PandoraPartyProject

シナリオ詳細

黒暗に響く咆哮

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●夜が来る
「……日が沈む」
「夜が来る……」
 アルマ村は幻想(レガド・イルシオン)のフィッツバルディ領に属する小さな村だ。
 雲一つない空を落陽が橙色に染め上げる様を力なく眺め嘆く村人達の姿を見て、村長である初老の男は心を痛めた。
 ほんの一週間前までこの光景は、一日の仕事の終わりと家族団欒の幕開けを告げる尊いものだったのに、今となっては恐怖以外の何物でもなかった。
 お互いを労う言葉も交わされない。本当は皆、今日も一日よく頑張っただとか、他愛もない噂話に花を咲かせ笑いあって、あの夕焼けの空が星空に移り変わるのを眺めていたいだろうに。
 けれど、それができない事情があった。
 村人は農具を納屋に放り込み、周囲を怯えるように見渡しながら慌ただしく家に帰っていく。その姿に掛ける言葉を村長も持ち合わせておらず、深い溜め息を一つついてとぼとぼと自宅に帰った。
 やがて日が沈み、夜が来る。簡単な食事を済ませた後は、村長はいつも窓の外を眺める。最近できた習慣だが、できれば辞めたかった。
 どうか"奴ら"が来ませんようにと祈りを込めて、ただただ窓の前に立ち尽くし時間の過ぎるのを待つなんて、誰だって好き好んでやりたくないのだから。
 ――しかし、その祈りや思いは今日もまた遠吠えと共に砕かれた。
「あぁ……」
 また、村の家畜が犠牲になる。"奴ら"は柵を破壊し、喰い殺していく。
 柵の修繕に廃材まで動員するようになった現状ではどれだけの効果も無いだろう。最も頑丈だった時期でさえ"奴ら"には効果が無かった。
 寝ずの番をつけて家畜を守ろうとしたこともあった。提案した次の日にはしなくなった。
 村の若者が二人、犠牲になっただけだったからだ。
 家畜の味を覚え、人の味すら覚えた獣に対抗する手段はもうこの村には残っていない。家に閉じこもり、夜が去るのを震えて待つだけだ。
 遠吠えはいくつも重なり、不安を煽るかのように、嘲笑うように村を包み込んでいく。

●黒暗に希望の灯火を
「緊急の案件なのです!」
 ギルドに集まったイレギュラーズを前に、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は愛嬌のある顔を頑張って真面目な顔つきに見えるようにしながら言った。
 しかしすぐ彼女は初対面にも関わらず自己紹介をしていないことに気づいて"はわわ!"と慌てて名を名乗り、自らが情報屋であることを明かしてぺこりとお辞儀をする。
 それからもう一度真面目な顔つきを頑張って作ってみせると、彼女は地図を広げ、小さな村の所在地を指し示してからこう切り出した。
「フィッツバルディ領のこの場所に『アルマ村』という小さな村があるのです。そこが今大変なことになっているのです!」
 曰く、村の家畜を狙った狼の群れが毎日襲来し続けているのだという。村人総出でなんとか家畜を守ろうとあれこれ策を講じてはいるものの、被害は深刻だ。
「村の若い男の人が夜中に見張りに立ったこともあるそうなのです。自分たちで追い払ってやるって。でも……」
 家畜を守る柵の修繕や増築に使う資材も乏しくなり、ならばと勇んで立ち上がったその若者二人は、翌日無残な姿に変わり果てているのを発見されたとユリーカは暗い顔で告げる。その問題の狼の群れに喰い殺されてしまったのだ。
 家畜に留まらず人すら躊躇なく殺し喰らう群れだと判明してから、アルマ村はすっかり恐怖に包まれて日々を過ごしており、このままだと村そのものが危ういとユリーカは熱を込める。
「皆さんには、アルマ村を襲う狼の群れを全部やっつけてほしいのです!」
 彼女は懐から紙束を取り出し広げると、そこに書かれた文面を読み上げる。彼女が自分の足で稼いできた、この事件の情報だ。
「狼たちは必ず夜にやって来ます。数は10匹。村の色んな人から目撃情報を集めて照らし合わせたので、間違いないのです。それで、狼たちは村にいる家畜を毎日少しずつ食べに来るそうなのです」
 村のどの家畜が狙われるかは定かではない。しかし問題はないと彼女は続けた。
「村の近くに来たら、群れ全体が必ず遠吠えをするそうなのです。『今から襲ってやる』って合図のつもりなんでしょうか。アルマ村の人たちを完全に侮っているのです。だけど、皆さんにとっては群れがどこから村に入ろうとしているのか、手がかりになるはずなのです」
 既に狼達にとってアルマ村は狩場に過ぎないのだろう。村人からすれば堪ったものではないが、イレギュラーズから見ればその驕りは立派な弱点となる筈だとユリーカは真面目な顔をして続ける。
「皆さんと出会っても、狼たちは逃げるのではなく襲い掛かる方を必ず選ぶはずなのです。自分たちを止められるものなんてないと、すごく傲慢になっているはずだから」
 連日連夜同じ場所に現れること、わざわざ遠吠えをして知らせること、それが何よりの証だと彼女は断言した。
「でも野生動物には違いないのです。群れの数がすごく減っていったら逃げようとする可能性は高いとボクは考えています。一匹残らずやっつけるためにも、そこは少し注意して戦ってほしいのです。人の味を覚えた獣は、もうどこにも行かせちゃだめなのです」
 どうか、と彼女は言葉を続けた。
「――アルマ村に安らぎと希望の夜を取り戻してあげてほしいのです。ボクはこの事件の解決を、皆さんに託します!」

GMコメント

はじめまして、昼空卵(ひるそらたまご)と申します。
今回ご案内する冒険は、小さな村を襲う災厄を打ち払う、と言った感じのものです。
以下、ユリーカの説明補足となります、ご確認ください。

●依頼達成条件
狼の群れの殲滅

●情報の精度について
今回のユリーカの情報は極めて正確なものです。
想定外の事態(オープニングとこの補足情報に記されていない事)は絶対に起きません。

●狼
全部で10匹います。噛み付いたり引っ掻いたりします。
特殊な能力はありませんが、自分達に立ち向かってきた若者を逆に喰い殺してしまうぐらいには凶暴ですし、身体能力も侮れません。
群れが壊滅に追い込まれた場合逃亡を試みる個体が発生する可能性があります。

●アルマ村について
小さな村です。今回の戦いの舞台でもあります。
イレギュラーズの皆さんは夜、狼の襲来を村の中で待ち構えるという状況からのスタートとなります。
天候は快晴、月明かりでも十分に遠くが見渡せるほどですが必要に応じて光源を持ち込んでもいいでしょう。(持ちこまなくても特にペナルティはありません)
村の中もその周辺もなだらかな地形で戦いやすいです。

村人は全員家の中にしっかりと閉じこもっており、イレギュラーズの皆さんが安全を確保し、許可するまでは絶対に外へ出ないようギルドの方から言い含めてあります。
そもそも怖がって出ようと考えないので避難誘導を考える必要はありません。狼との戦いに専念して下さい。

それでは行ってらっしゃいませ。

  • 黒暗に響く咆哮完了
  • GM名昼空卵(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年01月24日 21時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リュスラス・O・リエルヴァ(p3p000022)
川越エルフ
ラノール・メルカノワ(p3p000045)
夜のとなり
スギ(p3p000519)
惑星
ミア・レイフィールド(p3p001321)
しまっちゃう猫ちゃん
Briga=Crocuta(p3p002861)
戦好きのハイエナ
棗 士郎(p3p003637)
 
白銀 雪(p3p004124)
銀血
アイリス(p3p004232)
呪歌謡い

リプレイ

●準備万端
「まったく、魔術師に肉体労働をさせるとはな……」
 『ショタジジイな魔術師』棗 士郎 (p3p003637)はぼやきながら空を仰ぎ、額の汗を拭った。既に空には月が昇り星が輝き始めている。
「まあ良い。これも仕事だからな」
 仕方ないといった様子で彼は言葉を続けるも、その声色にも表情にも不満の色は無い。
 これ以上の犠牲を出さぬよう確実に"奴ら"を仕留めねばならぬという彼の決意は、幼い顔立ちをきりりと引き締めていた。
「火を怖がらないというのは少し意外でしたね。今回の狼が特別なのかもしれませんが……」
 鈴を転がすような美しい声で呟いたのは『流浪楽師』アイリス (p3p004232)だ。
 "火を嫌がるのでは"という彼女の心配は杞憂に終わっていた。アルマ村でも既に火を焚いて狼を遠ざけようと試みた実績があったのだ。
 結論として、今回やってくる狼達は全く火を怖がらないことが判っている。故に自分たちの目印として存分に篝火を活用できる。
「でもお陰でどの方角から来ても、すぐに動けるね」
 『惑星』スギ (p3p000519)が手に広げているのは、アルマ村の村長に書いて貰った地図だ。簡易的なものだが今回の作戦を実行するのに十分役立った。更に地図には自分達で色々と情報を書き込んである。
 スギは地図から顔を上げて仲間の一人に目を向けた。地図完成の最たる功労者、『銀血』白銀 雪 (p3p004124)が彼の視線の先でぼんやりと夜空を眺めていた。
 彼女が上空から村を観察しその情報を共有したお陰で、イレギュラーズ達はアルマ村を熟知するに至っている。完遂のため少しでも正確な情報を、という尽力の賜物だ。
「アルマ村……動物で生計……立ててるの……」
 『しまっちゃう猫ちゃん』ミア・レイフィールド(p3p001321)はアルマ村を知る中で惨状を目の当たりにした。
 ただでさえ苦しい生活なのに、この村の家畜は半分近く狼に喰い殺されてしまっている。
「これは酷いの……助けるの」
 ――……報酬はきっちり貰うけど……にゃ……♪
 この仕事を完遂すればどれだけ報酬が貰えるか、そう考えてミアは心の中でほくそ笑んだ。
 アルマ村がどれだけ悲惨な状況であろうが、あくまで慈善事業ではなく、報酬が出るからミアは助けにやって来た。
 けれどその考えを仲間の前で口に出さず心の中で思うだけに留めたのは、この少女の生まれ持つ優しさかもしれない。
「(人助けなンざ性に合わねェなァ)」
 『戦好きのハイエナ』Briga=Crocuta (p3p002861)もまた、個人的な理由でこの仕事に関わった一人だ。彼女――ここでは便宜上こう記載させてもらおう――は闘争を求めてやってきた。
 暫く戦いから離れていたため身の捌き方は全盛期を思えば程遠い。準備が終わった後のBrigaはひたすら入念にストレッチを行い、躰を温めて備えていた。
「(暴れても問題ねェらしいし、精々楽しむとするか!)」
 存分に暴れて、その後いい気分で酒を煽る。きっと美味い酒になるだろう。それを思うと、Brigaの口元に自然と笑みが浮かんだ。
「細工は流々、仕上げを御覧じろ。……後は私達の奮戦次第だ」
 『川越エルフ』リュスラス・O・リエルヴァ (p3p000022)が仲間達の様子を眺め呟くと、皆小さく頷き返してくれる。
 落とし穴は時間的な都合で作れなかったものの、それ以外の準備はすべて完了してある。戦闘に適した舞台を選び抜き、篝火を作り、家畜の匂いが染み付いた藁を設置。おまけにミアが少々の肉までつけている。
「(守るべき者がいるという戦いは初めてだが――嫌いではないな)」
 リュスラスも元々は狼と同じ、侵略する側だった。だが今初めて誰かを守るために力を振るおうとしている。
 もうじき訪れる戦いの気配は自分の知るそれとは違っていたが、悪くない、と思えた。
「半分同族のような者だが……人に仇なした以上情けをかける訳にもいくまい」
 これから戦う相手を思い、『砂狼の傭兵』ラノール・メルカノワ (p3p000045)は赤い瞳で虚空を睨みつける。
 一匹残らずの殲滅、それが今回の仕事の条件だ。手加減はできないと拳を固く握りしめた。
「さて……時刻的にもそろそろ来るか?」
 ラノールもまた狼の特徴を持つからこそ持ち得た勘。
 ――果たして彼のその発言と共に、遠吠えが響き始めた。

●接触
 イレギュラーズは耳を澄ませた。遠吠えはどこから聞こえてくるか、それを知らなければならない。
 皆が同じ方向を向いた。遠吠えは徐々に重なり厚くなりつつも一つの方向から発せられている。
 リュスラスが地図をBrigaに開いて見せ、口を開いた。
「ハイエナの御仁。この場所へ誘導を頼む」
「あァ。……任せときなァ」
 手筈通りにまずBrigaが音の発生源へ向かって駆け出して、残りの7人は見繕っておいたいくつかの戦闘候補地の一つへ向かう。そこは大きな建物の裏手だ。広く頑丈な壁を背にして戦うことが出来る。
 各々が武器を構えてBrigaの帰りと敵の襲来を待ち構える。遠吠えが止み、代わりに誰かに吠え始めたのが遠くから聞こえた。
「……きた!」
 暗がりからこちらに向かって走るBrigaと、その後ろを狼が複数追いかけてくるのを見つけたスギの頭の上に、緊張を示す"!"マークが浮かぶ。
「さァ来いよ、犬っころ共がァ!」
「……9匹? 残りの一匹はどこ」
 Brigaを追う狼が9匹しか居ないと雪が訝しむ。しかしその疑問はすぐに解けた。
 残りの一匹が別の道から回り込んできたのか、Brigaの横から突然現れ牙を剥いて飛びかかっていたのだ。
「いかん!」
「バリガさん!」
 士郎とアイリスが同時に危険を知らせようと叫ぶ。
 不意を打たれたBrigaは、心配を他所に鼻で笑い飛ばした。
「ハッ……!」
 彼女は流れるような動作で裏拳を繰り出し、狼の横っ腹を殴り飛ばして見事に攻撃を回避してみせたのだ。尋常ではない反射神経の為せる技だった。
「よォ。これでいいンだろ?」
「あぁ。完璧だ。挑発も効いたようだな」
 戦列に復帰したBrigaにラノールが答え、今や自分達を取り囲み唸りを上げる狼を睨みつける。
 獣達は設置しておいた家畜の匂いが染み付いた藁や肉には目もくれない。完全に生きた獲物を食い殺すつもりのようだ。
「……いや……」
 ミアは怖がるふりをして、1、2歩後ずさってみせる。そんな彼女の前に歩み出て、腕を横に突き出し守るように立ち塞がったのは士郎だ。
 アイリスはBrigaの後ろにそっと隠れて見せた。それらの行動の真意を狼は悟れない。
 本能のままに生きる獣はまんまとイレギュラーズの思惑に引っかかり、優位を信じて牙を剥く。
「任せたよ!」
 その猛進を受け止める前衛の一人、スギは巧みに攻撃を捌きながら後方に位置する3人に呼びかけた。この戦いは火力を望んだ場所に集中する自由を持つ彼らが鍵となる。
 イレギュラーズは壁を背にしたことで狼が攻め入る方向を見事に制御してみせた。これなら思う存分後衛が力を振るえる。
「さて……ワシの弱体化した魔術でどこまでやれるだろうな?」
 飄々と返したのは士郎だが、今の己が出せる限界まで魔力を高め気合は十分だ。
「百発百中……なの」
 ぐいと伸びをして、ミアは重火器を構え直す。その瞬間、銃口は常に狼を捉え始めた。
「参りましょう……!」
 アイリスは杖を振るい虚空に鉄槌を描く。それは輝きを放ち、前衛に襲い掛かる狼の躰を見事に打ち据えた。
 作戦通りに事が進んでいる。イレギュラーズ達に混乱や狼狽はなく、初接触の手応えは十分であった。

●狩るモノ、狩られるモノ
「ッ! ……今ので3匹目か」
 二匹の狼相手に防戦を繰り広げ、腕と足に傷を負いつつも、リュスラスは戦況の把握を忘れない。集中攻撃を受けて瀕死になった狼が、ラノールの振り下ろしたマトックによって頭を穿たれ倒れ伏すのを見届ける。
 攻撃される方向を制御することでそれを押さえ込む前衛の負担は確かに増えた。しかしそれも一時的なもので済みそうだ。
 狼の撃破速度は予想以上に早いとリュスラスは口の端を吊り上げる。
「オウシェとて、思慮を巡らせてはならん法はない」
 彼にとって知略は久方ぶりか、それとも初めてだったのか。何れにせよその表情は"悪くない"と物語っている。
 リュスラスが次の標的に魔弾を放つ準備を始めたその時だった。
「一匹抜けたぞ!」
 ラノールが大声で報せる。
 前衛に張り付かず様子を窺っていた一匹の狼が、集中攻撃が他の狼に始まったのを見るやいなや、するりと前衛を抜けて後衛に向かって駆け出していたのだ。
「むっ……!?」
 報せに反応した時には既に遅く、士郎に向かって狼が牙を剥いて飛びかかっている。彼は咄嗟にマントを翻した。
「しろー!」
 ミアの心配の声に反応する余裕はなく、士郎はマントに噛み付いた狼を振り払うのに必死だ。
 腕をやられることはなかったが、すごい力だ。このままだと引き倒されて急所をがぶりとやられかねない。
「このっ……離れろ! 離れんかっ!」
 先程攻撃したばかりで彼はもちろん、同じ後衛のミアやアイリスもすぐさま対応ができない。
 嫌なタイミングで突っ込んできたと冷や汗が一筋流れたその瞬間、士郎の傍でふわりと風が起きた。
「任せろ」
 感情の読み取れない声がしたかと思えば、狼が破れたマントの切れ端を咥えたまま吹っ飛んで壁にぶち当たっている。
 低空飛行で駆けつけた雪が、その勢いのまま思い切り狼の横っ腹を蹴り飛ばしていのだ。
 こういう時のために彼女はあえて前衛の押さえ込みには極力参加せず、遊撃のような形で戦場を飛び回っていたためすぐに対応ができた。
「すまん。助かった」
「マントはごめん」
「ハッ。安いものだ!」
「5匹目だァッ!!」
 その最中、Brigaからついに狼の半数を撃破した報せが入る。全員に緊張が走った。作戦の総仕上げだ。
「囲むぞ!」
 イレギュラーズ達は一斉に移動を開始する。前衛は狼を押さえ込んだまま、獣達を壁側に追いやり始める。
 その攻防を脇目にミア、士郎、雪、アイリスの4人が間をすり抜け、戦闘開始時とは逆の形の布陣を完成させた。
「……今宵、どちらが獲物であったのか。思い知りなさい」
 魔力を杖に篭めながら、アイリスは凛とした声で言い放つ。
 イレギュラーズ達が壁を背にして戦った理由は二つあった。
 一つは狼の攻め入る方向を制御することで後方からの襲撃を回避し、後衛に容易に手が出せない陣地を作ること。
 もう一つは狼の数が減った頃合いに壁側に追い込むことで包囲を完成させ、退路を断つことだった。
 最早狼とイレギュラーズの立場は、逆転している。ようやくそれに狼が気づき始めた頃には手遅れだった。
「残念! 通せんぼ~」
 包囲を抜けようとした狼をスギがガッチリと捕まえる。当然激しい抵抗にあうが、ここが踏ん張りどころだと引っかき傷だらけの疲れた躰に鞭を打って、彼は狼を押さえ込み続けた。
 他の仲間は大丈夫だろうかと顔を上げたスギは息を呑む。
「ぐっ!?」
 ラノールの腕に、狼が今まさに喰らいついていたのだから。
 革の手甲に牙が食い込み、彼は苦痛に表情を歪める。だが彼はあえて振りほどこうとはしなかった。
「付き合ってもらうぞ……!!」
 腕に噛みつかせたまま、壁際まで一気に肉薄。狼の躰を強く押し付け、空いているもう片方の手で首元を締め上げたのだ。
 たまらず口を離した狼を、そのままラノールは拘束し続ける。
「よし、こちらは抑えておくぞ! 攻撃は頼む!」
「私に続いて下さい!」
 アイリスの指示の下、ミアと士郎と雪が再び集中攻撃を開始する。逃げようとしたもう一匹の狼が魔力と銃弾の雨をまともに受け、地に沈んだ。
 残り4匹。
「……クハハハッ! この痛み、刺激、興奮……全部、全部最高だァ……! これだから戦いはやめられねェなァ!!」
 Brigaは自身で壁際に追い詰めた狼に狂笑を向けていた。あちこちから血を流しており、この戦いで負った傷は彼女が最も深い。
 それもそのはず、彼女は防御を考慮しない攻撃一辺倒の戦闘スタイルを取っていた。噛みつかれようが引っかかれようが一撃を叩き込む捨て身の攻撃も何度かやっている。
 こんな無茶を一人ですれば、もしかすると彼女は限界を迎えて倒れていたかもしれない。
「バリガさん、これ以上の無茶はしないでください」
 しかし今回は補佐する者が居た。アイリスだ。
 初めからずっとBrigaに付かず離れずの位置を維持していたアイリスは、消耗の激しい彼女の回復役も担っていたのだ。
「あァ。心配いらねェよ、アイリス!」
 忠告にBrigaは狂笑をそのまま向けてニヤリと笑ったかと思えば、即座に目の前の狼に視線を戻す。
 怯え、逃げようと地面を蹴った狼を、下からすくい上げるように放ったBrigaの攻撃が捉え、狼の体躯を宙に舞わせる。更に無防備な狼に向けて放つ本命の一撃。
「っらァッ!!」
 一刀両断。
 狼の首は断ち切られ、勢い余った攻撃が強かに壁を叩きつけ凄まじい音が響いた。
 しかし派手な音とは裏腹に、壁には傷一つついていない。予め周囲に巡らせたスギの保護結界が村の建物をしっかりと守っている証拠だった。
 残り3匹。その全てが逃走できないように拘束されている以上、決着はついたようなものだ。
 一匹、また一匹と仕留められ、ついにリュスラスが押さえ込む狼を残すのみ。
 最後の一匹が死ぬ物狂いで脚を動かし爪でリュスラスを傷つけるが、拘束は緩まない。それどころかもう一度壁に叩きつけられ、狼の勢いはじわじわと弱っていく。
 水色の瞳で狼を睨みつけ、リュスラスが思い知らせるのは己の無力。弱肉強食。
「情動(パトス)ならぬ論理(ロゴス)の戦いも悪くはない。不運であったな、賢しき狼どもよ」
 もがく獣の耳元で囁いた瞬間、獣は過剰に痙攣を起こして力を失う。
 そのむき出しの腹には魔術と銃撃の傷が刻み込まれていた。

●希望のアルマ村
 脅威は去った。イレギュラーズ達は見事に狼を殲滅し、アルマ村に平穏を取り戻すことに成功した。
 狼の殲滅を村長に伝え安全を確保したことを告げると、きっと村人達は戦いの様子をずっと伺っていたに違いない。
 村長が嬉しそうな声でイレギュラーズ達にお礼を言っているのをすぐに聞きつけて、家という家から人が出てきたのだから。
 すっかり夜も深まったのに、村はちょっとしたお祭り騒ぎの様相を呈していた。
「すごい音がしたのに何処も壊れてないって? 当然さ。だって私が壊れないよう守ったんだから」
 保護結界のお陰で村に被害は無い。
 感心する村人にスギは自慢気に胸を張る。その顔の周りには光がキラキラと輝いていた。
 そんなやり取りを見つつ、ミアと士郎は狼の亡骸を片付けるお手伝いだ。村の男達が主導になってやっているので、力仕事はあまりない。
「作戦……うまくいった……の……」
「そうだな。前衛もよく押さえ込んでくれた。ワシらにあって狼に無いもの……『知恵』の勝利といったところか」
「誰も……酷い怪我しなくて……よかった……にゃ……♪」
「おっと……帰ってきたようだぞ?」
 士郎が示した先にはラノール、Briga、雪、アイリスの姿がある。狼の寝床を探して可能であれば破壊したいというBrigaの提案に、4人で村の外へ調査に出ていたのだ。
「ヤツらの寝床らしきものがあったが、もう破壊しておいたから他の狼が住み着くこともないだろう」
「子供の姿も無かったなァ。あの10匹で全部と見て間違いねェだろう」
「少なくとも、この村があの狼に悩まされることはもう無い」
「村の平和は間違いなく、取り戻しましたよ」
 喜ばしい調査結果に、村長は何度も何度も頭を下げていた。"あなた達は村の大恩人だ"と、最大級の賛辞も付けて。
 喧騒から少し離れた所で、リュスラスは屈み込んでいた。目の前には簡素な作りの墓が並んでいる。
 自分達が訪れる前に犠牲になった若者の墓だった。
 彼らは弱者だから死んだ。リュスラスにとっては驚くこともない当たり前の結果だ。
 だが彼らは、村を守ろうと勇気を振り絞った。それで力及ばず死んだとしても、その勇気をリュスラスは笑おうとは思わない。
 そう考えるようになったのは、ごく最近のことだ。
 リュスラスは立ち上がり、踵を返す。その背後ではたった今供えられた可憐な花が二つ、穏やかな夜風に吹かれて揺れていた。

成否

成功

MVP

Briga=Crocuta(p3p002861)
戦好きのハイエナ

状態異常

なし

あとがき

皆様冒険お疲れ様でした。昼空卵です。

地形を活かした囲い込み、お見事でした。狼を打倒するのに十分な作戦であったと思います。
デメリットのあるスキルを別のキャラクターのスキルで補い、十全に力を発揮していたのも素晴らしいです。
また保護結界で村の損害を押さえたり、狼の巣穴の調査・破壊を行うなど細かな配慮も大変良かったと思います。
成功条件には関わらないものでしたが、それでもこういうことを続けていけば、いつしか必ず皆様のキャラクターの『誇り』になるはずです。

MVPは狼を惹き付けるという、今回の冒険で最も危険度の高かった役目を担い、狼の巣穴の調査・破壊を提案してくださった『戦好きのハイエナ』Briga=Crocuta(p3p002861) 様に付与します。

ご参加ありがとうございました。またお会いしましょう。

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