シナリオ詳細
小さいヤギさんの仕業?
オープニング
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マリオは首を傾げた。
地域ごとに仕分けられた手紙は間違いなくこの棚に入っていた。夜、家に帰る前にこの目でちゃんと確認しておいたから間違いない。
「そんなこと言ったってねぇ……。ここんところ毎日じゃないか、手紙を失くすのは。しっかりしてくれよ。で、どうするの?」
とりあえず、マリオは配達夫を出発させた。
文句ばかり言って手紙探しを手伝わないし、何よりもう陽が昇り始めている。
今から出ても、ギリギリだ。月が空に登るころには狼が出る。暗くなるまでに、一番遠い谷向こうの家に手紙を届けて、返ってきてもらわなくては。トトが狼に襲われでもしたら大変だ。
手紙やハガキがなくなるのは、決まって1通しか入れていない棚だった。届け先は毎回違っていたので、特定の誰かに送られる手紙だけが無くなるわけではない。
しかし、共通点はある。
「全部、マックスくんが仕分けているんだよなぁ……でも、彼が帰るときにはちゃんと棚に手紙があったし」
この村の郵便屋で働くのは郵便長のマリオと仕分け人のマックス、配達夫のトトの三人だけだ。忙しい時は妻や、トトの妻にも手伝ってもらうこともある。
「しかし、困ったな」
郵便物がなくなるたび、マリオは手紙を送った人と送られるはずだった人の家、双方へ自ら出向いてお詫びをしていた。
ここ最近は毎日、郵便屋を空けているので仕事が山のように溜まっている。それに、マックス一人に郵便物の仕分けも受付もやらせ続けるわけにはいかない。
「ろくにデートの時間もとれないとなっては、可愛い彼女に愛想を尽かされてしまう。そんなことになったらマックスくんに申し訳ない」
マリオはついに重い腰をあげることにした。
「王都へお詫びに行くついでに、ギルド・ローレットへ寄ってみるか」
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「密室ミステリーなのです! 名探偵募集なのです!」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は背中の翼をパタパタさせた。
「国境付近の山村の郵便屋さんで、毎晩手紙がなくなっていのです。ここにいる郵便長のマリオさんも村のみなさんも、とても困っているのです!」
分厚い、牛乳瓶の底のような眼鏡をかけたヤギのブルーブラッドが前に進み出て来た。
「お願いします。犯人を見つけてとっちめてください」
依頼の期限は3日間。
寝泊りは郵便屋の隣のマリオさん宅だ。もちろん、郵便屋の中で見張りも可能だが、体を伸ばして寝る空間はないとのこと。
「便所もないので、そのつど私の家に戻ってきてもらわなくてはなりません。それに――」
山の高いところにある村なので、朝晩とても冷え込むという。
「そのかわり景色は取ってもいいところなんです。しかも、私の家の裏に温泉がわき出ています。小さいですけど、露天風呂ですよ。お食事は、あの……毎回、チーズとパンになりますが」
どうか引き受けてください、とマリオは薄くなりつつある頭を下げた。
![](https://img.rev1.reversion.jp/illust/scenario/scenario_icon/5089/12b668a1ada1828ba795332f419d4ef7.png)
- 小さいヤギさんの仕業?完了
- GM名そうすけ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年04月28日 21時15分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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「いや、ナイス判断だ」
『森の一族』ロクスレイ(p3p004875)は依頼者、郵便長マリオの肩を抱いた。
「で、奥さんにも俺たちのことは言ってないよな?」
「その~」
「なんだ、ばらしちまったのか」
マリオが慌てて首を振る。
「昔からの知り合いの頼みで、うちに八人、お客さんが来て泊まっていくとだけ……食事の用意やなにやら、家内の手を煩わせるもんで。いっておかないと怒るから」
「それはしかたのないことですね。急な来客ほど困ることはありません」
『白き旅人』Lumilia=Sherwood(p3p000381)は白銀のフルートをケースにしまうと、小さな旅行鞄に詰めた。
「ところで私たちは……まさか八人家族なんて話をしていないですよね?」
知人が日頃のご愛顧に感謝を込めて旅行をプレゼントした店の常連客で、人数と滞在日数しか教えていない、とマリオ。
「うーん。あたしたちはどうするっすかね? 子供だけっていうのはちとムリがある話っすよ」
『あかいきつね』雪原 香奈美(p3p004231)はLumiliaとその横に座る『自称・埋め立てゴミ』城之崎・遼人(p3p004667)を見た。自分は十四歳、二人は十五歳。仲間内に親になれそうな者がいない。そもそも三人が兄妹であることに無理がある。
遼人はオレンジジュースを飲みほした。
「僕はそんなにおかしくないと思うけどな。何か言われたら、『異世界じゃ当たり前のこと』で通してしまえばいいと思うよ」
「そうですね。だいたい、実年齢と外見は必ずしも一致しません。例えば私のように」
見た目は少女、だが齢は百を数える『叡智の捕食者』ドラマ・ゲツク(p3p000172)が、赤い頭巾を被りながらにっこり微笑む。
「こちらの御三方にいたっては年齢不詳ですしね」
『堕ちた光』アレフ(p3p000794)はほんの少し首を傾けると、御三方を代表してドラマに微笑み返した。
「とりあえず、村での行動方針は固まったな。旅人として村を訪れ、昼は観光しながら情報を聞き集めるか」
アレフが長い足を解いて立ち上がった。中折れ帽子を手に取り、形のいい頭に深く、斜めにかぶる。
「一緒に行く必要はないのだろ? 先に行く。村で会おう」
「ああ、また村で」
『商店街リザレクション』イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)は手を上げて、アレフを送り出した。
「ところで、マリオさん。どうしてまたローレットに?」
イシュトカの疑問はもっともなものだった。
「実は、昨日もまた手紙が盗まれまして……差出人が王都近郊の村に住んでいたものですから、ついでにここまで足を伸ばしてきたのです」
『彷徨う銀狐』妖樹(p3p004184)は、やれやれといった風でふさふさの尾を揺らした。
「毎日毎朝……ご苦労様なことです。一体、犯人は何が目的なんでしょうね?」
「それを是非、みなさんに解き明かして頂きたいのですよ」
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イレギュラーズたちは、国境付近の村までバラバラに向かった。
Lumiliaは夜明け前にふもとの村を出発。暗い山道をひとりで登り、日の出と同時に村の素朴な標識の横を通り過ぎた。のんびり歩いても次に教会の鐘が鳴る前にはたどり着けるということだったが、どうやらそれは山道になれた地元の人を基準にした話だったらしい。
(「は~疲れました……」)
マリオの家についたら一休みしよう。調査はそれから初めても遅くない。
ちょうど、前から若い青ヤギのブルーブラッドが歩いてきたので、Lumiliaはマリオの家を尋ねることにした。
「おはようございます。あの……マリオ郵便長さんのお家はどこでしょうか?」
「あ、もしかして、ルイージさんの店のお客さん……マリオさんの家に泊まる旅の人ですよね?」
Lumiliaは曖昧にうなずいた。
「ちょうどいい。一緒に行きましょう。あ、ボク、マックスっていいます。郵便屋で働いているんですよ」
なんと、幸先の良いことか。いきなり関係者と出くわすとは。
どう話を切り出すか考えながら歩いていると、突然、マックスが立ち止まった。道を羊の群れがのんびりと横切っていく。その向こう側に、香奈美と遼人の姿が見えた。
「あっちのお二人とお知り合いですか」
「はい。よくルイージさんのお店で一緒に……」
そう言えばルイージの店というのが何なのか聞いていない。雑貨屋なのかカフェなのか。
「そうですか。みなさんキノコ料理がお好きなのですね」
ええ、と短く返事をする。
羊の群れが道を渡り切ると、香奈美と遼人に素早く駆け寄った。マリオの知人はルイージといい、キノコ料理を出す店をやっていることを小声で伝える。
四人一緒に村でたった一つの郵便屋へ向かった。
教会の横を曲がって坂道を登る。教会の裏手にはブドウ畑があって、そこからは赤茶色の屋根を持つ村が見渡せた。すぐ後ろには頂きに雪をかぶる山がそびえたっている。
「わあ、いい景色ですね。そうだ、旅の思い出に絵葉書をかいて出そう」
遼人は特に何かを意図したわけでもなく、純粋に景色に感動して言っただけのことだった。
(「おや……?」)
マックスに僅かな動揺を感じとった、遼人はそれとなく香奈美に目配せをした。上手く話しをつなげて欲しい、と。絵葉書から郵便物の盗難事件について上手くつなげられそうだし、何か犯人につながる手がかりが得られるかもしれない。
「ほほう、遼人くんは絵が描けるんですか。それはすごいっすね。あたしもここの風景と一緒に描いてもらおうかな」
そうじゃない、とパチパチ目を瞬かせる。
「目、どうかしたっすか? もしかして花粉症?」
だめた。ぜんぜん伝わっていない。
「ううん、違うよ。さっきは、自分で絵を描くって意味で言ったんじゃないんだ」
「なーんだ。あ、でも、自分でこの景色を描いて出したら、もっといい思い出になりそうっすね」
「絵葉書といえば――」
Lumiliaの言葉にマックスの感情がまたしても揺れた。
「この広場も絵になりそうですね。あとでフルートの演奏に来ましょう。ここの風景を描いた絵葉書とか、郵便屋さんで売られていますか?」
「ありますよ。でも……」
「でも、なんでしょう?」
後ろから声をかけられて、四人はそろって振り返った。
イシュトカだった。いつの間にか、後ろをついて来ていたらしい。
イシュトカは腰を下げて、両手に持った大きなトランクケースを道に降ろした。中折れ帽を軽く持ち上げてマックスに挨拶をする。
「イシュトカ=オリフィチエと申します。マリオさんのお宅で三日間、お世話になります。それで、『でも』なんでしょう? 私は貿易商を営んでおりまして、この村で仕入れた絵葉書を王都で販売したいと思っているのですよ」
マックスはそれには答えず、イシュトカの荷物に目をやって、ここまで大変でしたでしょう、と言った。
「いいえ。朝の光の中で色とりどりに咲く高山植物や、壮大な山の景色を目にして歩いてきましたので、ちっとも苦にはなりませんでした」
と、ここで茶目っ気たっぷりにウインク。
「というのは嘘です。じつは村の入口まで荷馬車に乗せてもらったのですよ。それで道中、馬車主から聞いたのですが、なんでもここ最近、この村の郵便屋で手紙や葉書が盗まれる事件が起こっているとか。そのことと何か関係がありますか?」
「え!? ふもとの村にまで噂が広がっているんですか」
郵便長のマリオが度々、村を出て遠出していれば、近隣の村や街で噂になるのも無理はない。イシュトカがそう説明すると、マックスは顔を暗くした。
「そうなんです。だから、村から葉書は出さないほうがいいですよ」
なんとなく気まずい雰囲気のまま、みんなで歩きだした。
郵便屋の前に置かれたベンチにドラマが座っていた。
「みなさん、お揃いで。それにしても遅かったですね」
「逆にドラマさんは早かったっすね。どこからどうやって来たっすか?」
「ローレライの街から。乗合馬車が出ていましたので、アレフさんと妖樹さんの三人で始発に乗ってきました」
香奈美は狐の尾を垂らし、不満気に揺らした。
「む~。ずるいっす。地道に自分の足で山を登ってきたあたしたちって一体……」
「まあまあ。ところで、アレフ君たちは? 姿が見えないが」
「マリオさんの家にいます。私はここで郵便屋さんが開くのを待っていました。奥さんからここで村の地図が売られていると聞いたものですから」
「私もマリオ夫人にご挨拶をして、荷物を部屋に降ろすとしよう。ああ、マリオさん! このたびはお招きいただきありがとうございます」
郵便長のマリオが、ぶちヤギのブルーブラッドと一緒に、郵便屋の角を曲がってやって来た。すれ違うようにしてイシュトカが角を曲がっていく。
「ようこそお越しくださいました。我が家でお荷物を降ろしてきてください。朝食も用意しております。なんなら朝風呂でもいかがですか?」
促されて、Lumiliaと香奈美、遼人の三人もマリオの家へ向かう。何といっても登山で足が疲れていたし、お腹もすいている。観光、もとい、調査はひとまずお預けだ。
「さて、仕事だ。マックスくん、鍵を開けてくれんか」
「マックスさんが鍵を持っているのですか?」、とドラマ。
「ええ。最近はマックスくんに鍵を預けているんですよ。私がいなくてもちゃんと郵便の仕事ができるように」
ドラマはマリオの後ろにいる男へ目をやった。
「そちらの方は?」
「オレはトト。この村の郵便配達夫だ」
「いつも三人、ううん、マリオさんがいないときは二人で鍵を開けているのですか?」
「だいたいな。マリオがいればマリオが先に鍵を開けて、さっさと掃除を始めているけどよ」
「そうですか。毎日朝早くから大変ですね」
マックスが郵便屋の鍵を開けて、真っ先に中へ入って行く。マリオとドラマが続いて中に入る。トトは最後だ。
ドラマはさっそく、マックスから村の絵地図を買った。
絵地図を広げて見るふりをしながら、仕切り棚に手を入れて郵便物を取りだすトトの動きを見張る。
「また、やられた!」
マリオが声をあげた。
マックスが体をビクリとさせ、トトがうんざりした様子で首を振る。
「今度は誰のだ?」
「ピーチさんだ。差出人はふもとの村のクーパさん」
「なんだ、近いじゃないか」
よかったな、というトトに、よくない、とマリオが噛みつく。
「両方に謝りに行っても昼すぎには戻れるじゃねえか。オレなんてまた谷の向こうまで手紙を届けに行かなきゃなんないんだぞ」
トトは手紙の山を束ねてカバンに突っ込むと、郵便屋を飛び出していった。
「しかたない。さっさと謝ってこよう。マックスくん、また留守を頼むよ。昼には戻る」
マックスは沈んだ声で小さく返事をした。
ドラマは地図を折りたたむと、郵便屋を出た。
マリオの家に戻ると、ちょうど広い居間でアレフと妖樹がマリオ夫人と話をしているところだった。もうひとり、かなりご高齢の老人が暖炉の前でロッキングチェアに座っている。
足音を聞きつけた妖樹が頭を上げ、つられてアレフと夫人が戸口へ顔を向けた。
「おかえりなさい。あったでしょ、地図? 滅多に旅人が来ないから、紙が黄ばんでいるかもしれないけれど……あら、どうかした?」
ドラマは、郵便屋で手紙が盗まれたと言った。
「あらあら、また。じゃあ、急いでお弁当を作ってマリオに持たせないと」
「昼過ぎには戻るって、言っていましたよ」
夫人はソファーに腰を下ろした。
「また? ……と言いましたね。ここでは郵便物がそんなに頻繁になくなるのですか?」
アレフが問いかけると、夫人は困ったように眉を下げた。
「ええ。ああ、そうだ、みなさん、ここから手紙は出さないほうがいいですよ。とっても残念なことですけど。上で休んでいる方たちにも言ってきます」
妖樹は尾をさっと一振りした。
「あともいいでしょう。まだ来ていない人がいますし、夕食時に全員が顔をそろえた時にでも。それよりも、手紙が盗まれだしたのはいつのことですか?」
「いつだったかしら。日記帳を見れば確かなんだけど」
「よかったら見せてくれませんか。私、趣味が読書で、日記も読むのが好きなんです」
変わった趣味ね、とは言ったものの夫人はドラマの申し出を断らなかった。
「僕も読ませてもらえますか? おじいさんの話も興味深いけど、民俗学的には日記を読ませてもらった方がいろいろ得るものがありそうだし」
そう言うことなら、と夫人はドラマと妖樹を連れて居間を出て行った。
アレフはロッキングチェアで揺られる老人の前に椅子を運んだ。この村に古くから伝わる信仰について、白紙の日記帳をどうぞ、と差し出しながら老人に話の続きをねだる。
「あまり私は父に親孝行を出来ませんでしたから……あなたと話していると少し昔を思い出しましてね」
老人は白紙のページを見ながら目をしぼつかせた。
「わしゃ字が読めん」
アレフは苦笑いしながら日記帳を閉じた。手紙は食べられて消えたわけではなさそうだ。
と、いきなり老人が声を荒げた。けしからん、と怒りながら、窓の外を指さす。
「また、仕事中に女を引き込みよって!」
あれは誰ですか、と聞くとマックスの彼女だ、と老人は言った。
その頃、村近くの森の中をひとりでロクスレイは歩き回っていた。盗まれた手紙が森に捨てられていないか、森の木々に尋ねながら探す。
「見つけたぜ!」
木の枝に掛けられた鳥の巣箱のなかに、手紙が押し込まれていた。濡れないよう、布に包んであったところを見ると、鳥が巣材にするために盗んだわけではなさそうだ。
残念ながら、森の植物からは詳しい犯人の姿を知ることはできなかった。ただ、巣箱が駆けられている木から、犯人が六日置きにここへ手紙を入れに来ていることが分かった。
「前に来たのは昨日の夜、郵便屋が休みの日か。ちっ、それじゃあここにいて見張っていても無駄だな」
犯人は盗んだ手紙がある程度まとまったらここへ隠しに来るのだろう。この近くに隠れて見張るのが一番確実だが、それでは期限までに犯人を捕まえられない。郵便屋の中に植物を置いて、犯人を目撃させるしかないか。
ロクスレイはあえて盗品を回収せずに森を出た。
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「夕焼けもきれいですね!」
温泉につかりながら、Lumiliaは目の前に広がる大自然のパノラマに目見張った。これまで朝日が照らす神秘的な山焼けと雲海に星空と景色を見ているが、ほんとうに何度見ても飽きることがない。
「うーん、身も心もほぐられるっす」
連日、村の『ワンパク盛り』の子供たちと遊んで情報収集に努めたためか、香奈美は体中にたくさんアザや擦り傷を作っていた。
「この温泉に入れるのも今日が最後と思うと、なんだか名残惜しいっすね」
「それを言えば美味しいキノコのチーズフォンデュが食べられるのも今日が最後だよ」
岩の影から遼人がひょいと顔を出す。
温泉は男湯と女湯が、腰までの低い岩で仕切られているだけだった。更衣室の横に小さく体を洗うスペースがあるが、ちゃんと囲われているのはそこだけだ。
イレギュラーズたちは最後の答え合わせの場に、この露天風呂を選んでいた。
「私は少々……いや、よそう。マリオ夫人の手料理は文句なしに美味しかった」
イシュトカが頭にタオルを乗せながら言う。
「犯人は彼で間違いないでしょうか? たしかに、彼が最初に鍵を開けて郵便屋の中に入りましたが、私は盗み事態を目撃していません」
ドラマは岩に腰掛けると、刻々と色合いを変えていく山に視線を向けた。
湯に胸まで浸かったロクスレイが、満足げに息を吐く。
「あの巣箱に一番近い家に住んでいるし、怪しいのは確かだな」
香奈美は子供たちから、遼人はあちらこちら歩き回って、誰がどこに住んでいるかを調べていた。森の近くに建つ家のことをつき止めてたのも二人だ。
ちなみにロクスレイが設置した観葉植物からは一切手がかりが得られなかった。
「そう、夜、誰も郵便屋には入ってこなかった。予想が外れて少々、がっかりしているが……彼で間違いないだろう」、とイシュトカ。
「奥さんの日記を丹念に読んだんだけど、盗みは初めてマリオさんが鍵を預けて出かけた翌日から始まってたんだよね」
妖樹は湯には浸からず、ぽかぽかと温かい岩床の上で寝そべっている。
「肝心な動機だが、おそらく彼はずっと彼女と一緒にいたかったんだろう。仕事中も」
マリオが戻ってくるまで、郵便屋には彼一人になる。初日に窓から郵便屋に入る彼女を、アレフは見ていた。
「ええ。フルート演奏を聞きに来た人たちに話を聞いてみたのですが、手紙が盗まれるようになってからほぼ毎日、彼女が郵便屋で一日過ごしていたことが解っています」
「私も雑貨品の販売をしながら同じ話を聞いたよ」
イシュトカは湯気の向こうでしょんぼりと肩を落としているマリオと向き合った。
「犯人はマックスくんです。昨日も、そして今朝も手紙は盗まれませんでした。現行犯で捕まえることはできませんでしたが、さまざまな状況証拠から彼が犯人で間違いないでしょう」
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後日、ローレットにマリオからお礼の手紙が届いた。
手紙を届けたのはマックスとその彼女だ。
一日中、二人が一緒にいられるようにマックスの彼女を雇い入れたうえで、マックスとトトの仕事を入れ替えた、と手紙に記されていた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
成功です。
現行犯逮捕はできませんでしたが、しっかりと村で調査をかけたことで、犯人を特定する状況証拠を集めることができました。
盗みのタイミングは朝、鍵を開けて郵便局に入った直後の僅かな時間。マリオとトトの目を盗んで行われていました。
みなさんがしっかり夜から朝にかけて見張りをしたために、マックスは手紙を盗み出すタイミングを掴めなかったようです。
その後、マックスは盗んだ手紙を持って一軒一軒、謝罪に行ったそうですよ。
イレギュラーズたちが寛大な処置をマリオに頼んでいたため、彼は村の人たちに許され、引き続き郵便屋で働けています。
ご参加ありがとうございました。
GMコメント
●依頼条件
・3日のうちに郵便物を盗む(?)犯人を突き止める。
●村の人々
マリオ……郵便屋の長。白ヤギのブルーブラッド
マックス……郵便屋で働く青年。青ヤギのブルーブラッド
トト……郵便配達夫。ぶちヤギのブルーブラッド
マリオの妻……白ヤギのブルーブラッド。彼女が作るチーズ鍋は絶品。
マックスの彼女……白ヤギのブルーブラッド。マックスとはつきあい始めたばかり。
トトの妻……茶ヤギのブルーブラッド。
トトの子供たち……双子。茶ヤギのブルーブラッド。年はまだ3つ。
村のおばあさん……黒ヤギのブルーブラッド。80歳。特に用もないのに毎日郵便屋に来る。
その他村の人々……全員がヤギのブルーブラッド。お年寄りが大半。
●その他
・郵便屋は毎晩、郵便長マリオがしっかりと戸締りをしている(密室)。
・なくなるのは一通だけ入れられた棚の郵便物。
・紛失が発覚するのは決まって朝。
●MSより
名探偵(迷探偵)のご参加をお待ちしております。
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