に案内される。巨大な檻の中で白い服を着せられた猛者達が蠢いている。
「さぁ、プリンセス。座って?」
エディスは微笑み、フィーネは席に着いた。
「へぇ?」
フィーネの双眸に檻の中に入っていくイレギュラーズ達を映りこんだ。フィーネは目を細めた。
そして、扉がゆっくりと閉まっていく――
- Lust Murder完了
- GM名青砥文佳
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年04月19日 21時20分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●プレイ
此処はR倶楽部。嗜虐が許された世界──
フィーネは笑う。猛者達は鎖を鳴らし蠢いている。彼らはこれから死のダンスを踊る。
「ああ、美しい光景」
フィーネはほくそ笑み、目を細めた。鎖が外され、沢山の赤が流れ出す。フィーネは誰よりも赤を愛していた。
「うふふ、貴女にしては気が利くじゃない」
フィーネはエディスに微笑んだ。だが、フィーネの関心はすぐに他の者に向かう。フィーネは『任侠』亘理義弘(p3p000398)を見た。
「とても素敵ね」
フィーネは舌先で唇をちろりと舐め「顔も好みだわ」と呟いた。エディスはぴくりと震え、義弘を見つめるフィーネを見た。エディスは目を見開いている。
「ねぇ、そう思わない?」
フィーネは青ざめていくエディスに微笑んだ。
「──嘘、貴女が一番。大丈夫よ、あたくしの心は貴女に預けているの。貴女ならちゃんと知っているでしょう?」
フィーネの言葉にエディスは瞬く間に惚けていく。
「――あの子がラスト?」
フィーネは笑い、視線を『宿主』サングィス・スペルヴィア(p3p001291)に移していく。スペルヴィアはしきりに顔を動かし白銀の髪を揺らす。
(ふぅん? 檻の構造と猛者達の位置を確認しているようね。ということは――)
フィーネは目を細めた。音、鎖が落下し猛者達が地を蹴る。同時にイレギュラーズ達が爆ぜた。色が混じり合う。フィーネは笑う。白には赤が栄える。
●ショー・タイム
イレギュラーズ達は目を細め、息を吐く。猛者の群れが濁流のようにイレギュラーズ達を飲み込もうとする。忙しない足音、イレギュラーズ達は男達を必死にすり抜けていく。ふと、視線が交わる。『紅の死神』天之空・ミーナ(p3p005003)と陰陽の朱鷺(p3p001808)が位置についた。ミーナは扉に近い左側、朱鷺は右側。彼らは壁を背に立つ。朱鷺は式神をそっと放った。式神は檻の外に立つ。
「記録をお願いします。それと、敵が半分になったら私の近くで合図を」
朱鷺は式神に文房具のセットを手渡した。
「……来たな」
ミーナは赤い瞳を細めた。自らに長剣を振り下ろす男。白い服から清潔な香りがした。ミーナは笑う。
「はー……やれやれ。美人からの依頼だってーから喜んできたら、とんでもねぇもんだ」
ミーナは呟き、短剣を振り上げた。刃が重なり、音が生まれた。ミーナは顔を歪ませた。握った手に重い衝撃。ミーナは咄嗟に振り返る。片足で素早く壁を蹴り、ミーナは男の膝を強引に切りつける。そして、入れ違いに長剣を振るう男を刺突剣で突く。男は血を撒き散らしながらも軽快な動きで体勢を整えた。男は顔を上げ、『狐狸霧中』最上・C・狐耶(p3p004837)に肉薄する。狐耶は男に背を向けたまま、両耳を立てた。
(まだ、位置についていませんが、仕方がありませんね)
狐耶は振り返る。その刹那、合流した三人の男が同時に躍り出る。狐耶は細剣を構え、踏み込んだ。細剣を小さく振るう。鋭い音。風を切り、男の動きがぴたりと止まる。血――
男達の肩口が勢いよく裂け、狐耶の服を濡らしていく。
「転んでください」
狐耶は屈み、男達の足を次々と払っていく。一方、朱鷺は切れ長の双眸を細め、魔力を増幅し、狙いを定めた。攻撃を放つ。式符・白鴉を使い、義弘に迫る男を弾き飛ばした。
「ありがとな」
義弘は振り返り、にっと笑う。そして、義弘は立ち止まる。中央の右側で表情を引き締めた。顎を引き、背水の構えを使う。義弘はナックルを構えた。男が飛びかかり、長剣を大きく振るったのだ。義弘がぱっと動いた。長い腕を豪快に伸ばし、男の顔面を砕く。男は吹き飛んでいく。義弘は得意げに笑い、真横を見た。 そこには――
「颯人!」
義弘は叫んだ。
「危ないな」
転がってくる二人の男を『黄金の牙』牙軌颯人(p3p004994)は瞬時に跳び越えた。颯人の表情は変わらない。眉根を寄せたまま、男達を見下ろす。
「生憎と今日は内容が内容だ、加減はせん──行くぞ」
颯人は空中で握り締めた二本の長剣をくるりと回転させた。そのまま、全体重をかけ、二人の男を串刺しにする。切っ先が白い服を裂き、肉の奥に眠る赤を誘い出す。だが、男達は身を捻り、致命傷を避けた。
「始末出来なかったか――」
颯人は長剣を引き抜き、僅かに飛び退く。ギフトの力で剣に金色に輝く炎を宿し、血を流す男を見据えた。二人の男は長剣を構えた。
「ふふ、お待たせ?」
声がする。颯人の脇腹に『妖花』ロザリエル・インヘルト(p3p000015)の身体が触れる。血の臭い。颯人はロザリエルを見下ろす。ロザリエルは笑い、特徴的な身体から頑強で棘をこしらえた蔓を吐き出している。蔓は猛者の血を吸い、ぬらぬらと蠢く。颯人は目を細めた。ロザリエルの返り血は少ない。猛者を殺害したわけではないようだ。
「やるぞ」
「ええ。それにしても、人間のくせにいい趣味してるわねえ」
ロザリエルはフィーネを見た。フィーネは楽しげに死を待っている。
「あはっ、凄い顔! でも、あっちはつまらなそうねえ」
ロザリエルは笑い、蔓に付着した血を舐め取る。エディスは檻を見ることなく、フィーネの髪をひたすら指先で弄ぶ。ロザリエルと颯人は中央にいる。
「あら」
ロザリエルは笑い、真横に身体をずらす。その微かな隙間にスペルヴィア、『見習い』ニゲラ・グリンメイデ(p3p004700)が飛び込む。ニゲラは黒い服を身に纏う。扉から一番、遠い位置にニゲラとスペルヴィアが立つ。ニゲラがちらりとスペルヴィアを見た。スペルヴィアはフィーネを見つめていた。ふと、スペルヴィアの口元が動く。
「ふふ、随分と需要があるみたいね?」
『だな。観客に挨拶でもしてみるか?』
呪具は言った。
「へぇ? 面白いわ、それも」
スペルヴィアはそう言いながら冷やかな表情を浮かべている。
「どちらが見世物なのかしらね」とスペルヴィア。
『さぁ、どうだろう。我は解らない』
スペルヴィアは呪具の言葉にあらと目を細めた。ニゲラははっとする。瞳に血を流した男が二人。勢いよく飛び込んでくる。
「僕が!」
ニゲラは駆け、守る。金色の美しい髪が揺れ動く。スペルヴィアは魔力を増幅させ、男を見据えた。スペルヴィアの前にはニゲラ、ロザリエル、颯人がいる。
「くっ!」
ニゲラは顔を歪ませ、男の重い攻撃を同時に受ける。ロザリエルと颯人が動く。挟み込むように攻撃を仕掛ける。颯人が男の両足を、ロザリエルが一刀両断で男の背を狙う。だが、男はあっさりと避け、ロザリエルと颯人を強引に切りつけた。血が舞い上がる。
「二人とも下がってください!」
ニゲラが踏み込む。男は果敢に攻め込もうとするが飛び込んでくるニゲラを知り、飛び退いた。男は狐耶を見た。もう一人の男は何処かに駆けていった。
「……」
男は狙いを定めたようだ。狐耶に駆けていく。そのまま、三人の男を相手取る狐耶に攻撃を仕掛けた。三人の男は向かってきた男に気が付き、後退する。狐耶は中央の左側にいる。
「簡単にはやられません」
狐耶は呟き、近術で男を叩き伏せる。
「……」
三人の男は中央のイレギュラーズ達に向かっていく。 狐耶は呼吸を整え、構える。
「ふふ、かかって来なさいな! そう、どんどんね?」
ロザリエルが血を流しながら挑発的に笑う。ロザリエルはフリーオフェンスで自らを高め、男を弄んでいる。
「──倒れろ」
体勢が崩れた男に軽傷を負った颯人が強烈なスーサイドアタックを放つ。男は長剣から発する輝きに目を細めた。眩しいのだろう、男は攻撃を避けることすら出来ない。颯人は男を見据え、長剣を振り抜く。男の身体が斜めに裂け、血が噴きだしていく。男は温かな肉塊となる。颯人は息を大きく吐いた。
「悪く思うな。俺に正義は無い。だが──せめて、貴様らの技の一つくらいは俺の記憶に刻もう。俺と戦った敵として」
颯人は呟き、長剣を構えた。猛者は躊躇わずに向かってくる。手を休める暇はない。颯人は目を細めた。フィーネの笑い声が耳に触れたのだ。甲高いその声は悲しい音がした。
「また、手負いが来ましたね」
狐耶は榊神楽を発動させ、傷を負った男を見た。周囲には赤い男、ミーナがいる。ミーナは榊神楽によって上がった回避力で男、二人を相手取る。ふと、赤い男が狐耶に長剣を振り下ろした。狐耶は難なく回避する。今日の為に増やした真っ赤なリボンがひらひらと動く。男は狐耶を追う。狐耶は壁を背にしたまま、檻の奥に移動する。男は何度も長剣を突く。執拗な攻撃を上手く捌きながら狐耶は視界にミーナと猛者達を映す。男は踏み込み、ミーナの顔面目掛けて長剣を突いた。ミーナは右に避けたが切っ先が頬を掠る。頬が切れ、血が垂れていく。
「次から次へと。邪魔だな」
ミーナは嘆息し、腕で頬の血を拭う。
「あぶな」
長剣を短剣で弾き、扉の方向に飛び退く。その瞬間、別の男が跳躍し、長剣を大きく振るう。ミーナは目を見開く。このタイミング、避けられない。だが、ミーナは不敵に笑う。
「朱鷺、義弘っ! 悪い、そっちに飛ばす!」
ミーナは魔力弾で男を吹き飛ばした。ミーナは笑い、向かってきた男の足に自らの足を絡め、転倒させる。ミーナは鼻を鳴らし、奇襲攻撃で強引に男に飛びかかる。
「終わったな、アンタ」
ミーナは白い服に刃物をめちゃくちゃに振り下ろす。血が飛び散った。
「ああ――」
ミーナはゆらりと立ち上がった。その身は猛者と己の血で赤く染まっている。ミーナは目を細めた。息は上がっているがまだ、大丈夫だ。
「次は――」
ミーナは狐耶を追う男を見つめ、呟いた。
●奪い合い
魔力弾によって男が弧を描く。朱鷺はミーナの声に反応し、顔を上げた。朱鷺と義弘は三人の男と戦っている。吹き飛ばされた男は天井に当たり、急降下していった。義弘は目を細めた。天井は濡れ、男の血が滴っている。
「朱鷺、行け!」
義弘は叫んだ。朱鷺は微かに目を瞬かせ、頷く。
「解りました、行かせてもらいます」
朱鷺は男の元に駆けていく。見れば男は四つん這いになっていた。朱鷺は男を見下ろし、式符・白鴉を放つ。男は顔を上げ、額に刻まれた朱鷺の奇抜なタトゥーをその瞳に映した。その刹那、上半身に朱鷺の攻撃を受ける。男は見惚れていたのだろうか、簡単に吹き飛ばされ、格子に激突する。仰向けになった男はすぐに血を吐いた。男は目玉を不可思議に動かし血を吐き続けた。
「……」
だが、曲がった指先で長剣を掴み男はすぐに立ち上がる。凄まじい速度で男は長剣を振り上げた。朱鷺は息を吐き、短節防御術で鋭い刃を防ぐ。朱鷺は冷静に相手を観察しながら動き回る。近くに男はいない。
「さぁ、来い」
義弘の声に男達の視線が集まっていく。義弘は背水の構えを使い、鋭い踏み込みから回り込む様に激しく肉薄する。男は振り返った。咄嗟に長剣で攻撃を防ごうとする。だが、義弘の方が僅かに速い。義弘は男の背にクラッシュホーンを浴びせ、怯んだ男を豪快に蹴り飛ばす。男は動かなくなる。義弘は二人の男を見つめ壁を背にする。男達が一斉に襲い掛かった。義弘は小さく回転し、致命傷を避け、喧嘩殺法を発動させる。興奮によって痛みは感じない。義弘は手を伸ばし、男の頭を一つ掴んだ。
「おらぁ!」
間髪入れずに男の顔を格子に叩きつける。鈍い音。そして、長剣を振るう男の前に、掴んだ男を差し出す。服が裂け、血が飛び散った。義弘は目を細め、動く。
「まだだ!」
義弘は切られた男とともに長剣を持つ男に倒れ込む。自らの体重で男二人を押し潰す。
「……」
義弘はゆっくりと立ち上がり、唇の端に滲む血を太い指先で拭う。息絶えた男達の首は奇妙に曲がっている。血が足元を汚していく。義弘は息を吐く。
「なかなかにしぶといですね」
朱鷺は長衣を翻しながら式符・黒鴉で男に攻撃を仕掛けた。男は脇腹に穴を空け、檻の中をのた打ち回る。それでも――
「ああ、あの状態で立つのですね」
朱鷺は言った。開いた穴からとろとろと血が流れ出す。
「……」
男は身体を大きく揺らし跳躍する。朱鷺は瞬時に右回転をかける。朱鷺の長い髪が男の目を打つ。途端に男の動きが鈍る。朱鷺はその隙を見逃すことなく、真っ赤な傷に式符・白鴉を放った。男の身体が飛び、重い音が聞こえた。朱鷺は痙攣を起こす男を見た。見る見るうちに顔は蒼ざめ、血が溢れ出す。すぐに男は死ぬだろう。式神が近づき、檻を万年筆で叩く。甲高い音が鳴り響いた。
「……壊れちゃいますよ」
朱鷺は式神が持つ万年筆を見つめ、息を吐く。万年筆からインクが溢れていた。
ロザリエルの視線が動き、男の長剣を両腕で受け止めた。
「狭いから受け止めたけど、どうかしら?」
ロザリエルはにっこりと笑い、蹴戦で男の腹部を蹴り飛ばす。男は怯みながらも両足を踏ん張り、奇妙な体勢からロザリエルに長剣を振るう。ロザリエルは男を一瞥し、一刀両断で男を縦振りで薙ぎ払った。ロザリエルは男を見下ろす。そして、何かに気が付き、左奥に駆け出す。スペルヴィアは視線を散らす。猛者達は倒れ、動かない。
「良かったわね。ようやく半分以下みたい」
『はっ! 案外、簡単に死ぬな』
「それはそうでしょう。彼らは操られているだけのただの人。ああ、広くなって戦いやすいわね」
スペルヴィアはからからと笑い、僅かに下がる。二人の男が同時に長剣を振り下ろした。躍り出たニゲラがディフェンドオーダーと防衛力を駆使しスペルヴィアと颯人を庇う。風が吹く。その瞬間、スペルヴィアは片手を一人の男に伸ばし、その腕を強く掴んだ。スペルヴィアは逆再生を発動させる。男の身体が不自然に震え出す。別の男は後退し間合いを取った。
「ああ、今度はあっちですか!」
ニゲラは向かってきた男に飛び込んだ。フィーネの舌打ちが聞こえた。ニゲラは苦笑する。フィーネは「攻撃を防ぐばかりでつまらない。もっとスリルはないの?」と毒を吐く。
颯人の視線が彷徨う。颯人はスペルヴィアが掴んでいる男を長剣で切り裂いた。ぼたぼたと赤が落ちていく。男は前のめりに倒れていく。颯人は倒れ込む男を避け、はっとする。男は手を伸ばし、颯人の腕をぎゅっと掴んだのだ。男は口を開け、唾液を零しながら颯人の左腕に食らいついた。
「くっ!」
肉が押し潰され、瞬く間に皮膚が切れた。颯人は呻きながら蹴戦で男の顎を蹴り上げた。倒れ込んだ男にスペルヴィアがすかさず、強靭な武具で男の頭部を殴りつけた。動かなくなる。颯人は顔をしかめた。手から長剣が滑り落ちた。傷口から血が止めどなく溢れていく。
「――貫手で胸郭をぶち抜いたら依頼主は喜ぶかしら?」
スペルヴィアは言った。
『不明だが……胸部を狙うのは当てやすさという点で合理的だ』
呪具は答えた。
「そうね。まぁ、それより今は――」
スペルヴィアは颯人を見た。ミスティックロアを発動し、ハイヒールで颯人の傷を消し去っていく。スペルヴィアは長剣を拾い上げ、颯人に手渡す。
「ありがとう、助かった」
「いいえ」
「二人とも来ます!」
傷だらけのニゲラが叫び、飛び出した。ニゲラは目を細め、二人の男を見据えた。
「もう、僕は庇いませんよ。攻撃します!」
ニゲラは短剣で男の足を切り、蹴戦で男を吹き飛ばす。男は誰もいない空間に叩きつけられる。血が四方に散り、男の身体から力が抜けていく。ニゲラは移動し男の攻撃を右に避け、短剣で男の腕を切り、盾で攻撃を受け止める。男はニゲラに翻弄されている。
「終わりですよ」
ニゲラは呟き、跳躍する。シールドバッシュで男の額を殴りつけた。額は割れ、黒服に染みが広がっていく。ニゲラは振り返り、フィーネを見た。男は二人とも死んでいた。
「防御しか取り柄が無いと思いましたか?」
「なっ──」
フィーネはニゲラの言葉に面食らう。だが、フィーネはすぐに鼻を鳴らし、狐耶を見た。
●最後の男
狐耶は壁を背に動き回っている。目の前には男が一人。男は速度を落とすことなく長剣を振るう。
「隙がないですね」
狐耶は近術で男に攻撃を仕掛けるが男は直前でかわしてしまう。
「わっ!」
狐耶は叫び、懐に踏み込んできた男を見た。驚きながら持っていた鏡で長剣を受け止めた。鋭い音が鳴る。狐耶は僅かに顔を強張らせ、細剣を男の足に突き刺した。血が噴く。男は左右に首を振り、ロザリエル、ミーナを知る。ロザリエルは片目を瞑ってみせた。頑強な棘ある蔓を伸ばし、男の自由を絡め取る。
「あら、素敵ね」
ロザリエルは笑う。男の身体が痙攣する。
「だろう?」
ミーナだ。ミーナの刺突剣が心臓を貫通したのだ。男は崩れ落ちた。ロザリエルは死んでいく男を放り投げた。
「そう、最期は派手にねえ?」
ロザリエルは曲芸射撃で男の首を刎ねた。首が飛び、ころころと動き回る。その瞬間、フィーネの歓喜をイレギュラーズ達は知る。皆、赤に支配されていた。
R倶楽部を後にするイレギュラーズ達──
突然、ミーナが立ち止まりフィーネとエディスを一瞥する。フィーネは興奮で瞳を潤ませている。
「……覚えときな。今はそれでいいかもしれねぇが…そのうち、自分に悪事は帰ってくるんだぜ。人生の先輩からの忠告だ」
ミーナは言い、すたすたと歩いていく。狐耶は目を細めた。
(貴女達の顔は覚えておきましょう。そう、いつか報いがあるといいですね?)
狐耶はミーナを追う。朱鷺は満足げに羊皮紙をめくり、記録を確かめている。ロザリエルは楽しげに笑い、スペルヴィアは冷たい表情を浮かべている。
(運が悪かったな、お前らも俺達もよ)
義弘は煙草を咥え、檻の中の遺体を見つめ、合掌する。
「――じゃあ、風呂にでも行くか」
義弘はニゲラと颯人に声を掛けた。
そして、扉は閉まっていく。
大胆に絡み合う恋人達を残して──
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
皆様、ご参加いただきましてありがとうございました。青砥です。
わたくし、皆様のプレイングを拝見するまでは血塗れの乱戦になるかと思っておりましたので少しばかり悔しいです。所謂、皆様の作戦が素晴らしかったということです。ありがとうございました!そして、皆様のお蔭でフィーネの心は満たされ暫くの間、エディスはフィーネを独占出来るかと。
では、少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。 また、皆様とお会いできますことを。
GMコメント
ご閲覧いただきましてありがとうございます。
今回の依頼はR倶楽部で大量殺戮を行うことです。さぁ、どうぞ。全員、心置きなく殺してください。
●依頼達成条件
R倶楽部で猛者を全員殺害し、フィーネ・ルカーノの心を満たすこと。
●依頼人
エディス・バルツ 女性であり、フィーネ・ルカーノの恋人の一人です。嫉妬深く美しい女性です。善悪などどうでもよく、フィーネの為なら何でもする人です。
●恋人
フィーネ・ルカーノ 女性であり、エディス・バルツの恋人です。財産家であり、日々、刺激を求めています。最近は殺人を見るのがマイブームです。エディスより凶悪で壊れています。ただ、偽るのが上手い人です。あちこちに恋人がいます。
●場所
R倶楽部の檻の中です。特に特徴がない鉄格子の巨大な檻。巨大といえども、猛者とイレギュラーズ達が入っているので窮屈です。大きく避けたり、逃げたりすると思わぬ攻撃を受ける可能性があります。檻は戦闘で壊れることはございません。
●猛者達
12人います。全て男で長剣(両手持ち)を持っています。戦闘経験があり、簡単には倒せません。武装しておりませんが赤が映えるように白い服を着ています。また、暗示をかけられているので感情がなく、痛みを感じる事さえありません。獣のように命を失う最期の瞬間まで何としてでも戦い続けます。乱戦が予想されます。
●注意
この依頼は悪属性依頼です。
通常成功時に増加する名声が成功時にマイナスされ、失敗時に減少する名声が0になります。又、この依頼を受けた場合は特に趣旨や成功に反する行動を取るのはお控え下さい。
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ああ、どうか殺してください。
ちなみに戦闘中の会話は殆ど致しません(予定)
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