シナリオ詳細
天使が来たから、いい子じゃない
オープニング
●罪は誰がため
チャペル。赤い絨毯に膝をつき、両手を組んでシンボルへ祈る少女があった。
外を明滅する雷鳴。戸をゆらす暴風のノック。
立て付けの悪い窓から吹き入る不機嫌な笛の音に、少女は夢見た朝のように薄目を開けた。
「嗚呼、かみさま。聞いてください。私の罪を」
明滅。
振動。
風の笛。
「嗚呼、私はひとを殺しました。小さな妹を殺しました。台所にあった包丁で、刺して殺してしまったのです」
明滅。
振動。
風の笛。
「嗚呼……」
一瞬だけの、静寂。
少女は大きく目を見開いて。
「なのに、ちっとも楽しくなれないんです! 私は、なんて罪深い!」
明滅が、少女の横顔を照らしてゆく。
●許された殺人事件
リリシー・ショトゥール・ベズモリコン。
殺人事件を犯し、あらゆる証拠が裏付けたにも関わらず裁判によって『無罪』を判決された少女。
ある晩、同じ家で暮らす妹ジェリーヌを殺害した彼女はその夜のうちに出頭し殺人を自白。
親はその土地を納める貴族であったが、公平な裁判を要するとして己の影響の及ばない教会にて裁判を執り行い、その中で少女がもつ様々な『歪み』が発見された。
リリシーは精神鑑定の結果、まず三つのことが判明した。
殺人自体に罪の意識を持っていないこと。
妹ジェリーヌに対して殺意はおろか殺人動機となりうる一切の理由がなかったこと。
リリシーは『殺人は楽しむべきものだ』と心から信じており、それを否定するあらゆるものに対し認知歪曲を起こしていること。
要約すると、リリシーは殺人という行為に罪を感じておらず、どころか娯楽として捉えており、どのような手段で殺人の罪を立証してみせてもそれを信じることができない。
だが何故彼女が殺人を告白し、こうしておとなしく裁判を受けることになったのか。
そのことに関して、彼女はこのように証言した。
『殺人を楽しむべきなのに、私はちっとも楽しむことができません。
血がべとべとして気持ち悪いし、おなかを刺すときにジェリーヌに叩かれて痛いし、とっておいたビスケットに汚れがついてしまって食べたくなくなるし。悪いことばかりなんです。
楽しむべきことを楽しめないのは、とても悪いことですよね?』
彼女は罪を償うべく自らを投獄するように求め、裁判所も周辺領主も困り果て、彼女を幻想の治外法権こと『監獄島』へとなかば軟禁状態で収監することとした。
そんな彼女を島の実質的支配者ことローザミスティカは気に入り、彼女の望む歪みを与えることに決めたのである。
さて、そろそろ、本題に移らねばならない。
リリシーの口から。
純真無垢な声と目で。
いっそ微笑みすらして、彼女はこうあなたに依頼した。
「私に殺人の楽しさを教えてください」
●殺しの蜜
監獄島は治外法権の島である。
広大な土地に無数の収監棟その他施設が存在し、各土地ごとに管理方法が異なる。
中でもローザミスティカが『遊ぶ』ために別の監獄から移送されてきた囚人たちがなかば野放しとなっている監獄街がある。
監獄街とは囚人たちが各々で店を開き、農作や工作など様々な労働をし、監獄の中だけで流通するコインを使って経済を回してできた実質的な街である。正しい名前はない。
地下に広がる空間を利用し、あらゆる施術によって脱出は不可能だが、囚人達は脱獄したところで行き場もない者ばかりであるがためにこの監獄街に自分たちなりの居場所を造っていた。
「あんたはリリシーと一緒にこの街へ入って貰う。ゲスト扱いだが……ここの連中がお客様対応なんて言葉を知ってるとは思えないんでね。自分の身は自分で守ってくれよ。でもって、リリシーの身もな」
広大な地下空間に広がる監獄街へとおもむき、リリシーに『殺人の楽しさを教える』というのが、今回の依頼内容である。
リリシーの主観によるところが大きいために、厳密には『教えることを試みる』ことができれば依頼は達成されたと見なされるようだ。
看守の男は手の中でコインを回しながら言った。
「まあ、俺たちはあの子が『フツウ』になることなんて諦めてんのさ。
だったらせめて楽しく生きられればいい。この世界はフツウと常識だけで回ってねえからな。どっかにばっちりハマって死ぬまでハッピーなら、どんな歪み方でもかまわねえって……そう思わねえか」
うまくそれを教えられたら、アンタにはボーナスだ。看守はそう言ってコインを投げた。
- 天使が来たから、いい子じゃない完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年06月30日 22時13分
- 参加人数6/6人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 6 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(6人)
リプレイ
●「私が殺したからって、なぜ相手が死んだ罪を負うことになるのでしょうか。私はただ殺しただけなのに」
スチール製のフレームを十次に組んで、星型のドライバーでネジをしめていく。リムにゴルダム樹脂製の弦をはり、輪っか状のラップを踏んでコッキングを行った。
『こむ☆すめ』リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は矢を適当な的に向けて発射する。
折りたたみ式のクロスボウである。威力はさほど高くないが、基本を覚えるには丁度良い仕組みと強度だった。マウントオプションパーツがないのはリアナル的にいただけないが、人に教えるにはシンプルなほうがいい。
「人殺しを娯楽と言えるほど儂の心は変異しちゃいないがね。そう考える人間がいることは理解しているよ」
「そりゃしにゃだってコロがすの大好き系女子じゃないですけどねぇ」
その隣で、『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)はバラしたリボルバー拳銃を芸術的な素早さで組み立てていた。
一通り組み立て終えてから、わざと手首を返すアクションによってシリンダーをフレームへと収める。
アイアンサイト越しに的を見つめると、どこまでも冷たい目をして笑った。
「血で汚れたり臭いがダメになったり、ちゃんと『家庭科の授業』を受けとかないとそういうことになるんですよ」
子供の頃から山羊の解体になれていれば、当たり前のようにその作業ができるものである。
それを人間に適用するか否かの線引きに、死生観や倫理観が関わると言うだけで。
しゃにこは銃を箱に収め、リアナルもまた袋にボウガンを収めた。
「知は力。学は人生を助けるからな。それを何に使うかは、教える側の責任じゃあない。せいぜい、自分で自分を撃たない程度に教育するまでじゃ」
「ボーナスもくれるかもですか。看守さんふとっぱらー」
『たーのしー』美音部 絵里(p3p004291)は何も無い空間に『ねー』と首をかしげて同意を求めた。
足は馬車の淵からだし、雑な舗装によってできた揺れを楽しんでいる。
「がんばって、みんなで『お友達』の作り方を教えるのですよ」
絵里たちの乗る馬車は監獄街へと向かっていた。
ローザミスティカの戯れによって作られたという無法者の町である。
とはいえ、看守達がほぼ傀儡化したなんでもありの監獄島において、地震の身を守るために互いに距離をとりあうこの空間は最も秩序だった場所とも言えるかも知れない。
「要はメリットとデメリットよ」
馬車の上で魔法のカッターナイフをちきちきと鳴らしていた『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)。
「リリシーって子は、ようするに自分にデメリットがあるから楽しめないって言ってるんじゃないかしら。
なら自分にメリットがある殺しなら楽しめるかもしれないでしょ?」
「そういうものかな。まあ、面倒なのよりはずっといいよね」
壁に背をつけ、膝を立てて座る『レッド・ドラマー』眞田(p3p008414)。くわえ煙草からあがった煙が、風にのってかすんでいった。
「じゃあまあ、俺は殺しの楽しみ方でも教えようかな。ゲーム感覚って大事でしょ」
「…………」
同意を求めるように振り返ったが、銀城 黒羽(p3p000505)は本を開いて読んでいるだけで同意も肯定もしなかった。
ややあってから目だけを動かし、低く唸るように言う。
「なんでもいい。依頼を遂行するだけだ。俺は、認知の歪みを矯正することにする」
「ふうん?」
お互いがお互いを全く理解しあわない、もしくは理解し合えないほどの巨大な溝をもったまま、しかし彼らは協力して綺麗に役割分担がなされているようだった。
さながら、今から向かう監獄街のように。
●「楽しくないことは罪なのです。殺人が楽しくなれれば、きっと罪深い私は赦されるでしょう」
リリシー・ショトゥール・ベズモリコン。
ともすればどこにでもいそうな少女。
彼女からもたらされた依頼内容は。
――「私に殺人の楽しさを教えてください」
イレギュラーズたちに求められたのは、歪んだ彼女を歪んだまま、彼女の望む姿へ更にゆがめることであった。
厳密にはそれが、監獄島の主にして『実質的な依頼主』であるローザミスティカからの要求である。
かくして集められたのは、ローレットの中でも飛び抜けて死生観や殺人に対する独特な価値観を持った者たちである。当然『そうでない』者も含まれるが、紹介者である看守は彼らの顔や経歴を見た時点で『あんたになら任せられるだろ』と真顔で述べたのだった。
監獄街の中で『運動場』とされている広場がある。運動場とは名ばかりで、あちこちに廃材が転がっており自作のバスケットゴールめがけて1on1を楽しむ者が時折いる程度の場所だ。囚人達は24時間の全てを『自由時間』扱いにされているせいで暇を持て余す者も多いらしく、外からやってきたあまりにも奇特な客たちを遠巻きに注目していた。
リリシーとリアナル。そしてしにゃこである。
「あなたが私の先生になってくれるのですか?」
純真無垢を絵に描いたような、まるでそういう生き方しか許されてこなかったかのように、リリシーはリアナルに『よろしくおねがいします』と頭を下げた。
「どうやって教えてくれるのですか?」
「儂が教えるのは手段だ。考え方じゃない」
「え、しにゃですか? やだなあそんな教育する顔に見えます? しにゃも手段担当ですよ。まずは……」
「そう、まずはこれからだな」
リアナルは組み立てたばかりのクロスボウを袋から出して見せた。
「それはなんですか?」
「遠くから動物の肉体を傷つけるための道具」
きわめて端的に述べると、リアナルは空き缶を適当なドラム缶の上に置いて見せた。
「話を聞く限り、手が汚れたり音がうるさくないものが好みかと思ってな。それと、後で簡単なトラップについても教えておこうか。ワイヤートラップからがいい」
「とらっぷ?」
「対象が動いていると――」
トリガーをひき、ガギュンと空き缶を射貫いてみせるリアナル。
「こうして止まっているものに比べて当てにくいだろう? だからワイヤーや倒れる棒やなにかで動きを一瞬でもいいから止める。シカや鳥を狩るのにも使えるぞ」
「便利なのですね……?」
「実際に使えばわかる」
いまいちピンときていないようなので、リアナルはしにゃこへとバトンタッチした。
「習うより慣れよってやつですか?」
しにゃこは自分用にとピンクのラメラメとデカいぬいぐるみのさがったキーホルダーつきの拳銃を取り出した。
「かわいいでしょう? 可愛いだけじゃないんですよこれは」
見ててくださいねと言って、しにゃこは並んだ空き缶めがけて三度の発砲。
狙いは鋭く、宙をはねた空き缶に三つの穴があいた。
「矢よりも音が出て弾の加工がめんどくて値が張る……ってとこですかね。けど殺傷行為をオートメーション化できるのは便利だと思いません?」
ん? と片眉をあげて同意を求めるしゃにこ。
リリシーはしゃにこの顔と地面に転がった空き缶を交互に見てから、小さく唸った。
「はい。……空き缶に穴を空ける以外には、なにができるのですか?」
「おっとお?」
これはやってみなくちゃ分からないかな、とリリシーに拳銃を一丁握らせた。
監獄島で製造されたというゴーストガンである。ゴーストガンとは正規品と全く同じ構造を持つ非登録品だが、混沌にはそんなもん山ほどあるので今更である。
「へいへい! そこのおっさん! 毛根シャバに置いてきたんですかー!?」
スキンヘッドの囚人めがけて手を振るしゃにこ。
殺意のこもった目で振り返ったので、しゃにこはリリシーにわかるようにその囚人を指さした。
「ほら今ですリリシーちゃん! 撃――」
パァン、という乾いた音と同時に、しゃにこの足首が的確に打ち抜かれた。
「いやしにゃをじゃなく――」
この程度想定内ですよと言わんばかりに苦笑して振り返るしゃにこの胸部分へ発砲。
次にしゃにこの左目に銃口が当てられ、トリガーに指がかかるのが超至近距離で見えた。
「――!」
横から鋭くリリシーの手首を蹴りつけるリアナル。
激しい銃声がしゃにこの耳をキンと覆ったが、幸いなことに左目も耳も失われることはなかった。
リリシーの手から拳銃がはずれ、広場を回転しながら滑っていく。
「いま、的確に『破壊するべき最低限の三箇所』を撃とうとしたな? 誰に教わった?」
「……?」
リリシーは首をかしげ、赤くなった手をさすりながら転倒したしゃにことリアナルを交互に見た。
「よくわかりません。けど、人の近くで銃というのを使うと、血でよごれてしまうんですね。よくわかりました」
「いやあ、ははは、おどろきましたねえ」
足と胸を撃たれたにもかかわらず今すぐSNSにアップできそうなテヘペロ顔をしてみせるしゃにこ。
「リアナルさん、この子天才ですよ」
「そのようだね」
リアナルはため息をついて、素早くボウガンを解体してしまった。
しばらくの休憩を挟んだのち、リリシーは食堂の一角に座っていた。
食堂といっても日曜大工でつくったような粗末なテーブルと椅子が並ぶ油臭いビニールテントであり、出てくるのはスラム街さながらのメニューである。
真っ黒な料理と呼べないものをそっと横にどけて、眞田がテーブルに肘をつく。
「リリシーさんだっけ? 面白いこと言うね。
俺もリリシーさんと似ているところがあってね。
殺人の動機はなくて、ただ面白そうだったから、そんな興味本位で殺人をしたことがあるんだ。だってワクワクするじゃん」
「ワクワクするのですか?」
自分の発言を部分的にリピートしたのを見て、眞田はどこか爽やかに笑った。
「しない? 対象を追う、攻撃する、倒す。
今度は自分が追われる身になる、逃げる。
なんかゲームみたいじゃない?」
ゲームという単語からテレビゲームを連想できなかったのか、リリシーは多少ぼんやりしてはいたが、彼がいわんとすることはなんとなく理解したようだ。
「俺ゲーム好きでさ〜。ゲームでもよくバトル系やってたんだ。でもやっぱリアル感に勝るものはないな。
リリシーさん、嫌な思いしたんだって?
でもそれ、現実でやったからこそ起こった結果なんだから、想像やゲームでは得ることが出来ない報酬って考えてもいいんじゃない?
痛いのは俺も嫌だけど、そう思ったら楽しくならない?」
「よく、わかりません……」
リリシーは深く考え込み、そして頭に手を当てた。
「楽しむべきことを、楽しめるようになるのでしょうか」
「なると思うよ。あとでやってみようよ、ゲーム。かくれんぼとかでいいからさ」
そこまで話したところで、横で真っ黒な冷麺を啜っていた絵里が両目をカッと見開いて振り返った。
「ようは楽しむ工夫なのですよ!
人がやってるのを見て楽しそうに思っても、自分がやってみるといまいちってことあるよね?
私と一緒に自分に合った方法を探してみよー」
チョークで机に人間を摸した図を書いて、リリシーとの話し合いをはじめる絵里。
「前回は抵抗されたのが楽しくなかった主な原因なようなので……わたし考えました!
今度は不意をついて頭や急所に一撃いれてみるとか、寝込みを襲うとか別の方法を試してみない? 動けない相手なら返り血を浴びないようにするのも楽だよ」
「血……?」
小首をかしげるリリシーに、絵里は『たとえ話なのです』といって両手を開いて見せた。
「相手が抵抗しなければ血を飛ばして遊べるかも。スパっ、プシューみたいな!」
ニコニコ笑って語る絵里に対して、リリシーはしばらくこくこくと頷いていた。
そうして一通りの話が済んだところで、『質問をいいですか?』とリリシーは無垢な顔で述べた。
「殺人を、遊んでもいいのですか?」
「ん、ん?」
『楽しい=遊ぶ』を当然の図式ととらえていた絵里である。流石にこの問いかけには首をかしげざるをえなかった。
いや、絵里でなくとも誰とてそうなるだろう。
「血で虹とかってかかるのかなー? って、考えたら面白くないです?」
「面白いとおもいます」
「楽しめそうじゃないです?」
「その実験は、楽しいかもしれません」
「ん、ん、ん……」
絵里はこめかみに両手の人差し指をあてて唸った。
一般言語で会話をしているはずなのに、致命的にかみ合っていないように感じたがゆえだ。
「そろそろ私の出番みたいね?」
腕組みして座っていたメリーがすっくと立ち上がり、近くで注文をとっていた店の人間を呼びつけた。
「ねえ、私たちが注文した料理の料金はいくら?」
問いかけ、相手が暗算をすべくテーブルに注意を向けたその瞬間。
メリーは相手の顔面に手を当てて魔法の言葉をくちにした。
「ばぁん」
途端。相手の目と耳から血が噴き出し、その場に倒れてもがきはじめた。声を出そうにも血がぶくぶくとあがるばかりで苦しそうだ。
「見て、ここの料理がタダになったわ!」
「本当ですね、先生」
リリシーは倒れた店主らしき人物をじっと観察してから、メリーに目を向けた。
「けれど、無銭飲食は罪ではありませんか?」
「だったら、そんな決まりを押しつけてくるやつをやっつければいいのよ。それでも止まらなきゃ決まりを作った人を『ばぁん』よ」
ニコニコと語るメリー。とくに表情を変えること無くおとなしく聞いているリリシー。
どちらの倫理観もひどくねじ曲がっているように見えたが、しかしだからこそ会話が通じているようにも見えた。
「この世界だとそうはいかないけど、わたしがいた世界は殺せば奪えるし殺せば黙ったの。そうしてる内に楽しく感じるようになったわ。
きっとリリシーは、まだ殺人のメリットを体感できなかったのよ。妹? だっけ? それを殺した時も大して得を感じなかったんでしょ?
だから、まずはこうして殺人のメリットを感じていくのはどうかしら」
「メリットを感じれば……楽しくなるのでしょうか」
「きっとそうよ」
それまで黙って瞑目していた黒羽が、腕組みをしたまま目を開けた。
「リリシーは、どんなときに楽しいと感じるんだ」
突然の問いかけにきょとんとしたが、リリシーは指折りをしてかぞえた。
「アリさんの巣にお湯をかけたとき。お母様の飼っていたコリーにチョコレートを食べさせたとき……」
黒羽は表情をぴくりとも動かさずに、話を続ける。
「じゃあその時に『アリを沸騰させたから喜ばないといけない』って考えるか? 考えないよな」
黒羽はここへ来るまでに読んでいた、認知の歪みという本にあった通りのことをリリシーへ伝えた。
「『殺人は楽しむべきものだ』じゃなく、『殺人は楽しい』って考えてみな。
使命や義務感じゃなく、自分本意になってみるのも一つの手だ」
「『殺人は楽しい』」
「そう、『殺人は楽しい』」
「『殺人はゲーム』」
「そう、『殺人はゲーム』」
「『殺人で遊ぶ』」
「そう、『殺人で遊ぶ』」
「『殺人はメリット』」
「そう、『殺人はメリット』だ」
黒羽は、リリシーがフォークをくるりと逆手に握ったのを見逃さなかった。
そして自らの喉めがけて繰り出されるそれを、あえて回避しなかった。
まずは最終的な結果を述べることにする。
イレギュラーズたちの協力によって、リリシーは『殺人を楽しむ』ことに成功した。
彼らは看守の男からコインの上乗せを受け、島から本土へと帰った。
次に、おこった事実を述べよう。
リリシーは恐ろしく芸術的な手順で黒羽を破壊し尽くした後、抵抗しようとしたその場の人間達を半壊させ、眞田たちを相手に『かくれんぼ』をした。
眞田たちはその代償として大きな怪我を負ったが、すぐにリリシーの遊び相手は監獄街の住人たちへとうつり、その日から毎日のように『かくれんぼ』が執り行われた。
抵抗、ないし反対する人間は残らずクリスマスツリーオーナメントと化したという。
「ボスはあんたらの働きにたいへん満足したそうだ。俺か? バケモンがバケモンになっただけだろ。いつものことさ」
イレギュラーズたちの去り際看守はそう言って、ポルノ雑誌を広げた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
――依頼完了
――追加報酬をゲットしました
GMコメント
●注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。
成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
■オーダー
・成功条件:リリシーに『殺人の楽しさ』を教えること
教え方は問われていません。一緒にお茶しておしゃべりすることで教えてもいいですし、刀や銃で襲いかかっても構いません。
NGとされているのはリリシーを殺害することと、成功条件を著しく阻害することだけです。
行動内容がカチあったり矛盾したり、へんにこじれたりしてはよくないので、参加者どうしてそれぞれが何をしようとしているのか、それをお互いが邪魔しないかについて話し合っておくのがよいでしょう。
・監獄街
これらの作業は監獄街へ入ってから行われます。
監獄街は粗末な露天などが並ぶ商店や、小さな住居らしきものが並ぶ通りや、人々が集まってスポーツ等を行う広場など、小規模ながら街らしいものが一通り揃っています。
スラム街をより閉鎖的にしたような場所ですが、ここに居る人間達は他に行き場もないということで大体ここに定着しています。そして当然ですが全員バリバリの犯罪者で、終身刑を受けた者もザラです。
この場所でタブーとされていることはありません。
全てが自由で、全てが自己責任です。何があっても誰も面倒をみてはくれません。
極端な話、その辺の人間を捕まえていきなり殺しても罪に問われませんが、それを危険視した住民達にリンチにあうなどしたらかなり酷いことになるでしょう。
・明かされていない秘密
OP及び補足情報の中に嘘は含まれていません。
しかし意図的に『伏せられている』事実があります。
状況からそれを推察し、事前に対応することは可能ですが、突然それが己の身に降りかかるかもしれません。
充分な警戒はしておくべきでしょう。
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