PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ONE・NIGHT

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●PM20:43
 その報せは、突然だった。
 依頼帰り等で、まばらにイレギュラーズが居るローレットに、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が、外から飛び込んで来た所から始まる。
「大変、大変なのです!イレギュラーズの皆さん、どうか助けてほしいのです!」
 ただなら無い剣幕に、「本日は残業のようです……」とか思いつつイレギュラーズは集まった。
 話を聞けば、どうやら酒場で複数の男達が争いを始めてしまったらしい。
「まさか、最近起きている暴走事件の……?」
 最近の情勢を見知っているイレギュラーズ達は、当然それを警戒し、ピリリッとした空気がローレットに満ちる。が、
「あぅ、いや、えっとぉ……」
 ユリーカの言葉はどこか、いや明らかに弱い。
「それとは、たぶん、違うと言いますか……。ですが!放っておけば怪我人とか出てしまうのです!ので、皆さんには暴れている人達を止めて欲しいのですよ!」
 暴れているのは八人の男達。言い争いの末、喧嘩に発展してしまったらしい。
 しかもそいつらは、かなり屈強な者達で、酒も回っている為に抑えが効いていないようなのだ。
「とても重要なのは、彼らを殺してはいけないということなのです」
 人死にの出た酒場等流行らない。だから、適度に殴って気絶なり正気に戻すなりの結果を望まれているようだ。
 つまりは、
「いつも通り、ってことだよね」
 その言葉にユリーカはこくりと頷いて、酒場の場所を伝えて出発するイレギュラーズを送り出す。
「……あ、後で怒られないでしょうか……」
 そんな不安を、こっそりと抱きながら。
 
⚫PM20:15
 幻想国の大通りに面した一角に、バーがある。
 丸机を少なく置き、カウンター席を多目に設置し、静かで、緩やかで、自由な一時を提供すべく構えた店だ。
 この店に来る奴らは様々で、独りを楽しみ酒に酔う者から、群れて居座り暗い影を落としながら談笑に耽るグループなどがいるが……。
 どいつもこいつも、一般とは線を引いた様な雰囲気を纏う奴らだ。
 マスターである俺は、そんな世界から外れてそうな連中に、普通と変わらない目線で接する立ち位置にいる。
 ここでは全員が平等であり、全員が無関係で居られる。そんな場所なのだ。
 なのだが。
「女は胸だろ」
「は?」
 配置された丸机を(位置も拘って置いてあるのにも関わらず)勝手に移動させ、二つを突き合わせる様にしてたむろする男達のグループから、声が上がる。
「でけぇ乳がいいだろって話だよ」
 なんて下品な話題だ。
 このバーに相応しくなさすぎる。話題も、品性もだ。
 彼らを見る客の視線はどうだ?そんなのは、勿論冷たく、生ゴミを見るように歪んでいる。
「おい、アンタら」
 ほらみろ、耐えきれない紳士然とした男性が、眉尻を上げて立ち上がってしまった。
 客同士のいさかいはよくあるが、こんな下らない事では困る。困るぞ。
 ここはクールなバーのマスターである私がーー
「女は尻だろ」
 うっわ同類だわ。
「俺も尻だと思う」
 同調した奴も出たよ、なんだよこいつら友達かよ。
「ちょ、ちょっとお客さん、やめてくださいよ」
 睨み合う乳派と尻派。字面が酷すぎるが、とにかく止めなければならない。
「僕は顔が一番大事だと思うなぁ」
「新しい派閥作らないでくれます?」
 なんてこった。抑えるどころかフェチ論が広がってしまったじゃないか。
 睨み合う乳と尻と顔。八人くらいの大の大人がなにしてんだ。
「はぁー?乳無くして男は有り得ないんですけどー?」
「いやそれは尻でしょ。安産的な面でも尻です」
「まず顔が良くないとそもそも致さないでしょ、大事よ見た目」
 お前ら何の話してんの!?
「よーしわかった、じゃあマスターの好みで決めよう」
 なにとんでもない火の粉振り撒いてんの?
「そうだね、マスター。乳か、尻か、顔か……」
 えっ、や、そりゃあ、その……。
「スっ、好きになった人が、タイプですよ」
「うわ出たわ」
「無いわー……。
いや、無いわー」
 もうお前ら帰れよォ!?

GMコメント

『マスターコメント』
 ユズキです。
 最近穏やかじゃないですね。

●依頼達成条件
 暴れる男達の無力化。

●目標敵
 仮に、『乳派A、B、C』『尻派A、B、C』『顔派A、B』とします、しました。
 八人います。こだわりを感じます。
 元々荒くれ者系統なので、油断すると痛い目を見ながらパンドラを消費するかもしれません。

●ポイント
 相談期間はありますが皆さんはすぐに現場へ到着した、という感じになります。
 現場では大声で言い争っているので、ラノベの主人公バリに鈍感じゃない限りは、正しく状況を理解できるでしょう。
 酔っているのでまともな話は通じませんが、酔っているのでインパクトのデカイ説得では動きが鈍るかもしれません。

⚫こんな人におすすめ
 普段はお調子者だけど戦うときはきっちり決める人、または逆。
 男ってやつは……と冷たい視線やドン引きできる人。
 うるせぇ俺は脚だ!!と周りを気にせずフェチ爆発できる人。
 等々。

 それでは皆様の参加を心よりお待ちしています。

  • ONE・NIGHT完了
  • GM名ユズキ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年04月18日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

猫崎・桜(p3p000109)
魅せたがり・蛸賊の天敵
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
スリー・トライザード(p3p000987)
LV10:ピシャーチャ
黒杣・牛王(p3p001351)
月下黒牛
ボルカノ=マルゴット(p3p001688)
ぽやぽや竜人
リン・シア・シアト(p3p001740)
自称トレジャーハンター
レウルィア・メディクス(p3p002910)
ルゥネマリィ
クリュン・ミア・クリュン(p3p005046)
ちいさな姫騎士

リプレイ

●PM20:50
 夜が深まりだす時間帯。街灯の光や、家から漏れ出る光が街並みを照らす。
 その明るさは、昼間と同じとはいかないまでも、それと遜色ないくらいには見通しがいい。
 仕事終わりでふらつく大人や、家路に向かう若者、そんな人達の、少しざわついた時間。
 そんな街中を駆けるのは、八人のイレギュラーズ達だった。
 ユリーカの緊急要請で道を急ぐ彼らは、ガヤガヤと離れていても聞こえて来る怒声に、緊張を走らせる。
 ……急がないと。
 最近の幻想の物騒さは、皆が知っている。
 たかが喧嘩、というのは、この情勢下では決して楽観視できないイベントだ。
 だから、駆ける。
 一分一秒を惜しむように、問題の酒場へと現着し、扉を勢い良く開け放った。

●しゅーごー
「――は?」
 酒場の扉を開けた瞬間、ガヤガヤとした声がはっきりとした言葉として耳に入ってくる。
「でっけぇ乳だって!」「いいや、尻だね」「女は顔だしょ!?」
 バタン。
 『ちいさな姫騎士』クリュン・ミア・クリュン(p3p005046)は、静かに扉を閉めた。
「……えと……?」
 その行動に、『ルゥネマリィ』レウルィア・メディクス(p3p002910)が、不思議そうな表情で首を傾げる。
 その視線を受ける当のクリュンは、片手で顔を覆いプルプルと震えていた。恐らく、おこでおる。
「なるほど、そういうこと、ですか」
 断片的に聞こえたワード、店の外に居ても聞こえて来る醜い言い争い。そして、依頼してきた時のユリーカの態度。
 それらが一つに繋がり、『LV7:グール』スリー・トライザード(p3p000987)は理解の頷きを得る。
「……ユリーカさんは、あとで、問い詰めるとしましょう」
 全く納得はしていなかった。
「くっ……!」
 巨乳! 巨乳! 巨乳!
 そんな言葉が届く間、『特異運命座標』猫崎・桜(p3p000109)は、可愛らしい顔を歪めて扉を睨み付ける。
 大きいのがなんだと言うのだ、小さいのも良いんだ。
 と、そう言いたげな顔だ。
 そんな桜とは対象的に、『月下黒牛』黒杣・牛王(p3p001351)の雰囲気は柔らかい。
「人の体で好きな部位を強調して語り合うとは……本当、人間は面白いですね」
 と、牛であった彼は、奇異な人の集まりをどこか楽しく思っているようだ。けれど、
「けれども、せっかくの憩いの場なのに喧嘩なんて、心苦しいですね」
「うむ!お店の迷惑になる勢い、良くないものであるな!」
 同意の声を上げる巨体は、『ぽやぽや竜人』ボルカノ=マルゴット(p3p001688)だ。とてもでかい。体も声も。
 そんな彼は、割と中で議論を続ける男達の気持ちがわかるようだ。たまに聞こえる言葉に頷いたり首を振ったりしている。
「でもたしかに、朝まで遊ぶなら自分の好みな娘が良いわよねっ」
 弾む声音のテンション高めなゆるふわ兎は、『自称トレジャーハンター』リン・シア・シアト(p3p001740)だ。
 朝までコースまで想定した議論をしているかはともかくとして、彼女も男達の言い分が分かるタイプのバニーさんだった。
「さて」
 正しく状況を理解した所で、『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)が中を窺う。
「……大の男が雁首揃えて、熱い議論をなされているようで御座いますね」
 取っ組み合いには発展しそうにない口論、一触即発とは行かないふざけた空気を受け、それならば、と。
「作戦を、立てるといたしましょう」
 こうして、イレギュラーズの仕事は始まる。

●説得開始
 口火を切ったのは、クリュンだった。
「とても興味深いお話をされているのですね」
 先程までの怒りはどこへやら、お淑やかな女性であるかの様に振る舞って、男達のグループへと近づいていく。
 そんな彼女へ向けられる視線は、「なんだこのちんちくりんは」という物だった。
「なんだこのちんちくりんは」
 というか言われた。
「オっ、お話に混ぜて頂けないかしらと思いまして、ええ」
 今は我慢の時、そう言い聞かせて言葉を作れば、男達はようやくクリュン達に体を向け、
「……小さい」
 どことは言わない部位を見て、ポツリと呟く。
「小さい胸だっていいんだ!」
 だがしかし、ぼかした表現を汲み取ってしまった桜は、おもむろに自身が身に纏った装束へ手を伸ばす。
 片手は帯に指をかけて緩め、反対の手で白衣を肌襦袢ごと鷲掴むと、一気に脱ぎ去った。
「おま、なにを……ッ」
 酔っているとは言え、男達は大人だ。子供がいきなり服を脱げば、まず先に抱く感情は心配に他ならない。
 だが。
「なん……だと……」
 現れた肢体を飾るのは、まさかのビキニアーマー。
 際どい衣装で、際どいポーズを決め、
「胸やお尻は大きさよりバランス! 全体として、大小関係なく、バランスをとれていれば美しいんだ! 僕みたいに!」
 僕みたいに!!
 そう力説する。
 そして、その言葉に誘われるように、一人の男がふらふらと桜の元まで歩き、スッとしゃがんで目線を合わせる。
「……嬢ちゃん」
「わかってくれた?」
「ちょっと無理があるな」
 肩をぽんぽんと叩いた男は、どこか優しく笑っていた。
 失敗だ!
 そう悟ったスリーが、フォローの為に一歩前へ出る。
「いいですか、皆さん」
 そう言葉を作り、長い前髪から覗く目で、じろりと男達を一巡して見る。
 いいですか。
 と、再度前置きを入れれば、男達の間に緊張が走る。
「大切なのは、顔でも、体でもなく、知識・知恵・知性、これです」
「そりゃー結局、内面っつーことじゃあないか兄ちゃん?」
 そう問われれば、スリーは更に語る。
「共に居て、過ごす中で、ふとした瞬間に見える、スマートさ」
 それは、日常の中で。例えば、非日常の時であっても。
「この人が、居てくれるなら。自分は大丈夫だ、と、そういう安心感」
 何物にも代え難いそれこそが魅力。そう説くのだ。そして、
「見た目、肉体、わからなくは、ありません」
 わからなくはないが、
「このような肉体で、語る事でも、ありません……」
 と、そう言葉を締めた彼は、擬態を解く。
 白骨と塵だけの姿だ。
「結婚相手にゃそうだろうけどよォー、違うんだよ……なんかこう、違うんだ……つーか見た目こえーな兄ちゃん」
 幻想ではよくあることなのか、ただ単に酔っているせいか。男達の反応は軽い。
 そして、一部の納得は得られた様だが、この場で行われる議論としては頷けない。そんな空気で男達は、
「そうそう、ただ単純になんつーか……興奮しなくね?」
 クソ最低な暴論を叩きつけてきた。

●難航中
 幻の配慮と、会話途中の勧めによって、男達の手には酒と称した水が行き渡っていた。
「薄っ! うっす! 水割りっつーか水かよ!」
 ツッコミは入っているものの泥酔状態のせいか、変なツボに入ったのか、爆笑しながら男達は水をチビチビ飲んでいた。
 だが、説得は芳しくない。
 酔った男達は正気ではなく、だからこそ理性より本能が表に出ている。
 こだわりを曲げないその意思と執着は、イレギュラーズの思っていた以上に深刻だ。
 それ他の所で活かせばいいのに。
「私も少し、ふぇち、とやらを語らせていただきます」
 しかし諦めてはいられない。牛王が口を開けば、男達は「よし言ってみろ」と言わんばかりに顔を向ける。何様なのだろう。
「人とは、顔や尻、乳が好みの方が多いのですが……畜生の私にとっては、どれも同じような気がするのです」
 畜生? と男達の頭上には疑問符が浮かぶ。牛王が牛から人へと変じたという事情など知らないのだから、当然といえる。
 しかしそれはさておき、彼らは語る言葉が続くならば聞くという態勢だ。
 だから、語る。
「では自分にはふぇちがないのか。そう問われれば、そうでもないのです」
 ええ。
 と、ゆったり頷き、
「強いてあげれば、毛並み、でしょうか」
 ここでの言葉を借りるならば、「毛並みふぇち」だ。と、牛王は言う。
「おうこれやばい性癖暴露じゃね」
 話の流れからして男達の認識はつまり、「女の毛並みに興奮する奴」となるが、当の牛王が例に挙げているのは、腕に抱いた飼い猫のおはぎである。
 ここで、価値観の相違による勘違いが発生していた。
「どれもあればある方が良いけど中身が大事であるなー我輩の場合!」
 満を持して言葉を作るボルカノは、デカイ体を弾ませて切り込む。
 好色漢の性質を持つ彼は、男達側の心情をなんとなく察した上で、説得に挑んでいく。
「例えば、である」
 指を立て、想像させるように一呼吸を置く。
「例えばおっきいおっぱいがあるとする。嬉しいであるな」
 そうだ。その通りだ。と、乳派は頷き、不承不承ながら他派も首を縦に降る。
「しかし! 露骨に見せられるおっぱいと、見られて恥ずかしがっているおっぱい。印象が違うと、思わないであるか?」
「確かに……有り難みが違うぜ……」
「尻でも、同じであるな! 持った物はそれで良いとして、どう振る舞うかも大事だと思うのである!」
「シチュエーション的な要素も必要って事……なるほどなー」
 好感触だ!
 ボルカノは畳み掛けに行く。
「女性には慎ましさも我輩あってほしい! 解るであるな? ぼいーん! ばいーんっ、ぷりちー! だけでは! 足りない! であるよ!」
 ぱち、ぱち。
 拍手が起こる。
 男達の心が一つになった瞬間であった。
(勝ったであるな)
 勝利を確信して笑うボルカノに、一人の男が笑顔で近づいて「ところで」と声をかける。
「あれ、アンタの仲間?」
 指差す方を見れば、そこにいるのは尻派である一人の男と、その男に腕を絡めて胸を押し付けるリンがいた。
「……慎ましさ、無くね?」

●悩殺しましょ
 流れが変わった。
 恥じらい、慎ましさ、それらが合わさり最強に見えるはずだったのに、目の前にある女体に男は素直だった。
「やっぱあったら嬉しいわ……」
 リンに密着され、垂れ目がちな目線を向けられた男は、尻派であった。
 だが押し付けられる胸の感触には負ける。
 男だもんね。
「言ってくれればどの部位だって……」
 そんな甘い言葉、男なら罠と解っていても期待するだろう。
「胸? 尻? 顔? そのいずれがなくても美女とは言えません。いずれも揃ってこそ、最高の女というものではないでしょうか!」
 リンの甘言に乗じたのは、幻だ。
「因みに、僕の胸は、Eカップ」
 胸に乗せた手を滑らせて輪郭を意識させるように撫で、男を骨抜きにさせるべくプロポーションを魅せる。
 一人一人に顔を向け、上目遣いにじっくり見たり、流し目でちらりと見たり。
「尻、顔と、全ての部位が最高、と」
 ごくり。
 生唾を飲む音が聞こえてくる。
「ええ。彼氏からはそう評価されております」
「リア充かよクソァ!!」
 赤面する頬に手を当て微笑んだ幻の前で、男が一人悔しさに沈み、涙ながらに隅でいじけた。恐らく再起不能っぽい感じだ。
「部位だけがお好きなら、お兄さん達も、お好きな部位を切り取ってしまう……です?」
「なにそれ猟奇的すぎない?」
 ご機嫌な男に水を酌するレウルィアが、部位に拘る性癖への懸念を問うていた。
 細身ながら出るとこが出たレウルィアに、上目遣いで見られた男はチラチラと視線を向けるが、問いになにそれ怖いと真顔になる。
「最近、そういう話を聞きました……です」
 とある三姉妹の話だ。
 聞いた、と言うか、実際に彼女はその事件に関わっているのだが、まあそれはそれ。
「うん、物騒だからね、幻想怖いからね」
 曖昧な相槌をもらったレウルィアは頷きつつ、
「そもそも、部位だけを見るのではなく、全体のバランスも大事だと、思います……です」
 と、少し体を離し、男の前で幻のポーズをそのままなぞる。
「わたしは……どうですか?」
「えっ、ああ、ええ……とても、よいのではない、かと……」
 そんな思わせ振りな事をされた男の心境は、「ははぁんこいつ惚れてるわ」だ。先程からレウルィアの表情筋はピクリともしていないのにね。
 悲しい男の性である。
 そうして着実に、自然な運びを演出し、議論と誘惑を繰り返したイレギュラーズ達。
「もう暑いですね」
 その中で、手でパタパタと顔を扇ぎながら出た幻の言葉に、素早いアイコンタクトが行われる。
 ……合図だ。
 心中で頷き合い、作戦は第二段階へと進んでいく。


「ああ。もう、こんな時間、ですね」
 気づけば時刻は22時を半分程過ぎている。かなり話し込んだ様だ。
「少し、酔いを冷まして、来ますね」
 と、フラリとする足取りを見せながら、スリーは出口に向かっていく。
 飲んでいたのは水なので、酔いも何も有り得ないのだが、そこは怪しまれないための演技だ。
「わたし達、は……えと、そろそろ帰らなくては……です」
 そう言うとレウルィアは、衣装をころころと変えながら、男達に似合うか似合わないかを問い続ける桜をそっとつつく。
「僕に似合う衣装はこれなんかどう?可愛いでしょ!だからーーえ?あ、帰る時間だね!」
 既に説得という目的を置き去りにしていた桜は、レウルィアの助け船に即座に乗っかり、慌てた様子で退出を宣言する。
「また、どこかで……です」
「またねー!」
 そうして二人揃って扉を出ていけば、前準備は完了だ。
「皆さん、せっかく逞しい身体の持ち主なのに……怖い顔でいがみあっていては、好みのふぇちな方々は逃げてしまいます」
 上手く――かどうかは微妙だが――男達の派閥に立ち入った牛王が、乳派の釣りだしに取りかかる。
「酔い覚ましついでに、好みの女性を探しに行きませんか?」
 要はただナンパに繰り出そう、というモノだ。喧嘩腰で睨みあっていた男達は、イレギュラーズという闖入者とのやり取りで、なんやかんやと落ち着いている。
 ので、その誘いに乗ったのは尻派の三人だ。
「なんかこう、プリッとしたのをね、プリッとよ、プリッ」
 なにがだ。
「プリッ、よりも、たゆんっ、だって……まあいいや」
 だからなにがなのか。
 そんな疑問はさておき、外で起こるであろう戦闘の間、店内でもボサッとはしていられない。
 甘い時間は終わりだ。
「な、やっぱたゆんだよな、な?」
 同意を得たり褒められたりと上機嫌な男の台詞に、しなを作ってにこりとしていたクリュンは、
「小さいな」
 表情を冷ややかに一転。
 背筋もシャキッと伸ばし、茶番は終わりだと言わんばかりに吐き捨てた。
「というか、こんな大衆の集まる場で、よくもまあつらつらと恥ずかしげも無く口を開けたものだな」
「えっ」
「引くわ。……、引くわ」
 しみじみと、深く、深い言葉。
 酒の抜けかけた男の心に、年端もいかない少女の侮蔑混じりの視線と罵倒は、どんな攻撃よりも効いた事だろう。
「お、おいしっかりしろ、お前の尻愛はここで終わらねぇ、そうだろ!? 立って言い返してやれよ!」
 膝から崩れ落ち、前のめりにへたれる男を慌てて仲間が支えに入る。
「あ、いや、無理……立てない……いや、むしろ立ったら終わる……」
「は?」
 しかし、クリュンを見上げる男の視線はどこか熱く、懇願するように口を開く。
「嬢ちゃん……もう少し強い口調で頼ぶふぁ」
 余りに気持ち悪すぎる台詞を吐いたので、クリュンは顔面を踏み抜く様に蹴り飛ばした。
「あああしまった、つい早まった行動を」
「いやうん、これは仕方ないであるな!」
 どのみち戦闘も視野に入っていたであるし!
 そんなフォローを入れながら、ボルカノは動く。
 いきなりの乱闘騒ぎに浮き足立つ男の背後に回り、一言。
「うむ、我輩のぶっといコイツで、一発昇天であるな?」
 後ろからそんな言葉を掛けられた男は、色々な危機感に背筋をぞわっとさせて両手でお尻を押さえる。
「尻尾であるがな!」
 その無防備な身体へ、薙ぎ払うように走った竜の尾がぶちこまれる。
 おふっ、という気の抜けた声と共に、くの字に身体を曲げた男は地面に沈む。
「て、てめぇらなんてこ」
「喧嘩両成敗っ、朝まで寝ーててっ」
 トスッ、コキンッ。
 そんな、軽い様な、鳴っちゃいけない音の様なモノが男の首から発生する。
 騒ぎに乗じたリンの手刀によるものだ。
 意識を刈り取られた男は、糸の切れた人形の様におやすみなさいをする。
「僕が思うに、部位に拘り過ぎる男性は器が小さいです」
 店内に残る男は一人。
 その相手へ静かにそう語った幻は、そのまま手を男の胸に当てる。
「それに、酔ってない男性の方が、カッコいいですよ」
「え、マジ?」
「ああ、いえ、貴方様ではありません」
 無情な事を告げると同時、衝撃が男の胸を打つ。
 物理的に、だ。
 胸から背中へ抜ける衝撃は、まるで引っ張る様に男を吹き飛ばし、そのまま扉を弾いて店外へ。
「か、はっ」
 ごろごろと力無く転がった男が痛みに閉じた目を開ければ、
「おや、そちらも、終わりですか」
 ナンパに出た筈の三人が、ロープに縛られ転がっているのが見えた。
「人の好みは色々。他人は他人で、自分は自分だと思うのが一番、だよ?」
 男が最後に聞いた言葉は教訓で、見るのはロープを片手に迫ってくる少女であった。

●その後をちょっとだけ
 全てを終えて、男達を簡易な牢へ一晩預ける手筈を整え、ローレットでの報告とユリーカへの詰問と文句を終えたイレギュラーズ七人は、解散の運びとなった。
 彼らの活躍により、酒場の平和は血も流さず済んだのだ。
 十分な成功と言えるだろう。
「……あれ、一人足りなくない?」
 ただ一人、全く関係ない自業自得の報いを受けているのは、七人には知る由も無い、別の話。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

説得より殴ったほうが速いよねって思っていたら説得重視で内心焦ってましたユズキです。
参加をありがとうございました、ギャグっぽいテンポは難しいですね。
少しでもクスッと出来たのなら、とても嬉しい事です。
それではまた、別の事件で。

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