PandoraPartyProject

シナリオ詳細

おやすみ、夜の星

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●星は寒空に一人瞬いて

 ベナトナシュは、愛されていた。親からも、友人からも、皆に愛され可愛がられていた。ベナトは映像でしか星を見たことがなかったけれども、自分の名前が星から来ているのだ、ということも教えてもらっていた。

「ベナト、かわいいベナト」

 外は危ないから、といっていた。生まれてこのかたベナトはこの小さな箱の外へと出たことはなかったけど、家族や仲間はしばしば外へと出ることがあった。そして、帰ってこないことも、よく。その度にベナトは泣いたし、他のみんなも泣いた。ひとり、また一人と減っていくのを見て「外は危ないよ、やめようよ」と言った日もあった。ベナトが引き留めても、みんな首を振るばかりだった。
「生きていくには、外に出て物資を手にいれなければいけないの。ここにある食糧も、水も、限られてるわ」
 そう言って外に出たお姉さんは、帰ってこなかった。ベナトは泣いた。泣いて、皆に慰められた。嘘つき、嘘つき! と泣いた。ベナトは知っていたからだ。外が危ないのは本当、ここにある物資が限られてるのも、本当。でも。
「外に、物資なんてないのに!」

 事実だった。外に物資なんてないのだ。世界は――もう焼け野原だから。地上には生き物が棲める場所がもうないからだ。それでも、それでも生きていたい。淡い希望の星を探しに、皆外へ行ったのだから。
「だからベナトナシュ、覚えておいてね。暗ければ暗いほど、星は空に美しくかがやくの。だからね、私たちのベナトナシュ」
 死出の旅だとしても、あなたが待っていると思うだけで私たちは頑張れるから。留守番をしていてね。帰ってきたら貴女に本物の星を見せてあげるから。
「でも、もし帰ってこなかったら――」
 その時は、私のために泣いてほしいな。ベナトナシュ。

 そう言い残して、最後の一人も帰ってこなかったから『人類生命保護施設シェルターAI ベナトナシュ』は泣いた。
 願いは叶わない、カメラ越しに見えるから。
 世界はもうとうに終わっているんだって。
 でも引き留める腕はベナトにはなかった。

「ああ、でももし奇跡がおきるなら」

 うそでもいいから皆にお帰りって言って。外のお話しを聞いて、そうしてうとうと、眠りたいな。


「泣き女、って知ってる? いろんな世界でよく風習として存在しているんだけど」
 ベナトナシュ、ってそういう意味の名前なんだよねえ。と暢気に宣うのは境界案内人である『故障済の精密機器』白雲クカイだ。

「今回お兄さんが君たちにお願いしたいのはねえ。この世界の最後の生き残りである人工知能、『ベナトナシュ』の電源を切ることだ。この世界の最後の生き残りは彼女だから、それでおしまいだよ。ただし、」
 と、そこで一瞬、言葉を切った。
「今回君たちはベナトが待っていた仲間、家族として向かってもらうから――せいいっぱい、嘘をついてあげて欲しいんだ。彼女が眠る前にね」

「存在しない『外の世界のお話し』を、してあげれば良いと思うよ。あるいは、一緒に眠らせたい話でもね」





NMコメント

梅雨の季節になると星が見えない、膝毛です。
終末世界に微睡みを添えて、ゆっくり眠りましょう。

●目的
「ベナトナシュにお土産話を聞かせる」
作り話でも、なんでもいいです。
外を知らない彼女に、外のお話しをしてあげて下さい。
「ベナトナシュを眠らせる」
部屋にある電源を切るだけです。
特に明記されなくても、電源は切ることが出来ます。

●舞台
おわりのせかいです。機械があって、人間の人格を持ったAIがある事は解りますがそれ以外はもう滅びていて何にもわかりません。
ベナトのおかれている地下シェルターの入り口には、朽ちた人間の骨があります。

●NPC
『人類生命保護施設シェルターAI ベナトナシュ』
通称はベナト。人格もモニターに映っている映像も10代前半の少女です。
星のように美しい瞳が煌めいています。泣き虫です。
「夢を見たいの、楽しい夢を」

●サンプルプレイング

ただいま、ベナト。外の世界はどうだったか、って?
ああ、大変だったよ。ずうっと進んだ先に海があったんだ。
果てが見えない、広い場所だった。
ベナトも今度一緒に行こう、すごいきれいだったから。


以上になります、よろしくお願いします。

  • おやすみ、夜の星完了
  • NM名玻璃ムシロ
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月27日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士

リプレイ

●人魚は夢を謳う

「……みなが戻れなかった理由、それは向かった先が恐ろしい海に取り囲まれていたから、なのですの」

 はじめにそう語ったのは『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)だ。白く静かな部屋をただよう人魚に、ベナトは興味津々といった様子を隠さない。何故なら、見たことも無いすがたの『にんげん』だったからだ。
「それは、人びとが、そのままの姿で越えるには、おそろしく、危険な海でしたの……。ある人は、諦めて、ある人は、そればかりか、絶望までをして」
 でも、あるとき、偶然……その海を、越える方法がみつかったのだ。そう言ってくるんとノリアは宙返りをした。彼女のつるんとしたゼラチン質の尻尾は、画面の向こう側で目を見開き驚いているベナトの姿をうっすら移し込んでいる。わあ、と小さく上がった声はまさに綺麗なものを見た、といったよろこびからであろうか。
 ノリアは続ける。
「危険な海に、適応するために生まれた、わたしたち、海種――わたしたちは、みなを導いて、ベナトさんもご存知ないような、あたらしい場所に、つれてゆきましたの。でも……そのかわり、ほとんどの人は、わたしたちの助けなしでは、ここに、戻れなくなってしまいましたの……何より、あの、危険な海を、また渡ろうなんて人は、いるはずもなかったのですから……」
「ノリア……」
「……それでも、ベナトさんを思い出して、こうして、この場所までたどりつけたのは、きっと、奇跡なんだと、思いますの」
 外へ旅立った人間が、進化するにも十分すぎる時間は確かに経過したのだ。果てしないほどの、狂おしいほどの時間が。だから。

「『海に進出した人びとが、さらに進化して、水陸両用になった』わたし。それから、『危険な世界を、はるばる旅しようとお考えになった』皆様」

 それが、役目をおえた証拠になるのだという言葉に、いやに納得をしてしまったのだ。

●世界は終わりを物語る

「さて、俺がここに来た理由についてだが。皆がもうここには戻ってこないだろうというのは分かってるな? お前の役目は終わった、故に電源を切らせてもらう。
 だからせめて最後に話をと思ってな。まあ話と言ってもつまらん事じゃない。外っていうか、こことは別の場所の話……俺の冒険談を聞いてもらおうかな」

 そう告げた『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)に、ベナトはこくりと頷いた。そう、自分の役目は終わったのだから、眠るのだ。その前に寝物語を聞かせてもらえるというのであれば、それは、十分なことだった。

「俺が見た場所は色々あってな。海中にある神殿へ行ったり……あの時は凶暴なサメに狙われて色々大変だったな」
「サメって、あの海の?」
「ああ、その通りだ」
 そんな生き物もデータベース上にはあった。なるほど、こんな生き物だって海にはいるのだ、それはとても、大変だ――なんてことを納得したかのように少女は頷いていた。
「ここに似た所も見たよ……文明は滅んで残ってるのは空まで届く高い塔が一つだけ。その天辺にいた少女にどうすれば幸せな世界になるのかと難しいことを聞かれたな。
 ああ、そういえば草花だけが咲き誇ってる所もあったな。虫も鳥もいなくて静かで…幻想的っていうのかな?天国のように美しく平和そうな所だったよ」
 聞いただけじゃ信じられないと思うが、証拠だってある、と彼が取りだしたのは天空、大地、海原のかけら。画面の向こう側の存在だからそんな事は出来ないと分かって居ても、ベナトは思い切り身を乗り出してもっとよく見せて、と言わんばかりに目を輝かせた。ホライゾンアーカイヴスと呼ばれたそれの内容をのぞき込んでは、相づちを打つ少女。ベナトと世界は、幾ばくかの間――ほんとか嘘かわからないけど――此処ではない『せかい』の話をした。

「つい話し込んだが最後の仕事が残っていたな。もうここにはきっと誰も戻ってこない……だから電源を切らせてもらうぜ。また会うことがあるかはわからんが……次に会った時の為にまた色々話のタネを作っておくよ」

 じゃあまたな。そしておやすみ。
 そう言う世界におやすみ、と微笑んだのもきっと、見送るためで。



●鳥は星に手を伸ばし

「唯今、ベナトナシュさ――……ベナト」

 『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)は紙袋を抱えながらベナトの映る画面に近づく。彼女の視線が未散の手元の紙袋に向かっているのだ、とわかったのか。くすり、と微笑みながら紙袋の中身を取り出した。
「ベナトはチョコレェトを見た事はあったかな。データベースを調べてご覧なさい、どんなに泣く幼子だって、此れを食べればたちまち笑顔になるんですよ」
 だから、泣き虫のベナトの為に持って帰って来たんだ。半分こ、しましょうか。と取り出されたそれはセンサーをくすぐるような甘い香りがするチョコレェト。ミルクに、ビターに、ホワイト。ストロベリー。「ねえ、どんな味?」味ってモノはわからないけれど、と、いいながらも身を乗り出すように問いかける。
「そうだなあ、甘くて、それで心の痛みに、柔らかく膜を作ってくれる様に、優しくて。悲しいのが、涙が、止まって。ほっぺたが、落ちてしまう様な」
「ほっぺたが落ちちゃう?!」
「比喩です、本当に落ちやしませんって!」
 そんな冗談を言って笑うのはまるで昔のようだった。
 それからアンタレスの心臓のような赤い石に、同じくらい真っ赤に熟れた苹果をひとつ。外の世界を描いたというスケッチを見ては『カメラのないところにこんな場所があったのだ』と喜んで――伸ばされた未散の細い指が、画面に触れた。
「ベナトを抱き締めさせてくれないかな。ずっと、ずぅっと、そうしたかった気がして」
 おかしい、かな? なんて聞かれても、ベナトは首を振った。届かないその先に手を伸ばして、抱きしめられる夢を見るのだ。
「眼が、醒めたら。今度は一緒に星を観に行こう」
(こんなに悲しいのに、泣けないぼくで御免なさい)
 そんなことばは、届かない。
 ただ、暗くなったあとに口に入れた半分のチョコレートは、甘い味がした。


●愛は寄り添い眠りにつく

「ただいま、ベナト。ごめんなさい、随分と待たせてしまったわね」
 『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)は静かに部屋に足を踏み入れる。画面越しに映る少女の顔をその指先で拭いながら、ラヴもつられるようにぽろぽろと大粒の涙をこぼした。

「外の世界のみんなはね。あなたを寂しがらせていたこと、ずっと、ずぅっと気にかけていたの。みんな、よ。毎日、毎日、……あなたのことを考えていたの、ベナトナシュ」
 きっとこれは嘘じゃない、本当のことだ――確信を持って。故に涙を流しながら。ラヴはベナトに語りかける。
 ――外の世界はね、動物も沢山いたのよ。空を行き交う鳥達、森の中を跳ね回る鹿、大きな海に浮かぶ島のような鯨……見るものすべてに、驚いたわ!
 ――生命が産まれて、育まれて。そうして同じ空の下で、全てが廻っていく。全てが生きている……そんな場所を、やっと見つけたの、私達が、皆で一緒に生きていける世界。
 それが、あの海の向こう側だったのね。とベナトが言えば「ええ、そうよ」とラヴは頷いた。
「ようやく、私たちは落ち着くことが出来たのよ。だから、ね。ベナト。あなたも一緒に行きましょう」
 その言葉に――ベナトは涙をこぼしながらも笑う。
「行きたい、一緒に。みんなと、こんどこそ」
「そうね。なら、準備が必要だわ。だから明日、そう、明日。皆の所に向かいましょう」
 だから、眠りましょう。今日は、私たちがずっと側に居るから。なんて笑いながらも涙が止まらないラヴの目元に手を伸ばす。涙が止まらないのは、どちらもそうだった。
「泣かなくて、いいのに」
「ううん、いいのよ。私も、嬉しくて――」
 画面の向こう側に、手は届かない。それでも、その一粒でもぬぐえたならば幸福だっただろうか。

「ふふ、そうよ、これからも。明日も、一緒。だから、ね」

 今日は、もう
 ……おやすみなさい、ベナトナシュ。

 ――そうして、部屋の電源は、落とされて。

●extra diem

 泣けなくたっていい、泣かなくたっていい、嘘だっていい。
 ただ、私にとっては全部が本物だから。
 だから、おかえり。
 だから、おやすみ。目が覚めたときにはきっと広い海原と、星の下で
 甘い、甘い味の――


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成否

成功

状態異常

なし

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