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シナリオ詳細

君はヒーローなんかじゃない

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 伸ばした手が届いたことは、一度だってなかった。
「だってアンタは、只の子供じゃない」
 両親はそう言って、幼い僕の頭を撫でていた。
 それがどうしようもなく悔しかったのは、真実、唯の子供心なのだろう。

 教わる師も居ないのに、木彫りの剣を振るい続けた。
 力ばかりが強くなって、けれど技は育たぬまま。
「だってあなたは、普通の農民じゃない」
 幼馴染の彼女はそう言って、十に漸く至った僕の頭をちょんと小突いた。
 それでもその子に認めてほしかった理由は、本心は。その時の僕に言えば、きっと真っ赤になって反発しただろうけど。

 そうして、ある日。
 気づけば、みんなは血を流して死んでいて。
「だってお前は、無力な凡人じゃないか」
 村を襲った盗賊は、倒れ伏した僕にみんなの死体を見せつけながらせせら笑った。
 手元の木剣は折れている。柄だけになったそれを未だ握りしめる僕を、盗賊たちはさらに笑った。
 男の人は薪になった。女の人は犯されたのちに野犬の餌になった。
 それに悲鳴を上げる僕は、きっと、ただ彼らの玩具にすぎなくて。

 だから――だから、今。
「……僕は、ヒーローじゃない」
 誇れるギフトもない、パンドラも。鍛えたのは力だけで、戦えるほどの技も、駆け引きのできる知恵もない。
 物語で言えば、僕はただの背景だ。誰かに立ち向かうのはおろか、力になろうとすることすら烏滸がましい。
「判ってるんだ、そんなことは」
 けれど、今それを認めて。
 ただ強い人に、この思いも、願いも、祈りも託してしまったら。
「だったら、僕が居る意味なんて、無いじゃないか」
 提げた木剣は十と七本。
 柄尻に穴を開け、縄を通したそれを振り回し、僕は遥か遠くから近づきつつある、彼の盗賊たちに立ちはだかる。
「……認められるかよ」

 ――認められるかよ、そんな真実(ホントウ)なんて!

 手を離した縄。先端の木剣が勢いをつけて、盗賊の頭に直撃する。
 倒れた仲間を彼らは嗤う。笑って――歯向かった馬鹿を、睥睨した。
「僕を殺せ、『ドラゴン』共!」
 神に選ばれた勇者なんて、此処には居ない。
『お姫様』は、最早無残に引き裂かれている。
 だから、これは只の蛇足だ。
 記録に残りもしない、きっと誰にとっても、これは石に躓いた程度の些末な記憶にしかならなくて……だから、こそ。
「過去も、今も、未来もどうでもいい……」

 ――この瞬間だけが、僕の総てだ!


「……既に滅んだ村からの依頼、ね」
「なのです。……本来は、達成不可能として処理される依頼なのですが」
『ローレット』の一室。ことのあらましを聞いた特異運命座標達に、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は戸惑い半分に言葉を返した。
「依頼は村を襲うと予想される盗賊の討伐なのですが……この盗賊たちは、既に依頼主である村への襲撃を終えてしまったのです。
 ですが、盗賊自体が現在も存続している今、依頼の成功条件である『盗賊の討伐、乃至捕縛』は達成自体は可能ということで」
 依頼料自体も、既に前金で全額貰っている、とユリーカは言う。
 幻想南部を広く治める『黄金双竜』レイガンテ・フォン・フィッツバルディは、自身の財が脅かされなければ非道の盗賊といえど放置する可能性は高い。今後の被害を防ぐという観点では、この依頼は最後の好機と言えるだろう。
 何より、依頼をなかったこととして処理するのは簡単だが、それを感情が良しとしない人間が居る。ユリーカも……今集まっている特異運命座標達も、恐らくはその範疇の一人だ。
「……現在、盗賊たちは奪った金銭を元手に、『練達』へ高飛びするため『幻想』の港町を目指して南下中なのです。
 今から急いで向かえば、彼らがその町に辿り着くよりも前に、追いつくことは可能と思うのですよ」
 盗賊たちの数は20名。量としては中々だが、反面質の点で言えば大きく劣る。
 前後衛の割合は凡そ6対4。あくまで一般人を襲撃することを念頭にビルドされた彼らの能力は、凡そ足の速さと射程距離、何より命中精度に大部分が割かれているという。
 半面、防御や回復への対策は浅い。尤も、これらの情報は当然盗賊側も理解出来ているはずだ。
 単純に相手の能力の陥穽を突くか、それが読まれていると考えて搦め手を取るか。一つ頷いた特異運命座標達が相談の為に席を立とうとして――情報屋の少女が、それを呼び止めた。
「……これは未確認情報ですが、襲撃された村からは、一人だけ生き残った男の子がいるらしいのです。
 もし。もし、その子が敵討ちのため、盗賊と戦おうとしているなら――」
「……わかった」
 任された、その判断も含めて。冒険者たちはもう一度頷く。
 亡き想いを継ぐものは、遺せるものは、其処に在るのか。それを自問しながら。


 セカイは赤い。
 傷んだ身体からは絶えず血が零れて。痛みよりも寒さを私に押し付けてくる。
 とくとく。とくとく。命が流れ出る感覚を味わう私の視界には、折れた木剣を振りかぶる、幼馴染の男の子が。

 ――ばか。あなたは、ただの普通の人なのに。

 悪い人が彼を嬲った。死なない程度の徒に暴力を振るっては、泣きながら立ち上がる彼を、指さして笑っている。

 ――痛いなら、痛いって言えばよかったんだよ。自分の夢で、自分の思いを縛る必要なんて、なかったのに。

 動けなくなった彼の前に、私のお父さんの死体が転がされる。彼は泣いて、叫んで……けれど、何もできなくて。

 ――あなたはヒーローじゃないよ。ただの普通の人だったから、みんなはあなたを大好きで。

 そんなあなたに、死にゆくこの身体が、このちっぽけな想いを伝える力すらないことは、ただただ悲しかった。

 ――だから。ねえ、気づいてる?
 ――わたしも、あなたのことが。

GMコメント

 GMの田辺です。以下、シナリオ詳細。

●成功条件
・『盗賊』の過半数を討伐、乃至捕縛。

●場所
『幻想(レガド・イルシオン)』国内南部、港町を近隣に置く交易路の一つです。
 情報屋からの説明では、下記『盗賊』達は奪った金品を用いてこの港町から『練達(探求都市国家アデプト)』へと高飛びをする心算とのこと。
 時間帯は昼。『盗賊』達は今まで襲ってきた村の金品を一つの馬車に詰め込みながら移動しており、周囲にはそれを除いて障害物となりえるものは存在しません。
 開けた場所のため、シナリオ開始時、参加者の皆さんを敵が識別する距離は30mです。

●敵
『盗賊』
 人数20名の盗賊です。自身の利得の為に他者を殺すことを何とも思わない連中の集まり。
 構成は前衛12名、後衛8名です。個人個人で射程に差はあれど、何れも単体攻撃のみを攻撃手段としており、付与や弱体、回復を行う者は存在しません。
「逃げる一般人を捕まえ」「脆い一般人に確実な一撃を与える」ことに特化した彼らの能力構成は、機動力と命中精度に重きが置かれております。副次的に回避や反応速度にも若干秀でている者も。
 その為、彼らは「反撃」に対処する手段を凡そ持っておりません。物量で押しつぶせそうならある程度の被害を無視して総力で倒しにかかりますし、それが無理と判断すれば早期の内に撤退に移ります。
 戦闘開始時、『盗賊』は自身らの曳く馬車を中心にひと塊となっております。

●その他
『村人』
 上記『盗賊』によって焼かれた村の生き残りです。年齢12歳の男の子。
 物心ついたときからおとぎ話や英雄譚に書かれた英雄に憧れ、その為の修練を我流ながら続けていました。
 それゆえ、戦闘においては膂力と若干のHP補正があります。勿論、それとてPCの皆様には及ぶべくもありません。
 シナリオ開始時、『村人』の少年は『盗賊』達と交戦開始直後にあり、相互の距離は20m。『盗賊』側からも遠距離攻撃が届く可能性にある範囲です。
 攻撃手段は吊るした木剣ごと縄を投げて相手にぶつける、遠距離単体への投擲攻撃と、単体対象に木剣を叩きつける近接単体攻撃の二種類。
 何れも折れやすい手製の木剣で戦っているため、その攻撃には回数制限があります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。



 それでは、参加をお待ちしております。

  • 君はヒーローなんかじゃない完了
  • GM名田辺正彦
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月09日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者

リプレイ


 ――あの子の気持ちがわからない。
 誰よりも、最初に『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が言った。
 整った面立ちを今ばかりは歪めて、ともすれば泣きそうにも見えた青眼は、それでも眼前を見据えたまま。
「過ごした平穏な日々も、それを失った衝撃も――今、仇を討とうとしている理由も」
 天涯孤独で育った彼女。充実も、喪失も味わわなかった透明な来歴を有するディープシーの少女は、けれど、と。
「あの子の周りに、彼を支えようとする幾つもの気持ちが漂っているのは、わかるんだ」
 呟くココロとは相反し、此度特異運命座標達が救おうとする少年により近しい存在である『死を齎す黒刃』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)は、戦場へと駆ける己が身をそのままに言葉を返す。
「小僧が抱く夢なんて、案外似たり寄ったりさ。俺も子供の頃はそうだった。
 だから……その夢ばかり見ていて、一番大切なものを見失って、大切な者を見失ったんだ」
 相違は一つ。シュバルツは「続いた」。対し、少年の側は「終わる」間際に至っている。
「――ならば。救わなくてはいけません」
 自らを「消耗品」と断じる『悼みを教えて』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)が、そう言った。
 善良であった人々を、無力であった人々を。救えなかった悲しみと共に、ならば、遺された彼だけはと。
「ええ。それが、私たちにとって可能なことならば」
 それに、『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)が追随した。
 彼女の言葉は裏を返せば、それが絶対的に必要なものではないことを指し示している。
 その通り、依頼内容は今、助けたいと思っている少年が相対する仇――村を襲った盗賊たちの討伐、乃至捕縛のみ。だが、
「彼を助けるのは私達の、私の意志です」
 生きるために。
 依頼を達成するために、多くを切り捨ててきた。だが、今回だけは違う。
 救える限りを救い、止められる限りの悪意を止めるのだと、吹っ切れた表情で、瑠璃が語る。

 ――けど、『それだけ』じゃ駄目だよねえ?

 くつくつと笑いながら、彼らの言葉に返したのは『満月の緋狐』ヴォルペ(p3p007135)だ。
 聞く者が聞けば混ぜっ返すかのようなその台詞は、しかし道理。
 仮にこの場で少年を助けても、仇を取ったとしても、彼が全てを喪った事実は、それを胸に抱えて生きていくであろう事実は変わらないのだから。
「全てを。護る存在を失ってしまった事に気づいた時、彼は何処を目指すのだろうね?」
 或いは、その道筋を『君たち』は指し示すことが出来るのかい。
 他人事を前にするかの如く。問いかけた彼に対して、彼女は――『展開式増加装甲』レイリ―=シュタイン(p3p007270)は。
「私は、彼に残せるものがあるなら、残したい。
 ……叶うなら、それがあの子にとって、善き道を示す道標になればいいとも、思う」
 それを、傲慢と呼ぶのは自由だ。
 けれど、それと同じくらい――その想いを尊いと言う者も、きっと、何処かには居る筈で。
「……傷病者を目視にて確認。一刻も早い保護が必要とされると、ワタシは予測します」
 口にするグリーフ・ロス(p3p008615)が臨む先には、既に交戦を開始している少年と、盗賊たちの姿。
 咆哮する少年が縄に吊るした木剣を投げ、それを躱した盗賊たちが矢と魔術を射かける光景に、グリーフは恐らく焦燥と言える感情を覚え、そして。
「……ああ、憎いなあ」
 そして、『ムスティおじーちゃん』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)が呟いた。こういう略奪者は昔を思いだすんだ、と。
 一人むなしく戦う少年に、嘗て密猟者に狩られた孫を幻視する。それが身勝手な幻想だと、理解していても。
「それでも、もうぶつけられない復讐の焔を、お前達が代わりに受け止めてよ」
 自分勝手に人を襲い、奪い、気ままに生きてきた相手。身勝手はお互い様だと。
 二本の角がちらりと輝く。追憶から見えた炎のごとき感情の昂ぶりを其処に見せて、ムスティスラーフが開戦を意図して呟いた。
「君たち全部、ぶち殺さないと――僕は気が済まないんだ」


「待ってくださーーい! お届け物です!」
 本来その反応速度に於いて、メンバーの中でもおよそ秀でていないココロが(少なくとも戦闘開始直後に)真っ先に動けたのは、大幅に開いた距離を埋める愛馬の存在があったことが大きい。
 訝しげな表情を浮かべた盗賊たちに対し、魔導書――『揺蕩う海音』がばたばたとページをめくり……次いで、轟音。
 闖入者の予想外の一撃に態勢を崩す盗賊たちを尻目に、同じく愛馬『ムーンリットナイト』に乗ったレイリーが少年のそばに降り立った。
「……! アンタら」
「少年よ。君のおかげよ。私達が来れたのは」
 言って、キャッスルオーダー。竜角の如き槍と、竜翼の如き大盾を一点……防御の為だけに構えた彼女は、そしてもう一言。
「一緒に戦うなら、協力するよ」
「……アンタ達を、止めやしないさ。けれど」
 僕を護る理由は、アンタ達には無いだろう?
 そう言いかけた。言おうとした少年の口を、ココロがぐいと押さえつけた。
「あなたが真に生を望むなら、わたしは援ける。
 でも、勝てもしない戦いを続けようとするなら……もう、知らない!」
 目を丸くする少年。それにくつくつと苦笑を零したシュバルツが、盗賊たちに向かう途中、一瞬だけ足を止めて少年に呟いた。
「――ヒーローってのはな、どんな状況でも、最後まで諦めないからヒーローなんだ」
『此処で終わってもいい』。そう思っているお前は、果たしてヒーローになれるのかと、暗に問うて。
 盗賊たちが率いる馬車まで踏み込んだ彼が、一挙動のラグを挟んだ後――自らの絶技、黑嵐を用いて敵陣を切り裂く風となる。
「っ、この野郎、確か『ローレット』の」
「それだけじゃねえ、あのジジイもだ! クソが、何処かの村が依頼しやがったな!?」
 殊に『幻想』内での名声が高いシュバルツとムスティスラーフに、盗賊たちが泡を食った様子で戦闘態勢を整えるも――
「そんなにがっつかなくても、ダンスのお相手なら此処にもいるよ?」
 その準備が、寸でのところで割り込むヴォルペによって邪魔された。
「さあ、おにーさんと遊ぼうか!」
 敵陣の目を一気に引き付けた彼が盗賊たちへの攻撃を引き受ければ、流石に大多数からなる攻撃はその身を朱に染める。
 近接攻撃を得手とする者はそのままヴォルペに攻撃を行い、遠距離攻撃班の内理性を保っていた者達は残らず全体に散らばるように散開した。
 初動に若干の遅れを取ったムスティスラーフはこれに顔をしかめたが、それも一瞬のうち。
 夢想剣。自身の記憶から象った実態なき剣を一点に振るえば、それに貫かれた盗賊の一人が苦悶の叫びをあげて地面に転がる。
「昔は奪われる側だったけど、今では奪う側さ」
 次は、その命をと口の中で呟きながら。
「……随分と、多くを殺したようで」
 式符の要領で、宝石剣の刃を手挟んだ瑠璃が言祝げば、それと同時に馬車を中心に湧き出た泥濘から、幾つもの腕が立ち上る。
 一時的に亡者の一部を召喚せしめる幻法愛式には殺傷能力こそないものの、初動で動き損ねた盗賊たちの足止めに十分寄与している。
「クソアマが、余計な真似しやがる……!?」
 言いかけた盗賊に、木剣の一撃。
 瑠璃が視線を送る先には、遠方からそれを投擲する少年の姿が在った。
 激情に振り回されていたように見える彼ではあったが、少なくとも無軌道に突貫しない程度には冷静だったらしい。
「……貴方の気持ちを、私は推し量れません」
 そして、伸ばした繊手から、鈍色の魔弾が。
「人を模した器、人を模した心。
 消耗品に生まれたわたしは、ヒーローだなんてものとは、程遠い」
 それでも、彼女は。アッシュは少年の瞳を見て言った。貴方の悲しくも、儚く、美しい意志を、その瞳に宿る光を、失わせるわけにはいかないのだと。
「貴方は、本当に……」

 ――よく、頑張りましたね。

「………………」
 それを見やるグリーフの瞳は、他者からすれば変わりない、何時も通りの怜悧なそれ。
(……対象の感情の色は、怒りと、悲しみ)
 その内実に、現状把握へ務める考えと、小さな困惑が混ざっていることを理解できているのは、当のグリーフ一人のみ。
(人は何かを喪失し、悲嘆にくれるモノのようです。
 それは、何故? グリーフ。私は……適切な解を、得ることができません)
 必要であれば、言葉を発したかった。保護対象となった少年の心に沿う、何かしらの一言でも。
 それを、見つけることができなかった自分への煩悶。彼女は未だ、その根底を見つけることが出来ずにいる。
 未だ動こうとする盗賊が居た。ショウ・ザ・インパクト。広がりかけた盗賊の一人を押し返し、かろうじで馬車周辺の盗賊を抑え込むのに成功している。
 だが、いずれそれが崩れるときは――特異運命座標達にとって苦境が訪れるときであることを、一同は理解していたのだ。


 戦闘開始直後、初動でココロとムスティスラーフが牽制を兼ねてのチェインライトニング。
 動きが鈍ったところでヴォルペが敵陣の只中と言える馬車周辺に着いての名乗り口上。同様に瑠璃が幻法愛式を介して二重の足止めを行い、其処から出ようとしたものへはグリーフがショウ・ザ・インパクトを以て馬車内へ押し返す。
 後は消耗戦だ。元より個々人の能力では特異運命座標の側に分がある。
 癒し手のココロ、遠距離攻撃のアッシュと近距離攻撃のシュバルツ。レイリーは万一の為に少年を庇える位置に陣取りながらも、隙を見ては負傷が甚大となるであろうヴォルペとドローイングを交代すべく名乗り口上の準備を整えている。
 これが純粋な戦闘であるならば、特異運命座標達のポジショニングは十全以上と言えるが――それ故に。
「畜生が! 退け、馬車を捨てて全員別方向に散らばって逃げろ!」
「………………な」
 敵方の倒れた人数は3名程度。
 だのに彼らは自身の不利を悟り、即座に逃げる態勢に移行した。
 ――情報屋の言葉が思い起こされる。「数で押しつぶせそうな相手には一挙攻勢を、そうでない相手からは逃亡を」。
 そう、彼らは特異運命座標たちの戦いぶりを見て戦闘か否かの判断を行う。
 練度の無い彼らの観点から言って、冒険者たちは……戦いが上手過ぎたのだ。
「……巫山戯るな」
 ぎり、と拳を強く握って、ムスティスラーフが呟いた。
 奪うだけ奪い、自分が奪われる側になればそれか、と。
「絶対に逃がさない、殺してやる」
 言うが早いか。呼気をすべて吐き出す勢いでの大むっち砲が、逃走の構えに入った盗賊二人を巻き込む形で焼き尽くす。
 障害物の無い交易路と言うのがここで効いてくる。盗賊たちは誰一人として同じ方向には逃げず、特異運命座標らを基点とした全周方向に散らばって逃げていく。
「おいおい、これからが楽しくなってきたところだろ!?」
 血に濡れた自身を気にすることもなく、狂喜にも似た笑みを浮かべるヴォルペの名乗り口上は未だ奏功している。
 怒りに思考を惑わされ、未だ彼を狙う盗賊も存在する。瑠璃の足止めも含めれば尚の事。
 だが、それとて依頼の達成条件である半数に至るか否かは――怪しい所と言えた。
「命を秤にかけての欲の無さは流石と言うべきでしょうが……!」
 零す瑠璃の手には、ファントムチェイサーで切り落とした盗賊たちの馬車を引く手綱が。
 機動力よりも、固まることのリスクを取った。馬車を使って逃げることを想定していた瑠璃が、こればかりは盗賊側との考えの相違に舌打ちを漏らす。
「っ、足止めに入ります! 回復、必要なら言ってください!」
 言って、突出するココロ。
 回復手が前線に出るなどとは前代未聞であろうが、少なくとも逃走に傾注して最早攻撃を止めた盗賊たちを前にすれば、今更『万が一』に備えるのは愚策でしかない。
 ほたてぱんちと自らが名付けたそれが、盗賊の一人を捉えた。威力を伴わない柔な一撃は、しかし確かに盗賊の一人を固まっている馬車の側へと吹き飛ばす。
「掛かってこい盗賊共、こっから先は通行止めだ!」
 ったく、と言うシュバルツが、逃げる盗賊の一人を足止めしての交戦に入る。
 逆を言えば、自身に出来るのはここまでだ、と言うこと。グリーフも同様に、せめてと瞬間記憶で個々人の顔を認識して、戦闘後の面通しを行う準備をする程度を除けば、出来ることは先と同じ馬車への『押し返し』のみだ。
 なればこそ、今、求められているのは。
「逃げたとて無駄です、あなた達の人相は覚えました!」
 大盾を地に打ち付け、朗々たる声で叫ぶのはレイリーの姿。
「何れ幻想領内に於いて、あなた達の手配書は出回ることでしょう!」
 惹かれた姿は幾許か。それでも、それで十分だと。
「く、そ。何だ。お前らは……」
 それから逃れた者にも、距離を詰めたアッシュが。
「他者に刻まれた傷みを、悼みを。
 その傷の重みと苦しみを、誰よりもよく識る者です」
「だから何だってんだよ、クソがあ!?」
 振りかぶられたシミターを紙一重で躱すアッシュ。金の毛先が微かに切られて、ちらちらと虚空に消えた。
「だから? ええ、決まっております。
 だから、私は――あなたを絶対に、逃がしません」
 キルザライト。闇が――蝕む。
 呼吸を奪われた盗賊が気を失った。最早戦えまいと断じた少女がそれを地に放り捨て、残る盗賊への対処に移るも。
 残された盗賊も、その多くは地に伏していて。
 それはつまり、戦いの終わりを、意味していた。


 12名。
 それが、今回特異運命座標達が捕らえた――或いは、殺害した盗賊たちの数だ。
「……依頼は成功。グリーフはそう判断します。ですが……」
 言いかけたグリーフの言葉の先は、凡そ特異運命座標たちの殆どが抱いている思いだ。
 逃げ延びた彼らは、再び集い、いずれ今回のような暴挙に、また手を染めるのか――と。
「アンタたちが、気にすることじゃないさ」
 それを止めたのは、ほかならぬ少年自身。
「自分一人の手で全ては救えない。全てを為せるほど、神がかったモノにはなれない。
 それでも――手の届く誰かに必要とされたのなら、アンタたちは力を貸せるんだろう?」
「……あなたは、これから何方へ?」
「村だよ。生き延びちゃったからな。墓を作ってやらないと」
 瑠璃の言葉にそっけなく応えた少年に、彼女は更なる言葉を投げかける。
「本来、此度の依頼を受けた時には、盗賊たちは異国へ逃亡しているはずでした」
 それを止めたのは、貴方が蛮勇と嘯くそれだとも。
「偉業を為すのは個人だけではありません。多くの凡人が、総体となって行うものもあります。……今回の私たちのように」
「それが不満だって言うならさ。きっと、これから次第だよ」
 言葉を継いだレイリーが、少年の背をふわりと抱きしめて、言う。
「君なら――なれると思うよ。ヒーローに」
「……今は、良く分かんないな」
 うつむき加減の少年は、涙を零すことだけは無い。けれど。
「全てを奪われて、無力だと嗤われて。自分でもその通りだと思って。
 けれど、それを無駄じゃないと、笑われるようなものじゃないって、アンタたちが言う。頭の中がぐしゃぐしゃだ」
 ――それでいいと思うよ。と。
 追跡から帰ってきたばかりのムスティスラーフが、くたびれた様子で、それでも言葉を返す。
「今ならわかるだろう? さっきまでの自分が只の自殺志願者で、今は其処から少しだけ目が覚めていることに。
 ヒーローはいくらでもいるけど君は一人しかいない。死んでしまった人達には、生き残ってくれただけで君は英雄だ」
 僕みたいになる前に、人を頼ることを覚えたらいい、とも。
 今は、ただ生きることを。そう言われて苦笑する少年に、黙して語らずを貫くヴォルペは、唯視線を送るだけ。
(護って傷つくなんて、おにーさんは最高に興奮するんだけどねえ)
 死ぬのはともかく、其処に至る過程にこそ魂の揺さぶりを感じる。そう考えるヴォルペは、それを口にすることだけは無い。
「キツいか?」
「……。ああ。少し」
 そして、シュバルツが。
 両手を空にした少年に対し、拾い上げた木剣のうち一つを彼に向けて、旅人の青年はふと笑いつつも、言葉を返す。
「例え、それが今では叶わない想いだとしても、全部背負って生きてくしかねぇんだ。
 きっとそれが、一番の弔いになると思うぜ」
「それを、また笑う人間が出てきたら?」
 その問いに応じたのはシュバルツでなく、アッシュだった。
「どうか、貴方から私達へご依頼を。
 あなたの意志と、其の決意を笑うものを。……わたしは赦しません」
 受け取った木剣をじっと見て。少年は、「考えておくよ」とだけ言った。
 その心は、未だ不透明で。救えたかどうかも、特異運命座標には分からぬまま。
 だけど、否、だからこそ。
「――――――ねえ!」
 去り行く背中に、ココロが叫んだ。
「あなたの心を、教えてくれる?」
 同時に、叶うならその想いを、未来につないでほしいと願いながら。
 少年は、一度だけ特異運命座標達に振り返り、言った。

「生きるよ。それが、無駄だったと言われないように」

 手に入れられたのは、一先ずの安らぎだけ。
 けれど、ココロたちにとっては……それこそが。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ご参加、有難うございました。

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