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シナリオ詳細

<高襟血風録・外伝>柳川幽霊

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●傘立に傘混み合へる泥鰌汁
 ギラリと白日の光が目を焼いた。
 たまらず手でひさしを作り、空を仰げばこめかみから汗が垂れる。
 雨季の合間に晴れたと思ったらすぐにこれだ。
 ヱリカはぬかるんだ路地を歩きながら首を振った。
 出掛けに思っていたブーツを汚したくないなどと言う生ぬるい感情はもうない。今はただまとわりつくような熱気の元から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
「おうい、お前もしかしてヱリカじゃねぇか」
「……まさか、喜助か?久しいな」
 向かいから人懐っこい笑みをした男、喜助がヱリカへと手を振った。
「へへっ、内地の夏は北生まれには堪えるみてぇだな。そういう時は、柳川に限るぜ」
「柳川?」
「どぜう、だよ。どぜう。丁度、奢られる奴を探してたんだ……」

●喜助の話
 まぁ聞いとくれよ。こないだ俺がどぜう鍋を食べに行った時の話さ。
 どこって3丁目の生駒屋さ。前来た時に鰻食わせたじゃねぇか。
 あすこはどぜうもやらせたら天下一品でよぉ。
 柳川もいいが唐揚げも……おっと、話が逸れちまった。
 その生駒屋によ、夜に行ったらよ、お客様がいっぱいですのでって断りやがるんだ。
 だから俺は言ってやったんだ「2階の座敷は灯がついてねぇじゃねぇか!」ってな。
 ああ、生駒屋は昼は1階の土間と2階の座敷に客取ってるのよ。だから、空いてるくせに俺を追い出そうとしやがったと思ったんで。
 したら、俺の相手をしてた女給がよ、青い顔で「あすこは夜に幽霊がでるんです……」だと!
 俺はもう面白くなっちまってねぇ!
 「幽霊と相席でもいいからどぜう鍋食わせやがれ!」って言ってやったんだよ!
 あん?だって面白れぇじゃねぇか。どぜう屋に幽霊だぜ?
 なんの霊が出るんだよ。どぜうか?鰻か?
 飯食ってる横で幽霊のどぜうがうねうね泳いでたら俺は怖がるより笑っちまうね!
 おう、だからよぉ。無理やり頼み込んで2階の座敷で柳川鍋を食うことにしたのよ。
 いや、美味かったね。やっぱこの辺でどぜう食うなら生駒屋だ。
 濃い目の割り下の匂いが香ばしくって、骨が抜いてあるどぜうはやわらかくって……ありゃ滋味っていうのかね?口の中にじわーっと優しい味が広がってくるのよ。
 ……あ?幽霊?出たよ。
 俺が柳川鍋食ってたらよぉ、俺の事をじーっと見やがるんだ。
 黒っぽい靄みたいな形で……幽霊っつっても、三角頭巾巻いて恨めしや~なんていわねぇの。
 何をするわけでもなくじーっと俺が柳川鍋食うところを見てやがる。
 だからよ、俺はこいつも柳川鍋食いたいんだと思って一人前注文してやったら、そらもう嬉しそうな顔になってな……いや、黒い靄だから顔なんてねぇけどとにかくそんな感じになったんだって。
 うめぇうめぇって柳川鍋食うもんだから……ああん、ヱリカ。そうだよ言ってねぇよ!俺がそう見えたってだけだッつの!
 まぁ、そこまでは良かったんだよ。
 俺は喜んでもらえてうれしかった、幽霊のやつは柳川鍋食えてうれしかった。
 でもよ。俺は余計に一個柳川鍋を注文したわけだ。
 だからよぉ、満足そうな幽霊に「お前さん、金子はあるのかい」って聞いたのよ。
 したらあいつ、何にも言わずにスーッと消えやがった!
 俺は幽霊にまんまと奢らされちまったって訳だ!

 だからよぉ、今度は俺が奢られてぇのよ。
 へへっ、飯食った後にスーッと抜けて行って最後にアイツ一人になれば払いは当然アイツ持ちだろ?
 つっても、一対一で抜けるとバレちまうかもしれねぇ。
 そうだな、俺とお前と後4人。6人で宴会して幽霊に飯代を奢らせるってのはどうだい?
 ……なにぃ?4人に心当たりがあるって?
 じゃあ、早速集めてきてくれよ!俺は生駒屋で準備してくるからよ!

NMコメント

 どぜう鍋食べたい!七志野言子です!
 高襟血風録と銘打っていますが、外伝なので血生臭い事は一つも起こりません。
 特に過去作との絡みもありませんので、気軽にご参加ください。

●成功条件
 楽しくご飯を食べて自然な形で途中退場する

●生駒屋
 喜助の居る町にある老舗の川魚料理屋さんです。
 どせう、うなぎ、鯉料理等が色々ありますが、やはりこの時期の人気はどぜう鍋と柳川鍋!
 他には摘まみやすいどぜうの唐揚げや、うな重、う巻き、こいこく等があります。

●NPC
・ヱリカ
 北の生まれなので暑さに弱い。
 どぜうは初めて食べる。鰻はう巻きが好き。
 厠に立つふりをして抜ければいいかな、と思っている。

・喜助
 奢るのはいいけど、無言で消えた幽霊の根性が許せない。
 夏と言えばどぜう鍋!清酒片手にのんびり鍋をつつくのが好き。
 「遅くなるとかぁちゃんに怒られる」と言って早抜けするつもり。

・幽霊
 人型の黒いもやもや。
 柳川鍋を与えると喜ぶ(喜助談)
 金の支払いの話をするとスーッと消える。

●その他
 おいしくご飯を食べる部分と、しれっと席を立って帰る部分のプレイングをお願いします。
 後になればなるほど立ち去るハードルが上がるのでそこらへんは戦略があるかもしれないし、ないかもしれない。

 それではみなさんのプレイングをお待ちしております!

  • <高襟血風録・外伝>柳川幽霊完了
  • NM名七志野言子
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年07月12日 22時10分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心
只野・黒子(p3p008597)
群鱗

リプレイ

●生駒屋にて
 なぁなぁ、かぁちゃん聞いとくれよ。さっき生駒屋でどぜう食ってきたんだ。
 イテッ! 内緒で行ったのは悪かったって。イヤ、そこで面白い事があったんだよ……。

「お前の知り合いは面白れぇヤツばかりだなぁ」
 ヱリカが連れてきた知り合いを喜助はしげしげと見回す。
 誰も彼も珍しい服装をして、座ったとたんぼうっと現れた幽霊に臆することなく寛いでいる。
「どぜう、何年ぶりになりますかねえ。このところ随分とご無沙汰していましたから、楽しみですよ」
 早速注文した浅漬けをつまみながら冷酒を傾けているのは『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)だ。
「どぜう、か。久し振りだなあ……」
 向かいで同じく冷酒を傾けるのは『精霊の旅人』伏見 行人(p3p000858)である。こなれた調子で襟元を緩めれば料理を楽しむ準備は万端の様子。
「さて、泥鰌鍋というのも珍しい。有難くいただきましょう」
 『群鱗』只野・黒子(p3p008597)がそう言えば、寛治はお品書きをぺらりとめくり。
「鍋は時間がかかるもの。一先ず、どぜうの唐揚げなど如何でしょう」
「以前ここに来た時は鰻もうまかったな。う巻きのふっくらしした卵に包まれた鰻の美味さと言ったらない」
「へえ、う巻き好きなのかい?頼もうぜ」
 好物の味を思い出したヱリカが嘴を突っ込めば行人もそれに追従する。
「おいおい、鰻ってったら蒲焼だろう!」
「土用も近いですし、うなぎの方も楽しみですね。
 蒲焼きもいいですが、こうなると白焼きも食べたくなる。ここは両方ともお願いしてしまいましょうか」
 喜助の抗議も寛治がさらりと納めてしまえば、料理も徐々にそろい始める頃合い。
 ……ところで。
「この辺り一帯のマナの彩りは水と火の色合いが濃いですけれど、その分時々混ざる風のマナの彩りが涼し気で美しいですね」
 『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)は契約精霊との会話にいそしんでいた。
「……おい、ヱリカ。あの子はいいのかい」
「喜助。エルシア殿は役に入り込んでおられる。おそらく後でぶっちぎるおつもりだ」
 余人にはあずかり知れぬ会話にひそひそする二人の声にエルシアの頬がほんのり赤くなったのは行燈の加減ではあるまい。

●柳川幽霊
 最初に食卓に並んだのはどぜうの唐揚げである。
 にょろりと身をくねらせるどじょうの形に雪がかかったように唐衣が乗っかっている。
 黒子がひょいと箸で持ち上げて口の放り込めば、さくりと奥歯で衣が砕けて。
「ほう。案外泥臭くないものなんですね」
 ほくほくした白身は淡白で頭は噛み潰した瞬間に苦味があるが、それは丸ごとどぜうを食う時の味である。
「いや、これは冷酒が進む……」
 むしろ、一層酒を飲む手が進もうというものだ。
 ほぼ食うだけとはいえ依頼は依頼。まして本丸の鍋に移る前なのだからちびちび舐める程度に抑えていた黒子の気持ちが疼く。
 事前に決めていた量は4合。はたしてそれに間に合わせられるか……。

 続いて並ぶのは鰻であった。蒲焼のたれの芳ばしい香りと重厚な鰻の脂の匂い。
「どうぞ、ヱリカさん」
「よ、よいのか!」
 好物のう巻きを目の前にして待てされた犬みたいになっていたヱリカの前にう巻きを回してやったのは行人だ。
 お手本のような黄色に包まれた鰻の味……店ごとに違う卵の固さ出汁の配分等に興味はあったが、隣にそれに釘付けになっている者が居れば譲るのもやぶさかではない。
 その代わりに手を伸ばしたのは鰻の蒲焼。
 香りだけで飯が食えそうなほど主張の激しいそれを選んで口にすれば、最初にぱっと広がるのは甘辛いたれの味。
(関東風だな)
 蒸しあげられた鰻の身は舌で押せばそのまま崩れてしまうほど柔らかい。
 焙られて焦げたたれの味は、甘辛い味と下に絡みつく脂の味わいに程よいアクセントをもたらし、山椒をすこし振ってみればどうだ、鼻からすっと抜けていく清涼感のある辛味が単調ともなりがちな蒲焼の味を飽きさせない。
「うまい。良い店だね…ここは」
 一つ頷けば、行人は冷酒を流し込んだ。

「それでは私も……カリュアーちゃんが「おいしそうなの。食べたいの」って言ってますので……」
 先ほどから「プテレアー姐さんが一杯ひっかけたがってます」という理由で浅漬けを肴に飲んでいたエルシアも動く。
 目指す先は鰻の白焼きだ。蒲焼は見慣れないが、見た目が焼いただけの魚である白焼きの方がエルシアには馴染みやすかったのかもしれない。
 うっすら塩が振ってあるそれを小さく箸で切って口に運べば「わっ」と小さく歓声が漏れる。
 それは深緑で食べなれた引き締まった川魚の味とは違う。
 絶望の青を超えんと乗り込んだ海洋の船の上で食べた脂ののった海魚の味とは違う。
 細かくふわふわでしっとりとしたその身は淡白でありながらも濃い。
 皮目にたっぷりと蓄えられた脂の味か、それが振りかけられた塩の辛さに引き立てられて口の中いっぱいに淡く甘い上品な味わいが広がる。
「カリュアーちゃんの代わりに私が食べて味わってあげないといけないので……」
 それはもはや演技と言うより言い訳じみて、箸が動く度に白焼きが消えていく。

「柳川鍋お待ちいたしました」
 その声が聞こえた瞬間、わっと場がにぎわった。
 浅い土鍋のなかで割り下の中をささがき牛蒡と一緒にどじょうが躍っている。
「へぇ、まる鍋か」
 一瞥して行人はそう告げた。
「少し食ってみて苦手なら、ぬき鍋…内臓や骨を取ってる方が良いかもしれないね」
 そっちは牛蒡がいい味になるんだ。と言いながら自分の前に来た鍋に小口切りにしたネギをたっぷりとやる。
「あっ、すいません。私は酒のお代わりを。次は生原酒でなにか……ええ、ではそれで」
 ついでに女中に酒を注文して寛治は鍋と向かい合う。
 元々東の出である寛治にとって甘じょっぱい割り下の味も馴染みあるものだ。
 くつくつと煮える鍋に卵を注ぎ込んで……生卵の照りの残る段階でさっとどじょうを攫う。
 割り下はともすれば甘さやしょっぱさに口の中を極端に傾けてしまうが、それは絡みついた卵がいい仕事をしてくれる。
 そして、ふっくらと煮えたどじょうと言えばどうだ。
 舌に不愉快なぬめりのようなものは一切感じない。噛めば小骨はあるがそれは些細な事だ。
 淡白。しかし、腹の底からほう、と息をつく様な素朴な甘み。
「滋味っていうのはこういう味の事を言うんだろうなぁ」
 向かいの席の行人の言葉にどじょうの味を噛み締める寛治はただ黙って頷いた。

●精進落とし
「さて、ここいらで一つ提案があるのですが。
 幽霊さん、幽霊ってことは、お亡くなりになられてるわけだ。ご愁傷様で。
 亡くなったんなら、葬式上げなきゃいけない所ですが、こんな席です。
 ここは、我々で香典を出すというのはいかがでしょうか」
 料理も全て出終わり、腹もくちくなった頃、寛治はおもむろにこう切り出した。
「なるほど、確かに幽霊という事は死んでらっしゃるという事は間違いない」
「いまだに迷ってるって事は、弔いもきちんとされなかったんじゃないかい?
 一席一緒にしている仲だ。気持ちばかりは用意しようじゃないか」
 黒子と行人が頷けば、あれよあれよという間にどぜう鍋を食うだけの一席が精進落としの場に変化した。
 エルシアも幽霊に「モレアー小母さんも幽霊さんが食べたいと言っていたお料理が食べられて嬉しいと言っています」等と乗っかれば、幽霊もまんざらでもない様子で後ろ頭を掻く様な動作をする。
 故人も参加する精進落としとは奇妙であるが、この場にいる者達は多少なりと酒の回っている者ばかりだ。ツッコミは野暮とばかりに、知りもしない死人を惜しむ会になる。

 宴もたけなわといった所で最初に立ち上がったのは行人だった。
「おっといけない。まだ宿を取っていないんだった」
「そりゃいけねぇ。この辺不慣れだろ、どれ俺が宿まで案内してやるよ」
 行人に乗っかって喜助も立ち上がれば、「いやあ、うっかりていた」と二人そろってさわやかに二階から降りていく。
 それからしばらく後に、エルシアが血相を変えて周囲を見回し始める。
「如何した、エルシア殿」
「大変です。クラネイアーちゃんが恋の予感にびびっときてお店の外に出てしまいました……」
 迷子になったらどうしましょうと、震えるエルシアの肩をヱリカは落ち着かせるようにそっと抱く。
「落ち着かれよ。我も一緒に探しに行こう」
 そう言ってヱリカが見つめるのは寛治と幽霊だ。
 黒子は行人が立つ前に厠に行くと言ったまま戻ってこない。店に入るまでつけていた菅笠はそこにあるのに席はぽっかりと空いたままだ。
「クラネイアーさんが見つからねば大変ですからね。お任せします」
 寛治が頷けばエルシアもヱリカも足早に店から出ていく。
 二人きりになった部屋の中はがらんとして、先ほどと同じものは料理の残りがくらいなもの。
 さてと、寛治は幽霊に向き、佇まいを直す。
「幽霊さん、どうでしょう。この席の我々の勘定、香典返しってことでどうです?」
 幽霊の座る席の前にあるのはイレギュラーズ達とヱリカ、喜助から渡された香典袋。香典を受け取れば、香典返しをするのが筋である。
 なにしろ、幽霊が食い逃げを働くのは金が無いためであり……幽霊はぼんやりとした闇の詰まった頭をこくんと盾に動かした。
「それでは幽霊さんに、献杯」

●喜助の話
 それからどうなったって?
 女中が勘定を、って二階に上がったらあのぼうっとした幽霊一人いて、金子を差し出して消えたんだってよ。
 それからはもう幽霊は出ねぇってんで、生駒屋は夜も2階の座敷を開けて大忙しよ。
 しかし、問題はまだあるみてぇでよ……。
 へへへっ!足りなかったんだよ、香典!
 だからよ、かぁちゃん、来月の小遣いを前借させちゃあくれねぇかい?
 イテッ!だから、俺が悪かったって!イテッ!

成否

成功

状態異常

なし

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