シナリオ詳細
機械仕掛けの≪アルカード≫
オープニング
●
君に恨みも無い。
私に悪意も無い。
ああ、けれど、赦しておくれ。
罪を問うなら、私の創造主に―――。
●
「―――っ」
その女性は思わず息を飲んだ。
家路に帰る途中。近道をしようとして、普段はあまり通らない路地裏を使おうとしたのだが、そこで一人の男性に出会った。
腰にまで伸びた、絹糸の様に滑らかで艶やかな黒髪。
すらりと伸びた身長は凡そ百八十センチメートルの細い体躯。
極めて色素の薄い色白な皮膚に、深海の様なアイスブルーの両眼。
そんな人形の様に完成された造型が、突如眼前に現れた。
彼女は、そんな彼を知っている。
彼の名は、アルカード。
孤独を好む、気まぐれの貴公子。
そして……。
「驚かせてしまって、申し訳ない。もう少し、上手くやる心算だったんだ。
けれど今日は、少し酔っていて、少し段取りを間違えてしまった。
美しいお嬢さん。私に……」
「―――ぁ」
アルカードの手が女性の頬へと伸びる。袖からは、病的に白い彼の肌が露わになった
女性は、声が出せなかった。
それは、恐怖故なのか、見蕩れてしまったからなのか。
アルカードは、艶麗な微笑みを浮かべて、首を傾げた。
「……今宵の夕食を、摂らせてくれませんか?」
●ローレットへの依頼
ある街で、住人が行方不明になる事件が発生しているという。
その一部は、既に解決しており、被害者その無事が確認されているそうだ。
生還した一部の被害者は、一様に行方不明時の記憶を消失しており、覚えていない。
だが、体に外傷が残っていることが共通点として浮かび上がっている。
自警団では、既に、一人の人物を容疑者の一人として浮かび上がらせていた。
しかし、彼等には、その帰結は聊か受け入れがたかった。
アルカード。彼らが疑いを掛けた彼は、確かに住民との交流は少なかったものの、極めて善良な市民であったからだ。まさか、彼が……と皆が訝しんだが、しかし、事件現場付近での彼の目撃者率が、誤差の範囲を鑑みても有意な差で高く存在していた。
イレギュラーズ諸君は、当該街へ向かい、アルカードの動向を探って欲しい。
そして、彼が真実犯人であると確証が得られれば、彼の排除をも望まれている。
●
食事の後は、何時も決まって気分が悪い。
自分だって、望んでこんな体になった訳じゃないってのに。
アルカードは、独り自問する。
―――何故、自分の躰は≪機械仕掛け≫(オートマトン)なのか。
そして、何故、動力源が≪人間種≫(カオスシード)の体液なのか。
何も分からない。創造主は、物心ついた時には居なかった。
私は死にたくない。そう思う感情がある。思考もある。
ならば、何が≪人間種≫と違うのだ。何故、≪鉄騎種≫(オールドワン)ですらない? 私は善良に暮らしてきた。
食事以外は無害だ。
むしろ、協力的だ。
食事以外は誰も傷つけず、むしろ、困っている人々を助けてさえきた。
馴染もうと、努力してきた。
なのに、私は、何が違う。
誰か、教えておくれ―――。
今宵も彼は、独り懊悩する。
沢山の、若い女の死体を背景にして。
- 機械仕掛けの≪アルカード≫完了
- GM名いかるが
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年04月20日 22時35分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●Introduction
「評判はいいみたいだけど、何故こんな事を……。
……まあ、理由はどうあれ、他人を手にかけたなら、もう後戻りは出来ないわね」
青色の視線に本の微量の感傷を纏わせた『浄謐たるセルリアン・ブルー』如月 ユウ(p3p000205)が呟くと、隣の『戦神』御幣島 戦神 奏(p3p000216)はまるで対照的に腕を頭上に上げ、柔軟をしながら楽しげに口を開く。
「良くも悪くも怪事件……、犯人はなんとお隣さんだった!
これはスリルショックサスペンス! 現行犯でやっちゃうぞ!」
奏の元気一杯の声とは反対に、夜の帳が静かに小村を包み込む。暖かな灯りが家々に灯され、穏やかな夕食が繰り広げられるのであろう。
そんな街の一角。イレギュラーズ達は、ある男と女を目で追っていた。
先程の奏の無垢な言葉に、『緋焔纏う幼狐』焔宮 鳴(p3p000246)の可憐な相貌が陰る。
「善良な人だってお話だけど、現行犯で発見しちゃったなら対処するしか無いのっ……。 辛いけど、対処させてもらうのっ……!」
切実そうな吐露に呼応するかのように、一羽の鴉が風を切って飛んで行った。”彼”は、鳴が使役している鴉だ。その動きに合わせて、蝙蝠も風を切った。こちらは、『赫き深淵の魔女』ミスティカ(p3p001111)の使役物である。どちらも、本作戦における人払いの、大事な一員である。蝙蝠の方は、ミスティカなりの諧謔であったが。
「そうだね」と『特異運命座標』サクラ(p3p005004)が鳴の言葉に頷き、赤髪のポニーテールが揺れた。
「感性は善人なのに、生きる為に悪いことをしなきゃいけないなんて。
どんなに辛い事なんだろうね……」
サクラは柄に手を掛けた。この刃を、抜けるだろうか?
まるでハリネズミの二律背反。体温を求めて、傷つけあう二者―――。
「個人的には、ドウジョウしなくもないんだけれどね」
『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)のある意味尤も純粋な視線が、アルカードの背中を眺めた。
「でも、弱いアイテに手を出したのだから、ヨウシャはしないよ」
単純な理論だ。そして、明解な理論である。
―――アルカードとケイが、路地裏へと入る。きっと此処が、今晩の狩場に違いなかった。
その様子を見届けた『異端審問官』ジョセフ・ハイマン(p3p002258)が七名のイレギュラーズを見遣って、口を開く。
「それでは、事前に話した通り、私がケイ殿をアルカードから引き離す。
これ以上犠牲者を出すべきではないし、戦闘に巻き込む訳にもいかんだろう」
簡単なオーダーではない。敵は手練れのオートマトンだ。其処に感情はあれど。殺戮機械と同値なのだから。
『主無き侍従』オフェリア(p3p000641)は特に声にもせず、ただ頷いた。
アルカードとは正反対の、深紅の瞳。
”生涯、唯一人にのみ尽くす事”という掟が定められた、とあるオールドワンの一族の出身という彼女は、何を想うだろう。一定の共感だろうか。一切の反感だろうか。一様の無感情だろうか。
「造られた理由も、為すべきこともわからず彷徨う機械……ですか」
死神の様なオフェリアの姿は。
ただ、無表情に揺らめいて―――。
●
「……なるほど。これは、窮地に追い込まれたということでしょうか」
アルカードのアイスブルーの両眼が、艶美なままにイレギュラーズを見回した。
人気の少ない路地裏。アルカードを中心にして、眼前には、ユウ、ミスティカ、サクラ、イグナート。そして背後には、ジョセフ、奏、鳴、オフェリア。
紛うことなく、アルカードはその逃げ場も無く、囲まれていた。
彼は視線をイレギュラーズから外し、狭い空に偶々すっぽりと姿を現していた満月を仰ぎ見た。その眉を顰めて、彼は噛み締める様に声を漏らす。
「これは、とても困りました。なんにせよ、現場を見られてしまいましたから。
これまでみたいに、無かったことには出来ませんね。
―――それとも、無かったことに、していただけますか?」
ぱらぱらと氷の欠片がアルカードの掌から崩れ落ちる。ユウが放ったフロストチェインを彼が握りつぶした軌跡である。それだけで、ユウは彼が三下ではないことが実感できた。
「それは出来ないわね」
ミスティカがイグナートの背後から断定する口調で答えた。
「”こうやって”人を殺めた時から、貴方はもう人種ではなくなった。
今の貴方は人種の姿を偽った、血を貪るだけの殺戮人形でしかないわ」
―――だから、此処で屠る。
その宣告を内包した言葉に、アルカードは明らかに落胆した。
「非常に残念です。……でも、皆さんの言いたい事も理解できるんだ。
”人に仇をなした上で、何を調子の良いことを”。そうでしょう?
ええ、実に当然の帰結です。
……しかし、私は≪人種の血液を接種≫(こう)せねば、生きていけぬ躰なのです。
其処に免じて、繰り返しになりますが、見逃していただけませんか?」
アルカードの絹糸の様に滑らかで艶やかな黒髪がはらりと揺れた。
ケイを無事保護し、路地裏の外へと連れて行ったジョセフが隊列へ復帰する。しかし、アルカードとイレギュラーズの間に漂う沈黙は、彼の願いを消し去るのに十分な濃度であった。
「……確かに、貴方に罪があるとは思わないけど、放っておく訳にもいかないの!」
アルカードと対峙するサクラが感情の乗った声で告げた。
それはイレギュラーズの心情を正しく代弁する言葉だった。そして、交渉決裂を告げる最終宣告だった。
サクラは、自身の聖刀の柄に、再度手を掛ける―――刀は、抜けなかった。
(そうだよね。
アルカードさんは私にとって、出来れば戦いたくない相手、だもんね。
ううん、泣き言なんて言ってられない。
……それでも止めるって決めたんだから!)
鳴はその瞬間、背筋を撫ぜる、酷く冷徹な風を感じた。
彼の名は、アルカード。
孤独を好む、気まぐれの貴公子。
彼の生存本能が警笛を鳴らし始めた。
その瞳の奥の残酷さを―――、鳴は理解したのだろう。
●
「まぁ所詮はモノだ。刺激的にやろうぜー!」
向こうもノリ気になってきたみたいだし―――ね。
奏が待ち草臥れたかのように構える。背水の構えだ。だって、漸く暴れられる!
「がっかりだけは、させないでよね!」
間合いを詰める。アルカードの瞳はそれを見つめて、頭上の満月の様に白い手を視線の高さにまで上げた。
奏が構えるのは二対の得物。サクラと事情は異なるが、けれど同様に抜けぬ得物。鞘ごと振るうその得物。そして踏み込んだ奏の鞘が、豪速でアルカードへ迫り、けれど彼は片腕で受け止める。一瞬互いの視線が超至近距離で交錯した。奏の瞳にはただ愉悦を。アルカードの瞳にはただ殺意を宿すして、刹那の邂逅は弾けた。
「仕様がない方達ですね。
それでは貴方達も―――私の今晩の”食事”になっていただきましょう」
一人食べそびれて気が立っていますし。そう続けたアルカードは、次の瞬間、振り上げた左腕の指を鳴らす。
「……雨?」
オフェリアが呟く。イレギュラーズへと突如降り注ぐ雨粒。
それは、
「……血?」
途端に躰中を走る痛覚。オフェリアは眉を顰めながら、鳴の方を見遣ると、彼女も同じくオフェリアを見ていた。―――そして、その瞳が亡と揺れた。
「……まずいな」
ジュセフが零したのは正しい危惧だ。鳴の精神状態の変化を、彼も理解した。
「こっちは任せなよ!」
「承知した!」
イグナートがアルカードのブロックに入る。ジョセフはアルカードの様子と混乱に陥った鳴のカバーを行い、オフェリアの療術の手番を待つ。オフェリアは、こういった状況を想定した上で、適切な選択肢を有していた。
(いっそ、戦いが好きだったなら全力でショウメンから殴り合うんだけれどなぁ……)
若干もどかしい、と思うのは彼の本質が拳闘士であることに起因するのであろう。眼前にアルカードを捉えた。
「オレにはキミの悩みに答えを出せるような頭の良さはないけどね。
ジュンスイに殴りあって理解しあえることも、あると思わない?」
「私は暴力は好みません」
「ふうん。でも、ジャクシャを糧にしたときに、キミがいつか狩られるガワになるってことは決まってたんだよ」
「貴方達が、”狩人”ですか」
「そうだね。
……狩ってもヒナンされないような悪党はヨのナカにいくらでも居ただろうに。テゴロな獲物を狙ってしまったのがこのジタイを招いたんだ」
イグナートが返した次の瞬間、アルカードの躰近くで炸裂した。アルカードは僅かに後退する。ミスティカの放った魔力の弾丸であった。アルカードが殺戮機械であるならば、ミスティカは殺戮魔女である。
(……さて、弱点とやらは何処かしら)
ミスティカの赫き双眸は注意深くアルカードの反応を観察するが、今回の攻撃からはまだ読み取れなかった。
「知ってるよ。アルカードさんは、他者を傷つけて喜ぶ人じゃないもの」
サクラもアルカードに肉薄する。
「貴方は悪くないわ。
貴方は生きようとしただけだもの。だから、貴方は悪くなんてない」
「……ありがとうございます。でも、私は」
彼女は今回抜刀できない。けれど、
「私は……貴方達の血も、欲しいのです」
サクラがアルカードの心臓目掛けて鞘を突きつけるが、彼の躰を掠める。入れ替わる様に、アルカードは至近距離に近接したサクラの、その首筋に―――。
「っ……!」
サクラの白い首筋から血が噴き出す。アルカードの口元には、べたりと朱が塗られた。 その口は満足げに歪んでいたが、何故かその眼は今にも泣きだしそうな形だった。
本能と理性。それが相反するのなら、自分はどう生きれば良いのだ?
突如、アルカード目掛けて飛来する氷鎖。彼はサクラから離れ、一部被弾しながらもその攻撃を退ける。
ユウが真直ぐアルカードを見つめていた。互いの視線が、交錯する。
「貴方は生きて居たいだけなのかも知れない。でもそれは他の人も同じなら……。
私達は、そのどちらになるかを選ばなければいけない」
「互いに見て見ぬ振りをして、共生できるかもしれない。
貴方達だって、生きるために生命を喰らうのでしょう?
何故、同種の”カタチ”をしたものにだけ、慈悲深くなれるのですか?」
アルカードのその問いに、ユウは答えなかった。ただ、雪華を撫ぜて、青色の結界を展開した。アルカードは、深く溜め息を吐いた。
「私は、貴方達が羨ましい。そしていっそ―――憎らしい」
「……恨みたいのなら、なら恨みなさい。
―――だけど私は護りたいものを護るだけよ」
「ああ、ユウ殿の言う通りだ!
理不尽も不条理も世の理。我々の器が何処まで耐えられるか、我慢比べといこうではないか!」
まあ、痛めつけるのも痛めつけられるのも好きだがね。そう続けたジョセフがアルカードのブロックに入る。
その後ろでは、オフェリアの療術により混乱から回復した鳴が懐刀「狐」を構えていた。
「オフェリアさん、ありがとうなのっ!」
首を傾げたオフェリアに笑顔で頷いてから、鳴は真剣な顔つきに戻り、アルカードを見つめる。
「私も恨まれても構わないのっ。それでも、これ以上の不幸は見逃せないの……っ!」
「むっ……!」
―――縛鎖術式「傀儡」。鳴の躰から、無数の幻視の糸が呪鎖となってアルカードを襲う。
「―――♪」
―――おーあーいむすかーりー。
そーあーいむすかーりー―――
鼻歌まじりの奏がアルカードへと肉薄すると、全力の一撃を彼の胸部へ叩き込む。
「いっくぜー、渾身の一撃! 陽が出て無くても関係ないんだから!」
「っ……」
そこは弱点ではなさそうだ。しかし奏の強力な一撃が遂に彼を捉えると、よろめいたその姿に、無数の傀儡が追い縋る。
「貴方は、自らの意志で人種の血を摂取していたのですか?」
動きが鈍くなったアルカードへ、オフェリアが訊ねる。
「それは、違う。
どちらかと云えば、若い女性の血が”機能”に適していたというだけで、好んでそのようなことをしていたわけでは無い……!」
「あなたの造られた目的を知りたくはありませんか?」
オフェリアの声に、アルカードは頭を上げた。
その眼は、親に追い縋る子供の様だった。
「私の能力なら、もしかすると……。
何か見えるかもしれません。
何も見えないかもしれません。
良いものが見えるとも限りません」
―――それでも貴方が”己の存在理由”を求めるのならば―――。
●記録回路
彼は子孫を残せない。彼はオートマトンだから。
彼は成長する。彼は優秀なオートマトンだから。
彼を作った博士は、一つの賭けをした。
本能は理性を飲み込むか? 理性は本能を押し留めるか?
それは自己矛盾の塊。
産み落とされた罪と罰は、アルカードの名を纏って、レガド・イルシオンを彷徨い続ける。
彼は幼子の時から優しかった。ただ只管に優しかった。
周囲の人は皆、彼を愛した。けれど、彼が一番愛して欲しかった博士は、彼に愛を求めなかった。
「いい子にしていれば、何時か人種になれるさ」
その博士の言葉を、彼は何時までも信じているのだ。
―――哀れなピノッキオ。
ずっと追いかけいていたその背中は、一生手の届かぬ物だとも気づかずに。
それでも手を伸ばし続けるのだ。
もがいて。傷ついて。
否定され続けながら―――。
●
かは、とアルカードは口から血を吐いた。イグナートと奏の攻撃を、もろに喰らった。 跪いた彼のその姿は滑稽だ。自身は血液を有さぬ癖に、吐き散らかしたのは此れまでに摂取した人血なのだから。
「残念だ」
ジョセフがアルカードに肩を貸し、立たせた。アルカードは不思議そうに彼を眺めた。「不本意な結果だろう。だが君の神や創造主を怨むなよ、アルカード殿。
―――それは虚しい、無意味なことだ。せめてこの私を怨み給え。
罵倒も呪詛も慣れている。聞こう。吐き出し給え。その程度しか出来ないが!」
ジョセフの言葉に一瞬の空白を作り、アルカードは「いいえ、その必要はありません」と柔らかく首を振った。
「これまでずっと怨んできました。そして恨まれもしたでしょう。
しかし、貴方達はこうやって肩を貸してくれた。私の過去を見させてくれた。
それで十分です。―――十分過ぎる程に」
「そうか。なら構わない。それは、君は立派な人種だということだ」
先程のイグナートと奏の攻撃はアルカードにとって致命傷だった。それを悟ったユウは、追撃の手を止めた。
ミスティカが、彼にゆっくりと近づいて行った。
「優しいのね、貴方」
囁くように告げたミスティカの声。アルカードはにこりと微笑んで、首を振った。
「いいえ、お嬢さん。私は、優しくするように造られただけです。これは、”ココロ”ではありません」
「違うわ。貴方はきちんと、心を育てたの。でも何時しか歯車が狂った、理性と本能の間で。
だから、その優しい心と命を引き換えに、貴方の罪を赦してあげる」
イグナートがジョセフと反対の肩を持った。既に十分殴りあった。だから、もう解りあえたはずだ。
「だから、安心してあの世へ逝きなさい。
機械仕掛けの吸血鬼じゃない、アルカードという一人の人間として―――」
ミスティカの掌の体温を、アルカードはとても暖かく感じ取った。
イデアの追想。交わった両者の視線は、やがて彼に仄かな甘い夢を見させる。
―――ああ、その夢の中で、彼は。
とても、とても優しい世界の夢を見た。
●
倒れ込んだアルカードの相貌は、”停止”しているとは思えない程穏やかだった。
サクラがふと、その長い髪を払い、露わになった彼の白い項を眺めると、文字が見える。
「こういう悪趣味な事するやつは、すぐそこに答えがあるのに気づけ無いようにする、気がしてたけど……」
其処に記されていたのは名前。
『シオドマク』。
「機械に心という名の理性を持たせておいて、血の衝動には抗えないようにして。
創造主とやらは、随分良い趣味してるわね」
屈みこんだサクラの後ろからミスティカも覗き込むようにしてその名を認めて、冷たく呟いた。
それは、誰の名か。
創造主の名か。
そんなことには興味は無い、とばかりに奏が大きな欠伸をした。
戦いが始まった頃には頭上にあった月が、何時の間にか何処かへ行ってしまった。
暖かな灯りが家々に灯されたのは、変わらないまま。
彼は、己の存在理由を、その今際の際に知ることが出来たのだろうか?
自分は……彼と、違うのだろうか? 違うと言い切れるのだろうか?
自問するオフェリアの黒いローブは、闇に同化していく。
薄黒い路地裏で失われた一つの”命”に気にもかけず、人々の暮らしは営まれていく。 鳴の祈りは、そんな無関心の中に埋もれて言った幾重もの命に、想いを馳せる。
(……聖職者じゃなくても祈りは何かに届くはずなのっ)
―――その命の中には。
人間種でも鉄騎種でもない……、そんなとても曖昧なものをも包含して。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
皆様の貴重なお時間を頂き、当シナリオへご参加してくださいまして、ありがとうございました。
人払いの工夫、アルカードを挟撃する為の最適化された非常にバランスの良い陣形と、とても素晴らしいプレイングが揃っていたと感じました。
またオフェリアさん、ミスティカさんのギフトが非常に相性よく機能していたと思います。便利すぎず、使い処が限られていますが、ギフトのシステムが嵌ったシナリオだったように思います。
アルカードの弱点は、『眼』でした。一切示唆の無い完全なボーナスポイントでしたので、あまりお気になさられなくて大丈夫です。
ご参加いただいたイレギュラーズの皆様が楽しんで頂けること願っております。
『機械仕掛けの≪アルカード≫』へのご参加有難うございました。
GMコメント
●依頼達成条件
・アルカードの撃破
・住人に被害を出さない事
●情報確度
・Bです。OP、GMコメントに記載されている内容は全て事実でありますが、
ここに記されていない追加情報もありそうです。
ただしそれは調査・推理によって明らかになる物語的な追加情報であり、
攻略難易度へ影響を及ぼすものではありません。
●現場状況
・≪幻想≫内のとある街の郊外。
・イレギュラーズ達は、夜の路地裏で、アルカードの犯行現場を目撃する所からシナリオが開始されます。
■時刻
・夜です。辺りは薄暗く街灯も少ない事から、特に対策が無い場合は、相応のデメリットが想定されます(命中率ダウン等)。
■現場周辺
・路地裏なので人は疎らですが、プレイングによっては、人払いをして、より任務遂行に有利な状況にすることが可能です。但し、アルカードが狙いをつけた女性に関しては、現行犯で対処する為、そのままにしておいた方が良いでしょう。
・開けた場所ではありませんので、取り囲んだり、横に並んだ陣形を構築する場合、工夫が必要です。
●敵状況
■『アルカード』
・昔に作られたオートマトン。人間を象っていますが、人間種とも鉄騎種とも異なります(交配により個体数を増やすことが出来ません)。より機械的な存在です。
・動力源として、人間種の体液より具体的には血液を必要とします。その摂取量は、数日で人一人分です。
・平時は極めて穏やかな性格(機能)ですが、襲撃者に対しては敏感に迎撃態勢を取り、イレギュラーズ数人掛かりでの対処が必要なほど強力に対応します。
・腰にまで伸びた、絹糸の様に滑らかで艶やかな黒髪。
すらりと伸びた身長は凡そ百八十センチメートルの細い体躯。
極めて色素の薄い色白な皮膚に、深海の様なアイスブルーの両眼。
かなりの美男子の容姿ですが、その年齢(製造からの経過年数)は現時点で不明です。
・人間型のオートマトンである彼には、弱点部位があるかもしれません。
・製造者は、現時点で不明です。
・下記攻撃の可能性があります。
1.今宵の食事(A物近単、出血・HP回復)
2.オートマトンの天啓(A神遠範、不吉・混乱)
3.懺悔(A物近貫、出血)
●その他
■『ケイ』
・本シナリオで冒頭、アルカードの標的となる、若く美しい女性です。
・アルカードの顔程度は知っているようですが、彼についての悪い噂は知りません。
皆様のご参加心よりお待ちしております。
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