シナリオ詳細
<濃々淡々>化け猫と『あめ』
オープニング
●三毛猫は笑う
桜舞い踊る街並み。行き交う人の流れを割くように歩くおとこが、ひとり。
化け猫と呼ばれる類の妖である男。名前は、まだ無い。
手押し車の屋台。そこで飴を売り、日銭を稼ぎ、食いつなぎ、生きていた。
屹度。これからもそうなのだろう、と思っていた。
けれど、君たちの紡ぐ物語は、おれの物語を変えてくれたんだ。
幸せそうに笑みを浮かべて語るおとこ。
嘗て石持ち迫害された過去を思わせぬほどの、幸せそうな笑顔。
なんと儚く、美しいことか。
屹度。人のやさしさに触れたから。
そう語っていたのを、誰も知ることはないけれど。
おとこが生きる意味。はつこいのあなたに、もう一度。
ひととはなんとも短命であるけれど。それでも。
もう一度、巡り会うことが出来たなら。
(――其れは、屹度。最上のよろこび、だろうな)
飴をいくつ売れば、其の幸せは買えるだろう?
いや、買えるものではないかもしれない。
ならば、どうやって?
おとこはあまりにも無知すぎた。だから、来る日も来る日も、手押し車を押して、あの娘にもう一度会うことを夢見ているのだ。
だから。
彼の手を引いて、導いてほしいのだ。
男は晴れやかな空を眺めた――。
「逢いたい。貴女にもういちど、逢いたいのだ」
●運命を手繰り寄せて
「いらっしゃい。今日は、人探しの依頼だよ」
フィスは柔らかく笑みを浮かべて、特異運命座標(イレギュラーズ)を出迎えた。
片手には蒼の巻物。依頼人は――、
「――先日の飴屋さん。名前はないそうだから、飴屋、と呼ぶといいらしい」
名乗る名前がないのだ、と。
記された言の葉。綴られた思い。
そこから伝わる想いは――、
『逢いたい』
再び。会いたい。
貴方に。
そう、思うのだ。
「再び巡り逢いたいと強く願っているんだろうね。
あのときに出会った娘は、もう死んでいるかもしれないけれど……」
それでも。くるりと杖を振って、フィスは笑みを浮かべた。
「奇跡を起こすのが、キミ達特異運命座標(イレギュラーズ)の得意分野でお家芸だろう?」
意地悪く。或いは得意げに。
笑みを浮かべたフィスの双眸は瞬いて。
「それじゃあ。頼んだよ。飴屋のおとこ、相当急いでいるみたいだからね」
ひらひらと手を振って、フィスは君達の背を見送った。
![](https://rev1.reversion.jp/assets/images//scenario/live_novel.png?1737016811)
- <濃々淡々>化け猫と『あめ』完了
- NM名染
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年06月28日 22時05分
- 参加人数4/4人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●紡いだ糸
「飴屋さーん!」
『おもちゃのお医者さん』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)を先頭に、依頼主である飴屋の元へと一同は向かった。
「貴方の逢いたい人を探すのを、お手伝いに来たよ。
この間、すごくお世話になったから、今度は俺に、貴方の手助けをさせてね」
『有難う。それは頼もしいね』とはにかんだ飴屋。『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)も穏やかに笑みを浮かべながら、からころと下駄を鳴らして歩み寄って。
「飴屋さん、こないだは綺麗な桜をおおきに。
その優しいお気持ちを……今度は、うちらが返す番よ。
お兄さんのその願い……叶えるお手伝い、させて下さい」
「……勿論だよ。お嬢さんも、有難う」
優しく笑う二人。蜻蛉は『そや、』と手を合わせると、手掛かりになるであろう情報を求めて飴屋に尋ねた。
「その女の人の事……分かる範囲で、聞かせて欲しいの。
特徴や……そうね、これはうちの個人的な聞きたい事なんやけど」
「うん? 答えられることなら何でも構わないよ」
「その人の飴は……どんな飴やったの?」
瞬き。後に、懐かしむように目を細めて。
「……甘い飴だった。牛乳の味のする、優しい飴」
甘い、飴。
「となると、牛乳の飴が好きなのかもしれないわね」
「一応同じようなものは作ってみてるんだけど……同じ飴を作るには、まだおれの技術のほうが足りないのかも」
『謡うナーサリーライム』ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)は飴屋からその牛乳の飴を受け取って、小さくぱくり。
甘くて優しいミルクの風味に、心も少し和やかに。
(ええ……頑張りましょう。逢いたい想いは、叶えてあげなくちゃ)
幾つか瓶に詰めて貰うと、ポシェティケトのやる気は充填されていった。
「嗚呼そうだ、その人って、何か自分のことを話したりはしませんでしたか?」
『何事も一歩から』日車・迅(p3p007500)は受け取った飴を口に含むと、くしゃくしゃに顔を歪めて。屹度彼の恋も、このように優しいものなのだ。
ならば、此の手で叶えたい。その淡い、恋心も。
「自己紹介が遅れました、お初にお目にかかります。手前は日車迅と申します!
恋するお方にお会いしたいと聞きました! 良いですね、恋!!
命短し恋せよ若人といいますし――いえ飴屋殿はもう大人ですが――是非その願い叶えさせていただきたい!」
「あ、あはは……恋……うん。恋だね」
「ふふ、あとは……飴屋さんがその人から受けた印象や、その人の匂いに、瞳の色とかも、聞けると嬉しいかも!
ほら、髪は白髪になるけど、瞳の色って変わらない人の方が多いでしょう?」
成程。頷いた飴屋は、彼女が『飴色の瞳である』こと、『薄らと花の匂いがした事』を伝える。
「飴屋さんの逢いたいお願い――きっときっと、叶えましょうね」
『改めて宜しくお願いします』と、飴屋は深く腰を折った。
●力になりたいと、願うから
「彼があまり出向かない場所を、重点的に周りましょう。
そこに住んでいる方、古くから土地に詳しそうな方にも、聞いてみましょう」
(積極的に話しかける鹿よ、今日のワタシは)
金色砂妖精、クララシュシュルカ・ポッケと共に町を往く。
小さきものよ。名もなきいのちよ。どうか、答え給え。応え給え。
彼の者のさがしびとを、その在処を、知りたいのだ。
木の根元、縁側の下、暗き路地裏。目が合ったならご挨拶。どうか、怖がらないで欲しいのだ。ポシェティケトの想いに応えるように、妖精や妖たちは『きゅい』と鳴いた。
「――みなさんごきげんよう。今ね、人を探しているの。
飴屋の男の人が、飴屋の女の人を、探しているのね。
飴のにおいが、するおひと、ご存知では、ないかしら」
『ふきゅ?』『きゅい……』『きゅむ♪』『ひゅる!』
「まあまあ……なるほど、そこに飴のにおいのする、女の人がいるのね。
おしえてくれて、ありがとう」
はい、と掌に乗せて飴玉を渡すと、ちいさきもの達は嬉しそうに声を上げた。
小さく口をつける姿に和みつつも、ポシェティケトは待ち合わせの桜の木の下へと向かった。
迅は足に自信がある。持ち前のスピードで町を掻き分けた。
「もし、そこの人。人を探しているのですが、少しお時間宜しいですか?」
「すみません。『はな』という女性を探しているのですが、何かご存知ではありませんか?」
「こんにちは。飴屋を営む女性を探しているのですが、どちらでお店をされていたか……とか、お聞きしても宜しいでしょうか?」
明るい人柄は勿論なのだが、その服装――軍服の影響もあり、協力してくれる者は少なくはなかった。
話を聞きながらも、飴の匂いを辿る迅。町を駆けながらも、人々の噂に耳を凝らす。
飴のかおり。聞いた噂。
人々の噂は、水に波紋が広がって行くように、伝染していく。
『あそこの飴、美味しかったわねえ』
『たしかもうすぐ縁日だから、また開くみたいねえ』
『飴屋さん、最近見てないわねえ』
『ぼくねえ、あそこの飴だいすき!』
『わたしも! また買いに行こうね』
(……なるほど。 最近はまた開いてるのでしょうか。
だいぶ情報を得られたし、待ち合わせ場所に向かいましょう)
迅もまた、桜の木に向かって駆けた。
得た情報が確かなものであると確信して。
イーハトーヴは動物に対しての聞き込みを行っていた。オフィーリアと共に、動物を探しては声をかけて意思疎通をはかり、そして彼の力になりたいと強く願っていた。
「犬さんは鼻が利くから、匂いに纏わる情報があれば何か知ってるかも。
猫さんは耳がいいから、街の色んな噂話に明るいかもだよね。
空を飛べる鳥さんは、俺達とは違う視点で世界を見ているかも」
腕の中に抱えたうさぎのオフィーリア。『そうね、イーハトーヴ。そのせかいを知る人にきくのが、いいと思うわ』なんて聞こえてくるから。
大丈夫。出来ることをやろう。
(――ひとつひとつの聞き込みは駄目で元々、根気強く情報を集めよう)
そして、願わくば。彼にとって最高の結末を。
「……ってことでね。お話が聞けるとありがたいんだけど」
『おれたちの縄張りに飴屋のばあさんがいたにゃ。最近は身体の具合が悪そうだにゃ……』
『最近は外に出ている様子もないちゅん。お洗濯物を取り込むのがつらそうちゅん……』
『わたしたちにもごはんをくれるわん! また会いに行きたいわん』
「ふむふむなるほど……後で案内をお願いしてもいい?」
『『もちろん!』』
「わあ、皆ありがとう……!」
イーハトーヴもまた情報を得た。桜の花弁が舞う。はらはらと、切なげに。
焦燥すら覚えさせるような儚さに、イーハトーヴの胸は締め付けられた。
(そうだ……お腹、空いちゃうかも。元気がないのも良くないし、お団子を買っていこう)
(人とうちらの寿命は違う、でもね、その恋心……その『心』は人にやって妖やって同じもの。
その想い、届けましょう……命の火が消える前に)
蜻蛉は瞳を閉じた。光が包む。――ぽしゅん。
可愛らしい音を立てて、蜻蛉は黒猫の姿へと変化した。
屋根の上で日向ぼっこをしている猫に、野良猫に、飼い猫に話を聞くために。
「……こんにちは。ちょっと、話聞かせてくれへん?」
「ああ、構わねえよ。何が聞きたいんだ?」
「昔、飴屋をしとったらしんやけど、知らん?」
『はな』とい名前の人のこと。飴屋のこと。恋をしていること。叶うなら――
「実は、逢わせてあげたい人がいるの……」
「……成程ね。俺達に任せな」
「有難う。頼りにしてます」
(きっとこの子たちのが、色んな事を知っているはず)
だから、頼るのだ。一人よりも二人の方が。四人よりも、もっと多くの方が、屹度協力な架け橋になるから。
協力者を得た。ならば、残るはただ一つ。
――連れていこう。
彼が繋ぎたいと願った縁を、繋ぐために。
●
「じゃあ、情報共有だけど……」
「――うちは、協力してくれる人を、見つけたわ。
屹度力になってくれると思う」
「最近外に出られていないようです。お身体の調子が良くないのかもしれません」
「あちらのほうに住んでいると聞いたわ。……急いだ方が、いいのかもしれないわ。
どうかたくさん、お話をしてらしてくださいね」
「……そう、か。有難う。今から、行くことは出来る?」
「勿論よ……協力してくれる人、見つけたって言うたでしょう?」
「俺たちだって、力になりたいんだ」
蜻蛉とイーハトーヴが後ろを振り返ると、猫や犬、鳥が集まっていた。
一歩踏み出そうとした飴屋に、ポシェティケトと蜻蛉は、ある案を伝えた――、
●おれにとってのさいわい
「……こんにちは」
「おや……こんにちは。若い男の人が尋ねてくるなんて、珍しいねえ」
「ずうっと昔に、貴女に助けられたんです……これを、受け取っていただけますか?」
すう、と差し出したのは花の飴細工。薄桃の花弁をつけた、透明な花。
「……おやまあ、飴を。有難うねえ」
「それと、もうひとつ。名前をつけていただきたいのです」
そう。蜻蛉と、ポシェティケトからの提案。
(彼女をイメージした飴を持って行ってみたら、どうかなって思って……)
(あの、飴屋さん、お節介を承知で、お伝えさせて。
彼女に逢えたら、お名前を、伺っておくのはどうかしら
お名前をつけてとお願いすることも、とってもありだと思うのね。
名前は、一番身近にとっておけるものだから……もちろん、もしも、お嫌でなかったら)
ふたりの、やさしさ。
「……ふふ、可愛い子やねえ。
なら……絢(けん)と。絢くん。また来てくれる……?」
「……はい。ずっと、ここに来ます。貴女が許してくれるのなら、ずっと」
「わたしは構わないよ。暇な時に、またおいでね」
仄かな。密やかな。
口にすることは無い、貴女への恋心。
どうか、貴女が眠るまでは――共に、あれますように。
二人の幸せを、四人はそっと見守っていた。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
心踊る物語を貴方に。どうも、染(そめ)です。
以前ご案内したラリーシナリオ、飴屋の男の物語です。
彼はあの時だけの登場の予定でしたが、好評でしたのでレギュラーに。
どうぞ宜しくお願い致します。
それでは、今回の依頼の説明に入ります。
●依頼内容
女の人を探し出す。
飴屋の男の初恋の人を探し出してください。
【以下メタ情報】
・彼女は病気に侵され、病床に伏しています。
長くは、ないでしょう。
・名前は『はな』。温厚な女性です。
・飴屋と初めて出会った路地裏の先に家を置いています。
・家族はいないようです。
・飴屋を営んでいました。
これらの情報から、見つけ出して頂けますと幸いです。
●世界観
和風世界『濃々淡々』。
色彩やかで、四季折々の自然や街並みの美しい世界。またヒトと妖の住まう和の世界でもあります。
軍隊がこの世界の統制を行っており、悪しきものは退治したり、困りごとを解決するのもその軍隊のようです。
中心にそびえる大きな桜の木がシンボルであり神です。
昔の日本のイメージで構いません。
●飴屋の男
手押しの屋台を引く華奢な男。
屋台には飴細工やら瓶詰めの丸い飴やらがあります。
その正体は化け猫。温厚で聞き上手です。
●サンプルプレイング
人探しね。飴屋から特徴を聞いて、街を動くわ。
どんな匂いがしたとか。超嗅覚で辿ってみようかしら。
以上となります。
ご参加お待ちしております。
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