PandoraPartyProject

シナリオ詳細

メイド服は血に染まり

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●メイドキラー
 女がゆっくりと目を開いた。
 ぼんやりとした視界に映るのは見慣れぬ天井だ。どこか重苦しい雰囲気があると感じた。
 続けて、異臭が鼻を突く。血生臭い、鉄分を含んだ臭いだ。
 どうしてこんな場所にいるのだろう。記憶が混濁している。
 起き上がろうとして、上手く起き上がれない事に気づいた。身体が重い。自分の身体では無いみたいだ。
「あら、お目覚めね」
 そこで初めて、その場所に自分以外の人物がいることに気づいた。
 視線を巡らせ、その顔を辿れば――、
「メッサー……夫人」
 その名前は、自分の雇い主の名だ。
 そう、女はメイド。富豪であるオースト・メッサーの夫人を世話する為に雇われたメイドだ。
「うふふ、その服とても似合っているわ。素敵なデザイン。あの業者に頼んで正解だったわね」
 服の事を言われ、自分の着ているメイド服のことを思い出す。オーダーメイドで作られた上質な洋服。貧困街で暮らしていた自分には一生縁のないものと思っていたもの。
「ありが……ござ……す」
 礼を述べようとして口が上手く回らないことに気づく。
 そもそも、何故自分はこんなところにいるのだろうか。働かない頭に疑問が灯る。
 その疑問に答えるように、メッサー夫人は笑顔で告げた。
「それじゃ今から殺すわね。ああ大丈夫よ、あなたの血で綺麗に服が染まるはずだから。うふふ、きっと素敵なメイド服になるわ。それを着るあなたもより完璧なメイドになるに違いないもの。ええ、間違いないわ。だってこんなにも魅力的な服なんですもの、私のメイドであるあなたの血で染まればまさに完璧よ、これ以上ないわ、さぁ準備はできたかしら、大丈夫よチクッとするだけだから、心配しないであなたでもう十人目、私も慣れてきたのよ、うふふ――」
 早口で捲し立てる夫人が何を言っているのか理解できなかった。
 メイドは自身の生命が脅かされていることにも愚鈍で――鈍く働かない頭を叩き起こそうとして――抵抗する事も、叶う事は無く、その首に鋭い白刃を突き立てられた。
(なんで私ここにいたんだっけ……)
 哀れなメイドが最後に思ったのは、そんな事だった。

 メイド服の白いフリルを、赤黒い血液が染めていった。


「――と、言う具合にメイドが沢山殺されているそうよ」
 事件の概要について訊ねたイレギュラーズに情報屋の『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が臨場感たっぷりに話して聞かせた。
 要約すると、王都近郊に邸宅を構える富豪オースト・メッサーの夫人「キルエ・メッサー」が、自ら雇い入れた執事やメイド達を夜な夜な殺しているそうだ。
 メッサー夫人は貧困街に住まう少年、少女を執事、メイドとして雇い入れていたことで有名で、愛情深く育てた中には、数は少ないがそこから第二の人生を歩み出せた者もいると聞く。
 愛情深いメッサー夫人がどのような経緯をもってそのような殺人鬼となってしまったのか、杳として知れなかった。
 これらの情報は、夫人がメイドを殺す現場を見てしまった一人の執事見習いが、死にものぐるいで届けてくれた情報だという。
「最近幻想で起こる事件は、こんなようなものばかりね……」
 猟奇的な事件が相次いでいる。『サーカス』は大成功だったというのに、どこか雰囲気がおかしい。
 憂鬱な雰囲気を打ち消すように音を立てて掌を合わせたリリィは、依頼書をイレギュラーズに渡してくる。
「ともあれ依頼は単純よ。メッサー夫人の凶行を止めること。生死は問わずよ」
 単純に夫人の凶行を止めるだけなら憲兵に任せればよさそうだが、リリィは依頼書の一点に指を置く。
「夫人は邸宅に篭もっているけど、使いっ走りに兵士くずれのゴロツキを雇い入れているの。
 こいつらを使って、新しい執事・メイド候補を貧困街から連れてきているみたいね」
 ゴロツキは八名。長剣で武装した経験豊富な手練れのようだ。
 四名が外を見回り、残り四名が邸宅内を見回っている。当然戦闘になれば一カ所に集まってくるだろう。
「貴方達なら強行突破でも問題ないとは思うのだけれど、何か上手い方法はあるかしら?」
 訊ねるように聞くリリィは指を顎に当て小首を傾げる。
 考えれば何かしらの方法はあるかもしれない。上手く潜入し夫人を無力化できれば一番なのだが……。
「ともあれ、メイド好きの夫人のメイド殺し、野放しにはできないわ。依頼、宜しく頼むわね」
 リリィは信頼するようにイレギュラーズを見つめると、静かに席を立つのだった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 メイドが好きすぎる夫人がおかしくなってしまいました。

●依頼達成条件
 ・メッサー夫人の無力化(生死は問いません)

●情報確度
 情報確度Bです。
 想定外の事態も起こるかも知れません。

●メッサー夫人について
 キルエ・メッサー。
 メイドをこよなく愛するおばさん。
 メイド達に着せるメイド服はいつもオーダーメイド。
 執事も好きですが、メイドほどではありません。
 何やらおかしくなってメイドを手に掛ける凶行に及びました。
 『白刃』(物至単・流血・致命)

 戦闘能力は高くありませんが、殺人経験の豊富さから流血・致命を与えてきます。
 またCT値が高めです。油断は禁物です。 

●ゴロツキについて
 雇われの兵士くずれ。
 みんなお揃いの長剣を装備しています。
 性格、態度が悪いです。
 『喧嘩殺法』(物近単・連)
 『肉薄戦』(物至単・乱れ)

 邸宅の外を四名が巡回し、邸宅内を残り四名が巡回しています。
 戦闘になればすぐさま呼び笛を吹いて全員が集まってくるでしょう。
 金で雇われているだけなので忠義心は皆無です。

●殺害現場
 邸宅の地下室になります。
 中は拷問器具やらがここぞとばかりに集められていますが、あまり使用した形跡はないようです。
 室内は血がこびりつき生臭いです。
 入り口は木製の扉ですが頑丈で、内鍵になっています。
 鍵が掛かっている場合、扉を壊す以外に侵入する手段はないでしょう。

●メイドと執事
 現在、残っていたメイドを皆殺してしまった為に誰もいません。
 すぐにでも貧困街から連れてこようと考えているようです。
 また、連れてこられたメイドと執事は毎日一人ずついなくなるようです。
 いなくなるメイドは皆眠る前に頭が重いと言っていたそうです。

●想定戦闘地域
 邸宅周辺は開けた場所になります。邸宅内も広く戦闘は問題なく行えます。その他目に付く障害物はなく戦闘に支障はでないでしょう。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • メイド服は血に染まり完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年04月22日 21時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

スウェン・アルバート(p3p000005)
最速願望
リィズ(p3p000168)
忘却の少女
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
秋空 輪廻(p3p004212)
かっこ(´・ω・`)いい
ヴィエラ・オルスタンツ(p3p004222)
特異運命座標
フォリアス・アルヴァール(p3p005006)
彷徨う焔

リプレイ

●潜入
 貧民街に目標のゴロツキ達が現れる。何かを物色するように辺りを見回すゴロツキ達を確認して、イレギュラーズは行動に移った。
「ねぇ、お兄さん達、リィズ達にお仕事くれないかな? なんでもするよ?」
 みすぼらしい格好に扮した 『忘却の少女』リィズ(p3p000168)、『星を追う者』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)、秋空 輪廻(p3p004212)の三人はゴロツキ達を拐かす。
 リィズの豊満な胸を注視させる性的な魅力と共に、輪廻のギフトがゴロツキ達の性的嗜好を刺激する。
「へへへ、なかなかの上玉達じゃねーか。っと、そっちのは傷でも隠してるのか? 仮面か。そして、男が一人か……さて」
「俺もいっしょにつれてって。お仕事、がんばるから」
 ウィリアムがリィズ、輪廻の兄を名乗り、一緒に仕事をさせて欲しいと懇願する。
 華奢な体型がゴロツキ達のどこかに刺さったのかもしれない。ゴロツキ達は何やら確認しながら頷き合った。
「よし、仕事をやろう。ついてこい」
「よかった。ありがとう。頑張るよ」
 三人気づかれないようには頷き合う。それは潜入班の様子を伺っていた仲間達にも伝わった。
「どうやらうまく行ったみたいッスね」
「なかなかの名演だったね」
 『最速願望』スウェン・アルバート(p3p000005)がゴロツキに連れて行かれる三人の様子を確認し、『応報の翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)が三人の演技を褒める。
「ゴロツキ達の目、いやらしかったね。何を期待していたのかな?」
『夫人のしていることを知らんわけでもあるまいに。おこぼれにでも預かろうとでも思っているのだろうか』
 ゴロツキ達の下卑た顔を思い出し、『穢れた翼』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)が首を傾げると、自身を操る神様が嘆息する。
「問題なさそうね。私達も移動しましょう」
「ああ、そうだな」
 『特異運命座標』ヴィエラ・オルスタンツ(p3p004222)が仲間達に促す。『彷徨う焔』フォリアス・アルヴァール(p3p005006)が同意し、潜入班を見守るイレギュラーズは、潜入班の三人が連れて行かれるであろうメッサー夫人邸宅へと移動を開始した。

「まぁまぁ、いらっしゃいな。さぁさ、これに着替えて、お仕事の話をしましょう」
 潜入行動は目論見通り成功していた。
 メッサー夫人邸宅へと案内された潜入班の三人は、メッサー夫人と面会し、すぐにメイド服(執事服)へと着替えさせられた。どこで計ったのか、と思うほどにぴったりのサイズが用意されていたメイド服にリィズと輪廻が袖を通す。ウィリアムは蝶ネクタイを締めながら、邸宅へ入る前に仲間へと向け放ったファミリアーの調子を確認した。感度良好というところだろうか。
(おかしな雰囲気はないね)
 メッサー夫人は、傍目に見ればとても人の良さそうな女性に見えた。とてもじゃないが毎夜自身の育てたメイド達を殺戮しているようには見えない。ニコニコと笑いながら三人に仕事を教える。褒めて伸ばすタイプなのだろうか、良く褒めるという印象だった。
 だが、そのような人物が、確かに事件を起こしているのだ。三人は油断なく、最大限の警戒心を持ちながら、メイド(執事)業に精をだした。
 輪廻は仕事の最中、夫人のいる私室にノックをせずに不意をついて入る。そこには真剣な眼差しで仕立てられたばかりのメイド服を眺める夫人がいた。
「手がかりは……なにもなさそうかしらね。……ちょっと可愛い(服)かも」
 後に、夫人がいないときに確認するも、それは何の変哲もない(独特なデザインだが)メイド服だというのがわかっただけだった。
 仕事に慣れ始めた夕刻、三人は休憩を取るために客間の一室へと向かうと、メッサー夫人がお茶を入れ待っていた。
「ご苦労様、思っていた以上にメイドの仕事は疲れるでしょう? でも直に慣れるわ。大丈夫貴方達は優秀そうですもの。さあさ、そんなところに立ってないでお茶にしましょう。とても美味しい茶葉が手に入ったの。ほら、遠慮しないでお飲みなさい」
 笑顔の夫人。だが同時にイレギュラーズの警戒心は最大となる。
(……薬だよな)
(薬でしょうね……)
(どうしようかしらね)
 気づかれないようにアイコンタクトをとる三人。おそらく薬が盛られているのは間違いないだろう。事前情報から容易く推察することができた。飲めばどうなるか想像に難くない。それが全員に向けられたものなのか、或いは三人の内誰か一人を狙ったものなのか。どちらにしても良いようには転がらないだろう。
 ウィリアムは状況を確認し、意を決する。ファミリアーへと指示を出し、仲間への合図と変えた。
 今ならば仲間と共に夫人を押さえられる。そう考えたのだ。
 後は、外にいる襲撃班が邸宅内のゴロツキを引っ張り出してくれれば――。
 ウィリアムの判断を、リィズと輪廻も察知する。身体に程よく力をいれ、いつでも動き出せる体勢を整える。
 ――それらは一瞬の判断の出来事だったが、その一瞬の間は夫人に何かを確信させ、そしてその様相を変貌させるには十分の間だった。
「飲めないの? ええ、飲めないでしょうね。わかるわ、貴方達の身体、肉付き、貧民のそれじゃないもの。追っ手かなにかでしょう? いいのよ言わなくても。でもまだ捕まるわけにはいかないの、まだ足りないのよ、メイドが、メイド服が血に染まって、そう赤いメイド服、メイドメイドメイド……」
 早口に捲し立てる夫人。それは明らかに狂っている狂人の語り口だ。
 ゆらり、ゆらりと夫人の身体が揺れる。同時にどこかで呼び笛が鳴った。仲間達が上手くゴロツキ達をおびき出したのだ。
「大人しく――!?」
 ウィリアムが蝶ネクタイを緩めながら、夫人を止めるべく声をあげた。「大人しくしろ」と言わんとしたその声は、突如走り出す夫人の動きで止められる。
 その動きは常人のソレでは無く、その風体からは想像もできない機敏さで突撃してくる。手にはどこに隠し持っていたのか血濡れた白刃。
「くっ――」
 突然の凶行。慌てて回避すると、夫人は一目散に部屋を飛び出て駆けていく。
「追いかけるよ!」
 リィズが声を上げ、三人は夫人の後を追うように走り出した。

●襲撃
「!! ――きたぞ、合図だ」
 猫型のファミリアーの傍で合図を待っていたフォリアスが、尻尾をゆらゆらと揺らすモビングを確認すると同時に声を上げた。
 それは、邸宅内にいる三人が夫人へと接触を試みる合図だ。同時に邸宅内に夫人以外の『敵』の存在が都合が悪いことを意味する。
「それじゃ早速いくッスよ!」
「ちょっと、そっちは窓――!」
 ヴィエラが止める隙も与えず、スウェンは最速で邸宅の窓を破壊する。盛大な音を立てて窓が割れると、音を聞きつけて外を巡回していたゴロツキ達が走ってくる。
「もう! こうなったらなるようになれね。はぁい、お邪魔様! 残念だけど、あなた達には私達の相手をして貰います!」
「スウェンさんは素早いね」
『ソレを信条としているのだろうよ』
 ヴィエラがゴロツキ達に宣戦を布告し、ティアがくすりとスウェンの行動に笑みを零す。
「なんなんだてめぇら! いきなり人様の家の窓を割るなんて、なに考えてやがる!」
 ゴロツキでありながら、随分とまともな事を言うものだと、イレギュラーズ達は笑った。それをバカにされたと思ったゴロツキが肩を怒らせる。
「何者でもないよ。ちょっとあなた達に相手をしてもらいたいだけだよ」
 武器を構えるミニュイを見て、ゴロツキの一人が即応した。
 甲高い音が場を支配する。呼び笛だ。
 すでに窓が割れた音で近くまで集まっていたのだろう、呼び笛に呼応し、邸宅内を巡回していたゴロツキ達も邸宅の外へと集まってきた。
「一体なんなんだてめぇら!」「武器をもってるぞ! 襲撃だ!」「やっちまえ!」
 お約束の口汚い言葉を並べながら、ゴロツキ八名が武器を持ち構える。
「遅いッスよ――!」
 この動きに即応するのはやはり最速の願望をもつスウェンだ。圧倒的な速さで誰よりも早く動き出し、その長い足を振り回してゴロツキを蹴り飛ばす。ギアチェンジとシフトチェンジが連動し、スウェンを最速の高見へと誘う。捕らえることの困難な蹴りの応酬がゴロツキの顔を歪に変えていく。
「くっ、なんだこいつらぁ、強ぇぞ!!」
「囲め! 個別に当たるな! 一人ずつだ!」
 スウェンの蹴りの応酬だけで、腰が引け始めるゴロツキ達。戦闘慣れしていることあって、相手の実力を見通す力もあるようだった。油断を消し、本気になって武器を振るう。
「やらせないよ」
 実践的な我流殺法を繰り出すゴロツキの隙を突き、ミニュイが羽根を羽ばたかせる。
 ギフトにより己の武器と化したその羽根は、巨大な弩が放つ矢と同質の力を持って射出される。
 空気を切り裂き敵の血肉を抉り散らすその一矢を肩に受け、ゴロツキの一人が大きく吹き飛んだ。
「もう一発――」
 続けざまに羽根を射出する。研ぎ澄まされた集中の上から放たれる穿ちの羽根矢。背筋を凍らせるおぞましい空裂音を響かせ、吸い込まれるようにゴロツキの足を射抜く。
「ぐあぁ――! 足をやられた!」
「おい、フォローに廻れ! やらせるなやらせるな!」
 すでにゴロツキ達は混乱の直中にある。
 突如現れた襲撃者達が、常人を上回る動きでもって自分達を圧倒する。反撃を行いイレギュラーズに傷を負わせていながらも、すでにその心は折れ始め、この戦いにおける報酬と命の価値を天秤に乗せ始めていた。
 ゴロツキ達の心の隙を見抜いたヴィエラが声を上げる。
「逃げるなら追わないわよ。最後まで戦うなら手加減はしないから、その心算で掛かって来なさい」
 そうして、反撃を顧みない捨て身とも思える鬼気迫る突撃を見せる。大きく踏み込み、上段からロングソードを振り下ろし、相手が受け流しを試みれば、さらに踏み込み、その身体を大きく捻りながら横薙ぎに振るう。長くつややかな金髪が弧を描くように流麗に舞った。
 ヴィエラの攻撃は止まらない、腰の引けているゴロツキを狙って、その命を刈り取ることを躊躇わない動きで追い詰める。
「ひぇ……なんて眼をしてやがる!」
「やべぇぞ! まじでやられるぞ! 手を出せ、やられる前にやれ!」
「”マジ”に決まっているでしょう。覚悟がないならさっさと去りなさい――!」
 剣の舞。絢爛なヴィエラの剣技が冴え渡る。
「私も負けられないね?」
『張り合うものでもあるまい』
 ティアが手にした巨大な戦鎌を振るう。疑似神性を纏う神薙の一撃は、隊列を崩し位置を近くした二人のゴロツキを纏めて薙ぎ払った。
「このヤロウ!!」
「ぶっ殺してやる!!」
 ゴロツキ達も恐慌に陥らず反撃を放つ。ティアの腕を、足を掠める二撃に痛覚が信号を送る。すぐさま飛行し死角へと回るように旋回する。ゴロツキ達がまとまって行動しようとすれば、直ぐさま魔力弾の弾幕を放ち、纏めて一掃した。ティアは近距離戦を挑まれても、しっかりと対応しゴロツキ達を苦しめていった。
「さて、そろそろ心根が折れてくれれば良いのだがね」
 フォリアスが背水を背負いながら構えたライフルのトリガーを引く。精密に狙われた弾丸がゴロツキの肘を的確に狙い穿つ。
 コートを翻しながら、淡々と放たれるライフル弾。仲間を支援するフォリアスの弾丸が次々とゴロツキの肘や膝に命中する。
 相手の士気を下げる目的である傷害は、確かな効果をもたらす。
「ちくしょう!」
 フォリアスに斬りかかるゴロツキ。その鋭い一刀が肉を切る。明確な痛みに生の鼓動を感じながら、ライフルを構えるフォリアス。
「殺すのが目的ではないが……死んだら死んだでその時だ」
 暗に当たり所が悪ければ死ぬぞ、と脅すようにクールに言い放つフォリアスの言葉に、遂にゴロツキ達の心根は音を立てて折れた。
「ま、待ってくれ! ……降参だ、降参。こんなとこで命を落とすなんて割にあわねぇ。見てくれ、あんた達のせいで俺らは結構な傷だ。これ以上はごめんだぜ」
 互いに傷は負っているものの、ゴロツキ達の傷は重傷とも呼べる傷が刻み混まれている。武器を仕舞うゴロツキ達は仲間を抱えながら一歩、また一歩とメッサー夫人の邸宅から離れていく。
「もっと早くに決断しなさいな。ふぅ……いいわ、早く行きなさい」
「そうそう何事も早さが大切ッスよ」
 汗で張り付いた髪を梳かしながらヴィエラがゴロツキ達の決断に文句を言うと、スウェンが同意するように頷いた。ゴロツキ達は拾った幸運を喜ぶように下卑た笑いを浮かべながら逃げ出した。
「傷ついてるのに逃げ足だけは速いね」
 ミニュイが呆れたように肩を竦める。
「あとは夫人だね」
『中がどうなっているか気になるな』
「三人が心配だな。急ごう――」
 ティアとフォリアスの言葉に、イレギュラーズは頷くと、邸宅内へと侵入した。

●メイド狂い
 メッサー夫人は思ったとおり地下室へ逃げ込んでいた。分厚い頑丈な扉が三人の前に立ちふさがったが、イレギュラーズの前では無力だ。幾度か武器と術式を振るえば、豪快な音を立てて扉は破砕された。
 血生臭い錆びた臭いが鼻腔を突く。
 血に塗れた地下室。その中心に夫人が呆と立ちつくしていた。
「ここまでだよ」
 リィズが手にした武器を構える。だがメッサー夫人は首を横に振りイレギュラーズ達を優しい眼差しで睨めつけた。否、その眼は三人の服に注がれている。
「いいえ、いいえ。まだやらなきゃいけないことがあるんですもの。ほら、目の前にメイドが、執事が残ってる。嗚呼……やっぱりメイド服は赤黒い血濡れが一番だわ。うふふ」
 ゆらりゆらりと、血濡れた白刃を手に身体を揺らす夫人がピタリと止まれば、身体能力の限界を超えた動きで突如襲いかかってきた。
 キラリと白刃が光り致命傷を与える的確な軌道で三人の命を奪おうと振るわれる。皮を、肉を裂かれ血が噴き出す。メイド服は血に染まり、色を変えていく。
「あぁ……そうよ、それよぉ――!」
 無邪気な子供のように目を輝かせ、夫人が狂乱する。
「くっ――!」
「手加減はできないわね――」
 リィズが遠距離術式を放ち、輪廻が一足飛びに加速し深い間合いへと踏み込み一刀の元に斬り伏せる。切り裂かれてなお動きを止めないメッサー夫人が、白刃を閃かせ輪廻の首を切り裂く。
「普通じゃないな――!」
 ウィリアムが咄嗟に回復術式を展開し霊的因子で仲間をフォローする。
 言葉通り、夫人の状態は異常だ。常軌を逸し、人間の限界めいた動きで凶刃を振るう。またその刃は的確に致命傷をもたらしてくる。こちらの防御を抜けてもたらされる傷害はまさに熟達した殺人鬼のものだ。
「うふふ、メイド、メイド……」
 『メイド』を繰り返すこの狂人に対して手加減などできるはずがなかった。
 縦横無尽に駆け、イレギュラーズに致命をもたらす夫人。想定以上の力に翻弄されながら、しかし徐々に夫人を追い詰めていった。
「三人とも大丈夫ッスか!」
 幾度目かの攻防の最中、スウェンが地下室に駆け込んでくる。その後を追うように他の面々も地下室へと舞い込んだ。
「あらあら、お客さん? メイドじゃないなんて、駄目だわ、みんなメイド服を着させて、メイドらしく礼節を教えないと、あぁ、メイド、メイド……」
 イレギュラーズが揃ったところでメッサー夫人の凶行は変わらず、手にした白刃を振りかざす。
 これに即座に反撃するイレギュラーズ達。次々と繰り出される攻撃を前に、夫人の動きは精彩が欠き始めていた。その身体には常人では耐えられないほどの傷跡が浮かんでいる。
 熱に浮かされたように夫人が言う。
「あら。あらあら? おかしいわね。うまく身体が動かないわ――」
「……これで、おしまいね」
 痛々しい夫人をこれ以上苦しませない為に。輪廻が駆け夫人に接近する。反射的に白刃を振るう夫人。だがその腕はリィズの放った遠距離術式によって弾かれた。音を立て白刃が地に落ちる。同時に、輪廻の鎌が夫人の心臓を貫いた。
「うふ、うふふ……メイ……ド」
 その眼に最後に映ったのは自身の心臓を貫く輪廻のメイド姿だろうか。笑みすら浮かべた夫人は、その言葉を最後に息を引き取った。

 しばしの後。傷を回復術式や治療キットを用いて手当したイレギュラーズが夫人の死体の前に集まった。
「それじゃ始めますね」
『霊魂との疎通を試みる』
 ティアが夫人に手を翳し、短く詠唱する。茫と現れる死者たる夫人の霊魂。それを確認するとティアは疑問を口にした。
「どうしてこんなことを――メイドを殺害――していたのですか?」
「声……衝動が……駆け巡って……なんで今まで、こうしなかったのか、わからない……そう、メイドが、私の大切なメイド、が血に染まって、赤く、黒く……アァ、メイドメイドメイド――」
 最後の方は錯乱していた時のように『メイド』を繰り返し、その言葉を最後に霊魂が消失した。ティアは聞いた言葉をそのまま仲間へと伝えた。
「やっぱりこの人も声やら衝動やらか」
「魔種の影響っていう話だけれど……救い出す方法はあったのかしらね」
 ヴィエラの疑問は地下室の淀んだ空気に紛れて消える。
 後の処理はローレットがやってくれるだろう。血濡れた地下室に倒れる夫人の亡骸を残し、イレギュラーズはその場を後にした。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

依頼成功です。
詳細はリプレイをご確認ください。

潜入組が楽しくメイド業をするようであれば薬を盛って地下室でお目覚めルートに入りそうでしたが、結果はリプレイの通りです。

血染めのメイド服より綺麗で清潔なメイド服がいいですよね。
依頼お疲れ様でした。

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